(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の射距離抑制弾における一実施形態を説明する。本発明の射距離抑制弾は、弾軸を中心とした旋動によりジャイロ効果を発生させ、飛翔時の飛翔安定性を得る弾丸において、最大飛翔距離を実弾に比べて短縮させたものである。本発明は、射出したときの弾道が飛翔軌跡として悪いとされる弾道(例えば螺旋状の弾道等)を描くことなく飛翔することができ、同時に、予め設定した射距離に到達するまでの飛翔性能や予め設定した射距離にある標的に対する命中精度において、実弾と同等の性能を得ることができる射距離抑制弾を提供することを目的としている。この目的を達成するために、本発明の射距離抑制弾では、重量を実弾よりも軽量化し、また、射距離抑制弾の頭部の外周面に弾軸方向に延びる溝を複数設けていることで、実弾に比べて最大飛翔距離を短縮した射距離抑制弾を提供する。
【0020】
以下、射距離抑制弾10として、例えば12.7mm口径の銃器に用いられる弾丸を一例として説明する。なお、射距離抑制弾10として、12.7mm口径の銃器に用いられる弾丸を一例として取り上げているが、銃器の口径は一例を示すものに過ぎず、飛翔時に弾軸を中心として旋動する弾丸であれば、本発明の射距離抑制弾を適用することができる。
【0021】
図1から
図3に示すように、射距離抑制弾10は、頭部11と、頭部11が固着される胴部12とを有する。頭部11は、先端に向けて先細りする流線形状の頭部本体11aを有する。流線形状としては、一例として、弾軸Cに直交する断面が円形で、弾軸Cに直交する断面が頭部11の先端に向けて縮径されることで、頭部11の外周面が先端に向けて湾曲する形状が挙げられる。なお、頭部本体11aの形状を先端に向けて先細りする流線形状としているが、先端に向けて先細りする円錐形状としてもよい。
【0022】
また、弾軸方向(
図1中C方向)において、頭部本体11aの先端とは反対側となる後端の外径は、胴部12の外径と同一である。射距離抑制弾10が旋動弾であることから、射距離抑制弾10の最大径は、例えば銃身の口径よりも若干大きく設定される。
図1に示す射距離抑制弾10では、頭部本体11aの後端の外径は胴部12の外径と同一に設定され、また、頭部本体11aの後端の外径は射距離抑制弾10の最大径に設定される。つまり、銃身の口径が12.7mmであれば、頭部本体11aの後端の外径は、例えば13mmに設定される。
【0023】
頭部本体11aは、弾軸方向に延びる溝13を外周面に複数有する。複数の溝13は、弾軸周りに一定角度間隔で且つ隣り合う溝13が互いに干渉しないように、頭部本体11aの外周面に設けられる。複数の溝13は、飛翔時に旋動する射距離抑制弾10に旋動減衰モーメントを発生させるために設けられる。なお、複数の溝13は、射距離抑制弾10の先端側の一端部と、該一端部とは反対側となる他端部とが頭部11の外周面と同一面となり、一端部及び他端部との間が弾軸Cに向けて湾曲した曲面形状の底面を有する。
図1から
図3では、頭部11に8本の溝13が設けられる弾丸の一例を示している。
【0024】
頭部11は、弾軸方向における頭部本体11aの先端とは反対側となる他端に、雄ねじ部11bを有する。雄ねじ部11bは、頭部11と胴部12とを固着する際に、胴部12に設けた雌ねじ部15に螺合する。
【0025】
胴部12は、略有底筒形状の部材である。胴部12は、弾軸方向の一端側から他端側に向けて延びる空洞部(中空領域)14を有する。空洞部14は、弾軸方向の一端側から他端側に向けて延びる円筒状の第1の空間部14aと、第1の空間部14aから更に胴部12の他端側に向けて延びる円筒状の第2の空間部14bと、を有する。なお、第1の空間部14a及び第2の空間部14bは同軸となるように設けられる。第2の空間部14bの直径は、第1の空間部14aの直径よりも小さく設定される。したがって、第1の空間部14a及び第2の空間部14bとの境界部分となる胴部12の内周面には、各空間部14a,14bの直径差によって生じる段差部14cが設けられる。段差部14cには、弾軸方向の一端側から空洞部14に挿入されて、胴部12の空洞部14の内部に固着される補強材20の端面21が当接される。
【0026】
上述した第1の空間部14aが位置する胴部12の内周面で、且つ弾軸方向の開口近傍には、雌ねじ部15が設けられる。雌ねじ部15は、頭部11と胴部12とを締結する際に、頭部11の雄ねじ部11bが螺合される。
【0027】
補強材20は、射距離抑制弾10が飛翔したときの胴部12の変形を防止する他、射距離抑制弾10の軽量化に起因した射距離抑制弾10の飛翔安定性の低下を防止する。補強材20としては、例えば一端が開口された有底筒形状の部材(
図2中符号20a)、両端部が開口された筒形状の部材(
図2中符号20b)の他、1個又は複数個の円板(
図2中符号20c)を用いることも可能である。なお、補強材20の外径、及び胴部12の空洞部14を構成する第1の空間部14aの直径は、補強材20と第1の空間部14aとの嵌め合いの関係が中間ばめ又はしまりばめの関係となるように設定される。以下では、補強材20としては、例えば一端が開口された有底筒形状の部材20aを用いた場合を一例として説明する。
【0028】
上述したように、射距離抑制弾10は、重量を実弾の重量よりも軽量化している。射距離抑制弾10の重量を軽量化した場合、射出された射距離抑制弾10に働く慣性モーメントは大幅に変化し、飛翔安定性に影響をきたす。したがって、射出された射距離抑制弾10に働く慣性モーメントの大幅な変化を抑制して、飛翔する射距離抑制弾10の飛翔安定性を確保するために、頭部11、胴部12及び補強材20の材質を以下の材質とした。まず、頭部11は、胴部12の材質に比べて比重が低いアルミ合金や合成樹脂材を採用した。また、胴部12は、頭部11の材質に比べて比重が高い黄銅を採用した。また、補強材20は、射距離抑制弾10の軽量化による強度低下を防止するため、例えばヤング率が高い鋼材を採用した。したがって、例えば12.7mm口径の銃器に用いられる実弾の重量が45gであるのに対して、射距離抑制弾10の重量は一例として25gに軽量化される。
【0029】
次に、頭部11に設けられる溝13の詳細について説明する。まず、溝13の位置について、
図3(a)、
図3(b)及び
図3(c)を用いて説明する。弾軸方向(
図3中C方向)において、頭部11の先端側における溝13の一端部の位置をP
1、頭部11の後端側における溝13の他端部の位置をP
2、弾軸Cに直交する断面における直径が射距離抑制弾10の最大径となる位置をP
3とする。また、弾軸Cに直交する断面における位置P
1での頭部11の直径をD
1、弾軸Cに直交する断面における位置P
2での頭部11の直径をD
2、弾軸Cに直交する断面における位置P
3での頭部11の直径をD
3とする。
【0030】
上述したように、頭部11に設けられる複数の溝13は、隣り合う溝と干渉しないように各々設けられる。したがって、頭部11の先端側における溝13の一端部の位置P
1は、弾軸Cに直交する断面における頭部11の円周長さが、溝13の数と溝13の幅Wとの積となる長さを超過する位置に設定される。頭部11の先端から溝13の一端部の位置P
1までの距離L
1は、溝13の幅Wや数に応じて設定される。距離L
1は、一例として、5mmに設定される。
【0031】
また、頭部11の後端側における溝13の他端部の位置P
2は、弾軸Cに直交する断面における頭部11の直径D
2が、頭部11の弾軸方向に直交する断面の外径の最大値となる位置から先端側で且つ銃身の口径未満となる位置に設定される。上述したように、旋動弾は、最大径が銃器の銃身の口径よりも大きい。したがって、溝13が設けられる位置によっては、溝13の側面と、銃身の内周面に設けた腔線とが干渉し、射距離抑制弾10の飛翔性能が低下する。したがって、弾軸Cに直交する断面において、頭部11の弾軸方向に直交する断面の外径の最大値となる位置から先端側で且つ銃身の口径未満となる位置を溝13の他端部の位置P
2とすることで、射距離抑制弾10に設けた溝13の側面と、銃身の内周面に設けた腔線との干渉を防止する。例えば12.7mm口径の銃器であれば、頭部11の後端側における溝13の端部の位置P
2は、弾軸Cに直交する断面における頭部11の外径の最大値となる位置よりも頭部11の先端側で且つ弾軸Cに直交する断面における頭部11の直径が12.7mm未満となる位置に設定される。
【0032】
次に、射距離抑制弾10が有する溝13の数や溝13の幅について説明する。
【0033】
上述した旋動減衰モーメントMは、以下の(1)式で求められる。
【0035】
ここで、記号ρは空気密度、記号Sは溝側面の面積である。また、記号Pは単位時間当たりの旋動回数、記号bは射距離抑制弾10の最大径、記号A
Cは減衰係数である。
【0036】
上述した(1)式において、空気密度ρ、単位時間当たりの旋動回数P、射距離抑制弾10の最大径b及び減衰係数A
Cが同一であると仮定すると、旋動減衰モーメントMは、溝13の側面の面積Sによって変化する。
【0037】
まず、頭部11に設ける溝13の数を多く設定する場合を考える。弾軸方向における溝13の長さが一定であれば、同一の旋動減衰モーメントMを発生させるためには、溝13の深さは浅く設定される。しかしながら、溝13の数を多く設定する場合には、溝13の幅Wの関係で隣り合う溝13が干渉してしまうことがある。
【0038】
したがって、隣り合う溝13との干渉を防止するために、溝13の幅Wを狭く設定することを考慮する。溝13の幅Wを狭く設定すると、射距離抑制弾10の飛翔時に、各溝13の内部が空気の粘性の影響を受ける境界層に含まれ、射距離抑制弾10に発生する旋動減衰モーメントMが非常に小さくなる。したがって、幅の狭い溝13を数多く設定しても、最大飛翔距離を短縮させる効果は小さい。
【0039】
次に、溝13の数を少なく設定する場合を考慮する。弾軸方向における溝13の長さが一定であれば、同一の旋動減衰モーメントMを発生させるためには、溝13の深さを深く設定する必要がある。例えば溝13の数を少なく設定すると、溝13の幅Wを広くできるが、頭部11の先端部分の外周形状において流線形状となる外周部分が低減される。その結果、頭部11の先端側における溝13の端部や溝13の内部において衝撃波が発生しやすい。衝撃波の発生は飛翔する射距離抑制弾10の飛翔姿勢を不安定にし、飛翔安定性を低下させるので、最大飛翔距離を短縮する効果はあるが、射距離における命中精度が低下する原因となる。
【0040】
例えば、射距離抑制弾10の溝13は、旋盤などの工作機械を用いた溝加工により、射距離抑制弾10の外周面に設けられる。旋盤などの工作機械では、ペアとなるカッターを用い射距離抑制弾10の外周面を切削することから、溝13の数は2の倍数となることが好ましい。ここで、弾軸周りのバランスや弾軸周りの弾丸質量の分布対称性を保つこと考えると、溝13の最小数は、弾軸周りに180°間隔で設けた2本ではなく、弾軸周りに90°間隔で設けた4本であることが好ましい。
【0041】
なお、溝13の数を奇数とした場合、外周周りに一定角度間隔で配置することで、弾軸周りのバランスや弾軸周りの弾丸質量の分布対称性を保つことが可能となる。しかしながら、弾丸を保持しながら弾軸周りをかなり高度な角度制御を行いながら溝加工時に行う必要があり、溝加工が困難になり、また、高度な角度制御を行うことができない場合には、軸周りの弾丸質量のバランスが崩れ、弾丸の飛翔安定性が損なわれる。したがって、溝13の数は奇数ではなく、偶数であることが好ましい。
【0042】
これらを考慮すると、頭部11に設けられる溝13の幅Wは、銃身の口径の1/20から1/4の範囲内に設定されることが好ましい。また、溝13の数は、偶数本で、4本以上20本以下の範囲に設定されることが好ましい。
【0043】
最後に、溝13の底面13aの形状について説明する。上述したように、複数の溝13は、射距離抑制弾10の先端側の一端部と、該一端部とは反対側となる他端部とが頭部11の外周面と同一面となり、一端部及び他端部との間が弾軸Cに向けて湾曲した曲面形状の底面を有する。
図4に示すように、湾曲した底面13aの形状としては、詳細には、底面13aの接線と弾軸Cとのなす角度θが0°から60°の範囲で徐々に変化する曲面形状である。具体的には、弾軸Cを含む断面における溝13の底面13aの形状は、円弧形状、楕円弧形状、これら形状の組み合わせの他、二次曲線で示される形状が挙げられる。溝13の底面13aの形状を曲面形状とすることで、溝13において衝撃波の発生を抑制することが可能となる。
図4においては、弾軸Cを含む断面における溝13の底面13aの形状が半径R=50mmの円弧形状である場合を一例として示している。
【0044】
次に、上述した射距離抑制弾10の組み立て方法について説明する。まず、切削加工により製造した胴部12の空洞部14に補強材20を固着する。補強材20と第1の空間部14aとの嵌め合いの関係がしまりばめの関係である場合、補強材20は、第1の空間部14aに対して圧入により固着する。一方、補強材20と第1の空間部14aとの嵌め合いの関係が中間ばめの関係である場合、嫌気性接着剤を胴部12の第1の空間部14aの内周面、又は補強材20の外周面に塗布した上で、補強材20を第1の空間部14aに対して滑合、押込、打込又は軽圧入により固着する。補強材20が第1の空間部14aに固着された状態では、補強材20の挿入側の端面21は空洞部14の段差部14cに当接した状態で保持される。
【0045】
胴部12に補強材20を固着した後、胴部12に頭部11を締結する。上述したように、頭部11には雄ねじ部11bが、胴部12には雌ねじ部15が各々設けられる。したがって、頭部11の雄ねじ部11bを、胴部12の雌ねじ部15に螺合させ、頭部11を締め付ける。また、この他に、頭部11の雄ねじ部又は胴部12の雌ねじ部に嫌気性接着剤を塗布した後、頭部11の雄ねじ部11bを胴部12の雌ねじ部15に螺合させてもよい。頭部11を胴部12に締結することで、胴部12の空洞部14が頭部11により遮蔽される。
【0046】
本実施形態では、胴部12の雌ねじ部15に螺合させた後、頭部11を締め付けることで、頭部11と胴部12を結合させているが、かしめ等の手法により、頭部11と胴部12とを締結することも可能である。
【0047】
以下、本発明の射距離抑制弾10を設計するに当たり、射距離200mにおける射撃において、実弾と同等の飛翔性能や命中精度を有し、また、1kmに到達する前に落下することを前提条件とした場合の、溝13の幅Wや溝13の底面13aの接線と弾軸Cとのなす角度θの最大値(以下、最大傾斜角θ
MAXと称する)について説明する。
【0048】
まず、溝13の幅Wと、最大傾斜角θ
MAXとが異なる射距離抑制弾10を複数製造し、これら射距離抑制弾10を用いて射距離200mで射撃試験を行った場合の旋動減衰モーメントM、平均弾着半径比(実弾による射撃試験における平均弾着半径を基準としたときの値)について説明する。なお、事例1から事例4の各事例における射距離抑制弾10は、12.7mm口径の銃器に用いられる弾丸を対象とし、射距離抑制弾10に設けられる溝13の数は8本としている。
【0049】
射撃試験は、以下の条件で実施される。予め設定した射距離に厚紙を標的として配置し、該厚紙に向けて射撃する。同時に、高速度ビデオカメラを用いて射撃試験の模様を撮影し、撮影により得られた映像から画像を解析することで、射距離抑制弾10の速度、姿勢、旋動数などを求める。なお、射撃試験の模様の撮影は、少なくとも2箇所以上の地点で行う。各地点の高速度ビデオカメラの撮影開始のトリガーとしては、射出時の圧力や振動、銃口前に設置した光センサーなどを利用する。また、着弾点の測定としては、チップボードの任意の点を基準点とし、その基準点から銃痕までの縦軸及び横軸の距離を測定することが挙げられる。
【0050】
旋動減衰モーメントMの測定は、以下の通り実施される。
1)各撮影地点における高速度ビデオカメラの映像から各撮影地点での弾丸の旋動の角速度を計測する。
2)弾丸が各撮影地点を通過する時の、トリガーからの経過時間を求める。
各地点での角速度の差をトリガーからの時間差で割ることで弾丸の角加速度を計算する。
3)角加速度と弾丸の慣性モーメントとの積から旋動減衰モーメントMを算出する。
【0051】
平均弾着半径の測定は、以下の通り実施される。
1)射撃数分の弾着点の平均を平均弾着点として算出する。
2)平均弾着点から角弾着点までの直線距離の平均値を平均弾着半径として算出する。
【0052】
図5に示すように、事例1に示す射距離抑制弾10は、各溝の幅を0.63mm(口径比1/20)、最大傾斜角θ
MAXを22°としている。事例2に示す射距離抑制弾10は、各溝の幅を1.5mm(口径比1/8)、最大傾斜角θ
MAXを22°としている。また、事例3に示す射距離抑制弾10は、各溝の幅を3mm(口径比1/4)、最大傾斜角θ
MAXを22°としている。事例4に示す射距離抑制弾10は、各溝の幅を1.5mm(口径比1/8)、最大傾斜角θ
MAXを43°としている。
【0053】
旋動減衰モーメントMは、実弾を用いた射撃試験で得られる旋動減衰モーメントMを基準とした場合(言い換えれば0とした場合)の値を示している。また、平均弾着半径は、実弾を用いた射撃試験で得られる平均弾着半径を1とした場合の比率を示している。
【0054】
事例1に示す射距離抑制弾10を用いた射撃試験において、旋動減衰モーメントMは−0.0016(N・m)、平均弾着半径比は1.3であった。また、事例2に示す射距離抑制弾10を用いた射撃試験において、旋動減衰モーメントMは−0.0051(N・m)、平均弾着半径比は1.6であった。事例3に示す射距離抑制弾10を用いた射撃試験において、旋動減衰モーメントMは−0.0055(N・m)、平均弾着半径比は3.1であった。事例4に示す射距離抑制弾10を用いた射撃試験において、旋動減衰モーメントMは−0.0044(N・m)、平均弾着半径比は2.7であった。
【0055】
事例1から事例4に示す射距離抑制弾10を用いた射撃試験の結果から、溝13の幅Wが狭くなるにしたがって射距離における平均弾着半径が小さく、旋動減衰モーメントMが小さいことがわかった。つまり、溝13の幅Wが狭いと、射距離抑制弾10が飛翔した際に弾丸周りに発生する境界層に溝が埋もれてしまい、溝13の効果が十分に得られない。その一方で、飛翔時に旋回する弾丸の飛翔安定性が確保され、命中精度が高い。
【0056】
一方、溝13の幅Wが広いと、溝13により発生する旋動減衰モーメントMが大きく、溝13を設けた効果が十分に得られる。その一方で、飛翔時に旋回する弾丸の飛翔安定性が低下し、射距離における命中精度が低くなる。
【0057】
さらに、溝13の幅Wを大きくしすぎると、弾丸の先端における流線形状が減少する。その結果、弾丸の先端側における溝13の端部や溝13の内部で、衝撃波が発生する。したがって、この場合も、旋動減衰モーメントMが大きくなり、弾丸の飛翔安定性が低下する。その結果、射距離における命中精度が低下する。
【0058】
さらに、事例2及び事例4に示す射距離抑制弾10の射撃試験の結果から、最大傾斜角θ
MAXを変化させたとしても、旋動減衰モーメントMの大きさはほぼ同等の値となる。しかしながら、最大傾斜角θ
MAXを大きくした事例4に示す射距離抑制弾10における平均弾着半径比の結果は、事例2に示す射距離抑制弾10における平均弾着半径比よりも大きくなる。つまり、溝13の底面13aの角度を大きくすると、溝13の内部で衝撃波が発生し、衝撃波の発生に起因した外力が弾丸に影響する。
【0059】
上述した事例1から事例4に示す射距離抑制弾10を用いた射撃試験の結果を考慮すると、射距離200mまでの飛翔性能に関して、溝13の幅Wが1.5mm、最大傾斜角θ
MAXが22°に設定された射距離抑制弾10の飛翔性能が、実弾と同等の飛翔性能を有することがわかった。
【0060】
次に、実弾及び軽量化された弾丸を用いた射撃試験において得られた最大飛翔距離の結果を
図6に示す。なお、軽量化された弾丸は、実弾と同一の外形形状である。射撃試験において用いた弾丸は、実弾(45g)の他に、5g,10g,20g,25g,30gに軽量化した弾丸が挙げられる。
【0061】
図6に示すように、弾丸は重いほど最大飛翔距離は長く、軽いほど最大飛翔距離は短くなる。なお、弾丸が軽量化され過ぎると、弾丸は転倒しやすくなる。例えば弾丸の重量が20g以下となる場合、銃口から10m以内で転倒することが多い。したがって、弾丸の重量を軽量化する場合、20g以上30g以下とすることが好ましいことがわかった。
【0062】
最後に、実弾、軽量化のみを行った弾丸、射距離抑制弾10を用いた射撃試験において得られた最大飛翔距離の結果を
図7に示す。なお、本発明の射距離抑制弾10は、幅W=1.5mm、最大傾斜角θ
MAX=22°の溝13を8本設けた。
【0063】
図7に示すように、実弾の最大飛翔距離(6000m)に比べて、軽量化のみを行った弾丸の最大飛翔距離は5000m未満となり、軽量化することで弾丸の最大飛翔距離が短縮されたことがわかる。また、射距離抑制弾10は、最大飛翔距離が900mとなることがわかる。
【0064】
つまり、上記射撃試験では、射距離抑制弾10は、例えば銃口から発射された瞬間から、射距離200mに到達するまでの初期の弾道、言い換えれば弾丸が飛翔する軌道及び飛翔する弾丸の存速(弾道の途中の任意の点を弾丸が通過するときの速度)の存速逓減率(銃口から発射された瞬間の弾丸の速度を初速とした場合、初速と存速との比率)が、実弾とほぼ変わらない。
【0065】
そして、射距離抑制弾10は、外周面に、弾軸周りに弾軸方向に延びる溝16が空気抵抗を受けることにより、ある地点から急速に抗力が大きくなり、弾丸の存速逓減率も増大する。
【0066】
これらにより、射距離抑制弾10は、一定の距離までは実弾と同等の精度で飛翔することができ、存速逓減率を増大させる溝13によって、実弾の持つ最大飛翔距離の約85%まで射距離を減縮することができる。
【0067】
このように、射距離200mにおける射撃において、実弾と同等の飛翔性能を有し、また、飛翔距離が1kmに到達する前に落下する飛翔性能となることを前提条件とした場合、溝の幅Wは1.5mm、最大傾斜角θ
MAXは22°に設定することが最適であることがわかった。
【0068】
なお、射距離200mにおいて実弾と同等の飛翔性能を有し、また、飛翔距離が1kmに到達する前に落下することを前提条件としたときの射距離抑制弾10に設けられる溝13の幅Wや最大傾斜角θ
MAXについて説明しているが、射距離や最大飛翔距離は一例を示したものに過ぎず、これら距離に合わせて、溝の幅W、溝の数及び最大傾斜角θ
MAXの他、弾丸自体の重量が設定されることは言うまでもない。
【0069】
本実施形態では、弾軸方向における後端部の外周面に弾帯を有していない弾丸を例に取り上げているが、弾軸方向における後端部の外周面に弾帯を有する弾丸であっても、本発明に示す溝を設けることで、本発明と同様の効果を得ることができる。
【0070】
本実施形態では、頭部、胴部及び補強材から構成される射距離抑制弾を一例に取り上げているが、頭部及び胴部が一体に設けられた射距離抑制弾であっても、本発明に示す溝を設けることで、本発明と同様の効果を得ることができる。この場合、弾丸の重量を軽量化するために、実弾の材質よりも比重の低い材質を用いてもよいし、実弾の材質と同一の材質を用いてもよい。