特許第6804984号(P6804984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6804984腫瘍、後天性免疫不全症候群および白血病の二重免疫バイオスティミュレーションによる処置における使用のための治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804984
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】腫瘍、後天性免疫不全症候群および白血病の二重免疫バイオスティミュレーションによる処置における使用のための治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20201214BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20201214BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20201214BHJP
   A61K 36/886 20060101ALI20201214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201214BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20201214BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20201214BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20201214BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20201214BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   A61K35/747
   A61K35/745
   A61K35/74 A
   A61K36/886
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P31/18
   A61K47/26
   A61K47/36
   A61K47/46
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-566657(P2016-566657)
(86)(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公表番号】特表2017-514857(P2017-514857A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】IB2015000602
(87)【国際公開番号】WO2015170158
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2018年4月10日
(31)【優先権主張番号】MI2014A000816
(32)【優先日】2014年5月5日
(33)【優先権主張国】IT
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM23879
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM26037
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM17850
(73)【特許権者】
【識別番号】520300220
【氏名又は名称】キアラ・ベナッサイ
【氏名又は名称原語表記】Chiara BENASSAI
(73)【特許権者】
【識別番号】520300231
【氏名又は名称】エレナ・モーニャ
【氏名又は名称原語表記】Elena MOGNA
(73)【特許権者】
【識別番号】520300242
【氏名又は名称】ヴェーラ・モーニャ
【氏名又は名称原語表記】Vera MOGNA
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ジョヴァンニ・モーニャ
【審査官】 横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/114185(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/143787(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/034974(WO,A1)
【文献】 特開2009−269906(JP,A)
【文献】 特開2007−084533(JP,A)
【文献】 特表2010−534470(JP,A)
【文献】 Cell Microbiol., 2008, Vol.10 No.7, p.1442-1452
【文献】 Food Chem Toxic., 1998, Vol.36, p.1085-1094
【文献】 感染症学雑誌, 1988, Vol.62 No.12, p.1105-1110
【文献】 福山大学薬学部研究年報, 2002, Vol.20, p.37-63
【文献】 App Microbiol Biotechnol., 2013, Vol.97, p.2109-2118
【文献】 J Appl Microbiol., 2014, Vol.117, p.208-216
【文献】 PNAS., 2005, Vol.102 No.8, p.2880-2885
【文献】 Appl Biochem Biotechnol., 2013, Vol.169, p.511-525
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 36/00
A61K 47/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍、後天性免疫不全症候群および白血病の処置に使用するための組成物であって、
−2010年8月5日にProbiotical SpAによりDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託された、受託番号DSM23879のラクトバチルス・ロイテリLRE03として同定されたラクトバチルス・ロイテリ菌種に属する細菌株、およ
2012年6月6日にProbiotical SpAによりDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託された、受託番号DSM26037のラクトバチルス・サリバリウスLS06として同定されたラクトバチルス・サリバリウス菌種に属する細菌株
からなる混合物を含む、組成物。
【請求項2】
抗癌剤としてヒトおよび動物に使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
抗癌化学療法剤、後天性免疫不全症候群の治療剤および白血病の治療剤の補助療法剤として使用するための組成物であって、
−2010年8月5日にProbiotical SpAによりDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託された、受託番号DSM23879のラクトバチルス・ロイテリLRE03として同定されたラクトバチルス・ロイテリ菌種に属する細菌株、および
−2012年6月6日にProbiotical SpAによりDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託された、受託番号DSM26037のラクトバチルス・サリバリウスLS06として同定されたラクトバチルス・サリバリウス菌種に属する細菌株
からなる混合物を含む、組成物。
【請求項4】
混合物1g当たり、1x10UFCから1x1012UFC、好ましくは1x10UFCから1x1011UFCの細菌濃度を有する混合物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
該混合物が、
−1:5から5:1、好ましくは1:3から3:1、さらにより好ましくは1:2から2:1または1:1の重量比で、ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879およびラクトバチルス・サリバリウスLS06株 DSM26037からなる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
アロエゲル、好ましくは、キダチアロエゲル;さらにより好ましくは、凍結乾燥したキダチアロエゲルをさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
組成物重量に対して1から25重量%、好ましくは5から15重量%の量で凍結乾燥したキダチアロエを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
2005年12月23日にBioMan S.r.L. CompanyによりDSMZに寄託された、受託番号DSM17850のビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティスBb1として同定されたビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス菌種に属する細菌株であって、液体培養培地での増殖中にその細胞内部に亜鉛を蓄積することができる細菌株を、間欠滅菌した細菌製品としてさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ビフィドバクテリウムアニマリス亜種ラクティスBb1株 DSM17850の間欠滅菌した細菌製品を、組成物1g当たり、10から50mg、好ましくは20mgの量で含む、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
好ましくはフラクトオリゴ糖(FOS)および/または緑茶および/またはスクラロースおよび/またはマルトデキストリンなどの、身体に許容される1種またはそれ以上の食品等級または医薬品等級の賦形剤および/または添加剤および/または他の製剤成分をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍、後天性免疫不全症候群および白血病の処置のための治療剤として使用する、ヒトおよび動物用の組成物に関する。抗癌剤としてのヒトおよび動物用の本発明の組成物は、顕著な抗腫瘍活性(抗癌活性)を示す炎症性サイトカイン(Th1)インターフェロン(INF)−γの産生を強力に刺激することができるラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879、および/または顕著な抗腫瘍活性を示す樹状細胞の産生を強力に刺激することができるラクトバチルス・サリバリウスLS06株 DSM26037を含むか、または好ましくはそれからなる混合物を含む。
【背景技術】
【0002】
腫瘍学に関して、現在の薬物療法は、化学療法、内分泌療法、免疫応答調節剤を用いる処置および分子標的薬を用いる処置を含むことが知られている。抗腫瘍化学療法の主な目的は、任意の細胞周期段階で、腫瘍細胞を殺すこと、そうして、原発腫瘍および転移巣の両方を縮小することである。
【0003】
抗癌化学療法剤は免疫系の活性を低下させること、および低下した免疫系(compromised immune system)はウイルスおよび細菌感染から生物を保護することができないことが知られている。
【0004】
加えて、化学療法剤(化学療法)は、主に腫瘍に影響を与えるが、残念ながら、健康な組織に対する副作用も引き起こす、具体的には、食道、胃および腸の粘膜などの細胞増殖および代謝回転が速い組織における粘膜炎、悪心、嘔吐、下痢、栄養吸収不良およびそれによる栄養失調などをもたらすことも知られている。
【0005】
それ故に、全ての化学療法剤(化学療法用抗生物質)の共通の性質は、骨髄毒性であること、それは免疫抑制につながり、その結果として、主にグラム陰性細菌およびカンジダなどの真菌により引き起こされる感染症、消化管上皮毒性および腸内細菌叢の毒性をもたらす。
【0006】
従って、化学療法剤の一般的な副作用を軽減するように、天然の有効かつ良好な耐用性を示す組成物を提供することが望ましい。
【0007】
従って、症状および腫瘍の処置に使用される化学療法剤の副作用の両方を予防および/または軽減するために補助療法剤を提供することが強く必要とされている。
【0008】
さらに、化学療法剤が免疫系の有効性の低下を伴うことがよく知られているため、免疫系の有効性を回復するために、免疫系を刺激することによりそれに作用すること(免疫賦活化)ができる、化学療法剤に対する補助療法剤を提供することが依然として必要とされている。
【0009】
異なる種に属する細菌株の広範な群における長期間の集中的な研究開発活動の末、本発明者らは、好適に上記の必要性を満たす特定の細菌株を同定および選択した。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、
−ブタペスト条約下で、2010年8月5日にProbiotical SpAによりDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託された、受託番号DSM23879のラクトバチルス・ロイテリLRE03として同定されたラクトバチルス・ロイテリ菌種に属する細菌株、および/または
−ブタペスト条約下で、2012年6月6日にProbiotical SpAによりDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託された、受託番号DSM26037のラクトバチルス・サリバリウスLS06として同定されたラクトバチルス・サリバリウス菌種に属する細菌株
を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
(原文に記載なし)
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明者らは、ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879が、炎症性サイトカイン(Th1)インターフェロン(INF)−γの産生を刺激するための実証された、かつ驚くべき能力(実験の部を参照のこと)を示すことを発見した。ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879は、インターフェロンγ(IFN−γ)の内因性産生の方向に驚くべき免疫賦活活性を示す。本発明者らにより選択されたラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879は、炎症性サイトカイン(Th1)インターフェロン(INF)−γの刺激を介して免疫系を活性化するため、驚くべき免疫調節活性を示す。内因性サイトカインの刺激/産生は、外因性サイトカインの場合のような、該サイトカインの点滴投与とは対照的に、毒性を引き起こすことはない。
【0013】
炎症性サイトカイン(Th1)インターフェロン(INF)−γの産生の強力な刺激によって、ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879は、腫瘍細胞増殖を阻害し、低下させることにより、効果的な抗腫瘍作用を発揮することができる。
【0014】
本発明者らは、ラクトバチルス・サリバリウスLS06株 DSM26037が、樹状細胞産生を刺激するための実証された、かつ驚くべき能力(実験の部を参照のこと)を示すことを発見した。樹状細胞は、ウイルスおよび細菌などの危険な微生物による外部からの攻撃から生物を保護する免疫系を支援する。
【0015】
樹状細胞産生の強力な刺激のために、ラクトバチルス・サリバリウスLS06株 DSM26037は、腫瘍細胞増殖を阻害し、低下させることにより、効果的な抗腫瘍作用を発揮することができる。
【0016】
本発明の目的は、抗癌剤としてヒトまたは動物に使用するための、(i)ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879、および/またはラクトバチルス・サリバリウスLS06株 DSM26037を含むか、あるいはそれからなる、細菌の混合物を提供することである。
【0017】
一態様において、該混合物は、腫瘍細胞増殖を阻害および/または減少させるための腫瘍治療、後天性免疫不全症候群の処置および白血病の処置においてヒトまたは動物に使用するために、
(i)−ラクトバチルス・ロイテリLRE03株DSM23879、および/または
−ラクトバチルス・サリバリウスLS06株DSM26037、
を含むか、あるいはそれからなる。
【0018】
別の態様において、(i)細菌の混合物は、1:5から5:1、好ましくは1:3から3:1、さらにより好ましくは1:2から2:1または1:1からなる重量比で
−ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879およびラクトバチルス・サリバリウスLS06株 DSM26037を含むか、あるいはそれからなる。
【0019】
(i)細菌の混合物は、混合物1g当たり、1x10UFCから1x1012UFC、好ましくは1x10UFCから1x1011UFCの細菌細胞濃度を有する。本発明の文脈中で、上記の混合物は全て、簡略化のために、“1つまたは複数の本発明の細菌の混合物”を意味する。
【0020】
本発明の別の目的は、以下の本明細書中、簡略化のために、“1つまたは複数の本発明の組成物”と言う、医療機器指令93/42/EECの定義に準拠する物質を意味する医薬組成物または医療用組成物(medical device composition)を提供することであって、該組成物は、
(i)上記の本発明の細菌の混合物、および/または
(ii)ガム(gum)、好ましくはアルギン酸塩またはその誘導体、および/またはゲル、好ましくはアロエゲルまたはその誘導体を含むか、あるいはそれからなる混合物、および/または
(iii)高度に吸収可能な亜鉛の供給源、および/または
(iv)身体に許容される、1つまたはそれ以上の食品グレードまたは医薬品グレードの賦形剤および/または添加剤および/または他の製剤成分(coformulants)、例えば、好ましくはフラクトオリゴ糖(FOS)、緑茶、スクラロースおよび/またはマルトデキストリンなど
を含むか、またはそれからなる。
【0021】
本発明の目的である一態様において、本発明の組成物は、(i)本発明の細菌の混合物、および(iv)身体に許容される、1つまたはそれ以上の食品等級または医薬品等級の賦形剤および/または添加剤および/または他の製剤成分(coformulants)を含むか、あるいはそれからなり、該組成物は、抗癌化学療法剤、後天性免疫不全症候群の治療剤および白血病の治療剤において、ヒトおよび動物に使用するためのものである。
【0022】
本発明の目的である別の態様において、本発明の組成物は、(i)本発明の細菌の混合物、(ii)ゲル、好ましくはアロエゲルまたはその誘導体を含むか、あるいはそれからなる混合物、および(iv)身体に許容される、1つまたはそれ以上の食品グレードまたは医薬品グレードの賦形剤および/または添加剤および/または他の製剤成分(coformulants)を含むか、あるいはそれからなり、該組成物は、抗癌化学療法剤、後天性免疫不全症候群の治療剤および白血病の治療剤において、ヒトおよび動物に使用するためのものである。該(ii)混合物は、ゲル、好ましくはアロエゲルまたはその誘導体を含むか、あるいはそれからなる。アロエ製品またはその誘導体は、好ましくはキダチアロエ(Aloe arborescens)であり、好ましくは凍結乾燥形態である。キダチアロエは、好ましくは、凍結乾燥形態であり、抗炎症作用を発揮する。
【0023】
さらに、本発明者らは、本発明の組成物による免疫系(IS)の活性化は、“二重バイオスティミュレーション”を介して行われることを見出した。この“二重バイオスティミュレーション”は、第一および第二のバイオスティミュレーションからなる。第一のバイオスティミュレーションは、本発明の組成物中に、非常に高度の生物学的利用能を有する亜鉛が存在するために得られる。この生物学的に利用可能な形態の亜鉛は、胸腺を刺激を刺激して、より多量(多数)のリンパ球を産生する。該胸腺により“過剰に産生された”Tリンパ球は、インターフェロン−γおよび樹状細胞などの非毒性の内因性サイトカインを産生する。
【0024】
第一のバイオスティミュレーションと組み合わされた第二のバイオスティミュレーションは、ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879および/またはラクトバチルス・サリバリウスLS06株 DSM26037により促進され、それらは、亜鉛による胸腺刺激によって既に多量に存在するリンパ球を刺激して、より多くのサイトカイン(具体的には、INF−γおよび樹状細胞)を産生する。上記に加えて、アロエまたはその誘導体、好ましくはキダチアロエ、好ましくはその凍結乾燥形態の存在によっても基礎的な抗炎症効果がもたらされる。
【0025】
亜鉛の非常に高度な生物学的利用能は、それがビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)種に属する細菌株の間欠滅菌した(tyndallized)細菌細胞内に取り込まれた亜鉛の形態であるという事実に基づき、好ましくは本発明者らにより選択された株は、欧州特許出願第08789404号(引用により本明細書中に包含させる)の対象である、DSMZに2005年12月23日に寄託されたビフィドバクテリウム・ラクティスBb1株 DSM17850である。
【0026】
基本的に、本発明者らは、間欠滅菌した細胞(不活性化細胞)に取り込まれる高度な生物学的利用能を有する亜鉛が、インターフェロン−γおよび樹状細胞などの非毒性の内因性サイトカインを産生するT−リンパ球の産生を担う免疫系(IS)、特に胸腺を活性化することができることを見出した。
【0027】
本発明の1つの目的である別の態様において、本発明の組成物は、(i)本発明の混合物、(ii)ゲル、好ましくはアロエゲルまたはその誘導体を含む、あるいはそれからなる混合物、(iii)ビフィドバクテリウム・ラクティス種に属する細菌株の間欠滅菌された細菌細胞内に取り込まれる亜鉛形態の高度に同化可能かつ生物学的に利用可能な亜鉛の供給源、好ましくは該株は、ビフィドバクテリウム・ラクティスBb1株 DSM17850であり、および(iv)身体に許容される、1つまたはそれ以上の食品グレードまたは医薬品グレードの添加剤および/または他の製剤成分(coformulants)および/または剤形化成分(formulation technological ingredients)、を含むか、あるいはそれからなり、該組成物は、抗癌化学療法剤、後天性免疫不全症候群の治療剤および白血病の治療剤におけるヒトおよび動物における使用のためのものである。該(iv)高度に同化可能かつ生物学的に利用可能な亜鉛の供給源は、2005年12月23日にBioMan S.r.L. Company(Italy)によりDSMZ−Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbHに寄託された、ビフィドバクテリウム・ラクティスBb1株 DSM17850(ProbioZinc(登録商標))の間欠滅菌された細菌製品の形態の有機亜鉛として存在する。ビフィドバクテリウム属アニマリス亜種ラクティスBb1株 DSM17850の間欠滅菌された細菌製品は、組成物1g当たり、10から50mg、好ましくは20mgの量で含まれる。
【0028】
本発明の上記の全ての組成物は、抗癌化学療法剤、後天性免疫不全症候群の治療剤および白血病の治療剤ための補助療法剤として使用するのに効果的に適用することができる。
【0029】
最後に、本発明の組成物は、粉末、顆粒、錠剤またはカプセルのような剤形の製造を可能にする、食品グレードまたは医薬品グレードの賦形剤および/または添加剤および/または他の製剤成分(coformulants)を含む。それはまた、例えば、フラクトオリゴ糖のFOSおよび/または緑茶および/またはスクラロースおよび/またはマルトデキストリンを含んでもよい。
【0030】
本発明の組成物は、組成物1g当たり、1x10から1X1012個の生細菌細胞UFC、好ましくは1x10から1x1011個の生細菌細胞UFCを含む。本発明の組成物は、好ましくは、4−12週間の間に、1日1−2回投与することが推奨されている。
【0031】
本発明の組成物は、該アロエ、有利には、凍結乾燥したキダチアロエを、組成物重量に対して、1から25重量%、好ましくは5から15重量%の量で含む。本発明の組成物は、凍結乾燥したキダチアロエ(Alagel(商標))を、例えば、1.5g/用量で含んでいてよい。
【0032】
その作用機序全体に照らして、本発明の組成物は、腫瘍疾患を有する個体において化学療法剤の副作用をより許容されるものにすることができる。
【0033】
一態様において、本発明の組成物は、(i)
−ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879、または
−ラクトバチルス・サリバリウスLS06株 DSM26037、または
−ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879およびラクトバチルス・サリバリウスLS06株 DSM26037
を、1:5から5:1、好ましくは1:3から3:1、さらにより好ましくは1:2から2:1または1:1の重量比で、ならびに/またはフラクトオリゴ糖FOSおよび/または緑茶および/またはスクラロースおよび/またはマルトデキストリンを含むか、あるいはそれからなる、本発明の混合物(混合物1g当たり、1x10UFCから1x1012UFC、好ましくは1x10UFCから1x1011UFCの細菌細胞濃度を有する)を含む。
【0034】
実際に、L.ロイテリLRE03株 DSM23879は、インターフェロン−γ(IFN−γ)の内因性産生を顕著に刺激することができる。免疫系の主要な細胞による、サイトカイン、特にインターフェロン−γ(INF−γ)の放出を誘導する、L.ロイテリLRE03株 DSM23879の能力を、それを健常な成人個体の末梢血から単離されたPBMC(末梢血単核細胞)と共にインキュベートすることにより定量化した。結果は、480pg/mlの濃度でIFN−γ分泌の刺激を示し、すなわち対照よりも47倍高かった。IFN−γ産生を、非刺激条件(ベースライン)に対して、刺激の5日後の培養上清において評価した。インターフェロン−γ(IFN−γ)は、他のインターフェロンと同様に、ウイルスおよび細菌感染に対する阻害特性、ならびに細胞骨格と細胞膜の変化によって仲介される非生理的な細胞増殖、癌遺伝子産物の発現の調節および細胞分化過程の制御(正常細胞および腫瘍細胞の両方におけるほとんど全ての有糸分裂期の延長)の阻害特性を有する。IFN−γはまた、マクロファージ、単球、好中球などの体内の免疫応答に特化した細胞ならびに血小板、内皮細胞および上皮細胞、線維芽細胞および実質細胞(parenchymal cell)などの未分化細胞の両方の活性を刺激することにより、重要かつ特徴的な免疫調節効果を示す。
【0035】
本発明の組成物は、好適な量(2mg/用量)の微生物ビフィドバクテリウム・ラクティスBb1により取り込まれる高度に同化可能な亜鉛を含み得る。高度に生物学的に利用可能な(内在性の)亜鉛は、間欠滅菌(不活性化)された細胞の形態である。亜鉛のこの形態は、顕著に生物学的に利用可能であり、それ故に、生物によってより容易に同化可能である。生物により生物学的に利用可能であり、容易に同化可能である亜鉛イオンは、重要な役割を果たし、リンパ球の刺激/生産を担う胸腺に直接作用して、より多くのサイトカインを産生させる。
【0036】
ビフィドバクテリウム・ラクティスBb1株 DSM17850は、2005年12月23日にBioMan S.r.L. Company(Italy)によりDSMZに寄託された。実際に、ビフィドバクテリウム・ラクティスBb1株 DSM17850は、液体培養培地中での増殖中に細胞内に亜鉛を蓄積することができる。細胞内に蓄積された食品由来の亜鉛(ProbioZinc(登録商標))は、トランスウェル・システム内のCaco−2細胞にて行われたインビトロ試験で示されているように、グルコン酸亜鉛よりも17倍、硫酸亜鉛よりも31.5倍高い同化率を有する。微量元素である亜鉛の高い同化率は、非常に低い投与量でも効果的に欠乏状態を相殺することができる。さらに、亜鉛は、免疫系に、とりわけ、CD4+T−リンパ球(ヘルパーT−リンパ球)に分化するときにIL−12およびIFN−γなどのサイトカイン類を分泌するT−リンパ球の産生が行われる臓器である胸腺に、重要な役割を果たすことが知られている。かかる亜鉛の作用機序は、L.ロイテリLRE03株 DSM23879の作用機序と相乗的である。
【0037】
その全体的な作用機序に照らして、本発明の対象である組成物は、腫瘍疾患を有する個体および化学療法を受けている個体における補助療法として、ならびに後天性免疫不全症候群(AIDS)を有する個体および白血病治療を受けている個体における抗レトロウイルス治療の補助療法として使用するために効果的に適用される。
【実施例】
【0038】
実験の部
本発明者らは、以下に記載の通り、ラクトバチルス・ロイテリLRE03株(ID1777)DSM23879の免疫調節特性を試験した。
具体的には、自然免疫に関与するサイトカインと獲得免疫に関与するサイトカインの両方を分析するために、刺激後の種々の時間で試験を行った。
【0039】
a)細菌の培養および増殖条件
最初に、ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879の細菌培養物を特定の増殖条件下で調製した。該菌株を、Man Rogosa Sharpe(MRS)培地中、37℃の恒温槽中で培養した。免疫調節実験に関しては、約16時間の増殖後、細菌を、指数増殖期に到達させるために上記の条件下で6時間継代培養した。その後、それらを滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)で2回洗浄した。生理学的状態および細胞数を、Becton Dickinson Companyから販売されている市販のキット“液体ビーズを含む細胞生存率キット(Cell Viability Kit with liquid beads)”を製造者の指示書に従って使用して、細胞蛍光検出技術を用いて決定した。このようにして、細胞を予備実験で確立された最適な濃度にして、その後のテストで使用した。
【0040】
b)末梢血単核細胞の分離
次に、末梢血単核細胞を分離した。末梢血単核細胞(PBMC)を密度勾配遠心分離により分離した。この目的のために、Ospedale di Borgomanero (Italy)の免疫輸血サービスからの健康なドナーの20mlの“バフィーコート”を、各試験に使用して、200x10PBMC/バフィーの平均収量を得た。分離した細胞の量を、単核細胞と多核細胞の区別が可能であるTurk色素を用いてBurkerチャンバー内の細胞数により決定した。細胞を、10%の熱不活化したウシ胎仔血清(FCS、Gibco)、1%グルタミンおよび25mM Hepesを添加したRPMI−1640増殖培地(Invitrogen)中、2x10細胞/mlの濃度にした。
【0041】
c)PBMC刺激
次に、末梢血単核細胞(PBMC)を細菌株を用いて刺激した。分離後、PBMCを、1日および5日の間、細菌株を用いて刺激した。各試験のインターナルコントロールは以下の通りであった。
陰性対照:PBMCのみ。
1日の対照:1μg/mlのリポ多糖(LPS;大腸菌、血清型055:B5、Sigma Chemicals Co., St. Louis, MO)で刺激したPBMC。
5日の対照:1μg/mlのフィトヘマグルチニン(PHA−P; Sigma Chemicals Co., St. Louis, MO)で刺激したPBMC。
異なる分析時点で、培養物を、1500rpmで10分間、遠心した。上清を捨て、分析まで−20℃で貯蔵した。細胞をその後の試験に使用した。
【0042】
d)細胞増殖分析
その後、細胞増殖分析を行った。細胞増殖を、ブロモデオキシウリジン(BrdU)核標識プロトコールを用いて細胞蛍光検出技術を用いて評価した。この方法は、トリチウム化チミジンを用いる伝統的な放射性標識システムに代わるものとして開発された。特に、細胞培養物に、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)および2’−デオキシシチジン(dC)をそれぞれ20μMの終濃度で添加した。16時間、加湿雰囲気中、5%CO下、37℃にてインキュベーション後、細胞増殖を細胞蛍光技術によって分析した。培養上清を捨て、分析まで−20℃で貯蔵した。固定処理および細胞壁の透過処理後、細胞DNAを抗BrdU FITC結合モノクローナル抗体(mAb)(Becton Dickinson)で標識した。細胞を、調製から24時間以内に、Becton Dikinson Companyのフローサイトメーター FACScaliburおよび分析プログラムcellQuestを用いて分析した。
【0043】
結果は、刺激の存在下で増殖する細胞の割合と刺激の非存在下で増殖する細胞の割合との比として計算される、細胞増殖指数(P.I.)として表された。2以上のP.I値は、許容されるとみなされた(カットオフ値)。全ての試験において、対照としてのマイトジェン(PHA)での刺激の結果は、常に、カットオフ値よりも高くなり、PBMCが、生存能および増殖能を有したことが確認された。
【0044】
e)個々の細胞亜集団を特徴付ける分子の分析
次に、個々の細胞亜集団を特徴付ける分子の分析を行った。免疫表現型の特徴付けに関しては、細胞を、以下の種々の組み合わせ:フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)またはペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP):CD3、CD4、CD8、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56、HLA−DRと結合させたモノクローナル抗体(mAb)と共に、暗所で30分間インキュベートした。インキュベーション後、サンプルを洗浄し、1%パラホルムアルデヒドを含有する溶液で固定し、4℃で貯蔵した。調製から24時間以内に、サンプルをフローサイトメーター FACScaliburにより、分析から汚染物質である細胞破片を除外するように選択された細胞で、分析した。
【0045】
f)サイトカイン投与
次いで、サイトカイン投与を行った。培養上清中のサイトカイン濃度を、ELISAアッセイ(酵素結合免疫アッセイ)によって決定した。具体的には、サイトカイン(IL−4、IL−10、IFN−γおよびIL−12p70)投与について、eBioscence Company(San Diego CA)のキット“ヒトELISA Ready−SET−Go”を使用した。
【0046】
g)統計分析
スチューデントのt検定を用いる統計分析を行った。p<0.05値を有意とみなした。
【0047】
結果
i)ラクトバチルス・ロイテリLRE03株 DSM23879による誘導される増殖応答を決定した。細胞増殖のインビトロ分析は、免疫機能を調査するのに非常に有用な生物学的パラメーターである。試験した細菌株がリンパ球増殖の誘導に影響を与え得るかどうかを分析するために、末梢血単核細胞(PBMC)を細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879で刺激した。T−リンパ球ポリクローナル増殖を誘導することができるマイトジェン刺激剤であるフィトヘマグルチニン(PHA)を、陽性対照として用いた。PBMCを、Ospedale S.S.Trinita, Borgomanero (Novara)の輸血サービスからの、平均年齢40歳(21−52歳)の4名の健常な男性ドナーの末梢静脈血サンプルから単離した。
【0048】
図1に示す通り、細胞増殖指数(P.I.、上記の方法を参照)が報告されるとき、全ての刺激条件下でのPBMC増殖応答は、刺激の非存在下(ベースライン)でよりも有意に高くなった。
【0049】
図1では、4つの独立した試験の平均±標準誤差(S.E.M.)を示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。
【0050】
ii)異なる細胞亜集団に対する細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879の作用を評価した。どの細胞亜集団が、試験したプロバイオティック株での刺激によって増殖を誘導されたかを検出するために、マルチパラメトリックフローサイトメトリー分析を行った。図面(図2および図3)は、自然免疫応答および獲得免疫応答の両方に関与する主な細胞亜集団の割合を示している。
【0051】
iia)自然免疫。1日後、細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03(DSM23879)による刺激は、全樹状細胞(Lineage−/HLA−DR+)の割合を変化させた。
図2に、4つの独立した試験の増殖応答の平均±S.E.Mを示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。
【0052】
iib)獲得免疫。5日後、細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879による刺激は、ヘルパーT−リンパ球(CD3+/CD4)の割合を有意に増加させた。
図3に、12の独立した試験の平均±S.E.Mを示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。
【0053】
iii)サイトカイン分泌。免疫応答に関与する細胞亜集団により分泌されるサイトカインの種々のスペクトルは、特定の抗原刺激に応答して使用されるエフェクター系を選択する際に重要な役割を果たしている。T−リンパ球は、細胞仲介性免疫の主なエフェクターおよび調節細胞を表す。抗原または病原体に応答して、T細胞は、増殖および分化に必要とされる種々のサイトカインならびに他の免疫担当細胞の活性化因子としてのサイトカインを合成および分泌する。試験した細菌株がPBMCによる種々のサイトカイン分泌を誘導するかどうかを調べるために、該細胞を1日間および5日間、活性化させた。培養上清中に放出されたサイトカイン(IL−12p70、IFN−γおよびIL−4)の量を、ELISAアッセイにより測定した。
【0054】
iv)主に炎症促進作用を有するサイトカイン。主に炎症促進作用を有するサイトカインの主な代表として、サイトカイン類IL−12p70およびIFN−γの誘導を評価した。図4に示す通り、細菌株ラクトバチルス・ロイテリ菌LRE03(DSM23879)は、ベースライン状態と比較して、試験した両サイトカインの有意な増加を誘導することができる。
【0055】
v)主に免疫調節作用を有するサイトカイン。主に免疫調節作用を有するサイトカインの主な代表として、サイトカインIL−4の誘導を評価した。図4に示す通り、試験した細菌株ラクトバチルス・ロイテリ菌LRE03(DSM23879)は、ベースライン状態と比較して、サイトカインIL−4分泌の低下を誘導することが可能であることが示された。
【0056】
図4に、4つの独立した試験の平均±S.E.Mを示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。サイトカインIL−12p70の産生を、刺激の1日後の培養上清中で評価した。IFN−γおよびIL−4産生を、刺激の5日後の培養上清中で評価した。
【0057】
細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879での刺激後のPBMCによって分泌されるサイトカインの量に関するデータは、その細菌株自体の炎症性サイトカインを顕著に増加させる能力を明確に示した。具体的には、細菌株ラクトバチルス・ロイテリ菌LRE03 DSM23879は、非刺激条件(ベースライン、図5)に比べて、サイトカインIL−12p70およびサイトカインIFN−γの分泌をそれぞれ6倍および47倍増加させた。
【0058】
細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03 DSM23879のサイトカインIFN−γ分泌を刺激する顕著な能力を考慮して、本試験の結果を、全てのプロバイオティクス菌種コレクションに属する他の細菌株を用いた試験から得られる結果と比較した。具体的には、ベースラインに対する増加を比較し、すなわち、非刺激条件(ベースライン)と比べたIFN−γ量の変化倍を調べた。
【0059】
表1に示す通り、細菌株ラクトバチルス・ロイテリLRE03(DSM23879)は、全てのラクトバチルス属に属する同種および異種の両株と比較して最良のIFN−γ誘導物質であった。
表1に、ベースラインと比較して、種々のラクトバチルス属およびビフィドバクテリウム属による刺激によって誘導されるサイトカインIFN−γの増加が示されている。
【0060】
実験の部
本発明者らは、以下に記載の通りに、細菌株ラクトバチルス・サリバリウスLS06 DSM26037の免疫調節特性を試験した。
【0061】
具体的には、微生物学的観点および分子的観点の両方から予め特徴づけられた、プロバイオティクス菌株ラクトバチルス・サリバリウスLS06 DSM26037の全循環樹状細胞に対する免疫調節特性を評価した。特に、刺激の24時間後、健康な成人ドナー由来の末梢血単核細胞中のDCを選択することにより、マルチパラメトリックフローサイトメトリー分析を行った。
【0062】
a)細菌培養および増殖条件
菌株を、Man Rogosa Sharpe(MRS)培地中、37℃の恒温槽中で培養した。免疫調節実験に関しては、約16時間の増殖後、細菌を、指数増殖期に到達させるために上記の条件下で6時間継代培養した。その後、それらを滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)で2回洗浄した。生理学的状態および細胞数を、Becton Dickinson Companyから販売されている市販のキット“液体ビーズを含む細胞生存率キット(Cell Viability Kit with liquid beads)”を製造者の指示書に従って使用して、細胞蛍光検出技術を用いて決定した。次いで、細胞を予備実験で確立された最適な濃度にして、その後のテストで使用した。
【0063】
b)末梢血単核細胞の分離
末梢血単核細胞(PBMC)を密度勾配遠心分離により分離した。この目的のために、Ospedale di Borgomaneroの免疫輸血サービスからの健康なドナーの20mlの“バフィーコート”を、各試験に使用して、200x10PBMC/バフィーの平均収量を得た。分離した細胞の量を、単核細胞と多核細胞の区別が可能であるTurk色素を用いてBurkerチャンバー内の細胞数により決定した。細胞を、10%の熱不活化したウシ胎仔血清(FCS、Gibco)、1%グルタミンおよび25mM Hepesを添加した、RPMI−1640増殖培地(Invitrogen)中、2x10細胞/mlの濃度にした。
【0064】
c)PBMC刺激
分離後、PBMCを、細菌株を用いて24時間刺激した。各試験のインターナルコントロールは以下の通りであった。
陰性対照:PBMCのみ。
1日(24時間)の対照:1μg/mlのリポ多糖(LPS;大腸菌、血清型055:B5、Sigma Chemicals Co., St. Louis, MO)で刺激したPBMC。
刺激後、培養物を、1500rpmで10分間、遠心した。その後、上清を捨て、細胞をその後の試験に使用した。
【0065】
d)総樹状細胞分析
免疫表現型の特徴付けに関しては、細胞を、以下の種々の組み合わせ:フルオレセインイソチオシアネート(FITCまたはペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP):CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56およびHLA−DRと結合させたモノクローナル抗体(mAb)と共に、暗所で30分間インキュベートした。インキュベーション後、サンプルを洗浄し、1%パラホルムアルデヒドを含有する溶液で固定し、4℃で貯蔵した。調製から24時間以内に、サンプルをフローサイトメーター FACScaliburにより、分析から汚染物質である細胞破片を除外するように選択された細胞で、分析した。
【0066】
e)統計分析
スチューデントのt検定を用いる統計分析を行った。p<0.05値を有意とみなした。
【0067】
結果:樹状細胞に対する細菌株の効果
試験したプロバイオティック株が樹状細胞の調節に影響を与え得るかどうかを決定するために、マルチパラメトリックフローサイトメトリー分析を行った。
図6Aに示す通り、24時間後、株LS06による刺激は、全樹状細胞(Lineage−/HLA−DR+)の割合の有意な増加を誘導した。
具体的には、細菌株L.サリバリウスLS06(DSM26037)は、非刺激条件と比べて(ベースライン、図6B)、全樹状細胞の割合の7倍増加を示した。
【0068】
図6Bに、12の独立した試験の平均±S.E.Mを示す。統計的有意性を、スチューデントのt検定を用いて計算した。p<0.05値は、ベースライン(刺激をしていないPBMC)と比較して、統計的に有意であるとみなされるべきである。
表2に、ベースラインと比較して、種々のラクトバチルス属およびビフィドバクテリウム属による刺激によって誘導される樹状細胞の増加が示されている。
【0069】
結論
データは、細菌株L.サリバリウスLS06が、標準的な基礎的条件と比較して、総DC割合の有意な増加を誘導することを実証した。特に、細菌LS06は、総DC割合を7倍増加させた。
【0070】
本試験で特定された、菌株L.サリバリウスLS06などの樹状細胞を調節することができる細菌による腸内でのコロニー形成は、免疫不均衡によって決定される疾患において非常に重要な因子である。
【0071】
【表1-1】

【表1-2】
【0072】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6