(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0021】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態の医療機器用付着防止膜について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の医療機器用付着防止膜の構成例を示す模式的な断面図である。
なお、各図面は、模式図のため形状や寸法は誇張されている(以下の図面も同じ)。
【0022】
図1は、医療機器において生体を把持する把持部の表面近くの構造を説明する断面図である。この把持部は把持した生体に高周波を印加する構成になっており、医療機器の把持部の表面付近である医療機器表面部1に非絶縁性(導電性)の付着防止膜2(医療機器用付着防止膜、最外層)が形成されている。
医療機器の非絶縁部を構成する本実施形態の付着防止膜2について説明する。
本実施形態では、医療機器の非絶縁部は、単層の付着防止膜2によって構成される。
付着防止膜2は、医療機器表面部1の表面1a上に積層されている。以下では、誤解のおそれがない場合には、付着防止膜2の膜厚方向において、表面1aの方を下方向、表面1aと反対側の表面2a(最外層の表面)の方を上方向として、下側、下部、上側、上部などと言う場合がある。
図1は拡大図のため、表面1a全体に付着防止膜2が形成されている様子が描かれているが、付着防止膜2を形成する部位は、非絶縁部が形成される部分のみでよい。
表面1aの形状は、付着防止膜2が密着できれば、特に限定されない。例えば、表面1aは平面でもよいし湾曲面でもよい。付着防止膜2が表面1aに対してより強固に密着するためには、表面1aは粗面であってもよい。
ここで、粗面とは、レーザー顕微鏡による算術平均粗さRaで、0.1μm以上2.0μm以下のような凹凸形状が形成された面を意味する。このような粗面は、例えば、ブラスト処理を用いた粗し加工が施されることによって形成可能である。
【0023】
付着防止膜2は、ベース樹脂であるシリコーン4と、シリコーン4に分散された導電性粒子群である複数の第1の導電性粒子5A(第1の導電性粒子群)および複数の第2の導電性粒子5B(第2の導電性粒子群)とを含んで構成される。
【0024】
シリコーン4は、医療機器表面部1の表面1aに密着するとともに、各第1の導電性粒子5Aおよび各第2の導電性粒子5Bを保持する。シリコーン4を形成するシリコーン樹脂の種類は、連続使用温度が200℃以上であれば、特に限定されない。連続使用温度が200℃であるとは、ISO−75に準拠した樹脂組成物の0.45MPa荷重での熱変形温度が、200℃以上であることである。
シリコーン樹脂としては、例えば、エレクトロニクス用シリコーンレジンSILRES(登録商標)シリーズ(商品名;旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)などが用いられてもよい。
【0025】
付着防止膜2では、ベース樹脂として、高耐熱性を有するシリコーン樹脂が用いられているため、非絶縁部から高周波を印加する医療機器用付着防止膜として特に良好な性能が得られる。ただし、付着防止膜2に用いるベース樹脂は、高耐熱性を有する樹脂であれば、シリコーン樹脂には限定されない。
例えば、付着防止膜2におけるベース樹脂は、連続使用温度が200℃以上である種々の樹脂が用いられてもよい。ベース樹脂の種類は、例えば、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ポリアミド樹脂、アリル樹脂、ポリイミド樹脂、PEEK樹脂、エポキシ樹脂、より成る群より、選択された1つ以上の樹脂を含む樹脂でもよい。
【0026】
複数の第1の導電性粒子5Aおよび複数の第2の導電性粒子5Bは,付着防止膜2に導電性を付与するとともに、シリコーン4の表面4aから外部に露出することによって、付着防止膜2の表面2aに凹凸形状を形成する。
ただし、第1の導電性粒子群のメディアン径と、第2の導電性粒子群のメディアン径とは互いに異なる。本実施形態では、第1の導電性粒子群のメディアン径は、第2の導電性粒子群のメディアン径よりも大きい。
第1の導電性粒子群のメディアン径が第2の導電性粒子群のメディアン径よりも大きいことによって、第1の導電性粒子5A同士の隙間に、第2の導電性粒子5Bが入り込み易くなる。このため、隣り合う第1の導電性粒子5A同士あるいは第1の導電性粒子5Aと表面1aとの間の隙間に進入した第2の導電性粒子5Bが、第1の導電性粒子5Aあるいは表面1aと当接することによって接触面積および導電路が増加する。このため、付着防止膜2中の第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bと表面1aとの導電性能が向上し、体積抵抗率が低下する。
さらに、隣り合う第1の導電性粒子5A同士あるいは第1の導電性粒子5Aと表面1aとの間の隙間に、第2の導電性粒子5Bが進入することによって、第1の導電性粒子5Aが堅固に支持されるため、第1の導電性粒子5Aの位置の安定性が向上する。
【0027】
例えば、第1の導電性粒子群のメディアン径は、1μm以上20μm以下でもよい。例えば、第2の導電性粒子群のメディアン径は、0.01μm以上0.5μm以下でもよい。
ここで、メディアン径は、体積基準累積粒度分布における50%粒子径(D50)の意味である。
粒度分布の測定手段としては、光散乱式の粒度分析装置が用いられる。具体的には、測定対象の粒度の分布範囲に応じて、例えば、レーザー回折・散乱式によるマイクロトラック粒度分析装置、動的光散乱式によるナノトラック粒度分析装置などが適宜使い分けられる。
【0028】
第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bの材質は、生体適合性を有し、非絶縁部に必要な導電性が得られる材質であれば特に限定されない。第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bは、金属粒子であってもよいし、不導体粒子の表面に金属コーティングを施した粒子でもよい。
第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bに用いる金属は、同一金属でもよいし、異種金属でもよい。
第1の導電性粒子5A、第2の導電性粒子5Bに用いることができる金属材料の例としては、銀、白金、銅、ニッケル、金などが挙げられる。
本実施形態では、第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bとして、生体適合性および電気導電率の点で特に好ましい金粒子が用いられている。
【0029】
付着防止膜2における第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bの配合量は、医療機器の非絶縁部に必要なインピーダンスを満足するとともに、切断または封止された生体物質が剥がれやすくなる適宜値を採用すればよい。
例えば、第1の導電性粒子5Aが多くなると、表面2aにおける凹凸形状が、第1の導電性粒子5Aの突出量によって支配されるため、凹凸が大きくなる。このため、生体物質の密着性が低下して、生体物質が剥離しやすくなる。一方、相対的に第2の導電性粒子5Bが減少するため、第1の導電性粒子5A同士および第1の導電性粒子5Aと表面1aとの間に介在する第2の導電性粒子5Bも減って、導電性が低下する。
反対に、相対的に第2の導電性粒子5Bが多くなると、第2の導電性粒子5Bによって導電性は向上するものの、表面2aの凹凸形状は、第2の導電性粒子5Bの突出量によって支配されるため、凹凸が小さくなり、滑らかな平面に近づく。このため、生体物質の密着性が高まって生体物質が剥離しにくくなる。
このような凹凸形状による剥離性能は、凹凸形状の最大高さRzの大きさによって決まってくる。
例えば、表面2aの凹凸の大きさは、最大高さRzで0.3μm以上であってもよい。
【0030】
このような構成の付着防止膜2を形成するには、まず、シリコーン4となるシリコーン樹脂、シリコーン樹脂を溶かす溶剤、第1の導電性粒子5A、および第2の導電性粒子5Bを混合して、付着防止膜2を形成するための塗料を調製する。次に、この塗料を、医療機器表面部1における表面1aに塗膜する。
塗膜方法は、特に限定されず、医療機器表面部1の形状などに応じて適宜の塗膜方法が用いられる。例えば、塗膜方法の例としては、スピンコート、スクリーン印刷、インクジェット法、フレキソ印刷、スプレー塗膜、グラビア印刷、ホットスタンプ、ディップコート等が挙げられる。
ただし必要であれば、塗膜する前に、表面1aに粗し加工を行って、表面1aが粗面化されてもよい。
塗膜後に、塗膜層の加熱乾燥を行う。これにより、溶剤が揮発して、シリコーン樹脂が固化して、層厚が減少してシリコーン4の層膜が形成される。この結果、上部の第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bの一部が、表面4aから外部に露出する。また、表面1aに対向する第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bは、表面1aに当接する。
以上で、付着防止膜2が製造される。
【0031】
図1に示すように、本実施形態の付着防止膜2は、シリコーン4が医療機器表面部1の表面1aと密着することによって表面1a上に固着されている。
付着防止膜2の内部には、多くの第1の導電性粒子5Aと第2の導電性粒子5Bとが互いに接触した状態で、シリコーン4に分散されている。第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bは、固化したシリコーン4に保持されて、互いの相対位置が固定されている。
表面1aと付着防止膜2との境界では、表面1aに対向する第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bが、表面1aと当接している。
シリコーン4の表面4aからは、第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bの一部が露出している。このため、付着防止膜2の表面2aには、第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bによる凹凸形状が形成されている。
【0032】
このような構成によって、医療機器表面部1と付着防止膜2の表面の第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bとは導通しており、付着防止膜2全体としては、導電性を有する。
【0033】
このような付着防止膜2を非絶縁部に用いた医療機器では、非絶縁部から高周波電力を放出する際に、非絶縁部に接触する生体組織が変性して形成される生体物質が付着しやすい。
しかし、本実施形態の付着防止膜2の表面は、金粒子によって凹凸形状が形成された付着防止膜2が形成されている。このため、生体物質の付着力は、平滑面のように全面に均一に密着する場合に比べて低い。したがって、生体物質が付着しても小さな外力によって容易に剥離される。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の付着防止膜2によれば、表面2aに第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bが露出して凹凸が形成されているため、生体物質に高周波電力を放出するような医療機器に用いても生体物質の付着防止性能を向上することができる。
【0035】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態の医療機器用付着防止膜について説明する。
図2は、本発明の第2の実施形態の医療機器用付着防止膜の構成例を示す模式的な断面図である。
【0036】
図2に断面構成を示すように、医療機器の非絶縁部は、上記第1の実施形態における付着防止膜2に代えて、多層膜である付着防止膜7(医療機器用付着防止膜)を備える。
付着防止膜7は、医療機器表面部1の表面1a上に積層された第1層6(最下層)と、第1層6の上面6aに積層された第2層3(最外層)と、の2層で構成される。
第1層6は、表面1aに対する付着防止膜7の密着性を向上するために設けられている。
第1層6の材質としては、第2層3および表面1aとの密着性に優れる適宜の材質が用いられる。本実施形態では、後述する第2層3のベース樹脂がシリコーン樹脂からなるため、第1層6として、シリカを主成分とするシリカ層が採用されている。シリカ層を形成するには、例えば、Olam(登録商標)ガラスコートシリーズ(商品名;アートブリード株式会社製)などのコート剤を用いてもよい。
第1層6の層厚は、密着強度、耐久性などの必要に応じて適宜の層厚にすることができる。例えば、第1層6の層厚は、0.1μm以上10μm以下としてもよい。
【0037】
第2層3は、本実施形態では、上記第1の実施形態の付着防止膜2と同様に構成される。このため、本実施形態における第2層3のベース樹脂はシリコーン4である。
ただし、上記第1の実施形態と同様、第2層3のベース樹脂は、連続使用温度が200℃以上の樹脂に置換されてもよい。
【0038】
このような構成の付着防止膜7を形成するには、医療機器表面部1の表面1a上に第1層6を形成した後、第2層3を形成する。
第1層6を形成するには、例えば、シリカを溶剤中に含むコート液を医療機器表面部1の表面1aに塗膜した後、加熱乾燥させる。
上記第1の実施形態と同様に、表面1aに粗し加工を施す場合には、第1層6の層厚を粗し加工の凹凸量に比べて十分薄くすることによって、第1層6の上面6aにも凹凸形状を形成することができる。
第2層3は、第1層6上に形成する点を除いては、上記第1の実施形態の付着防止膜2と同様にして形成することができる。
【0039】
本実施形態の付着防止膜7によれば、最外層として、上記第1の実施形態の付着防止膜2と同様の第2層3を備えるため、上記第1の実施形態と同様、生体物質に高周波電力を放出するような医療機器に用いても生体物質の付着防止性能を向上することができる。
さらに付着防止膜7によれば、第2層3と医療機器表面部1の表面1aとの間に第1層6が形成されている。第1層6はシリカ層からなるため、金属製の医療機器表面部1との密着性が良好であり、かつ、第2層3のシリコーン4、第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bとの密着性も良好である。
このため、表面1a上に直に第2層3を形成する場合に比べて、第2層3の密着強度を向上することができる。このため、医療機器の耐久性、信頼性をより向上することができる。
【0040】
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態の医療機器用付着防止膜について説明する。
図3は、本発明の第3の実施形態の医療機器用付着防止膜の構成例を示す模式的な断面図である。
【0041】
本実施形態の付着防止膜12(医療機器用付着防止膜)は、上記第1の実施形態の付着防止膜2における第1の導電性粒子5Aに代えて、第1の導電性粒子15Aを備える。第1の導電性粒子15Aの全体は、第1の導電性粒子群を構成する。本実施形態における第1の導電性粒子群のメディアン径は、上記第1の実施形態と同様である。
以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0042】
第1の導電性粒子15Aは、不導体からなる粒子状の基材15aと、基材15aの表面に積層された金属層15bとを有する複合粒子である。
基材15aの材質は、不導体であれば限定されない。基材15aの材質は良好な断熱性を有することがより好ましい。基材15aは、中空構造を有していてもよい。中空構造としては、球殻構造でもよいし多孔質構造でもよい。基材15aが中空構造を有する場合、基材15aが中実体である場合に比べて、第1の導電性粒子15Aにおける断熱性を向上することができる。
基材15aの材質は、例えば、ガラス、シリカ、アルミナ、ジルコニアなどが使用できる。基材15aとしては、中空シリカ系粒子、中空ガラス球などが用いられてもよい。中空ガラス球の具体例としては、例えば、3M(登録商標)グラスバブルズ(商品名;3M社製)等が挙げられる。
付着防止膜12における第1の導電性粒子15Aの含有量は、上記第1の実施形態と同様、表面2aの凹凸の大きさが最大高さRzで0.3μm以上となるような含有量であってもよい。
【0043】
金属層15bに用いられる金属材料としては、上記第1の実施形態における第1の導電性粒子5Aと同様、例えば、銀、白金、銅、ニッケル、金等が挙げられる。金属層15bに用いられる金属材料は、第2の導電性粒子5Bに用いられる金属材料と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
金属層15bの層厚としては、付着防止膜12において必要な導電性および耐久性が確保できれば、特に限定されない。例えば、球体の比表面積は直径の大きさに反比例するため、基材15aの粒子径が小さい場合には金属層15bの層厚は薄くされ、基材15aの粒子径が大きい場合には金属層15bの層厚は厚くされてもよい。
金属層15bは、適宜のコーティングによって基材15aに積層されてもよい。金属層15bの形成に用いることができるコーティング方法としては、例えば、無電解メッキ、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)などの手法が適用可能である。PVDの例としては、例えば、スパッタ、蒸着などが挙げられる。
【0045】
このような構成の付着防止膜12は、上記第1の実施形態における付着防止膜2と同様にして、医療機器表面部1上に形成される。
【0046】
付着防止膜12は、上記第1の実施形態の付着防止膜2の第1の導電性粒子5Aに代えて、第1の導電性粒子15Aが用いられる以外は、上記第1の実施形態の付着防止膜2と同様に構成される。このため、上記第1の実施形態と同様、生体物質に高周波電力を放出するような医療機器に用いても生体物質の付着防止性能を向上することができる。
本実施形態における第1の導電性粒子15Aは、金属層15bが基材15aの表面に積層されているため、上記第1の実施形態における第1の導電性粒子5Aに比べて、金属の使用量が低減される。基材15aに用いられる不導体は、金属材料に比べて安価である。第1の導電性粒子15Aは、第1の導電性粒子5Aと同径の場合に、高価な金属材料の使用量が低減されるため、第1の導電性粒子15Aの部品コストが低減される。特に、基材15aとして、金、白金などのように高価な材料が用いられる場合には、部品コストの低減効果が大きくなる。
【0047】
さらに、本実施形態では、第1の導電性粒子15Aが金属材料と不導体材料との複合体からなるため、熱伝導率が低下する。このため、第1の導電性粒子15Aが付着防止膜12に含有されることで、付着防止膜12の断熱性が向上する。
例えば、付着防止膜12が高周波電力を生体組織(生体物質)に放出する医療機器の電極部の表面に用いられる場合、高周波電力に起因するジュール熱で電極部が高温になる。電極部自体が高温になると、電極部の表面に接触する生体組織が過剰に変性されることによっても、電極部に生体組織が付着しやすくなるおそれがある。
しかし本実施形態では、生体と接触する医療機器の表面に、第1の導電性粒子15Aが含有されることによって、金属粒子のみが含有された場合よりも断熱性の高い付着防止膜12が形成されている。このため、付着防止膜12の良好な断熱性能によって、生体組織が過剰に変性されることを防止できる。この結果、付着防止膜12の付着防止性能がさらに向上する。
【0048】
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態の医療機器について説明する。
図4は、本発明の第4の実施形態の医療機器の一例を示す模式的な構成図である。
図5は、
図4におけるA−A断面図である。
【0049】
図4に示す本実施形態の高周波ナイフ100は、本実施形態の医療機器の一例である。高周波ナイフ100は、高周波電圧を印加することで、生体組織(生体物質)を切開、切除したり、生体組織を凝固(止血)したり、焼灼したりする医療用処置具である。
高周波ナイフ100は、術者が手で持つための棒状の把持部102と、把持部102の先端から突出された電極部101とを備える。
【0050】
電極部101は、被処置体である生体組織に当接させて高周波電圧を印加する。
図5に示すように、電極部101は、金属製の電極本体101Aと、付着防止膜101B(医療機器用付着防止膜)とを備える。
【0051】
図4に示すように、電極本体101Aの外形状は、突出方向の先端の角部に丸みを有する矩形片状とされている。
図5に示すように、突出方向に直交する断面では、電極本体101Aは外縁に向かって厚さが薄くなっていく扁平形状である。特に図示しないが、突出方向の先端部における断面形状も同様に、外縁に向かって厚さが薄くなっている。
図4に示すように、電極本体101Aは、把持部102に保持された基端部に接続された配線によって高周波電源103に電気的に接続されている。高周波電源103には、被処置体に装着する対極板106が電気的に接続されている。
【0052】
図5に示すように、付着防止膜101Bは、電極本体表面101aを被覆するように設けられた薄膜である。付着防止膜101Bの外表面は、電極部101の電極表面101bを構成している。
刃部101cを除く電極表面101bの側部には、全体として緩い湾曲形状もしくは平面形状に形成された腹部101dが形成されている。腹部101dは、主として被処置体を押さえて凝固や焼灼などの処置を行うために使用される。
【0053】
電極本体101Aの材質としては、金属、合金などの導電性を有する適宜の金属材料が用いられる。例えば、電極本体101Aの材質は、アルミニウム合金、ステンレス鋼などが用いられてもよい。
【0054】
付着防止膜101Bは、上記第1〜第3の実施形態における付着防止膜2、7、12のうちのいずれかと同様の構成が用いられる。本実施形態における電極本体101Aは、上記第1〜第3の実施形態における医療機器表面部1に相当する。
【0055】
次に、このような構成の高周波ナイフ100の作用について説明する。
高周波ナイフ100を用いた処置は、例えば、患者に対極板106を装着し、高周波電源103によって電極部101に高周波電圧を印加した状態で行われる。術者は、電極部101に高周波電圧を印加した状態で、患者の被処置部などの被処置体に電極部101の刃部101cまたは腹部101dを接触させる。
電極部101は付着防止膜101Bに覆われている。付着防止膜101Bの内部には、第1および第2の導電性粒子群が分散され、それらの一部が電極表面101bに露出している。付着防止膜101Bの内部において、第1および第2の導電性粒子群の第1および第2の導電性粒子は、互いに接触し、一部が電極本体表面101aに当接することによって、付着防止膜101Bの厚さ方向に連なる導電路が形成されている。
付着防止膜101Bの電極表面101bは、生体組織が付着しにくいシリコーン4から露出する第1および第2の導電性粒子が露出して、凹凸形状が形成されている。
【0056】
電極部101と対極板106との間に高周波電圧が印加されると、付着防止膜101Bを介して高周波電流が発生する。電極部101と生体組織との接触部では、電極表面101bにおいて露出する第1および第2の導電性粒子から電流密度の大きい電流が生体組織に流れ、ジュール熱が発生する。これにより被処置体の生体組織の水分が急速に蒸発し、刃部101cで生体組織が破断される。このため、電極部101が生体組織に対して移動されることによって生体組織の切開、切除が可能となる。
腹部101dを被処置体に押し当てた状態で高周波電流が流されると、被処置体の生体組織の水分が急速に蒸発し、腹部101dの近傍で生体組織が凝固される。このため、腹部101dが被処置体に押し当てられることにより止血や生体組織の焼灼が可能となる。
必要な処置が終了すると、術者は、電極部101を被処置体から離間させる。このとき、生体組織と接触している電極表面101bは、付着防止膜101Bによって形成されているため、電極部101を離間する際に、電極表面101bから生体組織が容易に剥離する。
この結果、高周波ナイフ100では、生体組織は電極表面101bにほとんど付着しない。このため、高周波ナイフ100によれば、処置中の処置性能の低下が防止できる。さらに、電極部101が繰り返し使用されても電極部101の耐久性が確保される。
【0057】
以上説明したように、高周波ナイフ100によれば、付着防止膜101Bを電極部101の表面に備えるため、生体物質の付着防止性能を向上することができる。
【0058】
なお、上記各実施形態の説明では、最外層が、第1の導電性粒子群および第2の導電性粒子群とからなる場合の例で説明した。しかし、複数の導電性粒子群は、2群には限定されず、3群以上であってもよい。
医療機器用付着防止膜が用いられる医療機器の使用目的に応じて、必要な凹凸形状と導電性とが得られれば、導電性粒子群は1群のみでもよい。
【0059】
上記第2の実施形態の説明では、第1層6がシリカを主成分とするシリカ層からなる場合の例で説明したが、第1層6の材質は、医療機器表面部1および第2層3の材質に応じて適宜の材質を用いることができ、シリカ層には限定されない。
【0060】
上記第2の実施形態の説明では、付着防止膜7が2層構成の多層膜の場合の例で説明した。しかし、医療機器用付着防止膜は、3層以上の多層膜でもよい。この場合、最下層と最外層との間に、中間層を備えることができるため、医療機器の把持部の基材および最外層にともに良好な密着性を有する材料がない場合にも、適宜の中間層を挟むことによってより強固な固定が可能になる。
また、第1層6および中間層の材質は、均一成分を有する材質には限定されない。例えば、層厚方向に成分の組成比が変化する傾斜層で構成されてもよい。
【0061】
上記第3の実施形態の説明では、複数の導電性粒子群のうち、第1の導電性粒子群のみに、不導体からなる粒子状の基材と、基材の表面に積層された金属層とを有する複合粒子が含まれる場合の例で説明した。しかし、上記第3の実施形態において第2の導電性粒子群のみに複合粒子が含まれていてもよいし、第1および第2の導電性粒子群に複合粒子が含まれていてもよい。
医療機器用付着防止膜に3以上の導電性粒子群が含まれる場合、3以上の導電性粒子群のうち少なくとも1群に複合粒子が含まれていてもよい。この場合、効率的に部品コスト低減および断熱性向上を図るために、メディアン径が最も大きい導電性粒子群のみに複合粒子が含まれていてもよい。
【実施例】
【0062】
次に、上述した第1〜第3の実施形態の医療機器用付着防止膜の実施例について、比較例とともに説明する。
まず、第1の実施形態の付着防止膜2の実施例1〜5と第2の実施形態の付着防止膜7の実施例6について、比較例1、2とともに説明する。
下記[表1]、[表2]に、各実施例、各比較例の医療機器用付着防止膜を形成する最外層形成用塗料の配合組成と、評価結果とを示す。ただし、[表1]では各部材の符号の表記は省略されている。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
[実施例1]
実施例1は、付着防止膜2の実施例である。実施例1の付着防止膜2は、以下のようにして製造された。
付着防止膜2を形成する基板として、アルミニウム基板が用いられた。
付着防止膜2を形成するため、10重量部のシリコーン樹脂、30重量部の第1の導電性粒子、30重量部の第2の導電性粒子、および30重量部の溶剤が混合された最外層形成用塗料が調製された。
シリコーン樹脂としては、SILRES(登録商標) MPF 52 E(商品名;旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)が用いられた。第1の導電性粒子5Aとしては、メディアン径が5μmの金粒子が用いられた。第2の導電性粒子5Bとしては、メディアン径が50nmの金粒子が用いられた。ここで、粒度分布の測定手段としては、第1の導電性粒子の測定にはレーザー回折・散乱式によるマイクロトラック粒度分析装置が、第2の導電性粒子の測定には動的光散乱式によるナノトラック粒度分析装置が使用された。溶剤としては、キシレンが用いられた。
この最外層形成用塗料は、アルミニウム基板上に、ディップコートによって、塗膜され、200℃の温度条件で1時間乾燥された。これにより、膜厚5.0μmの付着防止膜2が成膜された。
付着防止膜2の表面2aの最大高さRzをレーザー顕微鏡OLS−3500(商品名;オリンパス社製)によって測定したところ、3.5μmであった。
【0066】
[実施例2〜5]
実施例2〜5は、[表1]に示すように、第1の導電性粒子5Aおよび第2の導電性粒子5Bのうち少なくとも一方のメディアン径が上記実施例1と異なる点を除いて、実施例1と同様に構成された。
実施例2〜4では、第2の導電性粒子5Bのメディアン径はいずれも50nmとされ、第1の導電性粒子5Aのメディアン径は、それぞれ、1μm、5μm、20μmとされた。
実施例5は、第2の導電性粒子5Bのメディアン径が500nmとされた点を除いて、上記実施例1と同様に構成された。
実施例2〜5の付着防止膜2の表面2aの最大高さRzを上記実施例1と同様にして測定したところ、それぞれ、0.7μm、3.0μm、15.1μm、3.3μmであった。
【0067】
[実施例6]
実施例6は、付着防止膜7の実施例であり、第1層6としてシリカ層を備え、第2層3は、上記実施例3の付着防止膜2と同様に構成された。
実施例6の付着防止膜7は、以下のようにして製造された。
まず、実施例1と同様のアルミニウム基板の表面に、Olam(登録商標) 60(商品名;アートブリード株式会社製)をスピンコートによって塗布した後、200℃で1時間乾燥させた。これにより、層厚1.0μmのシリカ層が形成された。その後、シリカ層上に、第2層3を形成するための最外層形成用塗料が上記実施例1と同様にして塗膜され、200℃の温度条件で1時間乾燥された。これにより、層厚約4.6μmの第2層3が成膜された。
実施例6の付着防止膜7の表面2aの最大高さRzを上記実施例1と同様にして測定したところ、3.6μmであった。
【0068】
[比較例1、2]
[表1]に示すように、比較例1の医療機器用付着防止膜は、上記実施例1において、第1の導電性粒子5Aに代えて、メディアン径が10μmの金粒子を60重量部備え、第2の導電性粒子5Bを削除して構成された。
比較例2の医療機器用付着防止膜は、上記実施例1において、第2の導電性粒子5Bに代えて、メディアン径が50nmの金粒子を60重量部備え、第1の導電性粒子5Aを削除して構成された。
比較例1、2の医療機器用付着防止膜の表面2aの最大高さRzを上記実施例1と同様にして測定したところ、それぞれ、7.5μm、0.2μmであった。
【0069】
[評価方法]
上記実施例1〜6、比較例1、2の医療機器用付着防止膜を供試サンプルとして、付着性評価と導電性評価とが行われた。[表2]に付着性評価と導電性評価との評価結果が示されている。
【0070】
付着性評価としては、供試サンプルをホットプレートで200℃で加熱し、その上に生体物質として馬の血液をたらし、その後、JIS K5600−5−6に基づくクロスカット法によるテープ剥離試験が実施された。
付着性評価では、試験後の供試サンプルにおける馬の血液の固化物の剥がれ状態をJIS K5600−5−6に記載の表1の分類に基づいて評価した。剥がれ状態が「分類5」に該当する場合には、付着なし([表2]には○(good)と記載)と評価された。剥がれ状態が「分類0〜4」の場合には、付着あり([表1]には×(no good)と記載)と評価された。
なお、実施例1〜6、比較例1、2の各供試サンプルにおいて、医療機器用付着防止膜の一部または全部が馬の血液の固化物とともに剥がれることはなかった。
【0071】
導電性評価としては、供試サンプルの体積抵抗率の測定が実施された。
体積抵抗率が1.0×10
8Ω・cm以下の場合、導電性が良好([表1]には○(good)と記載)、体積抵抗率が1.0×10
8Ω・cmを超えた場合、導電性が不良([表2]には×(no good)と記載)と評価された。
【0072】
[評価結果]
[表2]に示す付着性評価の評価結果によれば、実施例1〜6、比較例1の医療機器用付着防止膜においては、加熱状態で変性した馬の血液が付着しても、テープ剥離試験後、「付着なし」と評価される状態になった。このため、生体物質の付着防止性能が良好であることが分かる。
これに対して、第1の導電性粒子5Aを含まない比較例2では、「付着あり」と評価され、生体物質の付着防止性能が劣ることが分かる。
各供試サンプルの医療機器用付着防止膜の表面の材質は共通であるため、これらの相違は、第1の導電性粒子および第2の導電性粒子によって形成される表面の凹凸形状の相違に起因する。
実施例1〜6、比較例1では、いずれも、メディアン径が1μm〜20μmの第1の導電性粒子5Aを含むため、医療機器用付着防止膜の表面の凹凸形状は、上述したように、最大高さRzが0.7μmから15.1μmであった。
これに対して、比較例2における第2の導電性粒子5Bのメディアン径は50nmであるため、第2の導電性粒子5Bが表面に露出しただけでは、医療機器用付着防止膜の表面の凹凸形状に最大高さRzが0.2μmであった。このように比較例2の付着防止膜は、平面に近い滑らかな表面を有するため生体物質との密着が強固になったと考えられる。
【0073】
[表2]に示す導電性評価の評価結果によれば、実施例1〜6、比較例2の医療機器用付着防止膜においては、導電性が良好であった。
これに対して、第2の導電性粒子5Bを含まない比較例1では、導電性が不良であった。
第1の導電性粒子5Aと第2の導電性粒子5Bとが混在する実施例1〜6では、第1の導電性粒子5A同士が当接するとともに、第1の導電性粒子5A同士あるいは第1の導電性粒子5Aとアルミニウム基板との隙間にも、小径の第2の導電性粒子5Bが進入する。このため、これらの隙間に第2の導電性粒子5Bが充填されることで、導電性が向上したと考えられる。
比較例1では、第2の導電性粒子5Bが含まれないため、第1の導電性粒子5A同士あるいは第1の導電性粒子5Aとアルミニウム基板との接触点のみで導通する。この結果、実質的な接触面積が実施例1〜6、比較例2に比べて小さいため、電気抵抗が大きくなると考えられる。
【0074】
次に、第3の実施形態の付着防止膜12の実施例7、8と、第2および第3の実施形態を組み合わせた付着防止膜の実施例9,10について説明する。
下記[表3]に、実施例7〜10の医療機器用付着防止膜を形成する最外層形成用塗料の配合組成を示す。ただし、[表3]では各部材の符号の表記は省略されている。
【0075】
【表3】
【0076】
[実施例7、8]
実施例7、8は、付着防止膜12の実施例である。
実施例7は、上記実施例1の第1の導電性粒子に代えて、第1の導電性粒子15Aが用いられた点を除いて、実施例1と同様に構成された。
本実施例における第1の導電性粒子15Aの基材15a、金属層15bには、それぞれ、中空シリカ、金が用いられた。金属層15bの層厚は0.5μmとされた。本実施例における第1の導電性粒子15Aのメディアン径は20μmであった。
実施例8は、第2の導電性粒子5Bの材質およびメディアン径が変更された点と、第1の導電性粒子15Aの材質が変更された点とを除いて、実施例7と同様に構成された。
本実施例における第2の導電性粒子5Bの材質は白金からなる。本実施例の第2の導電性粒子5Bのメディアン径は500nmであった。
実施例7、8における付着防止膜12の表面12aの最大高さRzを上記実施例1と同様にして測定したところ、それぞれ、16.5μm、14.1μmであった。
【0077】
[実施例9、10]
実施例9、10は、上記実施例6と同様の第1層6を備える。
実施例9は、上記実施例6の第2層3に代えて、第1の導電性粒子15Aの材質およびメディアン径が変更された点を除いて実施例8の付着防止膜12と同様の構成の層膜を備える。本実施例における第1の導電性粒子15Aの基材15a、金属層15bには、それぞれ、ジルコニア、白金が用いられた。金属層15bの層厚は0.05μmとされた。本実施例における第1の導電性粒子15Aのメディアン径は1μmであった。
実施例10は、上記実施例6の第2層3に代えて、第1の導電性粒子15Aの材質およびメディアン径が変更された点を除いて実施例7の付着防止膜12と同様の構成の層膜を備える。本実施例における第1の導電性粒子15Aの基材15a、金属層15bには、それぞれ、アルミナ、金が用いられた。金属層15bの層厚は0.03μmとされた。本実施例における第1の導電性粒子15Aのメディアン径は1μmであった。
実施例9、10における最外層の表面の最大高さRzを上記実施例1と同様にして測定したところ、それぞれ、0.31μm、0.53μmであった。
【0078】
[評価結果]
実施例7〜10を用いて上記実施例1〜6と同様の付着性評価と導電性評価とが行われた。各評価結果について、下記[表4]に示す。[表4]における「付着性」、「導電性」の各評価結果を示す記号の意味は、[表2]における記号の意味と同様である。
【0079】
【表4】
【0080】
[表4]に示されたように、いずれも実施例も、付着性評価が「付着なし」([表4]では「○」)、導電性評価が「良好」([表4]では「○」)であった。
このため、第1の導電性粒子15Aが、金属層15bによって表層のみが導電性を有する場合でも、第2の導電性粒子5Bと組み合わされることにより、良好な導電性が得られたことが分かる。
【0081】
[断熱性評価]
次に、各実施形態の膜構成における断熱性評価について説明する。
各実施例の断熱性を評価するため、断熱性評価用の供試サンプルが作製された。この断熱性評価用の供試サンプルは、板厚3mmのアルミニウム板の表面に、上述した各実施例の付着防止膜が成膜された。ただし、断熱性の相違を精度よく測定するため、断熱性評価用の供試サンプルの膜厚は、25μm±5μmとされた。
各供試サンプルは、200℃に加熱されたホットプレート上に、アルミニウム板が接触するように配置された。各供試サンプルは、少なくとも1分間加熱された。加熱開始から1分後の膜表面の温度が微小表面用表面温度計によって測定された。この1分後温度は、下記[表5]に示されている。
【0082】
【表5】
【0083】
供試サンプルに用いられたアルミニウム板は、1分間の加熱後に、ホットプレートと反対側の表面温度が200℃になった。このため、供試サンプルの1分後温度が200℃未満の場合、付着防止膜による断熱効果が現れていると言える。
【0084】
断熱性評価としては、供試サンプルの1分後温度が、アルミニウム板の平衡温度(200℃)よりも20℃以上低い場合、断熱性が「非常に良好」(◎(very good))と評価された。供試サンプルの1分後温度が、アルミニウム板の平衡温度よりも5℃以上20℃未満だけ低い場合、断熱性が「良好」(○(good))と評価された。供試サンプルの1分後温度が、アルミニウム板の平衡温度よりも0℃以上5℃未満だけ低い場合、断熱性が「不良」(×(no good))と評価された。
【0085】
[断熱性評価結果]
[表5]に示されたように、実施例1〜6の1分後温度は、それぞれ、188℃、192℃、188℃、191℃、192℃、190℃だった。実施例1〜6の断熱性は「良好」([表5]には「○」と記載)と判定された。
実施例7〜10の1分後温度は、それぞれ、170℃、178℃、176℃、180℃だった。実施例7〜10の断熱性は「非常に良好」([表5]には「◎」と記載)と判定された。
実施例7〜10は、第1の導電性粒子15Aが、金属材料に比べて熱伝導性がよくない不導体の基材15aに薄層の金属層15bが積層されて構成された。このため、実施例7〜10は、断熱性が非常に良好になったと考えられる。実施例7〜10中では最も断熱性が劣る実施例10の1分後温度でも、実施例1〜6の中で最も断熱性が高かった実施例1、3の1分後温度よりも、8℃も低くなっていた。
特に、実施例7は、アルミニウム板の平衡温度よりも30℃も低くなった。この理由は、基材15aとして中空シリカが用いられているため、中空構造による断熱効果が加わったためであると考えられる。
【0086】
以上、本発明の好ましい各実施形態を、各実施例とともに説明したが、本発明はこれら各実施形態、各実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
また、本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。