(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805154
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20201214BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20201214BHJP
F16J 15/3236 20160101ALI20201214BHJP
F16J 15/3252 20160101ALI20201214BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20201214BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20201214BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20201214BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
F16J15/447
F16J15/3232 201
F16J15/3236
F16J15/3252
F16C33/78 D
F16C33/80
F16C19/18
F16C41/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-538014(P2017-538014)
(86)(22)【出願日】2016年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2016075165
(87)【国際公開番号】WO2017038751
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-172041(P2015-172041)
(32)【優先日】2015年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓也
【審査官】
的場 眞夢
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2015/0151574(US,A1)
【文献】
特開2010−091036(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0207417(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
33/30−33/82
41/00−41/04
F16J 15/16−15/3296
15/40−15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベアリングにおいて軸線について互いに相対回動可能な環状の外周側部材と該外周側部材に少なくとも部分的に包囲された環状の内周側部材との間を密封する密封装置であって、
前記外周側部材に取り付けられる密封装置本体と、
前記密封装置本体の外側に位置し前記内周側部材に取り付けられる前記軸線を中心とする環状のスリンガとを備え、
前記密封装置本体は、前記軸線を中心とする環状の補強環と、該補強環に取り付けられている、弾性体から形成されている前記軸線を中心とする環状の弾性体部とを備え、
前記弾性体部は、前記スリンガに当接するシールリップと、前記スリンガとの間に間隙を形成するラビリンスリップとを備え、
前記スリンガは、前記内周側部材に取り付けられるスリンガ円筒部と、前記スリンガ円筒部の前記外側の端部から外周側へ延びるスリンガフランジ部と、前記スリンガフランジ部の前記外周側の端部から内側へ延び屈曲して戻る環状のスリンガ屈曲部と、前記スリンガ屈曲部の前記外周側の端部から前記外周側部材に沿って前記外周側へ延びさらに曲げられて前記外周側部材の外周面に沿って前記内側へ延びるスリンガ延長部とを備え、
前記スリンガ屈曲部及び前記スリンガ延長部は、前記弾性体部及び前記外周側部材との間に間隙を有してラビリンスシールを形成しており、
前記ラビリンスシールは、連続する、前記スリンガ延長部が前記外周側部材の外周面に対向して形成する環状の間隙と、前記スリンガ延長部が前記密封装置本体の外周外側端部及び前記外周側部材の外側面に対向して形成する環状の間隙と、前記スリンガ屈曲部が外周側において前記弾性体部の外周部に対向して形成する環状の間隙と、前記スリンガ屈曲部が内側において前記弾性体部の基体部に対向して形成する環状の間隙とによって形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記スリンガ屈曲部は、断面略U字状に形成されており、前記スリンガフランジ部の前記端部から前記内側へ延びるスリンガ屈曲部内円筒部と、前記スリンガ屈曲部内円筒部の前記内側の端部から前記外周側へ延びるスリンガ屈曲部フランジ部と、前記スリンガ屈曲部フランジ部の前記外周側の端部から前記外側へ延びるスリンガ屈曲部外円筒部とを備え、前記スリンガ屈曲部フランジ部が前記弾性体部の前記基体部に対向して前記環状の間隙を形成し、前記スリンガ屈曲部外円筒部が前記弾性体部の前記外周部に対向して前記環状の間隙を形成し、前記ラビリンスシールは前記スリンガ屈曲部内円筒部に向かって延びており、
前記スリンガ延長部は、前記スリンガ屈曲部の前記外周側の端部から前記外周側部材に沿って前記外周側へ延びる部分であるスリンガ延長部フランジ部と、前記外周側部材の前記外周面に沿って前記内側へ延びる部分であるスリンガ延長部円筒部とを備え、前記スリンガ延長部フランジ部が前記密封装置本体の前記外周外側端部及び前記外周側部材の前記外側面に対向して前記環状の間隙を形成し、前記スリンガ延長部円筒部が前記外周側部材の前記外周面に対向して前記環状の間隙を形成していることを特徴とする請求項1記載の密封装置。
【請求項3】
前記ラビリンスリップは、前記スリンガ屈曲部の内周側に位置し、先端において前記スリンガ屈曲部内円筒部との間に前記間隙を形成していることを特徴とする請求項2記載の密封装置。
【請求項4】
前記ラビリンスリップは、前記外周側へ傾斜して延びており、前記ラビリンスシールを経由して到達する異物の滞留を可能にする液溜部を形成していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の密封装置。
【請求項5】
前記スリンガの前記外側に、車輪の回転数検出装置を構成する磁気エンコーダが取り付けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関し、特に、車両等のベアリングにおける密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、例えば自動車において、車輪を回転自在に支持するハブベアリングは、雨水、泥水及びダスト等の異物に直接曝される環境にある。このため、従来から、ベアリングには、このベアリングを外部から密封するために、密封装置が取り付けられている。この密封装置は、ハブベアリングの内部の潤滑剤の密封を図ると共に内部に異物が侵入することの防止を図っている。
【0003】
また、ハブベアリングに用いられる密封装置には、ハブベアリングの内部に異物が侵入することを防止しつつ、密封装置がハブベアリングに加えるトルク抵抗を増加させないようにすることが求められている。
【0004】
図3は、従来のハブベアリングに取り付けられる密封装置(以下、ハブシールともいう。)の概略構成を示すための部分断面図である。
図3に示すように、従来のハブシールとしての密封装置100は、ハブベアリング200において、互いに同軸に相対回動する外輪201と内輪202との間の環状の空間203を密封するために、外輪201と内輪202との間に圧入されている。密封装置100は、空間203内に充填された転動体204の潤滑剤の漏洩を抑制すると共に空間203内に異物が侵入することを抑制している。
【0005】
密封装置100は、密封装置本体110と、スリンガ118とを備え、
図3に示すように、ハブベアリング200の外輪201の内周面に内嵌された金属製の補強環111と、補強環111を覆うように一体に形成されたゴム材からなる弾性体部112と、ハブベアリング200の内輪202の外周面に外嵌された環状のスリンガ118とを備えている。スリンガ118は円筒状の円筒部118aと、断面が円筒部118aに直交するように形成されたフランジ部118bとを備えている。
【0006】
密封装置本体110において、弾性体部112は、サイドリップ115とラジアルリップ116とを有しており、サイドリップ115はスリンガ118のフランジ部118bに摺接し、ラジアルリップ116はスリンガ118の円筒部118aに摺接している。サイドリップ115は、異物がハブベアリング200の空間203内へ浸入することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−94706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図3に示すような従来の密封装置100においては、サイドリップ115によって異物の侵入の防止が図られている。しかしながら、車両の使用環境の多様化により、より過酷な使用環境における異物の侵入の防止が求められるようになっており、このために、従来の密封装置100に対しては異物の侵入防止性能の向上が求められていた。異物の侵入防止性能の向上には、従来のようにスリンガ118に摺接するサイドリップ115の増加が考えられるが、サイドリップ115による摺接による異物の侵入の防止はハブベアリング200のトルク抵抗を増大させることになる。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされてものであり、その目的は、発生するトルク抵抗の増大を回避しつつ、異物の侵入防止機能を向上させることができる密封装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る密封装置は、ベアリングにおいて軸線について互いに相対回動可能な環状の外周側部材と該外周側部材に少なくとも部分的に包囲された環状の内周側部材との間を密封する密封装置であって、前記外周側部材に取り付けられる密封装置本体と、前記密封装置本体の外側に位置し前記内周側部材に取り付けられる前記軸線を中心とする環状のスリンガとを備え、前記密封装置本体は、前記軸線を中心とする環状の補強環と、該補強環に取り付けられている、弾性体から形成されている前記軸線を中心とする環状の弾性体部とを備え、前記弾性体部は、前記スリンガに当接するシールリップと、前記スリンガとの間に間隙を形成するラビリンスリップとを備え、前記スリンガは、前記内周側部材に取り付けられるスリンガ円筒部と、前記スリンガ円筒部の前記外側の端部から外周側へ延びるスリンガフランジ部と、前記スリンガフランジ部の前記外周側の端部から内側へ延び屈曲して戻る環状のスリンガ屈曲部と、前記スリンガ屈曲部の前記外周側の端部から前記外周側部材に沿って前記外周側へ延びさらに曲げられて前記外周側部材の外周面に沿って前記内側へ延びるスリンガ延長部とを備え、前記スリンガ屈曲部及び前記スリンガ延長部は、前記弾性体部及び前記外周側部材との間に間隙を有してラビリンスシールを形成していることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記スリンガ屈曲部は、断面略U字状に形成されており、前記スリンガフランジ部の前記端部から前記内側へ延びるスリンガ屈曲部内円筒部と、前記スリンガ屈曲部内円筒部の前記内側の端部から前記外周側へ延びるスリンガ屈曲部フランジ部と、前記スリンガ屈曲部フランジ部の前記外周側の端部から前記外側へ延びるスリンガ屈曲部外円筒部とを備え、前記スリンガ屈曲部フランジ部及びスリンガ屈曲部外円筒部は前記補強環に対向しており、前記ラビリンスシールは前記スリンガ屈曲部内円筒部に向かって延びている。
【0012】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記ラビリンスリップは、前記スリンガ屈曲部の内周側に位置し、先端において前記スリンガ屈曲部内円筒部との間に前記間隙を形成している。
【0013】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記ラビリンスリップは、前記外周側へ傾斜して延びており、前記ラビリンスシールを経由して到達する異物の滞留を可能にする液溜部を形成している。
【0014】
本発明の一態様に係る密封装置において、前記スリンガの前記外側に、車輪の回転数検出装置を構成する磁気エンコーダが取り付けられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る密封装置によれば、発生するトルク抵抗の増大を回避しつつ、異物の侵入防止機能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る密封装置の軸線に沿った断面における断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る密封装置がハブベアリングに取り付けられた状態を示す軸線に沿った断面における断面図である。
【
図3】従来の密封装置を示す軸線に沿った断面における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照し説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る密封装置1の概略構成を示す断面図であり、
図2は、本発明の実施の形態に係る密封装置1が例えば自動車において車輪を回転自在に支持するハブベアリング50に取り付けられた状態を示す断面図である。
【0019】
図2に示すようにハブベアリング50は、外周側部材としての軸線xを中心とする環状の外輪51と、内周側部材としての外輪51に対して相対回動可能な軸線xを中心とする外輪51に部分的に包囲された環状のハブ52と、外輪51とハブ52との間に配設された複数のベアリングボール53とを備えている。ハブ52は、具体的には、内輪54とハブ輪55とを有しており、ハブ輪54の車輪取付フランジ56に複数本のハブボルト57によって図示しない車輪が取り付けられる。
【0020】
本発明の実施の形態に係る密封装置1は、ハブベアリング50の外輪51の内周面と内輪54の外周面との間に取り付けられている。外輪51の内周面とハブ輪55の外周面との間には、他の密封装置60が取り付けられている。なお、本発明の実施の形態に係る密封装置1は、他の密封装置60に代えて、外輪51の内周面とハブ輪55の外周面との間に取り付けることも可能である。
【0021】
外輪51と内輪54との間の空間5にはハブベアリング50の空間5を密封するように軸線xを中心とする環状の密封装置1が配設されている。密封装置1はハブベアリング50のベアリングボール53等が設けられている領域内からの潤滑剤の漏洩の防止を図ると共に、この領域に雨水や泥水やダスト等の異物が侵入することの防止を図っている。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る密封装置1は、軸線xを中心とする環状の密封装置本体10と、軸線xを中心とする環状のスリンガ20とを備える。スリンガ20は、密封装置本体10に対向して、密封装置本体10の外側に配設されている。
【0023】
密封装置本体10は、軸線xを中心とする環状の弾性体から成る弾性体部11と、軸線xを中心とする環状の金属製の補強環12とを備えている。
【0024】
弾性体部11は、補強環12に一体的に取り付けられている。弾性体部11の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。ゴム材は、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。補強環12の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。
【0025】
弾性体部11は、
図1に示すように、外周側において延びる、軸線xを中心とする円筒状の外周部13と、外周部13の内側の端部から内周方向に延びる基体部14とを備えている。
【0026】
ここで、説明の便宜上、外側とは、
図1に示すように、軸線x方向において矢印a方向とし、内側とは、軸線x方向において矢印b方向とする。つまり、外側とは、ハブベアリング50の外部側に面する方向の側であり、異物が存在する大気側に面する方向の側である。内側とは、ハブベアリング50の内部側に面する方向の側であり、空間5に面する方向の側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(
図1の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(
図1の矢印d方向)を内周側とする。
【0027】
基体部14は、スリンガ20に対し当接することなくスリンガ20に対し間隙18を形成するラビリンスリップ15と、スリンガ20に対し当接するシールリップとしてのサイドリップ16及びラジアルリップ17とを備えている。ラビリンスリップ15及びサイドリップ16は、軸線xを中心とする環状のリップであり、外側に向かって延びており、ラジアルリップ17は、軸線xを中心とする環状のリップであり、内周側に向かって延びている。ラビリンスリップ15はサイドリップ16よりも外周側(矢印c方向)に設けられており、ラジアルリップ17はサイドリップ16よりも内周側(矢印d方向)及び内側に設けられている。ラビリンスリップ15は、
図1に示すように、軸線x方向に対して傾斜して延びており、例えば、軸線x方向から外周側に傾斜する方向に延びており、軸線x方向において外側(矢印a方向)に向かうにつれて拡径する円錐筒状の形状を呈している。サイドリップ16は、軸線x方向に対して傾斜して延びており、例えば、軸線x方向から外周側に傾斜する方向に延びており、軸線x方向において外側に向かうにつれて拡径する円錐筒状の形状を呈している。ラジアルリップ17は、
図1に示すように、径方向に対して傾斜して延びており、例えば、径方向から内側に傾斜する方向に延びており、径方向において内周側に向かうにつれて径方向から拡径する円錐筒状若しくは円環状の形状を呈している。
【0028】
補強環12は、軸線xに沿う断面の形状が、略L字形状であり、軸線xを中心とする円筒状の円筒部12aと、円筒部12aの内側の端部から内周側に向かって延びる、軸線xを中心とする円盤状の円盤部12bとを備えている。補強環12には、内周側及び外側から弾性体部11が取り付けられており、弾性体部11が補強されている。具体的には、補強環12の円筒部12aには、弾性体部11の外周部13が内周側から取り付けられており、
図1に示すように、円筒部12aの外側の端部は、外周部13に覆われて埋設されている。また、補強環12の円盤部12bには、弾性体部11の基体部14が内周側から取り付けられており、
図1に示すように、円盤部12bの内周側の端部は、基体部14に覆われて埋設されている。弾性体部11の外周部13は、補強環12の円筒部12aの外周側の部分において、外輪51に嵌着されるガスケット部を形成しており、密封装置本体10が外輪51に圧入された際に、外輪51の内周面と補強環12の円筒部12aとの間において圧縮されて、径方向外側に向かう力を発生する。
【0029】
補強環12は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部11は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、補強環12は成形型の中に配置されており、弾性体部11が架橋接着により補強環12に接着され、弾性体部11が補強環12と一体的に成形される。
【0030】
スリンガ20は、金属製、例えばステンレス鋼製の部材であり、軸線xを中心とする板状の環状の部材である。スリンガ20は、内輪54の外周面に内嵌される軸線xを中心とする環状のスリンガ円筒部21と、スリンガ円筒部21の外側の端部である外周端部21aから外周側へ延びる軸線xを中心とする環状のスリンガフランジ部22と、スリンガフランジ部22の外周側の端部である外周端部22aから内側(矢印b方向)へ延び屈曲して戻るスリンガ屈曲部23と、スリンガ屈曲部23の外周側の端部である外周端部23dから外輪51の外側に面する端面である外側面51aに沿って外周側へ延びさらに曲げられて外輪51の外周面に面する周面である外周面51bに沿って内側へ延びるスリンガ延長部24とを備えている。スリンガ延長部24は、軸線xを中心とする円盤状のスリンガ延長部フランジ部24aと、軸線xを中心とする円筒状のスリンガ延長部円筒部24bとから構成されている。
【0031】
スリンガ屈曲部23は、より具体的には、断面略U字状に形成されており、スリンガフランジ部22の外周端部22aから内側へ延びるスリンガ屈曲部内円筒部23aと、スリンガ屈曲部内円筒部23aの内側の端部から外周側へ延びるスリンガ屈曲部フランジ部23bと、スリンガ屈曲部フランジ部23bの外周側の端部から外部へ延びるスリンガ屈曲部外円筒部23cとを備えている。スリンガ屈曲部フランジ部23b及びスリンガ屈曲部外円筒部23cは、補強環12に対向しており、ラビリンスリップ15は、スリンガ屈曲部内円筒部23aに向かって延びている。
【0032】
図1に示すように、スリンガ20は、密封装置本体10の弾性体部11の基体部14に対向するように配置されている。具体的には、サイドリップ16は先端部において所定の締め代(接触幅)を持ってスリンガフランジ部22の内側の面に当接し、シール部を形成している。また、ラジアルリップ17は、先端部において所定の締め代を持ってスリンガ円筒部21の外周側の面に当接し、シール部を形成している。
【0033】
また、
図1に示すように、スリンガ20は、密封装置本体10の弾性体部11の基体部14との間に微小な間隙を形成して対向するように配置されている。具体的には、ラビリンスリップ15は、スリンガ屈曲部23のスリンガ屈曲部内円筒部23aの内周側の面との間に環状の間隙18を形成している。また、スリンガ20のスリンガ屈曲部23は、
図1に示すように、スリンガ屈曲部フランジ部23bにおいて弾性体部11の基体部14と対向しており、環状の間隙31を形成している。また、スリンガ屈曲部23は、スリンガ屈曲部外円筒部23cにおいて、弾性体部11の外周部13と対向しており、環状の間隙32を形成している。また、スリンガ20のスリンガ延長部24は、スリンガ延長部フランジ部24aにおいて、密封装置本体10の外周側且つ外側の端部である外周外側端部10a及び外輪51の外側面51aと対向しており、環状の間隙33を形成している。また、スリンガ20のスリンガ延長部24は、スリンガ延長部円筒部24bにおいて、外輪51の外周面51bと対向しており、環状の間隙34を形成している。なお、本実施の形態においては、外周外側端部10aは、弾性体部11の外周部13の外側の端部によって画成されている。外周外側端部10aは、弾性体部11の外周部13によって画成されるものに限らず、補強環12の円筒部12aの外側の端部によって画成されていてもよい。
【0034】
間隙31〜34はそれらの外側で途切れることなくスリンガ20によって画成されており、一続きの微小な間隙を形成している。外部から雨水、泥水及びダスト等の異物がサイドリップ16やラジアルリップ17に到達することを想定した場合にそれらの異物は、間隙34〜31を順に経由して高い流動抵抗を受けてサイドリップ16やラジアルリップ17に到達することになる。このために、間隙31〜34は、ラビリンスシールL1を形成している。
【0035】
このように、密封装置1においては、外部から内部への異物の侵入経路の上流側において、密封装置本体10とスリンガ20とが、間隙34、間隙33、間隙32及び間隙31に亘るラビリンスシールL1を形成しており、異物の侵入経路の上流側において、このラビリンスシールL1が異物の侵入の防止を図っている。
【0036】
また、ラビリンスリップ15は、スリンガ屈曲部23の内周側に位置し、軸線x方向から外周側に傾斜する方向に延びており、その先端部がスリンガ屈曲部内円筒部23aとの間に間隙18を形成しラビリンスシールL2を形成している。
【0037】
このように、密封装置1においては、異物の侵入経路において、ラビリンスシールL1の下流側において、ラビリンスリップ15が間隙18を形成しラビリンスシールL2を形成しており、異物の侵入経路において、さらにラビリンスシールL2が異物の侵入の防止を図っている。
【0038】
また、ラビリンスリップ15と弾性体部11の基体部14とは、ラビリンスリップ15と基体部14とによって挟まれた部分に、内周側に窪み外周側に開口する環状の溝状の液溜部35を形成している。上述のように、ラビリンスリップ15はスリンガ屈曲部内円筒部23aとの間に間隙18を形成してラビリンスシールL2を形成しているので、ラビリンスシールL1を経由して到達した異物は、ラビリンスシールL2を通過しにくくなり、液溜部35に捕らわれて滞留する。このため、異物がさらにシール内部へ侵入することを抑制することができる。また、液溜部35に滞留された異物は、その自重によって落下していき、下方に落下した異物は、内輪54(スリンガ20)の回転による遠心力の作用を受けて外周側へ戻されて密封装置1の外部に排出される。これにより、サイドリップ16やラジアルリップ17に到達する異物をより少なくすることができる。なお、密封装置本体10が回転する場合は、その遠心力の作用を受けて、液溜部35に滞留された異物は密封装置1の外部に排出され、異物がさらにシール内部へ侵入することを抑制することができる。
【0039】
なお、スリンガ20の外側には、車輪の回転数検出装置を構成する磁気エンコーダ41が取り付けられていてもよい。スリンガ20はスリンガ円筒部21からスリンガ延長部24に至り径方向に広い幅を有するように形成されているので、磁気エンコーダ41のスリンガ20に対する接着面積を大きくできると共に検出領域を広くした磁気エンコーダ41をスリンガ20に取り付けることが可能になる。
【0040】
このように、本発明の実施の形態に係る密封装置1においては、外部からの雨水、泥水及びダスト等の異物の侵入経路において、サイドリップ16及びラジアルリップ17に加えて、上流側からラビリンスシールL1,L2が形成されており、異物の侵入防止機能を向上させることができる。
【0041】
また、ラビリンスシールL1を流動した異物はラビリンスシールL2を通過しようとするが、この異物はラビリンスシールL2を通過する前に液溜部35に捕らわれて滞留し、自重により下方に落下し、ハブベアリング50の回転に基づく遠心力の作用を受けて外部へ排出される。これにより、異物の侵入防止機能をさらに向上させることができる。
【0042】
また、密封装置1においては、回転しない密封装置本体10及び外輪51と回転するスリンガ20とが接触することなく形成するラビリンスシールL1,L2及び液溜部35によって、異物の侵入防止機能の向上がなされている。このために、異物の侵入防止機能の向上のために、スリンガ20に発生するトルク抵抗が増加することはなく、密封装置1においては、スリンガ20に発生するトルク抵抗の増加を回避しつつ、異物の侵入防止機能を向上させることができる。
【0043】
上述のように、本発明の実施の形態に係る密封装置1によれば、外輪51の外周面51bとスリンガ延長部円筒部24bとによって画成される間隙34、密封装置本体10の外周側(矢印c方向)且つ外側(矢印a方向)の外周外側端部10a及び外輪51の外側面51aと、スリンガ延長部フランジ部24aとで画成される間隙33、スリンガ屈曲部外円筒部23cと弾性体部11の外周部13とによって画成される間隙32、及びスリンガ屈曲部フランジ部23bと弾性体部11の基体部14とによって画成される間隙31がラビリンスシールL1を形成するので、外部から侵入する雨水、泥水及びダスト等の異物は、ラビリンスシールL1によって大きな流動抵抗を受け、密封装置1の内部に侵入することが抑制される。
【0044】
また、ラビリンスリップ15はスリンガ屈曲部内円筒部23aとの間で間隙18によってラビリンスシールL2を形成しているので、ラビリンスシールL1を通過した異物がラビリンスシールL2を通過することをさらに抑制することができる。
【0045】
また、異物の侵入経路において間隙31の下流側にはラビリンスシールL2に近接して液溜部35が形成されているので、ラビリンスシールL1を通過した異物を液溜部35によって捕獲して滞留し、その自重、及び遠心力の作用によって外部へ戻すことによって、異物が密封装置1の内部に浸入することを抑制することができる。
【0046】
また、ラビリンスリップ15はスリンガ20に対して間隙18を形成し非接触であるので、ハブベアリング50に発生するトルク抵抗を低くすることができる。
【0047】
また、スリンガ20は径方向に広い幅を有するように形成されているので、磁気エンコーダ41のスリンガ20に対する接着面積を大きくできると共に検出領域を広くした磁気エンコーダ41をスリンガ20に取り付けることが可能になる。
【0048】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係る密封装置1に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0049】
1、60、100 密封装置
5、203 空間
10、110 密封装置本体
10a 外周外側端部
11、112 弾性体部
12、111 補強環
12a 円筒部
12b 円盤部
13、113 外周部
14、114 基体部
15 ラビリンスリップ
16、115 サイドリップ
17,116 ラジアルリップ
18、31、32、33、34 間隙
20、118 スリンガ
21 スリンガ円筒部
22 スリンガフランジ部
23 スリンガ屈曲部
23a スリンガ屈曲部内円筒部
23b スリンガ屈曲部フランジ部
23c スリンガ屈曲部外円筒部
24 スリンガ延長部
24a スリンガ延長部フランジ部
24b スリンガ延長部円筒部
35 液溜部
41 磁気エンコーダ
L1、L2 ラビリンスシール
50、200 ハブベアリング
51、201 外輪
52 ハブ
53 ベアリングボール
54、202 内輪
55 ハブ輪
56 車輪取付フランジ
57 ハブボルト
118a 円筒部
118b フランジ部
x 軸線