特許第6804989号(P6804989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804989
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】無機質焼結体製造用バインダー
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/634 20060101AFI20201214BHJP
   C08F 261/12 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C04B35/634 200
   C04B35/634 240
   C08F261/12
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-575579(P2016-575579)
(86)(22)【出願日】2016年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2016087603
(87)【国際公開番号】WO2017104820
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2019年7月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-247792(P2015-247792)
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 康晴
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/156214(WO,A1)
【文献】 特開平06−237054(JP,A)
【文献】 特開2004−331413(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/100806(WO,A1)
【文献】 特開平01−201063(JP,A)
【文献】 特開2001−172553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C08F 261/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットとを有するグラフト共重合体を含有する無機質焼結体製造用バインダーであって、
前記ポリビニルブチラールは、重合度が800〜5000、水酸基量が20〜40モル%、ブチラール化度が60〜80モル%であり、
前記ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットのガラス転移温度が−65℃以上、0℃未満であり、
前記ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットのガラス転移温度と、前記ポリビニルブチラールからなるユニットのガラス転移温度との差が、60〜140℃であ
ことを特徴とする無機質焼結体製造用バインダー。
【請求項2】
ポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットとを有するグラフト共重合体は、下記式(2)を用いて得られる平均ガラス転移温度が、−30〜50℃であることを特徴とする請求項1記載の無機質焼結体製造用バインダー。
【数1】
【請求項3】
ポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットとを有するグラフト共重合体は、ポリビニルブチラールからなるユニットを10〜90重量%含有し、ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを10〜90重量%含有することを特徴とする請求項1又は2記載の無機質焼結体製造用バインダー。
【請求項4】
ポリ(メタ)アクリル酸類を構成する(メタ)アクリル酸類は、メタクリル酸類を90重量%以上含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の無機質焼結体製造用バインダー。
【請求項5】
ポリ(メタ)アクリル酸類を構成する(メタ)アクリル酸類は、分子内にカルボキシル基、水酸基、エポキシ基又はエーテル基を有する(メタ)アクリル酸類を3〜50重量%含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の無機質焼結体製造用バインダー。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の無機質焼結体製造用バインダー、有機溶剤、及び、無機質微粒子を含有することを特徴とする無機質焼結体製造用ペースト。
【請求項7】
多孔質を形成させるための造孔剤を更に含有することを特徴とする請求項6記載の無機質焼結体製造用ペースト。
【請求項8】
請求項6又は7記載の無機質焼結体製造用ペーストを用いて作成されることを特徴とするセラミックグリーン成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解性に優れるとともに、特にセラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、充分な機械的強度、及び、柔軟性を有し、吸湿しにくく、長期間に渡って優れたシート特性を維持することが可能なセラミックグリーンシートが得られる無機質焼結体製造用バインダー、並びに、該無機質焼結体製造用バインダーを用いた無機質焼結体製造用ペースト及びセラミックグリーン成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種無機質焼結体を製造する方法としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、ムライト、炭化珪素、窒化珪素、チタン酸バリウム等の無機質粉末に、種々の熱可塑性樹脂や有機化合物等のバインダーを混合してグリーン成型体とし、得られた成型体を焼成することによってバインダーを分解、飛散させながら無機質粉末を焼結させる方法が広く行われている。
【0003】
一方、近年では電子機器の小型化に伴い、セラミック製品に関しても小型化が求められている。
例えば、積層セラミックコンデンサでは、従来よりも微細な粒径のセラミック粉末(例えば、粒子径が500nm以下)を用い、かつ、得られる薄層のグリーンシート(例えば5μm以下)を200層以上積み重ねることで積層セラミックコンデンサを作製することが試みられている。
このようなセラミックグリーンシートに使用されるバインダーとしては、セラミックグリーンシートとした際のシート強度付与効果、及び、焼成時における熱分解性において、従来に比べて高い性能が求められている。
加えて、前記のように、極めて薄層化されたセラミックグリーンシートでは、経時においてセラミックグリーンシートの物性変化がないことが重要となっている。
【0004】
これに対して、例えば、特許文献1には、ある範囲の重合度のポリビニルアセタール樹脂に、フタル酸エステル系可塑剤及びグリコール系可塑剤及び/又はアミノアルコール系可塑剤を混合して用いることにより、機械的強度に優れたグリーンシートを作製する方法が開示されている。
しかしながら、バインダー樹脂としてポリビニルアセタールを単独で用いた場合は、シート強度は高いものの熱分解性が悪いため、バインダーの一部が分解焼失しないで焼結体内に残留炭化物として残存したり、焼結工程で急激に分解飛散することにより成型体にクラックや反りや膨れ等が起こったりする等の問題があった。
【0005】
また、極めて薄層化されたセラミックグリーンシートでは、厚み方向が薄く、体積に対する表面積が大きいことから、表面からの可塑剤の揮発が起こりやすく、作製したセラミックグリーンシートの物性(柔軟性やシート強度)が変化し、グリーンシートを取り扱う行程でクラックが生じる等の問題があった。
一方、熱分解性に優れるアクリル樹脂を用いる方法も検討されているが、焼成後の残留炭化物は減少するものの、アクリル樹脂をバインダーとして製造されたセラミックグリーンシートは強度や柔軟性が充分ではなく、グリーンシートを乾燥する工程やそれ以降の他の工程を行う際に、グリーンシートにクラックが生じやすくなるという問題があった。
【0006】
これらの問題に対して、シート強度や柔軟性に優れたバインダーとして、例えば、特許文献2には、平均分子量、酸価、ガラス転移温度等の樹脂特性を規定したアクリル系バインダーが開示されている。
また、特許文献3、及び、特許文献4には、セラミックグリーンシートに柔軟性を付与するために、可塑剤にフタル酸エステル類等を含有するアクリル系バインダーが開示されている。
しかしながら、これらの文献に記載のバインダー、及び、セラミックグリーンシートを用いた場合においても、厚さ5μm以下の薄膜のセラミックグリーンシートを作製する場合には、充分なシート強度や柔軟性が得られず、剥離時又は打ち抜き時にセラミックグリーンシートが破損する等の問題があった。
また、セラミックグリーンシートから可塑剤が揮発することによって、セラミックグリーンシートの物性変化が生じるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3739237号公報
【特許文献2】特開平6−237054号公報
【特許文献3】特開平5−194019号公報
【特許文献4】特開平9−169569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特にセラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、充分な機械的強度、及び、柔軟性を有し、吸湿しにくく、長期間に渡って優れたシート特性を維持することが可能なセラミックグリーンシートが得られるとともに、熱分解性に優れる無機質焼結体製造用バインダー、並びに、該無機質焼結体製造用バインダーを用いた無機質焼結体製造用ペースト及びセラミックグリーン成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットとを有するグラフト共重合体を含有する無機質焼結体製造用バインダーであって、前記ポリビニルブチラールは、重合度が800〜5000、水酸基量が20〜40モル%、ブチラール化度が60〜80モル%であり、前記ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットのガラス転移温度が−65℃以上、0℃未満であり、前記ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットのガラス転移温度と、前記ポリビニルブチラールからなるユニットのガラス転移温度との差が、60〜140℃である無機質焼結体製造用バインダーである。
以下、本発明を詳述する。
【0010】
本発明者らは、特定の構造を有するポリビニルブチラールとポリ(メタ)アクリル酸類とのグラフト共重合体を、無機質焼結体を形成するためのバインダーとして用いた場合に、熱分解性に優れるとともに、特にセラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、充分な機械的強度、及び、柔軟性を有し、吸湿しにくく、長期間に渡って優れたシート特性を維持することが可能なセラミックグリーン成型体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の無機質焼結体製造用バインダーは、ポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットとを有するグラフト共重合体(以下、単にグラフト共重合体ともいう)を含有する。
本発明において、「ポリビニルブチラールからなるユニット」及び「ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット」とは、グラフト共重合体中に存在している「ポリビニルブチラール」、「ポリ(メタ)アクリル酸類」のことをいう。
また、ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するグラフト共重合体は、主鎖を構成する「ポリビニルブチラールからなるユニット」又は「ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット」に、該主鎖とは異なる側鎖を構成する「ポリビニルブチラールからなるユニット」又は「ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット」が結合した分岐状の共重合体のことをいう。
【0012】
上記ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するグラフト共重合体は、グラフト共重合体であることで、セラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、高いシート強度を有するグリーンシートを得ることができる。
また、グラフト共重合体とすることによって、バインダー樹脂中に含まれるポリビニルブチラール構造を有する部分とポリ(メタ)アクリル酸類構造を有する部分がマクロ的に相分離せず、均質にバインダー中に存在することができるため、柔軟性や熱分解性といった性能も十分に発揮することができ、長期間に渡って優れたシート特性を維持することが可能となる。
更に、グラフト共重合体であることで、スラリーとした際の粘度上昇が小さいために過剰の有機溶剤を用いることが必要なく、調製作業性が良好であり、且つ、塗工性に優れたセラミックグリーンシート用スラリーが得られるという利点がある。
【0013】
上記ポリビニルブチラールからなるユニット及びポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットを有するグラフト共重合体の構造は、用途に応じて設計される。例えば、ポリビニルブチラールからなるユニットが幹を形成し、ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットが枝を形成する場合、ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットが幹を形成し、ポリビニルブチラールからなるユニットが枝を形成する場合、また、上記の構造を持ったポリマーが混在する場合、さらに、同一ポリマー中に上記の構造を両方とも含む場合等が挙げられる。
【0014】
上記グラフト共重合体の分子量としては特に制限は無いが、数平均分子量(Mn)が10,000〜400,000で、重量平均分子量(Mw)が20,000〜800,000で、これらの比(Mw/Mn)が2.0〜40であることが好ましい。Mn、Mw、Mw/Mnがこのような範囲であると、上記グラフト共重合体をセラミックグリーンシートのバインダーとして使用した際に、シート強度と柔軟性のバランスをとることができる。また、スラリー粘度が高くなりすぎず、更に、無機粉末の分散性が良好となるので均一なセラミックグリーンシートを形成することができるため好ましい。
【0015】
上記ポリビニルブチラールからなるユニット(以下、ポリビニルブチラールユニットともいう)の重合度は下限が800、上限が5000である。上記ポリビニルブチラールユニットの重合度が800未満であると、得られるセラミックグリーンシートのシート強度が弱くなることがあり、クラックが入ったり破損したりしやすい。また、5000を超えると、硬度が高くなりすぎ、柔軟性が低下するだけでなく、接着性が低下することがあり、加熱プレスによる積層工程において層間剥離等の接着不良を起こす恐れがある。
更に、スラリーとした際の粘度が高くなって、セラミック粉末の分散性が悪くなるだけでなく、支持体へ塗布する際に塗布ムラが発生し、均質なセラミックグリーンシートが得られないことがある。好ましい下限は1000、好ましい上限は3500である。
【0016】
上記ポリビニルブチラールユニットは、ポリビニルブチラールに通常含まれる酢酸ビニル単位と、ビニルアルコール単位と、ビニルブチラール単位とを有する。
【0017】
上記ポリビニルブチラールユニットにおけるビニルアルコール単位の含有量(水酸基量)は下限が20モル%、上限が40モル%である。上記水酸基量が20モル%未満であると、グリーンシートにした際のシートの柔軟性が強くなりすぎ、支持体からの剥離性が悪くなる。また、得られるシートの強度が弱くなったり、セラミック粉末の分散性が低下したりする。上記水酸基量が40モル%を超えると、水素結合により硬度が増すため、充分な柔軟性が得られないだけでなく、スラリーとした際の粘度が高くなり、支持体へ塗布する際に塗布ムラが発生し、均質なセラミックグリーンシートが得られない。好ましい下限は25モル%、好ましい上限は35モル%である。
【0018】
上記ポリビニルブチラールユニットにおけるビニルブチラール単位の含有量(ブチラール化度)は下限が60モル%、上限が80モル%である。ビニルブチラール単位が60モル%未満であると、充分な柔軟性が得られないだけでなく、スラリーとした際の粘度が高くなり、支持体へ塗布する際に塗布ムラが発生し、均質なセラミックグリーンシートを得ることができず、ビニルブチラール単位が80モル%を超えると、得られるシートの強度が弱くなる。好ましい下限は65モル%、好ましい上限は75モル%である。
【0019】
上記ポリビニルブチラールユニットにおける酢酸ビニル単位の含有量(アセチル基量)は特に限定されないが、セラミックグリーンシートの原料として用いる場合のシート強度を考慮すると、30モル%以下であることが好ましい。30モル%より多いと、ポリビニルブチラールユニットのガラス転移温度が低下し、柔軟性が高くなりすぎるため、グリーンシートのハンドリング性が悪くなる。
【0020】
上記グラフト共重合体中に含まれるポリビニルブチラールユニットの含有量は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、上記グラフト共重合体全体に対して、10〜90重量%が好ましい。上記ポリビニルブチラールユニットの含有量が10重量%未満であると、得られるセラミックグリーンシートのシート強度が弱くなることや、充分な柔軟性が得られないことがあり、90重量%を超えると、焼成時における分解性が低下し、セラミック中に含まれる残留炭化物が多くなってセラミックコンデンサの電気特性が悪化することがある。
より好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は80重量%、また、特に好ましい下限は30重量%、特に好ましい上限は70重量%である。
【0021】
上記ポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニット(以下、ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットともいう)は、単量体である(メタ)アクリル酸類を重合することによって得られる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸類」とは、(メタ)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種をいう。
【0022】
上記(メタ)アクリル酸類のうち、(メタ)アクリル酸エステルとしては、ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度が−65℃以上、0℃未満になるものであれば特に限定されないが、単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステル、単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル及び単官能(メタ)アクリル酸アリールエステルからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
また、上記(メタ)アクリル酸類はメタクリル酸類を90重量%以上含有し、特に、単官能メタクリル酸エステルを90重量%以上含有することが特に好ましい。このことにより、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合、焼成時における分解性が高くなり、残留炭化物が少ないバインダーを得ることができる。また、スラリーとした際に適度な粘度とすることができる。
【0023】
上記単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0024】
また、上記単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、ガラス転移温度をガラス転移温度が−65℃以上、0℃未満とするために、側鎖に炭素を8個以上含む単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50重量%以上含有することが好ましく、55重量%以上含有することがより好ましく、60重量%以上含有することが更に好ましい。
このことにより、ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度が下がるだけでなく、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合に、焼成時における分解性に優れたバインダーとすることができる。また、バインダーの吸水性を低減させることができることから、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合に湿気を吸収しにくく、長期間に渡って優れたシート特性を維持することが可能となる。
上記側鎖に炭素を8個以上含む単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらのなかでは、ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度を−65℃以上、0℃未満とすることができることから、特に2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0025】
上記単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステルとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、上記(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を総称するものであり、上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを総称するものとする。
【0026】
上記(メタ)アクリル酸類は、上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度が−65℃以上、0℃未満になるものであれば単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、上記(メタ)アクリル酸類が2種以上からなる場合、上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度を−65℃以上、0℃未満の範囲内とする方法としては、例えば、下記(1)式を満たすように(メタ)アクリル酸類を選択することが好ましい。
0.003663<W1/Tg1+W2/Tg2+・・・≦0.004808 (1)
式(1)中、W1、W2・・は、上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットを構成する(メタ)アクリル酸類1、(メタ)アクリル酸類2、・・の質量分率を示す。なお、W1+W2+・・=1である。
また、Tg1、Tg2・・は、上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットを構成する(メタ)アクリル酸類1、(メタ)アクリル酸類2、・・のホモ重合体のガラス転移温度(゜K)を示す。
【0027】
上記(メタ)アクリル酸類は、分子内にカルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基及びエポキシ基、エーテル基からなる群から選択される少なくとも1つの極性基を有するものを含有してもよい。上記(メタ)アクリル酸類が上記極性基を有するものを含有することで、無機微粒子の分散性に優れるバインダーとすることができる。
具体的には例えば、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコールメタクリレート等のポリエチレングリコール鎖をエステル側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0028】
なかでも、分子内にカルボキシル基又は水酸基を有する(メタ)アクリル酸類を含有することにより、グラフト共重合体の分子内、及び、分子間相互作用を増大することができる。これにより、得られるグラフト共重合体を含有するバインダーを用いてセラミックグリーンシートを作製した場合、高いシート強度が得られる。
【0029】
また、上記分子内にカルボキシル基、水酸基、エポキシ基又はエーテル基を有する(メタ)アクリル酸類を含有することにより、バインダー内の酸素含有量が高くなり、残炭性に優れるバインダーとすることができる。上記ポリ(メタ)アクリル酸類を構成する(メタ)アクリル酸類は、分子内にカルボキシル基、水酸基、エポキシ基又はエーテル基を有する(メタ)アクリル酸類を3〜50重量%含有することが好ましい。
【0030】
上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は、−65℃以上、0℃未満である。
上記範囲内とすることで、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合に、充分な機械的強度、及び、柔軟性を有するセラミックグリーンシートが得られる。また、セラミックグリーンシートとした際の残留応力を低減させることができることから、長期間に渡って優れたシート特性を維持することが可能となる。本発明の無機質焼結体製造用バインダーをセラミックグリーンシート用のバインダーとして用いる場合、可塑剤を添加しないか、可塑剤の添加量を抑制できることから、可塑剤の揮発に伴うシート特性の低下を防止することができる。
【0031】
上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度が−65℃未満であると、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合、柔軟性が非常に高くなり、充分なシート強度を付与することができないだけでなく、加工時にグリーンシートが伸縮し、寸法精度に支障をきたす。また、ポリビニルアセタールユニットとのガラス転移温度の差が大きくなりすぎて、均質な物性を示すことができない。
逆に、上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度が0℃以上であると、グリーンシートの可塑性が低くなり、加熱プレス時の接着性や工程全体の加工性に劣るものとなる。
上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度の好ましい下限は−55℃、好ましい上限は−5℃である。
なお、上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は、グラフト共重合体を示差走査熱量測定した際、ホモポリマーのガラス転移温度から推定したポリビニルブチラールユニット由来のガラス転移温度を除外することにより測定することができる。
【0032】
上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度と、ポリビニルブチラールユニットのガラス転移温度との差は、60〜140℃であることが好ましく、75〜115℃であることがより好ましい。
上記範囲内であると、ガラス転移温度の低いユニットが、応力を緩和することができ、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合に、充分な柔軟性を付与することができる。
また、打ち抜き加工時や、積層後の加熱プレス時に応力等が作用しても、その応力を効果的に吸収するため、セラミックグリーンシートにクラックが生じることを効果的に抑制することができる。
【0033】
上記グラフト共重合体は、下記式(2)を用いて得られる平均ガラス転移温度が、−30〜50℃であることが好ましい。上記平均ガラス転移温度が、このような範囲であると、上記グラフト共重合体をセラミックグリーンシートのバインダーとして使用した際に、シート強度と柔軟性のバランスをとることができる。
より好ましい下限は−15℃、より好ましい上限は35℃である。
【0034】
【数1】
【0035】
上記グラフト共重合体中に含まれるポリ(メタ)アクリル酸類ユニットの含有量は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、上記グラフト共重合体全体に対して、10〜90重量%が好ましい。上記ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットの含有量が10重量%未満であると、焼成時における分解性が低下し、セラミック中に含まれる残留炭化物が多くなってセラミックコンデンサの電気特性が悪化することがあり、90重量%を超えると、得られるセラミックグリーンシートのシート強度が低下することがあったり、焼成時における急速な分解が起こり、体積収縮に伴う割れやクラックによる無機質焼結体シートに欠陥が発生したりする等して、セラミックコンデンサの電気特性が悪化することがある。好ましい下限は20重量%、好ましい上限は80重量%、また、より好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は70重量%である。
【0036】
上記グラフト共重合体中のグラフト率(グラフト共重合体中のポリビニルブチラールからなるユニットに対するポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットの比率)は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、10〜900重量%が好ましい。上記範囲内とすることで、セラミックグリーンシート用のバインダーとして用いた場合に、焼成時のバインダーの熱分解性、シート強度、及び、柔軟性を両立することができる。
なお、本発明において、「グラフト率」とは、グラフト共重合体中のポリビニルブチラールからなるユニットに対するポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットの比率を表し、例えば、以下の方法により評価することができる。得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、キシレンに溶解させ、不溶分と可溶分とに分離し、不溶分をグラフト共重合体とする。得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリビニルブチラールからなるユニットとポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットの重量を換算し、下記式(3)を用いて算出することができる。
【0037】
【数2】
【0038】
上記グラフト共重合体は、更に、他のモノマーからなるユニットを有していてもよい。
上記グラフト共重合体が上記他のモノマーからなるユニットを有することにより、得られるグラフト共重合体の分子間相互作用が増大し、該グラフト共重合体をバインダーに用いることによって、シート強度が高いセラミックグリーンシートを形成することができる。更に、上記他のモノマーが極性基を有する場合には、該極性基と無機粉末の表面とが水素結合等の相互作用を起こすことにより、得られるスラリーの無機粉末の分散性を向上させ、分散剤を配合しない場合においても均一なセラミックグリーンシートを形成することができる。更に、上記他のモノマーが、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基及びエーテル基からなる群より選択される官能基を有する場合には、バインダー内の酸素含有量が高くなり、熱分解に有効なラジカルが発生することから、バインダーの焼成を助け、残留炭化物が非常に少ないグリーンシートを得ることができる。
【0039】
上記他のモノマーは特に限定されないが、分子内にカルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基及びエポキシ基、エーテル基からなる群から選択される少なくとも1つの極性基と1つのオレフィン性二重結合とを有するモノマーが好ましい。このようなモノマーとしては、例えば、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、アリルアルコール、ビニルエーテル、アリルアミン等が挙げられる。これらの他のモノマーのなかでも、得られるグラフト共重合体を含有するバインダーを用いてセラミックグリーンシートを作製した場合、より高いシート強度が得られることから、分子内にカルボキシル基を有するモノマー、分子内に水酸基を有するモノマーがより好ましい。
【0040】
上記グラフト共重合体中に含まれる他のモノマーからなるユニットの含有量は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、上記グラフト共重合体全体に対して、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。
【0041】
上記グラフト共重合体を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記(メタ)アクリル酸類を含有する混合モノマーを、ポリビニルブチラールが存在する環境下において重合開始剤の存在下にてラジカル重合させる方法等が挙げられる。
上記重合方法は特に限定されず、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の従来公知の重合方法が挙げられる。
上記溶液重合に用いる溶媒は特に限定されず、例えば、酢酸エチル、トルエン、ジメチルスルホキシド、エタノール、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0042】
上記グラフト共重合体を製造するための具体的な操作方法としては、例えば、溶液重合法としては、温度調整機及び攪拌機付きの重合器に、ポリビニルブチラール樹脂、溶媒を仕込み、加熱しながら攪拌することによってポリビニルブチラールを溶解させた後、そこへ上記(メタ)アクリル酸類を含有するモノマーを添加して、重合器内の空気を窒素に置換してから、さらにラジカル重合開始剤を加えて(メタ)アクリル酸類を重合する方法等が挙げられる。
また、懸濁重合法としては、温度調整機及び攪拌機付きの重合器に、ポリビニルブチラール樹脂、(メタ)アクリル酸類を含有するモノマー、純水、分散剤、ラジカル重合開始剤を仕込み、重合器内の空気を窒素に置換し、モノマーをポリビニルブチラール樹脂中に膨潤させた後に昇温して、(メタ)アクリル酸類を重合する方法等が挙げられる。
更に、塊状重合法としては、温度調整機及び攪拌機付きの重合器に、ポリビニルブチラール樹脂、(メタ)アクリル酸類を含有するモノマーを添加して、加熱しながら攪拌することによってポリビニルブチラールをモノマーに溶解させた後、重合器内の空気を窒素に置換してから、さらにラジカル重合開始剤を加えて(メタ)アクリル酸類を重合する方法等が挙げられる。
本発明では、特定のラジカル重合開始剤や溶媒を使用することで、上記グラフト共重合体を好適に作製することができる。
【0043】
上記グラフト共重合体を製造する際のポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットのグラフト効率は10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
上記グラフト効率が10%未満であると、得られた樹脂の均質性が失われ、セラミックグリーンシートの強度、柔軟性が低下するため好ましくない。
なお、本発明において、「グラフト効率」とは、添加した(メタ)アクリル酸類の全量に対して、グラフト共重合体中に取り込まれた(メタ)アクリル酸類の比率を表し、例えば、以下の方法で評価できる。
得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、キシレンに溶解させ、不溶分と可溶分とに分離し、可溶分を(メタ)アクリル酸類のホモポリマー、不溶分をグラフト共重合体とする。
得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリ(メタ)アクリル酸類からなるユニットの重量を換算し、下記式(4)を用いてグラフト効率を求めることができる。
【0044】
【数3】
【0045】
上記ラジカル重合開始剤は特に限定されず、例えば、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシネオデカンネート、t−ブチルパーオキシネオデカンネート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ(3,5,5,−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジベンゾイルパーオキシド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
これらのラジカル開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
本発明の無機質焼結体製造用バインダーに、有機溶剤、無機質微粒子、分散剤等を添加することで、無機質焼結体製造用ペーストが得られる。このような無機質焼結体製造用ペーストもまた本発明の1つである。
本発明の無機質焼結体製造用バインダーを使用することで、可塑剤を使用しないか、使用したとしても大幅に添加量を低減させることが可能となる。これにより、可塑剤を通常通り使用する場合と比較して、可塑剤の揮発によるシート特性の低下を効果的に防止することができる。
また、本発明の無機質焼結体製造用ペーストに、多孔質を形成するための造孔剤を含有させてもよい。
【0047】
上記有機溶剤は特に限定されず、例えば、酢酸エチル、トルエン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び、これらの混合溶媒等が挙げられる。中でも、アルコールを少量でも用いると、バインダーの粘度が下がり、取扱性に優れるペーストが得られる。
また、80℃以上の沸点を持つ有機溶剤を含有することにより、急激な乾燥が防ぐことができ、得られるグリーンシートの表面を平滑にすることができる。
【0048】
本発明の無機質焼結体製造用バインダーをセラミックグリーンシート成型用のバインダーとして用いることで、セラミックグリーンシートを作製することができる。
上記セラミックグリーンシートを作製する方法としては、特に限定されず、公知の成形方法によって成形される。例えば、本発明の無機質焼結体製造用バインダーに、必要に応じて、分散剤、消泡剤等の添加物を配合し、有機溶媒とセラミック粉末と共にボールミル等の混合装置で均一に混合してスラリーを調製し、該スラリーをPETフィルム等の支持体上にドクターブレード法等の公知の方法により湿式塗布し、有機溶剤を乾燥除去する方法が挙げられる。その他に、上記スラリーをスプレードライヤー法等により顆粒状に造粒した後、該顆粒を乾式プレス法により成形する方法等も挙げられる。
【0049】
このように得られたセラミックグリーンシートは、必要に応じて打ち抜き加工等の各種加工が施され、各種セラミック製品の製造に用いられる。例えば、積層セラミックコンデンサを製造する場合には、支持体には離型処理を施したPETフィルムが用いられ、グリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等によって塗布した後に支持体であるPETフィルムから剥離し、これを所定のサイズに打ち抜き、複数枚積層して加熱プレスすることで積層体を作製し、次いで、過熱焼成することによってバインダー樹脂を熱分解して除去することで製造される。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、熱分解性に優れるとともに、特にセラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、充分な機械的強度、及び、柔軟性を有し、吸湿しにくく、長期間に渡って優れたシート特性を維持することが可能なセラミックグリーンシートが得られる無機質焼結体製造用バインダー、並びに、該無機質焼結体製造用バインダーを用いた無機質焼結体製造用ペースト及びセラミックグリーン成型体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0052】
(実施例1)
(1)グラフト共重合体の調製
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を備えた反応容器内に、ポリビニルブチラール(重合度1100、ブチラール化度68.0モル%、水酸基量31.2モル%、アセチル基量0.8モル%)25重量部と、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部と、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部と、酢酸エチル100重量部とを加え、撹拌しながらポリビニルブチラールを溶解させた。次に、窒素ガスを30分間吹き込んで反応容器内を窒素置換した後、反応容器内を撹拌しながら75℃に加熱した。30分間後、0.5重量部の重合開始剤としてのt−ヘキシルパーオキシピバレートを16重量部の酢酸エチルで希釈し、得られた重合開始剤溶液を上記反応器内に5時間かけて滴下添加した。その後、さらに75℃にて3時間反応させた。
次いで、反応液を冷却することにより、グラフト共重合体を含有する固形分30重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、23万であった。
グラフト効率は69%、グラフト率は69%であった。
また、ポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−6℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は31℃であった。
【0053】
(2)セラミックグリーンシートの作製
得られたグラフト共重合体溶液を希釈溶剤(エタノールとトルエンの混合溶剤、エタノールとトルエンの重量比率は1:1)により希釈し、固形分10重量%の溶液とした。次に、本溶液20重量部にセラミック粉末としてチタン酸バリウム粉末(BT−03、平均粒子径0.3μm、堺化学工業社製)20重量部添加し、ボールミルを用いて48時間混練してセラミックグリーンシート用スラリーを得た。
次に、得られたセラミックグリーンシート用スラリーを、コーターを用いて乾燥後の厚みが3μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗布し、常温で1時間風乾した後、熱風乾燥機で80℃で1時間、ついで、120℃で1時間乾燥してセラミックグリーンシートを得た。
【0054】
(実施例2)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度1700、ブチラール化度68.0モル%、水酸基量31.2モル%、アセチル基量0.8モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、2−エチルヘキシルメタクリレート5重量部、イソデシルメタクリレート18重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分30重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、26万であった。
グラフト効率は61%、グラフト率は61%であった。
また、得られたグラフト共重合体におけるポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−29℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は19℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0055】
(実施例3)
実施例2の「(1)グラフト共重合体の調製」において、2−エチルヘキシルメタクリレート5重量部、イソデシルメタクリレート18重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、イソデシルメタクリレート5重量部、n−ラウリルメタクリレート18重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部を用いたこと以外は実施例2と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分30重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、27万であった。
グラフト効率は59%、グラフト率は59%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−54℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は7℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0056】
(実施例4)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度4000、ブチラール化度67.9モル%、水酸基量30.7モル%、アセチル基量1.4モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、n−ラウリルメタクリレート50重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分40重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、50万であった。
グラフト効率は72%、グラフト率は150%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−62℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は−20℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0057】
(実施例5)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度800、ブチラール化度70.0モル%、水酸基量29.0モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、n−ブチルメタクリレート10重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート25重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート1重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分34重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、22万であった。
グラフト効率は69%、グラフト率は100%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−1℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は26℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0058】
(実施例6)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度1100、ブチラール化度67.9モル%、水酸基量30.7モル%、アセチル基量1.4モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、2−エチルヘキシルメタクリレート23.5重量部、グリシジルメタクリレート0.5重量部及びメタクリル酸1重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分30重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、23万であった。
グラフト効率は72%、グラフト率は72%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−4℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は31℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0059】
(実施例7)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度1700、ブチラール化度66.1モル%、水酸基量32.9モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、2−エチルヘキシルメタクリレート50重量部、イソデシルメタクリレート5重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3重量部、グリシジルメタクリレート0.5重量部及びメタクリル酸1重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分42重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、36万であった。
グラフト効率は85%、グラフト率は203%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−8℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は15℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0060】
(実施例8)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度1700、ブチラール化度66.5モル%、水酸基量32.2モル%、アセチル基量1.3モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、2−エチルヘキシルメタクリレート3重量部、イソデシルメタクリレート3重量部及びn−ラウリルメタクリレート2重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分22重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、29万であった。
グラフト効率は55%、グラフト率は18%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−37℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は43℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用い、可塑剤としてジブチルフタレートを用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0061】
(実施例9)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度1700、ブチラール化度66.1モル%、水酸基量32.9モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、n−ブチルメタクリレート2重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート8重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.5重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分23重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、28万であった。
グラフト効率は44%、グラフト率は18%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−2℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は48℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0062】
(実施例10)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度1700、ブチラール化度66.1モル%、水酸基量32.9モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、n−ブチルメタクリレート1重量部及び2−エチルヘキシルメタクリレート7重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分22重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、26万であった。
グラフト効率は31%、グラフト率は10%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−7℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は51℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0063】
(実施例11)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度800、ブチラール化度70.0モル%、水酸基量29.0モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、2−エチルヘキシルメタクリレート2重量部、n−ラウリルメタクリレート65重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート1重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分45重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、27万であった。
グラフト効率は77%、グラフト率は210%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−63℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は−28℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0064】
(実施例12)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度800、ブチラール化度70.0モル%、水酸基量29.0モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、2−エチルヘキシルメタクリレート2重量部及びn−ラウリルメタクリレート73重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分46重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、28万であった。
グラフト効率は78%、グラフト率は233%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−64℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は−32℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0065】
(実施例13)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度1700、ブチラール化度66.1モル%、水酸基量32.9モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、n−ラウリルメタクリレート40重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分37重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、32万であった。
グラフト効率は73%、グラフト率は123%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−61℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は−14℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0066】
(実施例14)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度800、ブチラール化度70.0モル%、水酸基量29.0モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、2−エチルヘキシルメタクリレート10重量部及びi−ブチルアクリレート2重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分24重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、20万であった。
グラフト効率は49%、グラフト率は23%であった。
また、得られたグラフト共重合体における(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−12℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は39℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0067】
(比較例1)
ポリビニルブチラール(重合度1100、ブチラール化度68.0モル%、水酸基量31.2モル%、アセチル基量0.8モル%)25重量部をエタノールとトルエンの混合溶剤(エタノール:トルエン=1:1)に固形分10重量%で溶解したポリビニルブチラール樹脂溶液を作製した。
なお、得られたポリビニルブチラールについて、カラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、23万であった。
次いで、実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」において、グラフト共重合体溶液に代えて、得られたポリビニルブチラール樹脂溶液を用い、更に、可塑剤としてジオクチルフタレートを0.4重量部添加したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、セラミックグリーンシートを得た。
【0068】
(比較例2)
ポリビニルブチラール(重合度1100、ブチラール化度68.0モル%、水酸基量31.2モル%、アセチル基量0.8モル%)25重量部をエタノールとトルエンの混合溶剤(エタノール:トルエン=1:1)に固形分10重量%で溶解したポリビニルブチラール樹脂溶液を作製した。なお、得られたポリビニルブチラールについて、カラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、23万であった。
次いで、実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」において、グラフト共重合体溶液に代えて、得られたポリビニルブチラール樹脂溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、セラミックグリーンシートを得た。
【0069】
(比較例3)
ポリ2−エチルヘキシルメタクリレート(重量平均分子量28万)25重量部をエタノールとトルエンの混合溶剤(エタノール:トルエン=1:1)に固形分10重量%で溶解したポリ2−エチルヘキシルメタクリレート溶液を作製した。
次いで、実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」において、グラフト共重合体溶液に代えて、得られたポリ2−エチルヘキシルメタクリレート溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、セラミックグリーンシートを得た。
また、ポリ2−エチルヘキシルメタクリレートのガラス転移温度は、−10℃であった。
【0070】
(比較例4)
ポリビニルブチラール(重合度1100、ブチラール化度68.0モル%、水酸基量31.2モル%、アセチル基量0.8モル%)25重量部と、ポリ2−エチルヘキシルメタクリレート(重量平均分子量28万)25重量部との混合物(重量比で1:1)をエタノールとトルエンの混合溶剤(エタノール:トルエン=1:1)に固形分10重量%で溶解した混合樹脂溶液を作製した。
次いで、実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」において、グラフト共重合体溶液に代えて、得られた混合樹脂溶液を用い、更に、可塑剤としてジオクチルフタレートを0.4重量部添加したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、セラミックグリーンシートを得た。
【0071】
(比較例5)
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を備えた反応容器内に、末端にメルカプト基を有するポリビニルブチラール(重合度1100、ブチラール化度68.0モル%、水酸基量31.2モル%、アセチル基量0.8モル%)25重量部と、n−ブチルメタクリレート2重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート6重量部と、酢酸エチル100重量部とを加え、撹拌しながらポリビニルブチラールを溶解させた。
次に、窒素ガスを30分間吹き込んで反応容器内を窒素置換した後、反応容器内を撹拌しながら75℃に加熱した。
30分間後、0.5重量部の重合開始剤としてのAIBNを16重量部の酢酸エチルで希釈し、得られた重合開始剤溶液を上記反応器内に5時間かけて滴下添加した。
その後、さらに75℃にて3時間反応させた。
次いで、反応液を冷却することにより、ブロック共重合体を含有する固形分20重量%のブロック共重合体溶液を得た。
なお、得られたブロック共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、35万であった。
次いで、得られたブロック共重合体溶液を用い、更に、可塑剤としてジオクチルフタレートを0.15重量部添加した以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0072】
(比較例6)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度1700、ブチラール化度68.0モル%、水酸基量30.8モル%、アセチル基量1.2モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、イソボルニルメタクリレート25重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分30重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、25万であった。
グラフト効率は66%、グラフト率は66%であった。
また、得られたグラフト共重合体におけるポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は180℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は123℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0073】
(比較例7)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度800、ブチラール化度67.0モル%、水酸基量32.0モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、メタクリル酸25重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分30重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、21万であった。
グラフト効率は69%、グラフト率は69%であった。
また、得られたグラフト共重合体におけるポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は228℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は148℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0074】
(比較例8)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度600、ブチラール化度80.0モル%、水酸基量18.0モル%、アセチル基量2.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、n−ブチルメタクリレート12.5重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート12.5重量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分30重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、17万であった。
グラフト効率は69%、グラフト率は69%であった。
また、得られたグラフト共重合体におけるポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は4℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は32℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0075】
(比較例9)
実施例1の「(1)グラフト共重合体の調製」において、ポリビニルブチラール(重合度5300、ブチラール化度55.0モル%、水酸基量44.0モル%、アセチル基量1.0モル%)を用いるとともに、2−エチルヘキシルメタクリレート23重量部及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート2重量部に代えて、n−ラウリルメタクリレート25量部を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体を含有する固形分30重量%のグラフト共重合体溶液を得た。
なお、得られたグラフト共重合体の重量平均分子量をカラムとしてWaters社製「2690 Separations Model」を用いて、GPC法によってポリスチレン換算による重量平均分子量を測定したところ、50万であった。
グラフト効率は72%、グラフト率は72%であった。
また、得られたグラフト共重合体におけるポリ(メタ)アクリル酸類ユニットのガラス転移温度は−66℃であった。なお、得られたグラフト共重合体の平均ガラス転移温度は3℃であった。
次いで、得られたグラフト共重合体溶液を用いた以外は実施例1の「(2)セラミックグリーンシートの作製」と同様にして、セラミックグリーンシートを得た。
【0076】
(評価方法)
上記で得られた樹脂溶液、セラミックグリーンシートの性能を以下の方法で評価した。結果を表1に示した。
【0077】
(ポリ(メタ)アクリル酸ユニットのガラス転移温度)
得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、キシレンに溶解させ、不溶分と可溶分とに分離し、可溶分を(メタ)アクリル酸類のホモポリマー、不溶分をグラフト共重合体とした。
得られたグラフト共重合体について、DSC6200(SII社製)を用いて、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定を行った。
なお、測定された2つのガラス転移温度のうち、50〜70℃の間にあるポリビニルアセタールユニット由来のガラス転移温度とは異なるガラス転移温度を、ポリ(メタ)アクリル酸ユニットのガラス転移温度とした。
【0078】
(熱分解性評価)
得られた樹脂溶液を用いて、厚さが100μmのバインダー樹脂からなるフィルムを作製し、これを600℃まで加熱し、完全に分解するか否かを観察して、以下の基準で熱分解性を評価した。
◎:残さがなく、完全に分解した。
○:残さは殆どなく、概ね完全に分解した。
×:明らかな残さがあった。
【0079】
(強度・剥離性評価)
得られたセラミックグリーンシートをポリエステルフィルムから剥離し、セラミックグリーンシートの状態を目視にて観察し、以下の基準で強度・剥離性を評価した。なお、評価はセラミックグリーンシートを作製した後に直ちに行った。
◎:セラミックグリーンシートをポリエステルフィルムからきれいに剥離でき、剥離したシートに切れや破れは全く観察されなかった。
○:セラミックグリーンシートをポリエステルフィルムからきれいに剥離でき、剥離したシートのごく一部に、小さな切れが観察された。
△:セラミックグリーンシートをポリエステルフィルムからきれいに剥離でき、剥離したシートの半数程度に、小さな切れが観察された。
×:セラミックグリーンシートをポリエステルフィルムから剥離できない、もしくは、剥離したシートの大部分に切れや破れが観察された。
【0080】
(柔軟性)
グリーンシートの中央部を直径2mmのガラス芯棒で押さえ、これを中心とする180°の折り曲げ試験を行い、以下の基準で柔軟性を評価した。なお、評価はセラミックグリーンシートを作製した後に直ちに行った。
○:クラックの発生は確認できなかった。
△:ごく小さなクラックの発生が確認された。
×:大きなクラックの発生が確認された。
【0081】
(シート安定性)
得られたグリーンシートを10日放置した後、上記の強度・剥離性評価と柔軟性を評価し、以下の基準で安定性を評価した。
◎:強度・剥離性、柔軟性とも評価結果が◎または○であった。
○:強度・剥離性、柔軟性の何れか一方の評価結果が△であった。
△:強度・剥離性、柔軟性の何れか一方の評価結果が×であった。
×:強度・剥離性、柔軟性とも評価結果が×であった。
【0082】
【表1】
【0083】
(吸湿性)
得られたグリーンシートを110℃、3時間の条件で乾燥させた後、30℃、95%RHの恒温恒湿下に3日間静置した。その後、グリーンシートを取り出し、恒温恒湿投入前と投入後の重量を測定することで吸水率を求めた。なお、吸湿率は下記(5)式を用いて算出した。
【0084】
【数4】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、特にセラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、充分な機械的強度、及び、柔軟性を有し、吸湿しにくく、長期間に渡って優れたシート特性を維持することが可能なセラミックグリーンシートが得られるとともに、熱分解性に優れる無機質焼結体製造用バインダー、並びに、該無機質焼結体製造用バインダーを用いた無機質焼結体製造用ペースト及びセラミックグリーン成型体を提供することができる。
また、本発明の無機質焼結体製造用バインダーは、燃料電池に使用されるセラミックグリーンシートのバインダーとしても好適に使用することができる。