【実施例】
【0021】
ここで、本発明者らは、上記内容を証明するため、以下の実験を行った。なお、以下の実験はあくまで一例であり、これに限定されるものではない。
【0022】
<相転移挙動の確認>
まず、本発明者らは、二周波駆動液晶の相転移挙動の確認を行った。二周波駆動液晶としては、下記に示す構造式からなる5−CL−5(化2参照,米国特許第4279771号明細書参照)と下記に示す構造式からなるMBBA(化3参照)をモル%において、3:2の比率で混合したものを試料として使用した。そして、パーキンエルマ社のDiamond DSCを用いて、この試料の示差走査熱量測定を行った。その結果が、
図3(a)に示す図である。そしてさらに、ニコン社のECLIPSE E600を用いて、この試料の偏光顕微鏡観察を行った。その結果が、
図3(b)に示すPOM画像である。
【0023】
【化2】
【0024】
【化3】
【0025】
図3(a)に示す上段のグラフは、毎分毎に5℃ずつ温度を減少させていった際の熱量の変化を示すもので、
図3(a)に示す下段のグラフは、毎分毎に5℃ずつ温度を上昇させていった際の熱量の変化を示すものである。この
図3(a)を見ると、何れのグラフにおいても、温度が100℃付近になると熱量が大きく変化していることが分かる。それゆえ、100℃付近で、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))が液晶から液体に変化したことが分かる。さらには、偏光顕微鏡観察を用いて、温度25℃の状態の試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))を観察したところ、
図3(b)に示すように、流動性の高いシュリーレン組織が観察された。これにより、本試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))は、ネマチック液晶であると判断した。
【0026】
<誘電緩和測定>
次に、本発明者らは、相転移挙動の結果を受けて、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))の降温過程における液晶相発現温度範囲でキーサイト社のE4980Aを用いて誘電緩和測定を行った。その結果が、
図4(a)に示す図である。この
図4(a)に示すグラフは、印加電圧の周波数を100Hz〜1MHzまで変化させた際の誘電率異方性Δεの値が20℃〜90℃までの10℃おきの温度でどのように変化するかを測定した結果を示す図である。この図を見ると明らかなように、クロスオーバー周波数の前後で誘電率異方性Δεの値が大きく変化しているのは、20℃、30℃、40℃の室温であることが分かる。そこで、この20℃、30℃、40℃の誘電率異方性Δεの値を抜粋したものを示すグラフが
図4(b)に示すグラフである。この
図4(b)に示すグラフを見ると、周波数1KHzにおいて、全ての温度(20℃,30℃,40℃)で、誘電率異方性Δεの値が正の値を示し、周波数100KHzにおいて、全ての温度(20℃,30℃,40℃)で、誘電率異方性Δεの値が負の値を示していることが分かる。これにより、低周波数f
low=1KHzと決定し、高周波数f
high=100KHzと決定した。
【0027】
<電気粘性効果の測定>
次に、本発明者らは、誘電緩和測定の結果を受けて、電気粘性効果の測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR302を用いて、せん断速度:100s
−1,電圧:0.5kV/mm,1.0KV/mm,2.0KV/mm,4.0KV/mm、温度:20℃、低周波数f
low:1KHz、高周波数f
high:100KHzに設定し、実験開始後、60秒後に、周波数を高周波数f
highから低周波数f
lowに切り替え、120秒後に、周波数を低周波数f
highから高周波数f
lowに切り替えた際の粘度の測定を行った。その結果が、
図5に示す図である。この図を見れば、明らかなように、周波数を切り替えることにより、それに伴って粘度が変化していることが分かると共に、周波数を高周波数f
highから低周波数f
lowに切り替えると、粘度が瞬時に増大し、周波数を低周波数f
highから高周波数f
lowに切り替えると、粘度が瞬時に減少していることが分かる。そしてさらに、周波数を切り替えた際の試料の変化をニコン社のECLIPSE E600を用いて、偏光顕微鏡観察を行った。その結果が、
図6に示すPOM画像である。周波数が高周波数f
highであった場合、
図6(a)に示すように、流動性の高いシュリーレン組織が観察された。これにより、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))の分子配向が印加電圧の電場方向と交差(垂直)する方向(平伏状態)となっていることが分かる。さらに、周波数を高周波数f
highから低周波数f
lowに切り替えると、
図6(b)に示すように、真っ暗な画像が確認された。これにより、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))の分子配向が印加電圧の電場方向の向き(起立状態)となっていることが分かる。そしてさらに、周波数を高周波数f
highから低周波数f
lowに切り替えると、
図6(c)に示すように、流動性の高いシュリーレン組織が観察された。これにより、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))の分子配向が印加電圧の電場方向と交差(垂直)する方向(平伏状態)となっていることが分かる。
【0028】
以上のことより、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を高周波数にし、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなるように印加電圧の周波数を高周波数から低周波数に切り替え、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を低周波数から高周波数に切り替えるようにすれば、理想的な電気粘性効果が得られるということが分かった。
【0029】
<電気光学測定>
次に、本発明者らは、電気粘性効果の測定結果を受けて、電気光学測定により応答時間の測定を行った。この電気光学測定においては、
図7に示す電気光学測定装置10を用いて応答時間の測定を行った。この電気光学測定装置10は、He−Neレーザ11と、直線偏光子12とイーエッチシー社のITO膜付きサンドイッチ型ガラスセル13と、検光子14と、フォトダイオード検出器15とで構成されている。このように構成される電気光学測定装置10は、波長λ(λ=632.8nm)からなるHe−Neレーザ11を入射光源として使用し、イーエッチシー社のITO膜付きサンドイッチ型ガラスセル13の間に45°傾けた直線偏光子12と−45°傾けた検光子14を交差させて配置した。そして、異なる周波数(低周波数f
low:1KHz、高周波数f
high:100KHz)の電圧(2.0kV/mm
−1,4.0kV/mm
−1)をITO膜付きサンドイッチ型ガラスセル13に印加し、透過光強度をフォトダイオード検出器15で測定した。その結果が、
図8に示す図である。
図8(a)に示すように、温度20℃における透過光強度は、高周波数f
high:100KHzから低周波数f
low:1KHzに切り替えた際、瞬時(2.34ms)に一定の透過光強度に変化していることが分かり、
図8(b)に示すように、低周波数f
low:1KHzから高周波数f
high:100KHzに切り替えた際、瞬時(1.37ms)に一定の透過光強度に変化していることが分かる。これにより、電気粘性効果の測定通り、応答性が良いことが分かった。
【0030】
<周波数を変化させた際の電気粘性効果の測定>
次に、本発明者らは、電気粘性効果の測定結果を受けて、周波数を様々に変化させた際の電気粘性効果の測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR302を用いて、せん断速度:100s
−1,電圧:0.5kV/mm,1.0KV/mm,2.0KV/mm,4.0KV/mm、温度:30℃に設定し、周波数を変化させていった。その結果が、
図9に示す図である。この図を見れば明らかなように、クロスオーバー周波数f
cを境として、そのクロスオーバー周波数f
cより周波数が低くなるにつれ、粘性が増大する一方、クロスオーバー周波数f
cより周波数が高くなると、粘性が変化していないことが分かる。このことからも、印加電圧の周波数を高周波数にすると、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になり、印加電圧の周波数を低周波数にすると、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなることが分かった。
【0031】
<アントンパール社のMCR302での試料の分子配向の確認>
次に、本発明者らは、電気粘性効果の測定結果を受けて、アントンパール社のMCR302での試料の分子配向がどのような状態になっているかの確認を行った。その結果が、
図10,
図11に示すPOM画像である。周波数が高周波数f
highであった場合、
図10(a)に示すように、何らかの組織が観察され、周波数を高周波数f
highから低周波数f
lowに切り替えると、
図10(b)に示すように、真っ暗な画像が確認された。そして、周波数が低周波数f
lowであった場合、
図11(a)に示すように、真っ暗な画像が確認され、周波数を低周波数f
lowから高周波数f
highに切り替えると、
図11(b)に示すように、何らかの組織が観察された。これにより、アントンパール社のMCR302での試料の分子配向も、偏光顕微鏡観察と同様の結果となったことから、間違いなく、印加電圧の周波数を高周波数にすると、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になり、印加電圧の周波数を低周波数にすると、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなることが分かった。
【0032】
以上の実験結果により、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を高周波数にし、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなるように印加電圧の周波数を高周波数から低周波数に切り替え、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を低周波数から高周波数に切り替えるようにすれば、理想的な電気粘性効果が得られるということが証明された。
【0033】
しかして、以上説明した本実施形態によれば、二周波駆動液晶を用いることにより理想的な電気粘性効果を得ることができる。
【0034】
ところで、本実施形態における二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法は、医療・リハビリ分野でのロボットシステムへの応用にとどまらず、一段階大きな粘度変化が必要な生活支援ロボットアーム等への応用も可能である。