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特許6804761二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804761
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 171/00 20060101AFI20201214BHJP
   C09K 19/02 20060101ALN20201214BHJP
   C10N 40/14 20060101ALN20201214BHJP
【FI】
   C10M171/00
   !C09K19/02
   C10N40:14
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-27796(P2017-27796)
(22)【出願日】2017年2月17日
(65)【公開番号】特開2018-131582(P2018-131582A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2020年1月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年9月5日〜7日に開催された2016年日本液晶学会討論会にて平成28年9月5日に発表した。なお、平成28年8月19日に学会発表の予稿集CD−ROMが事前に配布された。
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100154014
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100154520
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】金子 光佑
(72)【発明者】
【氏名】花崎 知則
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−137250(JP,A)
【文献】 特開2000−213543(JP,A)
【文献】 特開平08−245976(JP,A)
【文献】 特開平9−255982(JP,A)
【文献】 特開平8−226461(JP,A)
【文献】 特開平8−169869(JP,A)
【文献】 特開平6−136344(JP,A)
【文献】 特表平6−504835(JP,A)
【文献】 特開平04−266997(JP,A)
【文献】 特開2007−240652(JP,A)
【文献】 特開2002−372704(JP,A)
【文献】 特開平08−240819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00、
C09K3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電圧が印加された二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように前記所定の電圧の周波数を第1周波数にし、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなるように前記所定の電圧の周波数を第1周波数から第2周波数に切り替え、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように前記所定の電圧の周波数を第2周波数から第1周波数に切り替えてなる二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法。
【請求項2】
前記第1周波数は、前記第2周波数よりも高い周波数である請求項1に記載の二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理想的な電気粘性効果を得ることができる二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気粘性効果を得る方法として、液晶材料が用いられている(例えば、特許文献1参照)。電気粘性効果とは、同じ方向に配向した棒状の分子構造を持つ液晶分子に対して垂直に電場を印加し、液晶分子が電場方向に配向することによって粘度増加が発生する一方、電場を除去すると液晶分子の配向が崩され、粘度が減少するというものである。
【0003】
この点、具体例を用いて説明すると、図12は、下記に示す構造式からなるサイドオン型液晶性高分子を用いて電気粘性効果を測定した結果を示す図である。この測定にあたっては、ユービーエム社のRheosol G−2000を用い、せん断速度:100s−1,電圧:6kV/mm、温度:50℃に設定し、実験開始後100秒後に電圧を印加し、200秒後に電圧を除去した際のせん断応力(粘性応力)を測定している。
【0004】
【化1】
【0005】
図12に示すように、100秒後に電圧を印加(ON)すると、せん断応力(粘性応力)が増加し、100秒後に電圧を除去(OFF)すると、せん断応力(粘性応力)が減少していることが分かる。それゆえ、液晶材料を用いることにより、電気粘性効果が得られることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−245976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図12を見ると、電圧を印加(ON)した際、せん断応力(粘性応力)は、応答性良く瞬時に増加しているものの、電圧を除去(OFF)した際、せん断応力(粘性応力)は、応答性悪く徐々に減少している。そのため、このように応答性が悪いと、クラッチやブレーキ等への実用化への可能性が低くなるといった問題があった。
【0008】
それゆえ、実用化にあたっては、せん断応力(粘性応力)は、応答性良く瞬時に増加し、応答性良く瞬時に減少する電気粘性効果が理想とされている。
【0009】
この点、本発明者らは、理想的な電気粘性効果を得ることができる電気粘性効果を得る方法を提供することを技術的課題として、鋭意検討した結果、電圧を除去(OFF)した際、応答性が悪いのは、従来の方法が、外場による一方向への応答性(電場ON)を利用した原理であり、逆方向への応答(電場OFF)については駆動力が働いていないことに原因があるのではないかと言う点に着目した。
【0010】
そこで、本発明者らは、印加電圧の周波数の切り替えにより異なる異方性誘電率を示す二周波駆動液晶に着目し、実験を重ねた結果、以下の特性を見出した。
【0011】
二周波駆動液晶の分子配向が電場方向と交差する方向になるように印加電圧の周波数を高周波数にし、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなるように印加電圧の周波数を高周波数から低周波数に切り替え、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向と交差する方向になるように印加電圧の周波数を高周波数から低周波数に切り替えるようにすれば、理想的な電気粘性効果を得ることができることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
まず、請求項1の発明によれば、所定の電圧が印加された二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように前記所定の電圧の周波数を第1周波数にし、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなるように前記所定の電圧の周波数を第1周波数から第2周波数に切り替え、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように前記所定の電圧の周波数を第2周波数から第1周波数に切り替えてなることを特徴としている。
【0013】
そして、請求項2の発明によれば、上記請求項1に記載の二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法において、前記第1周波数は、前記第2周波数よりも高い周波数であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、理想的な電気粘性効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は二周波駆動液晶の液晶分子を示す模式図、(b)は誘電率異方性Δεの値が周波数の変化に応じて変化することを示す図である。
図2】(a)は誘電率異方性Δεの値が正の際の二周波駆動液晶の液晶分子の向きを示す模式図、(b)は誘電率異方性Δεの値が負の際の二周波駆動液晶の液晶分子の向きを示す模式図である。
図3】(a)は示差走査熱量測定を行った結果を示す図、(b)は偏光顕微鏡観察を行った結果を示すPOM画像を示す図である。
図4】(a)は誘電緩和測定における印加電圧の周波数を100Hz〜1MHzまで変化させた際の誘電率異方性Δεの値が20℃〜90℃までの10℃おきの温度でどのように変化するかを測定した結果を示す図、(b)は(a)に示す結果のうち、20℃,30℃,40℃だけの結果を抜粋したものを示す図である。
図5】周波数を切り替えたことによる電気粘性効果の結果を示す図である。
図6】偏光顕微鏡観察を行った結果を示すPOM画像であって、(a)は周波数が高周波数であった場合のPOM画像を示し、(b)は周波数が低周波数であった場合のPOM画像を示し、(c)は周波数が高周波数であった場合のPOM画像を示す図である。
図7】電気光学測定装置を示す概念図である。
図8】(a)は周波数を高周波数から低周波数に切り替えた際の透過光強度を示し、(b)は周波数を低周波数から高周波数に切り替えた際の透過光強度を示す図である。
図9】周波数を変化させた際の粘度を測定した結果を示す図である。
図10】アントンパール社のMCR302での試料の分子配向を示すPOM画像であって、(a)は周波数が高周波数であった場合のPOM画像を示し、(b)は周波数が低周波数であった場合のPOM画像を示す図である。
図11】アントンパール社のMCR302での試料の分子配向を示すPOM画像であって、(a)は周波数が低周波数であった場合のPOM画像を示し、(b)は周波数が高周波数であった場合のPOM画像を示す図である。
図12】従来の方法において得た電気粘性効果の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法の一実施形態を、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明において、上下左右の方向を示す場合は、図示正面から見た場合の上下左右をいうものとする。
【0017】
本発明の二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法は、所定の電圧が印加された二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように所定の電圧の周波数を高周波数にし、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなるように所定の電圧の周波数を高周波数から低周波数に切り替え、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように所定の電圧の周波数を低周波数から高周波数に切り替えることにより、理想的な電気粘性効果を得ることができるものである。
【0018】
ここで、二周波駆動液晶とは、該液晶に印加される電場の周波数が低周波数領域の場合に正の誘電率異方性を示し、高周波数領域の場合に誘電率異方性の符号が負に逆転する液晶をいうものである。より詳しく説明すると、図1(a)に示すように、二周波駆動液晶の液晶分子1を模式的に楕円形状で表現し、その液晶分子1を長軸方向(ダイレクター方向)と短軸方向に分けて考えた時、長軸方向(ダイレクター方向)の誘電率をεllと、短軸方向の誘電率をεと定義することができる。この際、誘電率異方性をΔεと定義すると、Δε=εll−εと定義することができる。
【0019】
そして、このような誘電率異方性Δεを備える液晶分子1は、図1(b)に示すように印加電圧の周波数を低周波数にすると、誘電率異方性Δεが正(Δε>0)となり、印加電圧の周波数を高周波数にすると誘電率異方性Δεが負(Δε<0)となり、正から負への変化点であるクロスオーバー周波数fを有するという特性がある。さらには、誘電率異方性Δεが正(Δε>0)の場合、図2(a)に示すように、液晶分子1は、印加電圧の電場E方向の向き(起立状態)となり、誘電率異方性Δεが負(Δε<0)の場合、図2(b)に示すように、液晶分子1は、印加電圧の電場E方向とは交差(垂直)方向の向き(平伏状態)となるという特性がある。
【0020】
そこで、本発明者らは、この二周波駆動液晶の特性に着目し、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を高周波数にし、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなるように印加電圧の周波数を高周波数から低周波数に切り替え、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を低周波数から高周波数に切り替えることにより、理想的な電気粘性効果が得られるという特性を見出したものである。
【実施例】
【0021】
ここで、本発明者らは、上記内容を証明するため、以下の実験を行った。なお、以下の実験はあくまで一例であり、これに限定されるものではない。
【0022】
<相転移挙動の確認>
まず、本発明者らは、二周波駆動液晶の相転移挙動の確認を行った。二周波駆動液晶としては、下記に示す構造式からなる5−CL−5(化2参照,米国特許第4279771号明細書参照)と下記に示す構造式からなるMBBA(化3参照)をモル%において、3:2の比率で混合したものを試料として使用した。そして、パーキンエルマ社のDiamond DSCを用いて、この試料の示差走査熱量測定を行った。その結果が、図3(a)に示す図である。そしてさらに、ニコン社のECLIPSE E600を用いて、この試料の偏光顕微鏡観察を行った。その結果が、図3(b)に示すPOM画像である。
【0023】
【化2】
【0024】
【化3】
【0025】
図3(a)に示す上段のグラフは、毎分毎に5℃ずつ温度を減少させていった際の熱量の変化を示すもので、図3(a)に示す下段のグラフは、毎分毎に5℃ずつ温度を上昇させていった際の熱量の変化を示すものである。この図3(a)を見ると、何れのグラフにおいても、温度が100℃付近になると熱量が大きく変化していることが分かる。それゆえ、100℃付近で、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))が液晶から液体に変化したことが分かる。さらには、偏光顕微鏡観察を用いて、温度25℃の状態の試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))を観察したところ、図3(b)に示すように、流動性の高いシュリーレン組織が観察された。これにより、本試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))は、ネマチック液晶であると判断した。
【0026】
<誘電緩和測定>
次に、本発明者らは、相転移挙動の結果を受けて、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))の降温過程における液晶相発現温度範囲でキーサイト社のE4980Aを用いて誘電緩和測定を行った。その結果が、図4(a)に示す図である。この図4(a)に示すグラフは、印加電圧の周波数を100Hz〜1MHzまで変化させた際の誘電率異方性Δεの値が20℃〜90℃までの10℃おきの温度でどのように変化するかを測定した結果を示す図である。この図を見ると明らかなように、クロスオーバー周波数の前後で誘電率異方性Δεの値が大きく変化しているのは、20℃、30℃、40℃の室温であることが分かる。そこで、この20℃、30℃、40℃の誘電率異方性Δεの値を抜粋したものを示すグラフが図4(b)に示すグラフである。この図4(b)に示すグラフを見ると、周波数1KHzにおいて、全ての温度(20℃,30℃,40℃)で、誘電率異方性Δεの値が正の値を示し、周波数100KHzにおいて、全ての温度(20℃,30℃,40℃)で、誘電率異方性Δεの値が負の値を示していることが分かる。これにより、低周波数flow=1KHzと決定し、高周波数fhigh=100KHzと決定した。
【0027】
<電気粘性効果の測定>
次に、本発明者らは、誘電緩和測定の結果を受けて、電気粘性効果の測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR302を用いて、せん断速度:100s−1,電圧:0.5kV/mm,1.0KV/mm,2.0KV/mm,4.0KV/mm、温度:20℃、低周波数flow:1KHz、高周波数fhigh:100KHzに設定し、実験開始後、60秒後に、周波数を高周波数fhighから低周波数flowに切り替え、120秒後に、周波数を低周波数fhighから高周波数flowに切り替えた際の粘度の測定を行った。その結果が、図5に示す図である。この図を見れば、明らかなように、周波数を切り替えることにより、それに伴って粘度が変化していることが分かると共に、周波数を高周波数fhighから低周波数flowに切り替えると、粘度が瞬時に増大し、周波数を低周波数fhighから高周波数flowに切り替えると、粘度が瞬時に減少していることが分かる。そしてさらに、周波数を切り替えた際の試料の変化をニコン社のECLIPSE E600を用いて、偏光顕微鏡観察を行った。その結果が、図6に示すPOM画像である。周波数が高周波数fhighであった場合、図6(a)に示すように、流動性の高いシュリーレン組織が観察された。これにより、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))の分子配向が印加電圧の電場方向と交差(垂直)する方向(平伏状態)となっていることが分かる。さらに、周波数を高周波数fhighから低周波数flowに切り替えると、図6(b)に示すように、真っ暗な画像が確認された。これにより、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))の分子配向が印加電圧の電場方向の向き(起立状態)となっていることが分かる。そしてさらに、周波数を高周波数fhighから低周波数flowに切り替えると、図6(c)に示すように、流動性の高いシュリーレン組織が観察された。これにより、試料(5−CL−5:MBBA=3:2(モル%))の分子配向が印加電圧の電場方向と交差(垂直)する方向(平伏状態)となっていることが分かる。
【0028】
以上のことより、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を高周波数にし、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなるように印加電圧の周波数を高周波数から低周波数に切り替え、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を低周波数から高周波数に切り替えるようにすれば、理想的な電気粘性効果が得られるということが分かった。
【0029】
<電気光学測定>
次に、本発明者らは、電気粘性効果の測定結果を受けて、電気光学測定により応答時間の測定を行った。この電気光学測定においては、図7に示す電気光学測定装置10を用いて応答時間の測定を行った。この電気光学測定装置10は、He−Neレーザ11と、直線偏光子12とイーエッチシー社のITO膜付きサンドイッチ型ガラスセル13と、検光子14と、フォトダイオード検出器15とで構成されている。このように構成される電気光学測定装置10は、波長λ(λ=632.8nm)からなるHe−Neレーザ11を入射光源として使用し、イーエッチシー社のITO膜付きサンドイッチ型ガラスセル13の間に45°傾けた直線偏光子12と−45°傾けた検光子14を交差させて配置した。そして、異なる周波数(低周波数flow:1KHz、高周波数fhigh:100KHz)の電圧(2.0kV/mm−1,4.0kV/mm−1)をITO膜付きサンドイッチ型ガラスセル13に印加し、透過光強度をフォトダイオード検出器15で測定した。その結果が、図8に示す図である。図8(a)に示すように、温度20℃における透過光強度は、高周波数fhigh:100KHzから低周波数flow:1KHzに切り替えた際、瞬時(2.34ms)に一定の透過光強度に変化していることが分かり、図8(b)に示すように、低周波数flow:1KHzから高周波数fhigh:100KHzに切り替えた際、瞬時(1.37ms)に一定の透過光強度に変化していることが分かる。これにより、電気粘性効果の測定通り、応答性が良いことが分かった。
【0030】
<周波数を変化させた際の電気粘性効果の測定>
次に、本発明者らは、電気粘性効果の測定結果を受けて、周波数を様々に変化させた際の電気粘性効果の測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR302を用いて、せん断速度:100s−1,電圧:0.5kV/mm,1.0KV/mm,2.0KV/mm,4.0KV/mm、温度:30℃に設定し、周波数を変化させていった。その結果が、図9に示す図である。この図を見れば明らかなように、クロスオーバー周波数fを境として、そのクロスオーバー周波数fより周波数が低くなるにつれ、粘性が増大する一方、クロスオーバー周波数fより周波数が高くなると、粘性が変化していないことが分かる。このことからも、印加電圧の周波数を高周波数にすると、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になり、印加電圧の周波数を低周波数にすると、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなることが分かった。
【0031】
<アントンパール社のMCR302での試料の分子配向の確認>
次に、本発明者らは、電気粘性効果の測定結果を受けて、アントンパール社のMCR302での試料の分子配向がどのような状態になっているかの確認を行った。その結果が、図10図11に示すPOM画像である。周波数が高周波数fhighであった場合、図10(a)に示すように、何らかの組織が観察され、周波数を高周波数fhighから低周波数flowに切り替えると、図10(b)に示すように、真っ暗な画像が確認された。そして、周波数が低周波数flowであった場合、図11(a)に示すように、真っ暗な画像が確認され、周波数を低周波数flowから高周波数fhighに切り替えると、図11(b)に示すように、何らかの組織が観察された。これにより、アントンパール社のMCR302での試料の分子配向も、偏光顕微鏡観察と同様の結果となったことから、間違いなく、印加電圧の周波数を高周波数にすると、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になり、印加電圧の周波数を低周波数にすると、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなることが分かった。
【0032】
以上の実験結果により、二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を高周波数にし、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きとなるように印加電圧の周波数を高周波数から低周波数に切り替え、所定時間後、当該二周波駆動液晶の分子配向が電場方向の向きと交差する方向になるように印加電圧の周波数を低周波数から高周波数に切り替えるようにすれば、理想的な電気粘性効果が得られるということが証明された。
【0033】
しかして、以上説明した本実施形態によれば、二周波駆動液晶を用いることにより理想的な電気粘性効果を得ることができる。
【0034】
ところで、本実施形態における二周波駆動液晶を用いて電気粘性効果を得る方法は、医療・リハビリ分野でのロボットシステムへの応用にとどまらず、一段階大きな粘度変化が必要な生活支援ロボットアーム等への応用も可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 液晶分子
10 電気光学測定装置
11 He−Neレーザ
12 直線偏光子
13 ITO膜付きサンドイッチ型ガラスセル
14 検光子
15 フォトダイオード検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12