(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804851
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】SBR組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/06 20060101AFI20201214BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20201214BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20201214BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
C08L9/06
C08L25/04
C09K3/00 P
F16F1/36 C
F16F1/36 B
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2016-49852(P2016-49852)
(22)【出願日】2016年3月14日
(65)【公開番号】特開2017-165815(P2017-165815A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】根上 哲郎
【審査官】
岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−168926(JP,A)
【文献】
特開2016−056238(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第00063029(EP,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0130402(US,A1)
【文献】
特開2015−199833(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/152615(WO,A1)
【文献】
国際公開第2016/152616(WO,A1)
【文献】
特開2009−144175(JP,A)
【文献】
特開昭60−101128(JP,A)
【文献】
特開2003−253056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/16
C08K 3/00 −13/08
C09K 3/00
F16F 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SBR100重量部に対して、スチレン樹脂あるいはエポキシ基含有スチレンアクリル樹脂または水酸基含有スチレンアクリル樹脂であるスチレンアクリル系樹脂5〜80重量部を添加した、加硫物が70℃温度域でのtanδ値が0.15以上かつ100℃温度域でのtanδ値が0.13以上であり、防振性部材の成形材料として用いられるSBR組成物。
【請求項2】
請求項1記載のSBR組成物から加硫成形された防振性部材。
【請求項3】
高温環境下で使用される自動車用エンジン周辺のマウントまたはグロメットとして使用される請求項2記載の防振性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SBR組成物に関する。さらに詳しくは、高温時の防振性にすぐれた部材を形成し得るSBR組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
防振ゴム組成物としては、天然ゴムとスチレン樹脂またはスチレン含量が60重量%以上のハイスチレンゴムとからなり、スチレン成分を2.0〜5.5重量%含有する防振ゴム組成物(特許文献1参照)、あるいはエチレン・アクリルゴム100重量部、エチレン・プロピレン・ジエンゴム50〜280重量部および軟化点が70〜110℃で、かつ数平均分子量が200〜2000である樹脂からなる振動特性改良剤2〜20重量部を含有する高減衰ゴム組成物(特許文献2参照)等が提案されている。このような従来提案されているゴム材では、高温時のtanδが低くなり易く、防振効果が損なわれる傾向がみられる。
【0003】
一方、SBRは、例えば特許文献3で開示されているように高温環境下で使用される自動車用エンジン周辺のマウント、グロメット等の防振性部材の成形材料として用いられているが、この場合にも同様の傾向がみられ、それの改善が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−269240号公報
【特許文献2】特開2011−178962号公報
【特許文献3】特開平10−168235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高温時のtanδの値が高く、防振性にすぐれた防振性部材の成形材料として有効に用いられるSBR組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、SBR100重量部に対して、
スチレン樹脂あるいはエポキシ基含有スチレンアクリル樹脂
または水酸基含有スチレンアクリル樹脂であるスチレンアクリル系樹脂5〜80重量部を添加した、加硫物が70℃温度域でのtanδ値が0.15以上
かつ100℃温度域でのtanδ値が0.13以上であり、防振性部材の成形材料として用いられるSBR組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
SBRに対して特定割合の
スチレン樹脂あるいはエポキシ基
または水酸基含有スチレンアクリル樹脂であるスチレンアクリル系樹脂を添加することにより、高温でのtanδの値にすぐれ、防振性を向上させた防振性部材を成形することができる。かかるSBR組成物は、高温環境下で使用される自動車用エンジン周辺のマウント、グロメット等の防振性成形材料として有効に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
SBR(スチレンブタジエンゴム)としては、乳化重合SBR(E-SBR)、アニオン重合SBR(S-SBR)のいずれをも使用することができるが、一般には乳化重合SBRが用いられる。実際には、市販品、例えばJSR製品JSR 0202等が用いられる。
【0009】
SBRに添加される
スチレン樹脂としては、スチレン
の単独重合体が用いられる。
【0010】
また、SBRに添加されるスチレンアクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル樹脂形成単量体に、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等のポリスチレン樹脂形成単量体を共重合させた共重合樹脂およびこれら両成分に加えて酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル単量体を一部共重合させたもの
にエポキシ基または水酸基を含有せしめたものが用いられる。
【0011】
これらの
スチレン樹脂あるいはスチレンアクリル系樹脂は、SBR100重量部に対して5〜80重量部、好ましくは10〜60重量部、さらに好ましくは20〜60重量部の割合で用いられる。これ以下の使用割合では、混練・加工性、tanδ(23℃)およびtanδ(70℃)は良好であるものの、tanδ(100℃)の値が低下し、高温時の防振性を改善するという本発明の目的が達成されない。一方、これ以上の使用割合では、混練性やロール加工性が悪化するようになり、好ましくない。
【0012】
SBR組成物には、その特性を損なわない範囲で、例えば可塑剤などを配合することもできる。SBR組成物への可塑剤の添加は、混練性、ロール加工性を良化するのに有効である。
【0013】
このような割合で用いられるSBRと
スチレン樹脂あるいはスチレンアクリル系樹脂とのSBR組成物のニーダ混練性、ロール加工性、加硫成形性はいずれも良好であり、実際には例えば加圧式ニーダで混練し、次いでオープンロールでロール加工し、約170〜190℃で約3〜20分間加硫が行われる。
【0014】
加硫は、好ましくは硫黄または含硫黄加硫促進剤、例えば4,4’-ジチオジモルホリン、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、2-メルカプトイミダゾリン、テトラメチルチウラムモノスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾルスルフェンアミド、ジベンゾチアジルジスルフィド、高分子多硫化物等を、SBR100重量部当り約0.1〜5重量部程度用いて行われ、また過酸化物加硫剤を併用して用いることもできる。
【実施例】
【0015】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0016】
実施例1
SBR(JSR製品JSR 0202) 100重量部
スチレン樹脂(ヤスハラケミカル製品YSレジンSX100) 20 〃
硫黄 0.5 〃
これらを加圧式ニーダで混練し、次いでオープンロールでロール加工し、180℃で7分間加硫した。
【0017】
混練性、ロール加工性、加硫成形性を評価すると共に、動特性(tanδ)を測定した。
混練性:
(1) 加圧式ニーダ混練時にロータとウェイトとの空隙にブリッジ(ゴム塊)が形成
されることなく、安定して練り工程が進むこと
(2) 生地排出後の混練機に汚染がないこと
(1)、(2)において、共に良好なものを○、1つでも不良なものを×と評価
ロール加工性:
(1) ゴム生地表面の粘着が小さいこと
(2) 分散性向上のための切り返し作業やシート出しなどの分出し作業時に粘着によ
る中断がなく、良好なロール加工性を有すること
(1)、(2)において、共に良好なものを○、1つでも不良なものを×と評価
加硫成形性:
(1) 上記加硫条件にて生地焼け、生地流動不良、発泡等の発生がなく、安定した加
硫成形性を有すること
(2) 加硫シート表面にブリードなどの発生がなく、型汚染がないこと
(1)、(2)において、共に良好なものを○、1つでも不良なものを×と評価
動特性(tanδ):
JIS K6394を参考にして試験を実施
引張方法、試験片の形状および寸法は、幅6mm、厚さ2mmの短冊状物を掴み具間隔
20mm、平均歪10%、歪振幅±0.1%、周波数100Hz、試験温度23℃、70℃または100
℃で実施
70℃、100℃温度域でtanδ値がいずれも0.15以上のものを極めて良好◎、70℃温度域
でtanδ値が0.15以上でかつ100℃温度域でtanδ値が
0.13以上のものを良好○、それ
未満を不良×と評価
【0018】
実施例2
実施例1において、スチレン樹脂が60重量部に変更された。
【0019】
実施例3
実施例1において、スチレン樹脂の代りに、エポキシ基含有スチレンアクリル樹脂(東亜合成製品ARUFON UG-4040)が同量用いられた。
【0020】
比較例1
実施例1において、スチレン樹脂の代りに、カルボキシル基含有スチレンアクリル樹脂(東亜合成製品ARUFON UF-5041)が同量用いられた。
【0021】
実施例
4
実施例1において、スチレン樹脂の代りに、水酸基含有スチレンアクリル樹脂(東亜合成製品ARUFON UH-2170)が同量用いられた。
【0022】
比較例
2
実施例1において、スチレン樹脂が用いられなかった。
【0023】
比較例
3
実施例1において、SBRの代りに、NBR(日本ゼオン製品NIPOL DN219)が同量用いられた。
【0024】
比較例
4
実施例3において、SBRの代りに、NBR(NIPOL DN219)が同量用いられた。
【0025】
以上の各実施例および比較例における評価、測定結果は、次の表に示される。
表
評価・測定項目 実1 実2 実3 比1 実4 比2 比3 比4
〔混練・加工性〕
ニーダ混練性 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ロール加工性 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
加硫成形性 ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ×
〔動特性〕
tanδ (23℃) 0.97 0.70 0.44 0.46 0.58 0.61 0.49 0.39
tanδ (70℃) 0.19 0.40 0.29 0.15 0.15 0.14 0.21 0.20
tanδ(100℃) 0.13 0.19 0.25 0.11 0.20 0.09 0.33 0.30
動特性評価 ○ ◎ ◎
× ◎ × ○ ○