(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.光学フィルムの製造方法
本発明の実施形態による長尺状の光学フィルムの製造方法は、把持具により把持された長尺状の樹脂フィルムを加熱する予熱工程と、長尺状の樹脂フィルムの搬送方向における把持具の間隔を拡大して、長尺状の樹脂フィルムを長手方向に延伸する延伸工程と、該延伸された長尺状の樹脂フィルムを冷却する冷却工程と、を含む。この製造方法においては、延伸工程開始時の樹脂フィルムの温度T
SSを所定の温度に調整すること、および/または、延伸工程終了時以降の樹脂フィルムの温度傾斜を調整することにより、得られる光学フィルムの幅方向における光学軸の方向を制御する。この製造方法は、代表的には、把持具としての複数のクリップを備えるテンター延伸装置を用いて行われ得る。光学フィルムを形成する長尺状の樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体であってもよい。以下、一例として、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層との積層体を用いて偏光膜を製造する実施形態について説明するが、本発明の製造方法は当該実施形態に限定されない。例えば、本発明が単層の樹脂フィルムを用いる偏光膜や位相差フィルムの製造方法または樹脂フィルムの積層体を用いる偏光膜や位相差フィルムの製造方法にも同様に適用可能であることは、当業者に明らかである。
【0009】
A−1.積層体の作製
積層体は、樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成することにより作製される。樹脂基材は、PVA系樹脂層(得られる偏光膜)を片側から支持し得る限り、任意の適切な構成とされる。
【0010】
樹脂基材の形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、シクロオレフィン系樹脂(例えば、ノルボルネン系樹脂)、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0011】
樹脂基材に、予め、表面改質処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。なお、表面改質処理および/または易接着層の形成は、上記延伸前に行ってもよいし、上記延伸後に行ってもよい。
【0012】
上記PVA系樹脂層の形成方法は、任意の適切な方法を採用することができる。好ましくは、延伸処理が施された樹脂基材上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する。
【0013】
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂を用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、塗布液がゲル化しやすく、均一な塗布膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0014】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜4500、さらに好ましくは1500〜4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0015】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドN−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0016】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用し得る。
【0017】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0018】
上記乾燥温度は、樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以下であることが好ましく、さらに好ましくはTg−20℃以下である。このような温度で乾燥することにより、PVA系樹脂層を形成する前に樹脂基材が変形するのを防止して、得られるPVA系樹脂層の配向性が悪化するのを防止することができる。こうして、樹脂基材がPVA系樹脂層とともに良好に変形し得、後述の積層体の延伸および収縮を良好に行うことができる。その結果、PVA系樹脂層に良好な配向性を付与することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を得ることができる。ここで、「配向性」とは、PVA系樹脂層の分子鎖の配向を意味する。
【0019】
A−2.延伸装置
上記のとおり、本発明の実施形態による製造方法は、積層体の把持手段としての複数のクリップを備えるテンター延伸装置を用いて行われる。テンター延伸装置としては、例えば、レール間距離が一定である直線部とレール間距離が連続的に減少するテーパー部とを有する一対のレールと、各レール上をクリップ間隔を変化させながら走行可能な複数のクリップと、を備える延伸装置が用いられ得る。このような延伸装置によれば、積層体の両側縁部をクリップで把持した状態で、搬送方向のクリップ間隔(同一レール上のクリップ間距離)および幅方向のクリップ間隔(異なるレール上のクリップ間距離)を変化させることによって、積層体の延伸および収縮が可能となる。
【0020】
図1は、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。
図1を参照しながら、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置について説明する。延伸装置100は、平面視で、左右両側に、無端レール10Lと無端レール10Rとを左右対称に有する。なお、本明細書においては、積層体の入口側から見て左側の無端レールを左側の無端レール10L、右側の無端レールを右側の無端レール10Rと称する。左右の無端レール10L、10R上にはそれぞれ、積層体把持用の多数のクリップ20が配置されている。クリップ20は、それぞれのレールに案内されてループ状に巡回移動する。左側の無端レール10L上のクリップ20は反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端レール10R上のクリップ20は時計廻り方向に巡回移動する。図示例の延伸装置においては、積層体の搬入側から搬出側へ向けて、把持ゾーンA、予熱ゾーンB、延伸ゾーンC、および冷却ゾーンDが順に設けられている。各ゾーンの間に隣接するゾーンの温度が相互作用しないようにバッファエリア(ゾーンとして仕切られた、温度制御せず排気のみを行うエリア)を設けてもよい。なお、
図1の延伸装置におけるそれぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なることに留意されたい。
【0021】
把持ゾーンAおよび予熱ゾーンBでは、左右の無端レール10R、10Lは、レール間距離が一定である直線部とされている。代表的には、左右の無端レール10R、10Lは、処理対象となる積層体の初期幅に対応するレール間距離で互いに略平行となるよう構成されている。延伸ゾーンCでは、左右の無端レール10R、10Lは、レール間距離が連続的に減少するテーパー部とされている。代表的には、左右の無端レール10R、10Lは、予熱ゾーンB側から冷却ゾーンD側に向かうに従ってレール間距離が上記積層体の所望の幅に対応するまで徐々に減少する構成とされている。冷却ゾーンDでは、左右の無端レール10R、10Lは、レール間距離が一定である直線部とされており、代表的には、上記積層体の最終的な幅に対応するレール間距離で互いに略平行となるよう構成されている。
【0022】
左側の無端レール10L上のクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端レール10R上のクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ独立して巡回移動し得る。例えば、左側の無端レール10Lの駆動用スプロケット30a、30bが電動モータ40a、40bによって反時計廻り方向に回転駆動され、右側の無端レール10Rの駆動用スプロケット30a、30bが電動モータ40a、40bによって時計廻り方向に回転駆動される。その結果、これら駆動用スプロケット30a、30bに係合している駆動ローラ(図示せず)のクリップ担持部材(図示せず)に走行力が与えられる。これにより、左側のクリップ20は反時計廻り方向に巡回移動し、右側のクリップ20は時計廻り方向に巡回移動する。左側の電動モータおよび右側の電動モータを、それぞれ独立して駆動させることにより、左側のクリップ20および右側のクリップ20をそれぞれ独立して巡回移動させることができる。
【0023】
さらに、左側のクリップ20および右側のクリップ20は、それぞれ可変ピッチ型である。すなわち、左右のクリップ20、20は、それぞれ独立して、移動に伴って搬送方向(MD)のクリップ間隔(クリップピッチ)が変化し得る。可変ピッチ型のクリップは、特開2008−23775号公報に記載の構成等の任意の適切な構成により実現され得る。
【0024】
以下、
図1および
図2を参照しながら、把持、予熱、延伸および冷却の各工程についてより詳細に説明する。なお、
図2は、予熱、延伸および冷却の各工程の一例を説明する概略図である。
【0025】
A−3.把持工程
まず、把持工程(把持ゾーンA)において、左右のクリップ20によって、延伸装置に取り込まれた積層体50の両側縁部を一定の把持間隔(クリップ間隔)で把持し、左右の無端レールに案内された各クリップ20の移動により、当該積層体50を予熱ゾーンBに搬送する。把持ゾーンAにおける両側縁部の把持間隔(クリップ間隔)は、代表的には互いに等しい間隔L1とされる。
【0026】
A−4.予熱工程
次いで、予熱工程(予熱ゾーンB)において、左右のクリップ20で把持された積層体50を延伸ゾーンCに向けて搬送しながら予熱する。予熱ゾーンBにおいては、搬送方向のクリップ間隔はL1で維持され、かつ、左右の無端レール10R、10Lのレール間距離は一定に維持される。予熱工程のエリア温度(すなわち、予熱ゾーン全体における平均温度:予熱温度)T1および後述の延伸工程のエリア温度(すなわち、延伸ゾーン全体における平均温度:延伸温度)T3は、後述の延伸工程開始時の積層体の温度T
SSとの関係が適切となるように設定され得る。予熱温度T1は、代表的には50℃〜150℃である。予熱時間は、代表的には5秒〜120秒である。予熱時間は、予熱ゾーンの長さおよびクリップの移動速度を変化させることにより調整することができる。予熱工程における温度が変化する場合には、予熱温度T1は、予熱工程全体における平均温度を意味する。
【0027】
A−5.延伸工程
次いで、延伸工程(延伸ゾーンC)において、左右のクリップ20で把持された積層体50を搬送しながら、長手方向に延伸(MD延伸)する。積層体50のMD延伸は、クリップ20の搬送方向への移動速度を徐々に増大させ、搬送方向のクリップ間隔をL1からL2まで拡大することにより行われる。延伸ゾーンCの入口における搬送方向のクリップ間隔(把持工程における把持間隔)L1と延伸ゾーンCの出口における搬送方向のクリップ間隔L2とを調整することにより、延伸倍率(L2/L1)を制御することができる。
【0028】
延伸工程における延伸倍率(L2/L1)は、例えば1.1倍〜6.0倍、好ましくは1.2倍〜5.0倍、より好ましくは1.3倍〜3.0倍である。延伸倍率が1.1倍未満であると、所望の光学特性が得られない場合がある。一方、延伸倍率が6.0倍を超えると、積層体が破断する場合がある。
【0029】
本発明の実施形態による製造方法は、積層体を長手方向に延伸すること(MD延伸)を含み、必要に応じて積層体を幅方向に収縮させること(TD収縮)を含む。TD収縮を行う場合、TD収縮はMD延伸と同時に行ってもよく、MD延伸の前に行ってもよく、MD延伸の後に行ってもよい。図示例においては、延伸工程(延伸ゾーンC)において、MD延伸と同時にTD収縮が行われる。具体的には、延伸ゾーンCにおいては、左右の無端レール10R、10Lがレール間距離が連続的に減少するテーパー部とされているので、当該ゾーンを通過させることによって、積層体50の幅方向への収縮が行われる。TD収縮率は、レール間距離の変化量を調整することによって制御することができる。具体的には、延伸ゾーンCの入口(予熱ゾーンB側端部)におけるレール間距離に対する延伸ゾーンCの出口(冷却ゾーンD側端部)におけるレール間距離の比を小さくするほど、大きい収縮率が得られる。
【0030】
TD収縮率((延伸ゾーンCの出口における積層体の幅:W2)/(延伸ゾーンCの入口における積層体の幅:W1))は、任意の適切な値に設定することができる。TD収縮率は、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.8〜0.5である。このような収縮率とすることにより、より優れた光学特性を得ることができる。
【0031】
本発明の1つの実施形態においては、延伸工程開始時の積層体の温度T
SSを所定の温度に調整することにより、得られる光学フィルムの幅方向における光学軸の方向を制御することができる。温度T
SSの調整は、任意の適切な手段により行われ得る。調整手段の代表例としては、(1)予熱温度T1と延伸温度T3を制御すること、および、(2)延伸工程の開始点をずらすこと、が挙げられる。手段(1)としては、代表的には、予熱温度(すなわち、予熱ゾーン全体における平均温度)T1と延伸温度(延伸ゾーン全体における平均温度)T3とを所望の値に設定することが挙げられる。手段(2)としては、代表的には、延伸装置の予熱ゾーンBの任意の適切な位置から延伸を開始すること、または、延伸ゾーンCの入口からではなく任意の適切な位置から延伸を開始すること、が挙げられる。
【0032】
積層体の延伸温度は、上記のようにT
SSが適切な値に設定される限りまたは延伸開始点が適切な位置に設定される限り、延伸ゾーンにおいて任意の適切な温度プロファイルに設定され得る。1つの実施形態においては、上記T1、上記T3および後述する冷却温度T2は、T1<T3、かつ、T3>T2の関係を有する。T1とT3との差は、好ましくは0℃〜60℃である。T3とT2との差は、好ましくは10℃〜70℃である。
【0033】
T
SSは、好ましくは65℃以上であり、より好ましくは80℃〜120℃である。1つの実施形態においては、延伸ゾーンの温度は、連続的または段階的に変化し得る。
【0034】
A−6.冷却工程および解放工程
次いで、冷却工程(冷却ゾーンD)において、積層体を冷却して冷却処理する。本発明の1つの実施形態においては、上記のとおり、延伸工程終了時以降の積層体の温度傾斜を調整することにより、得られる光学フィルムの幅方向における光学軸の方向を制御することができる。温度傾斜の調整は、任意の適切な手段により行われ得る。調整手段の代表例としては、(3)上記温度T3とT2を制御すること、および、(4)延伸工程の終了点をずらすこと、が挙げられる。手段(3)としては、代表的には、延伸温度(延伸ゾーン全体における平均温度)T3と冷却温度(すなわち、冷却ゾーン全体における平均温度)T2とを所望の値に設定することが挙げられる。手段(4)としては、代表的には、延伸装置の延伸ゾーンCの任意の適切な位置で延伸を終了すること、または、冷却ゾーンDの任意の適切な位置で延伸を終了すること、が挙げられる。
【0035】
冷却時間は、冷却ゾーンの長さおよびクリップの移動速度を変化させることにより調整することができる。冷却工程における温度が変化する場合には、冷却温度T2は、上記のとおり冷却ゾーン全体における平均温度を意味する。
【0036】
最後に、積層体50を把持するクリップ20を解放する。冷却工程(および解放工程)においては、代表的には、クリップ間距離およびクリップ間隔がいずれも一定とされる。
【0037】
A−7.温度調整
本発明における温度調整(上記のT1、T3およびT2の関係)の指針について簡単に説明する。例えば、
図3(a)に示すように、得られる光学フィルムの光学軸が搬送方向に対して該光学フィルムの幅方向の内側に向く場合、T
SSが相対的に低温となるように、または、延伸工程終了時以降の積層体の温度傾斜が小さくなるように調整される。例えば、生産の条件出し運転により得られた光学フィルムの光学軸が搬送方向に対して該光学フィルムの幅方向の内側に向いている場合、T
SSの設定値をより低温とすることにより、光学軸が内側に向く傾向を弱くするように調整することができる。延伸工程終了時以降の積層体の温度傾斜を小さくすることによっても同様の効果が得られる。その結果、光学軸の方向が幅方向全体にわたって長手方向と実質的に平行となるようにすることができる。一方、
図3(b)に示すように、得られる光学フィルムの光学軸が搬送方向に対して該光学フィルムの幅方向の外側に向く場合、T
SSが相対的に高温となるように、または、延伸工程終了時以降の積層体の温度傾斜が大きくなるように調整される。その結果、上記と同様に、光学軸の方向が幅方向全体にわたって長手方向と実質的に平行となるようにすることができる。すなわち、本発明者らは、延伸工程開始時の温度T
SSが相対的に低温である場合および延伸工程終了時以降の積層体の温度傾斜が小さい場合、得られる光学フィルムの光学軸が該光学フィルムの幅方向の内側に向く傾向を弱くすること;ならびに、延伸工程開始時の温度T
SSが相対的に高温である場合および延伸工程終了時以降の積層体の温度傾斜が大きい場合、得られる光学フィルムの光学軸が該光学フィルムの幅方向の外側に向く傾向を弱くすることを見出し、この知見を用いて、予熱温度、延伸温度および冷却温度ならびに積層体温度の関係の最適化、ならびに当該最適化による光学軸の方向の制御を実現した。このような温度調整を行うことにより、得られる光学フィルムの幅方向における光学軸の方向のばらつきを顕著に抑制することができる。さらに、このような温度関係の最適化を利用することにより、光学軸の方向のばらつきの抑制のみならず、光学軸の方向を目的に応じて所望の方向に制御することができる。このような効果が得られるメカニズムとしては、以下のようなものが推定され得る:本発明の製造方法は、テンターでフィルム(本実施形態においては積層体)の両端部を把持して搬送方向に延伸するので、フィルムにかかる延伸応力は両端部に発生する。延伸工程開始時の積層体の温度T
SSを下げるとフィルムが硬くなるため両端部の応力が大きくなり(したがって、積層体の両端部のみが搬送方向に引かれ)、光学軸が搬送方向に対してフィルムの幅方向の外側に向く傾向が強くなる。T
SSを上げるとフィルムが柔らかくなり両端部の応力が緩和され、光学軸が搬送方向に対してフィルムの幅方向の外側に向く傾向が弱くなる。延伸工程終了時以降の積層体の温度傾斜を大きくすると、延伸後積層体が冷却されて収縮しようとするため、冷却方向に引かれる。積層体両端部はテンターで把持されているため、フィルムの中央が引かれて、光学軸が搬送方向に対してフィルムの幅方向の内側に向く傾向になる。温度傾斜を小さくするとゆっくり冷却されるためこの傾向が弱くなり、光学軸が搬送方向に対してフィルムの幅方向の内側に向く傾向が弱くなる。
【0038】
図4は、予熱、延伸および冷却工程における好ましい温度プロファイルの一例を説明する概略図である。得られる光学フィルムの幅方向における光学軸の方向のばらつきを抑制する観点からは、
図4に実線で示すプロファイルAのような温度調整が好ましい。
図4に点線で示すプロファイルBのような温度調整によれば、
図3(b)のように得られる光学フィルムの光学軸が搬送方向に対して該光学フィルムの幅方向の外側に向く場合がある。
図4に破線で示すプロファイルCのような温度調整によれば、
図3(a)のように得られる光学フィルムの光学軸が搬送方向に対して該光学フィルムの幅方向の内側に向く場合がある。なお、
図4において、プロファイルBおよびCの図示されていない部分は、プロファイルAに重なっている。
【0039】
A−8.その他の工程
本実施形態の偏光膜の製造方法は、上記以外に、その他の工程を含み得る。その他の工程としては、例えば、不溶化工程、染色工程、架橋工程、上記延伸とは別の延伸工程、洗浄工程、乾燥(水分率の調節)工程等のPVA系樹脂層を偏光膜とする工程が挙げられる。その他の工程は、任意の適切なタイミングで行い得る。なお、PVA系樹脂層を偏光膜とする工程前の(代表的には、解放工程直後の)PVA系樹脂層の幅方向における光学軸のばらつきは、設定された方向(代表的には、長手方向)に対して、好ましくは±2.0°の範囲内であり、より好ましくは±1.5°の範囲内である。上記のような温度制御を行うことにより、この時点でのPVA系樹脂層の幅方向における光学軸のばらつきを所望の範囲内に制御することができる。その結果、最終的に得られる偏光膜の幅方向における吸収軸のばらつきを所望の範囲内に制御することができる。
【0040】
上記染色工程は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質で染色する工程である。好ましくは、PVA系樹脂層に二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に染色液を塗布する方法、PVA系樹脂層に染色液を噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、二色性物質を含む染色液に積層体を浸漬させる方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。なお、積層体両面を染色液に浸漬させてもよいし、片面のみ浸漬させてもよい。
【0041】
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、有機染料が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。二色性物質は、好ましくは、ヨウ素である。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜1.0重量部である。ヨウ素の水に対する溶解性を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物塩を配合することが好ましい。ヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムである。ヨウ化物塩の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.3重量部〜15重量部である。
【0042】
染色液の染色時の液温は、好ましくは20℃〜40℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、好ましくは5秒〜300秒である。このような条件であれば、PVA系樹脂層に十分に二色性物質を吸着させることができる。
【0043】
上記不溶化工程および架橋工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記洗浄工程は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記乾燥工程における乾燥温度は、好ましくは30℃〜100℃である。
【0044】
B.偏光膜
上記製造方法により作製される偏光膜は、実質的には、二色性物質を吸着配向させたPVA系樹脂膜である。偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率(Ts)は、好ましくは39%以上、より好ましくは39.5%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは40.5%以上である。なお、単体透過率の理論上の上限は50%であり、実用的な上限は46%である。また、単体透過率(Ts)は、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値であり、例えば、顕微分光システム(ラムダビジョン製、LVmicro)を用いて測定することができる。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.93%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
【0045】
偏光膜は、幅方向における吸収軸のばらつきが、設定された吸収軸方向(代表的には、長手方向)に対して、好ましくは±0.3°の範囲内であり、より好ましくは±0.2°の範囲内である。このように、本発明の製造方法により得られる偏光膜は、幅方向の軸精度に非常に優れている。結果として、当該偏光膜は光学特性の面内均一性に優れるので、裁断後の最終製品としての偏光膜における製品ごとの品質のばらつきが小さく、かつ、画像表示装置に用いられた場合に優れた表示特性を実現することができる。また、本発明の製造方法により得られる偏光膜は、幅方向端部まで実用に供することができるので、歩留まりが高く、コスト的にも有利である。なお、本発明の製造方法により位相差フィルムを作製する場合には、当該位相差フィルムの幅方向における遅相軸のばらつきは、設定された遅相軸方向(代表的には、長手方向)に対して、好ましくは±2.0°、より好ましくは±1.5°の範囲内である。
【0046】
偏光膜の使用方法は、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、単一層のPVA系樹脂フィルムとして使用してもよく、樹脂基材とPVA系樹脂膜との積層体として使用してもよく、PVA系樹脂フィルムまたはPVA系樹脂膜の少なくとも一方に保護フィルムを配置した積層体(すなわち、偏光板)として使用してもよい。
【0047】
C.偏光板
偏光板は、偏光膜と偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護フィルムとを有する。保護フィルムの形成材料としては、例えば、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。
【0048】
保護フィルムの厚みは、好ましくは20μm〜100μmである。保護フィルムは、代表的には、接着層(具体的には、接着剤層、粘着剤層)を介して偏光膜に積層される。接着剤層は、代表的にはPVA系接着剤や活性エネルギー線硬化型接着剤で形成される。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。樹脂基材/PVA系樹脂膜(偏光膜)の積層体を用いる場合、好ましくは、樹脂基材は保護フィルムを偏光膜の樹脂基材と反対側の面に積層した後に剥離され得る。必要に応じて、剥離面に別の保護フィルムが積層され得る。樹脂基材を剥離することにより、カールをより確実に抑制することができる。
【0049】
実用的には、偏光板は、最外層として粘着剤層を有する。粘着剤層は、代表的には画像表示装置側の最外層となる。粘着剤層には、セパレーターが剥離可能に仮着され、実際の使用まで粘着剤層を保護するとともに、ロール形成を可能としている。
【0050】
偏光板は、目的に応じて任意の適切な光学機能層をさらに有していてもよい。光学機能層の代表例としては、位相差フィルム(光学補償フィルム)、表面処理層が挙げられる。例えば、保護フィルムと粘着剤層との間に位相差フィルムが配置され得る(図示せず)。位相差フィルムの光学特性(例えば、屈折率楕円体、面内位相差、厚み方向位相差)は、目的、画像表示装置の特性等に応じて適切に設定され得る。例えば、画像表示装置がIPSモードの液晶表示装置である場合には、屈折率楕円体がnx>ny>nzである位相差フィルムおよび屈折率楕円体がnz>nx>nyである位相差フィルムが配置され得る。位相差フィルムが保護フィルムを兼ねてもよい。この場合、画像表示装置側に配置される保護フィルムは省略され得る。逆に、保護フィルムが、光学補償機能を有していてもよい(すなわち、目的に応じた適切な屈折率楕円体、面内位相差および厚み方向位相差を有していてもよい)。なお、「nx」はフィルム面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」はフィルム面内で遅相軸と直交する方向の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
【0051】
表面処理層は、外側の保護フィルムのさらに外側に配置され得る(図示せず)。表面処理層の代表例としては、ハードコート層、反射防止層、アンチグレア層が挙げられる。表面処理層は、例えば、偏光膜の加湿耐久性を向上させる目的で透湿度の低い層であることが好ましい。ハードコート層は、偏光板表面の傷付き防止などを目的に設けられる。ハードコート層は、例えば、アクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を表面に付加する方式などにて形成することができる。ハードコート層としては、鉛筆硬度が2H以上であることが好ましい。反射防止層は、偏光板表面での外光の反射防止を目的に設けられる低反射層である。反射防止層としては、例えば、特開2005−248173号公報に開示されるような光の干渉作用による反射光の打ち消し効果を利用して反射を防止する薄層タイプ、特開2011−2759号公報に開示されるような表面に微細構造を付与することにより低反射率を発現させる表面構造タイプが挙げられる。アンチグレア層は、偏光板表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に設けられる。アンチグレア層は、例えば、サンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式、透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて表面に微細凹凸構造を付与することにより形成される。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。表面処理層を設ける代わりに、外側の保護フィルムの表面に同様の表面処理を施してもよい。
【0052】
ここまで、本発明の光学フィルムの製造方法の一例として、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を用いて偏光膜を製造する実施形態について説明してきたが、上述のとおり、例えば、本発明が単層の樹脂フィルムを用いる偏光膜や位相差フィルムの製造方法または樹脂フィルムの積層体を用いる偏光膜や位相差フィルムの製造方法にも同様に適用可能であることは、当業者に明らかである。すなわち、本発明は、樹脂基材/PVA系樹脂層の積層体を単層の樹脂フィルムまたは樹脂フィルムの積層体に置き換えても、同様の手順が適用可能であり、同様の効果が得られ得る。例えば、PVA系樹脂の単層フィルムに本発明を適用することにより、幅方向の軸精度に優れた偏光膜を得ることができ;シクロオレフィン系樹脂の単層フィルムに本発明を適用することにより、幅方向の軸精度に優れた位相差フィルムを得ることができ;樹脂フィルム/樹脂フィルムの積層体に本発明を適用することにより、幅方向の軸精度に優れた偏光膜または位相差フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0054】
[参考例1]
<積層体作製工程>
樹脂基材として、非晶性PET基材(100μm厚)を準備し、該非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50℃〜60℃の温度で乾燥した。これにより、非晶性PET基材上に15μm厚のPVA層を製膜し、積層体を作製した。
【0055】
<予熱、延伸および冷却工程>
得られた積層体を、
図1に示すようなテンター延伸装置を用いて、予熱、延伸(MD延伸およびTD収縮)、および熱工程の各工程に供した。具体的には、把持ゾーンAにおいて、クリップ間隔L1:35mmで積層体の両側縁部を把持して長手方向に搬送し、予熱ゾーンBにおいて、T1=80℃で15秒間加熱した。次に、加熱した積層体について、延伸ゾーンCの始点から延伸を開始した。積層体の延伸開始時の温度T
SSは67℃であった。延伸工程(延伸ゾーンC)においては、積層体を、幅方向に30%収縮させると同時に、長手方向に3倍に空中延伸した(延伸ゾーンCの出口におけるクリップ間隔L2:105mm、積層体の幅:650mm)。また、延伸ゾーンCの温度(延伸工程のエリア温度)T3を140℃に設定することで、延伸終了時の積層体の温度T
ESを110℃とした。その後、冷却ゾーンDの温度(冷却工程のエリア温度)T2を70℃に設定し、冷却を行った。
【0056】
<染色処理>
次いで、積層体を、25℃のヨウ素水溶液(ヨウ素濃度:0.5重量%、ヨウ化カリウム濃度:10重量%)に30秒間浸漬させた。
【0057】
<架橋処理>
染色後の積層体を、60℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:5重量%、ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に60秒間浸漬させ、該ホウ酸水溶液中でさらに1.8倍長手方向に延伸した。
【0058】
<洗浄処理>
架橋処理後、積層体を、25℃のヨウ化カリウム水溶液(ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に5秒間浸漬させた。
このようにして、樹脂基材上に、厚み6.0μmの偏光膜を作製した。
【0059】
<軸精度>
テンター延伸直後のPVA系樹脂層ならびに得られた偏光膜の幅方向における光学軸の方向のばらつきを測定した。具体的には、測定装置としてAxoscan(AXOMETRICS社製)を用い、幅方向にわたって20mmごとにPVA系樹脂層の光学軸または偏光膜の吸収軸の方向を測定した。長手方向からのずれの最大値をばらつきとした。PVA系樹脂層の光学軸のばらつきは、長手方向に対して±3.0°であり、光学軸は長手方向に対して幅方向の外側を向いていた。さらに、得られた偏光膜の幅方向における吸収軸のばらつきは、長手方向に対して±0.7°であり、吸収軸は長手方向に対して幅方向の外側を向いていた。
【0060】
[実施例1]
参考例1の結果をふまえ、延伸開始時の温度T
SSが高温となるようにしたこと以外は参考例1と同様にして偏光膜を作製した。具体的には、予熱ゾーンBの温度T1を120℃としてT
SSを91℃としたこと以外は参考例1と同様にして偏光膜を作製した。テンター延伸直後のPVA系樹脂層の光学軸のばらつきは、長手方向に対して±0.5°であり、光学軸は長手方向に対して略平行であった。さらに、得られた偏光膜の幅方向における吸収軸のばらつきは、長手方向に対して±0.15°であり、吸収軸は長手方向に対して略平行であった。
【0061】
[実施例2]
参考例1の結果をふまえ、延伸開始時の温度T
SSが高温となるようにしたこと以外は参考例1と同様にして偏光膜を作製した。具体的には、延伸ゾーンCの途中から延伸を開始して(すなわち、延伸開始を遅らせて)T
SSを90℃としたこと以外は参考例1と同様にして偏光膜を作製した。テンター延伸直後のPVA系樹脂層の光学軸のばらつきは、長手方向に対して±0.5°であり、光学軸は長手方向に対して略平行であった。さらに、得られた偏光膜の幅方向における吸収軸のばらつきは、長手方向に対して±0.15°であり、吸収軸は長手方向に対して略平行であった。
【0062】
[実施例3]
参考例1の結果をふまえ、延伸工程終了時以降の積層体の温度傾斜(降温傾斜)を大きくしたこと以外は参考例1と同様にして偏光膜を作製した。具体的には、冷却ゾーンDの温度T2を60℃としたこと以外は参考例1と同様にして偏光膜を作製した。テンター延伸直後のPVA系樹脂層の光学軸のばらつきは、長手方向に対して±1.0°であり、光学軸は長手方向に対して略平行であった。さらに、得られた偏光膜の幅方向における吸収軸のばらつきは、長手方向に対して±0.20°であり、吸収軸は長手方向に対して略平行であった。