(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の特許文献1、2及び3に開示された技術は、ペン芯にインクを供給するためにはポンピング(ペン芯を数回紙に押し付けることによってインクをペン芯に出す)が必要であり、筆記を行うまでに使用者に作業を課すこととなる。
そこで、本発明は、ペン芯に対して大きな筆記荷重がかかった際のペン芯の折れや潰れを防ぐことが可能な筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、以下のような構成を備える。
【0006】
(第1の発明)
本発明のうち第1の発明に係る筆記具1は、軸筒10と、前記軸筒10の内部に収容され、毛細管力によってインクを誘導可能なインク供給芯50と、前記インク供給芯50の外周を覆う芯周囲部材20とを備え、前記インク供給芯50及び前記芯周囲部材20の一部が前記軸筒10の先端から突出した筆記具1において、前記インク供給芯50の先端部分が前記芯周囲部材20の先端から突出しており、かつ、この突出している寸法が前記インク供給芯50の径の100%以上であり、前記インク供給芯50が加圧により前記芯周囲部材20に対して相対的に没入を開始する際に該インク供給芯50に加わるセット荷重が1N以上7N以下に形成され、前記インク供給芯50と前記芯周囲部材20との軸方向の位置関係を相対的に変えることができる変位部材30を備えたことを特徴とする。
【0007】
軸筒10とは、筆記具1の外部構造であり、後端は閉塞していて、先端は先細り形状を呈し、その先端面が開口している。また、軸筒10の内部にはインクが収容される。その方法は特に限定されるものではなく、軸筒10の内部に直接インクを収容するものであってもよいし、インクが充填されたインクリフィルを軸筒10の内部に収容するものであってもよい。
ここで、インク供給芯50の外周の少なくとも一部を後述する被覆部材51で覆うことで、インク供給芯50の剛性や耐摩耗性を向上させることができる。そして、この被覆部材51とは、たとえば、インク供給芯50の外周の少なくとも一部をコーティングしたものなどである。
【0008】
セット荷重とは、インク供給芯50が筆圧等の加圧により芯周囲部材20に対して相対的に没入を開始する際におけるインク供給芯50に加わる荷重を意味する。
変位部材30は、インク供給芯50と芯周囲部材20との位置関係を相対的に変化させることを可能とする手段である。また、変位部材30には、インク供給芯50を芯周囲部材20に対して移動可能に形成してインク供給芯50が変位する場合と、芯周囲部材20をインク供給芯50に対し移動可能に形成して芯周囲部材20が変位する場合の双方を含む。なお、インク供給芯50の外周部分と芯周囲部材20の先端縁との間の距離は、最大0.05mmとすることが望ましい。
なお、インク供給芯50が加圧により芯周囲部材20に対して相対的に没入を開始するということは、当該加圧により生じる前記セット荷重がインク供給芯50に加わることで、該インク供給芯50が後退を開始することと、該芯周囲部材20が前進を開始することとの、両方を含む。
【0009】
(第2の発明)
本発明のうち第2の発明は、前記した第1の発明の特徴に加え、前記変位部材30は、前記芯周囲部材20の後方に配置される弾性部材33を備え、前記弾性部材33が引張又は圧縮されることで、前記インク供給芯50と前記芯周囲部材20との位置関係を相対的に変えることができるものであり、前記インク供給芯50の前記芯周囲部材20からの突出部分を初期位置として、前記インク供給芯50の先端に荷重を加え前記弾性部材33が引張又は圧縮されることで、前記インク供給芯50が前記芯周囲部材20に対して相対的に後方へ移動することができるように形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明は、前記第1の発明における変位部材30を特定したものである。すなわち、本発明における変位部材30が備える弾性部材33は、ゴムやスプリング等の弾性を有する素材から形成され、弾性部材33が有する弾性作用によって引張又は圧縮された形状を初期の形状に復元することができるものである。
この弾性部材33は、自己の弾性作用に伴って、インク供給芯50と芯周囲部材20との相対的な位置関係を、インク供給芯50を芯周囲部材20に対し相対的に後方へ移動させた位置(以下、没入位置とする。)と、芯周囲部材20の先端からインク供給芯50を突出させた位置(以下、突出位置とする。)とに変化させることができる。
【0011】
(第3の発明)
本発明のうち第3の発明は、前記した第1、第2の発明の特徴に加え、前記インク供給芯50の内部には、毛細管力が発生する間隙を有したインク供給空間が形成され、前記インク供給空間の毛細管力によりインクを誘導することを特徴とする。
本発明は、前記第1、第2の発明におけるインク供給芯50において、毛細管力の発生箇所を特定したものである。
第3の発明におけるインク供給空間は、インク供給芯50を押出成形によって形成する際に、内部に微細に管理された通路を残すことで、その通路を用いてインクを誘導するというものである。
【0012】
(第4の発明)
本発明のうち第4の発明は、前記した第1、第2の発明の特徴に加え、前記インク供給芯50の外部には、毛細管力が発生する間隙を有したインク供給空間が形成され、前記インク供給空間の毛細管力によりインクを誘導することを特徴とする。
本発明は、前記第1、第2の発明におけるインク供給芯50において、毛細管力の発生箇所を特定したものである。
第4の発明におけるインク供給空間は、インク供給芯50を押出成形によって形成する際に、外部に微細に管理された通路を残すことで、その通路を用いてインクを誘導するというものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上のように構成されているので、以下の作用効果を奏する。
本発明に係る筆記具は、変位部材によりインク供給芯と芯周囲部材との相対的な位置関係を変化させることができる。そのため、インク供給芯が突出位置にある場合には、インク供給芯のみ筆記面に接触させることができるため、インク供給芯が保持しているインクによって描線を描くことができる。
一方、インク供給芯に対して大きな筆記荷重がかかり、インク供給芯が没入位置に移動した場合には、インク供給芯の代わりに芯周囲部材が筆記荷重を受けることとなるため、インク供給芯の折れや潰れを防ぐことができる。そのため、本発明は、特にインク供給芯の外径が1.0mm以下の細い描線を描く筆記具に適している。
【0014】
また、変位部材が弾性部材を備える場合には、以下の作用効果を奏する。
弾性部材は、インク供給芯に対して大きな筆記荷重がかかるとその弾性作用に伴って、インク供給芯を没入位置に移動させることができる。一方、弾性部材は、インク供給芯への筆記荷重が減少すると弾性作用により初期の形状に戻り、それに伴ってインク供給芯を突出位置へ移動させることができる。
【0015】
さらに、上記の構成によれば、弾性作用による弾性部材の変形に伴う内容積の変化を利用して、インク供給空間を筆記荷重によって加圧状態とすることができる結果、初筆時のインク流出量を良好にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態に係る筆記具1として、軸筒10の先端に筆記先端としてのインク供給芯50を備えた筆記具1を例に説明する。なお、本発明において、筆記具1及びその構成部品についての「前方」及び「先端」とはインク供給芯50を備えた方向を示し、「後方」及び「後端」とはその反対側の方向を示すものとする。
【0018】
(第1の実施の形態)
(全体構成)
第1の実施の形態に係る筆記具1は、
図1(A)に示すように、先軸11及び後軸12を備えた軸筒10と、先軸11の前方側に固定された芯周囲部材20とを備えた外観を呈している。また、軸筒10の内部には、
図1(B)に示すように先軸11の前方側から芯周囲部材20の先端にかけて筆記先端としてのインク供給芯50が収容されている。なお、
図2(A)は、没入位置における筆記具1の外観を示した正面図であり、インク供給芯50の芯周囲部材20からの突出している寸法が
図1(A)と比べて小さくなっている以外は、
図1(A)と同様の構成となっている。また、
図2(B)についても、インク供給芯50の芯周囲部材20からの突出している寸法が
図1(B)と比べて小さくなっている以外は、
図1(B)と同様の構成となっている。
【0019】
(軸筒10)
本実施の形態に係る筆記具1の構造は、
図1(B)に示すように、後端が閉鎖された筒形状のインクタンク13と、先端が先細り形状を呈している筒形状の先軸11と、後端を閉鎖された筒形状の後軸12とからなる。先軸11の後端の内周には、インクタンク13の先端が嵌入している。後軸12の先端の内周には先軸11の後端が嵌入している。
【0020】
(先軸11)
図1(B)に示すように、先軸11は、略筒状でその先端は先細り形状を呈している。先軸11の外周には、先軸11の後端から先軸11の全長の約1/4の距離を隔てた位置に先軸鍔部15が設けられている。先軸鍔部15の外径は後軸12の外径と略同径であり、後軸12の先端が当接している。また、先軸11は、先軸鍔部15を境にして、略円筒状を呈した後方側の先軸後部14と、先細り形状を呈した前方側の先軸前部16とを備える。
【0021】
図3(A)に示すように、先軸前部16の先端部分には、段部をもって縮径し、後述する変位部材30の先端が貫通する先軸前部縮径孔16aと、再び段部をもって縮径し、先軸前部縮径孔16aの前方に連設している芯周囲部材挿入孔16bとが設けられている。芯周囲部材挿入孔16bには芯周囲部材20が挿入される。なお、先軸前部16の先端近傍の外周には、比較的幅広の溝が設けられており、滑り止めとなるグリップ部材17が装着されている。
【0022】
(コレクター40)
図1(B)に示すように、先軸前部16の内部には、ABS樹脂製のコレクター40が圧入されている。コレクター40には、複数枚の板状部材が軸方向に平行に配され、この板状部材間に図示しないインクが保留可能となっている。さらに、そのコレクター40の軸心には、繊維束体により形成されたコレクター芯41が貫装されている。また、コレクター40の前方には変位部材30が装着される。
【0023】
(変位部材30)
図5(A)に示すように、変位部材30は、略筒状の中心部材31と、中心部材31の中間より後方寄りの外周においてコレクター40の先端の厚さ分の空隙部34を隔てて成形された略筒状の周辺部材32と、周辺部材32の先端から、中心部材31の中間より前方寄りの位置までを覆うように形成された弾性部材33とからなる。
【0024】
(中心部材31)
図3(A)に示すように、中心部材31の内部には、後方からコレクター芯41が挿入され、前方からインク供給芯50が挿入される。インク供給芯50の後端はコレクター芯41の先端へ刺設されている。
図5(C)に示すように、中心部材31の内周には、コレクター芯41と略同径の後方挿入孔31aが中心部材31の後端から中間より先端寄りの位置にかけて設けられ、インク供給芯50と略同径の前方挿入孔31cがその前方に設けられている。
【0025】
また、中心部材31の外周の中間付近に円環状の中心部材鍔部31eが形成されている。さらに、中心部材31は、後端から中心部材鍔部31eまでの後方円柱部後部31dと、中心部材鍔部31eから後方挿入孔31aの先端よりも後端寄りの箇所までに位置する後方円柱部前部31fと、後方円柱部前部31fの先端から後方挿入孔31aの先端のやや前方までに位置する中間円柱部31gと、中間円柱部31gの先端から中心部材31の先端までに位置する前方円柱部31hとからなる。なお、変位部材30にインク供給芯50を装着した状態で、前方円柱部31hの中間辺りに外周から内側にポンチ加工を施して内方突起35が形成される(
図3参照)。この内方突起35は、インク供給を阻害しない程度の力でインク供給芯50を押圧することで、中心部材31とインク供給芯50とを固定している。そして、中心部材31とインク供給芯50とが固定されているため、インク供給芯50の動きに伴い、変位部材30の中心部材31がともに移動することとなっている。
【0026】
ここで、後方円柱部後部31d及び後方円柱部前部31fの外径は、コレクター40の先端部の内径と略同径であり、中間円柱部31gの外径は、後方円柱部前部31fの外径よりやや小径である。さらに、前方円柱部31hの外径は、
図3(A)に示す芯周囲部材20の後方側に設けられた後部挿入孔24の径と略同径である。
【0027】
(周辺部材32)
図5に示す、周辺部材32の内径は、コレクター40の先端部の外径と略同径である。また、
図5(C)に示すように、周辺部材32の内周面32aの中間より後端寄りの箇所に、円環状に形成された周辺部材内方突起32bが設けられている。なお、周辺部材内方突起32bは、コレクター40の先端部を周辺部材32と中心部材31とで挟持すべく設けられている。
【0028】
また、周辺部材32の外周は、その後端から周辺部材内方突起32bまでの間に位置する周辺部材後方外周部32cと、周辺部材後方外周部32cに連設し外径が縮小している周辺部材中間外周部32dと、周辺部材中間外周部32dに連設し、周辺部材32の先端までに位置し外径が縮小している周辺部材前方外周部32eとからなる。
周辺部材前方外周部32eの先端付近には、円環状の周辺部材外方突部32fが設けられている。
【0029】
(弾性部材33)
図5(C)に示すように、弾性部材33は、周辺部材32の周辺部材前方外周部32eを覆い、その外径が周辺部材中間外周部32dの径と略同径であって略円筒状を呈する弾性部材後方円柱部33aと、弾性部材後方円柱部33aに連設し、中心部材鍔部31eの後方寄りの位置までを覆い、段階的に蛇腹状に縮径する連結部33bと、連結部33bに連設し、中間円柱部31gの後方側部分までを覆い、なだらかな先細な円錐形状を呈する弾性部材前方円錐部33cとからなる。
【0030】
弾性部材後方円柱部33aは、周辺部材前方外周部32eの後端から周辺部材前方外周部32eの先端までを覆い、その結果として周辺部材外方突部32fと係合している。
ここで、弾性部材33の内周は、中心部材31及び周辺部材32の外周に密着するように形成され、連結部33bの後端側の内径は、周辺部材32の内径と同一である。また、連結部33bの前方側の内径は段階的に縮径している。
【0031】
(二色成形)
変位部材30は、二色成形により成形された部品であり、中心部材31及び周辺部材32を一次成形で成形し、これら中心部材31及び周辺部材32に対し弾性部材33を二次成形により一体成形している。弾性部材33は、連結部33bにおいて、撓りをもたせるため、弾性樹脂材料によって形成される。
また、弾性樹脂材料としては、成型工程において、金型を用いて、高温下で行うため熱可塑性エラストマーが望ましい。なお、一次成形体である中心部材31及び周辺部材32の材質は、弾性部材33より剛性の高いPBT樹脂等の硬質樹脂が望ましい。
【0032】
(変位部材30の撓みの説明)
以下、
図3を用いて、インク供給芯50に対して大きな筆記荷重がかかった際に突出位置から没入位置へと移動する過程について説明する。
上述のように、本実施の形態における変位部材30は弾性部材33が弾性樹脂材料により形成されているため、インク供給芯50に対して大きな筆記荷重がかかった際に弾性部材33が弾性変形することで撓みが生ずる。
【0033】
具体的には、大きな筆記荷重、すなわち、インク供給芯50が加圧により後退を開始する際にインク供給芯50に加わるセット荷重が本実施の形態においては1Nから7Nの間で設定されており、このセット荷重よりも大きな荷重がかかると、弾性部材33が弾性変形して撓みが生ずる。本実施の形態においてセット荷重を1N以上で設定した理由としては、1Nよりも小さいと、多少の筆記荷重でインク供給芯50が後方に移動してしまい、インク供給芯50ががたついて筆感が悪くなるからである。一方、本実施の形態においてセット荷重を7N以下で設定した理由としては、7Nよりも大きいと、多少の筆記荷重ではインク供給芯50が後方に移動しないため、インク供給芯50がその全ての筆記荷重を受ける結果、インク供給芯50が折れたり潰れたりしてしまうからである。
【0034】
図3(A)は、筆記具1の突出位置を示した拡大断面図であるが、セット荷重よりも大きな荷重がかかった場合には、
図3(B)に示すように、弾性部材33が弾性変形して撓みが生ずることに伴いインク供給芯50も後方に移動して、筆記具1が突出位置から没入位置へ移動する。
【0035】
(芯周囲部材20)
図3(A)に示すように、芯周囲部材20は、円筒状の芯周囲部材固定部21と、芯周囲部材固定部21に対し段部をもって一旦拡径して連設する略円錐形状の芯周囲部材テーパー部22とからなる。芯周囲部材テーパー部22の先端には、面取りされた芯周囲部材先端部23が設けられている。ここで、本実施の形態における芯周囲部材20はポリアセタールで形成されている。
また、芯周囲部材20には、その後端から先端にかけて孔が貫通している。具体的には、芯周囲部材固定部21から芯周囲部材テーパー部22への段部を超えた箇所までの内周が後部挿入孔24であり、その先の芯周囲部材テーパー部22の内周が、段階的に縮径した前部挿入孔25である。
【0036】
ここで、芯周囲部材固定部21は、芯周囲部材挿入孔16bに装着されることで、先軸11に固定される。そして、芯周囲部材20はインク供給芯50及び後述する被覆部材51を被覆する。この際、後部挿入孔24に変位部材30の前方円柱部31h(
図5(B)、(C)参照)が挿入され、前部挿入孔25には、変位部材30から突出するインク供給芯50が挿入される。
【0037】
(インク供給芯50)
図4(A)に示すインク供給芯50は、ポリアセタール等の樹脂素材を押出成形することにより形成される。押出成形時には、毛細管現象によりインク供給芯50の先端までインクを誘導するための通路、すなわちインク供給空間が形成されている。また、
図4(B)に示すように、インク供給芯50の外周は、被覆部材51により覆われている。なお、被覆部材51とは、インク供給芯50の外周を覆うものであればよく、本実施の形態のように独立した筒状の樹脂製の部材であってもよいし、インク供給芯50の外周を樹脂などでコーティングしたものであってもよい。そして、インク供給芯50は被覆部材51によってその外周を覆われていることから、変位部材30への挿入の際にインク供給芯50の外周が他の部材に引っかかりにくくなるため、変位部材30への挿入が容易となり、かつ、インク供給芯50の強度を保つことができる。なお、インク供給芯50は、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種若しくは2種以上の組み合わせからなる並行繊維束やフェルト等の繊維束を加工若しくはこれらの繊維束を樹脂加工した繊維芯、又は、各種のプラスチック粉末などを焼結したポーラス体(焼結芯)としてもよい。
【0038】
なお、上記のインク供給空間は、押出成形時に、インク供給芯50の内部に毛細管力が発生する間隙を形成することも、インク供給芯50の外部に毛細管力が発生する間隙を形成することも可能である。
ここで、本実施の形態においては、インク供給芯50の外周部分と芯周囲部材先端部23との間の距離は、最大0.05mmとなるように形成されている。このように、インク供給芯50の外周部分と芯周囲部材先端部23との間の距離を極力少なくすることで、インク供給芯50に斜め方向から筆記荷重がかかった場合であってもインク供給芯50の後方への移動を容易に行うことができることとなる。
【0039】
また、本実施の形態においては、突出位置におけるインク供給芯50の先端部分が芯周囲部材先端部23から突出している寸法がインク供給芯50の径の100%以上となるように形成されている。すなわち、
図3(A)では、インク供給芯50の先端部分が芯周囲部材先端部23から突出している寸法がインク供給芯50の径よりも長くなっている。具体的には、本実施の形態におけるインク供給芯50の径は0.8mmであるため、突出位置におけるインク供給芯50の先端部分が芯周囲部材先端部23から突出している寸法は、0.8mm以上であればよい。なお、この突出位置におけるインク供給芯50の先端部分が芯周囲部材先端部23から突出している寸法は、1.3mm以上であることが望ましい。
【0040】
(筆記具1の特性)
本実施の形態に係る筆記具1は、変位部材30が3部材からなっており、その特性として周辺部材32と中心部材31とが、同一の一次成形体でありながら、互いに一次成形体としては連続していないため、弾性部材33の連結部33b付近が変形し、変位部材30が撓りやすい構造となっている。
そのため、
図3(B)に示すように、筆記圧によって変位部材30を撓ませることでインク供給芯50と芯周囲部材20との相対的な位置関係が変位し、インク供給芯50を没入位置へと移動させることができる。
【0041】
一方、
図3(A)に示すように、筆記荷重を減らしてインク供給芯50にかかる筆記荷重が弱まった場合には、変位部材30の弾性作用により撓んだ形状が初期の形状に戻り、それに応じてインク供給芯50も突出位置に戻ることとなる。
また、インク供給芯50に対して大きな筆記荷重がかかり、インク供給芯50を没入位置に移動させた場合には、インク供給芯50の代わりに芯周囲部材20が筆記荷重を受けることとなるため、インク供給芯50の折れや潰れを防ぐことができる。さらに、インク供給芯50は芯周囲部材20で覆われている為、筆記具1をぶつけてしまったり、落下により筆記具1に衝撃が加わったりしてもインク供給芯50が破損して筆記不能になることがない。
【0042】
なお、本実施の形態に係る筆記具1は、インク供給芯50に対して後方に大きな筆記荷重がかかると変位部材30の弾性作用に伴って、インク供給芯50が没入位置に移動し、芯周囲部材20の先端からのインク供給芯50の突出距離が小さくなった場合には、滑らかに細い描線を描くことができなくなる。そのため、インク供給芯50が没入位置にある場合において、細い描線を描くためには、使用者は筆記荷重を減少させ、変位部材30の弾性作用によって、インク供給芯50を突出位置に移動させることが必要となる。そして、筆記荷重を減少させ、変位部材30の弾性作用によって、インク供給芯50が突出位置に再び移動した場合には、芯周囲部材20の先端からのインク供給芯50の突出距離が大きくなるので、再び細い描線を描くことができる。
【0043】
さらに、本実施の形態においては、インク供給芯50を樹脂素材で形成し、かつ、芯周囲部材20をポリアセタールから形成することとしている。その結果、インク供給芯50と芯周囲部材20との摩擦係数を減少させることができ、インク供給芯50が後方へ移動する滑りが良好となるため、インク供給芯50に斜めから大きな筆記荷重がかかった場合でもインク供給芯50を後方へ移動させることができることとなっている。
【0044】
(第2の実施の形態)
(全体構成)
第2の実施の形態に係る筆記具1は、
図6(A)に示すように、略円筒形状の軸筒10と、軸筒10の後端に装着される尾栓19と、軸筒10の先端から一部が突出している芯周囲部材20と、芯周囲部材20の先端から一部が突出しているインク供給芯50を備えた外観を呈している。なお、軸筒10の先端側は段階的に縮径した軸筒先端縮径部10aとなっており、この部分には図示しないキャップが装着可能である。
【0045】
(軸筒10)
本実施の形態に係る筆記具1では、
図6(B)に示すように、軸筒10の内部空間がインクタンク13となっていて、その中にポリエステルファイバー製の中綿18が充填されている。中綿18には水性のインクが浸潤している。インクタンク13の先端には、中心に貫通孔のある略円盤状の芯貫通部材60が係止している。尾栓19は軸筒10の後端から挿入される。尾栓19の先端は中綿18の後端と当接している。すなわち、中綿18は、先端が芯貫通部材60で、後端が尾栓19の先端でそれぞれ支持されている。芯貫通部材60の前方には変位部材30が位置し、さらにその前方には芯周囲部材20が位置している。芯周囲部材20の一部は、上述の通り軸筒10の先端から露出している。変位部材30は、略円筒形状の移動部材36と、これに外挿されるスプリングで構成される弾性部材33とからなる。芯周囲部材20及び変位部材30の構造の詳細については後述する。中綿18の先端側部分には棒状のインク供給芯50が刺設されている。このインク供給芯50は、芯貫通部材60の貫通孔を通り、変位部材30及び芯周囲部材20の内部空間を通過して、先端が芯周囲部材20の先端から露出している。
【0046】
(芯周囲部材20)
図7に示すように、芯周囲部材20は、円筒状の後方円柱部26と、その前方に位置とともに外方に拡径する中間フランジ部27と、その前方に位置するとともに段階的に縮径する先端縮径部28とからなる。中間フランジ部27は、より詳しくは、前方に向かってテーパー状に拡径する後向テーパー面27aと、この前方に位置するとともに前方に向かってテーパー状に縮径する前向テーパー面27bとからなる。また、先端縮径部28は、より詳しくは、前方に向かって緩慢に縮径する第1縮径部28aと、その前方に位置するとともに前方に向かってより急激に縮径する第2縮径部28bと、その前方に位置するとともに前方に向かって先端まで再び緩慢に縮径する第3縮径部28cとからなる。また、芯周囲部材20の側面において軸心を挟んで対向する2箇所が、第1縮径部28aの後方部分を平面上に削ぎ落とすとともに中間フランジ部27及び後方円柱部26を切り欠いた通気溝29として形成されている。インク供給芯50が突出位置にある状態では、この通気溝29と軸筒10の先端開口との間で生じた隙間29aによって軸筒10の内外の通気が可能となっている(
図10参照)。ここで、この芯周囲部材20はポリアセタールで形成されている。
【0047】
また、芯周囲部材20には、その後端から先端にかけて孔が貫通している。具体的には、後端から第1縮径部28aの中途箇所までの内周部分が後部挿入孔24であり、その先のより小径の内周部分が前部挿入孔25である。
【0048】
(変位部材30)
図6(B)に示すように、変位部材30は、略円筒形状の移動部材36と、これに外挿される弾性部材33で構成される。
図8に示すように、移動部材36は円筒形状の中間円柱部36bと、中間円柱部36bの後端がフランジ状に拡径した後端フランジ部36cと、中間円柱部36bの先端側が縮径した先端円柱部36aとからなる。後端フランジ部36cの円周において軸心を挟んで対向する2箇所の円弧部分が切り欠かれた切欠部36dとなっている。
【0049】
図9に示すように、芯貫通部材60の弾性部材33は中間円柱部36bの外周面に外挿される。弾性部材33の後端は後端フランジ部36cの前方側の面で支持される。ここで、軸筒先端縮径部10aの内部において、芯貫通部材60の前方部分の内径は弾性部材33の外径より大きく、この部分が変位部材収容部10bとなっている。また、変位部材収容部10bの前方の空間は段差10cをもって縮径した軸筒縮径部10dとなっている。軸筒縮径部10dの内径は弾性部材33の外径より小さい。弾性部材33の先端はこの段差10cで支持される。軸筒縮径部10dの先端部分の内径はわずかに拡径しておりこの部分が軸筒先端孔10eとなっている。
【0050】
芯周囲部材20の後方円柱部26は、
図9に示すようにインク供給芯50が突出位置にある状態(以下、「突出状態」とする。)においては、軸筒縮径部10d及び軸筒先端孔10eの内部に位置している。そして、段差10cに跨がる位置で、移動部材36の先端円柱部36aは、芯周囲部材20の後端から後部挿入孔24に圧入されて固定されている。突出状態においてはさらに、中間フランジ部27の後向テーパー面27aが軸筒先端孔10eの先端縁と当接している。インクタンク13から芯貫通部材60及び変位部材30を貫通したインク供給芯50は後部挿入孔24を通り前部挿入孔25を摺動自在に貫通してその先端を第3縮径部28cの先端から露出させている。なお、インク供給芯50の材質については前記第1の実施形態と同様である。
【0051】
(変位部材30の撓みの説明)
突出状態においては、
図9に示すように、弾性部材33によって移動部材36が後方に付勢され、後端フランジ部36cが芯貫通部材60に当接している。これにより、移動部材36に固定されている芯周囲部材20も後方へ付勢され、中間フランジ部27の後向テーパー面27aが軸筒先端孔10eの先端縁と当接している。この状態を斜視図で示したのが
図10であり、インク供給芯50の先端は芯周囲部材20に対して相対的に突出した状態を保っている。
【0052】
筆記状態においては、インク供給芯50は筆記面に対して垂直に押圧されることは稀であり、幾分かの角度をもって斜めに押圧されることが多い。その場合、インク供給芯50に加圧により撓みが生ずるが、この撓みにより生じた力により、筆記面とはインク供給芯50を挟んだ反対側の中間フランジ部27の後向テーパー面27aが軸筒先端孔10eの先端縁から滑るようにして前方へ移動する。一方、この反対側の中間フランジ部27は軸筒先端孔10eの先端縁から離れる。これに伴い、
図11に示すように芯周囲部材20は軸筒に対して斜めに傾いた状態となる。そして芯周囲部材20に固定されている移動部材36もこれに伴い同様に傾いた状態となって、芯貫通部材60の端面から離れる。そして、芯周囲部材20が先端方向へ移動したことによって、インク供給芯50の先端は芯周囲部材20に対して相対的に没入した状態となる(以下、「没入状態」とする。)。
【0053】
この没入状態から、筆記先端を紙面から離すと、インク供給芯50への加圧が解かれ、弾性部材33が復元し、芯周囲部材20もそれに伴い軸筒先端縮径部10aの内部へ後退し、
図9及び
図10に示す突出状態に復帰する。
【0054】
(その他)
なお、上記第2の実施の形態では弾性部材33としてのスプリングは筆記先端への加圧によって圧縮されることとなっているが、それには限られない。たとえば、
図9に示す突出状態において、移動部材36と芯貫通部材60とが離間した位置を保つとともに、これらの部材が、これらの間に介在する、弾性部材33としての自然長のスプリングで連結されるようにすることができる。このようにすることで、筆記先端に何らの力もかかっていない状態では、移動部材36が常に弾性部材33によって後方に引きつけられているようにすることができる。そして、インク供給芯50が加圧された際には、弾性部材33が引っ張られて延伸することを除けば、第2の実施の形態に示すのと同様に芯周囲部材20を挙動させることが可能である。