(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関を通過するように冷媒を循環させる循環経路上に設けられ、モータによって回転されるロータと、前記ロータの回転角度位置を検出するセンサとを有したロータリーバルブと、
前記センサにより検出された前記ロータの検出角度と前記ロータの回転角度位置の目標値である目標角度との偏差である角度偏差を検出する偏差検出部と、
前記モータへ印加される駆動信号のデューティ比の指令値に関する学習値を記憶する記憶部と、
前記角度偏差と、前記記憶部に記憶された前記学習値とに基づいて、前記指令値を算出する指令値算出部と、
算出された前記指令値に従って前記モータを駆動させる制御部と、
前記モータの駆動によって前記ロータが少なくとも一方向に回転を開始したことを検出する回転検出部と、
前記回転検出部により前記ロータの回転開始が検出される度に回転開始時点での前記指令値に基づいて前記学習値を算出する学習値算出部と、
前記記憶部に記憶された前記学習値を算出された前記学習値に更新する更新部と、内燃機関の冷却装置。
前記指令値算出部は、前記角度偏差に応じた比例項と、前記モータへの前記駆動信号の印加が開始されてからの時間経過と共に増大する積分項と、前記記憶部に記憶された前記学習値とに基づいて、前記指令値を算出する、請求項1又は2の内燃機関の冷却装置。
前記指令値算出部は、前記モータへの前記駆動信号の印加が開始されてから所定期間以上前記ロータの回転が検出されなかった場合には、前記モータが往復回転するように前記指令値を算出する、請求項1乃至3の何れかの内燃機関の冷却装置。
前記指令値算出部は、前記学習値が前記ロータの動摩擦力に対応するように前記学習値を減少させて、前記指令値を算出する、請求項1乃至5の何れかの内燃機関の冷却装置。
前記駆動信号が前記モータに印加されたことによって回転した前記ロータが前記目標角度を所定角度以上超えて回転した場合には、前記学習値を減少させる補正をして、前記記憶部に記憶された前記学習値を補正された前記学習値に更新する補正更新部を備えている、請求項1乃至6の何れかの内燃機関の冷却装置。
前記学習値算出部は、今回取得された前記回転開始時点での前記指令値と前回取得された前記回転開始時点での前記指令値とに基づいて、前記学習値を算出する、請求項1乃至7の何れかの内燃機関の冷却装置。
前記更新部は、前記循環経路に含まれ前記ロータリーバルブに接続され前記ロータの回転角度位置に応じて変更される流路の開度が所定値以下となる前記ロータの所定の回転角度範囲内に前記検出角度が属する場合には前記学習値を更新し、前記所定の回転角度範囲内に前記検出角度が属しない場合には前記学習値を更新しない、請求項1乃至8の何れかの内燃機関の冷却装置。
前記更新部は、前記内燃機関の機関回転速度が所定値以下の場合に前記学習値を更新し、前記機関回転速度が前記所定値を超えている場合に前記学習値を更新しない、請求項1乃至9の何れかの内燃機関の冷却装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、エンジン1の説明図である。エンジン1は、一対のバンク2L及び2Rをクランク軸の回りに適宜のバンク角だけ互いに傾けて配置したいわゆるV型エンジンである。バンク2L及び2Rのそれぞれには3つの気筒3が設けられている。気筒3には、気筒3内に燃料を噴射する燃料噴射弁4が設けられている。バンク2Lには吸気通路5L及び排気通路7Lが接続され、バンク2Rには吸気通路5R及び排気通路7Rがそれぞれ接続されている。吸気通路5L及び5Rは互いに独立し、排気通路7L及び7Rも少なくともそれぞれの上流側において互いに独立している。吸気通路5L及び5Rには、それぞれ、吸入空気量を調整するためのスロットル弁6L及び6Rが設けられている。エンジン1は、例えば車両等に搭載される内燃機関の一例である。
【0022】
また、
図1にはECU(Electronic Control Unit)90を記載している。ECU90は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びメモリ等を備える。ECU90は、ROMやメモリに記憶されたプログラムを実行することによりエンジン1を制御する。スロットル弁6L及び6Rの角度や燃料噴射弁4等の動作は、ECU90により制御される。また、ECU90には、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサS1、クランク角を検出するためのクランク角センサS2、後述する冷媒の温度を検出するための温度センサS3が電気的に接続されている。
【0023】
次に、エンジン1を冷却する冷却装置10について説明する。
図2は、冷却装置10の説明図である。冷却装置10では、エンジン1に形成されたブロックウォータジャケット22L及び22Rとヘッドウォータジャケット24L及び24Rを冷媒が流通することにより、エンジン1と冷媒の間で熱交換が行われてエンジン1が冷却される。尚、エンジン1のバンク2Lのシリンダブロック及びシリンダヘッドのそれぞれに、冷媒が流通するブロックウォータジャケット22L及びヘッドウォータジャケット24Lが形成されている。同様にバンク2Rのシリンダブロック及びシリンダヘッドのそれぞれに、ブロックウォータジャケット22R及びヘッドウォータジャケット24Rが形成されている。冷媒は、例えばLLC(Long Life Coolant)である。
【0024】
冷却装置10は、ラジエータ31、リザーブタンク32、ヒータコア33、ATF(Automatic Transmission Fluid)クーラ35、スロットルウォータジャケット36L及び36R、ウォーターポンプ37及び38、インレット39を備える。ウォーターポンプ37は、エンジン1の回転動力によって冷媒を搬送する機械式のポンプである。ウォーターポンプ37から搬送された冷媒は合流流路17から左右に互いに分岐した分岐流路18L及び18Rを介してそれぞれブロックウォータジャケット22L及び22R、ヘッドウォータジャケット24L及び24Rの順に供給される。ヘッドウォータジャケット24L及び24Rから排出された冷媒は、分岐流路18L及び18Rが互いに合流した合流流路14を介してロータリーバルブ40に供給される。ロータリーバルブ40には、ラジエータ流路11、ヒータコア流路13、及びATFクーラ流路15が接続されており、ロータリーバルブ40の後述するロータの回転角度位置に応じてラジエータ流路11、ヒータコア流路13、及びATFクーラ流路15の各開度が変更される。ロータリーバルブ40の駆動は、ECU90により制御される。詳しくは後述する。
【0025】
ラジエータ流路11は、ロータリーバルブ40とインレット39との間で接続され、途中にラジエータ31が設けられている。ラジエータ31では冷媒と外気との間で熱交換が行われ、冷媒の放熱が促進される。ラジエータ31から排出された冷媒は、ラジエータ流路11を介してインレット39に供給される。
【0026】
ラジエータ流路11のラジエータ31よりも上流側の部分で分岐し、ラジエータ流路11のラジエータ31よりも下流側の部分で再びラジエータ流路11に合流したリザーブタンク流路12が設けられている。リザーブタンク流路12の途中にはリザーブタンク32が設けられている。リザーブタンク32は、冷媒の温度や圧力の変化に伴う体積の変化分を吸収するために設けられている。
【0027】
ヒータコア流路13は、ロータリーバルブ40とインレット39との間で接続され、途中にヒータコア33が設けられている。ヒータコア33では、冷媒と車内暖房用空気との間で熱交換が行われる。
【0028】
ヒータコア流路13のヒータコア33よりも上流側の部分で分岐し、ヒータコア流路13のヒータコア33よりも下流側の部分で再びヒータコア流路13に合流したスロットル流路16が設けられている。スロットル流路16の途中には、上流側から順にスロットルウォータジャケット36R及び36Lが設けられている。スロットルウォータジャケット36Rは、スロットル弁6R内部に設けられており、スロットルウォータジャケット36Rで冷媒とスロットル弁6Rとの間で熱交換が行われてスロットル弁6Rが冷却される。同様にスロットルウォータジャケット36Lは、スロットル弁6L内部に設けられており、スロットルウォータジャケット36Lで冷媒とスロットル弁6Lとの間で熱交換が行われてスロットル弁6Rが冷却される。
【0029】
ヒータコア流路13のスロットル流路16と合流した地点よりも下流側にウォーターポンプ38が設けられている。ウォーターポンプ38は、ECU90によって制御される電動式のポンプであり、ヒータコア33とスロットルウォータジャケット36R及び36Lとを通過する冷媒の搬送を補助するために設けられている。従って、ウォーターポンプ37のみでも十分にヒータコア33やスロットルウォータジャケット36R及び36Lに冷媒を流通させることができる場合や、スロットルウォータジャケット36R及び36Lが設けられておらずにウォーターポンプ37のみでヒータコア33に十分な冷媒を流通させることができる場合には、ウォーターポンプ38が設けられていなくてもよい。
【0030】
ATFクーラ流路15はロータリーバルブ40と、ヒータコア流路13のウォーターポンプ38よりも下流側の部分との間に接続され、途中にATFクーラ35が設けられている。ATFクーラ35では、自動変速機の作動、潤滑、及び冷却のために用いられるATFと冷媒との間で熱交換されて、ATFが冷却される。
【0031】
上述したように、ラジエータ31やリザーブタンク32、ヒータコア33、ATFクーラ35を通過した後の冷媒は、インレット39に供給され、インレット39に供給された冷媒は、ウォーターポンプ37により合流流路17を介して再びエンジン1のブロックウォータジャケット22L及び22Rへと供給される。
【0032】
次に、ロータリーバルブ40について説明する。
図3は、ロータリーバルブ40の説明図である。ロータリーバルブ40は、ハウジング41、ハウジング41内に回転可能に収納されたロータ51、及びロータ51を回転駆動させるため駆動機構70を備えている。ハウジング41及びロータ51は合成樹脂製である。
【0033】
ハウジング41は、
図3において上端側に後述する底部が形成されており、下端側は解放した略筒状である。ハウジング41の上端側に、駆動機構70が固定されている。ハウジング41の下端部には導入口45が形成されており、エンジン1のヘッドウォータジャケット24L及び24Rを通過した冷媒が導入口45からハウジング41内に供給される。ハウジング41は、後述する回転軸59の軸心方向ADに並ぶように設けられた上段部41a及び下段部41bを有する。上段部41aは、軸心方向ADでの中央部が径方向外側に突出するように湾曲した略円筒状である。下段部41bも同様に、軸心方向ADでの中央部が径方向外側に突出するように湾曲した略円筒状である。上段部41aは、下段部41bよりも軸心方向ADに長く形成されている。駆動機構70は、上段部41a側に設けられている。換言すれば、上段部41aは導入口45から離れた側に位置し下段部41bは導入口45側に位置する。
【0034】
図3に示すように、上段部41aには、径方向外側に延びた排出部431が設けられている。同様に、下段部41bには、径方向外側に延びた排出部433及び435が設けられている。排出部431及び433の回転軸59周りの角度間隔は略90度であり、排出部433及び435の回転軸59周りの角度間隔も略90度であるがこれに限定されない。排出部431、433、及び435は、ロータ51の回転角度位置に応じて開閉される。このため、導入口45を介してハウジング41内に導入された冷媒は、ロータ51の回転角度位置に応じて、排出部431、433、及び435へ通過する流量が制御される。ここで、排出部431、433、及び435には、それぞれ上述したラジエータ流路11、ヒータコア流路13、及びATFクーラ流路15が接続される。このため、ロータ51の回転角度位置に応じて、ラジエータ31、ヒータコア33、及びATFクーラ35へ供給される冷媒の流量が制御される。尚、排出部431の内径は排出部433及び435のそれぞれよりも大きく、ラジエータ流路11の内径もヒータコア流路13及びATFクーラ流路15よりも大きい。
【0035】
駆動機構70は、ケース71、モータ72、ギア73〜76、及び角度センサ78を備えている。ケース71は、モータ72、ギア73〜76、及び角度センサ78を収納しており、ハウジング41の上端側に固定されている。モータ72は、ECU90によりその回転角度が制御される。ギア73はモータ72の回転軸に固定されている。ギア74及び75は、ケース71内で回転可能に支持されている。ギア74はギア73に噛み合っており、ギア75はギア74に噛み合っている。ギア76はギア75に噛み合っており、ギア76の中心に回転軸59が接続されている。このようにモータ72の動力がギア73〜76を介して回転軸59に伝達される。ロータ51は回転軸59と一体的に回転する。このため、モータ72によりロータ51が回転する。
【0036】
角度センサ78は、ギア76の回転角度位置を検出する非接触式のセンサである。具体的には、角度センサ78は、ギア76と共に回転する不図示の磁性体との相対位置により変化する磁束密度に応じて、ECU90への出力信号が変化する素子であり、例えばホール素子である。ここで、上述したようにギア76には回転軸59が接続されており、回転軸59はロータ51に接続されている。このためECU90は、角度センサ78の出力信号に基づいて、角度センサ78が検出するロータ51の検出角度を取得できる。尚、角度センサ78の代わりに、例えば回転軸59と共に回転するポテンショメータを採用してもよい。ポテンショメータによって回転軸59を介してロータ51の回転角度位置を検出することができるからである。また、角度センサ78の代わりに、モータ72の回転子の回転角度位置を検出するセンサを用いて、この回転子を検出することによりロータ51の角度を検出してもよい。
【0037】
尚、
図3においては、併せてECU90の機能ブロック図も示している。ECU90は、上述したCPU、ROM、RAM、及びメモリにより機能的に実現される偏差検出部91、記憶部92、指令値算出部93、制御部94、回転検出部95、学習値算出部96、更新部97及び補正更新部98によりロータリーバルブ40を制御する。これらについては詳しくは後述する。
【0038】
次に、ロータ51について説明する。
図4は、ロータ51の説明図である。ロータ51は、
図4において上端側にある上端面58が形成されており、下端側には導入口55が形成された略筒状である。上端面58側が駆動機構70側に位置し、導入口55が導入口45側となるようにロータ51はハウジング41内に収容される。このため、冷媒はエンジン1から導入口45及び55を介してロータ51内に導入される。尚、上端面58には詳しくは後述するがストッパ部58sが形成されている。
【0039】
ロータ51は、軸心方向ADに並んだ上段部51a及び下段部51bを有している。上段部51aは、軸心方向ADでの中央部が径方向外側に突出するように湾曲した略円筒状である。下段部51bも同様に、軸心方向ADでの中央部が径方向外側に突出するように湾曲した略円筒状である。上段部51aは、下段部51bよりも軸心方向ADに長く形成されている。ロータ51の上段部51a及び下段部51bは、それぞれ上述したハウジング41の上段部41a及び下段部41bの内側に位置して、類似した形状となっている。上段部51a及び下段部51bには、それぞれ周方向に延びた上段排出口531及び下段排出口533が形成されている。上段排出口531及び下段排出口533は、周方向の長さ、周方向での位置、及び軸心方向ADでの幅は互いに異なっている。具体的には、上段排出口531の周方向の長さは下段排出口533よりも短く、上段排出口531の軸心方向ADでの幅は下段排出口533よりも広い。
【0040】
図4には、シール部材61、63、及び65を示している。シール部材61、63、及び65は、それぞれ排出部431、433、及び435内でそれぞれの軸方向の所定範囲内を移動可能に配置されており、ロータ51側に付勢されている。シール部材61は、略円筒状の筒部611と、筒部611の上段部51a側の端部に筒部611よりも径が大きい略円環状のフランジ部613とを有している。フランジ部613の外径は、上段排出口531の軸心方向ADでの幅よりも若干大きく形成されており、フランジ部613が上段排出口531を介してロータ51内に挿入されないように形成されている。シール部材65も同様に、略円筒状の筒部651と、筒部651の下段部51b側の端部に筒部651よりも径が大きい略円環状のフランジ部653とを有している。フランジ部653の外径は、下段排出口533の軸心方向ADでの幅よりも若干大きく形成されており、フランジ部653が下段排出口533を介してロータ51内に挿入されないように形成されている。シール部材63も同様に、略円筒状の筒部631と、筒部631の下段部51b側の端部に筒部631よりも径が若干大きい不図示の略円環状のフランジ部が形成されている。このフランジ部の外径も、下段排出口533の軸心方向ADでの幅よりも大きく形成されており、フランジ部が下段排出口533を介してロータ51内に挿入されないように形成されている。
【0041】
ロータ51が回転すると、シール部材61のフランジ部613は上段部51aの外周側面上を摺動し、シール部材61と上段排出口531との相対角度位置が変更され、両者の重なる面積が変更される。このため、ロータ51の回転角度位置に応じて、ロータ51内からシール部材61及び排出部431を介してラジエータ31へ排出される冷媒の流量が変更される。同様に、ロータ51が回転すると、シール部材63のフランジ部及びシール部材65のフランジ部653は下段部51bの外周側面上を摺動し、下段排出口533と排出部433との相対角度位置が変更されて両者の重なる面積が変更され、下段排出口533と排出部435との相対角度位置が変更され両者の重なる面積が変更される。このため、ロータ51の回転角度位置に応じて、ロータ51内からシール部材63及び排出部433を介してヒータコア33へ排出される冷媒の流量が変更されると共に、シール部材65及び排出部435を介してATFクーラ35へ排出される冷媒の流量も変更される。
【0042】
また、筒部611の外周にはコイル状のコイルスプリング61sが巻回されている。コイルスプリング61sの一端は排出部431の内面側に固定され、他端はシール部材61のフランジ部613を上段部51aに向けて付勢している。このため、コイルスプリング61sの付勢力によりシール部材61のフランジ部613は常時上段部51aに押圧されている。これにより、上段部51aからシール部材61のフランジ部613が離間して、冷媒がこの隙間から漏れて排出部431から排出されるはずの冷媒の流量が低下することが抑制されている。同様に、筒部631の外周にはコイル状のコイルスプリング63sが巻回され、コイルスプリング63sの一端は排出部433の内面側に固定され、他端はシール部材63のフランジ部を下段部51bに向けて付勢している。筒部651の外周にはコイル状のコイルスプリング65sが巻回され、コイルスプリング65sの一端は排出部435の内面側に固定され、他端はフランジ部653を下段部51bに向けて付勢している。このため、下段部51bからシール部材63のフランジ部やシール部材65のフランジ部653が離間して、冷媒がこの隙間から漏れて排出部433や排出部435から排出されるはずの冷媒の流量が低下することが抑制されている。
【0043】
尚、ロータリーバルブ40が受ける冷媒からの圧力は、主にエンジン1の回転に連動した機械式のウォーターポンプ37に依存する。即ち、エンジン1が高速回転している場合にはロータリーバルブ40が受ける冷媒からの圧力も増大する。従ってコイルスプリング61s、63s、及び65sの付勢力は、エンジン1が高速回転しておりロータリーバルブ40が受ける冷媒の圧力が大きい場合であっても、ロータ51からシール部材61、63、及び65が離間しないように大きめに設定されている。
【0044】
次に、ロータ51の回転可能範囲について説明する。
図5Aは、ロータ51と回転軸59のみを示した斜視図である。上述したようにストッパ部58sは、回転軸59を中心とした略扇状であって上端面58上から突出して形成されている。
図5Bは、ハウジング41を導入口45側から見た図である。尚、
図5Bでは駆動機構70については省略している。ハウジング41の導入口45が形成された側と対向する内上面48には、回転軸59が貫通する貫通孔49の周辺に、貫通孔49を中心とした略扇状のストッパ部48sが内上面48から突出して形成されている。ハウジング41内にロータ51が収容された状態では、ストッパ部48s及び58sは周方向で対向する。このため、ロータ51が所定の角度範囲以上に一方向に回転すると、ストッパ部58sの一方の側面がストッパ部48sの一方の側面に当接して、それ以上のロータ51の回転が規制される。同様に、ロータ51が所定の角度範囲以上に他方向に回転すると、ストッパ部58sの他方の側面がストッパ部48sの他方の側面に当接して、それ以上のロータ51の回転が規制される。このようにしてロータ51の回転可能な範囲が規制される。尚、ロータ51の回転範囲を規制するストッパは、このような形状や位置に限定されない。また、例えばギア76及びケース71にそれぞれストッパ部を設けてロータ51の回転範囲を間接的に規制してもよい。
【0045】
図6は、ロータ51の回転角度に応じたラジエータ流路11、ヒータコア流路13、及びATFクーラ流路15の開閉状態を示したグラフである。
図6には、上述したストッパ部48s及び58sにより規制されるロータ51の回転可能な角度範囲である角度αSから角度(−βS)までを示している。ロータ51の回転の基準となる角度を角度0度とする。
図6において角度0度から右側に進むほど、ロータ51は軸心方向ADの上端面58側から見た場合にロータ51が反時計方向に回転する場合を示している。
図6において角度0度から左側に進むほど、ロータ51は軸心方向ADの上端面58側から見た場合にロータ51が時計方向に回転する場合を示している。また、角度0度から反時計方向に回転した場合でのロータ51の角度を正の値で示し、角度0度から時計方向に回転した場合でのロータ51の角度を負の値で示す。更に
図6では、角度0度から反時計方向に回転した際のロータ51の角度α1から角度αSまでを示し、角度0度から時計方向に回転した際のロータ51の角度(−β1)から角度(−βS)までを示している。角度α1から角度αSは正の値であり、角度(−β1)から角度(−βS)は負の値である。尚、本明細書では、ロータ51が上述した反時計方向に回転することを正回転すると称し、時計方向に回転することを逆回転すると称する。
【0046】
図7A〜
図7Eは、ロータ51の角度に応じた、シール部材61、63、及び65の開閉状態を示した模式的な断面図である。
図7A〜
図7Eのそれぞれの上段ではシール部材61の開閉状態を示し、下段ではシール部材63及び65の開閉状態を示している。
図7Aは角度(−βS)から角度(−β4)までの範囲での開閉状態を示し、
図7Bは角度(−β1)から角度α1までの範囲での開閉状態を示し、
図7Cは角度α2〜角度α3の範囲での開閉状態を示し、
図7Dは角度α4〜角度α5の範囲での開閉状態を示し、
図7Eは角度α5〜角度α6の範囲での開閉状態を示している。
【0047】
角度0度を挟むように角度(−β1)から角度α1までの範囲では、
図7Bに示すようにシール部材61は上段部51aの外周側面により全閉にされ、シール部材63及び65は下段部51bの外周側面により全閉にされる。即ち、ラジエータ流路11、ヒータコア流路13、及びATFクーラ流路15へは全閉となり、ロータリーバルブ40からこれらの流路へは冷媒は排出されない。
【0048】
角度α1からロータ51が正回転すると、下段排出口533がシール部材63に重なり始めヒータコア流路13の角度が徐々に増大し、角度α2で下段排出口533がシール部材63に完全に重なりヒータコア流路13は全開となる。また、角度α1から角度α2までの範囲では、シール部材61及び65はそれぞれ上段部51a及び下段部51bの外周側面により全閉に維持される。従って、角度α1から角度α2までの範囲では、ロータ51が正回転するほどヒータコア流路13の開度のみが増大し、ロータ51が逆回転するほどヒータコア流路13の開度のみが減少する。
【0049】
角度α2から角度α3までの範囲では、
図7Cに示すようにシール部材63は全開であり、シール部材61及び65はそれぞれ上段部51a及び下段部51bの外周側面により全閉に維持される。即ち、角度α2〜角度α3の範囲では、ロータ51の回転角度位置によらずにヒータコア流路13のみが全開であり、ラジエータ流路11及びATFクーラ流路15は全閉に維持される。
【0050】
角度α3からロータ51が正回転すると、下段排出口533がシール部材65に重なり始めATFクーラ流路15の角度が徐々に増大し、角度α4で下段排出口533はシール部材65に完全に重なりATFクーラ流路15は全開となる。また、角度α3から角度α4までの範囲では、シール部材61は上段部51aの外周側面により全閉に維持される。従って、角度α3から角度α4までの範囲では、ヒータコア流路13が全開の状態で、ロータ51が正回転するほどATFクーラ流路15の角度のみが増大し、ロータ51が逆回転するほどATFクーラ流路15の角度のみが減少する。
【0051】
角度α4から角度α5までの範囲では、
図7Dに示すようにシール部材63及び65は全開であり、シール部材61は上段部51aの外周側面により全閉に維持される。即ち、角度α4〜角度α5の範囲では、ロータ51の回転角度位置によらずにヒータコア流路13及びATFクーラ流路15は全開であり、ラジエータ流路11は全閉に維持される。
【0052】
角度α5からロータ51が正回転すると、上段排出口531がシール部材61に重なり始めラジエータ流路11の角度が徐々に増大し、角度α6で上段排出口531はシール部材61に完全に重なりラジエータ流路11は全開となる。また、角度α5から角度α6までの範囲では、
図7Eに示すようにシール部材63及び65は全開に維持される。従って、角度α5から角度α6までの範囲では、ヒータコア流路13及びATFクーラ流路15が全開の状態で、ロータ51が正回転するほどラジエータ流路11の角度のみが増大し、ロータ51が逆回転するほどラジエータ流路11の角度のみが減少する。尚、角度α5から角度α6までの間には角度αTが設定されているが、詳しくは後述する。
【0053】
角度α6から角度αSまでの範囲では、上段排出口531がシール部材61に完全に重なり、下段排出口533はシール部材63及び65に完全に重なり、ラジエータ流路11、ヒータコア流路13、及びATFクーラ流路15は全開に維持される。上述したように、角度αSは、上述したストッパ部58s及び48sにより規制されるロータ51の回転可能範囲の一端での角度である。
【0054】
角度(−β1)からロータ51が逆回転すると、下段排出口533がシール部材65に重なり始めATFクーラ流路15の角度が徐々に増大し、角度(−β2)で下段排出口533は完全にシール部材65に重なりATFクーラ流路15は全開となる。また、角度(−β1)から角度(−β2)までの範囲では、シール部材61及び63はそれぞれ上段部51a及び下段部51bの外周側面により全閉に維持される。従って角度(−β1)から角度(−β2)までの範囲では、ラジエータ流路11及びヒータコア流路13が全閉の状態で、ロータ51が逆回転するほどATFクーラ流路15の角度が増大し、ロータ51が正回転するほどATFクーラ流路15の角度は減少する。
【0055】
角度(−β2)から角度(−β3)までの範囲では、シール部材65は全開であり、シール部材61及び63はそれぞれ上段部51a及び下段部51bの外周側面により全閉に維持される。即ち、角度(−β2)から角度(−β3)までの範囲では、ロータ51の回転角度位置によらずにATFクーラ流路15のみが全開でありラジエータ流路11及びヒータコア流路13は全閉に維持される。
【0056】
角度(−β3)からロータ51が逆回転すると、上段排出口531がシール部材61に徐々に重なり始めラジエータ流路11の角度が徐々に増大し、角度(−β4)で上段排出口531はシール部材61に完全に重なりラジエータ流路11は全開となる。また、角度(−β3)から角度(−β4)までの範囲では、シール部材63は下段部51bの外周側面により全閉に維持され、シール部材65は全開に維持される。従って、角度(−β3)から角度(−β4)までの範囲では、ヒータコア流路13が全閉でATFクーラ流路15が全開の状態で、ロータ51が逆回転するほどラジエータ流路11の角度のみが増大し、ロータ51が正回転するほどラジエータ流路11の角度のみが減少する。尚、角度(−β3)から角度(−β4)までの間には角度(−βT)角度が設定されているが、詳しくは後述する。
【0057】
角度(−β4)から角度(−βS)までの範囲では、
図7Aに示すようにシール部材61及びシール部材65は全開であり、シール部材63は下段部51bの外周側面により全閉に維持される。即ち、角度(−β4)から角度(−βS)までの範囲では、ロータ51の回転角度位置によらずにラジエータ流路11及びATFクーラ流路15は全開に維持されヒータコア流路13は全閉に維持される。上述したように角度(−βS)は、上述したストッパ部58s及び48sにより規制されるロータ51の回転可能範囲の他端での角度である。尚、ロータ51の回転角度位置は、後述するロータ51の目標角度に到達するように制御されるが、この目標角度は角度αS及び角度(−βS)には設定されずに、それらの角度αS未満から角度(−βS)未満の間で設定される。
【0058】
次に、ロータ51の回転の制御について説明する。ECU90は、モータ72に印加する駆動信号のデューティ比の指令値を制御することにより、ロータ51の回転を制御する。上記の指令値は、具体的には比例項、積分項、及び後述する学習値に基づいて算出される。比例項は、ロータ51の回転角度位置の目標値である目標角度からロータ51の検出角度を減算した角度偏差に応じている。検出角度は、上述したように角度センサ78により検出される。積分項については、詳しくは後述する。
【0059】
学習値は、駆動信号のデューティ比に関する値である。具体的には、ECU90は、モータ72に駆動信号の印加を開始してからロータ51が回転を開始した時点でのデューティ比の指令値に基づいて、学習値を算出する。この理由について説明する。
【0060】
上述したように、ロータ51にはコイルスプリング61s、63s、及び65sによりそれぞれシール部材61、63、及び65が押圧されており、これらはロータ51の回転抵抗が増大する要因の一つである。このようなロータ51の回転抵抗を考慮して、上述したモータ72への駆動信号のデューティ比を予め増大させておくことが考えられる。しかしながら、駆動信号のデューティ比が大きすぎると、ロータ51が目標回転位置を超えて回転する可能性がある。従って、ロータ51を回転させるときには、モータ72への駆動信号の印加を開始してからそのデューティ比を徐々に増大させるように制御することも考えられる。この場合、モータ72への駆動信号の印加を開始した時点での駆動信号のデューティ比が小さすぎると、駆動信号の印加を開始してからロータ51が実際に回転を開始するまでの期間が長くなる可能性がある。このため、ロータ51が回転を開始しないにもかわらずモータ72への駆動信号が印加されている期間が長くなり、電力消費量が増大する可能性上がる。このように、モータ72への駆動信号のデューティ比の指令値は、大きすぎでも小さすぎても問題が起こる可能性がある。
【0061】
更に、ロータ51を回転させるのに適したモータ72への駆動信号のデューティ比は、経年変化により異なってくる可能性もある。例えば、経年変化により、シール部材61のフランジ部613や、シール部材63のフランジ部、シール部材65のフランジ部653、上段部51a及び下段部51bが摩耗してロータ51の回転抵抗が低下する可能性がある。また、経年変化によりコイルスプリング61s、63s、及び65sの付勢力が低下して、これによってもロータ51の回転抵抗が低下する可能性がある。更に、モータ72の動作特性やギア73〜76や回転軸59の回転特性も経変変化により変化する可能性がある。
【0062】
そこで本実施例では、実際にロータ51が回転を開始した時点でのデューティ比の指令値に基づいて学習値が算出、更新され、この学習値に基づいてロータ51を回転させるのに最適な駆動信号のデューティ比の指令値が算出される。
【0063】
また、本実施例では、所定条件下でロータ51の回転の開始が検出される度に学習値が算出、更新され、新たに算出された学習値の更新の頻度が確保されている。この理由は以下による。ロータ51を回転させるのに適したモータ72への駆動信号のデューティ比は、複数の要因によって異なる可能性がある。複数の要因とは、例えばロータ51が受ける冷媒からの圧力や、モータ72への駆動信号の印加が開始される時点でのロータ51の回転角度位置等である。
【0064】
例えば、上述したようにエンジン1が高速回転している場合には、ロータリーバルブ40に導入される冷媒の流量が増大してロータ51が受ける冷媒からの圧力も増大する。これに対してエンジン1が低速回転している場合には、ロータリーバルブ40に導入される冷媒の流量も低下してロータ51が受ける冷媒からの圧力も低下する。このため、ロータ51が受ける冷媒から圧力の変化に応じてロータ51の回転抵抗も変化し、ロータ51を回転させるのに適したモータ72への駆動信号のデューティ比も異なると考えられる。
【0065】
また、モータ72への駆動信号の印加が開始される時点でのロータ51の回転位置に応じて、ロータ51の回転抵抗も異なる。例えば、シール部材61が上段部51aの外周側面により全閉となった状態では、シール部材61のフランジ部613と上段部51aの外周側面との接触面積は大きく、シール部材61に起因したロータ51の回転抵抗は大きい。一方、シール部材61が上段排出口531に重なってラジエータ流路11が全開となった状態では、シール部材61のフランジ部613と上段部51aの外周側面との接触面積は小さく、シール部材61に起因したロータ51の回転抵抗は小さい。同様に、シール部材63が下段部51bの外周側面により全閉となった状態では、シール部材63のフランジ部と下段部51bの外周側面との接触面積は大きく、シール部材63に起因したロータ51の回転抵抗は大きい。一方、シール部材63が下段排出口533に重なってヒータコア流路13が全開となった状態では、シール部材63のフランジ部と下段部51bの外周側面との接触面積は小さく、シール部材63に起因したロータ51の回転抵抗は小さい。更に、シール部材65が下段部51bの外周側面により全閉となった状態では、シール部材65のフランジ部653と下段部51bの外周側面との接触面積は大きく、シール部材65に起因したロータ51の回転抵抗は大きい。一方、シール部材65が下段排出口533に重なってATFクーラ流路15が全開となった状態では、シール部材65のフランジ部653と下段部51bの外周側面との接触面積は小さく、シール部材65に起因したロータ51の回転抵抗は小さい。このようにモータ72へ駆動信号の印加される時点でのロータ51の回転角度位置に応じて、ロータ51を回転させるのに適したモータ72への駆動信号のデューティ比は異なる。
【0066】
以上のように、これらの要因によるロータ51の回転抵抗への影響の度合いは、エンジン1の駆動中に常時変化し得るものである。このため、エンジン1の駆動中においては、モータ72に印加される駆動信号のデューティ比の最適な指令値を決定する観点からは、学習値が更新される頻度は多い方が好ましい。
【0067】
特に本実施例では、ギア73〜76やロータ51は合成樹脂製であり、これらが金属製の場合よりも軽量化されている。また、ロータ51は合成樹脂製であるため、例えばアルミの削り出しにより作成されたロータと比較して、表面の粗さが小さく、シール部材61、63、及び65との間の摩擦抵抗も小さい。このためロータ51の回転抵抗は、ロータ51が受ける冷媒からの圧力やロータ51の実際の回転角度位置等による影響を受けやすい。従って学習値の更新の頻度が少ないと、冷媒の流量の変化やロータ51の実際の回転角度位置の変化に対応できず、適切にロータ51を回転させることができない可能性がある。このため本実施例では、学習値の更新の頻度が確保されている。
【0068】
次に、ECU90が実行するロータリーバルブ40の制御の一例について説明する。
図8は、ECU90が実行するロータリーバルブ40の制御の一例を示したフローチャートである。尚、この制御は所定時間毎に繰り返し実行される。
【0069】
最初にロータ51の目標角度からロータ51の検出角度を減算した値である角度偏差の絶対値が、γ以上であるか否かが判定される(ステップS1)。γは正の値の角度であり、例えば0.3〜0.7度程度までの範囲内での所定の角度である。上記のステップS1で肯定判定の場合には、詳しくは後述するがロータ51の角度が目標角度に到達するようにモータ72が駆動される。尚、ロータ51の目標角度は、ECU90によりエンジン1の回転速度や負荷、車内の暖房要求に応じて算出される。ここで、角度偏差自体は、上述したように正の値又は負の値をとる。角度偏差が正の値となる場合は、
図6において目標角度がロータ51の実際の角度よりも右側に位置する状態である。角度偏差が負の値となる場合は、
図6において目標角度がロータ51の実際の角度よりも左側に位置する状態である。ステップS1で否定判定の場合には、ロータ51の角度は目標角度に到達しているものとみなされ、本制御は終了する。ステップS1の処理は、角度センサ78により検出されたロータ51の検出角度とロータ51の回転角度位置の目標値である目標角度との偏差である角度偏差を検出する偏差検出部91が実行する処理の一例である。
【0070】
ステップS1で肯定判定の場合には、ロータ51の角度が目標角度に到達するようにロータ51を回転させるための、モータ72へ印加される駆動信号のデューティ比の指令値[%]が算出される(ステップS3)。指令値は、ロータ51の回転方向別に算出される。具体的には、上述した角度偏差が正の場合にはロータ51が正回転するように指令値も正の値として算出され、角度偏差が負の場合にはロータ51が逆回転するように指令値も負の値として算出される。指令値は以下の式(1)により算出される。
指令値=学習値×係数K+比例項+積分項…(1)
【0071】
ここで学習値[%]とは、ECU90のRAMに記憶されている学習値である。この学習値も、ロータ51の回転方向別にECU90のRAMに記憶されている。具体的には、角度偏差が正の場合には正の値として記憶された学習値が用いられ、角度偏差が負の場合には負の値として記憶された学習値が用いられる。学習値は、ロータ51の回転が開始した回転開始時点での指令値に基づいて算出され、RAMに記憶される。学習値及び係数Kについては、詳しくは後述する。ECU90のRAMは、モータ72へ印加される駆動信号のデューティ比の指令値に関する学習値を記憶する記憶部92の一例である。
【0072】
比例項[%]は、目標角度から検出角度を減算して得られる角度偏差に応じて定められたマップに基づいて算出される。このマップは、ECU90のRAMに記憶されている。
図9Aは、比例項を算出するためのマップを示した図である。横軸は角度偏差を示し、縦軸は比例項を示している。角度偏差が正の場合には比例項は正の値として算出され、角度偏差が負の場合には比例項は負の値として算出される。このマップでは、角度偏差の絶対値が減少するほど、比例項の絶対値も減少するように規定されている。尚、比例項の算出は、上記のようなマップに限られず数式により算出してもよい。
【0073】
積分項[%]は、所定の固定値を時間的に積分した積分値に、所定の積分ゲインを乗算した値である。角度偏差が正であれば積分ゲインは正の値であり、角度偏差が負であれば積分ゲインは負の値が用いられる。これにより、角度偏差が正であれば積分項も正の値として算出され、角度偏差が負であれば積分項も負の値として算出される。尚、積分ゲインを角度偏差の正負によらずに正の値とし、時間積分される固定値を、角度偏差が正であれば正の値とし角度偏差が負であれば負の値とした絶対値が同じ値であってもよい。積分項の詳細についても後述する。ステップS3の処理は、角度偏差と、RAMに記憶された学習値とに基づいて指令値を算出する指令値算出部93が実行する処理の一例である。
【0074】
次に、算出された指令値に対してガード処理が実行される(ステップS5)。具体的には、ガード処理により指令値は以下のように制限される。指令値が上限ガード値以上の場合には、指令値は上限ガード値に制限される。指令値が下限ガード値以下の場合には、指令値は下限ガード値に制限される。算出された指令値が上限ガード値と下限ガード値との間にある場合には、指令値は制限されない。ここで、上限ガード値は正の値であり下限ガード値は負の値である。このようなガード処理により、指令値の絶対値が極端に大きい場合には指令値が上限ガード値又は下限ガード値に制限される。これにより、例えばギア73〜76に大きな負荷が加わることが抑制され、これらの耐久性の低下などが抑制される。
【0075】
尚、上記のガード処理では、以下に説明する何れかの条件を充足する場合には、充足しない場合と比較して、上限ガード値の絶対値及び下限ガード値の絶対値を減少補正するガード値減少補正が実行される。具体的には、ストッパ部58s及び48s同士が近接している場合に、ガード値減少補正が実行される。ストッパ部58s及び48s同士が近接している場合でデューティ比の指令値が大きいと、ロータ51が回転してストッパ部58sがストッパ部48sに大きな力で衝突し、衝突音が増大してストッパ部58s及び48sの耐久性も低下する可能性がある。このため、この場合にガード値減少補正が実行されることにより、デューティ比の指令値がより制限される。具体的には、ロータ51の検出角度と角度αSとの差分の大きさが所定値以下の場合には、ストッパ部58s及び48s同士が近接しているとして、上限ガード値がより小さい値に補正される。また、ロータ51の検出角度と角度(−βS)との差分の大きさが所定値以下の場合には、ストッパ部58s及び48s同士が近接しているとして、下限ガード値の絶対値がより小さい値に補正される。また、ロータ51の回転速度が速い場合にもガード値減少補正が実行される。ロータ51の回転速度が速いと、ギア73〜76に大きな負荷が加わり耐久性の低下する可能性があり、回転速度が速すぎでストッパ部58sがストッパ部48sに衝突する可能性があるからである。従って、ロータ51の回転速度が所定値以上の場合にガード値減少補正が実行されることにより、ロータ51の回転速度を制限して、ギア73〜76やストッパ部58s及び48sの耐久性の低下を抑制する。具体的には、角度センサ78の出力信号に基づいて検出されたロータ51の回転速度が所定値以上の場合には、ガード値減少補正が実行される。また、冷媒の温度が低い場合にもガード値減少補正が実行される。冷媒の温度が低い場合には、回転軸59の回転を支持する含油メタル軸受の潤滑油の粘性が大きくなり、回転軸59の外周面と軸受の内周面との当接面に潤滑油が十分に供給されずに、モータ72の回転に伴って回転軸59と軸受との接触音が増大する可能性がある。このような場合にガード値減少補正が実行されることにより、ロータ51の回転速度が低下され、接触音の増大が抑制される。具体的には、温度センサS3に基づいて検出され冷媒の温度が所定値よりも低い場合に、ガード値減少補正が実行される。
【0076】
次に、ガード処理後の指令値でのデューティ比の駆動信号が、モータ72に印加される(ステップS7)。これにより、モータ72が回転しようとする。ステップS7の処理は、算出された指令値に従ってモータ72を駆動させる制御部94が実行する処理の一例である。次に、角度偏差の絶対値がδ以下を満たすか否かが判定される(ステップS9)。δは上述したγよりも小さい正の値の角度であり、例えば0.1〜0.4度程度までの間の所定の角度である。ステップS9で肯定判定の場合については後述する。
【0077】
ステップS9で否定判定の場合には、ロータ51の回転が検出されたか否かが判定される(ステップS11)。具体的には、モータ72に駆動信号の印加が開始されてから、角度センサ78の出力信号に基づいてロータ51が回転したことが検出されたか否かが判定される。詳細には、所定期間内でのロータ51が回転した角度が所定値以上となった場合に、即ち、ロータ51の角度変化率が所定値以上となった場合に、ロータ51が回転したものと検出される。ステップS11で否定判定の場合については後述する。ステップS11の処理は、モータ72の駆動によってロータ51が少なくとも一方向に回転を開始したことを検出する回転検出部95が実行する処理の一例である。尚、上記の「モータ72の駆動によって」とは、モータ72に駆動信号が印加されていないにもかかわらず、冷媒の圧力やエンジン1の振動等に起因してロータ51が回転した場合を除外する趣旨である。
【0078】
ステップS11で肯定判定の場合には、ロータ51の検出角度が角度αTから角度(−βT)の範囲内に属するか否かが判定される(ステップS13)。角度αTは、
図6に示したようにラジエータ流路11が開き始める角度α5からラジエータ流路11が全開となる角度α6までの間である。角度(−βT)は、ラジエータ流路11が開き始める角度(−β3)からラジエータ流路11が全開となる角度(−β4)までの間である。
【0079】
ここで、上述したようにラジエータ流路11の内径もヒータコア流路13及びATFクーラ流路15のそれぞれよりも大きいため、これらの流路が全て全開の場合に各流路に流れる冷媒の流量は、ラジエータ流路11での流量が最も大きい。このため、ロータ51の検出角度が角度αTから角度αSの間では、ラジエータ流路11が全開となるようにロータ51を正回転させようとする冷媒の圧力が大きく増大する。同様に、ロータ51の検出角度が角度(−βT)から角度(−βS)の間では、ラジエータ流路11が全開となるようにロータ51を逆回転させようとする冷媒の圧力が増大する。従って、ロータ51の検出角度が角度αTから角度(−βT)までの範囲内に属しない場合には、ロータ51の回転開始時点での指令値が安定しない可能性がある。このためステップS13で否定判定の場合には、後述する指令値に基づく学習値の算出や更新は実行されずに、再度ステップS3以降の処理が実行されて指令値が再度算出される。これにより、ロータ51の回転開始時点での指令値の信頼性が確保され、この指令値に基づいて算出、更新される学習値の信頼性も確保される。また、本実施例のようにロータ51の回転角度位置に応じて変更される流路が複数ある場合には、複数の流路のうち最も内径が大きいラジエータ流路11の開度が所定値以下となる場合に、学習値の算出や更新が行われる。角度αTから角度(−βT)は、ロータ51の回転角度位置に応じて変更されるラジエータ流路11の開度が所定値以下となるロータ51の回転角度範囲内の一例である。
【0080】
ステップS13で肯定判定の場合には、エンジン1の回転速度が2500rpm以下であるか否かが判定される(ステップS15)。エンジン1の回転速度が2500rpmを超えた高速回転状態の場合には、エンジン1の振動が増大し、ロータリーバルブ40に振動が伝達しやすい状態にある。ここでロータリーバルブ40に伝達する振動が大きい場合には、小さい場合と比較して、小さいトルクでロータ51が回転することが考えられる。ロータリーバルブ40に伝達する振動が大きいと、ロータ51やシール部材61、63、及び65も振動して、シール部材61、63、及び65に対するロータ51の回転の摩擦抵抗が小さくなると考えられるからである。このため、ロータリーバルブ40に伝達される振動以外の条件が同一であっても、ロータリーバルブ40に伝達される振動が大きい場合には、小さい場合よりもロータ51の回転開始時点での指令値は小さくなる可能性があり、ロータ51の回転開始時点での指令値が安定しない可能性がある。このためステップS15で否定判定の場合には、後述する指令値に基づく学習値の算出や更新は行われず、再度ステップS3以降の処理が実行されて指令値が算出される。ステップS15で肯定判定の場合に、指令値に基づく学習値の算出や更新が行われる。これにより、ロータ51の回転開始時点での指令値の信頼性が確保され、この指令値に基づいて算出、更新される学習値の信頼性も確保される。尚、エンジン1の回転速度は、クランク角センサS2からの出力信号に基づいて判断される。また、回転速度は2500rpmに限定されない。
【0081】
ステップS13又はS15で否定判定がなされた後に再度実行されるステップS3の処理では、前回ステップS3が実行されてから今回ステップS3が実行されるまでの期間中に角度偏差が減少している場合には、比例項の絶対値は減少するように算出される。また、積分項の絶対値は駆動信号の印加が開始されてからの経過時間によって増大するように算出される。ここで、比例項の絶対値の減少分よりも積分項の絶対値の増大分の方が大きくなるように比例ゲイン及び積分ゲインが設定されているため、算出される指令値は時間経過と共に増大する。
【0082】
ステップS15で肯定判定の場合には、新たな学習値の算出が実行される(ステップS17)。具体的には、以下のようにして行われる。モータ72への駆動信号の印加が開始されてから、上述したようにロータ51が回転を開始した時点でのモータ72への駆動信号の指令値、即ち、ロータ51が回転を開始した時点での駆動信号のデューティ比が取得される。次に、取得されたロータ51の回転開始時点での指令値に基づいて、新たな学習値が算出される。ステップS17の処理は、回転検出部95によりロータ51の回転開始が検出される度に回転開始時点での指令値に基づいて学習値を算出する学習値算出部96が実行する処理の一例である。
【0083】
この学習値は、具体的には、以下の式(2)により算出される。
学習値=前回学習値+(今回指令値―前回指令値)÷係数M…(2)
今回指令値とは、今回の回転開始時点での指令値であり、直近に取得された指令値である。前回指令値とは、前回の回転開始時点での指令値であり、今回の回転開始時点での指令値よりも1回前に取得されたロータ51の回転開始時点での指令値である。前回学習値とは、現時点でECU90のRAMに既に記憶されている学習値であり、直近に更新された学習値である。係数Mは、本実施例では2である。
【0084】
学習値は、式(2)に示すように、今回指令値から前回指令値を減算した値を2である係数Mで除算した値に、前回学習値を加算した値として算出される。ここで、今回指令値から前回指令値を減算した値は、今回指令値と前回指令値との変化分を示している。この変化分を2で除算した値が前回学習値に加算されている。即ち、指令値の変化分に対してなまし処理が実行され、実際の変化分よりも小さい変化分が今回算出される学習値に反映される。例えば、車両の振動などの外乱の影響により今回指令値が前回指令値から大きく異なっている場合が考えられる。このような場合に実際の変化分を学習値に反映させると、外乱の影響が学習値に大きく反映され、学習値の信頼性が低下する可能性がある。よって本実施例では、上述のように実際の変化分に対してなまし処理が実行され、このなまし値に基づいて新たな学習値が算出される。このため、学習値に対する外乱の影響が抑制されて学習値の信頼性が確保される。尚、本実施例では係数Mは2であるが、これ以外の1を超えた実数であってもよい。
【0085】
学習値の算出は、上述したようにロータ51の回転方向別に実行される。このため、上記の前回学習値、今回指令値、及び前回指令値は、回転方向別にECU90のRAMに記憶されている。例えばロータ51が正回転するように駆動信号がモータ72に印加されてロータ51の正方向での回転開始時点での今回指令値が取得された場合には、この今回指令値と、以前に正回転した際に更新された前回学習値及び取得された前回指令値とに基づいて学習値が算出される。同様に、ロータ51が逆回転するように駆動信号がモータ72に印加されてロータ51の逆方向での回転開始時点での今回指令値が取得された場合には、この今回指令値と、以前に逆回転した際に更新された前回学習値及び取得された前回指令値とに基づいて学習値が算出される。
【0086】
このようにして新たに算出された学習値が、ECU90のRAMに既に記憶されている学習値に対して更新される(ステップS19)。この場合も、ロータ51の回転方向別に学習値が更新される。例えばロータ51が正回転するようにモータ72に駆動信号が印加された場合には、正回転した場合での前回学習値に対して今回算出された学習値が更新される。同様に、ロータ51が逆回転するようにモータ72に駆動信号が印加された場合には、正回転した場合での前回学習値に対して今回算出された学習値が更新される。このように所定の条件下でロータ51の回転開始が検出される度に新たな学習値が算出、更新されるため、学習値の更新頻度が確保されている。このため、後述するように新たな学習値に基づいて再度指令値が算出され、現状に適した指令値が算出される。ステップS19の処理は、ECU90のRAMに記憶された学習値を算出された学習値に更新する更新部97が実行する処理の一例である。
【0087】
次に、新たに更新された学習値に基づいて、式(1)に基づいて指令値が再度算出される(ステップS3)。上述した式(1)を再度以下に記載する。
指令値=学習値×係数K+比例項+積分項…(1)
尚、ロータ51の回転開始の検出後に算出、更新された新たな学習値に基づいて再度指令値が算出される場合には、積分項の積分値は再度0%にリセットされる。
【0088】
ここで係数Kは、ステップS17で算出された最大静止摩擦力相当が反映された学習値を、最大静止摩擦力よりも小さい動摩擦力相当が反映された学習値に変換するための係数である。具体的には、係数Kは0よりも大きく1よりも小さい値である。ステップS17で算出された学習値は、上述したようにロータ51の回転開始時点での指令値に基づいて算出されている。ここで、ロータ51の回転開始時点での指令値は、ロータ51の回転力がロータ51の最大静止摩擦力を越えた時点での指令値とみなすことができる。このため、ステップS17で新たに算出された学習値には、最大静止摩擦力相当が反映されているとみなすことができる。これに対して、ロータ51の回転開始の検出後は、最大静止摩擦力よりも小さい動摩擦力を越えていればロータ51は回転を継続できる。例えば、ロータ51の回転開始の検出後に最大静止摩擦力相当が反映された学習値を用いて再度指令値を算出すると、再度算出された指令値が大きすぎてロータ51が目標角度を超えて回転する可能性がある。本実施例では、最大静止摩擦力相当が反映された学習値に係数Kが乗算して、最大静止摩擦力よりも小さい動摩擦力相当が反映された学習値に変換することにより、ロータ51の回転開始の検出後にロータ51が目標角度を超えて回転することを抑制している。
【0089】
尚、係数Kは、予め実験に取得されマップ又は算出式に基づいて、ロータ51の検出角度及びエンジン1の回転速度に応じて異なる値に設定される。上述したようにロータ51の角度に応じてシール部材61、63、及び65とロータ51との接触面積は異なっており、最大静止摩擦力及び動摩擦力も異なっているからである。また、係数Kはエンジン1の回転速度が高いほど小さい値に設定される。エンジン1の回転速度が高いほどエンジン1の振動がロータリーバルブ40に伝達されやすくなり、ステップS17で算出された学習値の信頼性が低下する。このため指令値が当初から大きくなりすぎることを抑制するために、係数Kは小さい値に設定される。
【0090】
以上のように、所定の条件下でロータ51の回転開始時での指令値に基づいて新たな学習値が算出、更新され、再度ステップS3以降の処理が実行される。ここで、上述した式(1)の積分項の積分値について更に説明する。一般的な比例積分制御では、角度偏差を時間積分した値を積分値として用いるが、本実施例での積分項での積分値は、一般的な積分値とは異なり、所定の固定値を時間積分した値を用いる。この理由は以下による。
【0091】
上述したように、目標角度はエンジン1の運転状態等に応じて異なる値に設定されるため、角度偏差も目標角度に応じて異なる値をとる。従って一般的な比例積分制御では、角度偏差が正の値であって比較的大きい場合には積分値の経過時間に対する増大率は比較的大きいが、角度偏差が正の値であって比較的小さい場合には積分値の増大率も比較的小さい。即ち、一般的な比例積分制御では積分値の時間変化率は一定ではなく角度偏差に応じて大きく異なり、このため積分項も角度偏差に応じて大きく異なることになる。
【0092】
上記のように積分項の時間変化率が一定ではないとすると、目標角度のみが異なり検出角度などの他の条件が同一の場合であっても、角度偏差は異なり、積分項の時間変化率も大きく異なる可能性がある。これに起因して、ロータ51の回転開始時点での指令値も大きく異なっている可能性がある。即ち、ロータ51の回転開始時点での指令値が目標角度によって異なることになり、ロータ51の回転開始時点での指令値の信頼性が損なわれる可能性がある。従って本実施例での積分項での積分値は、一般的な積分値とは異なり、所定の固定値を時間積分した値が用いられる。このため、積分項の時間変化率は一定である。これにより、ロータ51の回転開始時点での指令値が目標角度によって大きく異なることが抑制される。よって、ロータ51の回転開始時点での指令値の信頼性が確保され、この指令値に基づいて算出、更新される学習値の信頼性も確保される。
【0093】
次に上述したステップS9で肯定判定の場合について説明する。ステップS9で肯定判定の場合、ロータ51の角度が目標角度に到達したものとみなして、駆動信号の印加が停止される(ステップS21)。
【0094】
次に、ロータ51が目標角度を所定角度以上超えて過回転したか否かが判定される(ステップS23)。具体的には、目標角度が略変化していない状況下で、駆動信号の印加停止後から所定の微小時間経過後の検出角度から、印加停止時点でのロータ51の角度を減算した値の絶対値が、所定角度以上超えている場合には、過回転が発生したと判定される。この場合、駆動信号の印加停止後のロータ51の惰性回転の角度が大きく、指令値が大きくなりすぎたとみなせる。尚、目標角度が略変化していないとは、目標角度が必ずしも同じ値である必要はなく、略一定とみなせる所定範囲内で変動していている場合を含む。ステップS23で否定判定の場合には、本制御は終了する。
【0095】
ステップS23で肯定判定の場合には、ECU90のRAMに記憶されている学習値を減少するように補正をする(ステップS25)。具体的には、ECU90のRAMに既に記憶されている学習値に係数Lを乗算する。係数Lは、0より大きく1よりも小さい値である。次に、減少補正された学習値は、ECU90のRAMに既に記憶されている学習値に対して更新される(ステップS27)。このように、過回転が検出された場合にも学習値が減少補正されて更新されるため、学習値の更新頻度が確保されている。これにより、次回の駆動信号の印加が停止された際に過回転が生じることが抑制され、ロータ51の角度を目標角度に精度よく制御できる。尚、ステップS23で否定判定の場合には、ステップS25及びS27の処理は実行されない。ステップS25及びS27の処理は、駆動信号がモータ72に印加されたことによって回転したロータ51が目標角度を所定角度以上超えて回転した場合には、学習値を減少させる補正をして、ECU90のRAMに記憶された学習値を補正された学習値に更新する補正更新部98が実行する処理の一例である。ステップS27の実行後は本制御は終了する。
【0096】
次に、上述したステップS11で否定判定の場合について説明する。ステップS11で否定判定の場合、ロータ51が回転不能であるか否かが判定される(ステップS31)。具体的には、モータ72に印加されている駆動信号のデューティ比の指令値が所定値よりも大きい状態が所定期間継続され、且つこの期間内にロータ51の回転が検出されなかった場合に、回転不能と判定される。例えば冷媒中のごみ等の異物がロータ51とハウジング41との間等に挟まることによってロータ51が回転不能となっていることが考えられる。ステップS31で否定判定の場合には、再度ステップS3の処理が実行される。即ち、ロータ51の回転は検出されていないが(ステップS11で否定判定)、回転不能な状態であるとも判定されない場合(ステップS31で否定判定)には、再度指令値が算出されてガード処理が実行され駆動信号が印加される(ステップS3、S5、S7)。
【0097】
ステップS31で肯定判定の場合には、上記の異物を排除するための異物排除運転が実行される(ステップS33)。異物排除運転では、ロータ51が強制的に所定回数だけ往復回転させることにより異物を変形又は粉砕して排除する運転である。具体的には、目標角度が所定期間に亘って例外的に角度αS又は角度(−βS)に交互に切り換えられ、これによりロータ51が交互に正回転又は逆回転するように指令値が算出される。
【0098】
異物排除運転での指令値は以下の式(3)により算出される
指令値=比例項…(3)
上述した式(1)とは異なり、異物排除運転での指令値には積分項や学習値は反映されない。異物排除運転は、ロータ51が通常の指令値では回転不能である異常状態の場合に正常状態に復帰できるようにロータ51を強制的に回転させる運転であり、積分項を用いて指令値を時間経過と共に増大させる必要もなく、学習値を反映させる必要もないかからである。
【0099】
図9Bは、異物排除運転での比例項を算出するためのマップを示した図である。
図9Aのマップと同様に角度偏差が正の場合には比例項は正の値であり、角度偏差が負の場合には比例項は負の値として算出されるが、また、異物排除運転で算出される比例項の絶対値の大きさは、角度偏差によらずに、異物を排除できる程度に比較的大きな一定の値に規定されている。また、角度偏差の絶対値が所定範囲内で比例項は0%に設定されるが、異物排除運転で検出角度に対して正側及び負側に目標角度が大きく切り替えられ、比例項が0%となる角度偏差になることは実質的にはない。
【0100】
次に、異物排除運転の終了後に、異物排除運転の実行中においてロータ51が正常回転しかたか否かが判定される(ステップS35)。具体的には、異物排除運転の実行中の少なくとも後半期間において、角度センサ78に基づいてロータ51が角度αS及び角度(−βS)間を回転していることが検出された場合に、ロータ51は正常回転したと判定される。尚、上記の判定に際して、異物排除運転実行中の全期間にわたってロータ51が角度αS及び角度(−βS)間を正常に回転していることは必要とされない。この理由は、異物排除運転の実行中の初期期間では異物を除去できずに正常に回転しないが、後半期間で異物が除去されて正常回転する場合があるからである。ステップS35で肯定判定の場合には、正常判定がなされ(ステップS37)、本制御は終了する。即ち、正常判定がなされた場合には、再度ステップS1以降の処理が実行される。ステップS35で否定判定の場合には異常判定がなされ(ステップS39)、出力制限処理が実行され(ステップS41)、本制御は終了する。出力制限処理では、ロータ51を正常復帰できない場合に、上述したガード値減少補正よりも更に指令値が制限されるように、上限ガード値の絶対値及び下限ガード値の絶対値が減少補正される。これにより、ロータ51が正常に回転できないにもかかわらずに大きな指令値が印加されて電力消費量が増大することが抑制できる。尚、異常判定がなされた場合には、ECU90は車室内に設置された警告灯等を点灯させることにより、車両の運転者にロータリーバルブ40の交換や修理を促してもよい。また、異物排除運転が実行された場合には、学習値の算出や更新は実行されない。
【0101】
次に、タイミングチャートを参照してECU90が実行する制御について説明する。
図10は、学習値が更新される場合でのタイミングチャートである。
図10には、ロータ51の実際の角度である実角度、目標角度、比例項、積分項、学習値、及び指令値を示している。
図10では、実角度が正の値であり目標角度が0度に設定された場合を例に示している。この場合、ロータ51が逆回転して実角度が目標角度に到達するように、比例項、積分項、学習値、及び指令値は、負の値として算出される。
【0102】
目標角度が0に設定されて指令値が算出されてガード処理が実行され(ステップS3、S5)、時刻t1でモータ72への駆動信号の印加が開始される(ステップS7)。モータ72への駆動信号の印加が開始されると、ロータ51は逆回転し始める。ロータ51が逆回転をし始めることにより角度偏差は徐々に減少するため、比例項の絶対値は徐々に減少するが、時刻t2で積分項の絶対値が増大し始め、これによりロータ51の回転速度が徐々に増大し、時刻t3でロータ51の角度変化率が所定値以上となりロータ51の回転開始が検出される(ステップS11で肯定判定)。時刻t1〜時刻t3までの期間では、ステップS3、S5、S7、S9で否定判定、S11で否定判定、S31で否定判定がなされて、これらの処理が繰り返し実行され、指令値の絶対値が徐々に増大するように算出される。尚、時刻t1〜時刻t2までの期間で積分項の値が0%に維持されている理由は、モータ72への駆動信号の印加開始直後に直ちにロータ51が回転し始めてロータ51が回転しすぎることを抑制するためであるが、これに限定されない。また、時刻t3以前でロータ51が回転を開始したと検出されないのは、ステップS11で説明したように、ロータ51の角度変化率が所定値以上となった場合にロータ51が回転を開始したと検出されるためであり、時刻t3以前でのロータ51の角度変化率は時刻t3でのロータ51の角度変化率よりも小さいからである。
【0103】
時刻t3でロータ51の回転開始が検出されると、新たな学習値が算出、更新され(ステップS17、S19)、更新された学習値に基づいて新たな指令値が算出される(ステップS3)。この際に、上述したように積分項は再び0%にリセットされて指令値が算出され、時刻t4でこの指令値でのデューティ比の駆動信号がモータ72へ印加される(ステップS7)。このため、時刻t4でロータ51の角度変化率は低下する。時刻t5で積分項が徐々に増大し始めると、ロータ51の角度変化率は再び徐々に増大し始める。時刻t6で回転開始が検出されると(ステップS11で肯定判定)、再び新たな学習値が算出、更新され(ステップS17、S19)、新たな指令値でのデューティ比の駆動信号がモータ72への印加が開始されるが(ステップS7)、本タイミングチャートでは、駆動信号の印加開始直後に角度偏差の絶対値がδ以下となり(ステップS9で肯定判定)、駆動信号の印加が停止される場合を示している(ステップS21)。従って、時刻t7の直後である時刻t8で印加される駆動信号の指令値は0%となり、ロータ51は目標角度に到達して停止する。
【0104】
図11は、ロータ51が過回転した場合でのタイミングチャートである。
図11は、
図10の時刻t8で駆動信号の指令値が0%となった後もロータ51が惰性で回転してロータ51が目標角度を超えて過回転した場合を示している。
図11には、ロータ51の実角度、目標角度、及び指令値を示しているが、学習値に関しても
図10と同様に、逆回転用の学習値のみを示している。
【0105】
時刻t8で指令値が0%となった後もロータ51が惰性により逆回転し続けると、時刻t9でロータ51の過回転が検出される(ステップS23)。これにより、学習値が減少補正され更新される(ステップS25、S27)。また時刻t9で、角度偏差の絶対値がγ以上と判断されると(ステップS1で肯定判定)、ロータ51を正回転用の学習値に基づいて正回転用の指令値が算出されてガード処理が実行され(ステップS3、S5)、時刻t10でのこの指令値の駆動信号がモータ72に印加され(ステップS7)、ロータ51が正回転するように制御される。
【0106】
図12は、異物排除運転が実行される場合のタイミングチャートである。尚、
図12には、目標角度、実角度、及び指令値のみを示している。時刻t1aでは、目標角度及び実角度が共に正の値であって実角度が目標角度に略一致し、駆動信号は印加されていない。この状態から時刻t2aで、目標角度が正の値であるが実角度よりも小さい値に設定されると、指令値の絶対値は徐々に増大するが、異物によりロータ51の実角度に変化はない。指令値の絶対値が所定値を超えた時刻t3a以降でもロータ51の回転が検出されずに回転不能と判定されると(ステップS31で肯定判定)、時刻t3aから所定期間経過した時刻t4aで異物排除運転の実行が開始される(ステップS33)。異物排除運転が実行されると、切り替えられる目標角度に応じて指令値も切り換えられ、ロータ51は角度αS及び角度(−βS)間を交互に回転して、時刻t5aで指令値は0%に設定され異物排除運転は停止される。異物排除運転中でのロータ51の検出角度に基づいて正常回転したものと判定されて正常判定がなされると(ステップS35で肯定判定、ステップS37)、時刻t5aから所定時間後の時刻t6aで、目標角度は異物排除運転の開始前に設定されていた目標角度に再度設定されて、指令値が再度算出されてガード処理がなされて駆動信号が印加され(ステップS1で肯定判定、S3、S5、S7)、時刻t7aでロータ51の実角度が目標角度に到達して(ステップS9で肯定判定)、駆動信号の印加が停止される(ステップS21)。
【0107】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0108】
上記実施例では、ギア73〜76、ロータ51、シール部材61、63、及び65は合成樹脂製であるがこれに限定されず、これらのうち少なくとも一つが金属製であってもよい。
【0109】
上記実施例では、ロータリーバルブ40とインレット39との間で、ATFクーラ35はラジエータ31及びリザーブタンク32に対して並列に接続されているが、このように接続されているデバイスはATFクーラ35のみに限定されない。例えば、ATFクーラ35の代わりに、又はATFクーラ35に加えてオイルクーラ及びEGRクーラの少なくとも一つが、ラジエータ31及びリザーブタンク32に対して並列に接続されていてもよい。
【0110】
上記実施例では、ステップS13及びS15で肯定判定がなされた場合に新たに学習値が算出、更新されるが(ステップS17、S19)、ステップS13及びS15の処理は必ずしも必要ではない。例えば、回転角度位置に応じて変更される流路の開度より冷媒の流量は変更されるが、ロータ51の回転に必要となるトルクがこの冷媒の流量の影響を受けにくい構成の場合には、ステップS13の処理を実行しなくてもよい。また、エンジン1が高速回転している場合であってもエンジン1の振動がロータリーバルブ40に伝達されにくい構成の場合には、ステップS15の処理を実行しなくてもよい。
【0111】
上記実施例では、ロータ51の回転方向別に学習値が算出、更新されるが、ロータ51が少なくとも一方向の回転開始が検出される度に学習値を算出、更新してもよい。少なくとも一方向に回転する場合での学習値の更新の頻度を確保できるからである。