(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804804
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】金属板集合体及び金属板集合体製造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 5/02 20060101AFI20201214BHJP
B21D 53/02 20060101ALI20201214BHJP
B21D 22/02 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
B21J5/02 B
B21D53/02 B
B21D22/02 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-8110(P2017-8110)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2018-114547(P2018-114547A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】592108676
【氏名又は名称】日伸工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】米川 喬士
(72)【発明者】
【氏名】松島 誠二
【審査官】
大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−004093(JP,A)
【文献】
特開昭61−017708(JP,A)
【文献】
特開昭53−149863(JP,A)
【文献】
特開2007−260782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/02
B21D 22/02
B21D 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面から突出し前記隙間を確保する突起が平坦部に形成され、前記突起は、端面に中央窪み部が形成されており、前記突起が形成されている面の反対側の面には、前記突起よりも径が小さい凹部が形成されているプレス加工品の同一形状の金属板が、隙間を有して重なって複数個配置され、前記プレス加工品の前記突起の端面の周縁部が、隣接する他の前記プレス加工品の前記反対側の面の前記凹部が形成されていない部分に接することを特徴とする金属板集合体。
【請求項2】
請求項1に記載の金属板集合体において、
前記突起の高さは、前記平坦部の厚さよりも大きいことを特徴とする金属板集合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属板集合体において、
前記中央窪み部の内周面は、傾斜面を有していることを特徴とする金属板集合体。
【請求項4】
請求項3に記載の金属板集合体において、
前記中央窪み部の内周面は、傾斜角の異なる複数個の傾斜面を有していることを特徴とする金属板集合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属板集合体において、
前記凹部の開口側に、前記突起よりも径が大きい開口部凹部が形成されていることを特徴とする金属板集合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属板集合体を製造する金属板集合体製造方法であって、
前記プレス加工品の前記突起の外周面の形状が内周面の形状であるダイ穴が設けられ、該ダイ穴の内方に前記中央窪み部の内周面及び底面の形状を有するノックアウトが設けられたダイに、前記金属板を接触させ、前記凹部の内周面及び底面の形状を有するパンチを押し当て、金属を前記突起に塑性流動させることにより前記突起を形成することを特徴とする金属板集合体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一形状の金属板が隙間を有して重なって複数個配置される
金属板集合体及びその
金属板集合体製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレス加工品は、隙間を有して複数個配置される同一形状の金属板に用いられる場合がある。例えば、このような金属板集合体の金属板間の隙間に流体(例えば、水など)を流し、複数個の金属板を介して電子部品などを冷却する冷却装置が知られている。冷却装置における金属板は、効率よく流体により冷却できるように様々な形状が可能である。例えば、特許文献1では、金属板集合体の金属板に複数個の孔を形成している。また、
図6に示すように、金属板集合体の金属板が波形状の波部を有するようにし、波形状で流体との接触面積を増加させることによって、効率よく冷却することもできる。なお、
図6においては、金属板集合体を符号110、金属板を符号101、波部を符号104で示している。
【0003】
このような金属板集合体は、金属板の隙間を精度良く一定に保つために、一般には、金属板集合体の製作用治具に各金属板を1枚ずつ配置した後に、棒体などの固定部材を各金属板に直交させて溶接又はかしめなどにより固定する。一方、製作用治具を用いないものでは、例えば、特許文献2に、金属板集合体を構成する複数個の金属板に、金属板の隙間を精度良く保つための突起を形成した振動減衰装置が開示されている。ここでは、
図7に示すように、金属板の円柱状の突起が形成される面の反対側の面に、突起よりも径が大きく、かつ、深さが浅い凹部が形成された金属板集合体の例も開示されている。なお、
図7においては、金属板集合体を符号210、金属板を符号201、突起を符号202、凹部を符号206で示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−270970号公報
【特許文献2】特開2003−4093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されるように金属板に突起を形成すると、製作用治具における各金属板の配置のような手作業が必要でなく、かつ、隙間の精度をより良く保つことができる。
【0006】
図7に示すような円柱状の突起は、プレス加工機のダイとパンチを用いて、突起が形成される面に突起に対応するダイ穴を有するダイを接触させ、突起が形成される面の反対側の面にパンチを押し当てて突起と略同一体積分だけ凹ませて凹部を形成し金属材料を突起に塑性流動させることにより、形成することができる。金属板の隙間は、突起の高さから突起の位置(金属板の面方向の位置)での凹部の深さを引いた長さとなる。
【0007】
しかし、
図6で示したような波部を有するような金属板では、
図7で示したような凹部を形成できる平坦部の面積が小さく、金属板の隙間を大きくすることは困難である。
【0008】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、同一形状の金属板が隙間を有して重なって複数個配置され
るものであって、金属板の平坦部の面積が小さくても、所要の隙間が確保でき
る金属板集合体及び
金属板集合体製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の
金属板集合体は
、一方の面から突出し前記隙間を確保する突起が平坦部に形成され、前記突起は、端面に中央窪み部が形成されており、前記突起が形成されている面の反対側の面には、前記突起よりも径が小さい凹部が形成されている
プレス加工品の同一形状の金属板が、隙間を有して重なって複数個配置され、前記プレス加工品の前記突起の端面の周縁部が、隣接する他の前記プレス加工品の前記反対側の面の前記凹部が形成されていない部分に接することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の
金属板集合体は、請求項1に記載の
金属板集合体において、前記突起の高さは、前記平坦部の厚さよりも大きいことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の
金属板集合体は、請求項1又は2に記載の
金属板集合体において、前記中央窪み部の内周面は、傾斜面を有していることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の
金属板集合体は、請求項3に記載の
金属板集合体において、前記中央窪み部の内周面は、傾斜角の異なる複数個の傾斜面を有していることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の
金属板集合体は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の
金属板集合体において、前記凹部の開口側に、前記突起よりも径が大きい開口部凹部が形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の
金属板集合体製造方法は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の
金属板集合体を製造する
金属板集合体製造方法であって、
前記プレス加工品の前記突起の外周面の形状が内周面の形状であるダイ穴が設けられ、該ダイ穴の内方に前記中央窪み部の内周面及び底面の形状を有するノックアウトが設けられたダイに、前記金属板を接触させ、前記凹部の内周面及び底面の形状を有するパンチを押し当て、金属を前記突起に塑性流動させることにより前記突起を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る
金属板集合体及び
金属板集合体製造方法によれば
、金属板の平坦部の面積が小さくても、所要の隙間が確保でき
る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る
金属板集合体のプレス加工品を示すものであって、(a)が平面図、(b)が側面図、(c)が底面図である。
【
図3】同上の
金属板集合体のプレス加工品の突起とその周辺を拡大して示す断面図である。
【
図4A】同上の
金属板集合体のプレス加工品の突起の形成の様子を示す側面視断面図であって、突起の形成前を示すものである。
【
図4B】同上の
金属板集合体のプレス加工品の突起の形成の様子を示す側面視断面図であって、突起の形成後を示すものである。
【
図5】同上の
金属板集合体のプレス加工品の変形例の突起とその周辺を拡大して示す断面図である。
【
図6】従来の金属板集合体の例を示す側面図である。
【
図7】従来の金属板集合体の別の例を示す側面視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を、以下説明する。本発明の実施形態に係る
金属板集合体10のプレス加工品1は、
図1(a)〜(c)に示すように、その一方の面1aから突出する突起2が平坦部3に形成されている金属板である。本実施形態では、プレス加工品1は、波形状の波部4を有しており、平坦部3は波部4の両端部(図においては波部4の左右の端部)に設けられている。なお、図中の符号5で示すものは、棒体などの固定部材(図示せず)を直交させて(一方の面1a及び後述する他方の面1bに直交させて)配置し、それに溶接又はかしめなどにより固定するための穴部である。
【0018】
プレス加工品1は、
図2に示すように、同一形状の金属板が隙間Gを有して重なって複数個配置される金属板集合体10の金属板に用いられる。突起2は、所要の隙間Gを確保するためのもので、複数個のプレス加工品1を重ねるだけで、隙間Gを一定に保つようにできる。
【0019】
突起2は、略円柱状のものである。また、突起2は、
図3に示すように、端面20に中央窪み部20aが形成されている。また、一方の面(突起2が形成されている面)1aの反対側の面(他方の面)1bには、凹部6が形成されている。凹部6は、突起2と同心状に形成されている。凹部6の径D
6は、突起2の径D
2よりも小さい。なお、
図3は、突起2の中心軸を含む面で切断した断面図である。
【0020】
ここで、突起2を形成する際のプレス加工について説明する。このプレス加工では、
図4Aに示すようなダイ7とパンチ8が用いられる。ダイ7は、突起2の外周面の形状が内周面の形状であるダイ穴7aが設けられ、このダイ穴7aの内方に中央窪み部20aの内周面20aa及び底面の形状を有するノックアウト7bが設けられている。パンチ8は、凹部6の内周面6a及び底面の形状を有している。プレス加工品1である金属板は、ダイ7に接触して載置され、凹部6を形成する位置にパンチ8が押し当てられ、
図4Bに示すように、金属材料は突起2に塑性流動する。そして、凹部6の容積分の金属材料が突起2に塑性流動することにより、突起2が形成される。なお、ノックアウト7bは、バネ体を介してダイ7の本体部に結合するなどして、パンチ8がプレス加工品1に押し当てられたときに少し移動できるようにしている。
【0021】
このように、1回のプレス加工で精度の良い突起2が形成でき、しかも、金属の切り粉や抜きカスが発生することもない。
【0022】
突起2には中央窪み部20aが形成されているため、金属材料は、中央窪み部20aの高さまで塑性流動した後は、端面20の周縁部20bに塑性流動して突起2を形成する。従って、凹部6の径D
6が突起2の径D
2よりも小さく、つまり凹部6の容積が小さくても、高さ(詳細には、突起2の端面20の周縁部20bの高さ)H
2が高い(大きな)突起2を形成することができる。突起2の高さH
2は、平坦部3の厚さT
3よりも大きくすることが可能である。
【0023】
金属板集合体10においては、プレス加工品1の突起2の端面20の周縁部20bは、隣接する他のプレス加工品1の平坦部3の他方の面1bの凹部6が形成されていない部分に接する。従って、突起2の高さH
2が、プレス加工品1の隙間Gの距離L
Gとなる。
【0024】
このような突起2と凹部6の構造により、金属板(プレス加工品1)の平坦部3の面積が小さくても、所要の隙間Gが確保できる。
【0025】
中央窪み部20aの内周面20aaは、周縁部20bに近づくに従って径が拡大する傾斜面を有していることが好ましい。そうすることにより、突起2の強度を高くすることができるとともに、突起2の形成時に金属の流れをスムーズにして欠陥等が発生し難くすることができる。
【0026】
更には、中央窪み部20aの内周面20aaは、突起2の強度及び突起2の形成時の金属の流れなどを総合的に良くするよう、傾斜角の異なる複数個の傾斜面(後述する
図5の内周面20aa参照)を有するようにすることも可能である。
【0027】
また、凹部6の開口側に、
図5に示すように、開口部凹部9を形成することができる。開口部凹部9は、凹部6と同心状に連続して形成される。開口部凹部9の径は、突起2の径D
2に対し僅かに大きい。そうすると、金属板集合体10において、隣接する他のプレス加工品1の突起2の端面20の周縁部20bが、開口部凹部9の内周面と凹部6の内周面6aとの間の段部9aに接触して載置できるようにすることで、プレス加工品1の他方の面1b方向(他方の面1bに沿った方向)への他のプレス加工品1のずれを防止することができる。なお、この場合、プレス加工の突起2を形成する際には、パンチ8は、凹部6と開口部凹部9の形状に対応する形状を有しており、凹部6と開口部凹部9の容積分の金属材料が突起2に塑性流動することになる。
【0028】
以上、本発明の実施形態に係る
金属板集合体について説明したが、本発明は、上述した実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな変更が可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 プレス加工品(金属板)
1a プレス加工品の一方の面
1b プレス加工品の他方の面
2 突起
20 突起の端面
20a 中央窪み部
20aa 中央窪み部の内周面
20b 周縁部
3 平坦部
4 波部
6 凹部
6a 凹部の内周面
7 ダイ
7a ダイ穴
7b ノックアウト
8 パンチ
9 開口部凹部
9a 開口部凹部の内周面と凹部の内周面との間の段部
10 金属板集合体
G プレス加工品の隙間
D
2 突起の径
D
6 凹部の径
H
2 突起の高さ
L
G プレス加工品の隙間の距離
T
3 平坦部の厚さ