特許第6804927号(P6804927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804927
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】麦汁の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 7/04 20060101AFI20201214BHJP
   C12G 3/021 20190101ALI20201214BHJP
【FI】
   C12C7/04
   C12G3/021
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-205389(P2016-205389)
(22)【出願日】2016年10月19日
(65)【公開番号】特開2018-64502(P2018-64502A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】松浦 諒
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 博司
(72)【発明者】
【氏名】呉 鴻規
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第96/025483(WO,A1)
【文献】 特開2013−255464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 1/00−13/10
C12G 3/00−3/08
FSTA/CAplus/WPIDS/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽を含む穀物原料と水とを含む混合物を糖化処理して麦汁を調製する仕込工程を有し、
前記仕込工程において、仕込開始後直ちに、前記混合物中の麦芽由来の酵素群の少なくとも一部を失活させる酵素失活処理を行い、その後、前記混合物に対してプリンヌクレオシダーゼ処理を行い、
酵母資化性プリン体の総含有量に対する、酵母非資化性プリン体の総含有量の比率が0.5以下である麦汁を製造し、
前記酵素失活処理が、前記混合物を62.5℃以上65℃以下で1分間以上保持する処理であり、
前記酵素失活処理後、前記プリンヌクレオシダーゼ処理の前に、前記混合物を60℃以下に冷却することを特徴とする、麦汁の製造方法。
【請求項2】
前記酵素失活処理が、前記混合物を62.5℃以上65℃以下1〜120分間保持する処理である、請求項1に記載の麦汁の製造方法。
【請求項3】
前記酵素失活処理後、前記プリンヌクレオシダーゼ処理の前に、前記混合物に水を添加して60℃以下に冷却する、請求項1又は2に記載の麦汁の製造方法。
【請求項4】
前記穀物原料に対する麦芽の比率が50%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の麦汁の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の麦汁の製造方法により製造された麦汁を発酵させる工程を有することを特徴とする、発酵麦芽飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリン体を多く含む麦芽を原料としているにもかかわらず、プリン体含有量が非常に少ない発酵麦芽飲料を製造するための原料として好適な麦汁の製造方法、及び当該麦汁を発酵して得られた発酵麦芽飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒等のビール様発泡性飲料においては、消費者の嗜好の多様化にともない、多種多様の商品が上市されている。さらに、近年の消費者の健康志向から、ビール様発泡性飲料における糖やカロリー量、さらにはプリン体含有量への関心が高まっている。
【0003】
麦芽はビールらしさを担う重要な原料であるが、プリン体を多く含むため、ビール様発泡性飲料のうち麦芽使用比率の高い飲料は、特にプリン体含有量が多くなってしまう。ビール様発泡性飲料中のプリン体含有量を低減させる方法としては、活性炭を用いてプリン体を除去する方法が知られている。しかしながら、活性炭処理では、プリン体や劣化臭の原因物質だけではなく、色素や苦味物質、ビールらしさを引き出す香気成分等の有用な成分も同時に吸着除去されてしまうという問題がある。
【0004】
活性炭処理を行わずにプリン体含有量を低減させたビール様発泡性飲料を製造する方法として、例えば特許文献1には、麦汁にヌクレオシドホスホリラーゼ及び/又はヌクレオシダーゼを作用させる方法が開示されている。ヌクレオシダーゼ及び/又はヌクレオシドホスホリラーゼを用いることにより、麦汁に含まれるプリン体のうちアデノシン及びグアノシンがそれぞれアデニン及びグアニンに変換され、変換されたアデニン及びグアニンが酵母に資化されることによって、全体のプリン体が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第96/25483号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、ヌクレオシダーゼ等による処理を行っていない従来の製造方法で製造されたビール様発泡性飲料よりはプリン体含有量を抑えることができるものの、プリン体低減効果が不充分であった。
【0007】
本発明は、原料に占める麦芽使用比率が高いにもかかわらず、プリン体含有量が非常に少ない発酵麦芽飲料を製造するための麦汁、当該麦汁を用いて製造された発酵麦芽飲料、及びこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、単に麦汁をヌクレオシダーゼ処理しただけでは、プリン体のうちの相当量が、酵母に資化されないキサンチンに変換されてしまうこと、麦汁の調製において、糖化処理の開始後直ちに麦芽に由来する酵素の少なくとも一部を失活させた後、ヌクレオシダーゼ処理を行うことによって、麦汁における酵母非資化性プリン体であるキサンチン、アデノシン、及びグアノシンのプリン体全体に占める比率を抑えられることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係麦汁の製造方法及び発酵麦芽飲料の製造方法は、下記[1]〜[]である。
[1] 麦芽を含む穀物原料と水とを含む混合物を糖化処理して麦汁を調製する仕込工程を有し、
前記仕込工程において、仕込開始後直ちに、前記混合物中の麦芽由来の酵素群の少なくとも一部を失活させる酵素失活処理を行い、その後、前記混合物に対してプリンヌクレオシダーゼ処理を行い、
酵母資化性プリン体の総含有量に対する、酵母非資化性プリン体の総含有量の比率が0.5以下である麦汁を製造し、
前記酵素失活処理が、前記混合物を62.5℃以上65℃以下で1分間以上保持する処理であり、
前記酵素失活処理後、前記プリンヌクレオシダーゼ処理の前に、前記混合物を60℃以下に冷却することを特徴とする、麦汁の製造方法。
[2] 前記酵素失活処理が、前記混合物を62.5℃以上65℃以下1〜120分間保持する処理である、前記[1]の麦汁の製造方法。
] 前記酵素失活処理後、前記プリンヌクレオシダーゼ処理の前に、前記混合物に水を添加して60℃以下に冷却する、前記[1]又は[2]の麦汁の製造方法。
] 前記穀物原料に対する麦芽の比率が50%以上である、前記[1]〜[]のいずれかの麦汁の製造方法。
] 前記[1]〜[]のいずれかの麦汁の製造方法により製造された麦汁を発酵させる工程を有することを特徴とする、発酵麦芽飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、プリン体を多く含む麦芽を原料としているにもかかわらず、プリン体含有量が非常に少ない発酵麦芽飲料、及び当該飲料を製造するための麦汁を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各プリン体をLC−UV分析したクロマトグラフである。
図2】実施例1において、サンプル1の糖化処理における温度ダイアグラムである。
図3】実施例1において、サンプル2の糖化処理における温度ダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明及び本願明細書における発酵麦芽飲料とは、ビールらしさ(香味上ビールを想起させる呈味)を有する発泡性飲料(ビール様発泡性飲料)のうち、麦芽を原料として用い、かつ酵母による発酵工程を経て製造される飲料である。発酵麦芽飲料のアルコール濃度は限定されず、0.5容量%以上のアルコール飲料であってもよく、0.5容量%未満のいわゆるノンアルコール飲料であってもよい。具体的には、ビール、発泡酒、ノンアルコールビール等が挙げられる。発酵工程を経て製造された飲料に、アルコール含有蒸留液を混和して得られたリキュール類も、本発明における発酵麦芽飲料に含まれる。
【0013】
なお、アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。例えば、原料用アルコール、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等を用いることができる。
【0014】
本発明及び本願明細書において、プリン体とは、アデニン、キサンチン、グアニン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種に加えて、アデニル酸及びグアニル酸のようなプリンヌクレオチドと、アデノシン、グアノシン等のようなプリンヌクレオシドも含まれる。なお、アデニン、グアニン、アデニル酸、及びグアニル酸は酵母資化性プリン体であり、アデノシン、グアノシン、キサンチンは、酵母非資化性プリン体である。ただし、麦汁中の定量では、アデニル酸はアデニンと区別して定量することができず、グアニル酸はグアニンと区別して定量することができない。このため、本願発明及び本願明細書では、「アデニン」には、アデニン塩基とアデニル酸の両方が含まれる。「グアニン」も同様である。麦汁や飲料中のプリン体含有量は、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC−MS/MSを用いて検出する方法(「酒類のプリン体の微量分析のご案内」、財団法人日本食品分析センター、インターネット<URL: http://www.jfrl.or.jp/item/nutrition/post-31.html>、平成25年1月検索)や、LC−UVを用いた藤森らの方法(藤森ら:「尿酸」、1985年、第9巻、第2号、第128ページ。)等により測定することができる。
【0015】
特許文献1に記載の方法のように、麦汁をプリンヌクレオシダーゼ処理した場合には、麦汁中のアデノシン及びグアノシンの含有量を顕著に低下させることができるが、得られた麦汁を発酵させても、プリン体総含有量は十分に低下しない。このように、プリンヌクレオシダーゼ処理によるプリン体低減効果が限定的である理由は明らかではないが、糖化処理の間に、アデニンやグアニンがキサンチンへ変換されているためと推察される。実際に後記実施例に示すように、プリンヌクレオシダーゼ処理だけでは、麦汁中のキサンチン含有量はさほど低減されていなかった。酵母非資化性のキサンチンは発酵工程以降でも系外に除去されないため、プリンヌクレオシダーゼ処理のみによっては、最終的に得られる発酵麦芽飲料中のプリン体濃度を充分に低くすることはできなかった。
【0016】
本発明に係る麦汁の製造方法は、麦芽を含む穀物原料と水とを含む混合物を糖化処理して麦汁を調製する仕込工程を有し、前記仕込工程において、仕込開始後直ちに、前記混合物中の麦芽由来の酵素群の少なくとも一部を失活させる酵素失活処理を行い、その後、前記混合物に対してプリンヌクレオシダーゼ処理を行うことを特徴とする。麦芽由来の酵素群の少なくとも一部を失活させることにより、アデニン及びグアニンのキサンチンへの変換を抑えることができる。その後、プリンヌクレオシダーゼ処理を行うことにより、麦汁中の酵母非資化性であるアデノシン及びグアノシンを、酵母資化性であるアデニン及びグアニンに変換する結果、プリン体全体に占める酵母非資化性プリン体の占める比率(非発酵プリン体比率)を従来になく顕著に低く抑えることができる。
【0017】
仕込工程において、糖化処理に供される麦芽と水を含む混合物に対して行われる酵素失活処理は、麦芽由来の酵素群の少なくとも一部が失活する処理であれば特に限定されるものではなく、一般的に酵素を失活させる処理の中から適宜選択して行うことができる。本発明においては、酵素以外の他の成分への影響が小さく、得られる麦汁やこれを原料として得られる発酵麦芽飲料の香味を損なうおそれが小さいことから、当該混合物を、麦芽由来の酵素が失活するほどの高温条件下で保持する処理が好ましい。この高温処理の温度及び時間は、麦芽由来のアデニンやグアニンをキサンチンに変換する反応に寄与する酵素を失活させるために十分であればよく、糖化処理に供される混合物の量や使用する麦芽の量等を考慮して適宜決定することができる。本発明において前記混合物に対してなされる高温処理の温度としては、キサンチンへの変換酵素を充分に失活させられるため、62.5℃以上が好ましく、糖化処理の効率も充分し得ることから、63〜80℃がより好ましく、63〜72℃がさらに好ましい。また、当該高温処理の時間は、1分間以上が好ましく、1〜120分間がより好ましく、30〜90分間がさらに好ましい。
【0018】
酵素失活処理の後、前記混合物にプリンヌクレオシダーゼを添加し、プリンヌクレオシダーゼが酵素活性を有する温度で保持することにより、糖化処理と共にプリンヌクレオシダーゼ処理を行う。
【0019】
本発明において用いられるプリンヌクレオシダーゼは、微生物由来の酵素であってもよく、動物由来の酵素であってもよく、植物由来の酵素であってもよい。また、天然型の酵素であってもよく、天然型の酵素に人工的に適宜変異等が導入された改変体であってもよい。
【0020】
当該プリンヌクレオシダーゼ処理におけるプリンヌクレオシダーゼの量や反応温度、反応時間等の条件は、充分量のアデノシンやグアノシンをアデニンやグアニンへ変換できる条件であれば特に限定されるものではなく、使用するプリンヌクレオシダーゼの種類や酵素活性の強度等を考慮して適宜調整することができる。例えば、使用するプリンヌクレオシダーゼの量を多くしたり、プリンヌクレオシダーゼ処理の時間を長くすることにより、仕込工程後に得られる麦汁中のアデノシンとグアノシンの含有量をより低下させることができる。なお、本発明におけるヌクレオシダーゼの1Uは、1ppmのグアニンをグアノシンから遊離させるのに必要な酵素量として定義する。例えば、100U/kg grist(穀物原料1kg当たり100U)以上、好ましくは500U/kg grist以上、より好ましくは1000U/kg grist以上のプリンヌクレオシダーゼを用いて、好ましくは10分間以上、より好ましくは30分間以上、さらに好ましくは60分間以上、よりさらに好ましくは60〜120分間保持することにより、効率よくプリンヌクレオシダーゼ処理を行うことができる。また、プリンヌクレオシダーゼ処理の時間を長くすることにより、使用するプリンヌクレオシダーゼの量を少なく抑えることもできる。
【0021】
本発明に係る麦汁の製造方法により、酵母資化性プリン体の総含有量に対する、酵母非資化性プリン体の総含有量の比率が充分に小さい麦汁を製造することができる。具体的には、アデニンとグアニンの含有量の和に対する、アデノシンとグアノシンとキサンチンの含有量の和の比率[([アデノシン]+[グアノシン]+[キサンチン])/([アデニン]+[グアニン])](以下、「非発酵比率」)が0.5以下である麦汁を製造することができる。本発明に係る麦汁の製造方法としては、仕込工程終了時点の非発酵比率が0.3以下の麦汁を製造することが好ましく、0.35以下の麦汁を製造することがより好ましい。
【0022】
一般的にプリンヌクレオシダーゼは、62℃以上では失活してしまい、充分な酵素活性が得られない。そこで、本発明において、酵素失活処理を高温処理で行った場合には、プリンヌクレオシダーゼを添加する前に、前記混合物の温度を、プリンヌクレオシダーゼが充分な酵素活性を発揮し得る温度にまで冷却する必要がある。前記混合物の冷却方法は特に限定されるものではなく、例えば、熱交換器を用いた冷却処理を行うこともできる。本発明においては、より簡便に前記混合物の液温を低下させられることから、常温の原料水を混合させることが好ましい。プリンヌクレオシダーゼが充分な酵素活性を発揮し得る温度は、使用するプリンヌクレオシダーゼの種類に応じて適宜設定される。本発明においては、糖化処理の効率も良好であるため、高温処理後の前記混合物の液温を60℃以下にまで低下させることが好ましく、58℃以下にまで低下させることがより好ましく、50〜55℃にまで低下させることがさらに好ましい。
【0023】
本発明に係る麦汁の製造方法は、仕込工程において酵素失活処理及びプリンヌクレオシダーゼ処理を行う以外は、一般的な麦汁と同様にして製造できる。
【0024】
具体的には、仕込工程として、麦芽を含む穀物原料と水を少なくとも含有する混合物を調製し、この混合物を糖化処理する。
【0025】
穀物原料は、麦芽のみからなるものであってもよく、麦芽と麦芽以外の穀物原料の両方を用いてもよい。麦芽以外の穀物原料としては、例えば、大麦や小麦等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであればよい。本発明においては、用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であることが好ましい。また、例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米やトウモロコシの粉砕物を用いてもよい。
【0026】
本発明に係る麦汁の製造方法は、麦芽の使用量が多い場合でも、プリン体の非発酵比率の低い麦汁を製造することができる。このため、本発明の効果がより充分に発揮されることから、本発明においては、穀物原料と糖質原料の総量に対する麦芽使用量の比率(麦芽使用比率)が50%以上であることが好ましく、67%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0027】
本発明において、糖化処理に供される穀物原料と水の混合物には、糖質原料が含有されていてもよい。糖質原料としては、例えば、液糖等の糖類が挙げられる。
【0028】
糖化処理に供される混合物には、穀物原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、酵母エキス、甘味料、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
【0029】
穀物原料と水を含有し、必要に応じてその他の原料を含有している混合物を、加温し、穀物原料等の澱粉質を糖化させる。糖化処理は、穀物原料等由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度や時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の比率、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵麦芽飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、穀物原料等を含む混合物を35〜70℃で20〜90分間保持する等、常法により行うことができる。本発明において、酵素失活処理を高温処理で行う場合には、例えば、穀物原料と水を含有する混合物を、仕込工程開始から62.5℃以上で1分間以上、好ましくは63〜80℃で30〜90分間保持した後、常温の原料水を添加して液温を60℃以下、好ましくは50〜60℃に低下させた後、プリンヌクレオシダーゼを添加して60〜120分間保持し、さらに75〜90℃で1〜30分間保持して酵素を失活させることにより、プリンヌクレオシダーゼ処理と糖化処理を行うことができる。
【0030】
糖化処理後に得られた麦汁は煮沸してもよい。煮沸処理前に、麦汁は濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する麦汁を製造することができる。特にホップは、煮沸処理前又は煮沸処理中に添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0031】
糖化処理後、又はその後の煮沸処理後の麦汁は、沈殿により生じたタンパク質等の粕を除去することが好ましい。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の麦汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50〜80℃程度で行われる。粕を除去した後の麦汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この粕を除去した後の麦汁が、後記の発酵麦芽飲料を製造するための発酵原料液となる。
【0032】
こうして得られた麦汁は、酵母資化性プリン体の総含有量に対する、酵母非資化性プリン体の総含有量の比率が0.5以下であり、プリン体総量に占める酵母非資化性プリン体の比率が非常に小さい。このため、この麦汁を発酵させることにより、プリン体含有量が非常に小さい発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0033】
本発明に係る発酵麦芽飲料の製造方法は、本発明に係る麦汁の製造方法により製造された麦汁を発酵させる工程を有することを特徴とする。本発明に係る発酵麦芽飲料の製造方法は、本発明に係る麦汁の製造方法により製造された麦汁を発酵原料液とする以外は、一般的な発酵麦芽飲料と同様にして製造できる。
【0034】
具体的には、発酵工程として、冷却した発酵原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0035】
発酵工程におけるアルコール発酵を抑制することにより、発酵により生成されるアルコール量がより低減される。したがって、特に、アルコール濃度が1容量%未満の発酵麦芽飲料を製造する場合には、発酵工程における発酵度を下げることも好ましい。
【0036】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵麦芽飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が4〜5μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。また、所望のアルコール濃度とするために、濾過前又は濾過後に適量の加水を行って希釈してもよい。得られた発酵麦芽飲料は、通常、充填工程により瓶詰めされて、製品として出荷される。
【0037】
その他、酵母による発酵工程以降の工程において、例えばアルコール含有蒸留液と混和することにより、酒税法におけるリキュール類に相当する発酵麦芽飲料を製造することができる。アルコール含有蒸留液の添加は、アルコール濃度の調整のための加水前であってもよく、加水後であってもよい。添加するアルコール含有蒸留液は、より好ましい麦感を有する発酵麦芽飲料を製造し得ることから、麦スピリッツが好ましい。
【0038】
酵母による発酵によって、麦汁(発酵原料液)中の酵母資化性プリン体は資化されるため、充分に発酵させることにより、最終的に得られる発酵麦芽飲料に含まれるプリン体は、酵母非資化性プリン体のみになる。このため、プリン体の非発酵比率が高い麦汁を発酵原料液とした本発明に係る発酵麦芽飲料の製造方法により、発酵原料(麦汁製造時に用いた穀物原料。麦汁製造時に糖質原料を用いた場合には、穀物原料と糖質原料の総量)に対する麦芽の使用比率が50%以上であったとしても、プリン体含有量が40ppm以下と非常に低い発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0039】
プロリンは、麦芽等の麦に比較的多く含まれており、発酵工程を経ても、最終製品での残存量においてあまり変化しないアミノ酸である。このため、麦芽使用比率が高いビール様発泡性飲料では、麦芽使用比率が低いビール様発泡性飲料や麦芽を使用していないビール様発泡性飲料に比べて、プロリン含有量が明らかに多くなる。つまり、ビール様発泡性飲料中のプロリン含有量は、原料として用いた麦の使用量の目安、特に麦芽の使用量の目安になる。本発明に係る発酵麦芽飲料の製造方法によって製造された発酵麦芽飲料としては、プロリン含有量が4mg/100mL以上であるものが好ましく、7mg/100mL以上であるものがより好ましく、10mg/100mL以上であるものがさらに好ましい。例えば、発酵原料に対する麦芽の使用比率を高くし、プロリン含有量の高い発酵麦芽飲料が製造される場合であっても、本発明に係る発酵麦芽飲料の製造方法により、プロリン含有量(mg/100mL)に対する総プリン体含有量(ppm)比が従来になく低い、例えば2.0以下であり、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.0以下である発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0040】
なお、麦汁や発酵麦芽飲料のプロリン含有量は、例えば、(米国)ウォーターズ社製Acquity UPLC分析装置を用いて、アキュタグウルトラ(AccQ−Tag Ultra)ラベル化法により測定することができる。また、日立社製アミノ酸自動分析装置L−8800A型などを用いて測定することも可能である。
【実施例】
【0041】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
<プリン体濃度の測定>
以降の実施例において、麦汁や飲料中のプリン体の含有量は、LC−UVを用いた藤森らの方法(藤森ら:「尿酸」、1985年、第9巻、第2号、第128ページ。)に準じて、下記の条件で定量した。
【0043】
カラム:Shodex Asahipak GS−320 HQ(7.5mm I.D.×300mm)
溶出液:50mM KHPO(pH 2.5)
溶出速度:0.8mL/min
検出器:UV(260nm)
カラム温度:35℃
【0044】
アデニンとアデノシン、グアニンとグアノシンを分別して測定する場合には、過塩素酸処理を施さず分析した。この際、プリンヌクレオシドの濃度を用いると、リボース構造分濃度が大きく算出されるため、必要に応じてプリンヌクレオシドに含まれるプリン塩基の濃度に換算した。すなわちヌクレオシド形態で存在するグアニン塩基濃度(分子量151.13)及びアデニン塩基濃度(分子量135.13)は、グアノシン(分子量283.24)及びアデノシン(分子量267.24)の濃度に、それぞれ0.53、0.51を乗じることで算出した。
【0045】
各プリン体のLC−UV分析のクロマトグラフを図1に示す。クロマトグラフ中、ピーク1がアデニン、ピーク2がアデノシン、ピーク3がグアニン、ピーク4がイノシン、ピーク5がヒポキサンチン、ピーク6がグアノシン、ピーク7がキサンチンのそれぞれのピークである。
【0046】
<ヌクレオシダーゼ活性の測定>
以降の実施例において使用したプリンヌクレオシダーゼのヌクレオシダーゼ活性の測定は以下の方法で行った。
まず、pH5.5に調整した0.1Mの酢酸ナトリウムバッファーに、120ppmのグアノシンを溶解させて基質溶液を調製した。この基質溶液を1mL分取し、ウォーターバスにて55℃に加温した後、任意の倍率に希釈した酵素溶液を0.2mL添加し、その時点をもって反応開始とした。55℃で10分間保持して酵素を反応させ、10分経過した時点で速やかに反応溶液を98℃に加温したウォーターバスに移し、5分間保持して酵素を失活させた。得られた反応済みの溶液のグアニン量を、一般的なHPLC法により定量し、酵素活性を測定した。
反応液に添加した酵素溶液の原液の量(μL)と、反応により生成したグアニン量との相関式を求めた。この相関式から、使用したプリンヌクレオシダーゼのヌクレオシダーゼ活性は約60.8U/mLであった。
【0047】
[実施例1]
プリンヌクレオシダーゼ処理の前に麦芽と水の混合物を高温処理した場合としなかった場合とで、得られる麦汁中の各プリン体の含有量を比較した。原料には淡色麦芽を用いた。仕込開始時に糖化容器に麦芽粉砕物を投入し、それぞれの条件に則って麦汁を製造した。
【0048】
<サンプル1>
麦芽重量1に対して2.5の比率で原料水を投入し、図2に示す温度ダイアグラムで糖化工程を行った。仕込開始後、水と麦芽の混合物を65℃で60分間保持した後に、麦芽重量1に対して1.5の仕込水を投入し、糖化液温度を55℃に低下させた後、ヌクレオシダーゼ1500U/kg gristを投入し、さらに糖化を継続した。
【0049】
<サンプル2>
麦芽重量1に対して4の比率で原料水を投入し、図3に示す温度ダイアグラムで糖化工程を行った。仕込開始時に水と麦芽の混合物にヌクレオシダーゼ1500U/kg gristを投入した。
【0050】
サンプル1と2の麦汁を濾過した後、各プリン体の含有量を測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1に示す各プリン体の数値は、全プリン体の合計量を1ppmとして標準化した値(相対含有量)である。この結果、非発酵比率[([アデノシン]+[グアノシン]+[キサンチン])/([アデニン]+[グアニン])]は、高温処理を行わなかったサンプル2では1.26であったのに対して、高温処理を行ったサンプル1では0.21であり、顕著に低下していた。なお、通常、ヌクレオシダーゼを使用せず、高温処理も行わず糖化処理を行って得られた麦汁のプリン体組成比率は、アデニン:アデノシン:グアニン:グアノシン:キサンチン=3:1:1:4:1に近似する比率となる。
【0051】
【表1】
【0052】
サンプル1と2の麦汁それぞれについて、糖化工程終了後、濾過した後、ホップを投入して麦汁煮沸を行った。煮沸後の麦汁を固液分離処理し、得られた清澄な麦汁を冷却し、酵母を添加して7日間発酵させてビールを製造した。
【0053】
[実施例2]
高温処理の処理時間に対する、麦汁のプリン体組成に与える影響について調べた。
具体的には、まず麦芽100gに対して250mLの原料水を投入し、表2に記載野条件で高温処理を行った後、原料水150mLをさらに投入し、麦芽と水の混合物の液温を55℃にまで低下させた後、120分間保持した。その後、当該混合物を78℃に加温して酵素反応を停止させて麦汁を得た。得られた麦汁を濾過した後、各プリン体の含有量を測定した。測定結果を表2に示す。なお、表2に示す各プリン体の数値は、全プリン体の合計量を1ppmとして標準化した値(相対含有量)である。
【0054】
【表2】
【0055】
この結果、麦汁中のキサンチンの生成量が65℃の保持時間の経過に伴って低下することが分かった。また、62.5℃で1分間の高温処理でもキサンチンの生成を抑制する効果があることが分かった。この時、キサンチンの相対含有量は0.17ppmから0.7ppmに低下したことから、62.5℃で1分間の処理で約60%のキサンチン生成抑制効果があると考えられた。つまり、高温処理を62.5℃、1分間で行った後、ヌクレオシダーゼを使用した実施例1のサンプル1と同様にして、麦芽重量1に対して1.5の仕込水を投入し、糖化液温度を55℃に低下させた後、ヌクレオシダーゼを投入し、さらに糖化を継続することにより、プリン体の非発酵比が0.457にまで低減された麦汁が得られることになる。
図1
図2
図3