(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成分(a)の置換基を有していてもよいアリール基を有する第3級アミンが、N,N−ジメチルベンジルアミンである請求項1に記載の多孔質直管状銅めっき皮膜形成用電気めっき浴。
成分(b)の置換基を有していてもよい長鎖アルキル基を有する第3級アミンが、ジメチルラウリルアミンである請求項1に記載の多孔質直管状銅めっき皮膜形成用電気めっき浴。
【背景技術】
【0002】
銅めっき皮膜は、装飾、半導体の回路形成、摺動部材の被覆、電気化学センサー、蓄電デバイス等の種々の用途に用いられている。
【0003】
一般に、装飾、半導体の回路形成等においては、銅めっき皮膜は平滑であることが求められるが、フィルター、熱交換器、蓄電デバイス等においては、感度や性能が高くなるため比表面積が大きいことが求められる。
【0004】
銅めっき皮膜の比表面積を大きくする技術としては、例えば、ピロリン酸銅めっき浴に特定の構造の疎水性基を有する水溶性第4級アンモニウム化合物からなる添加剤を添加した電気めっき浴でめっき皮膜表面に1μm前後の多数の微細孔を形成する技術(特許文献1)、アセチレン基含有ジオールおよびノニオン系界面活性剤を含有する無電解めっき浴でめっき皮膜表面に2〜8μm程度の複数の筒状体を形成する技術(特許文献2)等が知られている。
【0005】
しかしながら、蓄電デバイスにも多種多様なものがあるため、上記のような微細孔や筒状体以外の形状で銅めっき皮膜の比表面積を大きくできる技術も求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は銅めっき皮膜の比表面積を大きくできる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ピロリン酸銅めっき浴に特定の構造の第3級アミンを2種以上と、酸を特定量組み合わせて含有させることにより、これまでにない表面形状を有し、比表面積の大きい銅めっき皮膜が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、ピロリン酸銅めっき浴に、以下の成分(a)〜(c)
(a)置換基を有していてもよいアリール基を有する第3級アミン
(b)置換基を有していてもよい長鎖アルキル基を有する第3級アミン
(c)酸 3〜30g/L
を含有させたことを特徴とする多孔質直管状銅めっき皮膜形成用電気めっき浴である。
【0010】
また、本発明は、基材を、上記めっき浴中で電気めっきすることを特徴とする多孔質直管状銅めっき皮膜の形成方法である。
【0011】
更に、本発明は、基材上にめっきされた銅めっき皮膜であって、銅めっき皮膜の表面に複数の直管状体があることを特徴とする多孔質直管状銅めっき皮膜である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔質直管状銅めっき皮膜形成用電気めっき浴によれば、表面に銅めっきにより形成された複数の直管状体がある銅めっき皮膜を得ることができる。この銅めっき皮膜は比表面積が大きく、また、直管状であるため電極活物質を内部にまで充填できることや通気性に優れ、例えば、蓄電デバイス、フィルター、熱交換器等に好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の多孔質直管状銅めっき皮膜形成用電気めっき浴(以下、「本発明浴」という)は、ピロリン酸銅めっき浴に、以下の成分(a)〜(c)を含有させたものである。
(a)置換基を有していてもよいアリール基を有する第3級アミン
(b)置換基を有していてもよい長鎖アルキル基を有する第3級アミン
(c)酸 3〜30g/L
【0015】
本発明浴に用いられる成分(a)置換基を有していてもよいアリール基を有する第3級アミンは、特に限定されないが、例えば、以下の式(I)で表される第3級アミンが好ましい。
【0017】
上記式(I)中、R
1は炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルキル基を示し、R
2は炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖アルキル基、あるいは置換基を有してもよいアリール基を示し、R
3は置換基を有していてもよいアリール基を示す。なお、R
2〜R
3の置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられ、これらの中でもアルキル基、アリール基が好ましい。より具体的に、R
1はメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。R
2はメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ベンジル基が好ましく、メチル、エチル基がより好ましい。R
3はベンジル基、フェニル基、ナフチル基が好ましく、ベンジル基がより好ましい。
【0018】
上記式(I)で示される第3級アミンの中でも、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルベンジルアミン、ジイソプロピルベンジルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N−メチルジベンジルアミンがより好ましい。これらの成分(a)は1種または2種以上を組み合わせてもよい。
【0019】
上記成分(a)は本発明浴に、0.001〜0.15mol/L、好ましくは0.005〜0.1mol/Lで含有させればよい。
【0020】
本発明浴に用いられる成分(b)置換基を有していてもよい長鎖アルキル基を有する第3級アミンは、特に限定されないが、例えば、以下の式(II)で表される第3級アミンが好ましい。
【0022】
上記式(II)中、R
4、R
5は置換基を有してもよい炭素数1〜18までの直鎖または分岐鎖アルキル基を示し、R
6は置換基を有してもよい炭素数8〜18までの直鎖または分岐鎖アルキル基を示す。なお、R
4〜R
6の置換基としては、アルケニル、アルキルエーテル、アミノ基等が挙げられる。より具体的に、R
4、R
5はメチル、エチル、ドデシル、テトラデシルが好ましく、メチル、ドデシルがより好ましい、R
5はオクチル、ドデシル、テトラデシル、オクタデシルが好ましく、ドデシル、テトラデシルがより好ましい。
【0023】
上記式(II)で示される第3級アミンの中でも、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチル硬化牛脂アルキルアミン、ジラウリルモノメチルアミンがより好ましい。これらの成分(b)は1種または2種以上を組み合わせてもよい。
【0024】
上記成分(b)は本発明浴に、0.001〜0.1mol/L、好ましくは0.002〜0.05mol/Lで含有させればよい。
【0025】
なお、上記した成分(a)/成分(b)の好ましいモル濃度比は、0.2〜10、より好ましくは0.5〜5である。
【0026】
本発明浴に用いられる成分(c)酸は、特に限定されず、例えば、硫酸、りん酸、ポリリン酸等の無機酸、メタンスルホン酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。
【0027】
上記成分(c)は本発明浴、3〜30g/L、好ましくは4〜25g/L、より好ましくは5〜20g/Lで含有させればよい。
【0028】
本発明浴の基本組成となるピロリン酸銅めっき浴は、特に限定されず、例えば、ピロリン酸銅等の銅源、ピロリン酸カリウム等のピロリン酸銅と水溶性の錯塩を形成する化合物を含有し、pH7.5〜11、好ましくはpH7.8〜9.0の弱アルカリ性であればよい。
【0029】
また、上記ピロリン酸銅めっき浴には、更に、硝酸カリウム、クエン酸カリウム、シュウ酸カリウム等を含有させてもよい。
【0030】
上記ピロリン酸銅めっき浴の好ましい態様としては、例えば、以下のものが挙げられる。
ピロリン酸銅 60〜120g/L
ピロリン酸カリウム 250〜400g/L
pH 7.8〜9.0
【0031】
本発明浴は、予め成分(a)と成分(b)を、成分(c)に予め溶解させたものを、ピロリン酸銅めっき浴に添加する以外は、通常のピロリン酸銅めっき浴と同様にして各種成分の混合やpHの調整等して調製することができる。
【0032】
なお、本発明浴は、全ての成分を混合するとpHが概ね酸性側にあるため、上記pHの調整は、通常、アンモニア、水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質を用いて行うが、本発明浴の安定性等の点からアンモニアを用いてpHの調整をすることが好ましい。
【0033】
以上説明した本発明浴中で基材を、電気めっきすることにより多孔質直管状銅めっき皮膜を形成することができる。電気めっきの条件は特に限定されないが、直管状体の形成性の点から、0.5〜3.5A/dm
2、好ましくは1〜3A/dm
2で10分間以上、好ましくは15〜60分間である。また、めっき浴の温度は、特に限定されないが、例えば、20〜50℃、好ましくは30〜40℃である。更に、めっきの際には、通常のように対流を起こすような撹拌は行わず、できるだけ撹拌をしないことが好ましく、無撹拌がより好ましい。なお、本発明浴と同じような組成であっても、めっき条件が異なると、得られるめっき皮膜は多孔質直管状ではなく多孔質壺状となることがある。
【0034】
本発明浴で電気めっきすることのできる基材としては、特に限定されないが、例えば、少なくとも基材の表面が、銅、ニッケル、真鍮等の金属、ABS、ポリイミド等の樹脂等で形成されたもの等である。
【0035】
なお、多孔質直管状銅めっき皮膜とは、銅めっき皮膜の表面に銅めっきにより形成された直管状体があり、これが複数あることにより多孔質となっているものである。ここで直管状とは、上面に開口部を有し、その開口部が一直線に下面まで続くパイプのような形状をいう。具体的な多孔質直管状銅めっき皮膜としては、直管状体の大きさ(最大幅)が2〜8μm程度、高さが1μm以上であり、直管状体の開口の大きさが0.3〜5μm程度であり、これが密集、好ましくは隙間なく1mm
2あたり50000〜150000個程度密集しているものである。
【0036】
この多孔質直管状銅めっき皮膜は、通常の銅めっき皮膜と同様に、装飾、半導体の回路形成、摺動部材の被覆等の用途に用いることができる。特に、この多孔質直管状銅めっき皮膜は、これに更に金属や樹脂の層を積層すれば、直管状体の内部にそれが入り込み、アンカー効果が生じてピール強度は向上する。
【0037】
また、この多孔質直管状銅めっき皮膜は、比表面積が大きいため、熱交換器、フィルター、触媒用担体や、全固体二次電池等の二次電池、燃料電池、電気二重層キャパシター等の蓄電デバイス等の用途に用いると感度や性能が向上するため好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
実 施 例 1
多孔質直管状銅めっき皮膜の形成:
(1)電気めっき浴の調製
N,N−ジメチルベンジルアミン5g/Lおよびジメチルラウリルアミン5g/Lをポリリン酸7.5g/Lに溶解させた。これを水にピロリン酸銅を90g/L、ピロリン酸カリウム300g/Lで溶解させたものと混合し、アンモニア水でpHを8.4に調整して多孔質直管状銅めっき皮膜形成用電気めっき浴を得た。
【0040】
(2)電解めっき
上記(1)で得た電気めっき浴を35℃にしたものに、真鍮板を浸漬して電流密度2A/dm
2で50分間めっきした。なお、めっき中は無撹拌とした。この電気めっき後の表面を電子顕微鏡で観察したところ(
図1)、銅めっき皮膜の表面に、銅めっきで形成され、上面に開口部を有する直管状体が複数あることが分かった。直管状体の大きさ(最大幅)は3〜6μm程度であり、直管状体の開口の大きさは0.7〜2.5μm程度であり、これが1mm
2あたり72000個程度隙間なく密集していた。また、直管状体の断面を電子顕微鏡で観察したところ(
図2)直管状体の開口は一直線に基板間で続くパイプのような形状であった。更に、直管状体の高さは10μm程度であった。
【0041】
実 施 例 2
多孔質直管状銅めっき皮膜の形成:
実施例1の(1)電気めっき浴の調製において、ポリリン酸を20g/Lにし、電流密度を3A/dm
2にする以外は、実施例1と同様にして銅めっき皮膜を得た。この銅めっき皮膜を電子顕微鏡で観察したところ、銅めっき皮膜の表面に、銅めっきで形成され、上面に開口部を有する直管状体が複数あることが分かった。直管状体の大きさ(最大幅)は2.5〜5μm程度であり、直管状体の開口の大きさは0.6〜2μm程度であり、これが1mm
2あたり90000個程度隙間なく密集していた。
【0042】
実 施 例 3
多孔質直管状銅めっき皮膜の形成:
実施例1の(1)電気めっき浴の調製において、ポリリン酸を12.5g/Lにし、電流密度を3A/dm
2にする以外は、実施例1と同様にして銅めっき皮膜を得た。この銅めっき皮膜を電子顕微鏡で観察したところ、銅めっき皮膜の表面に、銅めっきで形成され、上面に開口部を有する直管状体が複数あることが分かった。直管状体の大きさ(最大幅)は2〜4.5μm程度であり、直管状体の開口の大きさは0.5〜2μm程度であり、これが1mm
2あたり70000個程度密集していた。
【0043】
実 施 例 4
多孔質直管状銅めっき皮膜の形成:
実施例1の(1)電気めっき浴の調製において、ポリリン酸を硫酸9g/Lにし、電流密度を3A/dm
2にする以外は、実施例1と同様にして銅めっき皮膜を得た。この銅めっき皮膜を電子顕微鏡で観察したところ、銅めっき皮膜の表面に、銅めっきで形成され、上面に開口部を有する直管状体が複数あることが分かった。直管状体の大きさ(最大幅)は3〜6.5μm程度であり、直管状体の開口の大きさは0.5〜2.5μm程度であり、これが1mm
2あたり110000個程度密集していた。
【0044】
実 施 例 5
多孔質直管状銅めっき皮膜の形成:
実施例1の(1)電気めっき浴の調製において、ポリリン酸をメタンスルホン酸11g/Lにし、電流密度を2A/dm
2にする以外は、実施例1と同様にして銅めっき皮膜を得た。この銅めっき皮膜を電子顕微鏡で観察したところ、銅めっき皮膜の表面に、銅めっきで形成され、上面に開口部を有する直管状体が複数あることが分かった。直管状体の大きさ(最大幅)は3〜6μm程度であり、直管状体の開口の大きさは0.7〜3μm程度であり、これが1mm
2あたり100000個程度密集していた。
【0045】
実 施 例 6
多孔質直管状銅めっき皮膜の形成:
実施例1の(1)電気めっき浴の調製において、ジメチルラウリルアミン2.5g/Lにし、電流密度を1A/dm
2にする以外は、実施例1と同様にして銅めっき皮膜を得た。この銅めっき皮膜を電子顕微鏡で観察したところ、銅めっき皮膜の表面に、銅めっきで形成され、上面に開口部を有する直管状体が複数あることが分かった。直管状体の大きさ(最大幅)は3〜5.5μm程度であり、直管状体の開口の大きさは0.5〜3μm程度であり、これが1mm
2あたり85000個程度密集していた。