(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は人体に非侵襲で安全性の高い医療診断機器であり、X線診断装置、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置などの他の医用画像診断装置に比べ、装置規模が小さい。また、超音波探触子を体表から当てるだけの簡便な操作により、例えば、心臓の脈動や胎児の動きといった検査対象の動きの様子をリアルタイムで表示可能な装置であることから、今日の医療において重要な役割を果たしている。
【0003】
超音波診断装置においては、超音波探触子に内蔵されている複数の振動子それぞれに高電圧の駆動信号を供給することで、超音波を被検体内に送信する。そして、被検体内において生体組織の音響インピーダンスの差異によって生ずる超音波の反射波を複数の振動素子それぞれにて受信し、超音波探触子が受信した反射波に基づいて画像を生成する。
【0004】
具体的には、送信においては、複数の振動子に独立な遅延を与えて振動子を駆動することで音響パルスをフォーカスし、超音波のビームフォーミングおよびビーム走査を行う。受信においては、生体内の反射点から各振動子への距離の違いを補償するため、複数の振動子に独立な遅延を与えて信号の位相をコヒーレントにそろえ、これを加算するという整相処理を行う。このように、アナログ信号の遅延は超音波診断装置において必須の信号処理となっている。
【0005】
近年、3次元立体画像を得られる超音波診断装置が開発されてきており、3次元立体画像から任意の断面を特定して断層像を得ることで、検査効率を向上させることが出来る。3次元の撮像のためには、超音波探触子内の振動子を、従来の1次元配列から2次元配列、すなわち2Dアレイとする必要があり、振動子数が従来の超音波探触子に対して2乗で増加する。この場合に、超音波探触子と本体装置を接続するケーブルの本数を2乗で増やすことは困難であるため、超音波探触子内で整相加算して本数を減らした受信信号を本体装置にケーブルを介して転送する必要がある。このような超音波探触子内での整相加算を実現するには、送受信と整相加算の機能をビームフォーマーICとして実現し、IC内に振動子毎に送受信回路を配置して、振動子と電気的に1対1で接続する必要がある。
【0006】
以上のように、2Dアレイ超音波探触子においては、整相加算を行うICを探触子内に搭載する必要があり、数千から1万以上の送受信回路がICに搭載される。振動子とIC内送受信回路は一対一で接続され、振動子ピッチ、すなわち振動子1チャネル(1ch)と対応する送受信回路のピッチは、超音波グレーティングの制約から決まる。すなわち、超音波の周波数と振動子ピッチから回折により虚像を生成するグレーティングローブがある角度方向に生成し得るが、これが走査角の範囲内で生成しない条件となるよう、送受信回路のピッチを所定の寸法に収める必要がある。このように送受信回路の小面積化が2Dアレイ超音波探触子においては重要な課題となる。
【0007】
さらに、探触子は体表に直接接触するので発熱を抑える必要があり、ICの低消費電力化は重要な課題である。
【0008】
振動子1chと対応する送受信回路の面積を低減するには、遅延回路を送信回路と受信回路で共用することが効果的である。超音波Bモード画像の撮像においては、送信を行ってから受信に切り替えて信号処理を行うため、送信の遅延制御を行った後に受信の遅延制御を行うことで、同一の1ch内遅延回路を送信と受信で時分割に共用することが可能である。遅延回路を送信回路と受信回路で共用する点については、例えば特許文献1に開示がある。
【0009】
また、ICの低消費電力化のためには、送信回路にパルサを用いるのが効果的である。送信回路には、波形を線形に増幅して振動子を駆動するリニア増幅器と、複数レベルの電圧、例えば正電圧、負電圧、GNDの3レベルの電圧のパルスを生成して振動子を駆動するパルサがある。リニア増幅器は任意の波形を生成可能であるが、定常バイアス電流を必要とし、消費電力が大きい。一方パルサではトランジスタ寄生容量の充放電電流のみが流れるため、波形は多値電圧レベルから成るパルスしか生成できないものの、低消費電力動作を実現できる。パルサの入力信号は、アナログ電圧ではなくどの電圧レベルを出力するかを決める論理信号となる。超音波診断装置へのパルサの使用については、例えば特許文献2に開示がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
低消費電力かつ送受信回路の面積低減を図るためには、送信回路としてパルサを用いつつ、遅延回路を送信と受信で共用することがひとつの解である。そこで、本発明者らは送信回路としてパルサを用いつつ、遅延回路を送信と受信で共用する構成について検討を行った。
【0012】
図1は3値パルサと振動子の一例を示す回路図である。パルサの入力は、正電圧出力信号POSと負電圧出力信号NEGを用いて表現される2ビット幅の信号であり、NORゲートを用いて入力に応じて3値の出力を得、振動子ELを駆動する。振動子ELは、送信時においては電気信号を音に変換し、受信動作においては、反射点から受信した音を電気信号に変換するトランスデューサである。
【0013】
図2には、
図1のパルサにおいて、2ビット入力と3値の出力の関係を示す。この例では、2ビット入力は3つの値を表現する。入力POSとNEGの両方がLowの場合には、スイッチGSがオンし他はオフとなり、振動子ELはGND(例えば0V)に接続される。入力POSが0でNEGが1の場合には、スイッチNSがオンし他はオフとなり、負側高電圧HVSSが振動子ELへの入力となる。入力POSが1でNEGが0の場合には、スイッチPSがオンし他はオフとなり、正側高電圧HVDDが振動子ELへの入力となる。この例は2ビット入力と3値の出力であるが、入力ビット幅と論理を拡張することにより、任意のnビット入力とm値出力の構成が可能である。
【0014】
図3は、本発明者らがパルサを用いつつ遅延回路を送信と受信で共用する構成の検討に際して考案した、比較例のブロック図である。
図3の構成は、1つの振動子ELに対応する1chの送受信回路の構成を、特に遅延回路に着目して示している。2Dアレイ超音波探触子では、
図3の構成をアレイ状に複数備えることになる。
【0015】
受信時は、被測定対象の反射点からの振動(音波)を振動子ELで受信し、送受信スイッチT/R-SWをオンして低雑音増幅器LNAで増幅する。増幅信号は、送受信切り替え信号Tx/Rxで制御されるアナログマルチプレクサAMUXにより、遅延回路DLYに入力される。遅延回路DLYの出力TxDLYは、加算回路RxADDERへ送出される。加算回路RxADDERは、受信時に2Dアレイを構成する複数の振動子ELからの受信信号を遅延させた出力を加算し、整相加算を実現するアナログ加算器である。
【0016】
受信信号はアナログ信号であるから、遅延回路DLYはアナログ信号を処理できるアナログ遅延回路である必要がある。遅延回路を送受信で共用とするため、送信時には同じアナログ遅延回路を用いて、パルサの入力となる論理信号を遅延させる必要がある。以下では、
図1および
図2の例に従い、2ビット幅で3値を有する論理信号を例に説明するが、4値以上でも原理は同様に説明できる。
【0017】
送信時には、波形メモリTxRAMに格納される送信波形パタンのデータ(この例では2ビット幅)を、デジタル/アナログ変換器DACでアナログ信号(この例では3値のアナログ信号)とし、アナログマルチプレクサAMUXにより、遅延回路DLYに入力する。遅延されたアナログ信号は、正の閾値HVTHとの比較を行う比較器HCと、負の閾値LVTHとの比較を行う比較器LCとによってレベル判定され、基準クロックCLKでタイミングの同期をとり、3値パルサPUに入力される。3値パルサPUは入力に従って、3値の振動子駆動信号TDを発生して振動子ELを駆動する。送信時には、送信信号による受信回路への悪影響を避けるために、送受信スイッチT/R-SWはオフとなる。波形メモリTxRAMは、送信パルス波形が格納されたランダムアクセスメモリであり、波形メモリTxRAMに格納される送信波形パタンのデータは、測定対象に応じて複数準備し、適宜選択することが可能である。
【0018】
図3に示すように、遅延回路DLYは送受信の両方に用いる。先に述べたように、受信信号はアナログ信号であるため、遅延回路DLYはアナログ遅延回路である。このとき、パルサの2ビット入力信号のふるまいを検討する必要がある。
【0019】
図4は、
図3の回路において送信時の信号波形の状態を検討した波形図である。
図1のような正側高電圧HVDD、負側高電圧HVSS、GNDの3レベルの電圧を出力可能な3値パルサを例に取ると、正側出力に対応するPOS信号と負側出力に対応するNEG信号の2bitの信号が必要となり、送信時はこの2bit論理信号を遅延させる必要がある。
【0020】
図4に示すように、
図3の構成では、波形メモリTxRAMから得られる2ビット幅の論理信号を構成する2値を持つ論理信号Tx<1>、Tx<0>を、デジタル/アナログ変換器DACで一旦3値の矩形波波形DACOUTにする。そして、矩形波波形DACOUTを、アナログマルチプレクサAMUXで切り替えて遅延回路DLYに入力する。
【0021】
なお、本明細書では、2値を持つ論理信号を「デジタル論理信号」という。また、2bitのデジタル論理信号を、纏めて「Tx<1:0>」のように表記する場合がある。他の論理信号も同様である。
【0022】
遅延回路DLYを通した3値波形TxDLYを、正の閾値HVTHおよび負の閾値LVTHと比較して、デジタル論理信号TxCMP<1>およびTxCMP<0>に戻す。この論理信号を、フリップフロップにより基準クロックCLKと同期してタイミングを取り直し、Tx<1>、Tx<0>を所望時間遅延させた信号POSおよびNEGを得る。なお、3値波形TxDLYは遅延回路DLYで所望の遅延が与えられるが、
図4は波形の変化に着目して説明するため、遅延は0で示している。
【0023】
このとき、デジタル/アナログ変換器DACの出力DACOUTは、理想的には3値を持つ矩形波であるが、
図4のタイミングチャートのように遅延回路DLYを通った波形TxDLYは、遅延回路DLYの有限の帯域のために立ち上がり、立ち下がりがなまった波形となる。これを閾値HVTHおよびLVTHと比較してデジタル論理信号TxCMP<1>、TxCMP<0>に戻すと、本来はTx<1>、Tx<0>が、例えば1クロック遅延した波形がPOS、NEGに現れるはずが、パルス幅が所望の幅からずれてしまう。
図4では理想的な波形を「desired」で示す太線で表し、理想的な波形からのずれを太い矢印で示している。
【0024】
すなわち、なまったTxDLY信号を閾値HVTH、LVTHと比較して論理0または1を判定する際に、とくにHVTHとLVTHをまたがって遷移する際に遷移時間がクロック周期を超えてしまうと、TxCMP<1:0>からPOS、NEGにリタイミングする際に、本来あるはずのないPOSが0かつNEGが0の期間が生ずる。また、パルス幅が本来のTx<1:0>の幅から変動してしまう。
【0025】
このようにして、パルサPUの入力POSおよびNEGのパルス幅がずれるため、振動子ELを駆動する振動子駆動信号TDのパルス幅も所望のパルス幅からずれてしまう。すなわち、正側高電圧HVDDと、負側高電圧HVSSのパルス幅が変わってしまう。このため、パルサPUは所望の中心周波数のパルスを送信できない。このとき、パルス幅の変動が生じないように、受信信号帯域以上に広帯域の遅延回路を採用することも考えられるが、回路面積や消費電力が増加してしまう。
【0026】
そこで、パルサに対応しつつ送信、受信での遅延回路の共用を行う構成において、パルス幅の変動を抑制しつつ、送信パルス波形論理信号を遅延させることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の一側面は、超音波振動子を用いた送受信方法であって、アナログ信号を遅延させることが可能な遅延回路をN個用意するものである。送信時には、Nbit幅のパルス波形論理信号をN個の前記遅延回路でそれぞれ遅延させ、遅延させたパルス波形論理信号に基づいてパルサを制御し、パルサから出力される駆動信号で超音波振動子を駆動して、超音波を送信する。受信時には、超音波振動子で得られる受信信号を、N個の遅延回路少なくとも一つで遅延させることにより、送信と受信で遅延回路を共用する。
【0028】
本発明の他の一側面は、パルサから少なくとも3つのレベルを持つ駆動信号を生成し、駆動信号により振動子を駆動する超音波探触子である。ここで、パルサを制御するために、少なくとも第1のデジタル論理信号と第2のデジタル論理信号を含む波形制御信号を出力する波形制御信号源と、第1のデジタル論理信号を遅延させる第1の遅延回路と、第2のデジタル論理信号を遅延させる第2の遅延回路と、を備える。
【0029】
本発明の他の一側面は、超音波探触子と装置本体からなる超音波診断装置である。ここで、超音波探触子は、パルサから少なくとも3つのレベルを持つ駆動信号を生成し、駆動信号により振動子を駆動する超音波探触子であって、パルサを制御するために、少なくとも第1のデジタル論理信号と第2のデジタル論理信号を含む波形制御信号を出力する波形制御信号源と、第1のデジタル論理信号を遅延させる第1の遅延回路と、第2のデジタル論理信号を遅延させる第2の遅延回路と、を備える。
【発明の効果】
【0030】
パルサに対応しつつ送信、受信での遅延回路の共用を行う構成において、パルス幅の変動を抑制しつつ、送信パルス波形論理信号を遅延させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0033】
明細書および図面で説明する構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
【0034】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数または順序を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0035】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0036】
本明細書において単数形で表される構成要素は、特段文脈で明らかに示されない限り、複数形を含むものとする。
【0037】
以下で詳細に説明される実施例の一つの概要は、アナログ信号を遅延させることが可能な遅延回路を複数、たとえばN個用意し、送信時にパルサを制御するNbit幅のパルス波形論理信号をそれぞれ遅延させる。また、送信と受信で遅延回路を共用する。また、送信時には、遅延回路により遅延させたパルス波形論理信号出力を閾値と比較して論理0または1を判定する。
【0038】
アナログ信号を遅延させることが可能な遅延回路としては、キャパシタにアナログ電圧を書き込んで保持し、所定時間後に読み出すことでアナログ信号を遅延させる構成がある。
【0039】
また、送信時にはN個のキャパシタを独立に制御してN個の遅延回路を実現することでNbit幅のパルス波形論理信号を遅延させ、受信時にはN個のキャパシタを並列に用いてアナログ信号を遅延させる1つの遅延回路とすることも可能である。
【0040】
アナログ信号を遅延させることが可能な遅延回路は差動回路とすることもできる。これにパルス波形論理信号の正論理の信号と論理反転した信号を差動信号として入力し、差動出力として取り出し、差動電圧を比較することで論理0または1に戻すことができる。
【0041】
また、アナログ信号を遅延させることが可能な遅延回路は出力バッファを持つことで受信時には低インピーダンスの出力を実現し、送信時にはこの出力バッファ回路を比較器として用いることで論理0または1の判定を行うこともできる。
【実施例1】
【0042】
図5は第1の実施例を示すブロック図である。波形メモリTxRAMのデータに基づく送信パルス波形の2bit信号Tx<1>、Tx<0>を、ともにアナログ信号を遅延させることが可能な第1の遅延回路DLY1および第2の遅延回路DLY0を用いて、2bit幅の論理バス信号として遅延させる。このとき、アナログマルチプレクサAMUXは、信号Tx<1>を第1の遅延回路DLY1に入力し、信号Tx<0>を第2の遅延回路DLY0に入力する。各遅延回路への入力は、2値を持つ矩形波となる。
【0043】
遅延回路DLY1、DLY0の出力のTxDLY<1>、TxDLY<0>は論理判定用閾値VTHと比較され、デジタル論理信号TxCMP<1>、TxCMP<0>に戻される。デジタル論理信号TxCMP<1>、TxCMP<0>は、フリップフロップにより基準クロックCLKと同期し、2bit幅の論理信号POS、NEGとして3値パルサPUに入力される。
【0044】
図6に
図5と対応するタイミングチャートを示す。第1の遅延回路DLY1および第2の遅延回路DLY0を通る信号はデジタル論理信号であり、論理0または1の2値を持つ矩形波信号である。TxDLY<1:0>は、遅延回路DLY1、DLY0で遅延されたデジタル論理信号であり、アナログ遅延回路の有限の帯域のために理想的な矩形波から変形した波形となる。
【0045】
しかし、TxDLY<1:0>のように有限の帯域の遅延回路でなまったとしても、
図3、
図4の3値を持つ矩形波信号の場合と異なり、2bit幅の送信パルス波形信号のパルス幅を遅延後も正しく復元できる。
【0046】
すなわち、
図4の3値信号TxDLYでは、プラスレベルからマイナスレベルへの遷移に遅延回路DLYの追従が難しかったのに比べ、
図6の2値信号TxDLY<1>とTxDLY<0>では、この大きな遷移がなくなり遅延時の波形への影響が小さい。このため、デジタル論理信号TxCMP<1>、TxCMP<0>、およびデジタル論理信号POS、NEGのパルス幅は、Tx<1>、Tx<0>のパルス幅からの変化が抑制される。このため、振動子ELの振動子駆動信号TDは、波形メモリTxRAMのデータに忠実な3値波形となる。この3値の高電圧波形により、振動子から音圧を発生させる。
【0047】
上記のように、送信パルス波形をデジタル/アナログ変換して多値レベル(3値以上)の矩形波にし、アナログ遅延回路により遅延させた後に論理信号に戻すのでなく、0または1の2値論理信号のままバスとして複数のアナログ遅延回路を通す。この構成により、パルス幅を変動させてしまうことなく、送信パルス波形論理信号を遅延させることができ、送信用の多値パルサに対応しつつ送信、受信での遅延回路の共用が可能となる。送信時には高電圧の振動子駆動信号TDから受信系の低雑音増幅器LNAを保護するために、送受分離スイッチT/R−SWはオフ状態であるのは
図3の例と同様である。
【0048】
受信時には、送受分離スイッチT/R−SWをオンさせて、振動子ELからの微弱なアナログ受信信号を低雑音増幅器LNAで増幅し、アナログマルチプレクサAMUXで低雑音増幅器LNA出力を選択して遅延回路DLY1(あるいはDLY0)により遅延させ、後段の受信加算器RxADDERに送る。この構成および動作により、パルサ対応かつ送信と受信で共用可能な遅延回路を実現する。
【0049】
図5、
図6では3値パルサの例を示したが、遅延回路の数を増やせば5値以上の多値パルサにも対応可能である。ただし面積と消費電力は増加する。また、遅延された信号TxDLY<1>、TxDLY<0>を比較器HC,LCで論理判定用閾値VTHと比較することで0または1の論理判定を行う構成としているが、遅延回路がVDDからGNDの電源電圧振幅の出力を生成可能であれば、比較器は論理インバータのような単純な回路に替えることも可能である。
【0050】
図7は、
図5に示した遅延回路DLY1またはDLY0の実現例である。遅延回路DLY1またはDLY0は、アナログ信号を扱うアナログ遅延回路である。このようなアナログリングメモリの構成により、クロックに同期してサンプル/ホールドを行い、アナログ信号をクロックサイクルの分解能で遅延させることが可能である。
【0051】
アナログ信号である電圧入力Vinは書き込み制御信号φ*wで制御されるWrite側スイッチをオンさせてサンプリング用のキャパシタCs*に書き込まれ、保持される。その後一定時間経過後に読み出し制御信号φ*rで制御されるRead側スイッチをオンさせて出力させる。書き込みWriteから読み出しReadまでの時間が遅延時間となる。ここで*は0および自然数で、
図7の場合は、0からMまでの番号を持つ複数のキャパシタCsとスイッチの組が、順番にサンプル・ホールドを行う。
【0052】
最大遅延量は、クロック周期×キャパシタCs並列数(M+1)で決まる。特に制限はないが、出力につながる配線負荷や、送信時に次段となる送信回路、受信時に次段となる加算回路の入力容量を駆動するために、出力バッファBUFを設けることが望ましい。
【0053】
図8に、
図7の動作を説明するタイミングチャートを示す。基準クロックCLKから、図示されるようなクロック周期×(M+1)の周期をもつM+1相の信号を、Write用、Read用それぞれで生成する。順番に書き込み制御信号φ*wをハイレベルにして書き込み側スイッチをオンさせ、キャパシタCs*に入力アナログ電圧を書き込んで保持する。所定クロックサイクル後に、読み出し制御信号φ*rをハイレベルにして読み出し側スイッチをオンさせ、出力を得る。書き込んでから読み出すまでのクロックサイクル数が遅延時間となる。
図8の例では遅延はクロック3サイクルである。
【0054】
図7に示したように、φ0wとφ0r、φ1wとφ1r、φMwとφMrは同一のキャパシタを制御している。φ*w、φ*rがハイレベルのときにスイッチがオンしてキャパシタへの電圧の書き込み、読み出しが行われ、φ0w立ち上がりからφ0r立ち上がり、φMw立ち上がりからφMr立ち上がりの時間が遅延時間となる。
【0055】
Write、Readともにサフィックス0〜Mの制御信号が循環し、φMwがハイレベルになった後はφ0wがハイレベルに上がる。このためM+1サイクルより長いクロックサイクルでアナログ電圧を保持しておけないので、最大遅延量は
図7のスイッチおよびキャパシタの並列数M+1で決まる。すなわち、最大遅延量を長く取ろうとすれば、回路内スイッチおよびキャパシタの数が増加する。
【実施例2】
【0056】
実施例2では、アナログ信号を遅延させることが可能な遅延回路は差動回路であり、これにパルス波形論理信号の正論理の信号と論理反転した信号を差動信号として入力し、遅延された差動出力を取り出し、差動出力の正出力と負出力を比較することで論理0または1を判定する例を示す。
【0057】
図9は第2の実施例を示すブロック図である。
図5の実施例1と比較して、特徴的な部分を主に説明する。送信時には、波形メモリTxRAMから得た2bit幅のパルス波形論理信号Tx<1>、Tx<0>の論理反転信号TxB<1>、TxB<0>を、論理インバータで生成する。
【0058】
アナログマルチプレクサAMUXは、信号Tx<1>と信号TxB<1>を第1の遅延回路DLY1に入力し、信号Tx<0>と信号TxB<0>を第2の遅延回路DLY0に入力する。その結果、正論理と負論理の差動信号が差動構成のアナログ遅延回路DLY1およびDLY0により差動信号として遅延され、TxDLY<1>とTxDLYB<1>、およびTxDLY<0>とTxDLYB<0>を得る。これらの差動信号をそれぞれ比較器HC,LCで比較することにより、論理0または1の判定を行う。差動化することにより、半導体プロセス変動や電源電圧変動、温度変動に対してロバストな動作が実現可能となる。
【0059】
受信時には低雑音増幅器LNAの差動出力信号をアナログマルチプレクサAMUXで選択し、受信差動信号をDLY1(またはDLY0)により遅延させて差動出力を得て受信加算器RxADDERに送る。低雑音増幅器LNAを差動回路とすることで、信号の2次歪を低減でき、受信時のダイナミックレンジの改善が可能となる。
【0060】
図10に
図9と対応するタイミングチャートを示す。
図6の実施例1と比較して、特徴的な部分を主に説明する。遅延された差動信号TxDLY<1>とTxDLYB<1>、およびTxDLY<0>とTxDLYB<0>は、夫々比較器HC,LCで比較され、それらがクロスするタイミングでパルスの立ち上がり立下りを検出し、論理信号TxCMO<1>とTxCMO<0>を得る。
図10の例では、差動信号TxDLY<1:0>とTxDLYB<1:0>で、正論理の信号が論理反転した信号を上回るタイミングで、論理信号TxCMO<1:0>がHighになるようにしている。以降の処理は実施例1と同様である。
【0061】
図9に示した差動構成のアナログ遅延回路DLY1またはDLY0としては、1対の差動信号のために、
図7のアナログリングメモリを各1対備える構成となる。または後述する
図13または
図15の差動入力、シングルエンド出力の遅延回路を備えてRxADDERにシングルエンド出力を供給する構成としてもよい。
【実施例3】
【0062】
図5の実施例1の構成では、送信時の遅延に伴うパルス幅の変化を抑制できるが、送信時に遅延回路を1対使用する必要がある。実施例3では回路面積をさらに低減可能な例を示す。
【0063】
図11は第3の実施例を示すブロック図である。
図5の実施例1と比較して、特徴的な部分を主に説明する。
図11の例では、送信時には遅延回路DLY1、DLY0の2群のキャパシタを独立に制御して、DLY1およびDLY0の2個の遅延回路として用いることで、2bit幅のパルス波形論理信号Tx<1:0>を遅延させる。送信時の動作は
図6に示した実施例1と同様であり、遅延回路DLY1およびDLY0の出力は、実施例1と同様に比較器HC,LCで論理判定用閾値VTHと比較され、論理0または1に判定される。
【0064】
受信時には
図11のスイッチ群SWXをオンさせ、DLY1およびDLY0の入力、出力を互いにショートする。また、遅延回路DLY1内とDLY0内の2群のキャパシタを互いにショートして並列に用い、遅延回路DLY1とDLY0を一つの遅延回路として低雑音増幅器LNAから入力される受信アナログ信号を遅延させる。遅延回路DLY1とDLY0として等価な回路を用いた場合、キャパシタの並列接続により、受信時の遅延回路の容量値は、遅延回路DLY1とDLY0を単独で用いた場合の倍になる。
【0065】
受信時には微弱なアナログ受信信号を扱うため、回路の熱雑音が問題となる。キャパシタに電圧を保持するような回路の熱雑音はkT/C(kはボルツマン定数、Tは絶対温度、Cは容量値)で決まるため、雑音低減のためには容量値を大きくすることが有効である。このため、受信で所望のS/N比を得られるように、受信の要求から遅延回路に必要な容量値が定まる。実施例1の構成の場合、受信の要求から容量値を決めた遅延回路を複数個用意する必要があるが、実施例3の場合は、受信の要求から遅延回路の容量値を決めておき、送信時にはこれを分割して使用するため、遅延回路の面積を低減することができる。
【実施例4】
【0066】
図12は第4の実施例を示すブロック図である。
図11の実施例3を差動構成にした例である。差動構成とするため、
図9の実施例2と同様に、送信時には、波形メモリTxRAMから得たパルス波形論理信号Tx<1>とTx<0>の論理反転信号TxB<1>とTxB<0>を、論理インバータで生成する。差動信号は、遅延回路DLY1、DLY0で遅延され、差動出力が比較器に出力される。差動化することにより、半導体プロセス変動や電源電圧変動、温度変動に対してロバストな動作が実現可能となる。また低雑音増幅器LNAを差動回路とすることで、信号の2次歪を低減でき、受信時のダイナミックレンジの改善が可能となる。
【実施例5】
【0067】
図13は、差動構成の遅延回路DLY1,DLY0の一例を示す回路図であり、キャパシタを用いた遅延回路に出力バッファBUFを付加して後段の負荷の駆動能力を高め、広帯域化を図る例である。
図9では、遅延回路DLY1,DLY0は差動入力、差動出力となっているが、
図13の例は、差動入力、シングルエンド出力となっている。実施例が対象とする超音波探触子や超音波診断装置では、超音波探触子から超音波診断装置本体への配線本数を減らすために、差動構成でもいずれかの段階でシングル構成に変換することが望ましい。
【0068】
図13の構成は、実施例2(
図9)あるいは実施例4(
図12)の差動構成の遅延回路DLY1,DLY0を置換することができる。差動信号VinPとVinNは、各キャパシタCs*の両端子にスイッチを介して接続される。各スイッチを制御する書き込み制御信号φ*wと読み出し制御信号φ*rの動作は、実施例2あるいは実施例4と同様であり、キャパシタCs*には、VinPとVinNの差分(VinP−VinN)の電荷がホールドされる。
【0069】
オペアンプで構成される出力バッファBUFは、差動入力の一方VinNとコモン電圧VCMを入力とし、出力バッファBUFの出力は差動入力の他方VinPと結線される。この結果、電圧出力Voutには、VCMを中心電位としてキャパシタに書き込まれた電圧が出力される。出力バッファBUFは、送信時、受信時ともに出力バッファとして動作させることができる。
【0070】
出力バッファBUFとしてオペアンプを備えることで、負帰還により低出力インピーダンスが得られる。また負帰還によりオペアンプの反転入力はVCMと仮想ショートされるため、オペアンプの入力容量の影響を低減可能である。これらにより、広帯域の遅延回路を実現可能である。
【0071】
図14に、
図13の差動遅延回路の動作を説明するタイミングチャートを示す。基準クロックCLKから、図示されるようなクロック周期×(M+1)の周期をもつM+1相の信号を、Write用、Read用それぞれで生成する。書き込み制御信号φ*wをハイレベルにして書き込み側スイッチをオンさせ、キャパシタCs*に入力アナログ電圧の差分を書き込んで保持する。所定クロックサイクル後に、読み出し制御信号φ*rをハイレベルにして読み出し側スイッチをオンさせ、出力を得る。
【0072】
動作タイミングは基本的に差動ではない
図8(実施例1)の遅延回路と同様であるが、
図13の差動構成により電圧出力Voutは、VCM+VinP−VinNのシングルエンド出力となる。実施例2(
図9)あるいは実施例4(
図12)と同様、電圧出力Voutを比較器HCおよびLCで閾値と比較することで論理信号を復元する。
【実施例6】
【0073】
図15は、差動構成の遅延回路DLY1,DLY0の一例を示す回路図であり、キャパシタを用いた遅延回路に出力バッファBUFを付加して後段の負荷の駆動能力を高め、広帯域化を図る例である。
図15の例は基本的な構成は
図13の例と同様なので、差異の部分を特に説明する。すなわち、
図15の例は
図13の出力バッファBUFとしてのオペアンプを、受信時にはバッファとして用い、送信時には比較器として用いることで、実施例2(
図9)あるいは実施例4(
図12)の比較器HC,LCを省略することができるようにしている。
【0074】
そのための構成として、
図13の構成に加えて、差動入力の一方VinPを出力バッファBUFの一方の端子に入力する配線を追加し、差動入力VinPおよびVinNと、出力バッファBUFの出力および入力の間にスイッチSW1,SW2,SW3を配置する。スイッチSW1,SW2,SW3は、送受信切り替え信号Tx/Rxで制御され、受信時にはスイッチSW1およびSW3がオンとなり、スイッチSW2がオフとなる。すなわち、受信時には
図13の回路と同様に機能し、後段の加算回路を駆動するために低出力インピーダンスが必要な場合に対応できる。
【0075】
一方、送信時にはスイッチSW1およびSW3がオフとなり、スイッチSW2がオンとなり、
図15に示すスイッチの状態となる。そうすると、差動信号のTrue信号VinPがオペアンプの非反転入力に、差動信号のBar信号VinNがオペアンプの反転入力に入力され、オペアンプを差動入力の比較器として用いることが可能となる。電圧出力Voutは両方の差を示す信号が出力される。その結果、
図10に示したものと同様に、差動信号TxDLY<1:0>とTxDLYB<1:0>で、正論理の信号が論理反転した信号を上回るタイミングで、論理信号TxCMO<1:0>がHighになるようにすることができる。
【0076】
本実施例により一つのオペアンプを送信、受信で共用化が可能となり、受信動作時の広帯域化を図りつつ回路面積を低減することが可能となる。本実施例は遅延回路と比較器の部分の構成に関するものであり、差動の遅延回路を用いる実施例2(
図9)あるいは実施例4(
図12)の差動構成の遅延回路DLY1,DLY0と比較器HC,LCを置換することができる。
【実施例7】
【0077】
図16には、上記で説明した実施例の回路が適用される、3次元撮像のための2次元アレイ振動子を持つ超音波探触子と本体装置を含む、超音波診断装置のシステム構成を示している。超音波探触子PL(いわゆるプローブで、振動子ELを備え、例えば手に持って測定部位に当てる操作ができるようになっている)内には各振動子ELに対応して送受信回路T/Rが配置され、受信信号は加算回路RxADDERを経て、ケーブル等を介して本体装置MAIN内のアナログフロントエンドAFEに送られる。本体装置MAINは、典型的にはコンピュータのような情報処理装置であり、受信信号は本体装置MAIN内で各種処理を施され、例えば画像として表示される。
【0078】
出力が加算される振動子チャネルのグルーピング単位が、サブアレイSBを構成する。既に説明した遅延回路DLY1,DLY0との関係を補足しつつ、装置構成の一例を説明する。送受信回路T/Rはそれぞれ
図3(あるいは
図5,9,11,12等)に示した回路構成を備えている。
【0079】
振動子ELごとに準備される複数の送受信回路T/Rは、アレイ状の配置を持って集積回路チップIC内に配置されている。複数の振動子ELと送受信回路T/Rの組が、サブアレイSBを構成し、サブアレイSBごとに受信信号は加算回路RxADDERで加算され、本体装置MAINへ送られる。
【0080】
本体装置内MAINのコントローラCONTは、超音波探触子PL内の集積回路チップICを制御する、IC制御論理回路1601に制御信号を送る。IC制御論理回路1601はこれに応じてサブアレイ制御論理回路1602を制御し、送受信の切換や超音波フォーカスのための遅延の制御を行う。送信回路がパルサ方式の場合、波形はデジタル値としてパルサに送られるため、IC制御論理回路1601は、パルサが送波する波形データを記憶する波形メモリTxRAMを含む。
【0081】
図17には振動子ELに接続される送受信回路T/Rの全体構成を含む、ひとつのサブアレイ構成例が示されている。1つの振動子ELに対する送受信回路T/Rは、先に述べたように、複数がアレイ状に1つの集積回路チップICに内蔵されている。この集積回路チップICは、超音波探触子PLに実装される。1振動子あたりの送受信回路T/Rには、高耐圧MOSで構成され、高圧信号を生成し振動子を駆動するパルサ方式の送信回路Tx、低圧系信号を扱う受信系回路を送信時に高圧信号から分離するための送受分離スイッチT/R−SW、低圧系の受信用低雑音増幅器LNA、送信信号を遅延させビームフォーミングを行い、さらには受信信号を遅延させるアナログ遅延回路DLYが含まれる。アナログ遅延回路DLYは既に詳細に説明したとおり、遅延回路DLY1,DLY0を含む。アナログ遅延回路DLYで遅延された受信信号は加算回路RxADDERで加算されてIC内のアレイの外、例えば超音波診断装置の本体装置に伝送される。
【0082】
以上の実施例では、3値パルサを例に説明したが、本発明は、4値以上のパルサにも同様に適用することができる。例えば、3値パルサには2bit幅の論理信号が必要だが、5値パルサには3bit幅が必要である。ビット幅の拡張に対応するには、実施例1、2では遅延回路の数を増やせば、4値以上の多値にも適用可能である。あるいは実施例3、4ではキャパシタの分割数を増やせばよい。
【0083】
以上説明した実施例にでは、送受共用の遅延回路において、遅延回路を複数N本用意してNbitバスとして用い、遅延出力を閾値と比較して論理値に戻すことで、マルチレベルパルサに入力するNbit幅の論理データを遅延させることができる。これにより、低消費電力なパルサを送信回路に用いながら、送信と受信で遅延回路を共用することで、小面積かつ低消費電力な超音波送受信回路を提供することができる。
【0084】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることが可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0085】
本発明は、超音波診断装置に接続される超音波探触子内のICに搭載する回路に利用することができる。