【実施例】
【0038】
実験の部
本発明者らは、以下に記載の通り、ラクトバチルス・ロイテリLRE03株(ID1777)DSM23879の免疫調節特性を試験した。
具体的には、自然免疫に関与するサイトカインと獲得免疫に関与するサイトカインの両方を分析するために、刺激後の種々の時間で試験を行った。
【0039】
a)細菌の培養および増殖条件
最初に、ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879の細菌培養物を特定の増殖条件下で調製した。該菌株を、Man Rogosa Sharpe(MRS)培地中、37℃の恒温槽中で培養した。免疫調節実験に関しては、約16時間の増殖後、細菌を、指数増殖期に到達させるために上記の条件下で6時間継代培養した。その後、それらを滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)で2回洗浄した。生理学的状態および細胞数を、Becton Dickinson Companyから販売されている市販のキット“液体ビーズを含む細胞生存率キット(Cell Viability Kit with liquid beads)”を製造者の指示書に従って使用して、細胞蛍光検出技術を用いて決定した。このようにして、細胞を予備実験で確立された最適な濃度にして、その後のテストで使用した。
【0040】
b)末梢血単核細胞の分離
次に、末梢血単核細胞を分離した。末梢血単核細胞(PBMC)を密度勾配遠心分離により分離した。この目的のために、Ospedale di Borgomanero (Italy)の免疫輸血サービスからの健康なドナーの20mlの“バフィーコート”を、各試験に使用して、200x10
6PBMC/バフィーの平均収量を得た。分離した細胞の量を、単核細胞と多核細胞の区別が可能であるTurk色素を用いてBurkerチャンバー内の細胞数により決定した。細胞を、10%の熱不活化したウシ胎仔血清(FCS、Gibco)、1%グルタミンおよび25mM Hepesを添加したRPMI−1640増殖培地(Invitrogen)中、2x10
6細胞/mlの濃度にした。
【0041】
c)PBMC刺激
次に、末梢血単核細胞(PBMC)を細菌株を用いて刺激した。分離後、PBMCを、1日および5日の間、細菌株を用いて刺激した。各試験のインターナルコントロールは以下の通りであった。
陰性対照:PBMCのみ。
1日の対照:1μg/mlのリポ多糖(LPS;大腸菌、血清型055:B5、Sigma Chemicals Co., St. Louis, MO)で刺激したPBMC。
5日の対照:1μg/mlのフィトヘマグルチニン(PHA−P; Sigma Chemicals Co., St. Louis, MO)で刺激したPBMC。
異なる分析時点で、培養物を、1500rpmで10分間、遠心した。上清を捨て、分析まで−20℃で貯蔵した。細胞をその後の試験に使用した。
【0042】
d)細胞増殖分析
その後、細胞増殖分析を行った。細胞増殖を、ブロモデオキシウリジン(BrdU)核標識プロトコールを用いて細胞蛍光検出技術を用いて評価した。この方法は、トリチウム化チミジンを用いる伝統的な放射性標識システムに代わるものとして開発された。特に、細胞培養物に、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)および2’−デオキシシチジン(dC)をそれぞれ20μMの終濃度で添加した。16時間、加湿雰囲気中、5%CO
2下、37℃にてインキュベーション後、細胞増殖を細胞蛍光技術によって分析した。培養上清を捨て、分析まで−20℃で貯蔵した。固定処理および細胞壁の透過処理後、細胞DNAを抗BrdU FITC結合モノクローナル抗体(mAb)(Becton Dickinson)で標識した。細胞を、調製から24時間以内に、Becton Dikinson Companyのフローサイトメーター FACScaliburおよび分析プログラムcellQuestを用いて分析した。
【0043】
結果は、刺激の存在下で増殖する細胞の割合と刺激の非存在下で増殖する細胞の割合との比として計算される、細胞増殖指数(P.I.)として表された。2以上のP.I値は、許容されるとみなされた(カットオフ値)。全ての試験において、対照としてのマイトジェン(PHA)での刺激の結果は、常に、カットオフ値よりも高くなり、PBMCが、生存能および増殖能を有したことが確認された。
【0044】
e)個々の細胞亜集団を特徴付ける分子の分析
次に、個々の細胞亜集団を特徴付ける分子の分析を行った。免疫表現型の特徴付けに関しては、細胞を、以下の種々の組み合わせ:フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)またはペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP):CD3、CD4、CD8、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56、HLA−DRと結合させたモノクローナル抗体(mAb)と共に、暗所で30分間インキュベートした。インキュベーション後、サンプルを洗浄し、1%パラホルムアルデヒドを含有する溶液で固定し、4℃で貯蔵した。調製から24時間以内に、サンプルをフローサイトメーター FACScaliburにより、分析から汚染物質である細胞破片を除外するように選択された細胞で、分析した。
【0045】
f)サイトカイン投与
次いで、サイトカイン投与を行った。培養上清中のサイトカイン濃度を、ELISAアッセイ(酵素結合免疫アッセイ)によって決定した。具体的には、サイトカイン(IL−4、IL−10、IFN−γおよびIL−12p70)投与について、eBioscence Company(San Diego CA)のキット“ヒトELISA Ready−SET−Go”を使用した。
【0046】
g)統計分析
スチューデントのt検定を用いる統計分析を行った。p<0.05値を有意とみなした。
【0047】
結果
i)ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879による誘導される増殖応答を決定した。細胞増殖のインビトロ分析は、免疫機能を調査するのに非常に有用な生物学的パラメーターである。試験した細菌株がリンパ球増殖の誘導に影響を与え得るかどうかを分析するために、末梢血単核細胞(PBMC)を細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879で刺激した。T−リンパ球ポリクローナル増殖を誘導することができるマイトジェン刺激剤であるフィトヘマグルチニン(PHA)を、陽性対照として用いた。PBMCを、Ospedale S.S.Trinita, Borgomanero (Novara)の輸血サービスからの、平均年齢40歳(21−52歳)の4名の健常な男性ドナーの末梢静脈血サンプルから単離した。
【0048】
図1に示す通り、細胞増殖指数(P.I.、上記の方法を参照)が報告されるとき、全ての刺激条件下でのPBMC増殖応答は、刺激の非存在下(ベースライン)でよりも有意に高くなった。
【0049】
図1では、4つの独立した試験の平均±標準誤差(S.E.M.)を示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。
【0050】
ii)異なる細胞亜集団に対する細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879の作用を評価した。どの細胞亜集団が、試験したプロバイオティック株での刺激によって増殖を誘導されたかを検出するために、マルチパラメトリックフローサイトメトリー分析を行った。図面(
図2および
図3)は、自然免疫応答および獲得免疫応答の両方に関与する主な細胞亜集団の割合を示している。
【0051】
iia)自然免疫。1日後、細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03(DSM23879)による刺激は、全樹状細胞(Lineage−/HLA−DR+)の割合を変化させた。
図2に、4つの独立した試験の増殖応答の平均±S.E.Mを示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。
【0052】
iib)獲得免疫。5日後、細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879による刺激は、ヘルパーT−リンパ球(CD3+/CD4)の割合を有意に増加させた。
図3に、12の独立した試験の平均±S.E.Mを示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。
【0053】
iii)サイトカイン分泌。免疫応答に関与する細胞亜集団により分泌されるサイトカインの種々のスペクトルは、特定の抗原刺激に応答して使用されるエフェクター系を選択する際に重要な役割を果たしている。T−リンパ球は、細胞仲介性免疫の主なエフェクターおよび調節細胞を表す。抗原または病原体に応答して、T細胞は、増殖および分化に必要とされる種々のサイトカインならびに他の免疫担当細胞の活性化因子としてのサイトカインを合成および分泌する。試験した細菌株がPBMCによる種々のサイトカイン分泌を誘導するかどうかを調べるために、該細胞を1日間および5日間、活性化させた。培養上清中に放出されたサイトカイン(IL−12p70、IFN−γおよびIL−4)の量を、ELISAアッセイにより測定した。
【0054】
iv)主に炎症促進作用を有するサイトカイン。主に炎症促進作用を有するサイトカインの主な代表として、サイトカイン類IL−12p70およびIFN−γの誘導を評価した。
図4に示す通り、細菌株ラクトバチルス・ロイテリ菌LRE03(DSM23879)は、ベースライン状態と比較して、試験した両サイトカインの有意な増加を誘導することができる。
【0055】
v)主に免疫調節作用を有するサイトカイン。主に免疫調節作用を有するサイトカインの主な代表として、サイトカインIL−4の誘導を評価した。
図4に示す通り、試験した細菌株ラクトバチルス・ロイテリ菌LRE03(DSM23879)は、ベースライン状態と比較して、サイトカインIL−4分泌の低下を誘導することが可能であることが示された。
【0056】
図4に、4つの独立した試験の平均±S.E.Mを示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。サイトカインIL−12p70の産生を、刺激の1日後の培養上清中で評価した。IFN−γおよびIL−4産生を、刺激の5日後の培養上清中で評価した。
【0057】
細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879での刺激後のPBMCによって分泌されるサイトカインの量に関するデータは、その細菌株自体の炎症性サイトカインを顕著に増加させる能力を明確に示した。具体的には、細菌株ラクトバチルス・ロイテリ菌LRE03 DSM23879は、非刺激条件(ベースライン、
図5)に比べて、サイトカインIL−12p70およびサイトカインIFN−γの分泌をそれぞれ6倍および47倍増加させた。
【0058】
細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879のサイトカインIFN−γ分泌を刺激する顕著な能力を考慮して、本試験の結果を、全てのプロバイオティクス菌種コレクションに属する他の細菌株を用いた試験から得られる結果と比較した。具体的には、ベースラインに対する増加を比較し、すなわち、非刺激条件(ベースライン)と比べたIFN−γ量の変化倍を調べた。
【0059】
表1に示す通り、細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03(DSM23879)は、全てのラクトバチルス属に属する同種および異種の両株と比較して最良のIFN−γ誘導物質であった。
表1に、ベースラインと比較して、種々のラクトバチルス属およびビフィドバクテリウム属による刺激によって誘導されるサイトカインIFN−γの増加が示されている。
【0060】
実験の部
本発明者らは、以下に記載の通りに、細菌株ラクトバチルス・サリバリウスLS06 DSM26037の免疫調節特性を試験した。
【0061】
具体的には、微生物学的観点および分子的観点の両方から予め特徴づけられた、プロバイオティクス菌株ラクトバチルス・サリバリウスLS06 DSM26037の全循環樹状細胞に対する免疫調節特性を評価した。特に、刺激の24時間後、健康な成人ドナー由来の末梢血単核細胞中のDCを選択することにより、マルチパラメトリックフローサイトメトリー分析を行った。
【0062】
a)細菌培養および増殖条件
菌株を、Man Rogosa Sharpe(MRS)培地中、37℃の恒温槽中で培養した。免疫調節実験に関しては、約16時間の増殖後、細菌を、指数増殖期に到達させるために上記の条件下で6時間継代培養した。その後、それらを滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)で2回洗浄した。生理学的状態および細胞数を、Becton Dickinson Companyから販売されている市販のキット“液体ビーズを含む細胞生存率キット(Cell Viability Kit with liquid beads)”を製造者の指示書に従って使用して、細胞蛍光検出技術を用いて決定した。次いで、細胞を予備実験で確立された最適な濃度にして、その後のテストで使用した。
【0063】
b)末梢血単核細胞の分離
末梢血単核細胞(PBMC)を密度勾配遠心分離により分離した。この目的のために、Ospedale di Borgomaneroの免疫輸血サービスからの健康なドナーの20mlの“バフィーコート”を、各試験に使用して、200x10
6PBMC/バフィーの平均収量を得た。分離した細胞の量を、単核細胞と多核細胞の区別が可能であるTurk色素を用いてBurkerチャンバー内の細胞数により決定した。細胞を、10%の熱不活化したウシ胎仔血清(FCS、Gibco)、1%グルタミンおよび25mM Hepesを添加した、RPMI−1640増殖培地(Invitrogen)中、2x10
6細胞/mlの濃度にした。
【0064】
c)PBMC刺激
分離後、PBMCを、細菌株を用いて24時間刺激した。各試験のインターナルコントロールは以下の通りであった。
陰性対照:PBMCのみ。
1日(24時間)の対照:1μg/mlのリポ多糖(LPS;大腸菌、血清型055:B5、Sigma Chemicals Co., St. Louis, MO)で刺激したPBMC。
刺激後、培養物を、1500rpmで10分間、遠心した。その後、上清を捨て、細胞をその後の試験に使用した。
【0065】
d)総樹状細胞分析
免疫表現型の特徴付けに関しては、細胞を、以下の種々の組み合わせ:フルオレセインイソチオシアネート(FITCまたはペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP):CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56およびHLA−DRと結合させたモノクローナル抗体(mAb)と共に、暗所で30分間インキュベートした。インキュベーション後、サンプルを洗浄し、1%パラホルムアルデヒドを含有する溶液で固定し、4℃で貯蔵した。調製から24時間以内に、サンプルをフローサイトメーター FACScaliburにより、分析から汚染物質である細胞破片を除外するように選択された細胞で、分析した。
【0066】
e)統計分析
スチューデントのt検定を用いる統計分析を行った。p<0.05値を有意とみなした。
【0067】
結果:樹状細胞に対する細菌株の効果
試験したプロバイオティック株が樹状細胞の調節に影響を与え得るかどうかを決定するために、マルチパラメトリックフローサイトメトリー分析を行った。
図6Aに示す通り、24時間後、株LS06による刺激は、全樹状細胞(Lineage−/HLA−DR+)の割合の有意な増加を誘導した。
具体的には、細菌株L.サリバリウスLS06(DSM26037)は、非刺激条件と比べて(ベースライン、
図6B)、全樹状細胞の割合の7倍増加を示した。
【0068】
図6Bに、12の独立した試験の平均±S.E.Mを示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。
表2に、ベースラインと比較して、種々のラクトバチルス属およびビフィドバクテリウム属による刺激によって誘導される樹状細胞の増加が示されている。
【0069】
結論
データは、細菌株L.サリバリウスLS06が、標準的な基礎的条件と比較して、総DC割合の有意な増加を誘導することを実証した。特に、細菌LS06は、総DC割合を7倍増加させた。
【0070】
本試験で特定された、菌株L.サリバリウスLS06などの樹状細胞を調節することができる細菌による腸内でのコロニー形成は、免疫不均衡によって決定される疾患において非常に重要な因子である。
【0071】
【表1-1】
【表1-2】
【0072】
【表2】