(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2封止層の材料は、前記第1封止層の材料と前記第3封止層の材料とのいずれに対しても、同一温度かつ同一湿度の大気に晒されたときに、大気中の水から酸素を吸収する反応の反応性が高い
請求項1に記載の有機EL表示パネル。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<開示の態様>
本開示の態様に係る有機EL表示パネルは、基板と、前記基板上に形成された複数の有機EL素子と、前記複数の有機EL素子の上方に配され、第1封止層、第2封止層、第3封止層の順に積層されてなる封止層とを備え、前記第1封止層、前記第2封止層、前記第3封止層は、それぞれ、非晶質窒化シリコンからなり、前記第1封止層、前記第2封止層、前記第3封止層のそれぞれの組成をSiN
xとしたとき、第2封止層の組成におけるxの値は、第1封止層の組成におけるxの値と、第3封止層の組成におけるxの値とのいずれに対しても大きい。
【0010】
上記態様の有機EL表示パネルでは、第2封止層が吸水性を有するため、封止層に割れが生じても水分に対する封止性低下を抑制することができる。
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルは、前記第2封止層の屈折率は、前記第1封止層の屈折率と前記第3封止層の屈折率とのいずれよりも小さい、としてもよい。
上記態様により、第2封止層が吸水性を備えるとともに、第1封止層と第3封止層とが高い封止性を有する。
【0011】
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルは、前記第2封止層の屈折率は、1.60以上1.78以下である、としてもよい。
上記態様により、第2封止層が高い吸水性を備える。
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルは、前記第1封止層の屈折率と前記第3封止層の屈折率はほぼ同じである、としてもよい。
【0012】
上記態様により、第1封止層と第3封止層が、ともに高い封止性を有する。
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルは、前記第2封止層の材料は、前記第1封止層の材料と前記第3封止層の材料とのいずれに対しても、同一温度かつ同一湿度の大気に晒されたときに、大気中の水から酸素を吸収する反応の反応性が高い、としてもよい。
【0013】
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルは、前記第3封止層は異物等による欠陥を有し、前記第2封止層は当該欠陥に対応する部分が大気に対して露出しており、前記第2封止層は、前記第1封止層と前記第3封止層とのいずれに対しても、酸素を多く含む、としてもよい。
これら上記態様により、第2封止層が水分に対して高い遮断性を有する。
【0014】
また、本開示の他の態様に係る有機EL表示パネルは、基板と、前記基板上に形成された複数の有機EL素子と、前記複数の有機EL素子の上方に配され、第1封止層、第2封止層、第3封止層の順に積層されてなる封止層とを備え、前記第1封止層、前記第2封止層、前記第3封止層は、それぞれ、非晶質窒化シリコンからなり、前記第2封止層の材料は、前記第1封止層の材料と前記第3封止層の材料とのいずれに対しても、同一温度かつ同一湿度の大気に晒されたときに、大気中の水から酸素を吸収する反応の反応性が高い。
【0015】
上記態様によれば、第2封止層が吸水性を有するため、封止層に割れが生じても水分に対する封止性低下を抑制することができる。
また、本開示の態様に係る有機EL表示装置は、本開示のいずれかの態様に係る有機EL表示パネルを備える。
上記態様により、有機EL素子の保護性能を高めた有機EL表示パネルが実現できる。
【0016】
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルの製造方法は、基板を準備する工程と、前記基板上に複数の有機EL素子を形成する工程と、前記有機EL素子の上方に第1封止層を形成する工程と、前記第1封止層上に第2封止層を形成する工程と、前記第2封止層上に第3封止層を形成する工程とを含み、前記第1封止層、前記第2封止層、前記第3封止層それぞれの形成工程は、CVD法による非晶質窒化シリコン膜の成膜工程であり、前記第2封止層は、前記第1封止層と前記第3封止層のいずれに対しても、珪素に対する窒素の比率が高い。
【0017】
上記態様により、吸水性を有する第2封止層と、封止性の高い第1封止層と第3封止層とを製造することができ、封止性の高い封止層を実現できる。
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルの製造方法は、前記CVD法による非晶質窒化シリコン膜の成膜工程において、原料ガスはシランとアンモニアとを含み、前記第2封止層の形成工程におけるアンモニアに対するシランの比率は、前記第1封止層の形成工程、および、前記第3封止層の形成工程におけるアンモニアに対するシランの比率よりも低い、としてもよい。
【0018】
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルの製造方法は、前記第2封止層の形成工程におけるアンモニアに対するシランの比率は、0.2以上0.65以下である、としてもよい。
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルの製造方法は、前記CVD法による非晶質窒化シリコン膜の成膜工程において、原料ガスはシランとアンモニアとを含み、前記第2封止層の形成工程における原料ガスの圧力は、前記第1封止層の形成工程、および、前記第3封止層の形成工程における原料ガスの圧力よりも高い、としてもよい。
【0019】
また、本開示の態様に係る有機EL表示パネルの製造方法は、前記第2封止層の形成工程における原料ガスの圧力は、200Pa以上500Pa以下である、としてもよい。
これら上記態様により、第1封止層および3封止層として緻密な窒化シリコン層を成膜できるとともに、吸水特性を有する第2封止層を成膜できる。
<実施の形態>
以下、実施の形態に係る有機EL表示パネルについて説明する。なお、以下の説明は、本発明の一態様に係る構成及び作用・効果を説明するための例示であって、本発明の本質的部分以外は以下の形態に限定されない。
【0020】
1.有機EL表示パネルの構成
図1は、実施の形態に係る有機EL表示パネル1の部分断面図である。有機EL表示パネル1は、3つの色(赤色、緑色、青色)を発光する有機EL素子で構成される画素を複数備えている。各有機EL素子は、前方(
図1における紙面上方)に光を出射するいわゆるトップエミッション型である。
【0021】
図1に示すように、有機EL表示パネル1は、基板101、層間絶縁層102、画素電極103、隔壁層104、発光層105、電子輸送層106、対向電極107、封止層108、パッシベーション膜111、配線層112を備える。このうち、画素電極103、隔壁層104、発光層105は、画素ごとに形成されている。
<基板>
基板101は、絶縁材料である基材101aと、TFT(Thin Film Transistor)層101bとを含む。TFT層101bには、画素ごとに駆動回路が形成されている。基材101aは、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、硫化モリブデン、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鉄、ニッケル、金、銀などの金属基板、ガリウム砒素などの半導体基板、プラスチック基板等を採用することができる。プラスチック材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれの樹脂を用いてもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうち1種、または2種以上を積層した積層体を用いることができる。
【0022】
なお、基材101aがプラスチック基板のみからなるいわゆるフレキシブル基板である場合、基材101aとTFT層101bとの間に、後述する封止層108と同じ構成を有する封止層を備えることが好ましい。
<層間絶縁層>
層間絶縁層102は、基板101上に形成されている。層間絶縁層102は、樹脂材料からなり、TFT層101b上に形成されるパッシベーション膜111の上面の段差を平坦化するものである。樹脂材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が挙げられる。また、このような感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂が挙げられる。
【0023】
<画素電極>
画素電極103は、光反射性の金属材料からなる金属層を含み、層間絶縁層102上に形成されている。画素電極103は、画素ごとに設けられ、コンタクトホールを通じてTFT層101bと電気的に接続されている。
本実施形態においては、画素電極103は、陽極として機能する。
【0024】
光反射性を具備する金属材料の具体例としては、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、アルミニウム合金、Mo(モリブデン)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、MoW(モリブデンとタングステンの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)などが挙げられる。
【0025】
画素電極103は、金属層単独で構成してもよいが、金属層の上に、ITO(酸化インジウム錫)やIZO(酸化インジウム亜鉛)のような金属酸化物からなる層を積層した積層構造としてもよい。
<隔壁層>
隔壁層104は、画素電極103の上面の一部を露出させ、その周辺の領域を被覆した状態で画素電極103上に形成されている。画素電極103上面において隔壁層104で被覆されていない領域(以下、「開口部」という)は、サブピクセルに対応している。すなわち、隔壁層104は、サブピクセルごとに設けられた開口部を有する。
【0026】
隔壁層104は、例えば、絶縁性の有機材料(例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂等)からなる。隔壁層104は、発光層105を塗布法で形成する場合には塗布されたインクがあふれ出ないようにするための構造物として機能し、発光層105を蒸着法で形成する場合には蒸着マスクを載置するための構造物として機能する。本実施の形態では、隔壁層104は、樹脂材料からなり、隔壁層104の材料としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂が挙げられる。本実施の形態においては、フェノール系樹脂が用いられている。
【0027】
<発光層>
発光層105は、開口部内に形成されており、正孔と電子の再結合により、R、G、Bの各色の光を出射する機能を有する。発光層105の材料としては、公知の材料を利用することができる。具体的には、例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体などの蛍光物質で形成されることが好ましい。
【0028】
<電子輸送層>
電子輸送層106は、対向電極107からの電子を発光層105へ輸送する機能を有する。電子輸送層106は、例えば、電子輸送性が高い有機材料からなり、具体的には、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料からなる。電子輸送層106は、アルカリ金属、または、アルカリ土類金属から選択されるドープ金属がドープされていてもよい。または、例えば、電子輸送層106は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択される金属の単体またはフッ化物から形成されてもよい。
【0029】
対向電極107は、透光性の導電性材料からなり、電子輸送層106上に形成されている。対向電極107は、陰極として機能する。
対向電極107の材料としては、例えば、ITOやIZOなどを用いることができる。あるいは、対向電極107の材料として、銀、銀合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属の薄膜を用いてもよい。
【0030】
<封止層>
封止層108は、発光層105、電子輸送層106などの有機層が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有し、窒化シリコン(SiN)で形成される。詳細は後述する。
<パッシベーション膜>
パッシベーション膜111は、TFT層101bと、TFT層101bから引き出された配線層112とを覆う保護膜であり、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO)、酸窒化シリコン(SiON)等で形成される。
【0031】
<配線層>
配線層112は、導電材料からなり、封止層108が形成されている領域の外側において、互いに間隔を置いて形成される。配線層112は、具体的には、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)などの金属や、合金(例えば、MoW、MoCr、NiCr)等からなる。
【0032】
2.封止層の膜構造
以下、封止層108の構造について、より詳細に説明する。
封止層108は、第1封止層108a、第2封止層108b、第3封止層108cの3層からなる。これらの第1封止層108a、第2封止層108b、第3封止層108cは、いずれも、非晶質(アモルファス)の窒化シリコンからなり、CVD法により成膜される。原料ガスとしては、例えば、シラン(SiH
4)とアンモニア(NH
3)が用いられ、さらに、窒素(N
2)を用いてもよい。
【0033】
第1封止層108aは、対向電極107の上面を被覆する。第1封止層108aは、原料であるシラン、アンモニアのガス量を小さくし、圧力を低くするという成膜条件で、CVD法により成膜されている。そのため、組成物におけるSi−N基、N−H基は、整った構造を有する。したがって、第1封止層108aは、抜けがない整った膜構造を有し、高い封止性を有する。
【0034】
第2封止層108bは、第1封止層108aの上面を被覆する。第2封止層108bにおける成膜条件は、第1封止層108aの成膜条件に対し、(i)シランに対するアンモニアのガス量が多い、かつ、(ii)圧力が高い、の特性を有する。これにより、第2封止層108bは、第1封止層108aに対して、Si原子数に対するN原子数が大きい。すなわち、第1封止層108aにおける窒化シリコンの組成をSiN
pとし、第2封止層108bにおける窒化シリコンの組成をSiN
qとした場合に、p<qとなる関係を満たす。第2封止層108bは、膜構造が整っておらず、封止性は低い。
【0035】
第3封止層108cは、第2封止層108bの上面を被覆しており、成膜条件は第1封止層の成膜条件と同じである。そのため、第3封止層108cは、抜けがない整った膜構造を有し、高い封止性を有する。
<第2封止層の吸水特性>
図3は、第1封止層108a/第3封止層108cと、第2封止層108bのそれぞれに対して吸水加速試験を行った結果を示す図である。この吸水加速試験では、膜厚が約100nmの第1封止層108aと、膜厚が約100nmの第2封止層108bとのそれぞれの主面の一方を、温度85℃、湿度85%の環境に晒し、SiNの量を他方の主面からの膜厚として示したものである。すなわち、SiNの膜厚が小さいほど、封止層の吸湿性が高いことを示している。
【0036】
図3(a)は第1封止層108aにおけるSiNの膜厚を示したものであり、35日後においてもSiNの膜厚は当初の約60%程度有していることを示している。一方、
図3(b)は第2封止層108bにおけるSiNの膜厚を示したものであり、わずか1日でSiNの膜厚が当初の約70%となり、7日でほとんど失われていることを示している。
図4は、実施の形態の封止層108を主面と直交する向きに切断して吸水加速試験を行った後、エネルギー分散型X線解析(EDX;Energy Dispersive X−ray spectrometry)を行った結果であり、(a)はシリコン(Si)のKα線、(b)は窒素(N)のKα線、(c)は酸素(O)のKα線の強度分布を示したものである。
図4(a)に示すように、封止層全域に渡ってシリコン(Si)が検出されている。これに対し、
図4(b)に示すように、窒素(N)は第1封止層108a、第3封止層108cにおいて検出される一方、第2封止層108bではほとんど検出されない。一方で、
図4(c)に示すように、酸素(O)は第1封止層108a、第3封止層108cにおいてほとんど検出されない一方で、第2封止層108bにおいて強く検出される。以上の結果から、第2封止層108bの窒化シリコンは、水との反応によりその表面が酸窒化シリコン、または、酸化シリコンに変化したことが推測される。より具体的には、第2封止層108b表面のSi−N基が安定でなく、水分子の水素(H)との間にN−H結合が生じて窒素がアンモニアとして離脱し、離脱した窒素のサイトに水分子の酸素(O)が入り込んでSi−O基が形成されることが考えられる。
【0037】
以上説明したように、第2封止層108bは、吸水性を有し、それにより酸窒化シリコンないし酸化シリコンに変質する特性を有していることが分かる。
<封止層108の被覆性>
以上の構造を有する封止層108の被覆性について述べる。
図2は、被覆されるべき部位に異物が存在する状態の封止層108の断面構造を示す。対向電極107上に存在する異物x1を覆っているため、第3封止層108cにおいて亀裂108dが生じることがある。しかしながら、第2封止層108bは、上述したように吸水性を有しているので、水分が第1封止層108aまで到達しない。なお、第2封止層108bが吸水時に発生する離脱窒素、特にアンモニアは有機EL素子に悪影響を及ぼす可能性はあるが、第1封止層108aがアンモニアを透過させないため、対向電極107以下の領域にアンモニアが浸入することはない。
【0038】
また、第3封止層108cに亀裂が存在しない場合には、第2封止層108bは水分と接触しないため、窒化シリコンのまま安定に存在することとなる。そのため、第2封止層108bは、第1封止層108a、第3封止層108cの少なくとも一方における水分に対する封止が破れたときにはじめて吸水性を発揮することとなる。したがって、欠陥のない封止層108の耐水性が自然に低下することはない。
【0039】
以上説明したように、封止層108は、その欠陥の有無にかかわらず、水に対して高い封止性を有する。
3.有機EL表示パネルの製造方法
有機EL表示パネル1の製造方法について、図面を用い説明する。
図5は、有機EL表示パネル1の製造方法を示すフローチャートである。
【0040】
(1)基板101の形成
まず、基材101a上にTFT層101bを成膜して基板101を形成する(ステップS1)。TFT層101bは、公知のTFTの製造方法により成膜することができる。
さらに、基板101上に層間絶縁層102を形成する。層間絶縁層102は、例えば、プラズマCVD法、スパッタリング法などを用いて積層形成することができる。
【0041】
次に、層間絶縁層102における、TFT層のソース電極上の個所にドライエッチング法を行い、コンタクトホールを形成する。コンタクトホールは、その底部にソース電極の表面が露出するように形成される。
次に、コンタクトホールの内壁に沿って接続電極層を形成する。接続電極層の上部は、その一部が層間絶縁層102上に配される。接続電極層の形成は、例えば、スパッタリング法を用いることができ、金属膜を成膜した後、フォトリソグラフィ法およびウェットエッチング法を用いパターニングすることでなされる。
【0042】
(2)画素電極103の形成
次に、層間絶縁層102上に画素電極材料層を形成する。画素電極材料層は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法を用いて形成することができる。
次に、画素電極材料層をエッチングによりパターニングして、サブピクセルごとに区画された複数の画素電極103を形成する(ステップS2)。
【0043】
(3)隔壁層(バンク)104の形成
次に、画素電極103および層間絶縁層102上に、隔壁層104の材料である隔壁層用樹脂を塗布し、隔壁材料層を形成する。隔壁材料層は、隔壁層用樹脂であるフェノール樹脂を溶媒(例えば、乳酸エチルとGBLの混合溶媒)に溶解させた溶液を画素電極103上および層間絶縁層102上にスピンコート法などを用いて一様に塗布することにより形成される。そして、隔壁材料層にパターン露光と現像を行うことで隔壁層104を形成し(ステップS3)、隔壁層104を焼成する(ステップS4)。これにより、発光層105の形成領域となる開口部が規定される。隔壁層104の焼成は、例えば、150℃以上210℃以下の温度で60分間行う。
【0044】
また、隔壁層104の形成工程においては、さらに、隔壁層104の表面を所定のアルカリ性溶液や水、有機溶媒等によって表面処理するか、プラズマ処理を施すこととしてもよい。これは、開口部に塗布するインク(溶液)に対する隔壁層104の接触角を調節する目的で、もしくは、表面に撥水性を付与する目的で行われる。
(4)発光層105の形成
次に、隔壁層104が規定する開口部に対し、発光層105の構成材料を含むインクを、インクジェット装置を用いて塗布し、乾燥(焼成)を行って発光層105を形成する(ステップS5)。
【0045】
(5)電子輸送層106の形成
次に、発光層105および隔壁層104上に、電子輸送層106を成膜する(ステップS6)。電子輸送層106は、例えば、蒸着法により各サブピクセルに共通して成膜することにより形成される。
(6)対向電極107の形成
次に、電子輸送層106上に、対向電極107を成膜する(ステップS7)。対向電極107は、例えば、ITO、IZO、銀、アルミニウム等を、スパッタリング法、真空蒸着法により成膜することにより形成される。
【0046】
(7)封止層108の形成
最後に、対向電極107上に、封止層108を形成する(ステップS8)。封止層108は、SiNを、プラズマCVD法により成膜することにより形成することができる。詳細は後述する
なお、封止層108の上にカラーフィルタや上部基板を載置し、接合してもよい。
【0047】
4.封止層108の製造方法
以下、封止層108の製造方法について、詳細に説明する。
<成膜装置の構成>
図6(a)は、プラズマCVD成膜装置200の概略構成図である。
図6(a)に示すように、プラズマCVD成膜装置200は、反応チェンバ201、基板ホルダ202、シャワーヘッド203、排気口204、ガス導入口205、高周波電源206を備える。
【0048】
反応チェンバ201は、箱体であり、その内部にプラズマ反応のための反応空間を形成する。
基板ホルダ202は、封止層108形成前の有機EL表示パネル1の基板(未封止有機EL基板207)を載置するためのホルダであり、未封止有機EL基板207を加熱するためのヒータを備える。また、基板ホルダ202は、プラズマ放電のための電極の一方である接地電極としても機能するため、接地がなされている。
【0049】
シャワーヘッド203は、基板ホルダ202と対向して設けられており、ガス導入口205から導入される反応ガスを細孔から噴出する。また、シャワーヘッド203及びガス導入口205は、プラズマ放電のための電極の他方として機能するため、高周波電源206に接続され、かつ、反応チェンバ201からは絶縁されている。
排気口204は、反応チェンバ201からの排気を行う。この排気により、反応チェンバ201は、所望の圧力を保つ。
【0050】
ガス導入口205は、反応ガスおよびクリーニングガスを反応チェンバ201内に導入するための吸気口である。
高周波電源206は、プラズマ放電のためのマイクロ波を発生させる交流電源である。
未封止有機EL基板207は、
図1における封止層108が形成される前の基板であり、中央部に表示領域41が形成されたものである。すなわち、
図5のステップS7が完了した状態の有機EL表示パネルである。未封止有機EL基板207は、マスク208に取り付けられた状態で、基板ホルダ202に載置される。
【0051】
マスク208は封止層108の成膜領域を規定するマスク部材であり、外周縁が未封止有機EL基板207よりも大きい長方形枠体状であって、中央部に開口部209を有する。マスク208は、例えば、セラミックスで形成される。
<成膜条件>
図6(b)は、第1封止層108a/第3封止層108cの成膜条件の一例と、第2封止層108bの成膜条件の一例を示す図である。上述したように、第1封止層108aおよび第3封止層108cの成膜時と、第2封止層108bの成膜時とで成膜条件を変化させる。
【0052】
図6(b)に示すように、第1封止層108a/第3封止層108cの成膜条件は以下のとおりである。シャワーヘッド203から噴出するシランのガス流量は100sccm(Standard Cubic Centimeter)、アンモニアのガス流量は70sccm、窒素のガス流量は3000sccmとする。すなわち、原料ガスのシラン/アンモニア比は、約1.4となる。反応チェンバ201内の圧力は100Paとする。
【0053】
これに対し、第2封止層108bの成膜では、反応チェンバ201内の圧力は200〜500Paとする。また、原料ガスのシラン/アンモニア比が0.2〜0.65となるよう、シランのガス流量とアンモニアのガス流量とを調整する。これにより、第2封止層108bにおけるSi/N比を小さく、すなわち、Si原子数に対するN原子数の比を大きくすることができる。
【0054】
<封止層108の成膜工程>
以下、封止層108の成膜工程について、
図7のフローチャートを用いて詳細に説明する。
まず、未封止有機EL基板207を基板ホルダ202上に載置し(ステップS11)、反応チェンバ201の真空排気を行う(ステップS12)。次に、未封止有機EL基板207を所定の成膜温度に加熱する(ステップS13)。ここで、所定の成膜温度とは、例えば、60℃である。
【0055】
その後、シラン、アンモニア、窒素のそれぞれのガス量を所定量に設定し、ガス導入口205から反応チェンバ201内に原料ガスを導入する(ステップS14)。ここで、所定量とは、シランのガス流量は100sccm、アンモニアのガス流量は70sccm、窒素のガス流量は3000sccmである。
その状態で、反応チェンバ201内の圧力を100Paに設定し、高周波電源206を用いて電圧を印加して、未封止有機EL基板207の表面近傍にプラズマ反応場を形成する(ステップS15)。これにより、第1封止層108aの成膜が開始される。所定時間T1だけプラズマ反応場を形成することにより(ステップS16)、所定時間T1に対応する膜厚の第1封止層108aが形成される。
【0056】
次に、成膜条件を、第2封止層108bの成膜条件に変更する。具体的には、まず、反応チェンバ201内に導入する原料ガスにおけるシラン/アンモニア比を変更する(ステップS17)。ここでは、シラン/アンモニア比が0.2〜0.65となるように、シランのガス流量とアンモニアのガス流量を変更する。また、反応チェンバ201内の圧力を200〜500Paの範囲内に変更する(ステップS18)。これにより、第2封止層108bの成膜が開始される。所定時間T2だけプラズマ反応場を形成することにより(ステップS19)、所定時間T2に対応する膜厚の第2封止層108bが形成される。
【0057】
次に、成膜条件を、第3封止層108cの成膜条件に変更する。具体的には、まず、反応チェンバ201内に導入する原料ガスのガス量を、第1封止層108aの成膜時の条件(ステップS14における条件)に戻す(ステップS20)。また、反応チェンバ201内の圧力を第1封止層108aの成膜時の条件(100Pa)に変更する(ステップS21)。これにより、第3封止層108cの成膜が開始される。所定時間T1だけプラズマ反応場を形成することにより(ステップS22)、所定時間T1に対応する膜厚の第3封止層108cが形成される。
【0058】
<封止層の組成と光学特性>
図8は、プラズマCVD法にて形成される非晶質窒化シリコンの組成、すなわちN/Si比と、屈折率との関係を示す図である。
図8に示すように、N/Si比が高くなるほど、屈折率が低下する傾向にある。第1封止層108a/第3封止層108cのN/Si比はおよそ化学的量論比かそれ以上であり、屈折率は1.78〜1.9の範囲にある。これに対し、吸水性を有する第2封止層108bでは、N/Si比が第1封止層108a/第3封止層108cのN/Si比よりさらに大きく、屈折率は1.6〜1.78の範囲にある。これは、第2封止層108bでは、第1封止層108a、第3封止層108cと比べて、Si−N結合の膜構造が整っていないため、密度が低いことが考えられる。したがって、第2封止層108bは、第1封止層108a、第3封止層108cに対し、屈折率が低い、という関係性を有している。
【0059】
<まとめ>
以上説明したように、実施の形態に係る有機EL表示パネル1は、水分に対する封止性が高い封止層108により有機EL素子を封止しているので、高温多湿の過酷な環境に置かれたとしても、その封止性を持続することができる。よって、実施の形態1に係る有機EL表示パネル1は、過酷な状況での耐久性を維持することができる。
【0060】
また、上述した製造方法によれば、第1封止層108aの成膜が開始されてから第3封止層108cの成膜が完了するまで、未封止有機EL基板207は反応チェンバ201内の基板ホルダ202上に載置されたままなので、封止層108の内部に異物が入り込むことを抑止することができる。そのため、封止層108を構成する3層の2つ以上に跨った欠陥が生成される可能性を低くすることができる。
【0061】
<その他の変形例>
(1)実施の形態では、封止層108は、複数の表示素子が配置された表示領域41と、周辺領域42とを覆う構成になっていたが、表示領域41のみを覆う構成としてもよい。また、周辺領域42のみを覆う構成としてもよい。更に、表示領域41、周辺領域42の全てではなく、一部のみを覆う構成にしてもよい。
【0062】
(2)実施の形態では、第2封止層108bの成膜条件として、第1封止層108a/第3封止層108cの成膜条件に対し、圧力と、シランに対するアンモニアの流量比のいずれも大きいとしたが、上述した特性の第2封止層108bの成膜が可能である限り、第1封止層108a/第3封止層108cの成膜条件に対し、圧力と、シランに対するアンモニアの流量比とのうち一方のみが大きいとしてもよい。
【0063】
また、第1封止層108aの成膜条件および組成と第3封止層108cの成膜条件および組成は同一であるとしたが、第1封止層108aと第3封止層108cとのいずれもが高い封止性を備える範囲において、成膜条件および組成は異なっていてもよい。
(3)実施の形態では、複数の有機EL素子の対向電極側が、封止層108のみによって封止される構成となっていたが、例えば、実施の形態に係る封止層108と、他の封止層、例えば有機材料からなる封止層とが積層された封止膜により、複数の有機EL素子の対向電極側が封止される構成であってもよい。また、封止層108の上面に、カラーフィルタ基板等を張り付ける構成であってもよい。
【0064】
また、基材101aが樹脂からなる、いわゆるフレキシブル基板である場合には、基材101aとTFT層101bとの間に、実施の形態に係る封止層108、または、封止層108を含む封止膜を備えるとしてもよい。本構成により、基板側からの水分の侵入を抑止することができる。
(4)実施の形態では、各有機EL素子が、画素電極、発光層、電子輸送層、対向電極からなる構成であるとしたが、例えば、画素電極と発光層との間に正孔注入層や正孔輸送層を含む構成であってもよいし、電子輸送層と対向電極との間に電子注入層を含む構成であってもよい。また、実施の形態では、画素電極が反射型電極、対向電極が透過型電極であるトップエミッション型であるとしたが、画素電極が透過型電極、対向電極が反射型電極であるボトムエミッション型であるとしてもよい。
【0065】
以上、本開示に係る有機発光パネルおよび表示装置について、実施の形態および変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態および変形例に限定されるものではない。上記実施の形態および変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態および変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。