(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転位置推定部は、前記モータが低速域で運転される領域では、前記2種類の電圧ベクトル期間のうち、第1の電圧ベクトル期間において1相の電流変化量を検出し、第2の電圧ベクトル期間において2相の電流変化量を検出し、これら3つの電流変化量に基づいて前記回転位置を推定し、
前記モータが高速域で運転される領域では、前記第1,第2の電流変化量差分値に基づいて前記回転位置を推定するように切替える請求項1記載の集積回路。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について
図1から
図5を参照して説明する。
図1は、モータ駆動制御装置の構成を示す機能ブロック図である。直流電源1は、回転子に永久磁石を備える永久磁石同期モータ(以下、単にモータと称す)2を駆動する電力源である。直流電源1は、交流電源を直流に変換したものでも良い。インバータ回路3は、6個のスイッチング素子,例えばNチャネルMOSFET4U+,4Y+,4W+,4U−,4Y−,4W−を3相ブリッジ接続して構成されており、後述するPWM生成部5で生成される3相分6つのスイッチング信号に基づいて、モータ2を駆動する電圧を生成する。
【0010】
電圧検出部6は、直流電源1の電圧Vdcを検出する。電流検出部7U,7V,7Wは、インバータ回路3の負側FET4U−,4Y−,4W−のソースと負側電源線との間に接続されている。これらの電流検出部7は、一般にシャント抵抗やホールCTなどを用いた電流センサ及び信号処理回路で構成され、モータ2に流れる各相電流Iu,Iv,Iwを検出する。
【0011】
電流変化量検出部8は、後述する検出タイミング信号生成部9から入力される検出タイミング信号t1〜t4に基づいて相電流を4回検出し、2回毎の検出値の差分値を変化量dIu(010),dIv(001),dIu(001),dIw(010),dIv(001)として算出する。回転位置演算部10は、上記変化量dIu(010),dIv(001),dIu(001)からモータ2の回転位置検出値θc1を算出する。電流変化量差分値演算部11は、電流変化量dIu(010),dIu(001),dIw(010),dIv(001)から、電流変化量差分値dI(010),dI(110)を演算する。回転位置演算部12は、電流変化量差分値dI(010),dI(001)からモータ2の回転位置検出値θc2を算出する。回転位置検出値θc1,θc2は、回転位置選択部13に入力される。
【0012】
回転位置選択部13は、モータ2の回転数が低速領域に属する際には回転位置検出値θc1を選択し、前記回転数が中速領域以上に属する際には回転位置検出値θc2を選択し、回転位置θcとして出力する。低速領域と中速領域との閾値は、例えばモータ2の定格回転数の5%〜10%程度とする。モータ2の回転数は、入力される回転位置検出値θc1,θc2の変化時間より求める。
【0013】
3相電圧指令値生成部14は、指令値である電圧振幅指令値Vampと電圧位相指令値φvとから、3相の電圧指令値Vu,Vv,Vwを生成する。デューティ生成部15は、3相電圧指令値Vu,Vv,Vwを直流電圧Vdcで除すことで各相の変調指令Du,Dv,Dwを演算する。PWM生成部5は、3相変調指令Du,Dv,Dwと、キャリア生成部16より入力される各相のPWMキャリア,搬送波とを比較して各相のPWM信号パルスを生成する。1相当たりのパルスにはデッドタイムが付加され、それぞれ3相上下のNチャネルMOSFET4に出力するスイッチング信号U+,U−,V+,V−,W+,W−を生成する。
【0014】
以上の構成において、モータ2,インバータ回路3,3相電圧指令値生成部14,デューティ生成部15及びキャリア生成部16を除いたものが、集積回路17又はマイクロコンピュータ等を構成している。尚、これらの機能は集積回路として構成した際に、ハードウェア若しくはソフトウェア,又はハードウェアとソフトウェアとの協働によって実現できる。例えばハードウェアのみで実現した場合はゲートアレイで構成され、一部にソフトウェアを使用して実現した場合はマイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)で構成される。
【0015】
ここで、本実施形態における回転位置検出方法の原理を説明する。(1)式は、突極性を有する同期電動機の3相インダクタンスを示している。
【数1】
(1)式に示すように、各相のインダクタンスLu,Lv,Lwは回転位置θに応じて変化する。このインダクタンスの回転位置に対する依存性を利用することで、モータの速度がゼロ近傍となる条件下でも転位置を推定できる。
【0016】
図2は、インバータ回路を構成するスイッチング素子のオン状態を空間ベクトルと呼ばれる手法で表したものである。例えば(1,0,0)は,U相上側のスイッチング素子がオン、V相及びW相の上側スイッチング素子がオフの状態を示しており、電圧ベクトルはV0〜V7の8つのパターンが存在する。
【0017】
ここで,電圧ベクトルV1(1,0,0)を印加している再のモータの相間電圧方程式を(2)式に示す。上からUV線間電圧,VW線間電圧,WU線間電圧を示している。
【数2】
但し、Vdcは直流電圧,Eu,Ev,Ewは各相の誘起電圧,Rは巻線抵抗,Iu_V1,Iv_V1,Iw_V1は、電圧ベクトルV1を印加した際の3相電流値である。ここでモータ回転数が極低速であり,巻線抵抗による電圧降下と誘起電圧が直流電圧Vdcに比べ非常に小さい場合、(2)式中の各相の電流微分値は(3)式を用いて(4)式に近似できる。
【数3】
【0018】
ここで、インダクタンス値L0,L1と直流電圧Vdcとを(5)式のようにAと置くと、(4)式は(6)式に変形できる。
【数4】
【0019】
同様に、電圧ベクトルV3(010)印加中のU相電流微分値dIu(010)/dt,電圧ベクトルV5(001)印加中のU相電流微分値dIu(001)/dt及びV相電流微分値dIv(001)/dtを求め、これらの電流微分値に微分時間dtを乗じて電流変化量とし、まとめたものが(7)式である。
【数5】
【0020】
これら3つの電流変化量は、
図3に示すように直流オフセット量dt/Aを持ち,振幅L1dt/(AL0)で回転位置2θに応じて、それぞれの位相差2d/3で変化する交流信号である。そして、これらの電流変化量を用いて、(8)式により3相/2相変換を行い、(9)式により逆正接演算を行うことで回転位置θを得る。
【数6】
【0021】
ここで、(9)式より求めた回転位置θは、2θから分周したものであるため、原理的に±180°の誤差を持つ。したがって、モータ駆動前の停止状態において上記のどちらかを判定するためには、初期位置の同定アルゴリズムが必要となる。これについては、従来の公知技術である磁気飽和の特性を用いた方式にて判定を行う。本公知技術については、例えば下記の文献などの手法がある。
電気学会論文誌D(産業応用部門誌)Vol.125(2005),No.3「パルス電圧を用いた表面磁石同期モータの初期回転位置推定法」,山本修,荒隆裕
【0022】
以上のアルゴリズムによって、検出した電流変化量からモータの回転位置を推定できる。そして、以上のアルゴリズムは各相の誘起電圧に基づくことなく、インダクタンス値に基づいて位置推定を行うものであるから、前述のようにモータの低速領域に適用するのに有効である。したがって、このアルゴリズムは、回転位置演算部10により実行され、回転位置検出値θc1が求められる。
【0023】
次に、モータの中速から高速領域に適用する回転位置推定のアルゴリズムについて説明する。すなわち、モータが中速領域に移行すると、(4)式を求めるための条件が成立しなくなることから、低速領域とは異なる推定アルゴリズムを用いる必要がある。例えば電圧ベクトルV3(010)が印加されている状態のU,W相の相電圧方程式は(10)式で表わされる。ここで、(10)式右辺第3項の誘起電圧は、(11)式で表されるように回転位置θの情報を有している。
【数7】
ただし、
Vu(010):電圧ベクトルV3印加時のU相電圧[V]
Vw(010):電圧ベクトルV3印加時のW相電圧[V]
dIu(010):電圧ベクトルV3印加時の
時刻t1〜t2期間のU相電流変化量[A]
dIw(010):電圧ベクトルV3印加時の
時刻t1〜t2期間のW相電流変化量[A]
θ:モータ回転位置[rad]
R:モータ巻線抵抗[Ω],Lu,Lw:モータ相インダクタンス[H]
ω:モータ角速度[rad/S],a:電機子鎖交磁束[Wb]
である。
【0024】
ここで、モータ角速度ωが十分に速く、(10),(11)式右辺第1項の巻線抵抗Rによる電圧降下や突極性に起因するインダクタンスLu,Lwの変化分よりも、右辺第3項の誘起電圧項が十分に大きい場合は、RI=0として近似できる。そして、(10),(11)式において、電流変化量の測定時間が均等でt2−t1=tのとき各相電流変化量dIを用いると、UW相間の誘起電圧Euwに比例する値が(12)式にて演算できる。(11)式により、(12)式は回転位置θから−π/6遅れた信号であることがわかる。
【数8】
【0025】
(12)式は、電圧ベクトルV3を用いた場合に検出した値であるが、電圧ベクトルV5印加中の電流微分値Iv(001),Iu(001)を用いると(13)式となる。尚、
図5に示すように、時刻t3〜t4は、電圧ベクトルV5印加時に、V相,W相電流変化量を求める時間であり、t2−t1=t4−t3=tとする。
【数9】
【0026】
(12)式は第1電流変化量差分値,(13)式は第2電流変化量差分値に相当する。ここで、(12),(13)式は、オフセットがゼロで位相が120度ずれた正弦波信号となるため、両信号を用いて下記の(14)式で演算を行うと、これらにより
図4に示すような120度位相差の信号が得られる。
【数10】
【0027】
(12)〜(14)式で示す3つの信号を(8)式と同様に3相2相変換し、(9)式と同様にその逆正接演算をすれば、π/6を加えた回転位置θを求めることができる。
【0028】
【数11】
この推定アルゴリズムは回転位置演算部12によって実行され、回転位置検出値θc2が求められる。
【0029】
次に、(7),(12)及び(13)式で示した各電圧ベクトル印加中の電流変化量の検出方法について説明する。本実施形態では、電圧ベクトルV3印加中のU相及びW相電流,電圧ベクトルV5印加中のU相及びV相電流を検出する必要がある。そのため、
図5に示すように各相のPWM信号を生成するためのキャリアを、それぞれ波形が異なる3種類用いる。例えばU相は三角波キャリア、V相は逆鋸波キャリア、W相は鋸波キャリアである。キャリア生成部13がこれらのキャリアを生成する。これらのキャリアを用いてPWM信号を生成すると、U相の三角波キャリアを基準とした場合、
U相PWMパルス:三角波の谷を基準に両側へ発生
V相PWMパルス:三角波の山を基準に左側へ発生
W相PWMパルス:三角波の山を基準に右側へ発生
となる。そして、検出タイミング信号生成部9は、4回の電流の検出タイミング信号t1〜t4を、
図5に示すように与える。
・U相の電流変化量dIu(010)及びW相の電流変化量dIw(010)を検出するための信号t1,t2は、三角波の山よりもΔT前の時刻及び三角波の山の時刻
・U相の電流変化量dIu(001)及びV相の電流変化量dIv(001)を検出するための信号t3,t4は、三角波の山の時刻及び三角波の山よりもΔT遅れた時刻
上記を基準とする。
【0030】
また、実際にはパルスが発生した直後はノイズによる電流検出値への影響が大きい場合もあるので、検出タイミングを上記の基準値から数μs程度ずらすこともある。そして、これらt1〜t4の検出タイミングは、インバータ回路3に入力されるPWM信号によらず常に一定,すなわち固定された4点のタイミングとなる。
【0031】
そして、磁極位置選択部13は、前述したように、回転位置演算部10により求められた回転位置θc1と、回転位置演算部12により求められた回転位置θc2とを、モータの速度に応じて切替えて出力する。
【0032】
以上のように本実施形態によれば、検出タイミング信号生成部9は、PWM信号の搬送波に基づいて検出タイミング信号t1〜t4を生成し、電流変化量検出部8は、前記信号t1〜t4に応じて電流検出部7U,7V,7Wにより検出される相電流の変化量dIu(010),dIu(001),dIv(001),dIw(010)を求める。回転位置演算部10は、電流変化量dIu(010),dIu(001),dIv(001)に基づいて、低速領域におけるモータ2の回転位置θc1を推定する。
【0033】
また、電流変化量差分値演算部11は、電流変化量dIu(010),dIw(010)の差分値dI(010)と、電流変化量dIv(001),dIu(001)の差分値dI(001)とを求める。回転位置演算部12は、電流変化量dIv(001),dIu(001)と、それらの差dI(010−001)とに基づいて、高速領域におけるモータ2の回転位置θc1を推定する。
【0034】
そして、回転位置選択部13は、モータ2の回転速度が低速領域に属する際には回転位置θc1を選択し、高速領域に属する際には回転位置θc2を選択して推定位置θとする。これにより、高価な演算能力を持つ演算器を用いることなく、検出した電流変化量の大小関係のみに基づく簡易なアルゴリズムによる安価な演算器を用いて、モータ2の停止又は低速領域から高速領位に亘るセンサレス駆動が可能になる。しかも、120度通電方式に限らず、例えば180度通電方式等にも適用できる。
【0035】
この場合、PWM生成部5は、PWMキャリアの1周期内において、固定された4点の検出タイミング信号t1〜t4に応じて、電流変化量検出部8が2種類の電圧ベクトル期間V3,V5に対応する各相電流変化量を検出できるように3相のPWM信号パターンを生成する。
【0036】
具体的には、PWM生成部5は、3相のPWM信号のうちU相は、PWMキャリア周期の任意の位相を基準として遅れ側,進み側の双方向にデューティDuを増減させ、V相は前記任意の位相を基準として遅れ側,進み側の一方向にデューティDvを増減させ、W相は、前記任意の位相を基準として前記方向とは逆方向にデューティDwを増減させるようにした。
【0037】
また、PWM生成部5は、各相のPWMパルスを発生させる基準を、キャリアの振幅が最大又は最小となる位相に基づいて設定するので、基準の設定が簡単になる。更に、PWM生成部5は、U相については三角波を、V相については前記三角波の振幅が最大又は最小を示す位相に振幅が最大を示す位相が一致する鋸歯状波を、W相については前記鋸歯状波に対して逆相となる鋸歯状波をそれぞれキャリアとして使用する。その際に、各相の基準を、各キャリア振幅の最大値又は最小値が全て一致する位相に基づいて設定する。これにより、各相のPWMパルスの伸長方向を簡単に設定できる。
【0038】
本実施形態によれば、回転位置θを、モータ2に印加する電圧の大きさによらず、電圧ベクトルV3及びV5の発生期間中に得られる電流変化量によって演算できる。すなわち、モータ2の制御状態に依らないため、モータ2の速度・電流制御等と区別して回転位置推定装置を構成できる。したがって、本実施形態の構成はマイクロコンピュータの内部にハードウェア的に設けることができる。例えば前述の速度・電流制御などは、ソフトウェアとして構築し、回転位置推定装置部分をハードウェア若しくはソフトウェア又はそれらの協働により実現する構成として、マイクロコンピュータや集積回路内に設けることができる。
【0039】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。第2実施形態では、120度位相差の信号の大小関係を
図6で示すように比較器21A,21B,21Cにより何れか2信号間で比較し、大小に応じたパルス信号を生成する。
図6では、信号1を磁極位置演算部10についてはdIu(001),磁極位置演算部12についてはdI(010−001),信号2を同dIu(001),dI(001),信号3を同dIv(001),dI(001)としている。
【0040】
比較器21A〜21Cより出力される各パルス信号は、回転位置に応じてホールセンサやエンコーダといった位置センサと同様に変化する位相差を持った信号となる。したがって、前記位置センサのセンサ信号と同様の処理を行うことで、モータ2の回転位置を求めることができる。
【0041】
(その他の実施形態)
3相のPWM信号を各実施形態のように発生させるためには、3種類のキャリアを用いることに限らず、位相シフト機能等を利用しても良いし、1種のキャリアのデューティ設定タイミングや、パルス発生の比較極性等を変更するなどの方法を利用しても良い。
電流変化量検出部8が、キャリア周期内で3相の電流を検出するタイミングは、必ずしもキャリアのレベルが最小又は最大を示す位相を基準とする必要はなく、3相の電流を検出可能な範囲でキャリアの任意の位相に基づいて設定すれば良い。
【0042】
また、電流を検出するタイミングは、PWMキャリアの周期に一致させる必要はなく、例えばキャリア周期の2倍や4倍の周期で検出を行っても良い。したがって、電流変化量検出部8に入力する電流検出タイミング信号は、キャリアから得られた信号そのものである必要はなく、別個のタイマで生成した信号であっても良い。
電流検出部はシャント抵抗でもCTでも良い。
スイッチング素子はMOSFET,IGBT,パワートランジスタ、SiC,GaN等のワイドギャップ半導体等を使用しても良い。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。