特許第6805084号(P6805084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805084
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】半導体式ガス検知素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20201214BHJP
【FI】
   G01N27/12 B
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-109717(P2017-109717)
(22)【出願日】2017年6月2日
(65)【公開番号】特開2018-205077(P2018-205077A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】北川 靖久
(72)【発明者】
【氏名】中谷 忠司
(72)【発明者】
【氏名】三橋 弘和
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−003308(JP,A)
【文献】 特開2002−286672(JP,A)
【文献】 特開2016−070704(JP,A)
【文献】 特開2014−006263(JP,A)
【文献】 特開2008−145148(JP,A)
【文献】 特開2001−091486(JP,A)
【文献】 中国実用新案第205506741(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置される被検知ガスの検知電極と、
前記検知電極に接触状態で前記基板上に配置され、前記被検知ガスに接触する感応部と、
前記基板上に配置され、前記被検知ガスよりも燃焼温度の低い易燃性ガスを燃焼除去するガス燃焼手段と、を備え
前記検知電極は、前記感応部を加熱するヒータ部として機能するとともに、前記検知電極のうち、前記感応部に覆われずに前記感応部から露出する露出部において前記ガス燃焼手段として機能するように構成されている、半導体式ガス検知素子。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に配置される被検知ガスの検知電極と、
前記検知電極に接触状態で前記基板上に配置され、前記被検知ガスに接触する感応部と、
前記基板上に配置され、前記被検知ガスよりも燃焼温度の低い易燃性ガスを燃焼除去するガス燃焼手段と、を備え、
前記検知電極は、前記基板上において蛇行形状を有する検知電極パターンから形成され、
前記感応部は、前記検知電極パターンの中央部を覆うように配置されており、
前記検知電極は、前記検知電極パターンのうち前記感応部に覆われずに前記感応部から露出する露出部において前記ガス燃焼手段として機能するように構成されている、半導体式ガス検知素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体式ガス検知素子に関し、特に、基板を備える半導体式ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板を備える半導体式ガス検知素子が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、基板と、検知電極と、基板内に設けられるヒータと、検知電極に接触状態で基板上に配置されるガス感応部とを備える半導体式ガス検知素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−70704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された半導体式ガス検知素子の分野では、従来より、被検知ガスの選択性(雰囲気ガス内から目的の被検知ガスを適切に選択する性質)を向上させることが望まれている。詳細には、半導体式ガス検知素子を用いたガスセンサでは、被検知ガス(たとえばメタン)よりも燃焼温度の低い易燃性ガス(たとえばアルコールや水素などの妨害ガス)が存在すると、被検知ガスの濃度が所定のしきい値に達していなくても被検知ガスが存在すると誤検知してしまう場合があるため、被検知ガスの選択性を向上させることが課題として存在する。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、被検知ガスの選択性を向上させることが可能な半導体式ガス検知素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の局面による半導体式ガス検知素子は、基板と、基板上に配置される被検知ガスの検知電極と、検知電極に接触状態で基板上に配置され、被検知ガスに接触する感応部と、基板上に配置され、被検知ガスよりも燃焼温度の低い易燃性ガスを燃焼除去するガス燃焼手段と、を備え、検知電極は、感応部を加熱するヒータ部として機能するとともに、検知電極のうち、感応部に覆われずに感応部から露出する露出部においてガス燃焼手段として機能するように構成されている
【0008】
この発明の第1の局面による半導体式ガス検知素子では、上記のように、基板上に配置され、被検知ガスよりも燃焼温度の低い易燃性ガスを燃焼除去するガス燃焼手段を設ける。これにより、ガス燃焼手段により易燃性ガスを燃焼除去することができるので、被検知ガスに対する易燃性ガスの濃度を低くすることができる。このため、被検知ガスの選択性を向上させることができる。また、検知電極とガス燃焼手段とが基板上に配置されるので、半導体製造プロセスにおいて、同一工程で検知電極とガス燃焼手段とを形成することができる。このため、製造工程を簡素化することができる。また、ガス燃焼手段を露出させることができるので、ガス燃焼手段を易燃性ガスに接触させて確実に燃焼除去することができる。このため、被検知ガスの選択性を確実に向上させることができる。また、ガス燃焼手段と検知電極とを別体にする場合と比較して、部品点数を減らすることができるので、構造を簡素化することができる。また、ヒータ部を加熱するためにヒータ部に流される電流を、ガス燃焼手段の加熱に利用することができる。
【0012】
この発明の第2の局面による半導体式ガス検知素子は、基板と、基板上に配置される被検知ガスの検知電極と、検知電極に接触状態で基板上に配置され、被検知ガスに接触する感応部と、基板上に配置され、被検知ガスよりも燃焼温度の低い易燃性ガスを燃焼除去するガス燃焼手段と、を備え、検知電極は、基板上において蛇行形状を有する検知電極パターンから形成され、感応部は、検知電極パターンの中央部を覆うように配置されており、検知電極は、検知電極パターンのうち感応部に覆われずに感応部から露出する露出部においてガス燃焼手段として機能するように構成されている。このように構成すれば、上記第1の局面と同様に、被検知ガスの選択性を向上させることができる。また、ガス燃焼手段と検知電極とを別体にする場合と比較して、部品点数を減らすることができるので、構造を簡素化することができる。また、検知電極を、基板上において蛇行させることにより、基板の面積を大きくすることなく検知電極の長さを大きく確保することができる。このため、半導体式ガス検知素子をより小型化することが可能となる。また、基板上で感応部が偏って配置される場合と比較して、感応部が検知電極パターンの中央部を覆うように配置されると、基板内の温度分布が偏るのを抑制することができる。このため、基板(半導体式ガス検知素子)の加熱に伴う劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記のように、被検知ガスの選択性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態による半導体式ガス検知素子の全体構成を示した平面図である。
図2】本発明の一実施形態による半導体式ガス検知素子の全体構成を示した模式的な断面図である。
図3図1の500−500線に沿った断面図である。
図4】本発明の一実施形態による半導体式ガス検知素子の被覆部および露出部について説明するための平面図である。
図5】本発明の一実施形態による半導体式ガス検知素子を含むガスセンサの回路図である。
図6】本発明の一実施形態による半導体式ガス検知素子の製造工程を(a)〜(e)に順に示した図である。
図7】比較例による半導体式ガス検知素子の全体構成を示した平面図である。
図8】比較例による半導体式ガス検知素子のガス濃度とセンサ出力との関係を示したグラフである。
図9】本発明の実施例による半導体式ガス検知素子のガス濃度とセンサ出力との関係を示したグラフである。
図10】本発明の変形例による半導体式ガス検知素子の全体構成を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具現化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1図6を参照して、本発明の一実施形態による半導体式ガス検知素子100の構成について説明する。
【0017】
(半導体式ガス検知素子の構成)
図1に示すように、半導体式ガス検知素子100は、基板1と、検知電極2と、感応部3と、を備えている。検知電極2と感応部3とは、基板1の一方面(後述するA1方向側の面)に接触している。また、半導体式ガス検知素子100には、基板1上に配置されるリード線4が設けられている。
【0018】
半導体式ガス検知素子100は、超微細構造の電子部品の製造技術であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により形成されている。すなわち、半導体式ガス検知素子100は、半導体製造プロセスなどに基づき形成される極めて小型の素子(MEMSセンサ)である。半導体式ガス検知素子100(基板1の後述する被支持部11a)は、たとえば、一辺の大きさLが約0.1mmの矩形(略正方形)の平板形状を有している。
【0019】
半導体式ガス検知素子100は、電源部(図示せず)に接続され、電源部から電流が供給されるように構成されている。たとえば、半導体式ガス検知素子100は、電源部としての小型のリチウムイオン電池から10秒毎に(10秒周期で)0.1秒だけパルス電流が供給されるように構成されている。
【0020】
半導体式ガス検知素子100は、電圧計(図示せず)により検知電極2の両端21間の電気抵抗が測定されることによって行われる被検知ガスの検知に利用される。なお、検知電極2の両端21間の電気抵抗とは、検知電極2と感応部3との合成抵抗である。回路構成については後述する。
【0021】
(基板の構成)
図1に示すように、基板1は、基板1の一方表面側に設けられる絶縁膜11と、以下に説明するA2方向側から絶縁膜11を接触状態で支持する支持基板部12(図2参照)とを含んでいる。絶縁膜11は、たとえば、二酸化ケイ素により形成されている。支持基板部12は、たとえば、シリコン(ケイ素)を主成分とする材料により形成されている。
【0022】
絶縁膜11は、検知電極2および感応部3が接触状態で一方表面側(以下に説明するA1方向側)に配置される被支持部11aと、被支持部11aを支持する支持部11bとを含んでいる。
【0023】
ここで、以下の説明では、基板1の厚み方向をA方向とし、そのうちの基板1の絶縁膜11側をA1方向とし、A1方向の逆方向をA2方向とする。また、A方向に直交し、基板1の被支持部11aの互いに対向する一対の一方端面10aが延びる方向をB方向とする。また、A方向に直交し、基板1の被支持部11aの互いに対向する一対の他方端面10bが延びる方向をC方向とする。すなわち、A方向およびB方向に直交する方向をC方向とする。なお、B方向およびC方向は、基板1の表面に沿った方向である。
【0024】
被支持部11aは、平面視において(A方向から見て)、矩形形状を有している。図2に示すように、支持基板部12には、A方向において被支持部11aと重なる範囲、および、被支持部11aと重なる範囲を囲む所定範囲において、A2方向に窪む凹部12aが設けられている。すなわち、被支持部11aと支持基板部12とは、互いに空間を隔てて配置されており、互いに離間している。
【0025】
図1に示すように、支持部11bは、複数(4個)設けられている。また、複数の支持部11bは、それぞれの内側の一端が矩形形状の被支持部11aの互いに異なる隅部(角部)に接続されている。また、複数の支持部11bは、それぞれの外側(被支持部11aに接続される側とは逆側)の一端が、支持基板部12に固定されている。また、図2に示すように、上記の通り、凹部12aにより支持基板部12と被支持部11aとが互いに離間しているため、被支持部11aは、支持部11bにより浮いた状態で支持されている。また、図1に示すように、複数の支持部11bは、被支持部11aと一体的に形成されている。また、複数の支持部11bは、平面視において(A方向から見て)、それぞれ、被支持部11aを中心とする同一方向(A1方向側から見て反時計回り方向)に折れ曲がるL字形状を有している。
【0026】
(リード線の構成)
図1に示すように、リード線4は、被支持部11aのB1方向側かつC1方向側の隅部(角部)に接続される支持部11b上のA1方向側に設けられている。また、リード線4は、被支持部11aのB2方向側かつC2方向側の隅部(角部)に接続される支持部11b上のA1方向側にも設けられている。すなわち、2つのリード線4は、被支持部11aの対角線方向に互いに向かい合う一対の支持部11b上にそれぞれ1つずつ設けられている。また、リード線4は、基板1の表面上に基板1(絶縁膜11)に接触した状態で配置されている。
【0027】
(検知電極の構成)
図1および図3に示す検知電極2の材質としては、たとえば、白金や金などを用いることが可能であるが、特にこれらに限定されるものではない。検知電極2は、感応部3に接触状態で基板1(絶縁膜11)上のA1方向側に配置されている。また、検知電極2は、基板1の表面上に基板1(絶縁膜11)に接触した状態で配置されている。また、検知電極2は、リード線4(図1参照)と一体的に形成されている。また、検知電極2は、リード線4よりも細く形成されており、リード線4よりも電気抵抗が大きくなるように構成されている。
【0028】
図1に示すように、検知電極2は、基板1上において蛇行形状を有する検知電極パターンPから形成されている。
【0029】
詳細には、検知電極2(検知電極パターンP)は、B方向を長手方向とする矩形の平板形状の複数の第1部分22と、C方向を長手方向とする矩形の平板形状の複数の第2部分23とを含み、複数の第1部分22と複数の第2部分23とを交互に接続することにより蛇行形状を形成している。また、複数の第1部分22は、平面視で互いに略平行にC方向に隣り合って配置されている。また、図1では、一例として、検知電極2が、9個の第1部分22を含んでいる。複数の第1部分22は、C方向に略等間隔で並んでいる。また、複数の第1部分22は、それぞれ、B方向に直線状に延びている。また、複数の第1部分22は、それぞれ、基板1の被支持部11aのB1方向側端部近傍からB2方向側端部近傍まで延びている。
【0030】
第2部分23は、互いに隣り合う第1部分22の端部同士を接続するように構成されている。複数の第2部分23は、C方向において、それぞれ、第1部分22の一方端部および他方端部を交互に接続している。また、第2部分23の長手方向(C方向)の大きさD1は、第1部分22の長手方向(B方向)の大きさD2よりも小さい。
【0031】
複数の第2部分23と、C1方向端部およびC2方向端部の第1部分22とは、基板1の被支持部11aの外縁に沿って配置されている。すなわち、検知電極2(検知電極パターンP)の外縁は、概して、基板1の被支持部11aの外縁と相似形状となるように形成されている。
【0032】
図4に示すように、検知電極2は、感応部3に覆われる被覆部24と、感応部3に覆われずに露出する露出部25とを含んでいる。すなわち、検知電極2は、半導体式ガス検知素子100が配置される領域の雰囲気ガス(被検知ガスおよび易燃性ガスを含む)に接触することのない被覆部24と、雰囲気ガスに接触する露出部25とを含んでいる。また、被覆部24と露出部25とは、検知電極2と一体的な構成である。つまり、被覆部24および露出部25は、いずれも検知電極2の一部である。露出部25は、特許請求の範囲の「ガス燃焼手段」の一例である。
【0033】
なお、図4では、便宜的に、被覆部24と露出部25とにそれぞれハッチングを付している。図4のハッチングは、断面を示すものではない。
【0034】
複数の第2部分23(図1参照)は、いずれも露出部25により構成されている。また、C1方向端部およびC2方向端部の第1部分22(図1参照)は、いずれも露出部25により構成されている。また、他の第1部分22(C方向において内側に配置される第1部分22)は、露出部25と被覆部24とから構成されている。詳細には、他の第1部分22(C方向において内側に配置される第1部分22)は、概して、B方向における内側部分が被覆部24により構成され、B方向における外側部分(両端近傍)が露出部25により構成されている。図4の例では、露出部25が被覆部24の周囲に配置されている。すなわち、露出部25が、被覆部24を全周にわたって取り囲んでいる。
【0035】
検知電極2は、露出部25の総面積S1と被覆部24の総面積S2との比が、約3:7となるように形成されている。すなわち、検知電極2は、表面(上面、つまりA1方向の端面)の約70%が感応部3に覆われている。
【0036】
検知電極2は、電源部(図示せず)からリード線4を介して電流が流されることにより、加熱されるように構成されている。具体的には、検知電極2は、被検知ガスよりも燃焼温度が低い易燃性ガスの燃焼温度以上で、かつ、被検知ガスの燃焼温度未満まで加熱されるように構成されている。
【0037】
たとえば、被検知ガスがメタンの場合、燃焼温度は、少なくとも500℃以上であり、易燃性ガスがアルコールや水素の場合、燃焼温度は、約300℃である。このため、検知電極2は、たとえば、約400℃に加熱されるように構成される。その結果、検知電極2は、雰囲気ガスに接触する露出部25で、易燃性ガスにも接触することが可能であるため、露出部25は、易燃性ガスを燃焼除去するように構成されている。また、検知電極2は、感応部3を加熱するヒータ部としても機能するように構成されている。つまり、検知電極2のうち露出部25は、ヒータ部として機能するとともにガス燃焼手段として機能し、検知電極2のうち被覆部24は、ヒータ部として機能するように構成されている。
【0038】
(感応部の構成)
図1に示す感応部3は、金属酸化物半導体により形成されている。金属酸化物半導体の材質としては、たとえば、酸化スズや、酸化インジウム、酸化亜鉛などを用いることが可能であるが、特にこれらに限定されるものではない。感応部3は、検知電極2(被覆部24(図4参照))により加熱されることによって、感応部3に接触する雰囲気ガスに含まれる被検知ガスと反応して、抵抗値を変化させる特性を有している。半導体式ガス検知素子100は、この感応部3の特性を利用して、被検知ガスを検知するように構成されている。
【0039】
感応部3は、検知電極パターンP(検知電極2)の中央部を覆うように配置されている。すなわち、感応部3(感応部3に覆われる検知電極2(被覆部24))は、平面視で、露出部25(図4参照)に周囲を囲まれている。また、感応部3は、概して、検知電極パターンP(検知電極2)と同様の矩形形状に形成されている。また、感応部3は、基板1の被支持部11aのB方向に延びる中心線α、および、基板1の被支持部11aのC方向に延びる中心線βに対して、それぞれ対称形状となるように形成されている。
【0040】
図3に示すように、感応部3は、検知電極2の中央部において、第1部分22の上面(A1側の面)に接触するとともに、隣接する第1部分22の側面(上面に交差する面)間に入り込むように配置されている。
【0041】
(半導体式ガス検知素子を含むガスセンサの回路構成)
次に、図5を参照して、熱線型の半導体式ガス検知素子100を含む半導体式ガスセンサGの回路構成の例について説明する。なお、以下に示す半導体式ガス検知素子100を含む半導体式ガスセンサGの回路構成は、一例であり、以下に示す構成に限定されるものではない。
【0042】
図5に示すように、検知電極2と感応部3との合成抵抗である熱線型半導体式ガス検知素子抵抗R(以下、素子抵抗Rとする)は、固定抵抗R1、R2およびR3とともにブリッジ回路に組み込まれて半導体式ガスセンサGを構成している。素子抵抗Rは、固定抵抗R3に直列接続されている。また、素子抵抗Rおよび固定抵抗R3の対辺には、直列接続された固定抵抗R1およびR2が設けられている。そして、電源Eによりブリッジ回路に電圧を印加する。この際、素子抵抗Rと固定抵抗R3との中点P1と、固定抵抗R1と固定抵抗R2との中点P2との電位差がセンサ出力Vとなる。
【0043】
詳細には、素子抵抗Rと固定抵抗R3とが直列接続されることにより、素子抵抗Rの一端r1と固定抵抗R3の一端r31とは、等電位になっている。また、固定抵抗R1と固定抵抗R2とが直列接続されることにより、固定抵抗R1の一端r11と固定抵抗R2の一端r21とは、等電位になっている。
【0044】
また、素子抵抗Rの他端r2と固定抵抗R1の他端r12とは、等電位になるように接続されている。また、素子抵抗Rの他端r2と固定抵抗R1の他端r12との中点P3(素子抵抗Rの他端r2と固定抵抗R1の他端r12とを接続する配線)は、電源Eの正極側に接続されている。
【0045】
また、固定抵抗R3の他端r32と固定抵抗R2の他端r22とは、等電位になるように接続されている。また、固定抵抗R3の他端r32と固定抵抗R2の他端r22との中点P4(固定抵抗R3の他端r32と固定抵抗R2の他端r22とを接続する配線)は、電源Eの負極側に接続されている。
【0046】
固定抵抗R1の一端r11と固定抵抗R2の一端r21との中点P2(固定抵抗R1の一端r11と固定抵抗R2の一端r21とを接続する配線)は、一端が電源Eの正極側に他端が電源Eの負極側に接続される抵抗R0に、接続されている。これにより、固定抵抗R1の一端r11と固定抵抗R2の一端r21との中点P2は、所定の基準電位となる(ゼロセットされる)。
【0047】
ブリッジ回路には電源Eによって常時または間欠的に通電され、半導体式ガス検知素子100は、検知の際に適した所定の温度となるように構成されている。また、半導体式ガス検知素子100(感応部3(図1参照))は、被検知ガスが吸着すると抵抗値が変化する。このため、本実施形態に係る半導体式ガスセンサGでは、半導体式ガス検知素子100の素子抵抗Rの変化を偏差電圧をとして取り出し、これをセンサ出力Vとすることで被検知ガスのガス濃度を測定可能なように構成されている。
【0048】
(半導体式ガス検知素子を含むガスセンサの製造方法)
次に、図6(a)〜(e)を参照して、MEMS技術による半導体式ガス検知素子100の製造方法について説明する。図6(a)〜(e)は、それぞれ、半導体式ガス検知素子100の製造工程を示している。製造工程は、図6(a)〜(e)の順で実施される。なお、以下に示す半導体式ガス検知素子100の製造方法は、一例であり、本発明の半導体式ガス検知素子100の製造方法は、以下に示す製造方法に限定されるものではない。
【0049】
はじめに、図6(a)に示すように、基板1の絶縁膜11上に所定の厚みを有する白金の金属層Kを形成する。
【0050】
次に、図6(b)に示すように、基板1上の所定位置にマスクMを形成する。マスクMは、平面視において(A方向から見て)、基板1上に形成しようとする検知電極2(図4に示す被覆部24および露出部25)と重なる位置に、少なくとも形成される。
【0051】
次に、図6(c)に示すように、エッチングにより、平面視において(A方向から見て)、マスクM間に位置する金属層Kを除去する。これにより、検知電極2(検知電極パターンP(図1参照))が基板1上に形成される。
【0052】
次に、図6(d)に示すように、基板1上のマスクMが除去されて、検知電極2の上面(A1方向の端面)が露出する。
【0053】
次に、図6(e)に示すように、基板1および検知電極2上に、基板1の中央部の上方(基板1のA1方向側)から酸化スズを含む感応部3の材料溶液が滴下により塗布される。そして、酸化スズを含む感応部3の材料溶液が焼成され、感応部3が形成される。以上により半導体式ガス検知素子100の製造が完了する。
【0054】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0055】
本実施形態では、上記のように、基板1上に配置され、被検知ガスよりも燃焼温度の低い易燃性ガスを燃焼除去するガス燃焼手段として露出部25を設ける。これにより、ガス燃焼手段(露出部25)により易燃性ガスを燃焼除去することができるので、被検知ガスに対する易燃性ガスの濃度を低くすることができる。このため、被検知ガスの選択性を向上させることができる。また、検知電極2とガス燃焼手段(露出部25)とが基板1上に配置されるので、半導体製造プロセスにおいて、同一工程で検知電極2とガス燃焼手段(露出部25)とを形成することができる。このため、製造工程を簡素化することができる。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、ガス燃焼手段を、感応部3に覆われずに露出する露出部25に形成する。これにより、ガス燃焼手段を露出させることができるので、ガス燃焼手段を易燃性ガスに接触させて確実に燃焼除去することができる。このため、被検知ガスの選択性を確実に向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態では、上記のように、ガス燃焼手段(露出部25)を、検知電極2と一体的に形成する。これにより、ガス燃焼手段と検知電極2とを別体にする場合と比較して、部品点数を減らすることができるので、構造を簡素化することができる。
【0058】
また、本実施形態では、上記のように、ガス燃焼手段に、感応部3を加熱するヒータ部を設け、露出部25に、ヒータ部のうち感応部3に覆われずに露出している部分を設ける。これにより、ヒータ部が電流により加熱される構成である場合に、ヒータ部を加熱するためにヒータ部に流される電流を、ガス燃焼手段の加熱にも利用することができる。
【0059】
また、本実施形態では、上記のように、検知電極2を、基板1上において蛇行形状を有し、露出部25を含む検知電極パターンPから形成し、感応部3を、検知電極パターンPの中央部を覆うように配置する。これにより、検知電極2を、基板1の面積を大きくすることなく蛇行させることにより、基板1上において検知電極2の長さを大きく確保することができる。このため、半導体式ガス検知素子100をより小型化することが可能となる。また、基板1上で感応部3が偏って配置される場合と比較して、感応部3が検知電極パターンPの中央部を覆うように配置されると、基板1内の温度分布が偏るのを抑制することができる。このため、基板1(半導体式ガス検知素子100)の加熱に伴う劣化を抑制することができる。
【0060】
(実施例)
次に、図1および図7図9を参照して、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0061】
実施例では、図1に示す検知電極2を白金により作製するとともに、感応部3を酸化スズにより作製した。
【0062】
図7に示すように、比較例として、実施例と同一材料の検知電極202および実施例と同一材料の感応部203を備える半導体式ガス検知素子200を作製した。感応部203は、実施例とは異なり、検知電極202の全体を覆っている。すなわち、比較例の半導体式ガス検知素子200は、露出部(検知電極202が露出する部分)を備えておらず、検知電極202が雰囲気ガス(被検知ガスおよび易燃性ガスを含む)に接触しないように構成されている。
【0063】
(実施例・比較例の測定結果および評価)
実施例の半導体式ガス検知素子100、および、比較例の半導体式ガス検知素子200を、それぞれ、密閉された測定槽(図示せず)内に配置して、測定槽内にメタン、水素およびエタノールをそれぞれ互いに等しい量(ガス濃度)だけ封入して、センサ出力(mV)を電圧計(図示せず)により測定した。
【0064】
測定は、メタン、水素およびエタノールのそれぞれのガス濃度を500ppm、1000ppm、3000ppm、5000ppmおよび10000ppmとする条件で行った。すなわち、メタンのガス濃度が500(1000、3000、5000、10000)ppm、水素のガス濃度が500(1000、3000、5000、10000)ppm、および、エタノールのガス濃度が500(1000、3000、5000、10000)ppmとなるガスについて、センサ出力(mV)を測定した。
【0065】
<比較例のメタン、水素、エタノールの測定結果>
図8に示すように、比較例では、ガス濃度が500ppmの場合、メタン、水素およびエタノールの各センサ出力が40〜80mVの範囲に収まり、ガス濃度が1000ppmの場合、メタン、水素およびエタノールの各センサ出力が80〜120mVの範囲に収まり、ガス濃度が3000ppmの場合、メタン、水素およびエタノールの各センサ出力が120〜160mVの範囲に収まり、ガス濃度が5000ppmの場合、メタン、水素およびエタノールの各センサ出力が140〜180mVの範囲に収まり、ガス濃度が10000ppmの場合、メタン、水素およびエタノールの各センサ出力が160〜200mVの範囲に収まる結果となった。すなわち、いずれのガス濃度においても、メタン、水素およびエタノールは、互いに比較的近いセンサ出力を示すことが分かった。また、いずれのガス濃度においてもメタンが最も小さなセンサ出力を示すことが分かった。
【0066】
<実施例のメタンの測定結果>
図9に示すように、実施例では、ガス濃度が500ppmの場合、メタンのセンサ出力が約35mVを示し、ガス濃度が1000ppmの場合、メタンのセンサ出力が約55mVを示し、ガス濃度が3000ppmの場合、メタンのセンサ出力が約105mVを示し、ガス濃度が5000ppmの場合、メタンのセンサ出力が約125mVを示し、ガス濃度が10000ppmの場合、メタンのセンサ出力が約150mVを示す結果となった。
【0067】
<実施例の水素の測定結果>
ガス濃度が500ppmの場合、水素のセンサ出力が約15mVを示し、ガス濃度が1000ppmの場合、水素のセンサ出力が約25mVを示し、ガス濃度が3000ppmの場合、水素のセンサ出力が約40mVを示し、ガス濃度が5000ppmの場合、水素のセンサ出力が約50mVを示し、ガス濃度が10000ppmの場合、水素のセンサ出力が約65mVを示す結果となった。
【0068】
<実施例のエタノールの測定結果>
また、ガス濃度が500ppmの場合、エタノールのセンサ出力が約10mVを示し、ガス濃度が1000ppmの場合、エタノールのセンサ出力が約15mVを示し、ガス濃度が3000ppmの場合、エタノールのセンサ出力が約30mVを示し、ガス濃度が5000ppmの場合、エタノールのセンサ出力が約35mVを示し、ガス濃度が10000ppmの場合、エタノールのセンサ出力が約45mVを示す結果となった。
【0069】
<評価>
実施例では、いずれのガス濃度においてもメタンのセンサ出力が水素およびエタノールのセンサ出力よりも大幅に大きくなる(2倍以上になる)ことが分かった。すなわち、測定槽内の易燃性ガス(妨害ガス)がガス封入時よりも少なくなり、メタンが選択的に検知されていることが分かった。また、比較例とは逆に、いずれのガス濃度においてもメタンが最も大きなセンサ出力を示すことが分かった。
【0070】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0071】
たとえば、上記実施形態では、感応部を概して矩形形状に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図10に示す変形例の半導体式ガス検知素子300のように、検知電極2が露出しているのであれば、感応部303を楕円形状などの矩形形状以外の形状に形成してもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、感応部を、基板の被支持部の中心線に対して対称形状となるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、感応部を、基板の被支持部の中心線に対して一方側に偏った非対称形状となるように形成してもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、感応部は検知電極の一部を覆うように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検知電極間に感応部を配置するように構成(検知電極を覆わないように構成)してもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、半導体式ガス検知素子によりメタンを被検知ガスとして検知した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、プロパンやブタンなどのメタン以外のガスを被検知ガスとして検知してもよい。この際、易燃性ガスは、プロパンやブタンよりも燃焼温度が低いガスとなる。
【0075】
また、上記実施形態では、感応部を、検知電極の表面(上面)の約70%を覆うように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被検知ガスを適切に検知可能であるならば、感応部を、検知電極の表面の70%よりも大きな範囲、または、70%よりも小さな範囲(0%を含む)を覆うように構成してもよい。ただし、感応部を、検知電極の表面の約50%〜90%を覆うように構成するのが好ましい。
【0076】
また、上記実施形態では、検出パターンを蛇行形状に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、検出パターンを櫛歯形状などの蛇行形状以外の形状に形成してもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、基板の被支持部を矩形形状に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、基板の被支持部を円形形状などの矩形形状以外の形状に形成してもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、感応部を基板の被支持部の中央部に配置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、感応部を環状に形成して、基板の被支持部の中央部を囲むように配置してもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、半導体式ガス検知素子を2端子式の構成(1つの検知電極に対してリード線を2つ設ける構成)とした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、半導体式ガス検知素子を4端子式の構成(2つの検知電極に対してそれぞれリード線を2つ設ける構成)などとしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、検知電極と、感応部を加熱するヒータ部とを一体的な構成(同一構成)とした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検知電極と、感応部を加熱するヒータ部とを別々の構成としてもよい。この場合、ヒータ部をガス燃焼手段として用いる。
【0081】
また、上記実施形態では、検知電極(露出部)により、易燃性ガスを燃焼除去するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ガス燃焼手段として、検知電極とは別の構成を設けて、易燃性ガスを燃焼除去してもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
2 検知電極
3、303 感応部
24 被覆部
25 露出部(ガス燃焼手段)
100、300 半導体式ガス検知素子
P 検知電極パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10