特許第6804911号(P6804911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804911抗ポルフィロモナス・ジンジバリス組成物
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  • 特許6804911-抗ポルフィロモナス・ジンジバリス組成物 図000002
  • 特許6804911-抗ポルフィロモナス・ジンジバリス組成物 図000003
  • 特許6804911-抗ポルフィロモナス・ジンジバリス組成物 図000004
  • 特許6804911-抗ポルフィロモナス・ジンジバリス組成物 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804911
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】抗ポルフィロモナス・ジンジバリス組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/40 20060101AFI20201214BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20201214BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20201214BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20201214BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20201214BHJP
【FI】
   A61K38/40
   A61P31/04
   A61P37/04
   A61K9/127
   A23L33/19
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-182196(P2016-182196)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-43965(P2018-43965A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上崎 聖子
(72)【発明者】
【氏名】水道 裕久
(72)【発明者】
【氏名】今中 宏真
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−223975(JP,A)
【文献】 特開2004−359648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンを有効成分として含む、ポルフィロモナス・ジンジバリスを抑制及び/又は除去するための嚥下組成物。
【請求項2】
ラクトフェリンを有効成分として含む、唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用嚥下組成物。
【請求項3】
食品組成物又は医薬組成物である、請求項1又は2に記載の組成物
【請求項4】
ラクトフェリンを含んだリポソームを有効成分として含む、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ポルフィロモナス・ジンジバリス組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis:P.g)は、口腔内に存在する。P.gは歯周病の病原菌の1種として知られており、口腔内ケアのためには当該菌を抑制・除去することが重要である。
【0003】
また、ラクトフェリン(Lactoferrin:LF)は、分子量約8万の鉄結合性蛋白質である。LFは1本鎖のポリペプチドに2本の糖鎖が結合した構造からなり、分子内にFe3+を2個結合することができる。LFはヒトを含む哺乳動物の乳汁、唾液、涙液などの外分泌液、粘液、好中球および消化管粘膜の細胞表面などに存在する。
【0004】
LFは、抗菌作用や抗ウイルス作用、抗酸化作用など、様々な効果を奏することが知られている。例えば、大腸菌O157などグラム陰性菌に対する殺菌作用を示し、ロタウイルスによる下痢を緩和するなど、腸内環境を改善する可能性が示唆されている。また例えば、バイオフィルム(特にP.gの産生するバイオフィルム)の形成抑制に用い得ることも特許文献1(特開2013−75927号公報)に開示されている。しかし、特許文献1では、LFがバイオフィルム形成を抑制できることは記載されている一方で、LFがポルフィロモナス・ジンジバリスに対する抗菌活性を有さないことが実験により示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−75927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.g)を抑制及び/又は除去できる新規で簡便な手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特許文献1のようにラクトフェリンを直接P.gに作用させるのではなく、ラクトフェリンを経口摂取することによって、P.gを抑制できることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
ラクトフェリンを有効成分として含む、抗ポルフィロモナス・ジンジバリス経口組成物。
項2.
嚥下組成物である、項1に記載の経口組成物。
項3.
ラクトフェリンを有効成分として含む、唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用経口組成物。
項4.
嚥下組成物である、項3に記載の経口組成物。
項5.
食品組成物又は医薬組成物である、項1〜4のいずれかに記載の組成物。
項6.
ラクトフェリンを含んだリポソームを有効成分として含む、項1〜5のいずれかに記載の経口組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明に包含されるポルフィロモナス・ジンジバリス経口組成物によれば、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.g)を簡便に抑制及び/又は除去することができる。さらに、本発明には唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用経口組成物も包含され、当該組成物によれば、簡便に唾液内への免疫グロブリンA分泌を促進させることができ、ひいてはP.gを抑制及び/又は除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ラクトフェリン摂取群と非摂取群とで、sIgA濃度(mg/dL)及びsIgA分泌速度(μg/min)に違いが有るかを検討した結果を示す。左側の2つのグラフは1標本t検定、右側2つのグラフは2標本t検定の結果を示す。*はP<0.05を、**はP<0.01を、***はP<0.001を、†はP<0.10を、それぞれ示す。
図2】ラクトフェリン摂取群と非摂取群とで、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.g)に対する血漿抗体価がどう変化するかを検討した結果を示す。
図3】ラクトフェリン摂取により歯周病患者の歯茎の状態が改善されるかを検討した結果を示す。
図4】ラクトフェリン摂取により歯周病患者の歯肉溝滲出液中の炎症性サイトカインIL−6濃度がどう変化するかを検討した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本発明に包含される抗ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.g)経口組成物は、ラクトフェリンを有効成分として含む。ここでの「有効成分」は、抗P.g作用を示す成分という意味合いであり、例えば当該組成物が食品の場合(特に特定保健用食品や機能性表示食品等の場合)には、当該「有効成分」は関与成分を包含する意味として用いられる。
【0013】
ラクトフェリンは、特に制限されず、アポラクトフェリン、天然型ラクトフェリンまたはホロラクトフェリンであってもよい。また、ラクトフェリンとしては市販品を購入して用いることもできる。例えば、森永ラクトフェリンMLF−EX(森永乳業株式会社製)を好ましく用いることができる。また、市販品の他、哺乳類(例えば、ヒト、ウシ、水牛、ウマ、ヤギ、ヒツジ等)の初乳、移行乳、常乳、末期乳等、これらの処理物である脱脂乳、ホエー等からイオン交換クロマトグラフィー等の常法により分離したラクトフェリン、ラクトフェリンから常法により鉄を除去したアポラクトフェリン、アポラクトフェリンに鉄、銅、亜鉛、マンガン等の金属を一部キレートさせた金属結合ラクトフェリン、または前記金属を完全にキレートさせた金属飽和ラクトフェリン、等を使用することができる。 特にウシ由来又はヒト由来のラクトフェリンが好ましい。
【0014】
また、本発明に用いるラクトフェリンはリポソームに内包された態様であってもよい。つまり、ラクトフェリンを含んだリポソームを好ましく用いることができ、本発明はラクトフェリンを含んだリポソームを有効成分として含む、抗ポルフィロモナス・ジンジバリス経口組成物も包含する。
【0015】
リポソームは脂質小胞体であり、リン脂質を主体とした脂質を十分量の水で水和することにより形成される。リポソームは水溶性薬物をその内水層に、脂溶性薬物を脂質二重層へ取り込むことができ、薬物のターゲティング、徐放化、副作用の軽減などを目的にDDS製剤の薬物運搬体としてその応用が試みられている。また、リポソームは生体膜の成分から構成されているため安全性が高いことも知られている。
【0016】
一般的に、リポソームは脂質二重層の数に基づいて分類され、多重膜リポソーム(MLV)と一枚膜リポソームに分類される。一枚膜リポソームは、そのサイズに応じて、更にSUV(small unilamella vesicle)、LUV(large unilamella vesicle)、GUV(giant unilamella vesicle)などに分類される。本発明のリポソームは、これらのいずれであってもよい。好ましいのはMLVである。本発明では、リポソームの大きさは、通常30〜1000nm、好ましくは30〜600nm、より好ましくは50〜200nmである。
【0017】
本発明において使用されるラクトフェリンを含んだリポソームにおいて、ラクトフェリンはリポソーム膜に囲まれる空間に封入されていることが好ましいが、ラクトフェリンがリポソーム膜構成成分として含まれていてもよいし、多重膜リポソームを構成する多重膜の間に含まれていてもよいし、リポソーム膜のうちの最も外側の膜にラクトフェリンが付着又は結合する形態で含まれていてもよい。
【0018】
ラクトフェリンを含んだリポソームは、従来の方法により製造することができる。例えば、所望量のレシチン及び必要に応じて所望量のステロールを、例えばエタノールなどの適当な有機溶媒で可溶化し、減圧下に溶媒を除去し、膜脂質を作成後、これにラクトフェリンや任意の生理活性物質を含む水溶液を添加して、例えば、1000〜3000rpm程度で2〜5分間程度撹拌して、リポソーム懸濁液を調製することにより、ラクトフェリンを封入したリポソームを得ることができる。
【0019】
また、この方法とは別に、所望量のレシチン及び必要に応じて所望量ステロールを少量のエタノールに溶解後、水溶液又は緩衝液に分散して予備乳化を行った後、高圧で分散させて脂質二重層を形成させてリポソーム懸濁液を調製することによってもラクトフェリンを封入したリポソームを得ることができる。
【0020】
得られた懸濁液に対しては、必要に応じて、リポソーム外液中のラクトフェリンを除去する操作、例えば懸濁液を濾過後,得られた濾液を透析する操作を行ってもよい。
【0021】
リポソームの懸濁液は、液状のままでも使用できるが、凍結乾燥した乾燥物として使用することもできる。リポソームは、その乾燥物を錠剤やカプセル化したものをはじめ、様々な経口摂取に適した形態とすることが可能である。
【0022】
ラクトフェリンを含んだリポソーム中におけるラクトフェリンの含有量は好ましくは10〜99重量%程度、より好ましくは20〜95重量%程度、さらに好ましくは30〜90重量%程度である。
【0023】
レシチンとしては、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン、ナタネレシチン、コーンレシチン、ひまわりレシチン、ピーナッツレシチンなどを1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができるがこれらに限定されない。本発明では、これらの水素添加物を用いることもできる。レシチンはホスファチジルコリン又は1,2−ジアシルグリセロール 3−ホスホコリンとも称され、一般的に、グリセロールの1位及び2位に脂肪酸が結合している。本発明では、上記例示のレシチンに加えて、1位及び2位の両方又は片方に炭素数12〜24の不飽和脂肪酸が結合しているレシチンを使用することが好ましく、1位に炭素数12〜24の飽和脂肪酸、2位に炭素数12〜24の不飽和脂肪酸が結合しているレシチンを使用することが特に好ましい。ここで、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸は直鎖状及び分枝状のいずれでもよい。好ましい不飽和脂肪酸としては、炭素数16〜18の不飽和脂肪酸を使用できる。特に2位にオレイン酸、リノール酸が多く結合したレシチンが好ましい。具体的には、卵黄レシチン、大豆レシチンが好ましい。
【0024】
ステロールとしては、コレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロールなどの動物由来のステロール;β−シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール、ブラシカステロール、エルゴステロール、エルゴスタディエノール、シトステロール、ブラシカステロールなどの植物由来のステロール(フィトステロール);チモステロール、エルゴステロールなどの微生物由来のステロール等が挙げられ、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも、コレステロール又はフィトステロールが好ましく用いられる。
【0025】
リポソームにおけるレシチンとステロールのモル比は、55:45〜95:5程度が好ましく、60:40〜90:10程度がより好ましく、75:25〜85:15程度が最も好ましい。モル比がこれらの範囲にあるとリポソーム膜の安定性が向上する。
【0026】
ラクトフェリンを含んだリポソームにおけるレシチンの含有量は、好ましくは1〜80重量%程度、より好ましくは3〜65重量%程度、さらに好ましくは5〜50重量%程度である。
【0027】
ラクトフェリンを含んだリポソームにおけるステロールの含有量は、好ましくは0〜40重量%程度、より好ましくは0.1〜30重量%程度、さらに好ましくは1〜20重量%程度である。
【0028】
レシチン又はステロールの含有量は既知の方法で測定できる。例えば、レシチンの含有量はFiske−Subbarow法など、ステロールの含有量はHPLC、比色法などによって定量できる。
【0029】
さらに、ラクトフェリンを含んだリポソームの表面をコーティングすることができ、このコーティング物も有効成分として利用できる。好ましいコーティングとしては、硫酸基を含有する多糖類によるコーティングがあげられる。硫酸基含有多糖類としては、フコイダン、カラギーナン、寒天、ヘパリンなどが挙げられる。また、該硫酸基含有多糖類としては、硫酸基を含まない多糖を硫酸化したものも包含され、例えば、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸などであってもよい。
【0030】
硫酸基含有多糖類としては、分子量が5000〜300000程度のものが好ましく用いられる。これらの硫酸基含有多糖類の中でもフコイダン及びカラギーナンを好ましく用いることができ、特にフコイダンが好ましい。
【0031】
硫酸基含有多糖類の使用量は、例えば、リポソームに含有されるレシチン100重量部に対して、10〜500重量部程度が好ましく、20〜200重量部程度がより好ましい。
【0032】
コーティングは、例えば、ラクトフェリンを含んだリポソームを含む懸濁液に、硫酸基含有多糖類を加え、1000〜3000rpm程度で2〜5分間程度撹拌することにより行うことができる。なお、1つのコーティング膜の中に複数のリポソームが含まれていてもよい。
【0033】
リポソームが硫酸基含有多糖類でコーティングされていることは、例えば、リポソーム溶液のゼータ電位が、硫酸基含有多糖類を添加して撹拌したさいに変化することにより確認できる。
【0034】
ラクトフェリンを含んだリポソームにはレシチン、フィトステロール以外にも必要に応じて、トコフェロール、アスコルビン酸などの抗酸化剤、乳酸、クエン酸などの有機酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミンなどの脂質、キトサン、フコイダン、ヒアルロン酸などの天然高分子、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマーなどの合成高分子、トレハロース、ラクチュロース、マルチトールなどの糖質、グリセリンなどのポリオール等を加えることができる。
【0035】
本発明に包含される上記抗P.g経口組成物(及び含有されるラクトフェリン)は、口腔内に存在するP.gに対して直接作用させることで効果を奏するのではなく、嚥下する(つまり、飲み込む)ことにより、間接的にP.gを抑制する効果を奏するものである。従って、当該抗P.g経口組成物は、好ましくは嚥下組成物であるということができる。ここでの嚥下組成物は、経口組成物であり、且つ飲み込むことを目的に用いられる組成物という意味合いである。つまり、使用後に吐き出すことを目的としている組成物や、最終的には飲み込むとしても口腔内で長時間保持して口腔内に適用することを目的とする組成物等は、ここでの嚥下組成物には該当しない。例えば、口腔用ケア組成物(歯磨組成物、マウスウォッシュ、口臭ケア組成物等)は飲み込むことを目的としておらず、ここでいう嚥下組成物ではない。また、ガムや噛みタバコ等、使用後に吐き出すことを前提としたものも、ここでいう嚥下組成物ではない。また、トローチやキャンディー(飴)等、口腔内で長時間保持して嗜好するものも、ここでいう嚥下組成物ではない。通常の食品組成物及び服用するための医薬品組成物が好ましい嚥下組成物として例示できる。
【0036】
当該抗P.g経口組成物におけるラクトフェリンの含有量は本発明の効果が奏される範囲であれば特に制限されない。例えば、1〜10000mg、5〜5000mg、10〜2000mg、又は20〜1000mg程度が例示できる。また、含有割合も特に制限はされず、例えば0.1〜100重量%、1〜99重量%、又は10〜80重量%程度、が例示できる。またさらに、当該抗P.g経口組成物を摂取する場合のラクトフェリンの摂取量も特に制限はされず、例えば成人一日あたり10〜10000mg、20〜5000mg、30〜2000mg、又は50〜1000mg程度が例示できる。
【0037】
また、当該抗P.g経口組成物は、1回又は複数回(好ましくは2〜3回)に分けて摂取することができる。適用対象はヒトが好ましいが、ヒト以外の非ヒト哺乳動物であってもよい。適用対象が非ヒト哺乳動物(例えばペット又は家畜、より具体的には、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ブタ、ヒツジ等)の場合も、当該ヒトの投与又は摂取量を参考として適宜設定することができる。
【0038】
本発明に係る組成物は、上述の通り、ラクトフェリンを有効成分として含むことにより、P.gを抑制及び/又は除去することができる。限定的な解釈を望むものではないが、ラクトフェリンが経口摂取されることにより、唾液内への分泌型免疫グロブリンA(secretory Immunoglobulin A: sIgA)の分泌が促進されるため、これによりP.gの活動が抑制及び/又は除去されていることが考えられる。また、ラクトフェリンが経口摂取されることにより、血中における対P.g抗体価も減少するため、当該抗体価を測定することにより、客観的に本発明に係る抗P.g経口組成物の効果を評価することができる。特に、血漿中の対P.g抗体価を用いることが好ましい。
【0039】
なお、上記の通り、ラクトフェリンが経口摂取されることにより、唾液内への分泌型免疫グロブリンAの分泌が促進されることから、本発明に係る抗P.g経口組成物は、唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用経口組成物ということもできる。本発明は、当該唾液内への免疫グロブリンA分泌促進用経口組成物も好ましく包含する。
【0040】
当該抗P.g経口組成物は、P.gを抑制及び/又は除去することができるため、歯周病の予防又は治療に特に有用である。従って、歯周病が気になるヒトや歯周病患者に好適に用いることができる。成人、特に30歳以上のヒトの歯周病の割合は非常に高いと言われており、例えばこのような年齢のヒトに好適である。また、歯周病を発症しやすいとされる疾患に罹患した患者も好適対象者であり、例えば糖尿病患者や血糖値が気になるヒト、あるいはリウマチ患者(特に関節リウマチ患者)等も好適な対象となる。
【0041】
当該抗P.g経口組成物(及び嚥下組成物)は、医薬組成物、又は食品組成物(飲料組成物及び食品添加物組成物を包含する)として好ましく用いることができる。
【0042】
医薬組成物として用いる場合、他の成分としては、薬学的に許容される基剤、担体、及び/又は添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)等が例示できる。また、当該医薬組成物の形態も特に制限されず、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等が例示できる。これらの形態の医薬製剤は、必要に応じて当該他の成分と、ラクトフェリンを組み合わせて常法により調製することができる。なお、上記の通り、当該抗P.g経口組成物が嚥下組成物の場合、当該医薬組成物は服用して用いるもの(服薬医薬組成物)である。
【0043】
食品組成物として用いる場合、他の成分としては、食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤や、その他食品として利用され得る成分・材料が例示できる。また、当該食品組成物の形態も特に制限されず、例えば加工食品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示商品等)、サプリメント、病者向け食品(病院食、病人食又は介護食等)等が例示できる。これらは常法により調製することができる。特に、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示商品等)、又はサプリメントとして、食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(飲料パウダー、ドリンク剤等)等の形態で調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤、飲料パウダー、ドリンク剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましいが、特にこれらに限定されるものではない。なお、食品組成物の中でも食品添加物組成物として用いる場合には、その形態として、例えば液状、粉末状、フレーク状、顆粒状、ペースト状のものが挙げられる。
【0044】
特に制限はされないが、当該抗P.g経口組成物の上記その他の成分としては、デキストリン、セルロース、レシチン(特に大豆由来)、微粒二酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウム等が特に好ましく例示される。
【0045】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
唾液中の分泌型免疫グロブリンA(sIgA)の検討
試験組成物として、森永ラクトフェリンMLF−EX(森永乳業株式会社製)を用いた。 MLF−EXは、既存の天然食品添加物であるウシ由来LFを90%以上含む食品用原料である。
【0047】
まずMLF−EXをリポソームに内包させ、次に当該ラクトフェリン内包リポソームに賦形剤等を配合して錠剤を調製した。具体的には、大豆レシチンをエタノールに溶解させ、ラクトフェリン水溶液に分散して予備乳化を行った後、140MPa程度の高圧で分散させてラクトフェリンを封入したリポソーム懸濁液を調製し、これにデキストリンを混和し凍結乾燥して乾燥粉末を得た。当該粉末にセルロース、微粒化二酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウムなどの腑形剤を配合して打錠して、ラクトフェリン内包リポソーム含有錠剤(300mg)を得た。なお、当該錠剤6錠あたり、LFとして270mgを含むように原材料量を調整した(すなわち、1錠300mgあたりラクトフェリン45mgを含有する)。また、プラセボとして、MLF−EXをデキストリンで置き換えた錠剤も同様に製造した。これらの錠剤を一日6錠ずつ、4週間被験者に摂取させた。また試験開始0、2、4週後に唾液を採取した。このとき、唾液分泌速度(ml/min)もあわせて測定した。採取した唾液中のsIgAの定量を株式会社第一岸本臨床検査センターに委託して行った。また、唾液分泌速度(ml/min)に唾液sIgA濃度(mg/dL)を乗じて唾液sIgA分泌速度(μg/min)を算出した。さらに、唾液sIgA濃度の変化量、及び唾液sIgA分泌速度の変化量も算出した。(2週目の値から0週目の値を減じて求めた変化量をΔ2週(W)、4週目の値から0週目の値を減じて求めた変化量をΔ4週(W)、と標記することがある。)結果を図1に示す。ラクトフェリンを摂取した群をLLF群と標記することがある。
【0048】
なお、当該試験の被験者は、60名(男性31名、女性29名、年齢40.5±11.0歳)であった。また、当該試験は、無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較法で実施した。
【0049】
LLF群において、唾液sIgA濃度およびsIgA分泌速度は、0週と比較して2週および4週に増加した。また、唾液sIgA濃度のΔ4週は、placebo群に比べLLF群で増加する傾向があった。また、4週において唾液sIgA濃度が増加した被験者数は、placebo群では17名であったのに対し、LLF群で26名と有意に多かった(χ2乗検定 、p=0.010)。特に、4週での唾液sIgA分泌速度、唾液sIgA濃度およびsIgA分泌速度のΔ4週は、placebo群に比してLLF群で有意または有意傾向をもって増加した。
【0050】
唾液中の分泌型免疫グロブリンA(sIgA)の検討
成人女性20名(平均年齢58.7歳)に、上記と同様に製造したラクトフェリン含有錠剤を、一日6錠ずつ、3ヶ月間摂取させた。当該摂取直前及び摂取3ヶ月後に採血し、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.g)に対する血漿抗体価(IgG抗体値)を測定した。測定は、Murayama, et al., Adv Dent Res, 2: 339−245, 1988に記載の酵素免疫測定法(ELISA法)に準じて行った。
【0051】
結果を図2に示す。被験者20名の抗P.g血漿抗体価は、その平均値及び中央値ともに、ラクトフェリン摂取前よりも摂取後の方が低下していた。
【0052】
以上のように、ラクトフェリンを摂取することにより、唾液中へのIgAの分泌が促進され、さらにP.gに対する血漿抗体価も低下することから、ラクトフェリンを摂取することで、P.gの活動を抑制し、及び/又は除去できることが分かった。
【0053】
歯茎の健康状態の検討
賦形剤として、二酸化ケイ素、及びステアリン酸カルシウムの代わりに、セルロース、マルチトール、プルラン、及びショ糖脂肪酸エステルを用いた以外は、上述のようにしてラクトフェリン内包リポソーム含有錠剤(1錠300mgあたりラクトフェリン45mgを含有)を製造した。当該錠剤を、歯周病罹患者12名(男性8名、女性4名、42〜59歳、いずれも歯周ポケット≧3mmの部位を5箇所以上有する者)に一日4錠ずつ4週間摂取させた。被験者に対して、「歯茎からの出血」及び「歯茎の膨張」の二項目について、当該試験開始時及び4週間目に以下の4段階のアンケートをとり、それぞれ集計して解析した。
<アンケートの4段階評価>
1.いつもある
2.時々ある
3.あまり無い
4.全く無い
結果を図3に示す。歯茎からの出血及び歯茎の膨張(はれ)の、いずれについても、ラクトフェリンを摂取することで改善されることが分かった。この点からも、ラクトフェリンを摂取することで、P.gの活動を抑制し、及び/又は除去できることが裏付けられた。
【0054】
また、被験者から当該試験開始時及び4週間目に歯肉溝滲出液(Gingival Crevicular Fluid:GCF)を採取した。具体的には、被験部位の歯肉縁上プラークを滅菌綿球にて除去後、簡易防湿下でペリオペーパーを被験隣接面の歯肉縁下に30秒間挿入し、GCFを採取した。採取量はペリオトロン8000(Harco,CA,USA)により測定した。そして、50μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)をGCF採取に用いたぺリオペーパーに添加後、30分間室温にて激しく振盪し、遠心(5min×10000rpm)して得た上清を用いてBio−Plex Suspension Array System(Bio−Rad Laboratories, Inc.)によりIL−6濃度を測定した。なお、IL−6は炎症性サイトカインの1種であり、P.gの存在により強く誘導されることが知られている。結果を図4に示す。図4において、試験開始時及び4週間目の結果を比べると、平均値が1.1から0.9に(中央値は0.68から0.52に)下がった。よって、IL−6の濃度は、ラクトフェリンを摂取することで低下する傾向があることが分かった。この点からも、ラクトフェリンを摂取することで、P.gの活動を抑制し、及び/又は除去できることが裏付けられた。
図1
図2
図3
図4