【文献】
運動負荷試験用エルゴメータ Strength Ergo 8,online,2014年 7月,全文、[2020年7月16日検索],URL,http://www.mee.co.jp/sales/other/strengthergo/pdf/SE8_SANC064_083_D.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、身体障がい者または高年齢者が運動療法を行う際に、ペダルの回転運動を用いて運動機能の回復、および体力の維持を図ることができる運動療法装置がある(例えば、特許文献1参照)。このような運動療法装置は、エルゴメータと呼ばれている。
【0003】
また、近年、吸気ガス分析を併用して行われる運動負荷試験により、運動耐容能の指標としてATを求め、このATを、運動処方、治療効果の判定などに用いている。そして、このような運動負荷試験を実施する際にも、エルゴメータを適用することができる。
【0004】
運動負荷試験にエルゴメータを適用するメリットとしては、以下の点が挙げられる。
・負荷量の調整が容易であり、定量負荷が可能で、外的負荷が正確に定量化できる。この結果、運動強度と換気量(VE)、酸素摂取量(VO2)、二酸化炭素排出量(VCO2)関係の評価が可能となる。
・エルゴメータのペダルをこぐ被験者の体位変動が少ない。この結果、各種の測定を容易に行うことができる。
【0005】
なお、例えば、体重1kgあたり1分間に体内に取り込まれる酸素量をミリリットルとして表した「酸素摂取量」は、
【数1】
として表記され、Vの上にはドット(・)が付された「ヴィドット」の形で本来は示すべきであるが、本明細書中では、酸素摂取量も含め、ヴィドットとして表記すべき記号を、単に「V」と表記する。
【0006】
ここで、ATの求め方について説明する。エルゴメータを使用するAT算出法の一般的に用いられるランプ負荷法について、V−slope法、トレンド法の内VE/VO2,VE/VCO2を用いる方法で説明する。上述したように、定量負荷が可能なエルゴメータでは、運動負荷試験を実施する際に、安静期間、ウォーミングアップ期間、ランプ負荷期間の負荷強度を容易に設定できる。そして、単位時間当たりの負荷増加量が一定に設定されたランプ負荷期間において、V−Slope法では1呼吸ごとの酸素摂取量、二酸化炭素排出量の計測から、分時酸素摂取量(VO2)および分時二酸化炭素排出量(VCO2)、トレンド法の内VE/VO2,VE/VCO2を用いる方法では、上記1呼吸ごとの酸素摂取量、二酸化炭素排出量に加え1呼吸ごとの換気量を計測し、分時換気量(VE)、分時酸素摂取量(VO2)、分時二酸化炭素排出量(VCO2)を算出することで、被験者のATを求めることができる。
【0007】
具体的には、以下の概念に基づいて、ATが算出される。ランプ負荷中の分時酸素摂取量(VO2)は、直線的に増加する。一方、分時二酸化炭素排出量(VCO2)、分時換気量(VE)は、低強度の運動では、直線的に増加するが、高強度の運転になると非直線的な変化を示す。
【0008】
ここで、高強度の運動とは、ATを超えた運動強度を意味している。そして、運動強度がATを超えると、必要なエネルギーを産生するため解糖系(嫌気的代謝)が加わり、乳酸生成が増加する。この乳酸が細胞内で緩衝されるときに遊離する二酸化炭素(CO2)により、VCO2の増加する割合が有酸素系代謝により算出される二酸化炭素に加わり、より大きくなる。このため、高強度の運動では、VCO2がAT以前の直線の延長上より値が大きくなり、非直線的に変化することとなる。
【0009】
また、運動強度がATを超えた直後は、分時換気量VEは、VCO2と平行して増加するので、VE/VO2は増加する。一方、全身的な代謝性アシドーシス状態が進行していないので、CO2に対する過換気は生じず、VE/VCO2は、変化しない。
【0010】
このように、AT前後では、特徴的なガス交換の変化が生じる。従って、ランプ負荷時の測定値の時間遷移から、例えば、トレンド法の内VE/VO2,VE/VCO2を用いる方法では、VE/VCO2が増加しないが、VE/VO2は、増加する点をATとして求めることができる。また、V−Slope法では、AT以前では、VO2に対してVCO2はほぼ同等量(ml/min)であるのに対して、AT以降では、VO2に対してVCO2が増加に転じるため、変曲点または屈折点をATとして求めることができる。
【0011】
そして、従来のエルゴメータは、例えば、負荷量20W(ワット)一定のウォーミングアップ期間を経た後、ランプ負荷として10W/分等、一定の傾きで負荷を増加させる負荷期間における分時換気量(VE)、分時酸素摂取量(VO2)、分時二酸化炭素排出量(VCO2)の測定結果から、ATを求めていた。
【0012】
また、従来のエルゴメータは、負荷量20Wよりも小さいところにATがある低体力者に対しては、負荷量0Wでのウォーミングアップ期間を経た後に、ランプ負荷期間に移動するように負荷制御することで、ATの算出を可能としていた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の運動療法装置および無酸素性作業閾値の特定方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0024】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る運動療法装置を示す構成図である。
図1において、運動療法装置に相当する自転車エルゴメータは、利用者によって操作(回転)されるペダル付回転機構10、回転電機装置20、測定器30、および動作制御装置40を備えて構成されている。
【0025】
ペダル付回転機構10には、一対のペダル11、各ペダル11に連結されたペダル回転軸12、およびペダル回転軸12に固定されたペダル側プーリ13が設けられている。
【0026】
また、回転電機装置20には、回転電機本体21、回転電機本体21によって駆動される電機回転軸22、電機回転軸22に固定された負荷側プーリ23、および速度検出器24が設けられている。なお、速度検出器24は、足の自重を計測する際に用いることができ、詳細は後述する。
【0027】
ペダル側プーリ13と負荷側プーリ23との間には、無端状のベルト(伝達機構)50が巻き付けられている。すなわち、回転電機装置20は、ベルト50を介してペダル付回転機構10と連結されている。
【0028】
回転電機装置20は、動作制御装置40に接続されている。動作制御装置40は、回転電機装置20の動作を制御する駆動制御部41と、運動耐容能の指標であるATを算出するための指標算出部42を含んで構成されている。
【0029】
なお、動作制御装置40は、プログラム等の情報を記憶している記憶部(RAMおよびROM)と、記憶部が記憶している情報に基づいて演算処理を行う演算部(CPU)とを有するコンピュータである。
【0030】
そして、駆動制御部41は、設定情報入力部60で入力された設定情報(時間軸で指定されたアシスト等のマイナスワット(マイナス負荷)を含む運動強度等)に基づいて選択された、低体力者用の運動負荷プログラムに応じて、回転電機装置20の動作を制御することができる。
【0031】
また、駆動制御部41は、ATを算出する場合には、安静期間、ウォーミングアップ期間、ランプ負荷期間のそれぞれにおいて、回転電機装置20の動作(位置、速度、トルク、ワット等)を適切に制御することができる。
【0032】
回転電機装置20は、被験者の運動のために、ペダル付回転機構10の操作に加える負荷を発する。すなわち、回転電機装置20は、負荷を発する際には、発電機として動作し、回転電機本体21は、被験者のペダル操作により回生負荷として動作する。なお、回転電機装置20が発する負荷の大きさは、負荷電流の大きさを変化させることで自在に変化させることができる。
【0033】
測定器30には、被験者の1呼吸ごとの酸素摂取量、二酸化炭素排出量、換気量を測定するためのマスク31が接続されている。運動負荷試験を実施する際には、被験者がこのマスク31を装着して、ペダル11をこぎ、各期間における1呼吸ごとの酸素摂取量、二酸化炭素排出量、換気量を測定器30により測定し、分時酸素摂取量、分時二酸化炭素排出量、分時換気量を算出・計測することとなる。
【0034】
本発明は、運動負荷試験を行う際のウォーミングアップ期間において、回転電機本体21を力行運転させ、アシスト負荷としてマイナス負荷の状態を実現し、マイナス負荷の状態からランプ負荷試験を開始させることで、ゼロワット(0W)ウォーミングアップの場合に発生している筋活動(酸素消費)のない状態(筋活動による酸素消費の発生しない状態)から分時酸素摂取量、分時二酸化炭素排出量、分時換気量を計測することにより、AT以下の計測データ量を増やし、より安定したATの算出を実現しているところに技術的特徴を有している。
【0035】
そこで、この技術的特徴を明確にするために、まずは、ウォーミングアップ期間において、一定のプラスワット負荷、あるいはゼロワット(0W)負荷を加えてATを算出している従来技術について説明する。
【0036】
図2は、従来の運動療法装置によってATを算出する際の、分時酸素摂取量と分時二酸化炭素排出量を含む測定データの遷移状態を示した図である。
図2(a)、
図2(b)において、横軸は時間、縦軸は各測定データの大きさを示している。さらに、これら
図2(a)、
図2(b)は、被験者が低体力者であった場合の測定データを例示している。
【0037】
また、T1〜T2の区間は安静期間を示しており、T2〜T3の区間はウォーミングアップ期間を示しており、T3〜T4の区間はランプ負荷期間を示している。そして、
図2(a)では、ウォーミングアップ期間における負荷が20Wのプラスワット負荷として設定されている。その一方、
図2(b)では、ウォーミングアップ期間における負荷が0Wで設定されている。
【0038】
V−slope法では、AT以上の分時酸素摂取量と分時二酸化酸素摂取量の関係しか表現できないため(屈曲点、または屈折点がない)に、VE/VO2,VE/VCO2を用いたトレンド法で説明する。
【0039】
ランプ負荷期間で、分時酸素摂取量と分時二酸化酸素摂取量、分時換気量を計測し、VE/VO2およびVE/VCO2を算出することでVE/VCO2が増加しないがVE/VO2が増加する点を特定できれば、その変曲点を被験者のATとして求めることができる。
【0040】
図2(a)のように、ウォーミングアップ期間において、負荷が20W加えられていると、このウォーミングアップ期間において、被験者は、20W負荷に打ち勝つようにペダル11をこぐ必要が生じる。ここで、被験者が低体力者であり、ATに相当する点の負荷が、20W近傍、あるいは20W以下に相当すると仮定する。
【0041】
この場合には、
図2(a)に示したように、ウォーミングアップ期間内で、すでにVE/VCO2が増加しないが、VE/VO2が増加する測定データが得られてしまう。この結果、ランプ負荷期間の測定データから変曲点を正確に得ることができず、ATを求めることができない結果となる。
【0042】
これに対して、
図2(b)のように、ウォーミングアップ期間における負荷を0Wとすることで、ランプ負荷期間の測定データから変曲点を得ることができるようになる。この結果、指標算出部42は、時刻T(AT)のポイントで、ATを求めることができる。
【0043】
なお、
図1に示した構成を有する運動療法装置は、ペダル付回転機構10、ベルト50、および回転電機装置20等からなる機械構造で発生してしまう機械摩擦相当分がある。従って、駆動制御部41は、この機械摩擦相当分の駆動力(補助力)を回転電機装置20で発することができるように、回転電機本体21を力行制御することで、0W負荷を実現している。
【0044】
しかしながら、
図2(b)のようにウォーミングアップ期間における負荷を0Wにしたとしても、低体力者の場合には、T3〜T(AT)の間隔に相当する測定時間が短くなってしまう。また、ランプ負荷において、例えば、10W/分から5W/分ランプに変更することにより、ATまでの測定点を増やすことはできるが、非特許文献1、非特許文献2が示す通り、代謝の適応、運動時間から、適正なランプ負荷量が存在している。この結果、十分な数のサンプリングデータに基づいてATを精度よく算出することが困難となってしまうことがあった。
また、被験者が肥満患者のように、下肢の重量の多い患者においては,0Wでウォーミングアップしても、その期間の代謝量が大きなものになってしまい、分時酸素摂取量(VE/VO2)および分時二酸化炭素排出量(VE/VCO2)がゼロワットウォーミングアップ期間中に上昇してしまうおそれがあった。このような場合にも、ウォーミングアップ期間における負荷を0Wにしたにもかかわらず、ATを精度よく算出することが困難となることがあった。
【0045】
そこで、本発明では、ウォーミングアップ期間において、回転電機本体21を力行運転させ、アシスト負荷としてマイナス負荷の状態を実現し、マイナス負荷の状態からランプ負荷試験を開始させることで、安定したATの算出を実現している。
【0046】
ここで、マイナス負荷とは、被験者がこぐことなしにペダル11に足を載せた状態で、通常こぐ方向にペダルを回転させることのできる負荷に相当する。具体的な数値としては、このマイナス負荷として、例えば、マイナス20ワット(−20W)を設定することができる。
【0047】
そして、本発明では、ウォーミングアップをマイナスワットで実施し、さらに、マイナスワットを起点としてランプ負荷を実施する。例えば、−20Wでウォーミングアップして、−20Wから、ランプ負荷期間を開始する。ランプ負荷期間の最初のうちは、被験者が足に力を入れない状態でペダル11が自発的に力行運転している。
【0048】
ウォーミングアップをマイナスワット(マイナス負荷)で実施することにより、被験者は、実際には運動をしておらず、ペダル11が勝手に回っている状態であり、筋活動(酸素摂取量の安静時からの増加)が少ない状態となっている。従って、被験者が肥満者であったとしても、ランプ負荷期間の開始前に、代謝量が大きくなってしまう状況を回避することができる。
【0049】
ランプ負荷期間を開始後も、足の自重分のトルクがアシストされているうちは、同様の現象が発生する。徐々にマイナスワット(マイナス負荷)から負荷が増加するにしたがって、ペダルの速度が低下する。足の自重とアシストトルクが一致した時点で、ペダルは停止し、その後は、マイナスワット(マイナス負荷)であるにも関わらず、被験者がペダルをこぐ回生負荷となる。
【0050】
そして、徐々にランプ負荷がペダル11に加わることで、被験者は、速度を一定にしてペダル11を回転させるように、ペダル11の負荷に対抗する力でこぐことが必要となる。そして、ランプ負荷期間において、指標算出部42は、測定器30から得られる測定データに基づいて、分時酸素摂取量と分時二酸化炭素排出量を一定の間隔で測定する。
【0051】
指標算出部42は、ランプ負荷期間にわたって測定された分時酸素摂取量と分時二酸化炭素排出量を、一方を縦軸、他方を横軸としてグラフ化することで、変曲点をATとして求めることができる。この変曲点については、
図5を用いて後述する。
【0052】
図3は、本発明の実施の形態1に係る運動療法装置によってATを算出する際の、分時酸素摂取量と分時二酸化炭素排出量を含む測定データの遷移状態を示した図である。この
図3を測定した被験者は、健常者であり、詳細データを以下に示す。
性別:女性
年齢:31才
体重48kg
伸長155cm
【0053】
また、この
図3では、3分の安静期間の後、3分のウォーミングアップ期間においてマイナス負荷を−20Wと設定し、さらに、その後のランプ負荷期間においては、10W/分で負荷をランプ状に上げていき、各データの測定を行った。
【0054】
図3では、−5W近辺で、被験者が力を加えてペダル11をこぐ状態が開始され、38W近辺で変曲点が得られている。このように、−20Wのようなマイナス負荷でウォーミングアップを行い、そのマイナス負荷を起点にランプ負荷期間を開始することで、ウォーミングアップ開始からATが求まるまでの間隔(T3〜T(AT)の間隔)を従来よりも(従来は0Wから)広くすることができる。
【0055】
この結果、分時酸素摂取量および分時二酸化炭素排出量に関して、より多くのサンプリングデータに基づいて、ATに対応する変曲点を特定でき、ATの算出精度を向上させることができる。
【0056】
次に、本実施の形態1における運動療法装置を適用してATを算出する際の一連処理について、被験者の動作も含め、フローチャートを用いて説明する。
図4は、本発明の実施の形態1に係る運動療法装置において実行される無酸素性作業閾値の特定方法を示したフローチャートである。
【0057】
まず、ステップS401において、運動負荷試験の被験者は、以下の3つの動作を行い、運動負荷試験のスタンバイをする。
(1)被験者は、運動療法装置に着座する。
(2)分時酸素摂取量および分時二酸化炭素排出量を測定するためのマスク31を顔に装着する。
(3)ペダル11に足を載せる
【0058】
これらの動作が完了した後、例えば、被験者が起動操作を行うことで、ステップS402に進む。そして、ステップS402において、負荷装置が動くことはなく、安静時の分時酸素摂取量、分時二酸化酸素排出量、分時換気量を計測し、被験者の状態が特に変化のないことを確認する。そして、安静期間が経過することで、ステップS403に進む。
【0059】
次に、ステップS403において、駆動制御部41は、マイナス負荷(例えば、−20W)により回転電機本体21を力行制御することで、ウォーミングアップ期間を開始する。これにより、被験者は、力を入れてペダルをこぐことなしに、ウォーミングアップすることとなり、代謝の評価である分時酸素摂取量、分時二酸化炭素排出量が安静時と同等のレベルにまで低下していく状態でウォーミングアップを完了させることができる。
【0060】
次に、ステップS404において、駆動制御部41は、あらかじめ決められたウォーミングアップ期間が経過後、マイナス負荷を起点に、あらかじめ決められた一定の負荷増加量(例えば、10W/分)により、ランプ負荷期間を開始する。これにより、ランプ負荷期間の開始からATが求まる時刻までの間隔を、従来よりも広く取ることが可能となる。
【0061】
次に、ステップS405において、指標算出部42は、あらかじめ決められたランプ負荷期間にわたり、測定器30を介して、分時酸素摂取量、分時二酸化炭素排出量、分時換気量を一定間隔で算出し、時系列データを得る。
【0062】
そして、ステップS406において、指標算出部42は、分時酸素摂取量および分時二酸化炭素排出量の時系列データから変曲点または屈折点を特定することで、ATを求める。
図5は、本発明の実施の形態1における分時酸素摂取量と分時二酸化炭素排出量の時系列測定データからV−slope法で、変曲点または屈折点を求める説明図である。
【0063】
図5では、縦軸を分時二酸化炭素排出量、横軸を分時酸素摂取量として、2つの時系列測定データをグラフ化したものであり、理想的な場合を例示している。変曲点よりも左側では、有酸素運動領域で、分時酸素摂取量と分時二酸化炭素排出量がほぼ1:1の割合で増加する。
【0064】
一方、変曲点よりも右側では、無酸素運動の領域で、脂質代謝以外に糖質代謝が発生し、分時二酸化炭素排出量の増加する割合が大きくなり、
図5のような変曲点または屈折点がATに相当する値として求められることとなる。
【0065】
なお、本発明は、上述したように、ランプ負荷期間をマイナス負荷から開始することで、ATを算出するための測定データを従来よりも多く取得することができ、ATの算出精度の向上を図っている点を特徴としている。従って、このマイナス負荷の値は、最低でも、機械摩擦相当分よりも大きい力行電流を流すことができればよい。
【0066】
さらに、機械負荷相当分のトルクに加え、被験者の足の自重分相当のトルクを考慮して、マイナス負荷の値を特定することで、ランプ負荷期間の開始からATが求まる時刻までの間隔を、より広く取ることができる。このマイナス負荷の重要性は、ATが低くなればなるほど重要性を有し、術後低体力者、肥満患者、高齢心不全患者などのATを正確に把握できる。
【0067】
また、上述した実施の形態では、機械負荷相当分と被験者の足の自重分相当を加えたトルクよりも、さらに大きい値をマイナス負荷として設定し、そのマイナス負荷からランプ負荷期間を開始する場合について説明したが、本発明によるAT算出方法は、これに限定されるものではない。
【0068】
例えば、動作制御装置40は、−20Wから0Wに近づく方向に負荷を徐々に上げていき、ペダル11が回転しなくなった状態を、機械負荷相当分と被験者の足の自重分相当を加えたトルクに相当する、被験者に即したマイナス負荷として特定することができる。なお、動作制御装置40は、ペダル11の回転状態を、速度検出器24の検出結果により判断できる。
【0069】
そして、被験者に即したマイナス負荷が算出された後に、このマイナス負荷の値をランプ負荷期間の初期値として、あらかじめ決められた一定増加量に基づいて、ランプ負荷期間を開始させることによっても、実施の形態1で説明した具体的な算出方法と同様に、AT算出の高精度化を実現することができる。この場合、被験者に即したマイナス負荷として特定する動作を行う際の負荷の変化量は、ランプ負荷期間と独立に、最適な値に設定することができる。
【0070】
また、これとは逆に、動作制御装置40は、0Wからマイナス方向に負荷を徐々に下げていき、ペダル11が回転しだした状態を、機械負荷相当分と被験者の足の自重分相当を加えたトルクに相当する、被験者に即したマイナス負荷として特定することもできる。
【0071】
例えば、安静時からウォーミングアップに移行するタイミングで、徐々にマイナス負荷をかけて動き出すマイナス負荷を把握することを通じても、被験者に即したマイナス負荷として特定することもできる。
【0072】
そして、被験者に即したマイナス負荷が算出された後に、このマイナス負荷の値をランプ負荷期間の初期値として、あらかじめ決められた一定増加量に基づいて、ランプ負荷期間を開始させることによっても、実施の形態1で説明した具体的な算出方法と同様に、AT算出の高精度化を実現することができる。この場合も、被験者に即したマイナス負荷として特定する動作を行う際の負荷の変化量は、ランプ負荷期間と独立に、最適な値に設定することができる。
【0073】
また、足の自重は、通常、体重の10%程度といわれている。従って、被験者の体重の10%を足の自重として仮定し、マイナス負荷を特定することも可能である。
【0074】
以上のように、実施の形態1によれば、機械摩擦相当分の力行電流よりも大きな力行電流を流す状態からランプ負荷期間を開始させ、ランプ負荷期間に収集した分時酸素摂取量と分時二酸化炭素排出量の時系列測定データから、ATを算出する構成を備えている。この結果、ランプ負荷期間の開始からATに相当する時刻までの幅を、従来よりも広くでき、より多くの測定データから、ATを高精度に求めることが可能となる。
【0075】
さらに、被験者の足の自重分を考慮してマイナス負荷を設定することで、ウォーミングアップ期間での代謝量の変化を抑制することが可能となる。この結果、ランプ負荷期間において、適切な測定データを得ることができ、ATを高精度に求めることが可能となる。
【0076】
さらに、ATが高精度に求められることで、無酸素運動や有酸素運動を交互に実施できる運動プログラムを,例えば、低体力肥満患者の体力の許容範囲内で、無理なく実施させることができ,肥満解消に役立てることができる。