特許第6805072号(P6805072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805072
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】ガス濃度検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/41 20060101AFI20201214BHJP
【FI】
   G01N27/41 325P
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-92338(P2017-92338)
(22)【出願日】2017年5月8日
(65)【公開番号】特開2018-189502(P2018-189502A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2019年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】阿部 悟
【審査官】 小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3684686(JP,B2)
【文献】 特開平10−111271(JP,A)
【文献】 特開平01−213568(JP,A)
【文献】 特開平06−148130(JP,A)
【文献】 特開2002−122566(JP,A)
【文献】 特開2005−055279(JP,A)
【文献】 特開2014−235107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/41
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質体と該固体電解質体に設けられる少なくとも一対の電極とを有するセンサ素子を備えた限界電流式のガス濃度センサに適用され、いずれか1つの前記一対の電極間に流れる素子電流に基づいて被測定ガス中の特定成分のガス濃度を検出するガス濃度検出装置において、
前記素子電流を測定する電流測定手段と、
前記センサ素子の素子温度を測定する温度測定手段と、
印加電圧設定手段と、
前記センサ素子へ印加電圧を印加する電圧印加手段であって、前記印加電圧設定手段が定める前記印加電圧を、所定タイミング印加する電圧印加手段と、
を備え、
前記印加電圧設定手段は、前記素子温度が所定の閾値以上の場合に、前記素子電流と前記素子温度を示す値とに応じた前記印加電圧を示す所定の関係に基づいて前記印加電圧の大きさを定め、前記素子温度が所定の閾値未満の場合に、前記固体電解質体がブラックニングを起こさない一定値に前記印加電圧を設定すことを特徴とするガス濃度検出装置。
【請求項2】
前記ガス濃度を推定するための、前記素子電流以外のガス濃度推定情報に基づいて推定ガス濃度を設定するガス濃度推定手段と、
前記推定ガス濃度における前記素子温度が前記閾値以上で、かつ活性判断温度以下の任意の温度での仮想限界電流域を求める仮想限界電流域設定手段と、をさらに備え、
前記印加電圧設定手段は、前記素子温度が前記閾値未満の場合に、前記一定値を前記仮想限界電流域内で設定することを特徴とする請求項1記載のガス濃度検出装置。
【請求項3】
前記一定値は、前記推定ガス濃度がリーンである程、前記仮想限界電流域内の大きい値であり、前記推定ガス濃度がリッチである程、前記仮想限界電流域内の小さい値であることを特徴とする請求項2記載のガス濃度検出装置。
【請求項4】
前記関係は、前記素子温度を示す値と前記素子電流との積に対し、前記印加電圧が比例する一次関数をなすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス濃度検出装置。
【請求項5】
前記センサ素子の前記固体電解質体と前記一対の電極とが温度検出部を構成し、前記温度測定手段は前記温度検出部のインピーダンスを測定し、
前記素子温度を示す値は、前記インピーダンスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のガス濃度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の特定成分のガス濃度を検出するガス濃度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばエンジンの排気管等の排気系に装着され、排気ガス中における特定ガス成分(酸素)の濃度を検出するガスセンサとして、固体電解質体の表面に1対の電極を配置したセンサ素子を有する限界電流式の空燃比センサが知られている。
この空燃比センサは、センサ素子へ印加する印加電圧に応じて一対の電極間に流れる限界電流を検出し、限界電流に基づいて酸素濃度を検出するものである。
【0003】
また、図8に示すように、限界電流を示す下限電圧と上限電圧の間の限界電流域GDは、電極間の素子電流Ipが高くなる(つまり酸素濃度が高くなるリーン雰囲気になる)ほど、高電圧側にシフトするので、印加電圧Vpを電流Ipに応じて直線的に増加させて限界電流域から外れないように調整している。
さらに、同図に示すように、限界電流域は、センサ素子の素子温度によっても変化し、素子温度がT10からT20に低くなると、印加電流Ipが正の領域では、印加電圧Vpと素子電流Ipとの関係を示すグラフである特性ラインTL10(実線)が、高電圧側の特性ラインTL20(破線)にシフトする傾向にある。一方、印加電流Ipが負の領域では、特性ラインは低電圧側にシフトする。そこで、素子温度を測定し、素子温度にも応じて印加電圧Vpを調整している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3684686号公報(図3(B))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、通常は、センサ素子をヒータで加熱する等して固体電解質体を活性化状態に保ち、ガス濃度を安定して検出できるようにしている。
しかしながら、車両のキーオン時などでセンサ素子が十分に温まらず、素子温度が所定の閾値未満の場合にセンサ素子に電圧を印加すると、「ブラックニング」と称される固体電解質体の特性劣化が生じるおそれがある。ブラックニングは、固体電解質体を介して電極反応が生じている状態で、固体電解質体に酸素不足が生じて固体電解質体中の金属酸化物が還元される現象である。ブラックニングが生じると、固体電解質体の特性(イオン伝導性)が劣化し、ポンピング性能が低下してガス濃度を正確に検出することが困難になる。
【0006】
そして、印加電流Ipが正の領域ではブラックニングは高電圧ほど起きやすいが、上述のように素子温度が低くなるほど特性ラインが高電圧側にシフトする傾向にある。このため、図8に示す素子温度T20が閾値未満(固体電解質体が未活性)の場合、特性ラインTL20から見積もられる印加電圧Veがブラックニング発生領域BLに入ってしまい、印加電圧Veを印加した際にブラックニングが生じるおそれがある。一方、印加電流Ipが負の領域では、ブラックニングは低電圧ほど起きやすいので、素子温度T20が閾値未満の場合、電圧を印加した際に同様にブラックニングが生じるおそれがある。
【0007】
ここで、ブラックニングを防止するためには、素子温度が閾値未満(固体電解質体が未活性)ではセンサ素子によるガス濃度の検出を休止すればよいことになるが、そうすると、素子温度が閾値以上に達するまではガス濃度の検出を行えず、ガス濃度に応じたエンジンの最適制御等が行えないという問題がある。
このため、素子温度が閾値未満(固体電解質体が未活性)であっても、ブラックニングを抑制しつつ、およそのガス濃度の検出を行いたいという要望がある。そして、素子温度が閾値未満でもおよそのガス濃度の検出を行っておくことにより、素子温度が閾値以上になったときに直ちに正確なガス濃度の検出を行うこともできる。
【0008】
そこで、本発明は、センサ素子の素子温度が閾値未満で固体電解質体が未活性であっても、ブラックニングを抑制しつつ、ガス濃度の検出を行うことが可能なガス濃度検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のガス濃度検出装置は、固体電解質体と該固体電解質体に設けられる少なくとも一対の電極とを有するセンサ素子を備えた限界電流式のガス濃度センサに適用され、いずれか1つの前記一対の電極間に流れる素子電流に基づいて被測定ガス中の特定成分のガス濃度を検出するガス濃度検出装置において、前記素子電流を測定する電流測定手段と、前記センサ素子の素子温度を測定する温度測定手段と、印加電圧設定手段と、前記センサ素子へ印加電圧を印加する電圧印加手段であって、前記印加電圧設定手段が定める前記印加電圧を、所定タイミング印加する電圧印加手段と、を備え前記印加電圧設定手段は、前記素子温度が所定の閾値以上の場合に、前記素子電流と前記素子温度を示す値とに応じた前記印加電圧を示す所定の関係に基づいて前記印加電圧の大きさを定め、前記素子温度が所定の閾値未満の場合に、前記固体電解質体がブラックニングを起こさない一定値に前記印加電圧を設定すことを特徴とする。
【0010】
このガス濃度検出装置によれば、センサ素子の素子温度が閾値未満で固体電解質層が未活性であっても、ブラックニングを抑制しつつ、およそのガス濃度の検出を行うことができ、素子温度が閾値未満でもガス濃度に応じたエンジンの最適制御等を行うこともできる。
【0011】
前記ガス濃度を推定するための、前記素子電流以外のガス濃度推定情報に基づいて推定ガス濃度を設定するガス濃度推定手段と、前記推定ガス濃度における前記素子温度が前記閾値以上で、かつ活性判断温度以下の任意の温度での仮想限界電流域を求める仮想限界電流域設定手段と、をさらに備え、前記印加電圧設定手段は、前記素子温度が前記閾値未満の場合に、前記一定値を前記仮想限界電流域内で設定してもよい。
【0012】
このガス濃度検出装置によれば、素子温度が閾値未満から閾値に上昇して固体電解質体が活性したときに、一定値は固体電解質体の活性温度域の任意の温度の限界電流域の範囲内となるから、一定値を印加電圧として印加することで、素子温度が閾値以上になったときに直ちに正確なガス濃度の検出を行うことができる。
なお、「素子温度が前記閾値以上の任意の温度」とは、閾値丁度の温度でもよいし、閾値以上の温度かつ固体電解質体が活性化したと判断する温度(活性判断温度)以下の任意の温度でもよい。ここで、活性判断温度よりも低い温度とは、活性判断に誤差許容幅を設ける場合、具体的には活性判断温度に対し、例えば20℃低い温度を閾値として設ける場合を考慮している。
この場合、印加電圧を定めるに当たり、活性判断温度よりも誤差許容分(20℃)低い温度(つまり、素子温度の閾値)で前記所定の関係に基づいた印加電圧の印加が開始されるが、閾値未満の場合に利用する限界電流域は、素子温度の閾値以上で、かつ活性判断温度以下の任意の温度(つまり、閾値から+20℃以内の温度)での限界電流域を利用する。このように、活性判断温度に誤差許容幅を設けた場合は、誤差を除いた、活性判断温度に近い温度での限界電流域を利用することもできる。
【0013】
前記一定値は、前記推定ガス濃度がリーンである程、前記仮想限界電流域内の大きい値であり、前記推定ガス濃度がリッチである程、前記仮想限界電流域内の小さい値であるとよい。
このガス濃度検出装置によれば、仮想限界電流域のどの値に一定値をするかをリッチとリーンとで変更することで、素子温度が閾値以上となったとき、印加電圧の変化量が少なくて済むので、正確なガス濃度の検出をより早く行うことができる。
【0014】
前記関係は、前記素子温度を示す値と前記素子電流との積に対し、前記印加電圧が比例する一次関数をなしてもよい。
このガス濃度検出装置によれば、印加電圧を迅速に算出できる。
【0015】
前記センサ素子の前記固体電解質体と前記一対の電極とが温度検出部を構成し、前記温度測定手段は前記温度検出部のインピーダンスを測定し、前記素子温度を示す値は、前記インピーダンスであってもよい。
このガス濃度検出装置によれば、温度検出部を別個に設けずに、センサ素子が備える固体電解質体と一対の電極とによって温度を検出できる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、ガス濃度検出装置のセンサ素子の素子温度が閾値未満で固体電解質体が未活性であっても、ブラックニングを抑制しつつ、ガス濃度の検出を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るガス濃度検出装置と、ガス濃度センサとを含むシステムのブロック図である。
図2】厚み方向から見たときのセンサ素子の部分破断図である。
図3図2のA−A線に沿うセンサ素子の断面とガス濃度検出装置の構成を示す図である。
図4】空燃比センサの印加電圧とポンプ電流との関係(V−I特性)を示す図である。
図5】素子温度が所定の閾値以上の場合に、印加電圧を設定する具体的方法を示す図である。
図6】素子温度が所定の閾値未満の場合に、印加電圧を設定する具体的方法を示す図である。
図7】印加電圧設定手段及び電流測定手段が行う処理フローを示す図である。
図8】従来の限界電流式の空燃比センサの素子温度が閾値未満の場合に、ブラックニング発生領域で電圧を印加した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態におけるガス濃度検出装置7と、ガス濃度センサ5とを含むシステムのブロック図、図2は厚み方向から見たときのセンサ素子9の部分破断図、図3図2のA−A線に沿うセンサ素子9の断面とガス濃度検出装置7の構成を示す図である。
【0019】
図1において、例えば車両のエンジン1の排気管3に、空燃比センサ(ガス濃度センサ)5が取付けられており、ガス濃度検出装置7は、この空燃比センサ5からの出力に基づいて、エンジン1から排出される排気ガス(被測定ガス)中の特定成分のガス濃度(本実施形態では酸素濃度、従って、空燃比)を検出する。
【0020】
図2及び図3に示すように、空燃比センサ5は、酸素濃度を検出する積層型のセンサ素子9を備えている。このセンサ素子9は長尺の素子であり、図示しないハウジング等に収容されている。
詳しくは、センサ素子9は、層状の固体電解質体(固体電解質層)11と、拡散抵抗層13と、中間絶縁層15と、第1外側絶縁層17と、第2外側絶縁層19と、を備えると共に、測定室21と基準酸素室23とを備えている。
【0021】
このうち、固体電解質層11は、例えば部分安定化ジルコニア等の酸素イオン導電性を有する電解質体からなる矩形板状をなしている。そして、固体電解質層11の測定室21に対向する表面(図3の上面)に第1電極25が配置され、基準酸素室23に対向する表面(図3の下面)に第2電極27が配置されている。つまり、一対の両電極25、27は、固体電解質層11を挟んで対向して配置されている。なお、両電極25、27は例えば白金からなる。
また、両電極25、27及び固体電解質層11を素子部10と称する。
【0022】
拡散抵抗層13は、固体電解質層11と第1外側絶縁層17との間に配置された多孔質層であり、例えばアルミナ、ジルコニア等からなる。この拡散抵抗層13により、外部(排気管3内の空間)から測定室21内に導入される排気ガス(酸素)の量が律速され、両電極25、27に流れる素子電流が限界電流となる。
中間絶縁層15は、固体電解質層11と第1外側絶縁層17との間に配置された緻密な(ガス不透過性の)層であり、例えばアルミナ、ジルコニア等からなる。この中間絶縁層15は、拡散抵抗層13と共に測定室21の周囲を囲むように配置され、中間絶縁層15の外周の一部が形成されず、その部位に拡散抵抗層13が介在している。
【0023】
第1外側絶縁層17は、測定室21、中間絶縁層15及び拡散抵抗層13を、図3の上方から覆うように配置された緻密な層であり、例えばアルミナ、ジルコニア等からなる。
第2外側絶縁層19は、基準酸素室23の周囲を覆うように配置された緻密な層であり、例えばアルミナ、ジルコニア等からなる。なお、図示しないが第2外側絶縁層19には、センサ素子9を加熱するヒータが埋設されている。
測定室21は、外部から拡散抵抗層13を介して排気ガスが導入される直方体形状の空間であり、その内部の固体電解質層11に第1電極25が配置されている。
基準酸素室23は、大気が導入される長尺の空間であり、図3の上方に開口し、その内部の固体電解質層11に第2電極27が配置されている。
【0024】
次に、ガス濃度検出装置7の電気的構成について説明する。
図3に示すように、ガス濃度検出装置7は、センサ素子9(従って、空燃比センサ5)の動作を制御して、排気ガスの酸素濃度(従って、空燃比)を検出する装置であり、マイコン31と電気制御回路33とを備えている。
マイコン31は、周知のCPU,ROM,RAM等を備えた電子制御装置である。ROMには、後述する印加電圧線やヒステリシスなど、制御に必要なデータが記憶されている。
電気制御回路33は、マイコン31によって制御され、両電極25、27間に電圧(印加電圧Vp)を印加すると共に、両電極25、27に流れる素子電流(ポンプ電流Ip)を測定する。
マイコン31及び電気制御回路33は、電圧印加手段7a、電流測定手段7b、温度測定手段7c、印加電圧設定手段7d、ガス濃度推定手段7e、仮想限界電流域設定手段7fをそれぞれ実現する。
【0025】
次に、空燃比センサ5の基本的な動作のうち、酸素のポンピングについて説明する。
図3に示すように、センサ素子9の周囲の排気ガスは、拡散抵抗層13を介して測定室21内に導入される。なお、ここでは第1電極25が負、第2電極27が正となるように電圧を印加する場合について説明する。
【0026】
まず、排気ガス中の燃料がストイキ(理論空燃比:A/F=14.6)より少ない場合(いわゆるリーンの場合)には、排気ガス中の酸素は、両電極25、27間に印加電圧Vpを印加することにより、第1電極25にて酸素イオンとなる。これにより、酸素イオンが第1電極25から固体電解質層11を通過して第2電極27へ移動することができ、この酸素イオンは第2電極27で酸素となって基準酸素室23に排出される。つまり、測定室21から酸素の汲み出しが行われ、第2電極27から第1電極25に正電流である素子電流(以下、ポンプ電流Ipともいう)が流れる。
【0027】
一方、排気ガス中の燃料がストイキより多い場合(いわゆるリッチの場合)には、リーンの場合とは逆に、基準酸素室23内の酸素は、第2電極27にて酸素イオンとなる。これにより、酸素イオンが第2電極27から固体電解質層11を通過して第1電極25へ移動することができ、この酸素イオンは第1電極25で酸素となって測定室21に排出される。つまり、測定室21へ酸素の汲み入れが行われ、第1電極25から第2電極27に負電流である素子電流(ポンプ電流Ip)が流れる。
従って、後述するように、ポンプ電流Ipに基づいて排気ガス中の空燃比を検出することができる。
【0028】
次に、印加電圧Vpとポンプ電流Ipとの関係、及びガス濃度検出に用いる印加電圧線IDについて説明する。なお、印加電圧線IDが特許請求の範囲の「所定の関係」に相当する。
図4に示すように、印加電圧Vpとポンプ電流Ipとの関係を示すグラフ(特性ラインTL)は、印加電圧Vpの増加に比例してポンプ電流Ipが変化する比例部分HBと、電圧軸に平行な平坦部分、及びこの平坦部分よりも印加電圧Vpが高い領域で印加電圧Vpの増加に比例してポンプ電流Ipが増加する高電圧部分HCとを有している。
高電圧部分HCでは、電子伝導による電流が生じ、酸素濃度の増加に対して電流の増加する割合が急激に大きくなるため、ガス濃度センサ5が測定不能になったり、センサ素子9が破損するので、高電圧部分HCでセンサ素子9を動作させないようにする必要がある。
【0029】
比例部分HBは、センサ素子9の素子部10(詳しくは固体電解質層11)の直流内部抵抗(以下、単にインピーダンスRiともいう)に影響される抵抗支配領域である。つまり、抵抗支配領域では、印加電圧Vpの増加に比例してポンプ電流Ipが増加する。なお、インピーダンスRiは、センサ素子9(固体電解質層11)の温度(素子温度)によっても変化する。
また、平坦部分は、印加電圧Vpが変化してもポンプ電流Ipが実質的に変化せず一定の値(限界電流)を保つ領域である。この平坦部分は、酸素濃度(従って、空燃比)に対応したポンプ電流Ipを示す限界電流域GDであり、限界電流の変化が、空燃比の変化に対応している。
【0030】
つまり、空燃比がリーン側になるほど、ポンプ電流Ipが示す限界電流は増加し、空燃比がリッチ側になるほど、限界電流は減少するので、限界電流から空燃比を求めることができる。
例えば、図4に示す特性ラインTLにおいて、各空燃比に応じた各限界電流域GDのすべてを通るように、印加電圧特性を示す1本の直線状の印加電圧線IDを設定し、印加電圧線IDに従って所定の印加電圧Vpを印加し、その際に得られる(限界電流を示す)ポンプ電流Ipに基づいて、空燃比を求めることができる。
【0031】
なお、図4の特性ラインTLは、センサ素子9が所定の素子温度の場合を示し、既に述べたように、特性ラインTL自体も素子温度によって変化する。このため、例えばリーン雰囲気の場合、印加電圧Vpを印加するタイミングと別のタイミングで、図4に示すように、正の限界電流域GDとは無関係なマイナスの電圧Vxを印加し、そのときの比例部分HBと交わる素子電流Ixを測定し、インピーダンスRi=Vx/Ixを求める。インピーダンスRiは素子温度と一定の関係を持つから、これより素子温度を求め、その素子温度に対応した特性ラインTLを用いることとなる。なお、このとき求めたインピーダンスRiは直流抵抗成分である。
従って、センサ素子9の固体電解質層11と一対の電極25,27とが特許請求の範囲の「温度検出部」を構成する。又、インピーダンスRiが特許請求の範囲の「素子温度を示す値」に相当し、温度測定手段7cは温度検出部のインピーダンスを測定することとなる。
一方、リッチ雰囲気の場合、図4の負の限界電流域GDとは無関係なプラスの電圧を印加し、そのときの比例部分HBと交わる素子電流を測定し、同様にインピーダンスRiを求める。


【0032】
次に、図5図6を参照し、印加電圧Vpを設定する具体的な手順について説明する。
まず、温度測定手段7cは、上述のようにしてインピーダンスRiを測定し、それに基づいて素子温度を求める。素子温度が所定の閾値以上(固体電解質体が活性)の場合、図5に基づいて以下の手順で印加電圧Vpを設定する。
図5において、電圧印加手段7aは、両電極25、27間に初期の印加電圧V0を印加する。この印加電圧V0は、特性ラインTL0の限界電流域GDの範囲内であり、電流測定手段7bは、素子電流(ポンプ電流)I0を限界電流として測定し、限界電流I0に対応する酸素濃度(空燃比)を求める。
次の測定タイミングにて、電圧印加手段7aは、直前のタイミングで測定されたポンプ電流I0に応じた印加電圧線IDに基づき、両電極25、27間に印加電圧V1を印加する。例えば、印加電圧線IDとしては、以下の一次式を用いることができる。
印加電圧Vp=インピーダンスRi×(ポンプ電流Ip)+β (1)
βとしては定数を用いることができる。従って、印加電圧線IDはインピーダンスRi(すなわち、センサ素子9の温度)とポンプ電流Ipとによって変化する。このように、インピーダンスRi及びポンプ電流Ipから印加電圧線IDによって求められ、次のタイミングで印加される印加電圧Vpを、適宜「想定電圧」という。
【0033】
上記式(1)にIp=I0を代入すると、印加電圧(想定電圧)V1は、印加電圧線IDが特性ラインTL0と丁度交わるときの値となる。このとき、排気ガス中の酸素濃度(空燃比)が変化しなければ、印加電圧V1に対してポンプ電流(限界電流)I0が検出される。
一方、排気ガス中の酸素濃度(空燃比)が増えた場合、印加電圧V1に対するポンプ電流I1はI0より大きくなる。従って、電流測定手段7bは、ポンプ電流I1を限界電流として測定し、限界電流I1に対応する酸素濃度(空燃比)を求める。次いで、電圧印加手段7aは、上記式(1)にIp=I1を代入したときの印加電圧V2を印加する。印加電圧V2は、印加電圧線IDが特性ラインTL1と丁度交わるときの値であり、特性ラインTL1は特性ラインTL0よりも酸素濃度が高いときのラインである。
このようにして、酸素濃度が高くなるほど、限界電流域GDが高電圧側にシフトするのに応じ、印加電圧を増加させて限界電流域GDから外れないようにしている。
【0034】
又、排気ガス中の酸素濃度(空燃比)が減った場合、印加電圧V1に対するポンプ電流I1'はI0より小さくなる。従って、電流測定手段7bは、ポンプ電流I1'を限界電流として測定し、限界電流I1'に対応する酸素濃度(空燃比)を求める。次いで、電圧印加手段7aは、上記式(1)にIp=I1'を代入したときの印加電圧V2'を印加する。印加電圧V2'は、印加電圧線IDが特性ラインTL1'と丁度交わるときの値であり、特性ラインTL1'は特性ラインTL0よりも酸素濃度が低いときのラインである。
このようにして、酸素濃度が低くなるほど、限界電流域GDが低電圧側にシフトするのに応じ、印加電圧を減少させて限界電流域GDから外れないようにしている。
なお、排気ガス中の酸素濃度(空燃比)がさらに減ってリッチになった場合には、図示はしないが、マイナスのポンプ電流を限界電流として測定し、限界電流に対応する酸素濃度(空燃比)を同様にして求める。
【0035】
ところが、車両のキーオン時などでセンサ素子が十分に温まらず、素子温度が閾値未満で固体電解質体が未活性の場合がある。この場合にセンサ素子9に電圧を印加してガス濃度を検出しようとすると、ブラックニングが生じるおそれがあるのは既に述べた通りである。一方、素子温度が閾値未満(固体電解質体が未活性)であっても、ブラックニングを抑制しつつ、およそのガス濃度の検出を行いたいという要望がある。
そこで、温度測定手段7cが測定した素子温度が閾値未満(固体電解質体が未活性)の場合、図6に基づいて以下の手順で印加電圧Vpを設定する。なお、図6の特性ラインTL3は、素子温度が閾値未満における、その素子温度での特性ラインを示す。又、特性ラインTL4は、後述する仮想限界電流域GDvの特性ラインを示す。
【0036】
まず、特性ラインTL3は、印加電圧Vb以上の電圧を印加するとブラックニング発生領域BLに入ることが予めわかっているとする。ブラックニング発生領域BLは、例えば事前に固体電解質層11の材料、素子温度、被測定ガスの酸素濃度等に応じて求めておけばよく、ブラックニング発生領域BLを例えば被測定ガスの酸素濃度(=ポンプ電流Ip)、印加電圧Vpとの関係を示すマップや関係式として、マイコン31のROMに記憶してもよい。
そして、リーン雰囲気の場合、印加電圧設定手段7dは、適宜上述のマップ等を参照し、固体電解質層11がブラックニングを起こす印加電圧Vb未満の一定値に印加電圧Vsを設定する。
次に、電圧印加手段7aは、図5と同様にして両電極25、27間に印加電圧Vsを印加し、そのときのポンプ電流Ivを限界電流として測定し、限界電流Ivに対応する酸素濃度(空燃比)を求める。
【0037】
次の測定タイミングにて、素子温度が閾値以上であれば、電圧印加手段7aは、図5と同様な処理を行い、素子温度が閾値未満であれば、印加電圧設定手段7dは上記と同様、固体電解質層11がブラックニングを起こす印加電圧未満の一定値に印加電圧を設定する。
【0038】
これにより、センサ素子9の素子温度が閾値未満で固体電解質層11が未活性であっても、ブラックニングを抑制しつつ、およそのガス濃度の検出を行うことができ、素子温度が閾値未満でもガス濃度に応じたエンジンの最適制御等が行え、素子温度が閾値以上になったときに直ちに正確なガス濃度の検出を行うこともできる。
【0039】
なお、リッチ雰囲気の場合、印加電圧設定手段7dは、適宜上述のマップ等を参照し、固体電解質層11がブラックニングを起こす印加電圧−Vbより大きな一定値に印加電圧−Vsを設定する。
次に、電圧印加手段7aは、図5と同様にして両電極25、27間に印加電圧−Vsを印加し、そのときのポンプ電流−Ivを限界電流として測定し、限界電流−Ivに対応する酸素濃度(空燃比)を求める。以下、上記と同様にして処理を続ける。
【0040】
図7は、印加電圧設定手段7d及び電流測定手段7bが行う処理フローを示す。
まず、印加電圧設定手段7dは、素子電流(ポンプ電流)Ipを所定の初期値Ip0に設定する(ステップS2)。次に、印加電圧設定手段7dは、温度測定手段7cが測定したインピーダンスRiが閾値を超えたか否かを判定する(ステップS4)。
ステップS4でNo(素子温度が閾値以上で固体電解質体が活性)の場合、印加電圧設定手段7dは、図5に示すようにして、本フローの前回に用いた素子電流Ipから印加電圧線IDに基づいて算出した印加電圧Vpを設定する(ステップS6)。
そして、電圧印加手段7aはこの印加電圧Vpを印加し電流測定手段7bはこのときの素子電流Ipを限界電流として測定し(ステップS8)、酸素濃度(空燃比)を求める(ステップS10)。
ステップS10の後、印加電圧設定手段7dはサンプリング時間が経過したか否かを判定し(ステップS12)、「Yes」であればステップS4に戻り、「No」であれば経過するまで待機する。
【0041】
なお、図7のフローのスタートでは、ステップS6において、素子電流Ipは初期値Ip0であるから、図5より初期値Ip0に対応する印加電圧Vpを印加電圧線IDから設定する。そして、ステップS12が「Yes」で本フローを繰り返す際には、この印加電圧Vpを印加したときの素子電流Ip1から、印加電圧線IDに基づいて次の印加電圧Vp1を順次設定することになる。
【0042】
一方、ステップS4でYes(素子温度が閾値未満で固体電解質体が未活性)の場合、印加電圧設定手段7dは、印加電圧Vpとして一定値Vcを設定する(ステップS14)。この一定値Vcは、図6で印加電圧Vb未満の値(Vs等)に相当する。
【0043】
ところで、ステップS4でYesの場合に、印加電圧Vpとして設定する一定値Vcとしては、図6の印加電圧Vb未満の値であればよいが、ステップS4がNo(素子温度が閾値丁度)になったときに、に直ちに正確なガス濃度の検出を行えるよう、素子温度が閾値丁度のときの限界電流域(仮想限界電流域GDv)の範囲内に一定値Vcを設定することが好ましい。
このようなことから、ガス濃度推定手段7eは素子電流以外の情報からガス濃度を推定し、仮想限界電流域設定手段7fが、その推定ガス濃度における素子温度が閾値丁度のときに仮想限界電流域GDv(図6の特性ラインTL4の限界電流域)を求めるとよい。
この場合、印加電圧設定手段7dは、仮想限界電流域GDvで一定値Vcを設定することになる。例えば、図6の場合、一定値Vcは、仮想限界電流域GDvの最大電圧Vmax以下に設定される。
これにより、素子温度が閾値未満から閾値丁度に上昇して固体電解質体が活性したときに、一定値Vcはこのときの特性ラインTL4の限界電流域の範囲内となるから、一定値Vcを印加電圧として印加することで、素子温度が閾値以上になったときに直ちに正確なガス濃度の検出を行うことができる。なお、素子の活性温度と、上述の閾値とが一致しない場合、素子温度が、閾値丁度の温度でなく、閾値よりも高い温度であるときの限界電流域を、仮想限界電流域としてもよい。
【0044】
なお、ガス濃度推定手段7eは、例えば車両のECUであり、例えばエンジンの回転数や吸入空気量、スロットル開度等とガス濃度との関係を示す情報(特許請求の範囲の「素子電流以外のガス濃度推定情報」)から、素子温度が閾値未満のときにこれらエンジンの回転数等の情報を取得し、ROM等に格納されたガス濃度情報(マップ情報)からガス濃度を推定する。
又、仮想限界電流域設定手段7fは、ROM等にガス濃度に関連づけて格納された特性ラインを取得し、仮想限界電流域GDvを求める。なお、この特性ラインは例えば、ガス濃度に関連づけたマップでもよく、ガス濃度との関係式でもよい。
【0045】
又、一定値Vcは、推定ガス濃度がリーンである程、仮想限界電流域GDv内の大きい値(図6の右側)であり、推定ガス濃度がリッチである程、仮想限界電流域内の小さい値(図6の左側)であるとよい。
このようにすると、リーン雰囲気では、仮想限界電流域GDvが、素子温度が閾値未満のときの限界電流域(GD)に比べ低い領域にあるので、一定値Vcを仮想限界電流域GDv内の大きい値にすることで、素子温度が閾値未満のときにブラックニングを起こさない一定値にしつつ、その後、素子温度が閾値以上に上昇したときは限界電流域内になることで、素子温度が閾値以上になったときに直ちに正確なガス濃度の検出を行うことができる。
一方、リッチ雰囲気では、仮想限界電流域GDvが、素子温度が閾値未満のときの限界電流域に比べ高い領域にあるので、同様に、一定値Vcを仮想限界電流域GDv内の小さい値にすることで、素子温度が閾値未満のときにブラックニングを起こさない一定値にしつつ、その後、素子温度が閾値以上に上昇したときは限界電流域内になることで、素子温度が閾値以上になったときに直ちに正確なガス濃度の検出を行うことができる。
【0046】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
ポンプ電流に応じた印加電圧を示す所定の関係は、上記印加電圧線IDに限られず、例えば直線以外の曲線や、ROM等に格納したマップ等であってもよい。
又、上記実施形態では、式(1)でポンプ電流Ipから印加電圧Vpを求め、求めたVpを電極間に印加したが、電極間の印加電圧がVpとなるようにポンプ電流を調整してもよい。この場合は、印加電圧を直接調整するのではなく、ポンプ電流を調整することで、間接的に電極間の電圧が所定電圧となるようにしている。この場合でも、電極間の電圧とその時のポンプ電流との関係から、酸素濃度を測定することができる。
【符号の説明】
【0047】
5 ガス濃度センサ
7 ガス濃度検出装置
7a 電圧印加手段
7b 電流測定手段
7c 温度測定手段
7d 印加電圧設定手段
7e ガス濃度推定手段
7f 仮想限界電流域設定手段
9 センサ素子
11 固体電解質体(固体電解質層)
25,27 一対の電極
Vp,V0,V1 印加電圧
Ip、I0,I1 素子電流(ポンプ電流)
GD 限界電流域
GDv 仮想限界電流域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8