【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質は、平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバー由来の炭素鎖に、複数のリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子が直線的に連続して担持してなる。ナノアレイ状とは、一方のナノスケールの構造体に、他方のナノスケールの構造体が配列化されてなる形状を意味し、本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質は、平均繊維径が50nm以下のセルロースナノファイバー由来の炭素鎖、すなわち一方のナノスケールの構造体である鎖状の炭素に、複数のリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子、すなわち他方のナノスケールの構造体である複数の粒子が直線的に連続して担持してなる、串団子様又はトウモロコシ様の形状を呈している。
【0013】
このように、本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質は、特異な形状を呈していることにより、従来における粒子状の正極活物質よりもケイ酸塩化合物の一次粒子間の導電性を効果的に向上させることを可能とし、充放電容量のさらなる向上に大きく寄与するものと推定される。
【0014】
本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質を構成するセルロースナノファイバー由来の炭素鎖は、平均繊維径が50nm以下である。セルロースナノファイバー由来の炭素鎖とは、セルロースナノファイバーが炭化されて形成される鎖状の炭素であり、炭化された後の炭素鎖が極めて小さい繊維径を有する、すなわち極細であることにより、かかる炭素鎖が軸となりつつ、後述するリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子が不要に凝集することなく整然と連なりながら、炭素鎖に連続して堅固に密着し、串団子様のナノアレイ状の構造体を形成して、電池の充放電容量を効果的に高める特異な形状を呈するものと考えられる。
【0015】
セルロースナノファイバー由来の炭素鎖を形成するセルロースナノファイバーとは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、かかるセルロースナノファイバーが炭化されてなる炭素(セルロースナノファイバー由来の炭素)は、周期的構造を有するとともに、水への良好な分散性も有している。また、セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子鎖では、炭素による周期的構造が形成されていることから、これが炭化されて導電パスとなりつつ鎖状の軸を形成し、リチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子の整然たる担持に寄与して、効果的に充放電容量を高め得る特異なナノアレイ状の正極活物質を形成することができる。
【0016】
セルロースナノファイバーが炭化されてなる、セルロースナノファイバー由来の炭素鎖の平均繊維径は、50nm以下であって、好ましくは40nm以下であり、より好ましくは30nm以下である。セルロースナノファイバー由来の炭素鎖の平均繊維径の下限値については特に制限はないが、通常5nm以上である。なお、炭化されることでセルロースナノファイバー由来の炭素鎖となるセルロースナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは5nm〜50nmであり、より好ましくは5nm〜30nmであり、さらに好ましくは5〜20nmである。
【0017】
セルロースナノファイバー由来の炭素鎖の平均長さは、リチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子の直線的に連続した担持を可能としつつ、効果的に充放電容量を高め得る形状を呈するのを確保する観点から、好ましくは50nm〜10μmであり、より好ましくは50nm〜5μmであり、さらに好ましくは50nm〜1μmである。
【0018】
セルロースナノファイバーが炭化されてなる、セルロースナノファイバー由来の炭素鎖の含有量は、本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質中に、炭素原子換算量で、好ましくは1〜15質量%であり、より好ましくは2〜10質量%であり、さらに好ましくは3〜8質量%である。
【0019】
本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質を構成するリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子は、正極活物質が有する特異な形状とも相まって高い電池物性を発現することができる粒子である。
【0020】
かかるリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子は、具体的には、以下の式(1)で表される。
Li
2M
xR
ySiO
4 ・・・(1)
(式中、MはFe、Ni、Co及びMnから選ばれる1種又は2種以上を示し、RはV、Zr、Y、Mo、La、Ce、Nd、Al、Zn、Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、及びBiから選ばれる1種又は2種以上を示す。x、yは、0<x≦1、0≦y<1を満たし、かつ2x+Σ((Rの価数)×y)=2を満たす数を示す。)
【0021】
すなわち、リチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子を構成する遷移金属(M)は、Fe、Ni、Co、及びMnから選ばれる1種又は2種以上であり、少なくともMnを含むのが好ましく、また少なくともMn及びFeを含むのがより好ましい。また、遷移金属(M)以外の金属(R)をさらに含んでいてもよく、かかる金属(R)は、V、Zr、Y、Mo、La、Ce、Nd、Al、Zn、Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、及びBiから選ばれる1種又は2種以上であり、Zr、Al、Mgを含むのが好ましい。
【0022】
上記セルロースナノファイバー由来の炭素鎖に、複数のリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子が直線的に連続して担持してなる、本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質の平均太さは、特異な形状を呈することによる充放電容量の効果的な向上を確保する観点から、好ましくは5〜100nmであり、より好ましくは5〜50nmである。
【0023】
本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質の平均長さは、特異な形状を呈することによる充放電容量の効果的な向上を確保する観点から、好ましくは50nm〜10μmであり、より好ましくは50nm〜5μmである。
【0024】
本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質は、次の工程(I)〜(III):
(I)ケイ酸化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーAを調製し、水熱反応に付してスラリーBを得る工程、
(II)得られたスラリーBに、リチウム化合物、及び遷移金属(M)化合物を添加し、スラリーCを得る工程、並びに
(III)得られたスラリーCを水熱反応に付した後、焼成する工程
を備える製造方法により、得ることができる。
すなわち、上記特許文献1〜2にも記載されるように、所定の原料を用いつつ所望の正極活物質を得るにあたり、通常であれば全工程中において1度だけ水熱反応に付するところ、本願発明では、全工程中において2度にわたり水熱反応を付することにより、特異な形状を呈する本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質を製造することができる。
【0025】
工程(I)は、ケイ酸化合物、及びセルロースナノファイバーを含有するスラリーAを調製し、水熱反応に付してスラリーBを得る工程である。
用いるケイ酸化合物としては、反応性のあるシリカ化合物であれば特に限定されず、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、非晶質シリカ、Na
4SiO
4(例えばNa
4SiO
4・H
2O)等が挙げられる。なかでも、ナノアレイ状の正極活物質の形成を確保する観点から、テトラエトキシシランが好ましい。
【0026】
工程(I)におけるケイ酸化合物の使用量は、後述する工程(II)におけるリチウム化合物の使用量とのモル比で、リチウム化合物のリチウムイオン1モルに対し、ケイ酸化合物のケイ酸イオン換算として、好ましくは0.35〜0.50モルであり、好ましくは0.45〜0.50モルである。
【0027】
これらケイ酸化合物、及びセルロースナノファイバーを混合してスラリーAを調製する際、水を用いる。かかる水の使用量は、各原料の溶解性又は分散性、撹拌の容易性、及び水熱反応の効率等の点から、ケイ酸化合物のケイ酸イオン1モルに対して10〜50モルが好ましく、さらに12.5〜45モルが好ましい。
【0028】
また、スラリーA中におけるセルロースナノファイバーの含有量は、スラリーA中の水100質量部に対し、炭素原子換算で、好ましくは1〜15質量部であり、より好ましくは2〜10質量部である。
【0029】
これらの原料の添加順序は、特に限定されない。添加した後、混合する時間は、好ましくは1分〜12時間であり、より好ましくは5分〜6時間である。また、水熱反応前にSiO
2の析出を抑制する観点から、混合する温度は、好ましくは5〜60℃であり、より好ましくは5〜50℃である。
【0030】
得られたスラリーAは、水熱反応に付してスラリーBを得る。水熱反応は、100℃以上であればよく、130〜180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3〜0.9MPaであるのが好ましく、140〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.5〜24時間が好ましく、さらに3〜15時間が好ましい。
水熱反応後に得られたスラリーB中、遷移金属(M)の含有量は、好ましくは0.5〜40質量%であり、より好ましくは1〜30質量%である。
【0031】
工程(II)は、工程(I)で得られたスラリーBに、リチウム化合物、及び遷移金属(M)化合物を添加し、スラリーCを得る工程である。
用いるリチウム化合物としては、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のリチウム金属塩、水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられ、なかでも水酸化リチウムを使用するのが好ましい。
用いる遷移金属(M)化合物を構成する遷移金属は、Fe、Ni、Co、及びMnから選ばれる1種又は2種以上であり、少なくともMnを含むのが好ましく、また少なくともMn及びFeを含むのがより好ましい。かかる遷移金属化合物(M)としては、例えばフッ化物、塩化物、ヨウ化物等のハロゲン化遷移金属塩、硫酸遷移金属塩の他、有機酸遷移金属塩、並びにこれらの水和物等が挙げられる。このうち、有機酸遷移金属塩を構成する有機酸としては、炭素数1〜20の有機酸、さらに炭素数2〜12の有機酸が好ましい。さらに好ましくは、シュウ酸、フマル酸等のジカルボン酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸、酢酸等の脂肪酸が挙げられる。
【0032】
なお、工程(II)では、さらに遷移金属以外の金属(R)化合物を添加してもよい。かかる金属(R)化合物を構成する金属(R)は、V、Zr、Y、Mo、La、Ce、Nd、Al、Zn、Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、及びBiから選ばれる1種又は2種以上であり、Zr、Al、Mgを含むのが好ましい。かかる金属(R)化合物としては、例えばフッ化物、塩化物、ヨウ化物等のハロゲン化金属塩、硫酸金属塩の他、有機酸金属塩、並びにこれらの水和物等が挙げられる。このうち、有機酸金属塩を構成する有機酸としては、炭素数1〜20の有機酸、さらに炭素数2〜12の有機酸が好ましい。さらに好ましくは、シュウ酸、フマル酸等のジカルボン酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸、酢酸等の脂肪酸が挙げられる。
【0033】
遷移金属(M)化合物の使用量は、リチウム化合物の使用量とのモル比で、リチウム化合物のリチウムイオン1モルに対し、遷移金属(M)化合物の遷移金属(M)換算として、好ましくは0.35〜0.5モルであり、好ましくは0.45〜0.5モルである。
【0034】
工程(II)において、これらリチウム化合物、及び遷移金属(M)化合物を添加してスラリーCを得るにあたり、合成の効率等の観点から、リチウム化合物を添加した後、遷移金属(M)化合物を添加してスラリーCを得るのが好ましい。
【0035】
リチウム化合物、及び遷移金属(M)化合物を添加した後、混合する時間は、好ましくは1分〜24時間であり、より好ましくは5分〜12時間である。また、スラリーCの25℃におけるpHは、水熱反応によりケイ酸化合物を生成させる観点から、好ましくは9〜14であり、より好ましくは11〜14であり、スラリーCの温度は、各原料の溶解性及び副生成物の抑制の観点から、好ましくは5〜80℃、より好ましくは10〜60℃が好ましい。
なお、工程(II)では、工程(I)で得られたスラリーBをそのままスラリーとして使用するため、特に新たに水を添加する必要はない。
【0036】
工程(III)は、工程(II)で得られたスラリーCを水熱反応に付した後、焼成する工程である。
【0037】
水熱反応は、100℃以上であればよく、130〜180℃が好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、130〜180℃で反応を行う場合、この時の圧力は0.3〜0.9MPaであるのが好ましく、140〜160℃で反応を行う場合の圧力は0.3〜0.6MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は0.5〜24時間が好ましく、さらに1〜12時間が好ましい。
【0038】
得られた結果物は、セルロースナノファーバーとリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物を含む複合体であり、ろ過後、水で洗浄し、乾燥することによりこれを単離できる。かかる複合体を水で洗浄する際、複合体1質量部に対し、水を5〜100質量部用いるのが好ましい。
乾燥手段は、凍結乾燥、真空乾燥が用いられ、凍結乾燥が好ましい。
【0039】
単離した複合体は、次いで焼成する。これにより、複合体に含まれるセルロースナノファーバーを炭化させ、セルロースナノファーバー由来の鎖状の炭素に、複数のリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子を直線的に連続させながら堅固に担持させて、ナノアレイ状のリチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることができる。
焼成は、還元雰囲気又は不活性雰囲気中で行うのが好ましく、焼成温度は、好ましくは400〜800℃であり、より好ましくは500〜800℃である。また焼成時間は、好ましくは5分〜12時間であり、より好ましくは10分〜120分である。
【0040】
本発明のナノアレイ状リチウムイオン二次電池用正極活物質を含む二次電池用正極を適用できる、リチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0041】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。
【0042】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液の用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0043】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4及びLiAsF
6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO
3CF
3、LiC(SO
3CF
3)
2及びLiN(SO
3CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2及びLiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0044】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
テトラエトキシシラン 2.08g、セルロースナノファイバー(ダイセルファインケム社製、KY100G、含水量90質量%、繊維径10〜100nm) 2.61g、及び水 30gを60分間混合してスラリーA
1を得た。次いで、得られたスラリーA
1をオートクレーブに投入し、140℃で12時間水熱反応を行い、スラリーB
1を得た。得られたスラリーB
1にLiOH・H
2O 0.43gを混合し、さらにMnSO
4・5H
2O 1.21gを添加して混合し、スラリーC
1を得た。
次いで、得られたスラリーC
1をオートクレーブに投入し、150℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブの圧力は0.4MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し、12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を−50℃で12時間凍結乾燥し、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、650℃で1時間焼成して正極活物質(リチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物:Li
2MnSiO
4、平均太さ:30nm、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量:5.0質量%、炭素鎖の平均繊維径:10nm、炭素鎖の平均長さ:1000nm)を得た。
得られたLi
2MnSiO
4をTEM観察し、その形状を確認した。TEM写真を
図1に示す。
【0047】
[実施例2]
スラリーB
1にLiOH・H
2O 0.43gを混合した後に添加するMnSO
4・5H
2Oを0.79gとし、さらにFeSO
4・7H
2O 0.39g、及びZr(SO
4)
2・4H
2O 0.05gを添加した以外、実施例1と同様にして正極活物質(リチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物:Li
2Fe
0.28Mn
0.66Zr
0.03SiO
4、平均太さ:30nm、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量:5.0質量%、炭素鎖の平均繊維径: 10nm、炭素鎖の平均長さ:1000nm)を得た。
【0048】
[比較例1]
LiOH・H
2O0.43g、Na
4SiO
4・nH
2O 1.40g、及びセルロースナノファイバー(KY100G) 2.61gに水 30gを混合してスラリーX
1を得た。得られたスラリーX
1にMnSO
4・5H
2O 1.21gを添加して混合し、スラリーY
1を得た。
次いで、得られたスラリーY
1をオートクレーブに投入し、150℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブの圧力は0.4MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し、12質量部の水により洗浄した。洗浄した結晶を−50℃で12時間凍結乾燥し、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、650℃で1時間焼成して正極活物質(リチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物:Li
2MnSiO
4、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量:5.0質量%)を得た。
得られたLi
2MnSiO
4をTEM観察し、その形状を確認した。TEM写真を
図2に示す。
【0049】
[比較例2]
スラリーX
1に添加するMnSO
4・5H
2Oを0.79gとし、さらにFeSO
4・7H
2O 0.39g、及びZr(SO
4)
2・4H
2O 0.05gを添加した以外、比較例1と同様にして正極活物質(リチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物:Li
2Fe
0.28Mn
0.66Zr
0.03SiO
4、セルロースナノファイバー由来の炭素含有量:5.0質量%)を得た。
【0050】
図1〜2の結果から明らかなように、実施例1で得られた正極活物質は、炭素鎖に複数のリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子が直線的に連続して担持してなるナノアレイ状を呈しているのに対し、比較例1で得られた正極活物質は、複数のリチウム遷移金属(M)ケイ酸塩化合物粒子が、炭素鎖とともに単に凝集したにすぎない塊状を呈している。
【0051】
[放電容量の評価]
実施例1、2及び比較例1、2で得られた正極活物質を用い、リチウムイオン二次電池の正極を作製した。具体的には、正極活物質、ケッチェンブラック(導電剤)、ポリフッ化ビニリデン(粘結剤)を重量比75:20:5の配合割合で混合し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
【0052】
次いで、上記の正極を用いてコイン型リチウムイオン二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LIPF
6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が−50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型リチウム二次電池(CR−2032)を製造した。
【0053】
製造したリチウムイオン電池を用いて定電流密度での充放電を1サイクル行った。このときの充電条件は電流0.1CA(33.3mA/g)、電圧4.5Vの定電流定電圧充電とし、放電条件は電流0.1CA、終止電圧1.5Vの定電流放電とした。温度は全て30℃とした。
結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から明らかなように、実施例で得られたナノアレイ状のリチウムイオン二次電池用正極活物質を使用したリチウムイオン二次電池は、比較例で得られた塊状のリチウムイオン二次電池用正極活物質を使用したリチウムイオン二次電池と比べ、放電容量が非常に高い。