(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
注入工法では、施工するべき地盤中にボーリング孔を掘削し、薬液注入装置を挿入する。
図12で示す様に、薬液注入装置100は外管11と注入内管12を備えており、外管11には長手方向に所定間隔で複数の注入口11Aが形成されており、長手方向の個々の注入口形成位置には逆止弁の機能を有する弾性部材11Bが設けられている。
外管11は中空管状に構成されており、薬液供給口12A(吐出口)及びパッカー12Bを設けた薬液注入管12(パッカー付き内管)を外管11の中空空間に挿入している。
【0003】
図12の点線(仮想線)で示す様に、薬液注入に際しては、薬液を注入するべき領域に注入機構12Cを位置せしめ、外管11の注入口11Aに対応する位置にパッカー付き内管12(薬液注入管)の薬液供給口12Aを位置せしめ、パッカー12Bを膨張させる。パッカー12Bを膨張させることにより、薬液供給口12Aから外管11の中空部に供給される注入薬液は、薬液を注入するべき領域における外管11の注入口11Aのみから吐出する(矢印CP)。薬液を吐出(矢印CP)する際に、逆止弁の機能を有する弾性部材11B(スリーブ状の弾性部材)は実線で示す状態から点線で示す様に変形する。
薬液注入が完了したら、パッカー12Bを収縮してパッカー付き内管12を引き上げ(鉛直方向上方に移動して)、次の注入予定領域(薬液を注入するべき領域)に注入機構12Cを位置させる。そして次の注入予定領域において再びパッカー12Bを膨張させて、薬液注入を行う。この様にして、薬液を注入するべき領域において、順次、薬液を注入する。
【0004】
しかし、
図12で示す逆止弁の機能を有する弾性部材11B(スリーブ状の弾性部材)を逆流防止用の弁として使用しているため、当該弾性部材11Bの厚さ寸法(符号δ)の分だけ外管11よりも半径方向外方に突出することになる。
図12においては、弾性部材11Bの厚さ寸法を符号δで示している。
厚さ寸法δだけ逆止弁の機能を有する弾性部材11Bが外管11の半径方向外方に突出しているため、
図13で示す様に、ボーリング孔Hの内壁面に逆止弁の機能を有する弾性部材11Bの下端部11BEが干渉して、ボーリング孔H内に薬液注入装置100を挿入する際の抵抗となってしまう。特に、
図13で示す様に、薬液注入装置100の先端に掘削装置13を設け、ボーリング孔Hを削孔しつつ、薬液注入装置100を当該ボーリング孔H内に挿入させる場合には、ボーリング孔Hの内径は薬液注入装置100の外径と等しいので、逆止弁の機能を有する弾性部材11Bの下端部11BEがボーリング孔H内壁面に干渉することによる抵抗が大きくなってしまう。
図13において、符号12はパッカー付き内管(薬液注入管)を表す。
それに加えて、弾性部材11Bの下端部11BEがボーリング孔H内壁面に干渉することで、逆止弁の機能を有する弾性部材11Bが摩耗し或いは破損して、弁としての機能を発揮しなくなる恐れも存在する。
【0005】
その他の従来技術として、既存構造物直下の領域でも薬液注入を実行することが出来る技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術(特許文献1)では、上述した逆止弁の機能を有する弾性部材とボーリング孔内壁との干渉による種々の問題を解消することは出来ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、薬液注入用の弁としての機能を確実に発揮することが出来て、ボーリング孔内壁面に干渉せず、長期間に亘って弁としての機能を発揮することが出来る弁機構を有する装置を用いて薬液を注入する方法と、それに用いられる薬液注入装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の薬液注入工法は、
ボーリング孔
(H)を削孔する削孔工程と、
外管(1)と注入内管(2)を備え、
前記外管(1)にバルブが設けられており、当該バルブは前記外管(1)の外周面(1D)に
形成され前記外管(1)の円周方向へ延在する溝(1A)
と当該溝(1A)に
嵌合した2本の円環状弾性部材(1C:例えばOリング)を
含んでおり、前記溝(1A)には円周方向等間隔に注入口(1B)が形成され、前記溝(1A)は
外管(1)の外周面(1D)から溝の底面(1AA)に至る側面及び底面(1AA)を有しているが傾斜面は有しておらず、前記溝(1A)の前記側面と底面(1AA)との境界部分が湾曲面で構成され、且つ、前記底面(1AA)が湾曲面で構成され、前記溝(1A)の半径方向距離(DH:溝の深さ)は、そこに嵌合している円環状弾性部材(1C)が外管(1)の外周面(1D)から突出しない深さに設定されて
おり、前記溝(1A)に嵌合された2本の円環状弾性部材(1C)には常時半径方向内方へ付勢され、前記溝(1A)内に収容された状態を維持する薬液注入装置(10)を、前記ボーリング孔(H)内に配置(挿入)する薬液注入装置配置工程と、
薬液を注入する注入工程を含み、当該注入工程は、
前記薬液注入装置(10)の注入口(1B)から注入薬液が吐出(注入)される際に、前記円環状弾性部材(1C)が変形して薬液を半径方向外方に吐出する(地盤中に注入する)流路(S)が形成される工程を有して
おり、
流路(S)が形成される工程において、前記円環状弾性部材(1C)は溝(1A)から内に収容された状態を維持し、外管(1)の外周面(1D)に乗り上げることが防止されることを特徴としている。
【0009】
本発明の薬液注入工法において、前記薬液注入装置(10)の外部における圧力(地盤中の圧力或いは地盤中の液圧)が上昇した場合に前記円環状弾性部材(1C)が変形して前記注入口(1B)を閉鎖する工程を含むことが好ましい。
【0010】
また本発明において、薬液注入装置(10)は先端(削孔方向先端)に削孔装置(例えば削孔ビット、高圧水噴射機構等)を備えており、前記削孔工程の際にボーリング孔(H)の掘削と同時に薬液注入装置(10)がボーリング孔(H)内に挿入され、以て、前記削孔工程と前記薬液注入装置配置工程を同時に実行することが出来る。
もちろん、前記薬液注入装置(10)とは別個に用意した削孔装置により前記削孔工程を実行し、削孔工程でボーリング孔(H)が削孔された後、薬液注入装置(10)をボーリング孔(H)内に挿入することにより薬液注入装置配置工程を実行しても良い。この場合、前記削孔工程と前記薬液注入装置配置工程は同時には実行されず、前記削孔工程の後に前記薬液注入装置配置工程が実行される。
【0011】
また本発明の薬液注入装置(10)は、
外管(1)と注入内管(2)を備え、
前記外管(1)にバルブが設けられており、
当該バルブは、前記外管(1)の外周面(1D)に
形成され前記外管(1)の円周方向へ延在する溝(1A)
と、当該溝(1A)に
嵌合した2本の円環状弾性部材(1C:例えばOリング)を
含んでおり、
前記溝(1A)には円周方向等間隔に注入口(1B)が形成され、
前記溝(1A)は、
外管(1)の外周面(1D)から溝の底面(1AA)に至る側面及び底面(1AA)を有しているが、傾斜面は有しておらず、
前記溝(1A)の前記側面と底面(1AA)との境界部分が湾曲面で構成され、且つ、前記底面(1AA)が湾曲面で構成され、
前記溝(1A)の半径方向距離(DH:溝の深さ)は、そこに嵌合している円環状弾性部材(1C)が外管(1)の外周面(1D)から突出しない深さに設定されて
おり、前記溝(1A)に嵌合された2本の円環状弾性部材(1C)には常時半径方向内方へ付勢され、前記溝(1A)内に収容された状態を維持することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上述の構成を具備する本発明によれば、薬液注入装置(10)の外管(1)外周面(1D)に溝(1A)を形成し、当該溝(1A)には注入口(1B)が形成され且つ円環状弾性部材(1C:例えばOリング)が2本嵌合しているので、注入作業が行われない状態では、溝(1A)に形成された注入口(1B)は2本の円環状弾性部材(1C)により閉鎖されている。
薬液を地盤中に注入する際には、パッカー(2A)を膨張させて注入内管(2)から薬液を吐出すると、当該薬液の吐出圧(P1:薬液注入圧力)が、外管(1)の吐出口(1B:すなわち溝1Aに形成した注入口)から半径方向外方(薬液注入装置の外部の地盤側:注入工法を施工するべき地盤側)に作用する。前記吐出圧(P1:薬液注入圧力)により、円環状弾性部材(1C)が変形し(
図5参照)、円環状弾性部材(1C)間に間隙が形成され、当該間隙は注入薬液の流路(S)となる。
そのため、薬液は前記間隙(S:流路)を介して、半径方向外方に吐出される(地盤中に注入される)。
【0013】
薬液の注入(吐出)が終了すると、円環状弾性部材(1C)に作用していた薬液の吐出圧(P1)が消失するので、円環状弾性部材(1C)の変形も終了し、円環状弾性部材(1C)の弾性反撥力が作用して、前記溝(1A)内に嵌合して、吐出口(1B)を閉鎖する。
すなわち、本発明によれば、従来の逆止弁の機能を有する弾性部材(スリーブ状の弾性部材)により構成されている弁と同様に、注入時のみ薬液注入流路(S)を開放し、非注入時には薬液注入流路(S)が閉鎖される。
【0014】
ここで、円環状弾性部材(1C)は溝(1A)内に嵌合しており、溝(1A)の半径方向距離(DH:溝の深さ)は、そこに嵌合している円環状弾性部材(1C)が外管(1)の外周面(D)から突出しない深さに設定されているので、薬液注入装置(10)をボーリング孔(H)内に挿入するに際して、円環状弾性部材(1C)はボーリング孔(H)の内壁面と干渉せず、薬液注入装置(10)のボーリング孔(H)内の移動の抵抗となることはない。
そのため、円環状弾性部材(1C)とボーリング孔(H)の内壁面との干渉による摩擦で、円環状弾性部材(1C)が摩耗や破損することはなく、円環状弾性部材(1C)は弁としての機能を長期間に亘って確実に発揮することが出来る。
【0015】
本発明において、薬液注入装置(10)の外部における圧力(P2:地盤中の圧力或いは地盤中の液圧)が上昇した場合には、当該上昇した外部の圧力(P2:地盤中の圧力或いは地盤中の液圧)により、前記円環状弾性部材(1C)は相互に押圧し合う状態に変形し、且つ、前記溝(1A)の底面(1AA)に強く押し付けられる。そのため、前記外管(1)の注入口(1B)は前記円環状弾性部材(1C)により、より一層強固に閉鎖される。
その結果、地盤中の圧力(P2)或いは地盤中の液圧(P2:薬液注入装置10の外部における圧力)が上昇しても、外管(1)の注入口(1B)は前記円環状弾性部材(1C)により強固に閉鎖されているので、地盤中の液体(吐出された注入薬液も含む)が薬液注入装置(10)内に逆流することが防止される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1〜
図10を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の実施形態の概要を示しており、薬液注入装置10の外管1の外周面1Dには円周方向へ延在する溝1Aが形成されている。
外管1は中空空間を有する中空管状に構成されており、当該中空空間には注入内管2(
図1では点線で示す)を備えている。注入内管2はパッカー2Aを備えており、注入内管2の構成及び作用効果は、
図12を参照に説明した従来公知のパッカー付き内管12と同様である。
外管1の溝1Aは、外管1の軸方向(
図1で上下方向)において、薬液注入すべき複数の箇所に形成される(
図1では、軸方向で1箇所の溝1Aのみが示される)。ここで、薬液注入すべき複数の箇所は薬液注入口を設ける箇所であり、
図11を参照して後述する。この薬液注入すべき複数の箇所に対応して、注入内管2は外管1内の中空空間を移動して、所定位置に保持される。
図1〜
図10では、溝1Aには、円周方向等間隔に薬液注入口1Bが例えば4箇所形成されている。
【0018】
図2において、幅方向(
図2では上下方向)寸法Bを有する溝1Aの底面1AAにおいて、幅方向(
図2では上下方向)の中央に注入口1Bが形成されている。
溝1Aには、注入口1Bを閉鎖する様に、弾性材(例えばゴム)製の円環状弾性部材であるOリング1Cが2本嵌合している。その際、2本のOリング1Cは、溝1Aの幅方向に均等に配置されており、注入口1Bの中心軸1BCは2本のOリング1Cの境界を定義している。
また、溝1Aの深さDH(半径方向距離)は、
図2で示す様に、Oリング1Cを溝1Aに嵌合した際、Oリング1Cが外管1の外周面1Dから突出しない深さに設定されている。
【0019】
図3は、外管1の外周面1Dに形成した溝1Aの断面形状を示す。
図3において、溝1Aの底面1AA(半径方向内方の領域)は曲率半径Rの湾曲面に形成される。
発明者の実験によれば、溝1Aの底面1AAをこのような湾曲面で構成すると、薬液注入時に注入口1Bから薬液による吐出圧を受けた際に、2本のOリング1C(
図3では図示せず)は適正に変形し、
図5を参照して後述するように、2本のOリング1C間に薬液の流路が形成されることが確認されている。
さらに発明者の実験によれば、外管1の外部の圧力(地盤中の圧力或いは地盤中の液圧)が上昇した場合に、
図8を参照して後述するように、当該上昇した外部の圧力により、2本のOリング1Cは相互に押圧し合う状態に変形しつつ、溝1Aの底面1AAに強く押し付けられ、底面1AAの注入口1Bが強固に閉鎖されることが確認されている。
【0020】
図4で示す様に、溝1A−1の底面1AA―1を平坦面で構成した場合には、薬液注入時に2本のOリング間に薬液流路を形成する作用と、外管1の外部における圧力上昇時に2本のOリングが底面1AA−1の注入口1Bを強固に閉鎖する作用が、良好に発揮されないことが、発明者の実験で確認されている。
換言すれば、発明者の実験では、溝1Aの底面1AA−1を平坦面で構成した(
図4)場合には、溝1Aに嵌合したOリングが圧力を受けた時に、底面1AAを湾曲面で構成した(
図3)場合とは異なり、円滑に変形することが出来なかった。
【0021】
図5では、外管1の外周面1Dに形成された溝1Aに2本のOリング1Cが嵌合されている。薬液注入作業が行われていない状態では、2本のOリング1Cは実線で示されており、変形することなく、相互間に間隔を空けずに、溝1A内に収容される。そして、溝1Aの底面1AAに形成された注入口1Bは、実線で示す2本のOリング1Cにより閉鎖される。
図5で示す状態では、Oリング1Cの外方端部(
図5で左側端部)は外管1の外周面1Dから突出していない。
【0022】
図5において、地盤中に薬液を注入する際の2本のOリング1Cが点線で示されている。図示しないパッカー付き注入内管から薬液を吐出すると、当該薬液の吐出圧P1(薬液注入圧力)により、溝1Aの底面1AAに形成した注入口1Bから半径方向外方(
図5では左方)に薬液を噴射(吐出)する。
その際に、吐出圧P1(薬液注入圧力)により、Oリング1Cが点線の様に変形し、2本のOリング1C間に間隙が形成され、2本のOリング1C間の間隙は注入薬液の流路Sとなる。そして注入薬液は、Oリング1C間の間隙により構成される流路Sを介して、半径方向外方(
図5では左側)に吐出され、地盤中に注入される。
【0023】
薬液の注入(吐出)が終了すると、Oリング1Cに作用していた薬液の吐出圧P1が消失するので、Oリング1Cの変形も終了する。
図6で示す様に、Oリング1Cは弾性反撥力FRIにより溝1A内に嵌合して、再び注入口1B(吐出口)を閉鎖する。
その結果、図示の実施形態によれば、従来の逆止弁の機能を有する弾性部材(スリーブ状の弾性部材)で構成された弁と同様に、薬液の注入時のみ薬液注入流路Sは開放され、薬液を注入しない時には薬液注入流路Sは閉鎖される。
【0024】
図6において、外管1の外周面1Dに形成された溝1Aに嵌合された2本のOリング1Cには、OリングIC自体の弾性反撥力FRIが作用することにより、常時半径方向内方(
図6では右側)へ付勢される。
図6で示す様に、Oリング1Cの弾性反撥力FRIは溝1Aの底面1AAに作用し、底面1AAの領域R1、R2が弾性反撥力FRIを受けている。
図5を参照して説明したように、外管1の外周面1Dに形成された溝1Aに嵌合された2本のOリング1Cは、薬液注入に際して注入口1Bから半径方向外方(薬液注入装置の外部の地盤側)に吐出圧P1(薬液注入圧力)を受けた場合に、吐出圧P1によりその断面は円形から変形する。
【0025】
一方でOリング1Cは、常時、半径方向内方へ向かう弾性反撥力FRIを有している。
そのため、Oリング1Cが吐出圧P1によりその断面形状を変形しても、弾性反撥力FRIにより、Oリング1Cが溝1A内に収容された状態を維持する。
換言すると、Oリング1Cが溝1Aからはみ出して、外管1の外周面1Dに乗り上げてしまうこと(
図7で示す状態になってしまうこと)は、弾性反撥力FRIにより防止される。
【0026】
次に
図8を参照して、図示の実施形態において、薬液を注入しない際に、薬液注入装置10外部の圧力P2(例えば、地盤中の圧力或いは地盤中の液圧)が上昇した場合におけるOリング1Cの作用を示す。
図8において、薬液注入作業が行われておらず、且つ外管1の外部(薬液注入装置10外部)の圧力P2が上昇していない状態のOリング1Cは、実線で示されている。
図8の実線の状態(外部の圧力P2が上昇していない状態)では、Oリング1Cは変形することなく、溝1A内に嵌合している。
【0027】
これに対して、外管1(薬液注入装置10)の外部の圧力P2が上昇した場合のOリング1Cは、
図8において点線で示されている。外部の圧力P2が上昇した場合には、点線で示す様にOリング1Cは外部の圧力P2により押圧されて半径方向(
図8では左右方向:圧力P2が作用する方向)に潰れると同時に、外管1の軸方向(
図8で上下方向)に拡張しようとする。換言すれば、2本のOリング1Cは半径方向(
図8では左右方向)に潰れて軸方向(
図8で上下方向)について相互に押圧し合う様に弾性変形して、溝1Aの側面及び底面1AAに強く押し付けられる。また、2本のOリング1Cが半径方向(
図8では左右方向:圧力P2が作用する方向)に潰れて、外管1の軸方向(
図8で上下方向)に拡張しようとするため、外管1の軸方向の弾性反撥力FCPが作用する。
その結果、外管1の注入口1BはOリング1Cにより、より一層強固に閉鎖され、地盤中の液体(吐出された注入薬液、地下水等)が外管1(薬液注入装置10)内に逆流することが防止される。
なお、薬液注入装置10の外部に圧力P2(
図8)が発生している場合であっても、薬液注入の際の薬液入圧力P1(吐出圧力:例えば
図5、
図7)を外部圧力P2よりも大きく設定すれば(P2<P1)、薬液は地盤に吐出され薬液注入が行われる。
【0028】
次に
図9を参照しつつ、図示の実施形態としては不適切な例として、溝1A内にOリング1Cを1本のみ嵌合させた場合について説明する。
図示の実施形態では、
図1〜
図8で示す様に、溝1A内にOリング1Cを2本嵌合させており、溝1Aの底面1AAの注入口1Bから半径方向外方に作用する薬液の吐出圧P1(薬液注入圧力)が作用すると、2本のOリング1C間に間隙が形成され、当該間隙により注入薬液の流路Sを構成している。そのため、薬液注入に際して一定の流路Sが確保される。
【0029】
それに対して
図9で示す例では、薬液注入に際して、溝1Aの底面1AAの注入口1Bから半径方向外方に作用する薬液の吐出圧P1(薬液注入圧力)を受け、Oリング1Cと溝1Aの側面(
図9における上方の側面或いは下方の側面)との間の境界部から薬液が吐出されるのか確定しない。そのため、注入薬液の流路は、
図9における上方の流路S1と、下方の流路S2が構成され、或いは上方流路S1と下方流路S2が併存してしまう。
そのため、
図9で示す様に溝1AにOリング1Aを1本のみ嵌合した場合には、注入薬液する流路が確定せず、均一な薬液注入が行えないため、不適切である。
【0030】
図10は、溝1Aの断面形状が不適切な場合として、溝1Aの深さが大きい場合を示している。
図示の実施形態では、
図1〜
図8の様に、Oリング1Cを嵌合させる溝1Aの深さDH(半径方向距離、
図2)は、当該溝1Aに嵌合しているOリング1Cが外管1の外周面1Dから突出しない深さに設定されている。
これに対して
図10では、Oリング1Cを嵌合させる溝1Aの深さDH1(半径方向距離)が、Oリング1Cの断面形状の直径寸法に比較して非常に大きく設定されている。そのため、溝1AにOリング1Cを嵌合した際に、Oリング1Cは底面1AAに移動してしまう(矢印M)。
そして、深さDH1が大きい場合には、薬液注入に際して薬液の吐出圧P1(
図10では図示せず)が作用しても、溝1Aの壁面によってOリング1Cの弾性変形が阻害されるので、Oリング1Cは
図5で示す様な変形をしない。そのため、注入薬液の流路を確保することが出来ず、均一な薬液注入が行えない。
【0031】
図11を参照して、外管1における注入口1Bの円周方向位置を説明する。
図11(A)は
図1〜
図10を参照して説明した実施形態の場合であり、注入口1Bは円周方向に4箇所、等間隔に設けられている。なお、
図11では外管1に形成した溝1Aの図示は省略している。
注入口1Bの個数は円周方向に4箇所に限定される訳ではなく、
図11(B)、(C)に示す様に、注入口1Bを円周方向で3箇所、円周方向で2箇所、それぞれ等間隔に設けることも出来る。
なお、図示しないが、注入口1Bを円周方向で1箇所のみ形成することも可能であり、注入口1Bを円周方向に5箇所以上形成することも可能である。
【0032】
図示の実施形態を施工するに際しては、先ずボーリング孔H(従来技術を示す
図13参照)を削孔する削孔工程を、従来公知の方法で実行する。
次に当該削孔したボーリング孔H内に、
図1〜
図11を参照して説明した本発明の実施形態の薬液注入装置10を配置する工程を実行する。
そして薬液注入装置10から地盤中に薬液を注入する注入工程を実行する。ここで、当該注入工程は、
図5を参照して詳述した通り、パッカー付き注入内管2(
図1)のパッカーを膨張した後に薬液を吐出し、薬液注入装置10の注入口1Bから注入薬液が吐出(注入)される。薬液注入の際には、吐出圧P1(薬液注入圧力)によりOリング1Cが変形して薬液を半径方向外方に吐出する(地盤中に注入する)流路Sが形成される。
【0033】
そして薬液注入工程に際して、外管1において薬液注入すべき複数の箇所に溝1Aが形成されていれば、当該複数の溝1Aの注入口1Bの位置に対応させて順次、注入内管2を移動、配置させながら、例えば下方領域から上方領域に向かって、地盤中への薬液注入を実行する。
但し、外管1における複数の溝1A(注入口1B)の位置に対応して複数の注入ノズル及び複数のパッカーを有する注入内管を使用すれば、複数の溝1Aの注入口1Bから同時に地盤中に薬液を注入することも出来る。
【0034】
また、図示の実施形態において、
図8を参照して詳述した通り、薬液注入装置10の外部における圧力P2(地盤中の圧力或いは地盤中の液圧)が上昇した場合には、Oリング1Cが変形して注入口1Bをより一層強固に閉鎖する。
さらに図示の実施形態において、薬液注入装置10の先端(削孔方向先端)に削孔装置(例えば削孔ビット、高圧水噴射機構等、従来技術を示す
図13の符号13)を設置すれば、前記ボーリング孔Hの削孔の際に、ボーリング孔Hの削孔と同時に薬液注入装置10がボーリング孔H内に配置されるので、ボーリング孔Hの削孔と薬液注入装置の配置(挿入)を同時に実行することが出来る。
もちろん、薬液注入装置10とは別個に用意した削孔装置によりボーリング孔Hを削孔し、ボーリング孔Hが削孔された後、薬液注入装置10をボーリング孔H内に挿入しても良い。この場合、ボーリング孔Hの削孔と、ボーリング孔H内への薬液注入装置10の挿入(配置)とは同時には実行されず、ボーリング孔Hの削孔の後に、薬液注入装置10が挿入(配置)される。
【0035】
図示の実施形態によれば、逆止弁の機能を有する弾性部材(スリーブ状の弾性部材)で構成された弁を用いた従来技術と同様に、注入時のみ薬液注入流路Sを開放し、非注入時には薬液注入流路Sが閉鎖される。
ここで図示の実施形態では、Oリング1Cは溝1A内に嵌合しており、溝1Aの半径方向距離(DH:溝の深さ、
図2参照)は、そこに嵌合しているOリング1Cが外管1の外周面1Dから突出しない深さに設定されているので、薬液注入装置10をボーリング孔H内に挿入するに際して、Oリング1Cはボーリング孔Hの内壁面と干渉せず、薬液注入装置10のボーリング孔H内の移動の抵抗となることはない。
そのため、Oリング1Cとボーリング孔Hの内壁面との干渉による摩擦で、Oリング1Cが摩耗や破損することはなく、Oリング1Cは弁としての機能を長期間に亘って確実に発揮することが出来る。
【0036】
さらに図示の実施形態において、薬液注入装置10の外部における圧力P2(例えば、地盤中の圧力或いは地盤中の液圧)が上昇した場合には、当該圧力P2により2本のOリング1Cは相互に押圧し合う状態に変形し、且つ、溝1Aの底面1AAに強く押し付けられる。そのため、外管1の注入口1BはOリング1Cにより、より一層強固に閉鎖される(
図8参照)。
その結果、外部における圧力P2(例えば、地盤中の圧力或いは地盤中の液圧)が上昇しても、外管1の注入口1BはOリング1Cにより強固に閉鎖されているので、地盤中の液体(吐出された注入薬液も含む)が薬液注入装置10内に逆流することが防止される。
【0037】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、円環状弾性部材として、実施形態ではゴム製のOリングを例示したが、他の材質によるものでも良く、また円環状弾性部材の断面形状も円形でなくても良い。