(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804827
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】酸化グラフェンとその積層体並びに積層体の用途
(51)【国際特許分類】
C01B 32/198 20170101AFI20201214BHJP
H01B 1/04 20060101ALI20201214BHJP
H01B 5/02 20060101ALI20201214BHJP
H01M 4/587 20100101ALN20201214BHJP
【FI】
C01B32/198
H01B1/04
H01B5/02 Z
!H01M4/587
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-80930(P2015-80930)
(22)【出願日】2015年4月10日
(65)【公開番号】特開2016-199434(P2016-199434A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年3月9日
【審判番号】不服2019-7810(P2019-7810/J1)
【審判請求日】2019年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】磯部 豊
【合議体】
【審判長】
菊地 則義
【審判官】
岡田 隆介
【審判官】
後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−516037(JP,A)
【文献】
特表2014−505002(JP,A)
【文献】
特開2015−40211(JP,A)
【文献】
特表2011−503804(JP,A)
【文献】
Timo Schwamb et al.、An electrical method for the measurement of the thermal and electrical conductivity of reduced graphene oxide nanostructures、Nanotechnology、英国、2009.09.08発行、Volume 20, Number 40、pp.1−5
【文献】
William S. Hummers, Jr. et al.、Preparation of Graphitic Oxide、Journal of the American Chemical Society、米国、1958.03.20発行、Volume 80、p. 1339
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素に対する酸素の重量比である酸化度(酸素含有量)35〜50重量%の酸化グラフェンの部分還元反応により生成した酸化グラフェンであって、部分還元反応により低下した酸化度(酸素含有量)が5〜40重量%であり、積層した形態で、面方向の電気伝導率が1×10−1〜1×104S/mであり、面方向の熱伝導率が1〜50W/mKであり、前記面方向の熱伝導率(単位W/mK)を1としたとき、前記面方向の電気伝導率(単位S/m)が、2500〜7000である酸化グラフェン。
【請求項2】
積層した形態で、面方向の電気伝導率が5×102〜1×104S/mであり、面方向の熱伝導率が1〜35W/mKであり、前記面方向の熱伝導率(単位W/mK)を1としたとき、前記面方向の電気伝導率(単位S/m)が、3000〜7000である請求項1記載の酸化グラフェン。
【請求項3】
請求項1又は2記載の酸化グラフェンが積層されている積層体。
【請求項4】
酸化グラフェンを還元し、導電性を維持しつつ伝熱性が低下した酸化グラフェンを製造する方法であり、
炭素に対する酸素の重量比である酸化度(酸素含有量)35〜50重量%の酸化グラフェンを部分還元し、
酸化度(酸素含有量)が5〜40重量%に低下し、積層した形態で、面方向の電気伝導率が1×10−1〜1×104S/mであり、面方向の熱伝導率が1〜50W/mKであり、前記面方向の熱伝導率(単位W/mK)を1としたとき、前記面方向の電気伝導率(単位S/m)が、2500〜7000である酸化グラフェンを製造する方法。
【請求項5】
グラフェン又は部分酸化グラフェンを酸化度35〜50重量%に酸化した後、還元剤で還元して酸化度を5〜40重量%に調整し、酸化グラフェンを製造する請求項4記載の方法。
【請求項6】
還元剤の存在下、酸化グラフェンの水性溶媒分散液を温度20〜120℃で撹拌して還元する請求項4又は5記載の方法。
【請求項7】
積層した形態で、面方向の電気伝導率が5×102〜1×104S/mであり、面方向の熱伝導率が1〜35W/mKであり、前記面方向の熱伝導率(単位W/mK)を1としたとき、前記面方向の電気伝導率(単位S/m)が、3000〜7000である酸化グラフェンを製造する請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
酸化度が7〜35重量%であり、積層した形態で、面方向の電気伝導率が5×102〜7×103S/mであり、面方向の熱伝導率が1〜30W/mKであり、前記面方向の熱伝導率(単位W/mK)を1としたとき、面方向の電気伝導率(単位S/m)が、4000〜7000である酸化グラフェンを製造する請求項4〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
導電材料、熱電材料、電極材料として使用される請求項1又は2記載の酸化グラフェン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い導電性を維持しつつ伝熱性を調整可能な酸化グラフェンとその積層体、この積層体の用途(例えば、導電性組成物、電磁シールド組成物など)に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメータサイズの厚みを有するグラフェンや酸化グラフェンは、導電性、熱伝導性などの特性に関して異方性が高く、例えば、グラフェンは、厚み方向に比べて面内方向に高い熱伝導率を有することが知られている。このような異方性を利用して、グラフェンや酸化グラフェンを種々の分野で利用することが検討されている。例えば、特表2011−503804号公報(特許文献1)には、ナノグラフェンプレートレットを主体とするリチウムイオン電池用負極複合化合物が記載されている。
【0003】
一方、グラフェンは溶媒に対して均一に分散させることが困難である。そのため、グラフェンを部分的に酸化して、溶媒に対する分散性を改善することが提案されている。例えば、特表2013−516037号公報(特許文献2)には、電気活性材料の粒子と、伝導性グラフェンポリマーバインダーとを含み、バインダーの含有量は電極の総重量に対して0.01〜90重量%である電気化学セル用導電性電極が記載され、前記グラフェンポリマーが、厚さ1μm未満の薄層内で測定したとき、10S/cmを越える導電度及び/又は10W/(mK)を越える熱伝導度を有することも記載されている。また、この文献には、導電性が著しく低下することなく、得られた純粋なグラフェンポリマーに可溶性又は分散性を付与するため酸化処理することが記載され、酸化処理による酸素含有率は25重量%以下(より好ましくは5〜20重量%)であることも記載されている。さらに、この文献の実施例には、部分酸化処理、化学的修飾により得られたグラフェンの導電性及び熱伝導性のデータが記載されているとともに、部分酸化により酸素含有量が増加すると、導電性が低下することが記載されている。
【0004】
特表2009−511415号公報(特許文献3)には、熱的に剥離され、表面積が300〜2600m
2/gのグラファイト酸化物を含み、X線回折によりグラファイト及び/又は酸化物の痕跡を示さない変性グラファイト酸化物が記載されている。
【0005】
しかし、グラフェンの酸化度(酸素含有率)の増加に伴って、電気伝導性(導電性)とともに熱伝導性(伝熱性)も低下する。すなわち、酸化グラフェンでは、導電性が高いと熱伝導率も高くなる。そのため、酸化グラフェンにおいて、高い電気伝導性を維持しつつ熱伝導性を制御することができない。特に、高い電気伝導性と低い熱伝導性とを両立させることができず、酸化グラフェンの用途が制約される。
【0006】
また、電気伝導性と熱伝導性とに関し、面内方向での異方性を大きくすることも困難である。そのため、デバイスを薄型にできない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2011−503804号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表2013−516037号公報(請求項11〜13,[0060]、実施例、表2,
図2及び
図4)
【特許文献3】特表2009−511415号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、高い電気伝導性を維持しつつ熱伝導性を制御可能な酸化グラフェンとその製造方法、並びに前記酸化グラフェンの積層体とその用途を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、高い電気伝導性と低い熱伝導性とを両立可能な酸化グラフェンとその製造方法、並びに前記酸化グラフェンの積層体とその用途を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、導電材料、熱電材料、電極材料などとして有用な前記酸化グラフェン又はその積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、グラファイトを酸化すると、酸化度に応じて多様な電気伝導性及び熱伝導性を有する酸化グラフェンを調製できるものの、意外なことに、グラファイトを一旦酸化した後、酸化グラフェンを還元すると、導電性については可逆性が認められるものの、熱伝導性については可逆性がなく、熱伝導性が回復しないことを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の酸化グラフェンは、酸化度(酸素含有量)が3〜45重量%(例えば、5〜40重量%)であり、積層した形態で、面方向の電気伝導率(導電性)が1×10
−1〜1×10
4S/m程度であり、面方向の熱伝導率(伝熱性)が1〜50W/mK程度である。
【0013】
また、酸化グラフェンは、積層した形態で、面方向の熱伝導率(単位W/mK)を1としたとき、面方向の電気伝導率(単位S/m)が、1×10
3〜1×10
5程度であってもよい。前記酸化グラフェンは、積層した形態で、酸化度が小さくなるにつれて、面方向の電気伝導率(導電性)が向上し、面方向の熱伝導率(伝熱性)が低いレベルを維持するプロファイルを示す。なお、酸化グラフェンは、単層又は多層の酸化グラフェンであってもよい。
【0014】
本発明は、前記酸化グラフェンが積層されている積層体、例えば、シート(又はペーパー)の形態を有する積層体も含む。
【0015】
前記酸化グラフェンは、酸化グラフェンを還元(部分還元)することにより、調製でき、導電性を維持しつつ伝熱性が低下した前記酸化グラフェンを製造できる。この方法において、グラフェン又は部分酸化グラフェンを酸化度10〜60重量%に酸化した後、還元剤で還元して酸化度を3〜45重量%に調整してもよい。
【0016】
本発明の酸化グラフェン及びその積層体は、種々の用途に利用でき、例えば、導電材料、熱電材料、電極材料として利用できる。
【0017】
なお、本明細書中、還元反応に供する酸化グラフェンと、還元反応により生成した酸化グラフェン(本発明に係る酸化グラフェン)とを区別するため、還元反応に供する酸化グラフェンを一次酸化グラフェン、還元反応により生成した酸化グラフェンを二次酸化グラフェンという場合がある。また、一次酸化グラフェンと二次酸化グラフェンとを単に酸化グラフェンと総称する場合もある。また、酸化度は、酸素含有量と同義である。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、酸化グラフェンを還元することにより、高い電気伝導性を維持しつつ熱伝導性を制御可能であり、高い電気伝導性と低い熱伝導性とを両立させることができる。このような特性を有するため、本発明の酸化グラフェン及びその積層体は、導電材料、熱電材料、電極材料などとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[酸化グラフェン及びその調製方法]
グラフェン及び酸化グラフェンは慣用の方法で調製できる。例えば、グラフェンは、グラファイトからの剥離(機械的剥離法、スコッチテープ法など)により生成させてもよく、化学蒸着などにより生成させてもよい。グラファイトとしては、通常、グラファイトフレーク(平均径1〜1000μm程度のグラファイトの粉粒体)などが利用できる。
【0020】
一次酸化グラフェンは、天然又は人工グラファイトを酸化し、単層又は多層に剥離させ、単層酸化グラフェン又は多層酸化グラフェンの形態で調製できる。
【0021】
グラファイトの酸化は、慣用の方法、例えば、水性媒体中、酸化剤を用いて行うことができる。酸化剤としては、慣用の酸化剤、例えば、硫酸、過マンガン酸塩(過マンガン酸カリウムなど)、クロム酸又は重クロム酸塩(重クロム酸ナトリウムなど)、硝酸塩(硝酸ナトリウムなど)、過酸化物(過酸化水素など)、過硫酸塩(過硫酸アンモニウムなど)、有機過酸(過蟻酸、過酢酸、過安息香酸など)などが例示できる。これらの酸化剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
水性溶媒は、水単独、水と水溶性溶媒との混合溶媒であってもよく、水溶性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、セロソルブ類、セロソルブアセテート類、カルビトール類、カルビトールアセテート類、ニトリル類(アセトニトリルなど)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)などが例示できる。なお、水性溶媒は、水を主成分(例えば、水含有量50〜100重量%程度)とする溶媒であってもよい。
【0023】
これらの酸化剤のうち、酸化能の高い酸化剤、例えば、過マンガン酸塩、過硫酸塩などを用いる場合が多い。
【0024】
酸化剤の使用量は、グラファイトの酸化度に応じて選択でき、例えば、グラファイトの炭素原子1モルに対して、0.5〜5モル、好ましくは0.7〜2モル、さらに好ましくは0.9〜1.5モル(例えば、1〜1.2モル)程度であってもよい。
【0025】
酸化反応は、酸化剤の存在下、グラファイトが分散した水性媒体中、例えば、20〜100℃、好ましくは30〜75℃、さらに好ましくは40〜60℃程度の温度で行うことができる。なお、反応は撹拌下で行うことができ、通常、大気又は空気中、必要であれば、不活性雰囲気中で行ってもよい。
【0026】
酸化反応の後、生成した水性分散液を超音波処理して単層又は多層に剥離させ、単層酸化グラフェン又は多層酸化グラフェンを調製できる。なお、必要であれば、遠心分離により、単層グラフェンを多層グラフェン(2層グラフェン、3層グラフェンなどの多層グラフェン)と分離してもよい。
【0027】
このようにして慣用の方法で調製された一次酸化グラフェンは、酸化度に応じて、面内方向で電気伝導性と熱伝導性とがそれぞれ低下する。グラファイトの酸化において、途中で酸化を止めることにより多様な熱伝導の酸化グラフェンが作れる。すなわち、酸化度が低いと、電気伝導性及び熱伝導率が高くなり、酸化度が高いと、電気伝導率及び熱伝導率も低下してしまい、高い電気伝導性と低い熱伝導性とを両立できない。
【0028】
前記酸化反応により、一次酸化グラフェンには、カルボニル基、ホルミル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基などの酸素含有官能基が生成してもよい。
【0029】
本発明では、所望の酸化度よりも高い酸化度の一次酸化グラフェンを調製し、この酸化グラフェンを還元することにより、導電性を維持しつつ伝熱性が低下した二次酸化グラフェンを調製できる。すなわち、本発明では、前記のような方法で、グラフェン又は部分酸化グラフェンを酸化度10〜60重量%(例えば、15〜50重量%)、好ましくは20〜50重量%(例えば、25〜48重量%)、さらに好ましくは30〜50重量%(例えば、35〜48重量%)に酸化した後、生成した一次酸化グラフェンを還元する。
【0030】
一次酸化グラフェンは、慣用の還元方法、例えば、還元剤による還元方法などで還元してもよく、還元剤としては、慣用の成分、例えば、金属ヒドリド類[アルミニウムヒドリド(水素化アルミニウムリチウムなど)など]、ボロヒドリド類[リチウムボロンヒドリド、ナトリウムボロンヒドリドなど]、ボラン類、ヒドラジン又はヒドラジド類(ヒドラジン、ヒドラジン塩酸塩、ヒドラジン水和物、3−クロロベンズヒドラジドなど)、ヒドロキシメタンスルフィン酸類、アスコルビン酸類、チオグリコール酸類、システイン類、亜硫酸類、チオ硫酸類、亜ジチオン酸類などが例示できる。これらの還元剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。好ましい還元剤は、取扱性の点からヒドラジン水和物又はヒドラジド類である。
【0031】
還元剤の使用量は、還元剤の種類や還元条件、酸化グラフェンの酸化度に応じて調整でき、例えば、還元剤(例えば、ヒドラジン水和物)の使用量は、酸化グラフェン1gに対して、0.05〜10モル、好ましくは0.05〜2モル(例えば、0.1〜1モル)、さらに好ましくは0.1〜0.5モル(例えば、0.2〜0.4モル)程度であってもよい。
【0032】
還元反応は、慣用の方法、例えば、還元剤の存在下、一次酸化グラフェンの溶媒分散液を20〜120℃、好ましくは40〜100℃、さらに好ましくは50〜80℃程度の温度で撹拌することにより行うことができる。なお、反応は、大気又は空気中で行ってもよく、通常、不活性雰囲気中で行ってもよい。なお、溶媒としては、有機溶媒を使用してもよいが、通常、水性溶媒(特に水)を用いる場合が多い。そのため、必要であれば、前記水性媒体中での酸化反応の後、一次酸化グラフェンを分離することなく、そのまま還元反応に移行してもよい。なお、濃度0.1重量%の酸化グラフェンの水分散液を調製し、前記還元剤(ヒドラジン水和物など)を前記の割合で用い、空気中又は不活性ガスの雰囲気中、例えば、50〜120℃(例えば、80〜100℃)程度で還元してもよい。
【0033】
また、一次酸化グラフェンの還元方法としては、還元剤による還元方法の他、公知の還元方法、例えば、熱還元法、光還元法、電気化学的還元法などを利用してもよい。
【0034】
このような還元反応では、二次酸化グラフェンを生成させるため、部分還元して酸化度を3〜45重量%(例えば、5〜40重量%)、好ましくは7〜40重量%(例えば、10〜40重量%)、さらに好ましくは7〜35重量%(例えば、8〜35重量%)程度に調整することができ、10〜35重量%(例えば、10〜30重量%)程度に調整してもよい。
【0035】
このようにして生成した二次酸化グラフェン(還元酸化グラフェン)は、分離精製(例えば、洗浄、遠心分離など)により、回収できる。
【0036】
このようにして得られた二次酸化グラフェンの厚みは、ナノメータサイズ、例えば、1〜100nm、好ましくは1.5〜50nm(例えば、1.8〜30nm)、さらに好ましくは1.5〜10nm(例えば、1.8〜5nm)程度であってもよく、原子1層の厚み又は複数層(例えば、2〜10層、特に2〜5層程度)の厚みを有していてもよい。二次酸化グラフェンは、炭素原子1個の厚みを有する単層酸化グラフェンであってもよく、複数の単層酸化グラフェンが所定の間隔で重なり合った多層酸化グラフェン(例えば、2〜10層、好ましくは2〜5層酸化グラフェン)であってもよい。
【0037】
二次酸化グラフェンの面方向の平均径は、0.1〜1000μm程度の範囲から選択してもよく、例えば、1〜500μm(例えば、5〜300μm)、好ましくは5〜100μm(例えば、10〜100μm)程度であり、5〜50μm(例えば、10〜30μm)程度であってもよい。なお、酸化グラフェンの厚みの測定には、電子顕微鏡、顕微ラマン分光器、原子間力顕微鏡などが利用でき、酸化グラフェンの平均径の測定には、電子顕微鏡、光学顕微鏡などが利用できる。なお、異形の酸化グラフェンにおいて、平均径は、各酸化グラフェンについて長軸径と短軸径との平均値を算出し、100個程度の酸化グラフェンの平均値について加算平均することにより算出できる。
【0038】
本発明の二次酸化グラフェンは、前記のように、酸化度(酸素含有量)が3〜45重量%(例えば、5〜40重量%)程度あってもよい。
【0039】
なお、酸化度は、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)や元素分析(CHNO)により測定された酸素元素の含有量で規定される。例えば、酸化グラフェンの酸化度は、酸化グラフェンの構成元素のうち炭素と酸素との重量をX線光電子分光法(XPS)で測定し、炭素を基準とした比率(炭素に対する酸素の重量比)で表すことができる。
【0040】
そして、本発明の二次酸化グラフェンは、積層した形態で、面方向の電気伝導率(導電性)が高く、面方向の熱伝導率(伝熱性)が低いという特色がある。すなわち、一旦酸化した一次酸化グラフェンを還元すると、二次酸化グラフェンでは、導電性は回復するものの熱伝導性は、低いままであり回復しないという現象を見いだした。そのため、所定の酸化度に酸化した一次酸化グラフェンを、所定の酸化度に還元することにより、所望の低い熱伝導性(異方性)を有し、高い電気伝導性を有する二次酸化グラフェンを製造できる。このような理由については、次のように考えられる。グラフェンの酸化において、酸化度が大きくなるにつれて、一次酸化グラフェン内部の欠陥部(欠陥格子)の数が多くなり、欠陥部の濃度に対応して、導電性及び伝熱性が低下する。また、一旦このような欠陥部を有する一次酸化グラフェンを還元しても、欠陥部を補修することはできない。一方、二次酸化グラフェンでは、欠陥部を有していても、電子の通路さえ確保されていれば、電気伝導率は高い値を維持できる。これに対して、二次酸化グラフェンの内部に欠陥部(欠陥格子)が生成すると、フォノン伝導と同様に面的に伝導する熱伝導は大きく阻害されるものと思われる。
【0041】
そのため、本発明では、高い電気伝導性を保持しつつ、二次酸化グラフェンの欠陥部(欠陥格子)又は損傷の程度に応じて、熱伝導性を調整でき、酸化度が小さくなるにつれて、面方向の電気伝導率(導電性)が向上し、面方向の熱伝導率(伝熱性)が低いレベルを維持するプロファイルを示す。
【0042】
前記のように、二次酸化グラフェンは、積層した形態で、面方向の電気伝導率(導電性)が高く、面方向の熱伝導率(伝熱性)が低いという特色がある。例えば、積層した形態で、面方向の熱伝導率(単位W/mK)を1としたとき、二次酸化グラフェンの面方向の電気伝導率(単位S/m)は、100〜100000(例えば、500〜50000)程度の範囲から選択でき、例えば、1000〜10000(例えば、2000〜8000)、好ましくは2500〜7500(例えば、3000〜7000)、さらに好ましくは4000〜6000程度であってもよい。
【0043】
二次酸化グラフェンの面方向の電気伝導率(導電性)は、積層した形態で、酸化度に応じて、1×10
−1〜1×10
4S/m(例えば、3×10
−1〜8×10
3S/m)、好ましくは5×10
−1〜1×10
4S/m(例えば、1×10〜8×10
3S/m)、さらに好ましくは5×10〜7×10
3S/m(例えば、7×10〜5×10
3S/m)程度であってもよく、5×10
2〜7×10
3S/m(例えば、7×10
2〜5×10
3S/m)程度であってもよい。
【0044】
また、二次酸化グラフェンの面方向の熱伝導率(伝熱性)は、積層した形態で、1〜50W/mK(例えば、1〜35W/mK)、好ましくは1〜30W/mK(例えば、3〜27W/mK)、さらに好ましくは1〜25W/mK(例えば、5〜20W/mK)程度であってもよい。
【0045】
[積層体]
本発明の二次酸化グラフェンは、酸化されているため、分散性にも優れている。そのため、水性分散体を容易に調製できるとともに、積層体を形成できる。この積層体では、必要であれば、グラフェン及び/又は一次酸化グラフェンを併用してもよい。積層体において酸化グラフェンは、互いに層状に配向して積層されている場合が多く、シート状又はペーパー状などの形態を有していてもよい。このような積層体は、少なくとも酸化グラフェンを含む水性分散体を塗布し、酸化グラフェンを層状に積層することにより形成できる。
【0046】
なお、水性分散体は、分散剤(例えば、界面活性剤など)、分散助剤、増粘剤又は粘度調整剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤などの添加剤を含んでいてもよい。また、水性分散体は、必要によりバインダー(水溶性又は水分散性バインダーなど)を含んでいてもよい。バインダーの割合は、少量、例えば、酸化グラフェン100重量部に対して0〜25重量部(好ましくは0〜10重量部)程度であってもよい。
【0047】
水性分散体中の二次酸化グラフェンの濃度は、例えば、0.1〜20重量%(例えば、0.5〜15重量%)、好ましくは1〜10重量%(例えば、2.5〜7.5重量%)程度であってもよい。
【0048】
積層体の厚みは、特に制限されず用途に応じて選択でき、例えば、20nm〜1000μm(例えば、100nm〜500μm)程度であってもよく、通常、1〜100μm(例えば、5〜80μm)、好ましくは10〜70μm(例えば、20〜60μm)程度であってもよい。
【0049】
積層体の密度は、例えば、1.1〜2.2g/cm
3(例えば、1.15〜2.1g/cm
3)、好ましくは1.2〜2g/cm
3(例えば、1.3〜1.8g/cm
3)程度であってもよく、多層の積層体では、低密度、例えば、1.1〜1.7g/cm
3(好ましくは1.2〜1.5g/cm
3)程度であってもよい。
【0050】
[樹脂組成物]
なお、本発明の二次酸化グラフェンは、高い電気伝導性を有するとともに低い熱伝導性を有しており、分散能も高い。そのため、二次酸化グラフェンは、コーティング剤(塗布剤)、樹脂組成物(熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性若しくは光硬化性樹脂を含む組成物など)などの成分として使用してもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
比較例1〜4
硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムでそれぞれ酸化して調製された酸化度20%の一次酸化グラフェン(比較例3)、酸化度35%の一次酸化グラフェン(比較例2)、及び酸化度50%の一次酸化グラフェン(比較例1)を(株)仁科マテリアルから入手した。
【0053】
過マンガン酸カリウム、硝酸ナトリウム及び硫酸でそれぞれ酸化して調製された酸化度50%の一次酸化グラフェン(比較例1)、酸化度35%の一次酸化グラフェン(比較例2)、及び酸化度20%の一次酸化グラフェン(比較例3)を(株)仁科マテリアルから入手した。また、酸化度0%のグラフェンとして多層グラフェン小片(比較例4)(iGurafen、(株)アイテック)を使用した。サンプルの酸化度については、Physical Ecectronics PHI 5800 ESCA System(アルバックファイ製)を用い、得られたスペクトルから計算される元素組成の定量値から算出した。
【0054】
[シート作製]
これらのグラフェン及び一次酸化グラフェンの粉体をテフロン(登録商標)製の枠型に入れ、高圧プレス機((株)東洋精機製作所製「mini test press-10」)を用いて、20MPaの圧力でシート状に成形し、電気伝導率および熱伝導率評価用シートを調製した。
【0055】
[電気伝導率]
高抵抗抵抗率計(三菱化学(株)製「MCP-T610」)を用いて、4端子4探針法によりシートの抵抗を測定し、シートの厚みで除算し、抵抗率および電気伝導率を算出した。
【0056】
[熱伝導率]
熱物性測定装置((株)ベテル製、「サーモウェーブアナライザTA」)を用い、面内方向及び厚み方向のそれぞれについて熱拡散速度を算出した。また、比熱測定装置(セイコーインスツル(株)製、「DSC 7020」)を用いて、比熱を測定した。熱伝導率αは、密度d、比熱c、熱拡散速度κから、式:α=c・d・κに基づいて算出した。
【0057】
実施例1
前記酸化度50%の一次酸化グラフェンを0.1重量%の濃度で含む水分散液を調製し、この水分散液に、一次酸化グラフェン1gに対して、ヒドラジン0.3モルの割合で添加し、95〜100℃で、窒素雰囲気中で12時間撹拌し、還元した。得られた二次酸化グラフェンの酸化度は10%であった。得られた二次酸化グラフェンについて、前記一次酸化グラフェンと同様にして、シート成形し、諸特性を測定した。
【0058】
結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1から明らかなように、一次酸化グラフェンでは、酸化度が大きくなるにつれて、熱伝導率が大きく低下した。二次酸化グラフェンは、一次酸化グラフェンの酸化度に対応する電気伝導率を有するものの、一次酸化グラフェンの酸化度に対応する熱伝導率に対して、熱伝導率が少なくとも約10%以下に低下している。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の二次酸化グラフェン及びその積層体は、前記のように特異的な挙動を示す。そのため、導電材料、熱電材料(熱電素子材料)などのエレクトロニクス材料、リチウムイオン二次電池、電子機器など電池の内部電極などの電極材料、導電性断熱体、電磁場シールド材料、プリンター用導電ロール、超伝導電流リードなどの種々の分野に利用できる。また、分散性にも優れているため、導電性付与剤、断熱性付与剤などとして利用でき、塗料などのコーティング剤への添加剤、樹脂の補強剤又は樹脂との複合材料としても利用することもできる。さらには、反応触媒の担体、潤滑油やグリースへの添加剤などとしても利用できる。