特許第6804857号(P6804857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804857チタン化合物及びその製造方法、チタン系組成物、樹脂組成物、並びにチタン系固体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804857
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】チタン化合物及びその製造方法、チタン系組成物、樹脂組成物、並びにチタン系固体
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20201214BHJP
   C08G 79/00 20060101ALI20201214BHJP
   C08L 85/00 20060101ALI20201214BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C01G23/00 Z
   C08G79/00
   C08L85/00
   C08L101/00
【請求項の数】17
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-73285(P2016-73285)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-178759(P2017-178759A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−507421(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/094978(WO,A1)
【文献】 特開2015−199637(JP,A)
【文献】 特開平01−129031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
C08G 79/00
C08L 85/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)及び(2)
【化1】
(式(1)において、Rはアセチル基又はプロピオニル基のいずれかである)
で表される各構成単位を有し、かつ、
Ti原子数が4以上である、チタン化合物。
【請求項2】
下記一般式(3)及び(4)
【化2】
(式(3)及び(4)において、Rはアルキル基、水素、アセチル基又はプロピオニル基のいずれかであり、式(3)の複数のRは同一又は異なっていてもよく、式(4)の複数のRは同一又は異なっていてもよく、式(1)のRと式(3)のRと式(4)のRとは同一又は異なっていてもよい)
で表される構成単位の少なくとも一方をさらに有する、請求項1に記載のチタン化合物。
【請求項3】
全Rと全Rの総量の50%以上が、前記アセチル基及び前記プロピオニル基の少なくとも一方である、請求項2に記載のチタン化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のチタン化合物を製造する方法であって、
下記一般式(5)
【化3】
(式(5)中、Rはアルキル基であり、式(5)の複数のRは同一又は異なっていてもよく、nは1以上の整数である)
で表されるチタン原料と、R−OH(Rは、アセチル基又はプロピオニル基のいずれかである)とを反応する工程を備える、チタン化合物の製造方法。
【請求項5】
上記式(5)で表されるチタン原料のRに対して、0.8モル当量以上の前記R−OHを反応させる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応を、OH基及びカルボニル基の少なくとも一方を有する極性溶媒中で行う、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記反応は、50℃以上で10分以上の加熱処理により行われる、請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のチタン化合物と、OH基及びカルボニル基の少なくとも一方を有する極性溶媒とを含む、チタン系組成物。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のチタン化合物と、樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項10】
前記樹脂が有機樹脂であり、2以上の反応性の官能基を有する、請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記樹脂がエポキシ樹脂、アクリル樹脂及びエポキシアクリレート樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項9又は10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記樹脂の屈折率が1.60以上、2.0未満である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂はフルオレン骨格及びナフタレン骨格の少なくとも一方を含有する、請求項9〜12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のチタン化合物を50℃以上に加熱する工程を有する、上記式(2)の構成単位を含むチタン系固体の製造方法
【請求項15】
請求項9〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物を50℃以上に加熱する工程を有する、上記式(2)の構成単位を含むチタン系固体の製造方法
【請求項16】
屈折率が1.75以上である、上記式(2)の構成単位を含むチタン系固体。
【請求項17】
下記一般式(6)
【化4】
で表される構造を有する、請求項9〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン化合物及びその製造方法、チタン系組成物、樹脂組成物、並びにチタン系固体に関する。
【背景技術】
【0002】
チタニア(酸化チタン)は、紫外線による光触媒性能を有しており、化学的に安定な材料として知られている。チタニアは、その光触媒性能により、例えば、超親水化や有機物の分解機能が発現する他、水を分解して水素及び酸素を発生させることが可能であることから、種々のアプリケーションへ応用されている。また、チタニアは優れた紫外線吸収性及び高い屈折率を備えているため(例えば、アナターゼ型のチタニアでは2.5以上、ルチル型のチタニアでは2.7以上の屈折率を有する)、その優れた光散乱性を活かして日焼け防止剤等としても利用されている。
【0003】
チタニアはその屈折率が高いがゆえの光散乱効果により透明な塗膜が得られにくいことから、近年では、より透明性の高い塗膜を形成させるべく、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、表面処理剤で処理されたナノ粒子を樹脂等に分散させて、樹脂塗膜等の透明性を高めると共に屈折率を高める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−273709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ナノ粒子のように粒径が小さくなるほど、樹脂中においてナノ粒子の二次凝集が起こりやすく、その二次凝集によって光の散乱が発生し、高い透明性が得られにくくなる場合があった。また、例えば、チタニアの粒子表面を上記特許文献1に開示の技術のように表面修飾すると、確かに二次凝集は抑制されるが、その表面修飾をするための材料がチタニアより屈折率が低いため、逆に屈折率の低下を引き起こす問題があった。このような観点から、種々の材料に対して高い屈折率及び高い透明性を付与することができ、しかも、低コストで調製することができるチタン化合物の開発が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、種々の材料に対して高い屈折率及び高い透明性を付与することができ、しかも、低コストで調製することができるチタン化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記チタン化合物を含むチタン系組成物及び樹脂組成物、並びに上記チタン化合物から得られるチタン系固体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、チタン化合物に特定の骨格構造を導入することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1.下記一般式(1)及び(2)
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)において、Rはアセチル基又はアセチル基以外のカルボニル基を有する基のいずれかである)
で表される各構成単位を有し、かつ、
Ti原子数が4以上である、チタン化合物。
項2.下記一般式(3)及び(4)
【0011】
【化2】
【0012】
(式(3)及び(4)において、Rはアルキル基、水素、アセチル基又はアセチル基以外のカルボニル基を有する基のいずれかであり、式(3)の複数のRは同一又は異なっていてもよく、式(4)の複数のRは同一又は異なっていてもよく、式(1)のRと式(3)のRと式(4)のRとは同一又は異なっていてもよい)
で表される構成単位の少なくとも一方をさらに有する、上記項1に記載のチタン化合物。
項3.全Rと全Rの総量の50%以上が、前記アセチル基及び前記カルボニル基を有する基の少なくとも一方である、上記項2に記載のチタン化合物。
項4.上記項1〜3のいずれか1項に記載のチタン化合物を製造する方法であって、
下記一般式(5)
【0013】
【化3】
【0014】
(式(5)中、Rはアルキル基であり、式(5)の複数のRは同一又は異なっていてもよく、nは1以上の整数である)
で表されるチタン原料と、R−OH(Rは、アルキル基、アセチル基又はアセチル基以外のカルボニル基を有する基のいずれかである)とを反応する工程を備える、チタン化合物の製造方法。
項5.上記式(5)で表されるチタン原料のRに対して、0.8モル当量以上の前記R−OHを反応させる、上記項4に記載の製造方法。
項6.前記反応を、OH基及びカルボニル基の少なくとも一方を有する極性溶媒中で行う、上記項4又は5に記載の製造方法。
項7.前記反応は、50℃以上で10分以上の加熱処理により行われる、上記項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
項8.Rはアセチル基及びアセチル基以外のカルボニル基を有する基の少なくとも一方であり、前記R−OHの沸点が200℃以下である、上記項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
項9.上記項1又は2に記載のチタン化合物と、OH基及びカルボニル基の少なくとも一方を有する極性溶媒とを含む、チタン系組成物。
項10.上記項1〜3のいずれか1項に記載のチタン化合物と、樹脂とを含む樹脂組成物。
項11.前記樹脂が有機樹脂であり、2以上の反応性の官能基を有する、上記項10に記載の樹脂組成物。
項12.前記樹脂がエポキシ樹脂、アクリル樹脂及びエポキシアクリレート樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、上記項10又は11に記載の樹脂組成物。
項13.前記樹脂の屈折率が1.60以上、2.0未満である、上記項10〜12のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
項14.前記樹脂はフルオレン骨格及びナフタレン骨格の少なくとも一方を含有する、上記項10〜13のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
項15.上記項1〜3のいずれか1項に記載のチタン化合物を50℃以上に加熱して得られ、上記式(2)の構成単位を含む、チタン系固体。
項16.上記項10〜14のいずれか1項に記載の樹脂組成物を50℃以上に加熱して得られ、上記式(2)の構成単位を含む、チタン系固体。
項17.屈折率が1.75以上である、上記項15又は16に記載のチタン系固体。
項18.下記一般式(6)
【0015】
【化4】
【0016】
で表される構造を有する、上記項10〜14のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るチタン化合物は、特定の骨格構造を有していることで、種々の材料に対して高い屈折率及び高い透明性を付与することができる。
【0018】
本発明に係るチタン化合物の製造方法は、上記チタン化合物を容易、かつ、低コストで製造することができ、上記チタン化合物を製造する方法として適している。
【0019】
本発明に係るチタン系組成物は、上記チタン化合物を含有するため、高い屈折率及び高い透明性を有する塗膜を形成するための材料として適している。
【0020】
本発明に係る樹脂組成物は、上記チタン化合物を含有するため、高い屈折率及び高い透明性を有する樹脂塗膜を形成するための材料として適している。
【0021】
本発明に係るチタン系固体は、上記チタン化合物を含む材料から形成されるため、高い屈折率及び高い透明性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例2で調製した溶液の外観を示す写真である。
図2】実施例2で調製した溶液から形成されたスピンコート膜の透明性を評価している様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
<チタン化合物>
本実施形態のチタン化合物は、下記一般式(1)及び(2)
【0025】
【化5】
【0026】
(式(1)において、Rはアセチル基又はアセチル基以外のカルボニル基を有する基のいずれかである)
で表される各構成単位を有し、かつ、
Ti原子数が4以上である。
【0027】
がアセチル基以外のカルボニル基を有する基である場合、このような基は、例えば、「R−CO−」と表すことができる。ここで、Rは炭素数2以上の直鎖状のアルキル基又は炭素数3〜10である環状のアルキル基、炭素数6〜10であるアリール基等が例示され、また、いずれも置換基をさらに有していてもよい。もちろん、アセチル基以外のカルボニル基を有する基が上記に限定されるわけではない。
【0028】
アセチル基以外のカルボニル基を有する基の具体例としては、各種カルボン酸から、水酸基(−OH基)を除去した基が挙げられる。このカルボン酸としては、プロピオン酸等の単官能のカルボン酸;マロン酸、コハク酸、シュウ酸等の多官能のカルボン酸;グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸等の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸;無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等無水カルボン酸が例示される。
【0029】
本実施形態のチタン化合物では、式(1)におけるRがアセチル基、又は、アセチル基以外のカルボニル基を有する基(例えば、R−CO−)である。これにより、チタン化合物の末端構造がより安定となるため、急激な加水分解が抑制されるので、チタン化合物を用いて形成される塗膜の白濁化が起こりにくく、高い透明性を付与しやすい。また、チタン化合物の加水分解後は、式(1)におけるRが残存しにくいので、より高い屈折率を付与しやすい。式(1)においてより好ましいRはアセチル基であり、この場合は、Rがさらに残存しにくく、また、仮に残存したとしても、屈折率の低下が起こりにくい。
同様の観点で、アセチル基以外のカルボニル基を有する基の場合も、プロピオン酸、乳酸など沸点が低いカルボン酸に由来するカルボニル基を、あるいは、シュウ酸など分解しやすいカルボン酸に由来するカルボニル基が好ましい。
【0030】
上記のように、本実施形態のチタン化合物は、特定の構造を有することで、加水分解の進行が適切に制御されるので、Ti−OR構造が化合物中に残りにくく、屈折率が良好となり得る。
【0031】
本実施形態のチタン化合物は、下記一般式(3)及び(4)
【0032】
【化6】
【0033】
(式(3)及び(4)において、Rはアルキル基、水素、アセチル基又はアセチル基以外のカルボニル基を有する基のいずれかであり、式(3)の複数のRは同一又は異なっていてもよく、式(4)の複数のRは同一又は異なっていてもよく、式(1)のRと式(3)のRと式(4)のRとは同一又は異なっていてもよい)
で表される構成単位の少なくとも一方をさらに有することが好ましい。
【0034】
がアルキル基である場合、例えば、炭素数2〜18である直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又は炭素数3〜10である環状のアルキル基が挙げられる。上記アルキル基は、さらに一以上の置換基を有していてもよい。
【0035】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ステアリル基、シクロヘキシル基、デカヒドロナフチル基等が挙げられる.炭素数及び分岐を適切な範囲に調節すれば、加水分解速度が所望の範囲となりやすく、化合物の安定性をより向上させることができ、しかも、屈折率を向上させやすい。これらの観点で、アルキル基は、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基が好ましく、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基がより好ましい。
【0036】
がアルキル基であれば、本実施形態のチタン化合物はアルコキシドを有し、Rが水素であれば、本実施形態のチタン化合物は水酸基を有し、Rがアセチル基であれば、本実施形態のチタン化合物は酢酸エステルを有し、Rが上記「R−CO−」であれば、本実施形態のチタン化合物は酢酸エステル以外のエステル構造を有する。
【0037】
がアセチル基以外のカルボニル基を有する基である場合、その種類は式(1)におけるカルボニル基を有する基と同様である。
【0038】
本実施形態のチタン化合物は、上記式(1)〜(4)で表される各構成単位がそれぞれランダムに結合した構造を有し得る。
【0039】
本実施形態のチタン化合物では、1分子あたり4以上のTi原子を有する。言い換えれば、本実施形態のチタン化合物の1分子あたりにおける上記式(1)〜(4)で表される各構成単位の総量は4以上である(つまり、チタン化合物は4量体以上である)。1分子あたりのTi原子数が4以上であることで、例えば、Ti原子数が1であるチタン化合物などと比較して、末端構造がより安定となる。これにより、Ti原子に結合しているR−O部位及びR−O部位の加水分解(例えば、Ti−O−R(アルキル基)→Ti−OHへの加水分解反応)及び縮合反応(例えば、2Ti−OH→Ti−O−Tiへの縮合反応)が急激に起こることを防止しやすくなる。従って、常温(例えば、20℃)あるいは100℃以下の低温条件下においてチタン化合物の安定性が高く、チタン化合物を用いて形成された塗膜の白濁が発生しにくく、また、チタン化合物を含む溶液も長期にわたって安定な状態を維持しやすい。さらに、1分子あたりのTi原子数が4以上であることで、チタン化合物を所定の温度に加熱した場合であっても、チタン化合物の加水分解及び縮合反応が緩やかに進行するので、チタン化合物を用いて形成される塗膜は透明性が高く、しかも、チタン化合物における末端構造(RO−基等)が反応後に残存しにくい。これにより、チタン化合物の加水分解及び縮合反応後の構造がTiO又はこれに近い構造となり、高屈折率を有する塗膜が形成されやすくなる。
【0040】
本実施形態のチタン化合物の、1分子あたりのTi原子数は8以上であることが好ましい。チタン化合物の、1分子あたりのTi原子数の上限は特に限定的ではないが、例えば、100000とすることができる。
【0041】
本実施形態のチタン化合物において、各構成単位の含有比率は式(1)及び式(2)の構成単位を含む限りは特に制限されない。例えば、式(1)及び式(2)の構成単位の含有量が、チタン化合物を構成する全構成単位の総質量に対して、50%以上が好ましく、60%以上がさらに好ましい。
【0042】
本実施形態のチタン化合物は、上述のような構造が導入されていることで、透明性及び高い屈折率を付与することができる。そのため、例えば、上記チタン化合物を用いれば、シリコン基板等の基材等に対し、透明性及び高い屈折率を有する塗膜を形成することができる。
【0043】
本実施形態のチタン化合物は上記構造を有していることによって、樹脂、特には有機樹脂との親和性に優れる。このような特性を活かして、後述のように、有機樹脂等の有機材料と組み合わせて使用すれば、透明性に優れ、屈折率の高い樹脂塗膜等を形成しやすく、膜厚も容易に調節することが可能である。また、本実施形態のチタン化合物は、熱処理を行うことで容易に固体状(例えば、膜状)のチタン材料(チタン系固体)と成り得る。このチタン系固体は、上記のチタン化合物を含む材料で形成されているので、透明性が高く、高い屈折率を有する。
【0044】
以上より、本実施形態のチタン化合物は、高屈折率材料用途に適しており、特に、透明性が要求される分野への応用に適している。本実施形態のチタン化合物は、例えば、硬さ及び透明性と高屈折率レンズに合わせた高屈折率及び屈折率制御性が求められる光学レンズのハードコート用途に適している。また、本実施形態のチタン化合物は、例えば、透明性と高屈折率による光取出し効率を高めることが求められているLED照明の光取り出し用途に適している。さらに、本実施形態のチタン化合物は、例えば、屈折率を高くすることで反射率が高くなるので、高反射率コーティング用途等にも利用可能である。
【0045】
本実施形態のチタン化合物では、全てのRと全てのRの総量のうちの50%以上が、アセチル基及びカルボニル基を有する基(「R−CO−」)の少なくとも一方であることが好ましい。言い換えれば、本実施形態のチタン化合物では、R及びRの全モル数に対して50mol%以上がアセチル基及びカルボニル基を有する基(「R−CO−」)の少なくとも一方であることが好ましい。この場合、チタン化合物の加水分解及び縮合反応がより緩やかに進行するので、チタン化合物を用いて形成される塗膜の透明性及び屈折率が特に高くなり、また、樹脂との親和性もより向上する。更に好ましくは、R及びRの全モル数に対して80mol%以上が、アセチル基及びカルボニル基を有する基(「R−CO−」)の少なくとも一方であることである。
【0046】
<チタン化合物の製造方法>
上記チタン化合物を製造する方法は特に限定的ではないが、例えば、次の工程を備える製造方法によって、チタン化合物が製造され得る。
【0047】
すなわち、上記チタン化合物は、下記一般式(5)
【0048】
【化7】
【0049】
(式(5)中、Rはアルキル基であり、式(5)の複数のRは同一又は異なっていてもよく、nは1以上の整数である)
で表されるチタン原料と、R−OH(Rは、アルキル基、アセチル基又はアセチル基以外のカルボニル基を有する基のいずれかである)とを反応する工程を備える製造方法により製造され得る。
【0050】
上記工程により、式(5)で表されるチタン原料とR−OHとの反応が進行する。この反応によって、チタン原料の複数のRの全部又は一部がRに置換され、上記チタン化合物が得られる。この反応は、例えば、加水分解反応及び縮合反応である。上記反応によってチタン原料の重合が起こって高分子量化され、安定化した構造を有するチタン化合物が製造される。
【0051】
としては、例えば、炭素数1〜18である直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、あるいは炭素数3〜10である環状のアルキル基が挙げられる。上記アルキル基は、さらに一以上の置換基を有していてもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ステアリル基、シクロヘキシル基、デカヒドロナフチル基等が挙げられる.炭素数及び分岐を適切な範囲に調節すれば、加水分解速度が所望の範囲となりやすく、化合物の安定性をより向上させることができ、しかも、屈折率を向上させやすい。これらの観点で、アルキル基は、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基が好ましく、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基がより好ましい。
【0052】
上記チタン原料は、式(5)におけるnが1であればチタンアルコキシド、nが2以上であれば、チタンアルコキシドオリゴマーである。
【0053】
nの値は、2〜40であることが好ましく、この場合、得られるチタン化合物は、透明性及び高い屈折率を付与させやすく、また、上記チタン化合物の製造がより容易になる。
【0054】
上記R−OHは、Rがアセチル基である場合は酢酸である。
【0055】
また、上記R−OHは、Rがアセチル基以外のカルボニル基を有する基である場合は、例えば、酢酸以外のカルボン酸である。このようなカルボン酸としては、具体的には、プロピオン酸等の単官能のカルボン酸;マロン酸、コハク酸、シュウ酸等の多官能のカルボン酸;グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸等の水酸基を有するヒドロキシカルボン酸;無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等無水カルボン酸が例示される。
【0056】
上記R−OHは低分子量であることが好ましく、この場合、チタン化合物で塗膜を形成した場合や、チタン化合物を他の材料と組み合わせて塗膜を形成した場合に、その塗膜の屈折率を低下させにくい。つまり、R−OHが低分子量であれば、仮に、塗膜中にR基が残存したとしても、屈折率を下げにくいということである。
【0057】
また、上記R−OHは、その沸点もしくは分解温度が200℃以下であることが好ましい。この場合、得られたチタン化合物を熱処理した場合、例えば250℃以下で乾燥処理した場合において、未反応R−OHやRと置換されたR基が揮発又は分解しやすいので、塗膜の屈折率を低下させにくい。
【0058】
上記のような観点及びチタン系材料と相性良いという観点から、R−OHは、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、及び乳酸の群から選ばれる1種であることが好ましく、酢酸であることがより好ましい。
【0059】
また、塗膜の透明性を高める観点及びチタン系材料と相性良いという観点から、R−OHは、酢酸、プロピオン酸及びグリコール酸,酒石酸,クエン酸等のヒドロキシカルボン酸の群から選ばれる1種であることが好ましい。
【0060】
以上より、最も好ましいR−OHは酢酸、プロピオン酸である。
【0061】
チタン原料と、R−OHとの反応は、溶媒中で行うことができる。
【0062】
上記溶媒としては特に限定的ではないが、例えば、OH基及びカルボニル基の少なくとも一方を有する極性溶媒中で行うことができる。このような溶媒中で反応を行うことで、急激に反応(例えば、加水分解及び縮合反応)が進行するのを防止しやすくなる。その結果、得られたチタン化合物は白濁やゲル化が発生にくいので、優れた透明性と高い屈折率を付与できる材料となり得る。上記反応で用いられる溶媒は、チタン化合物の製造における希釈剤及び末端保護剤として作用し、急激な反応の進行が抑制され得る。
【0063】
上記極性溶媒は、OH基及びカルボニル基の少なくとも一方をもつ分子構造である。上記極性溶媒がOH基を有する場合は、アルコール類、グリコール類が挙げられ、上記極性溶媒がカルボニル基を有する場合では、ラクタム類、ジケトン類が挙げられる。より好ましい極性溶媒としては、ベンジルアルコール、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アセチルアセトン等が挙げられる。
【0064】
溶媒を使用する場合、溶媒の使用量に制限はないが、例えば、チタン原料の濃度が、このチタン原料から生成する二酸化チタン(TiO)重量換算で0.1〜20重量%となるように溶媒を使用することができる。この場合、チタン化合物によって形成される塗膜は透明性が高く、得られたチタン化合物も安定となりやすい。また、上記極性溶媒を含んだ状態でチタン化合物の塗膜を形成したとしても、膜厚が薄くなりにくい。その結果、チタン化合物を他の材料と組み合わせて使用した場合であっても、チタン化合物と他の材料との配合設計を行いやすい。チタン原料の濃度は、このチタン原料から生成する二酸化チタン重量換算で1〜15重量%とすることがより好ましい。
【0065】
上記工程における反応において、式(5)で表されるチタン原料とR−OHとの混合割合は特に限定されないが、チタン原料のRに対して0.5モル当量以上のR−OHを反応させることが好ましい。言い換えれば、R−OHは、式(5)で表されるチタン原料のR−O部位と反応するので、R−O部位のモル数(個数)に対し、R−OHのモル数(個数)が50%以上となるようにR−OHを使用することが好ましい。この場合、反応が十分に進行して得られたチタン化合物はより安定化され、また、未反応R−OHやR基が残存しにくいので、屈折率が低下するおそれが小さくなる。
【0066】
チタン原料と、R−OHとの混合割合は、式(5)で表されるチタン原料のRに対して、R−OHを0.8モル当量以上とすることが好ましい。また、未反応R−OHを残存させにくいという観点から、式(5)で表されるチタン原料に対して、R−OHの使用量の上限は、100モル当量であることが好ましく、10モル当量であることがより好ましく、5モル当量であることが特に好ましい。
【0067】
上記工程における反応は加熱して行ってもよい。加熱温度としては、50℃以上とすることができ、好ましくは80℃以上である。加熱温度の上限は、通常、200℃である。また、上記工程における反応時間は適宜設定することができ、例えば10分以上であり、60分以上であってもよい。
【0068】
より好ましい反応条件としては、加熱温度が50℃以上で、かつ、反応時間が10分以上である。この場合、反応が十分に進行し、高い透明性と屈折率を付与しやすいチタン化合物が得られる。
【0069】
また、上記加熱は2段階以上で行ってもよく、具体的には、50℃以上で一定時間加熱した後、更に温度を上げて(例えば100℃以上)加熱を続けて反応を行うことも可能である。
【0070】
上記反応は、空気中で行ってもよく、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。反応中に生成する副生成物、例えば、アルコキシド由来のアルコール類、このアルコール類とカルボン酸の反応によるエステル化合物は、開放系による反応にて揮発させて除去してもよいし、パージにより揮発させながら除去を促進させてもよい。
【0071】
上記反応において、急激な加水分解反応及び縮合反応(重合)が起こらない程度に、かつ、高分子量化を促進させるべく、適量の水を加えてもよい。
【0072】
上記工程を経ることで、目的のチタン化合物が得られる。上記工程の後は、必要に応じて精製等を行ってもよい。また、溶媒を使用してチタン化合物を製造した場合は、溶媒を除去してもよいし、あるいは、溶媒を除去せずにチタン化合物の溶液として得てもよい。
【0073】
上記製造方法で得られるチタン化合物は、式(1)〜(4)で表される各構成単位を有し、かつ、Ti原子数が4以上である。
【0074】
上記製造方法では、出発原料であるR−OHが残存しにくく、また、チタン原料におけるR基も残存しにくいので、高い透明性と屈折率を付与しやすいチタン化合物が得られる。
【0075】
<チタン系組成物>
本実施形態のチタン系組成物は、上述のチタン化合物と、OH基及びカルボニル基の少なくとも一方を有する極性溶媒とを含む。このようなチタン系組成物を、基材等に塗布することで、チタン化合物を有して形成される塗膜を形成することができる。
【0076】
そして、上記塗膜を例えば加熱処理等することで、チタン化合物の加水分解及び縮合反応が進行して、チタン化合物がTiO又はこれに近い構造に変化する。これにより、塗膜は高い屈折率を有することが可能となる。しかも、この塗膜は、上記チタン化合物を有して形成されているので、透明性も高い。
【0077】
上記極性溶媒は、チタン化合物の製造方法で述べた極性溶媒と同様である。
【0078】
チタン系組成物において、チタン化合物の含有量は特に限定的ではない。例えば、チタン系組成物の調製時において、チタン化合物の含有量は、極性溶媒とチタン化合物の総量に対して酸化チタン換算で0.01〜60重量%とすることができる。
【0079】
チタン系組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、所定量のチタン化合物と、上記極性溶媒とを適宜の方法で混合させることでチタン系組成物を調製できる。あるいは、上述のチタン化合物の製造方法において、極性溶媒を使用した場合は、反応後の反応液をそのままチタン系組成物として得ることができる。この場合、必要に応じて反応液中の副生成物等は除去してもよい。
【0080】
なお、チタン系組成物には、その効果が阻害されない程度に他の成分を含有していてもよい。
【0081】
また、チタン系組成物から塗膜を形成する方法も限定されず、例えば、公知の方法を採用することができる。
【0082】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記チタン化合物と、樹脂とを含む。これにより、例えば、樹脂組成物の溶液又は分散液を基材に塗布等することで、チタン化合物及び樹脂を有して形成される塗膜(樹脂塗膜)を形成することができる。
【0083】
そして、上記塗膜を例えば加熱処理等することで、チタン化合物の加水分解及び縮合反応が進行して、チタン化合物がTiO又はこれに近い構造へと変化し、これにより、高屈折率を有する樹脂塗膜となり得る。
【0084】
また、上記チタン化合物は、上述のように樹脂との親和性にも優れているので、チタン化合物が樹脂に均一に分散して存在しやすい。これにより、形成される樹脂塗膜は、透明性にも優れるものである。
【0085】
上記樹脂の種類は特に限定されず、種々の樹脂が例示される。
【0086】
中でも、樹脂は、有機樹脂であって、2以上の反応性の官能基を有していることが好ましい。反応性の官能基は、例えば、光硬化性又は熱硬化性を示す基であり、例えば、ビニル基(アルケニル基)、エポキシ基、アクリル基、イソシアネート基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、カルボン酸無水物等である。
【0087】
より具体的には、樹脂は、エポキシのような熱硬化性樹脂、アクリレート、メタクリレート、エポキシアクリレート、エポキシメタクリレートのような光硬化性樹脂、ポリエステルやポリカーボネート等の熱可塑性樹脂等が例示される。
【0088】
このような有機樹脂である場合、チタン化合物との親和性が特に優れるので、両者が均一に複合化されやすい。これにより、樹脂塗膜はさらに優れた透明性と屈折率を有する。しかも、反応性の官能基とチタン化合物とが反応することで、両者がより高度に複合化されるため、樹脂塗膜の透明性と屈折率を容易に高めることができる。
【0089】
上記樹脂は、特に、エポキシ樹脂、アクリル樹脂及びエポキシアクリレート樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0090】
なお、樹脂が、熱硬化性樹脂である場合は、チタン化合物が熱硬化性樹脂の硬化剤として作用し得るので、別途の硬化剤は不要とできるか、もしくは低減できる場合がある。
【0091】
また、樹脂の屈折率は、1.60以上、2.0未満であることが好ましく、この場合、樹脂組成物から形成される樹脂塗膜の屈折率がより高くなる。
【0092】
また、樹脂は、フルオレン骨格及びナフタレン骨格の少なくとも一方を含有することが好ましい。このような骨格を有する樹脂によって、塗膜の屈折率がなおいっそう向上し得る。
【0093】
フルオレン骨格又はナフタレン骨格を有する樹脂としては、例えば、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスナフトールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスクレゾールフルオレンジグリシジルエーテル、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジメタクリレート、ナフタレンジグリシジルエーテル等が挙げられる。また、ビスフェノキシエタノールフルオレン、ビスフェノールフルオレン、ビスクレゾールフルオレン、ビスナフトールフルオレンの構造を有するポリエステル、ポリカーボネート等も挙げられる。
【0094】
樹脂組成物は、さらに、下記一般式(6)
【0095】
【化8】
【0096】
で表される構造を有していてもよい。
【0097】
上記式(6)で表される構造は、例えば、チタン化合物のTi−OH部位もしくはTi−OR部位とエポキシ樹脂等のエポキシ部位とが反応することで形成され得る。例えば、上述のビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル等のエポキシ部位とチタン化合物のTi−OH部位もしくはTi−OR部位とが反応することで、式(6)で表される構造が形成され得る。このようにチタン化合物が上記式(6)で表される構造を有することで、樹脂組成物で形成される塗膜の屈折率がさらに向上し得る。
【0098】
なお、樹脂組成物には、その効果が阻害されない程度において他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、溶剤、光安定剤、分散安定剤等である。
【0099】
樹脂塗膜は、上記チタン化合物と樹脂とが複合化されている。このような樹脂塗膜は、上述のようにチタン化合物が含有されていることで、優れた透明性と屈折率を有し、これに加え、例えば、樹脂の種類を適宜選択することで、所望の目的に見合った性能を付与できる。例えば、樹脂の種類の適切な選定により、クラック防止機能を付与することができる。
【0100】
また、樹脂組成物から形成される樹脂塗膜は、高い透明性と高い屈折率を兼ね備えているので、塗膜の厚み(膜厚)を従来の樹脂塗膜より厚くすることも可能であり、種々の用途に応用することができる。
【0101】
樹脂組成物において、チタン化合物と樹脂との混合比は特に限定的ではなく、例えば、樹脂とチタン化合物の総量に対して、チタン化合物を酸化チタン(TiO)換算で5〜95重量%とすることができる。
【0102】
樹脂組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、所定量のチタン化合物と、上記樹脂とを適宜の方法で混合させることで樹脂組成物を調製できる。あるいは、上述のチタン化合物の製造方法における反応の工程において、樹脂の存在下で、式(5)で表されるチタン原料とR−OHとの反応を行うことによっても、樹脂組成物を調製できる場合もある。
【0103】
樹脂とチタン化合物とを混合するにあたっては、樹脂とチタン化合物とを溶融混練もしくは機械的な混合によって行うことができるが、透明性を保持するという観点では溶媒の存在下で樹脂とチタン化合物とを混合することが好ましい。
【0104】
また、樹脂組成物から塗膜を形成する方法も限定されず、例えば、公知の方法を採用することができる。
【0105】
<チタン系固体>
本実施形態のチタン系固体は、上記チタン化合物を50℃以上に加熱することで得られ、上記式(1)、(2)の構成単位を含んで構成されている。
【0106】
上記チタン化合物を50℃以上に加熱することによって、チタン化合物の脱水縮合等の反応が起こり、Ti−O−Ti結合が形成され、チタン系固体として形成され得る。より具体的には、チタン化合物におけるR−O部位の加水分解反応や縮合反応が生じて、チタン化合物の分解やTi−OH構造の脱水縮合等が起こり、Ti−O−Ti結合が形成される。こうして得られたチタン系固体は、上記式(1)、(2)の構成単位を主成分として形成されている。
【0107】
そのため、チタン系固体は、高い屈折率を有し、透明性も高く、しかも、耐熱性、耐薬品性の性能も向上し得る。
【0108】
特に、得られたチタン系固体は、上記チタン系化合物を含む原料から形成されるので、例えば、1.75以上の屈折率を有し得る。
【0109】
上記チタン系固体は、チタン系化合物を含む原料を50℃以上に加熱する工程を有する製造方法によって得ることができる。この加熱工程により、チタン系化合物の水分解反応や縮合反応が十分に進行し、上記式(2)の構成単位がより多いチタン系固体が得られやすい。この結果、チタン系固体は、特に高い屈折率となり得る。より好ましい加熱温度は、溶媒の揮発及びチタン系化合物の反応性等の観点から100℃以上であり、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは200℃以上である。また、加熱温度が400℃以上では、TiOに近い構造となるので、チタン系固体の強度も向上する。
【0110】
チタン系固体の具体的態様は特に限定されないが、例えば、塗膜状、フィルム状、板状、薄膜状等である。
【0111】
また、上記樹脂組成物にあっても、上述と同様、加熱することによってチタン系固体を形成することができる。このチタン系固体は、上記樹脂組成物を50℃以上に加熱する工程によって得られ、上記式(1)、(2)の構成単位を含んで構成されている。
【0112】
この場合のチタン系固体は、加熱温度によって、樹脂と上記式(2)の構成単位を主成分とするチタン系化合物とを含む樹脂塗膜として得られ、あるいは、樹脂成分が焼失して上記式(2)の構成単位を主成分とする多孔質膜として形成され得る。
【0113】
樹脂組成物を用いてチタン系固体が形成される場合も、加熱によってチタン化合物の脱水縮合等の反応が起こり、Ti−O−Ti結合が形成され、チタン系固体として形成され得る。そのため、このように形成されたチタン系固体も、高い屈折率を有し、透明性も高く、しかも、耐熱性、耐薬品性の性能も向上し得る。
【0114】
特に、得られたチタン系固体は、上記チタン系化合物を含む原料から形成されるので、例えば、1.75以上の屈折率を有し得る。
【0115】
樹脂組成物を用いてチタン系固体を形成するにあたっては、樹脂の種類に応じて加熱温度を調整すればよい。
【0116】
樹脂が光硬化性樹脂である場合は、加熱を行った後、紫外線等による硬化工程を行ってもよい。
【0117】
チタン系固体が樹脂塗膜である場合は、樹脂組成物を加熱するにあたって、樹脂成分の分解を発生しにくくするという観点から、加熱温度は350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。このように得られる樹脂塗膜は、樹脂に優れた親和性を有するチタン化合物を用いて形成されているので、優れた透明性と高い屈折率を有し得る。
【0118】
一方、チタン系固体が上記式(4)の構成単位を主成分とする多孔質膜である場合は、樹脂成分を焼失させるという観点から、加熱温度は400℃以上が好ましく、450℃以上がより好ましい。
【0119】
以上のようなチタン系固体は、透明性が高く、屈折率も高いことから、高屈折率材料として適しており、種々の分野に応用することができる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0121】
(屈折率測定)
屈折率測定は、シリコンウェハ上に形成したコーティングについて、分光反射スペクトル測定装置(フィルメトリクス社製)を用いて、測定範囲420〜950nmで反射スペクトルの測定を行い、そのスペクトルを用いたフィッティングにより算出を行った。
【0122】
(実施例1)
TiO換算で0.8重量%となるように、チタンテトラn−ブトキシド3.43gを溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン96.6gに添加した。そこへ、酢酸12gを加え、10分間撹拌した。加えた酢酸は、チタンテトラn−ブトキシドに対して20倍モル当量(ブトキシ基に対して5倍モル等量)であった。その後、水0.15gを加え、50℃で60分間撹拌を行った。次いで、100℃に昇温し、15分間撹拌したところ、薄黄色の透明な溶液が得られた。
【0123】
この溶液をシリコン基板上にスピンコートし、150℃で120分間加熱して屈折率を測定したところ、屈折率は1.85であった。あるいは、250℃で120分間加熱して屈折率を測定したところ、屈折率は1.95であった。
【0124】
(実施例2)
TiO換算で4重量%となるように、チタンテトラn−ブトキシドテトラマー12.1gを溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン87.9gに添加した。そこへ、酢酸を6gを加え、10分間撹拌した。加えた酢酸は、チタンテトラn−ブトキシドに対して10モル当量(ブトキシ基に対して1モル等量)であった。その後、100℃に昇温し、15分間撹拌したところ、薄黄色の透明な溶液が得られた。
【0125】
図1に示すように、この実施例2で得られたチタン化合物を含む溶液(チタン系組成物)は透明であることが認められる。
【0126】
この溶液をシリコン基板上にスピンコートし、150℃で120分間加熱して屈折率を測定したところ、屈折率は1.94であった。あるいは、250℃で120分間加熱して屈折率を測定したところ、屈折率は2.03であった。
【0127】
図2に示すように、実施例2で得られたチタン化合物を含む溶液から形成されたスピンコート膜を印刷物の表面に載置しても、印刷物の文字や模様が明確に視認できることから、非常に透明性が高い膜(チタン系固体)であることが認められる。
【0128】
(実施例3)
溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンの代わりにベンジルアルコールに変更したこと以外は実施例2と同様の方法で溶液を得た。得られた溶液は、ほぼ無色透明であった。
【0129】
この溶液をシリコン基板上にスピンコートし、150℃で120分間加熱して屈折率を測定したところ、屈折率は1.88であった。あるいは、250℃で120分間加熱して屈折率を測定したところ、屈折率は1.97であった。
【0130】
(実施例4)
実施例2で得られた溶液と、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル(BPEFG)のN−メチル−2−ピロリドン10wt%溶液を、TiO換算重量:BPEFG重量=2:1となるように混合した。
【0131】
この溶液をシリコン基板上にスピンコートし、150℃で120分間加熱して屈折率を測定したところ、屈折率は1.83であった。あるいは、250℃で120分間加熱して屈折率を測定したところ、屈折率は1.89であった。
【0132】
(比較例1)
チタンテトライソプロポキシド142.1g(0.5mol)に酢酸120g(2mol)を加え15分撹拌し、水を550g加えた。この分散液のpHは2.5であった。半透明の沈殿が大量に発生したが、60分間撹拌した後に加熱を行ったところ60℃で沈殿がすべて溶解した。
【0133】
その後、常圧(0.1MPa)において80℃で5時間撹拌した後、反応液に水を加え、合計800gに調製した後、超音波をかけたところ、半透明の均一なチタニア分散液が得られた。この分散液を乾燥させ、TEM観察を行ったところ、3nmのナノ粒子が観察された。
【0134】
この分散液をスピンコートによりガラスに塗布し、150℃で120分乾燥したところ、透明な塗膜が得られたが、屈折率は1.65であった。さらに250℃で120分加熱したところ、屈折率は1.69であった。
(比較例2)
チタンテトラn−ブトキシド17.0g(0.05mol)にN−メチル−2−ピロリドンを83g加え撹拌したが、分離し、均一な液とならなかった。この液に水を0.72g加え、撹拌したが白色の沈殿が生じて、透明な液が得られなかった。
【0135】
(比較例3)
チタンテトラn−ブトキシド17.0g(0.05mol)にn−ブタノールを加えて100gとし、撹拌したところ、透明で均一な溶液となった。この溶液をシリコン基板上にスピンコートし乾燥したところ、白濁し、透明な塗膜が得られなかった。
【0136】
(比較例4)
チタンテトラn−ブトキシドテトラマー9.7g(0.01mol)にn−ブタノールを加えて100gとし、撹拌したところ、透明で均一な溶液となった。この溶液をシリコン基板上にスピンコートし乾燥した後、150℃で120分加熱したところ白濁し、透明な塗膜が得られなかった。
【0137】
以上のように、比較例2〜4のチタン化合物は、一般式(1)及び(2)で表される各構成単位を有していないため、透明な塗膜は得られなかった。比較例3のようにアセチル基等の置換基を有していないことで、空気中の水分で加水分解と重合が起こりやすく、粒子化してしまうことが白濁する原因である。
図1
図2