【文献】
MUANGBAN Jenjira et al.,Effects of precursor concentration on crystalline morphologies and particle sizes of electrospun WO3 nanofibers,Ceramics International,2014年 6月,Vol.40, No.5,6759-6764
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法のフローチャートである。
【
図2】実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法のフローチャートである。
【
図3】実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法のフローチャートである。
【
図4】実験例1における比較用ナノ繊維及び複合ナノ繊維のSEM画像である。
【
図5】実験例1における複合ナノ繊維のTG/DTA分析結果を示すグラフである。
【
図6】実験例1における複合ナノ繊維、200℃で熱処理した複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維のFE−SEM画像である。
【
図7】実験例1における比較用ナノ繊維、複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維のTEM画像である。
【
図8】実験例1における比較用ナノ繊維、複合ナノ繊維、200℃で熱処理した複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維の平均繊維径を示すグラフである。
【
図9】実験例1における比較用ナノ繊維、複合ナノ繊維、200℃で熱処理した複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維のXRDによる分析結果を示すグラフである。
【
図10】実験例1における試料1に係るナノ繊維のXPSによる分析結果を示すグラフである。
【
図11】実験例1における試料1に係るナノ繊維のXPSによる分析結果を示すグラフである。
【
図12】実験例2における複合ナノ繊維及び試料2に係るナノ繊維のSEM画像である。
【
図13】実験例2における複合ナノ繊維及び試料2に係るナノ繊維のTEM画像である。
【
図14】実験例1における複合ナノ繊維、実験例2における複合ナノ繊維、実験例1における試料1に係るナノ繊維及び実験例2における試料2に係るナノ繊維の平均繊維径を示すグラフである。
【
図15】実験例1における試料1に係るナノ繊維及び実験例2における試料2に係るナノ繊維のXRDによる分析結果を示すグラフである。
【
図16】実験例2における試料2に係るナノ繊維のXPSによる分析結果を示すグラフである。
【
図17】実験例2における試料2に係るナノ繊維のXPSによる分析結果を示すグラフである。
【
図18】実験例3における助触媒担持複合ナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維のSEM画像である。
【
図19】実験例3における助触媒担持複合ナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維のTEM画像である。
【
図20】実験例3における複合ナノ繊維、助触媒担持複合ナノ繊維、及び試料3に係るナノ繊維の平均繊維径を示すグラフである。
【
図21】実験例1における試料1に係るナノ繊維及び実験例3における試料3に係るナノ繊維のXRDによる分析結果を示すグラフである。
【
図22】実験例3における試料3に係るナノ繊維のXPSによる分析結果を示すグラフである。
【
図23】実験例3における試料3に係るナノ繊維のXPSによる分析結果を示すグラフである。
【
図24】メチレンブルー溶液の吸光度及び検量線を示すグラフである。
【
図25】実験例4における紫外線応答性に関する実験を行った後のメチレンブルーの吸光度を示すグラフである。
【
図26】実験例4における紫外線応答性に関する実験の結果を示す棒グラフである。
【
図27】実験例4における可視光応答性に関する実験を行った後のメチレンブルー溶液の吸光度を示すグラフである。
【
図28】実験例4における可視光応答性に関する実験の結果を示す棒グラフである。
【0021】
以下、本発明に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法について説明する。
【0022】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法のフローチャートである。
実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、
図1に示すように、紡糸溶液作製工程S10と、電界紡糸工程S12と、三酸化タングステンナノ繊維作製工程S14とをこの順序で含む。以下、各工程について説明する。
【0023】
1.紡糸溶液作製工程S10
紡糸溶液作製工程S10は、三酸化タングステン前駆体、紡糸用ポリマー及び紡糸用溶媒を含有する紡糸溶液を作製する工程である。
「三酸化タングステン前駆体」とは、それそのものは三酸化タングステンではないが、三酸化タングステンの原料となる物質のことをいう。このため、三酸化タングステン前駆体は、最低限タングステンを含有する物質である。三酸化タングステン前駆体は、後の工程での処理(特に焼成。後述。)により三酸化タングステンとなる。三酸化タングステン前駆体は、紡糸用ポリマーに溶解するもの、又は、紡糸用ポリマーに対して分散性がよいものを好適に用いることができる。
【0024】
三酸化タングステン前駆体の具体例としては、メタタングステン酸アンモニウム(AMT)、ヘキサカルボニルタングステン(C
6O
6W)、塩化タングステン(WCl
6、WCl
4等)、オキシテトラクロロタングステン(WOCl
4)、及び、上記した物質の水和物を挙げることができる。
三酸化タングステン前駆体の量は、あくまで一例であるが、ポリビニルアルコールの10wt%水溶液10mLに対しては、0.1〜0.5mmolの間で使用可能である。
【0025】
紡糸用ポリマーとは、三酸化タングステン前駆体とともに後述する複合ナノ繊維を形成するためのポリマーである。
紡糸用ポリマーとしては、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、タンパク質繊維(シルク、コラーゲン等)、キトサン、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PB)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)等、種々のものを用いることができるが、除去しやすいもの(例えば、高温により熱分解するもの。)であることが好ましい。
【0026】
紡糸用溶媒としては、少なくとも紡糸用ポリマーを溶解することが可能なものである必要がある。当該条件を満たす限りどのような溶媒を用いてよく、複数の溶媒を混合した混合溶媒を用いてもよい。
【0027】
実施形態1においては、三酸化タングステン前駆体は水溶性のものであり、紡糸用ポリマーはポリビニルアルコールであり、紡糸用溶媒は水であることが好ましい。また、上記の場合には、三酸化タングステン前駆体はメタタングステン酸アンモニウムであることが好ましい。
【0028】
2.電界紡糸工程S12
電界紡糸工程S12は、紡糸溶液を用いて電界紡糸を行い、三酸化タングステン前駆体及び紡糸用ポリマーを有する複合ナノ繊維を得る工程である。
電界紡糸は、広く知られている汎用の電界紡糸装置(例えば、それぞれ汎用のノズル、コレクター、電源装置を有するもの)により行うことができる。
なお、電界紡糸法により得られるナノ繊維は、一般的には、不織布状の形態を有するようになる。複合ナノ繊維を不織布状としたまま次の工程に進んでもよいが、例えば、糸状に撚ってもよいし、任意の形状に成形してもよい。
【0029】
3.三酸化タングステンナノ繊維作製工程S14
三酸化タングステンナノ繊維作製工程S14は、複合ナノ繊維から紡糸用ポリマーを除去して三酸化タングステン成分を有する三酸化タングステンナノ繊維を作製する工程である。
三酸化タングステンナノ繊維作製工程S14においては、焼成(熱分解)により紡糸用ポリマーを除去することが好ましい。
焼成は、複合ナノ繊維を構成する物質にもよるが、例えば、450℃以上、600℃以下の温度で行うことができる。450℃以上で焼成することにより、紡糸用ポリマーを熱分解して除去することが可能となり、かつ、三酸化タングステン前駆体を三酸化タングステンとすることが可能となる(後述する実験例1も参照。)。また、600℃以下で焼成することにより、過剰な加熱による繊維構造の崩壊を抑制することが可能となる。
また、三酸化タングステン前駆体を酸化等により三酸化タングステンとする関係上、空気存在下で焼成を行うことが好ましい。
なお、紡糸用ポリマーを除去する方法としては、焼成以外にガンマ線等の電磁波の照射や溶媒による溶出を用いることもできる。
【0030】
「紡糸用ポリマーを除去する」とは、紡糸用ポリマーの大半(例えば、80%以上)を分解や溶出等により取り除くことをいう。三酸化タングステンナノ繊維には除去しきれなかった紡糸用ポリマー成分や紡糸用ポリマー由来の物質(例えば、炭素)が残存していてもよい。
このため、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維は、三酸化タングステン成分の他に炭素成分を有していてもよい。
「三酸化タングステン成分を有する三酸化タングステンナノ繊維」とは、三酸化タングステン成分のみからなるナノ繊維であってもよいし、三酸化タングステン成分以外の成分も有するナノ繊維であってもよいが、ナノ繊維を構成する主成分(例えば、全重量の50%以上)が三酸化タングステン成分であることが好ましい。また、「三酸化タングステン成分を有する三酸化タングステンナノ繊維」は三酸化タングステンナノ繊維以外の成分(例えば、三酸化タングステンナノ繊維上に担持された粒子状物質や他のナノ繊維)をさらに有していてもよい。
本明細書において「ナノ繊維」とは、繊維径がおおよそ3000nm以下である、ナノスケールの繊維のことをいう。ナノ繊維は、平均繊維径が1000nm以下であることが好ましい。
【0031】
以上の工程により、三酸化タングステンナノ繊維を製造することができる。なお、上記以外の工程(例えば、三酸化タングステンナノ繊維の形状を整える工程や三酸化タングステンナノ繊維を後加工する工程)を含んでいてもよい。
【0032】
以下、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法の効果を記載する。
【0033】
実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法においては、紡糸用ポリマーとともに三酸化タングステンを電界紡糸して複合ナノ繊維化し、その後紡糸用ポリマーを除去して三酸化タングステン成分を有する三酸化タングステンナノ繊維を得るため、三酸化タングステン成分をナノスケールで形成することより比表面積を高くすることが可能であり、かつ、三酸化タングステン成分を高密度で集積することが可能である。その結果、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、十分な触媒活性を発揮することが可能な三酸化タングステンナノ繊維を製造することが可能となる。
【0034】
また、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、三酸化タングステン前駆体は水溶性のものであり、紡糸用ポリマーはポリビニルアルコールであり、紡糸用溶媒は水である場合には、三酸化タングステン前駆体及び紡糸用ポリマーの両方を紡糸用溶媒によく溶解することが可能であるため、均一性の高い三酸化タングステンナノ繊維を製造することが可能となる。
【0035】
また、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、三酸化タングステン前駆体はメタタングステン酸アンモニウムである場合には、水に対する溶解性が高い三酸化タングステン前駆体を用いることで、一層均一性の高い三酸化タングステンナノ繊維を製造することが可能となる。
【0036】
また、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、三酸化タングステンナノ繊維作製工程においては、焼成により紡糸用ポリマーを除去するため、ナノ繊維の形状を保ったまま紡糸用ポリマーを除去することが可能となり、かつ、三酸化タングステン前駆体を析出・酸化して三酸化タングステンとすることが可能となる。
【0037】
また、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、三酸化タングステンナノ繊維が三酸化タングステン成分の他に炭素成分を有する場合であっても、触媒活性を発揮することが可能となる。
【0038】
[実施形態2]
図2は、実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法のフローチャートである。
実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、基本的には実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法と同様の方法であるが、電界紡糸工程が助触媒ナノ繊維紡糸工程を含む点が異なる。
実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、
図2に示すように、紡糸溶液作製工程S20と、電界紡糸工程S22と、三酸化タングステンナノ繊維作製工程S26とをこの順序で含む。以下、各工程について説明する。
【0039】
1.紡糸溶液作製工程S20
当該工程は実施形態1における紡糸溶液作製工程S10と同様の工程であるため、説明を省略する。
【0040】
2.電界紡糸工程S22
当該工程は、基本的には実施形態1における電界紡糸工程S12と同様であるが、複合ナノ繊維紡糸工程S23と、助触媒ナノ繊維紡糸工程S24とを含む。
複合ナノ繊維紡糸工程S23は、紡糸溶液を用いて複合ナノ繊維を紡糸する工程であり、実質的に実施形態1における電界紡糸工程S12と同様の工程である。
助触媒ナノ繊維紡糸工程S24は、助触媒又は助触媒前駆体、助触媒用ポリマー及び助触媒用溶媒を含有する助触媒紡糸溶液を用いて助触媒又は助触媒前駆体及び助触媒用ポリマーを有する助触媒ナノ繊維を紡糸する工程である。助触媒ナノ繊維紡糸工程S24は、複合ナノ繊維紡糸工程S23の前に実施してもよいし、後に実施してもよいし、同時に実施してもよいが、複合ナノ繊維と助触媒ナノ繊維とが接触した状態となるように電界紡糸工程S22を実施する。
【0041】
「助触媒又は助触媒前駆体及び助触媒用ポリマーを有する」とは、助触媒又は助触媒前駆体の少なくとも一方と、助触媒用ポリマーとを有する、ということである。
助触媒又は助触媒前駆体としては、三酸化タングステンナノ繊維に担持したときに助触媒としての役割を果たすもの(例えば、銅や白金族の単体や酸化物)を用いることができる。例えば、助触媒前駆体は、酢酸銅(II)(Cu(OAc)
2。以下、単に酢酸銅という。)を好適に用いることができる。なお、助触媒前駆体が酢酸銅である場合には、助触媒は最終的に酸化銅(II)(CuO。以下、単に酸化銅という。)となる。
助触媒用ポリマー及び助触媒用溶媒の選択基準については、実施形態1の紡糸溶液作製工程S10で記載したものと同様である。助触媒ナノ繊維紡糸工程S24を複合ナノ繊維紡糸工程S23と同時に実施する場合には、紡糸条件を揃えるため、助触媒用ポリマー及び助触媒用溶媒としてそれぞれ紡糸用ポリマー及び紡糸用溶媒と同じものを用いることが好ましい。
助触媒前駆体として酢酸銅を用いる場合には、助触媒用ポリマーはポリビニルアルコールであり、助触媒用溶媒は水であることが好ましい。
【0042】
複合ナノ繊維紡糸工程S23と助触媒ナノ繊維紡糸工程S24とを同時に実施する場合には、紡糸溶液を吐出するノズル及び助触媒紡糸溶液を吐出するノズルとしてそれぞれ別のノズルを用い、同一のコレクターに向かって電界紡糸することで実施することができる。
また、複合ナノ繊維紡糸工程S23と助触媒ナノ繊維紡糸工程S24とを別々に実施する場合には、同一のノズルを用いて、溶液を入れ替えて電界紡糸することで実施することができる。
【0043】
3.三酸化タングステンナノ繊維作製工程S26
三酸化タングステンナノ繊維作製工程S26は、基本的には実施形態1における三酸化タングステンナノ繊維作製工程S14と同様であるが、助触媒ナノ繊維の助触媒用ポリマーについても除去する。このようにすることで、助触媒成分が担持された三酸化タングステンナノ繊維を作製する。
助触媒成分は、助触媒又は助触媒前駆体から得られるものである。助触媒前駆体を用いた場合には、例えば、焼成の際の熱により助触媒前駆体を酸化させて助触媒成分とすることができる。
【0044】
以上の工程により、助触媒成分が担持された三酸化タングステンナノ繊維を製造することができる。なお、上記以外の工程(例えば、三酸化タングステンナノ繊維の形状を整える工程や三酸化タングステンナノ繊維を後加工する工程)を含んでいてもよいのは、実施形態1と同様である。
【0045】
以下、実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法の効果を記載する。
【0046】
実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、電界紡糸工程が助触媒ナノ繊維紡糸工程を含む点で実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法とは異なるが、紡糸用ポリマーとともに三酸化タングステンを電界紡糸して複合ナノ繊維化し、その後紡糸用ポリマーを除去して三酸化タングステン成分を有する三酸化タングステンナノ繊維を得るため、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維と同様に、三酸化タングステン成分をナノスケールで形成することより比表面積を高くすることが可能であり、かつ、三酸化タングステン成分を高密度で集積することが可能である。その結果、実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によっても、十分な触媒活性を発揮することが可能な三酸化タングステンナノ繊維を製造することが可能となる。
【0047】
また、実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、電界紡糸工程S22は、複合ナノ繊維紡糸工程S23と助触媒ナノ繊維紡糸工程S24とを含み、複合ナノ繊維と助触媒ナノ繊維とが接触した状態となるように電界紡糸工程S22を実施するため、助触媒又は助触媒前駆体を含有する助触媒ナノ繊維を三酸化タングステンナノ繊維上に担持することが可能となる。
【0048】
また、実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、三酸化タングステンナノ繊維作製工程S26では、助触媒用ポリマーについても除去することで、助触媒又は助触媒前駆体から得られる助触媒からなる助触媒成分が担持された三酸化タングステンナノ繊維を作製するため、ナノ繊維状の助触媒を三酸化タングステンナノ繊維上に担持することが可能となる。
【0049】
また、実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、助触媒前駆体は酢酸銅であり、助触媒用ポリマーはポリビニルアルコールであり、助触媒用溶媒は水である場合には、後述する実験例4に示すように、可視光応答性に優れる三酸化タングステンナノ繊維を製造することが可能となる。
【0050】
なお、実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、基本的には実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法と同様の方法であるため、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0051】
[実施形態3]
図3は、実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法のフローチャートである。
実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、基本的には実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法と同様の方法であるが、助触媒担持工程を含む点が異なる。
実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、
図3に示すように、紡糸溶液作製工程S30と、電界紡糸工程S32と、助触媒担持工程S34と、三酸化タングステンナノ繊維作製工程S36とをこの順序で含む。以下、各工程について説明する。
【0052】
1.紡糸溶液作製工程S30
2.電界紡糸工程S32
上記の工程については、それぞれ実施形態1における同名の工程と同様の工程であるため、説明を省略する。
【0053】
3.助触媒担持工程S34
助触媒担持工程S34は、電界紡糸工程S32の後かつ三酸化タングステンナノ繊維作製工程S36の前に実施する工程である。助触媒担持工程S34は、複合ナノ繊維を助触媒又は助触媒前駆体及び助触媒担持用溶媒を含有する助触媒担持用溶液に浸漬し、助触媒担持用溶液から助触媒又は助触媒前駆体を複合ナノ繊維上に担持させる工程である。
【0054】
助触媒又は助触媒前駆体としては、三酸化タングステンナノ繊維に担持したときに助触媒としての役割を果たすものを用いることができる。例えば、助触媒前駆体は、塩化パラジウム(II)(PdCl
2。以下、単に塩化パラジウムという。)を好適に用いることができる。なお、助触媒前駆体が塩化パラジウムである場合には、助触媒は最終的に酸化パラジウム(II)(PdO。以下、単に酸化パラジウムという。)となる。
【0055】
助触媒担持用溶媒は、助触媒又は助触媒前駆体を溶解可能なもの、又は、分散可能なものを用いることができる。助触媒担持工程S34においては、助触媒担持用溶媒として助触媒前駆体を溶解可能なものを用い、複合ナノ繊維上に助触媒又は助触媒前駆体を析出させることにより担持することが好ましい。助触媒前駆体が塩化パラジウムである場合には、助触媒担持用溶媒として水及びエタノールに水酸化ナトリウムを加えたものを好適に用いることができる。
【0056】
なお、複合ナノ繊維における紡糸用ポリマーが助触媒担持用溶液に溶解する場合には、複合ナノ繊維に不溶化処理(例えば、熱処理や化学処理)を行ってから助触媒担持用溶液に浸漬することが好ましい。
【0057】
4.三酸化タングステンナノ繊維作製工程S36
三酸化タングステンナノ繊維作製工程S36は、実施形態1における三酸化タングステンナノ繊維作製工程S14と同様の工程であるため、説明を省略する。
なお、助触媒前駆体を用いた場合には、例えば、三酸化タングステンナノ繊維作製工程S36における焼成の際の熱により助触媒前駆体を酸化させて助触媒成分とすることができる。
【0058】
以上の工程により、助触媒成分が担持された三酸化タングステンナノ繊維を製造することができる。なお、上記以外の工程(例えば、三酸化タングステンナノ繊維の形状を整える工程や三酸化タングステンナノ繊維を後加工する工程)を含んでいてもよいのは、実施形態1と同様である。
【0059】
以下、実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法の効果を記載する。
【0060】
実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、助触媒担持工程を含む点で実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法とは異なるが、紡糸用ポリマーとともに三酸化タングステンを電界紡糸して複合ナノ繊維化し、その後紡糸用ポリマーを除去して三酸化タングステン成分を有する三酸化タングステンナノ繊維を得るため、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維と同様に、三酸化タングステン成分をナノスケールで形成することより比表面積を高くすることが可能であり、かつ、三酸化タングステン成分を高密度で集積することが可能である。その結果、実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によっても、十分な触媒活性を発揮することが可能な三酸化タングステンナノ繊維を製造することが可能となる。
【0061】
また、実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、電界紡糸工程S32の後かつ三酸化タングステンナノ繊維作製工程S36の前に、助触媒担持工程S34をさらに含むため、助触媒又は助触媒前駆体を三酸化タングステンナノ繊維上に担持することが可能となる。
【0062】
また、実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法によれば、助触媒前駆体は塩化パラジウムであるため、後述する実験例4に示すように、紫外線応答性及び可視光応答性に優れる三酸化タングステンナノ繊維を製造することが可能となる。
【0063】
なお、実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、基本的には実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法と同様の方法であるため、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0064】
[実験例]
後述する実験例1〜4においては、本発明に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法に沿って三酸化タングステンナノ繊維を実際に製造し、観察、分析及び実験を行った。ここでは、後述する実験例1〜4で用いた原料、試薬、装置、測定方法について説明する。
【0065】
まず、実験例1〜4で用いた原料及び試薬について説明する。
原料及び試薬については、精製を行わず、購入したものをそのまま用いた。
メタタングステン酸アンモニウム及びポリビニルアルコール(Mw:85,000〜124,000)は、米国のシグマアルドリッチ社を通じて購入したものを用いた。
酢酸銅、塩化パラジウム、無水エタノール(純度99.5%。以下、単にエタノールという。)、水酸化ナトリウム、塩酸及びメチレンブルーは、日本の和光純薬工業株式会社を通じて購入したものを用いた。
【0066】
次に、各実験例で用いた装置及び測定方法について説明する。
電界紡糸に用いる高電圧供給装置としては、松定プレシジョン株式会社のHar−100*12(最高出力100kV)を用いた。
電界紡糸に用いるコレクターとしては、接地した回転型ドラムコレクターを用いた。
電界紡糸工程(後述)は、キャピラリーチップ(内径0.6mm)を取り付けた5mLプラスチックシリンジに紡糸溶液を注入し、高電圧供給装置のアノードと接続した銅線を紡糸溶液内に差し込んで行った。この際、回転型ドラムコレクタは、キッチンペーパーおよびアルミ箔で覆い、その上から電界紡糸を行った。
【0067】
小型炉底昇降式電気炉としては、株式会社モトヤマのNHV−1515Dを用いた。
セラミック電気管状炉としては、株式会社アサヒ理化製作所のARF3−500−40KGを、同じく株式会社アサヒ理化製作所の温度コントローラーAMF−9P−iii THVとともに用いた。
【0068】
走査型電子顕微鏡(SEM)としては、日本電子株式会社(JEOL)のJSM−6010LAを用いた。
電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)としては、株式会社日立製作所のS−5000を用いた。
SEMによる観察の際には、試料に導電性を持たせるため、スパッタ装置(日本電子株式会社のJFC−1600)を用い、白金をコーティングした。コーティングの厚さは15nmとした。
【0069】
透過型電子顕微鏡(TEM)としては、日本電子株式会社の2010 FasTEMを用いた。TEMによる観察は、複合ナノ繊維の場合にはTEM用メッシュグリッドに直接電界紡糸することで行い、熱処理を行った複合ナノ繊維や三酸化タングステンナノ繊維の場合にはエタノールに分散させて分散液とした後、TEM用メッシュグリッドに当該分散液を滴下し乾燥させることで行った。
SEM、FE−SEM及びTEMで得られた画像からの平均繊維径の算出には、画像処理ソフト(Image J)を用いた。
【0070】
示差熱・熱重量同時分析(TG/DTA分析)は、株式会社リガクのThermo plus EVO2 TG8121を用いた。
【0071】
X線光電子分光による分析(XPS分析)のためのX線光電子分光装置としては、クラトス・アナリティカルリミテッド(販売は株式会社島津製作所)のKratos Axis−Ultra DLDを用いた。単色X線光源として、AnodeHT 15kV、Emission 10mAに設定したMgKα線を用いた。
【0072】
X線回析による分析(XRD分析)のためのX線回折装置としては、株式会社リガクのMiniFlex300を用いた。
実験例1〜3においては、2θ−θ法で測定を行った。X線としては、出力40kV、150mAのCuKα線を用いた。結晶の同定は、得られたピークを国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data、ICDD。)の資料と比較することにより行った。
紫外可視分光光度計としては、株式会社島津製作所のUV−2700を用いた。
【0073】
[実験例1]
(A)製造方法
実験例1では、主に三酸化タングステンからなる三酸化タングステンナノ繊維(以下、試料1に係るナノ繊維という。)を製造した。
実験例1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、実施形態1に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法と基本的に同様である。
【0074】
1.紡糸溶液作製工程
まず、蒸留水にポリビニルアルコール(以下、PVAという。)のペレットを混合した。蒸留水に対するPVAの溶解性を高めるため、60℃で6時間以上攪拌し、その後、室温まで自然冷却した。PVAの濃度は、10wt%とした。次に、得られたPVA溶液10mLにタングステン酸アンモニウムを1g添加し、さらに6時間攪拌することで、紡糸溶液を作製した。
なお、比較を行うために、タングステン酸アンモニウムを添加していないこと以外は上記紡糸溶液と同様の溶液(以下、比較用溶液という。)も作製した。
【0075】
2.電界紡糸工程
電界紡糸法により、紡糸溶液から複合ナノ繊維を作製した。当該工程は、温度:20〜30℃、湿度:30〜45%の環境で実施した。印加電圧及びTCD(チップ−コレクタ間距離)は、それぞれ10kV及び10cmとした。
なお、比較を行うために、比較用溶液からもナノ繊維(以下、比較用ナノ繊維という。)を作製した。比較用ナノ繊維は、比較用溶液を用いること以外は上記と同様の方法で、作製した。
【0076】
3.三酸化タングステンナノ繊維作製工程
小型炉底昇降式電気炉を用いて、複合ナノ繊維の焼成を行った。まず、室温の状態から3℃/minの割合で昇温し、500℃で昇温を止めた。500℃のまま2時間保った後、今度は3℃/minの割合で降温し、室温に戻した。焼成は、空気雰囲気で行った。
なお、電界紡糸工程で得られた複合ナノ繊維は不織布状の形態をとっていたため、アルミナフレームで不織布状の試料の端を固定して焼成を行った。
三酸化タングステンナノ繊維作製工程においては、焼成前は白色であった複合ナノ繊維が、焼成後は黄色となった。また、焼成後は繊維構造が収縮し、脆く崩れやすくなった。
【0077】
以上の工程により、試料1に係るナノ繊維を製造した。
なお、比較を行うために、200℃で昇温を止めたもの(以下、200℃で熱処理した複合ナノ繊維という。)も作製した。
【0078】
(B)観察及び分析
まず、比較用ナノ繊維及び複合ナノ繊維について、SEMによる観察を行った。
図4は、実験例1における比較用ナノ繊維及び複合ナノ繊維のSEM画像である。
図4(a)は比較用ナノ繊維のSEM画像であり、
図4(b)は複合ナノ繊維のSEM画像である。
比較用ナノ繊維の平均繊維径は、338nmであった。一方、同じ条件で電界紡糸を行ったにも関わらず、複合ナノ繊維の平均繊維径は、264nmへと減少した(
図4参照。)。これは、タングステン酸アンモニウムの添加により、紡糸溶液の導電性が増加したことに起因すると考えられる。
【0079】
次に、複合ナノ繊維について、TG/DTA分析を行った。
図5は、実験例1における複合ナノ繊維のTG/DTA分析結果を示すグラフである。
図5に示すグラフの左側の縦軸はTGのグラフについての重量(単位:%)を表し、右側の縦軸はDTAのグラフについての熱流(単位:μV)を表し、横軸は温度(単位:℃)を表す。
図5に示すように、0〜100℃でわずかな質量減少(5%)が見られた(
図5のTGのグラフを参照。)。これは、複合ナノ繊維に吸着した水分が離脱することに起因するものであると考えられる。次に、200℃付近でみられる大きな質量減少(20%)は、質量減少とともにDTAのグラフにピークが見られることから、PVAの分解に起因するものであると考えられる。350〜550℃でみられる質量減少は、タングステン酸アンモニウムの分解に起因するものであると考えられる。このため、実験例1における複合ナノ繊維は、おおよそ450℃以上で焼成することにより酸化分解されるものと考えられる。
【0080】
次に、比較用ナノ繊維、複合ナノ繊維、200℃で熱処理した複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維について、FE−SEM及びTEMによる観察を行った。
図6は、実験例1における複合ナノ繊維、200℃で熱処理した複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維のFE−SEM画像である。
図6(a),(b)は複合ナノ繊維のFE−SEM画像であり、
図6(c),(d)は200℃で熱処理した複合ナノ繊維のFE−SEM画像であり、
図6(e),(f)は試料1に係るナノ繊維のFE−SEM画像である。
図6(a),(b)、
図6(c),(d)、
図6(e),(f)は、それぞれ拡大倍率が異なる画像であり、
図6(a),(c),(e)よりも
図6(b),(d),(f)の方が倍率が高い。
図7は、実験例1における比較用ナノ繊維、複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維のTEM画像である。
図7(a)は比較用ナノ繊維のTEM画像であり、
図7(b)は複合ナノ繊維のTEM画像であり、
図7(c)は試料1に係るナノ繊維のTEM画像である。
図8は、実験例1における比較用ナノ繊維、複合ナノ繊維、200℃で熱処理した複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維の平均繊維径を示すグラフである。
図8に示すグラフの縦軸は平均繊維径(単位:nm)を表す。
図8においては、Aで示すのは比較用ナノ繊維の平均繊維径であり、Bで示すのは複合ナノ繊維の平均繊維径であり、Cで示すのは200℃で熱処理した複合ナノ繊維の平均繊維径であり、Dで示すのは試料1に係るナノ繊維の平均繊維径である。
【0081】
まず、
図6に示すように、熱処理や焼成を行うことにより、もともと滑らかであったナノ繊維の表面に粒状の構造が発生することが確認できた。また、
図7に示すように、比較用ナノ繊維の繊維内部には特筆すべき構造が確認できないこと、タングステン酸アンモニウムの添加により複合ナノ繊維内部に粒状の構造が発生すること、及び、焼成によりナノ繊維の内部にも多量の粒状の構造が発生し、内部形態にも大きな違いが生じたことが確認できた。当該粒状の構造の平均直径は、20〜50nm程度であった。
さらに、
図8に示すように、熱処理や焼成により平均繊維径が減少することが確認できた。
【0082】
次に、比較用ナノ繊維、複合ナノ繊維、200℃で熱処理した複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維について、XRDによる分析を行った。
図9は、実験例1における比較用ナノ繊維、複合ナノ繊維、200℃で熱処理した複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維のXRDによる分析結果を示すグラフである。
図9に示すグラフの縦軸は強度(単位:任意単位)を示し、横軸は2θ(単位:°)を示す。また、
図9においては、Aで示すのは比較用ナノ繊維のグラフであり、Bで示すのは複合ナノ繊維のグラフであり、Cで示すのは200℃で熱処理した複合ナノ繊維のグラフであり、Dで示すのは試料1に係るナノ繊維のグラフである。さらに。
図9における下向き三角印は、タングステンに特有のピークを示す。
【0083】
まず、
図9に示すように、比較用ナノ繊維(Aのグラフ)では、際立ったピークが見られなかった。また、複合ナノ繊維(Bのグラフ)及び200℃で熱処理した複合ナノ繊維(Cのグラフ)では、2θ=31°付近に非晶質特有の緩やかなピークが見られた。また、試料1に係るナノ繊維(Dのグラフ)では顕著にピークが表れ、結晶性が発生したことがわかる。特に、2θ=23.1°,23.6°,24.4°,34.2°に強度の高いピークがあり、その他にも多くの回折ピークが見られた。これらのピーク位置は、a=7.300Å、b=7.538Å、β=90.892°の面を有する三酸化タングステンの三斜晶系に索引付けできる(JCPDS Card No.32−1395)。結晶子の平均サイズは、D=Kλ/Bcosθ(KをSherrer定数、λをX線の波長、Bをピークの半値全幅とする。)という式で算出できる。その結果、最も強い(200)のピークからは、結晶子のサイズを32nmと算出できた。また、他のピークから算出した結晶子のサイズは20〜30nm程であった。この結果は、TEMによる観察結果と一致する。
このため、試料1に係るナノ繊維として、多結晶質の三酸化タングステンを主成分とする三酸化タングステンナノ繊維を製造できたと考えられる。
【0084】
次に、試料1に係るナノ繊維についてXPSによる分析を行った。
図10及び
図11は、実験例1における試料1に係るナノ繊維のXPSによる分析結果を示すグラフである。
図11(a)はタングステンに関係する分析結果を示すグラフであり、
図11(b)は酸素に関係する分析結果を示すグラフである。
図10及び
図11に示すグラフの縦軸は強度(単位:任意単位)を表し、横軸は結合エネルギー(単位:eV)を表す。
まず、
図10に示すように、試料1に係るナノ繊維について、炭素、酸素、タングステンのピークが確認できた。このうち炭素は、正確には試料1に係るナノ繊維の含有成分ではない(大気等に存在する炭素が検出されたものである)可能性がある。これは、後述する試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維に関するXPS分析でも同様である。
また、
図11に示すように、タングステン及び酸素の化学状態を分析するため、各小域ピークを測定した。その結果、W 4f軌道における小域ピークについては、試料1に係るナノ繊維では36及び38eV付近にピークが生じ、これは三酸化タングステンのW 4f5/2及びW 4f7/2に相当する。このため、試料1に係るナノ繊維におけるタングステンの酸化状態が+6であることが確認できた。
【0085】
以上の観察及び分析により、試料1に係るナノ繊維の主成分が三酸化タングステンであることが確認できた。
【0086】
[実験例2]
(A)製造方法
実験例2では、酸化銅が担持された三酸化タングステンナノ繊維(以下、試料2に係るナノ繊維という。)を製造した。
実験例2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、実施形態2に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法と基本的に同様である。
【0087】
1.紡糸溶液作製工程
実験例1の場合と同様であるため、記載を省略する。
【0088】
2.電界紡糸工程
基本的には実験例1の場合と同様であるが、助触媒ナノ繊維紡糸工程を含む。助触媒ナノ繊維紡糸工程に用いる助触媒紡糸溶液は、10wt%のPVA溶液10mLに酢酸銅を0.4g添加して、室温下で6時間攪拌することで作製した。
実験例2においては、複合ナノ繊維紡糸工程と助触媒ナノ繊維紡糸工程とを同時に実施した。具体的には、紡糸溶液と助触媒紡糸溶液とをそれぞれ別のプラスチックシリンジに充填し、同一のコレクターに向かって吐出させ、同時に電界紡糸を行った(マルチノズルによるエレクトロスピニング)。この際、印加電圧及びTCDは、それぞれ12kV及び10cmとした。
【0089】
3.三酸化タングステンナノ繊維作製工程
実験例1の場合と同様であるため、記載を省略する。
【0090】
以上の工程により、試料2に係るナノ繊維を製造した。
【0091】
(B)観察及び分析
まず、実験例2における複合ナノ繊維及び試料2に係るナノ繊維について、SEM及びTEMによる観察を行った。
図12は、実験例2における複合ナノ繊維及び試料2に係るナノ繊維のSEM画像である。
図12(a)は複合ナノ繊維のSEM画像であり、
図12(b)は試料2に係るナノ繊維のSEM画像である。
図13は、実験例2における複合ナノ繊維及び試料2に係るナノ繊維のTEM画像である。
図13(a)は複合ナノ繊維のTEM画像であり、
図13(b)は試料2に係るナノ繊維のTEM画像である。
図14は、実験例1における複合ナノ繊維、実験例2における複合ナノ繊維、実験例1における試料1に係るナノ繊維及び実験例2における試料2に係るナノ繊維の平均繊維径を示すグラフである。
図14に示すグラフの縦軸は平均繊維径(単位:nm)を表す。
図14においては、Bで示すのは実験例1における複合ナノ繊維の平均繊維径であり、Eで示すのは実験例2における複合ナノ繊維の平均繊維径であり、Dで示すのは試料1に係るナノ繊維の平均繊維径であり、Fで示すのは試料2に係るナノ繊維の平均繊維径である。
【0092】
SEMによる観察から、
図12に示すように、助触媒ナノ繊維を複合したことにより、繊維径にばらつきが生じたことが確認できた。表面形態が異なる2種類の繊維がみられ、一方は比較的細く繊維径が均一な繊維であった。他方は、比較的太く繊維径が不均一な繊維であった。細く均一な繊維の形態は、実験例1における複合ナノ繊維の繊維の形態と類似しているため、複合ナノ繊維であると考えられる。このため、他方の繊維は助触媒ナノ繊維であると考えられる。
また、TEMによる観察により、
図13に示すように、焼成後においては、太く繊維径が不均一な繊維の中にも三酸化タングステンの粒子が存在することが確認できた。
複合ナノ繊維及び試料2に係るナノ繊維の平均繊維径は、
図14に示すように、それぞれ313及び187nmであった。また、実験例2における複合ナノ繊維及び試料2に係るナノ繊維は、助触媒ナノ繊維及び助触媒の影響により、実験例1における複合ナノ繊維及び試料1に係るナノ繊維と比較して、それぞれ平均繊維径が増加していることが確認できた。
【0093】
次に、試料2に係るナノ繊維について、XRDによる分析を行った。
図15は、実験例1における試料1に係るナノ繊維及び実験例2における試料2に係るナノ繊維のXRDによる分析結果を示すグラフである。
図15に示すグラフの縦軸は強度(単位:任意単位)を示し、横軸は2θ(単位:°)を示す。また、
図15においては、Dで示すのは試料1に係るナノ繊維のグラフであり、Fで示すのは試料2に係るナノ繊維のグラフである。さらに。
図15における下向き三角印はタングステンに特有のピークを示し、丸印は銅に特有のピークを示す。
【0094】
試料2に係るナノ繊維については、
図15に示すように、試料1に係るナノ繊維と同様三酸化タングステンに由来するピークが観察された。また、その他の主要なピークが2θ=32.5°,35.5°,38.5°に表れ、それぞれ(110),(11−1)−(002),(111)−(200)面に索引付けできる(JCPDS Card NO.05−661)。これは格子定数がa=4.84Å、b=3.47Å、c=5.33Åである酸化銅の単斜晶系の結晶相に帰属するものである。
【0095】
次に、試料2に係るナノ繊維についてXPSによる分析を行った。
図16及び
図17は、実験例2における試料2に係るナノ繊維のXPSによる分析結果を示すグラフである。
図17(a)はタングステンに関係する分析結果を示すグラフであり、
図17(b)は銅に関係する分析結果を示すグラフであり、
図17(b)は酸素に関係する分析結果を示すグラフである。
図16及び
図17に示すグラフの縦軸は強度(単位:任意単位)を表し、横軸は結合エネルギー(単位:eV)を表す。
【0096】
まず、
図16に示すように、試料2に係るナノ繊維について、銅、酸素、炭素及びタングステンのピークが確認できた。また、
図17(a)に示すように、34及び36eV付近にW 4f7/2及びW 4f5/2にあたる三酸化タングステンのピークがみられるため、タングステンの酸化に成功したことが確認できた。さらに、
図17(b)に示すように、Cu 2pピーク付近の銅のスペクトルより、933及び954eV付近に2価の酸化銅を表す特有のピークが現れ、941及び962eV付近に2価の銅特有のサテライトピークが現れた。このため、酸素の存在(
図17(c)参照。)とともに、銅が酸化しており、かつ、その酸化数が2であることが確認できた。
【0097】
以上の観察及び分析により、試料2に係るナノ繊維の主成分が三酸化タングステン及び酸化銅であることが確認できた。
また、実験例1の結果と併せて、試料2に係るナノ繊維は酸化銅が担持された三酸化タングステンナノ繊維であることが確認できた。
【0098】
[実験例3]
(A)製造方法
実験例3では、酸化パラジウムが担持された三酸化タングステンナノ繊維(以下、試料3に係るナノ繊維という。)を製造した。
実験例3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法は、実施形態3に係る三酸化タングステンナノ繊維の製造方法と基本的に同様である。
【0099】
1.紡糸溶液作製工程
実験例1の場合と同様であるため、記載を省略する。
【0100】
2.電界紡糸工程
実験例1の場合と同様であるため、記載を省略する。
【0101】
3.助触媒担持工程
まず、複合ナノ繊維を200℃で熱処理する。当該熱処理は、最高温度を除き、実験例1における焼成と同一の条件で行った。つまり、実験例1における「200℃で熱処理した複合ナノ繊維」と同様のものを作製した。
次に、脱イオン水60mL、エタノール30mL及び水酸化ナトリウム水溶液(0.1M)0.6mLを混合した溶液に、200℃で熱処理した複合ナノ繊維を分散させた。次に、当該溶液を加熱して90℃としてから塩化パラジウム水溶液(5mM)を10mL加えた。この際、助触媒担持用溶液は黄色となった。助触媒担持用溶液は、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHが3.8〜4.2となるように調整した。その後、温浴を用いて90℃で6時間保ち、複合ナノ繊維にパラジウムを担持させた。なお、6時間後の助触媒担持用溶液は、無色透明に変化した。
最後に、試料を取り出し、脱イオン水およびエタノールで洗浄後、60℃で乾燥させた。
なお、当該助触媒担持工程直後の複合ナノ繊維を、以後助触媒担持複合ナノ繊維と記載する。
【0102】
4.三酸化タングステンナノ繊維作製工程
実験例1の場合と基本的に同様であるが、電気炉として、セラミック電気管状炉を用いた。焼成の温度条件は、昇温条件及び降温条件を含めて実験例1の場合と同様である。
【0103】
以上の工程により、試料3に係るナノ繊維を製造した。
【0104】
(B)観察及び分析
まず、実験例3における助触媒担持複合ナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維について、SEM及びTEMによる観察を行った。
図18は、実験例3における助触媒担持複合ナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維のSEM画像である。
図18(a)は助触媒担持複合ナノ繊維のSEM画像であり、
図18(b)は試料3に係るナノ繊維のSEM画像である。
図19は、実験例3における助触媒担持複合ナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維のTEM画像である。
図19(a)は助触媒担持複合ナノ繊維のTEM画像であり、
図19(b)は試料3に係るナノ繊維のTEM画像である。
図20は、実験例3における複合ナノ繊維、助触媒担持複合ナノ繊維、及び試料3に係るナノ繊維の平均繊維径を示すグラフである。
図20に示すグラフの縦軸は平均繊維径(単位:nm)を表す。
図20においては、Cで示すのは200℃で熱処理した複合ナノ繊維の平均繊維径であり、Gで示すのは助触媒担持複合ナノ繊維の平均繊維径であり、Hで示すのは試料3に係るナノ繊維の平均繊維径である。
【0105】
SEMによる観察を行った結果、
図18に示すように、助触媒担持複合ナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維の繊維表面には、粒子状物質が分散した状態で存在することが確認できた。また、TEMによる内部形態観察を行った結果、
図19に示すように、助触媒担持複合ナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維において、直径7〜10nmの粒子状物質が存在していることが確認できた。
助触媒担持複合ナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維の平均繊維径は、
図20に示すように、それぞれ244及び233nmであった。
【0106】
次に、試料3に係るナノ繊維について、XRDによる分析を行った。
図21は、実験例1における試料1に係るナノ繊維及び実験例3における試料3に係るナノ繊維のXRDによる分析結果を示すグラフである。
図21に示すグラフの縦軸は強度(単位:任意単位)を示し、横軸は2θ(単位:°)を示す。また、
図21においては、Dで示すのは試料1に係るナノ繊維のグラフであり、Hで示すのは試料3に係るナノ繊維のグラフである。さらに。
図21における下向き三角印はタングステンに特有のピークを示し、丸印はパラジウムに特有のピークを示す。
【0107】
図21に示すように、試料3に係るナノ繊維にも試料1に係るナノ繊維と同様、三酸化タングステンに起因するピークが存在することが確認できた。その他の主要なピークとして、2θ=41°,47°,67°付近に新たなピークが現れた。これは、それぞれ(111),(200),(220)の結晶面に索引付けされる(JCPDS Card No.65−2867)。このため、三酸化タングステンナノ繊維上にパラジウムが存在することが確認できた。
【0108】
次に、試料3に係るナノ繊維についてXPSによる分析を行った。
図22及び
図23は、実験例3における試料3に係るナノ繊維のXPSによる分析結果を示すグラフである。
図23(a)はタングステンに関係する分析結果を示すグラフであり、
図23(b)はパラジウムに関係する分析結果を示すグラフであり、
図23(b)は酸素に関係する分析結果を示すグラフである。
図22及び
図23に示すグラフの縦軸は強度(単位:任意単位)を表し、横軸は結合エネルギー(単位:eV)を表す。
【0109】
まず、
図22に示すように、試料3に係るナノ繊維について、タングステン、炭素、パラジウム、及び酸素のピークが確認できた。
図23(a)に示すように、36及び38eV付近に三酸化タングステンのピークが存在することから、タングステンの酸化に成功したことが確認できた。また、
図23(b)に示すように、Pd 3d付近のピークを見てみると、337及び343eV付近にPd 3d5/2及びPd 3d3/2を表すピークが存在することが確認できた。これらのピークは単体のパラジウムのピークよりも高エネルギー側にシフトしている。このため、酸素の存在(
図23(c)参照。)とともに、パラジウムが酸化して酸化パラジウムとなり、酸化数は2であることが確認できた。
【0110】
以上の観察及び分析により、試料3に係るナノ繊維の主成分が三酸化タングステン及び酸化パラジウムであることが確認できた。
また、実験例1の結果と併せて、試料3に係るナノ繊維は酸化パラジウムが担持された三酸化タングステンナノ繊維であることが確認できた。
【0111】
[実験例4]
(A)実験方法
実験例4においては、上記実験例1〜3で製造した試料1に係るナノ繊維、試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維について、光触媒としての機能に関する実験を行った。
光触媒としての機能は、水に溶解させたメチレンブルーの分解により検証した。光触媒に、当該光触媒に対応する紫外線又は可視光を照射すると、価電子帯から伝導帯に電子が励起され、正孔(ホール)が生じる。当該正孔は強力な酸化力を有するため、溶媒の水分子を酸化して水酸ラジカルを生成する。当該水酸化ラジカルはメチレンブルーを分解し、分解されたメチレンブルーは特有の青色を示さなくなるため、有機青色染料であるメチレンブルーの吸光度を測定することで、各試料の光触媒活性を測定することが可能となる。
以上の原理により、試料1に係るナノ繊維、試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維について、光触媒活性に関する実験を行った。
【0112】
まず、濃度が既知であるメチレンブルー溶液を3種類作製し、紫外可視分光光度計を用いてそれぞれの溶液の吸光度を測定した。
図24は、メチレンブルー溶液の吸光度及び検量線を示すグラフである。
図24(a)はメチレンブルー溶液の吸光度を示すグラフであり、
図24(b)はメチレンブルー溶液の検量線を示すグラフである。
図24(a)に示すグラフの縦軸は吸光度を表し、横軸は波長(単位:nm)を表す。
図24(b)に示すグラフの縦軸は吸光度を表し、横軸は濃度(単位:10
−5mol/L)を表す。なお、
図24(a)の665nm付近に示す帯状の表示は、計算等に用いた波長をわかりやすくするための表示である。後述する
図25及び
図27における帯状の表示についても同様である。
【0113】
ここで、メチレンブルー溶液の濃度は3.74×10
−5、1.87×10
−5及び0.935×10
−5mol/Lとし、それぞれの溶液をMB1、MB2及びMB3とする。
450〜750nmの範囲の吸光度を測定したところ、
図24(a)に示すように、全ての溶液において665nm付近で最大のピーク値が観測できた。665nmでのMB1、MB2及びMB3の吸光度は、それぞれ2.593、1.275及び0.659であった。当該結果から、メチレンブルー溶液の検量線を作成した(
図24(b)参照。)。
【0114】
次に、試料1に係るナノ繊維、試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維について、光触媒としての機能を測定した。
まず、プラスチックシャーレに3.7478×10
−5mol/Lのメチレンブルー溶液を30mL入れたものを4つ準備し、そのうち3つにそれぞれ試料1に係るナノ繊維、試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維を10mgずつ浸漬した。
光触媒を活性化させるための光源としては、波長365nmの紫外線ランプ(紫外線応答性試験用)及び波長500〜700nmのランプ(可視光応答性試験用)を用いた。どちらの光源も、光軸が試料を入れたプラスチックシャーレに対して垂直になるようにして実験を行った。紫外線応答性試験は、紫外線ランプおよび試料を箱型の覆いで囲い、照射時間を24時間とし、暗室で行った。可視光応答性試験は、照射時間を12及び24時間とし、暗室で行った。
【0115】
ここで、光触媒活性評価のため、光分解効率(η、単位は%。)を、「η={(A
0−A
i)/A
0}×100」と定義する。ここでA
0及びA
iは、触媒反応前及び反応後のメチレンブルー溶液の吸光度である。ただし、実際には光熱による蒸発等によりメチレンブルー溶液の濃度が変化してしまうので、ブランクとして光触媒を浸漬していないメチレンブルー溶液を用意し、各試料を浸漬したメチレンブルー溶液と同様の条件で試験を行い、この場合のメチレンブルー溶液の吸光度をA
0とした。
なお、上記した検量線の作成、紫外線応答性試験及び可視光応答性試験では、計算等にそれぞれ異なる波長(検量線の作成では665nm、紫外線応答性試験では575nm、可視光応答性試験では12時間の場合には600nm、24時間の場合には575nm。)を用いている。これは、実験を行った結果、光熱による蒸発等によりメチレンブルー溶液の濃度が濃くなり、吸光度が測定上限を超えてしまう場合があったため、やむを得ず異なる波長を用いたものである。特にブランクのメチレンブルー溶液では、吸光度が測定上限を超えてしまう傾向が顕著であった(後述する
図25,27参照。)。
【0116】
(B)実験結果
(1)紫外線応答性
図25は、実験例4における紫外線応答性に関する実験を行った後のメチレンブルーの吸光度を示すグラフである。
図25に示すグラフの縦軸は吸光度を表し、横軸は波長(単位:nm)を表す。また、
図25においては、Dで示すのは試料1に係るナノ繊維のグラフであり、Fで示すのは試料2に係るナノ繊維のグラフであり、Hで示すのは試料3に係るナノ繊維のグラフであり、黒丸で示すのはブランクのグラフである。これは後述する
図27においても同様である。
図26は、実験例4における紫外線応答性に関する実験の結果を示す棒グラフである。
図26に示すグラフの縦軸は光分解効率(単位:%)を表す。
図26においては、Dで示すのは試料1に係るナノ繊維の光分解効率であり、Fで示すのは試料2に係るナノ繊維の光分解効率であり、Hで示すのは試料3に係るナノ繊維の光分解効率である。
紫外線照射後の575nmにおける吸光度は、
図25に示すように、ブランク、試料1に係るナノ繊維、試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維において、それぞれ3.963,1.489,3.004,1.283であった。
このため、試料1に係るナノ繊維、試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維の光分解効率は、
図26に示すように、62.4、24.2及び67.6%となる。
つまり、全ての試料においてUV光に対する触媒応答性があることが確認できた。また、酸化パラジウムの存在により,触媒活性が1.08倍に増加することが確認できた。なお、試料2に係るナノ繊維の光分解効率が低いのは、助触媒(酸化銅)のバンドギャップに起因すると考えられる。
【0117】
(2)可視光応答性
図27は、実験例4における可視光応答性に関する実験を行った後のメチレンブルー溶液の吸光度を示すグラフである。
図27(a)は可視光を12時間照射した後の吸光度を示すグラフであり、
図27(b)は可視光を24時間照射した後の吸光度を示すグラフである。
図28は、実験例4における可視光応答性に関する実験の結果を示す棒グラフである。
図28に示すグラフの縦軸は光分解効率(単位:%)を表す。
図28においては、Dで示すのは試料1に係るナノ繊維の光分解効率であり、Fで示すのは試料2に係るナノ繊維の光分解効率であり、Hで示すのは試料3に係るナノ繊維の光分解効率である。各試料に係るナノ繊維のグラフにおいて、左側に示すグラフは可視光を12時間照射した後の光分解効率を示し、右側に示すグラフは可視光を24時間照射した後の光分解効率を示す。
【0118】
可視光を12時間照射した後の600nmにおける吸光度は、
図27(a)に示すように、ブランク、試料1に係るナノ繊維、試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維において、それぞれ4.259,2.723,2.482,0.892であった。
なお、検量線を用いてブランクのメチレンブルー濃度を計算すると、7.12×10
−5mol/Lであった。濃度が増加した理由としては、気化や照射熱により水分が蒸発してしまったからであると考えられる。
【0119】
試料1に係るナノ繊維、試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維の光分解効率は、
図28に示すように、36.1、41.7及び79.1%となる。
つまり、全ての試料において可視光に対する触媒応答性があることが確認できた。また、酸化銅及び酸化パラジウムの存在により,触媒活性が1.16倍及び2.16倍と増加することが確認できた。
さらに、可視光の照射時間を24時間とすると、575nmにおける吸光度から算出した試料1に係るナノ繊維、試料2に係るナノ繊維及び試料3に係るナノ繊維の光分解効率は、47.5、53.4及び86.4%となった。
このため、時間経過とともに分解率が増加していることも確認できた。
【0120】
以上の実験例1〜4により、本発明の三酸化タングステンナノ繊維の製造方法により三酸化タングステンナノ繊維が製造できること、及び、製造した三酸化タングステンナノ繊維が光触媒活性を有することが確認できた。
【0121】
以上、本発明の三酸化タングステンナノ繊維の製造方法を上記の各実施形態及び各実験例に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0122】
(1)複合ナノ繊維に助触媒又は助触媒前駆体を担持するために、メタルイオンを蒸気化させ、複合ナノの表面に蒸着する工程を実施してもよい。