(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805188
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】検出器
(51)【国際特許分類】
G01C 19/5776 20120101AFI20201214BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20201214BHJP
H03H 9/24 20060101ALI20201214BHJP
H03H 11/04 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
G01C19/5776
G01R33/02 Z
H03H9/24 Z
H03H11/04 J
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-11924(P2018-11924)
(22)【出願日】2018年1月26日
(65)【公開番号】特開2019-128326(P2019-128326A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2019年8月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト/超低消費電力データ収集システムの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畠山 庸平
(72)【発明者】
【氏名】板倉 哲朗
【審査官】
續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−065768(JP,A)
【文献】
特開2009−258047(JP,A)
【文献】
特開2007−327943(JP,A)
【文献】
特開2016−161451(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0039325(US,A1)
【文献】
国際公開第2006/129712(WO,A1)
【文献】
特開2011−047921(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3159045(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0336438(US,A1)
【文献】
特開2014−095550(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1604461(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 19/5776
G01R 33/02
H03H 9/24
H03H 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に振動可能な第1機械振動子と、当該第1機械振動子に機械的に接続され、前記第1方向に対して垂直な第2方向に振動可能な第2機械振動子と、振動中の前記第1機械振動子を捕捉すると共に捕捉した前記第1機械振動子を解放する捕捉及び解放機構とを含む振動機構と、
前記第1機械振動子の振動中の前記第1方向における位置を検出し、当該検出した位置に対応する第1信号を出力する第1回路であって、前記第1信号は第1周波数を含む前記第1回路と、
前記第2機械振動子の振動中の前記第2方向における位置を検出し、当該検出した位置に対応する第2信号を出力する第2回路と、
前記第1信号を同期検波基準信号に用いて前記第2信号を同期検波し、検波信号を出力する同期検波回路と、
クロック信号に従って前記検波信号に対する移動平均処理を開始し、かつ、前記第1信号を用いて規定した期間においては前記開始した移動平均処理を続ける移動平均フィルタと、
前記振動機構を制御する第1制御部であって、前記クロック信号に同期して前記捕捉及び解放機構により前記第1機械振動子の前記第1方向における振動を開始させ、かつ、前記移動平均フィルタが前記移動平均処理を行っている期間においては前記捕捉及び解放機構は前記第1機械振動子を捕捉せずに前記開始された振動を続けさせる前記第1制御部と
を具備する検出器。
【請求項2】
前記第1信号を用いて規定した前記期間は、前記第1周波数に対応する周期のM倍(Mは正の整数)である請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
前記移動平均フィルタは、前記クロック信号のクロックの立ち上がりから前記第1信号で規定される一定時間の経過後に前記移動平均処理を開始する請求項1または2に記載の検出器。
【請求項4】
前記第1信号で規定される前記一定時間は、前記第1周波数に対応する周期のN倍(Nは正の整数)である請求項3に記載の検出器。
【請求項5】
第1方向に振動可能な第1機械振動子と、当該第1機械振動子に機械的に接続され、前記第1方向に対して垂直な第2方向に振動可能な第2機械振動子とを含む振動機構と、
前記第1機械振動子の振動中の前記第1方向における位置を検出し、当該検出した位置に対応する第1信号を出力する第1回路であって、前記第1信号は第1周波数を含む前記第1回路と、
前記第2機械振動子の振動中の前記第2方向における位置を検出し、当該検出した位置に対応する第2信号を出力する第2回路と、
前記第1信号を同期検波基準信号に用いて前記第2信号を同期検波し、検波信号を出力する同期検波回路と、
前記第1周波数よりも高い第2周波数を有する第3信号を生成し、当該生成した第3信号を出力する第3回路と、
クロック信号に従って前記検波信号に対する移動平均処理を開始し、かつ、前記第3信号を用いて規定した期間においては前記開始した移動平均処理を続ける移動平均フィルタと、
前記振動機構を制御する第1制御部であって、前記クロック信号に同期して前記第1機械振動子の前記第1方向における振動を開始させる前記第1制御部と
を具備する検出器。
【請求項6】
前記第3信号の周波数は、前記第1周波数のP倍(Pは2以上の整数)である請求項5に記載の検出器。
【請求項7】
前記第3信号を用いて規定した前記期間は、前記第3信号の周期のQ倍(Q=P× M、Mは正の整数)である請求項5または6に記載の検出器。
【請求項8】
前記移動平均フィルタは、前記クロック信号のクロックの立ち上がりから前記第3信号で規定される一定時間の経過後に前記移動平均処理を開始する請求項5ないし7のいずれかに記載の検出器。
【請求項9】
前記第3信号で規定される前記一定時間は、前記第3信号の周期のR倍(Rは正の整数)である請求項8に記載の検出器。
【請求項10】
前記第1信号を前記第1機械振動子に帰還し、前記第1機械振動子の振動の振幅の大きさを制御する振幅制御回路をさらに具備する請求項5ないし9のいずれかに記載の検出器。
【請求項11】
前記第1周波数は、前記第1機械振動子の共振周波数である請求項1ないし10のいずれかに記載の検出器。
【請求項12】
前記クロック信号を発生する発生回路をさらに具備する請求項1ないし11のいずれかに記載の検出器。
【請求項13】
前記移動平均フィルタの出力信号に基づいて物理量を算出する算出部をさらに具備する請求項1ないし12のいずれかに記載の検出器。
【請求項14】
前記物理量は、角速度または磁力であることを特徴とする請求項13に記載の検出器。
【請求項15】
前記第1回路、前記第2回路、前記同期検波回路および前記移動平均フィルタを制御する第2制御部をさらに具備する請求項1ないし14のいずれかに記載の検出器。
【請求項16】
前記第2制御部が前記第1回路、前記第2回路、前記同期検波回路および前記移動平均フィルタの動作の少なくとも一つを停止し、前記第1制御部は前記第1機械振動子の前記第1方向における振動を停止する請求項15に記載の検出器。
【請求項17】
前記第1機械振動子および前記第2機械振動子はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型の可変キャパシタの可変電極である請求項1ないし16のいずれかに記載の検出器。
【請求項18】
前記第1機械振動子が前記第1方向に振動している期間において、前記振動機構に回転を生じさせる力が作用すると、前記第2機械振動子は前記第2方向に振動する請求項1ないし17のいずれかに記載の検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
機械振動子を備えた検出器が知られている。この種の検出器は機械共振を利用して物理量(例えば、角速度)を検出する。正確な物理量を検出するためには、低域通過フィルタ(LPF)を用いて、同期検波後の直交バイアス成分を除去する必要がある。このLPFには大きな容量素子が求められるが、大きな容量素子を用いずにLPFを構成できるアナログ移動平均フィルタが提案されている。しかし、機械共振を利用するセンサでは、移動平均の開始時間のばらつき(サンプリングジッター)が検出精度の低下になるため、サンプリングジッターを抑制できる、機械振動子を備えた検出器が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4032681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、検出精度の低下を抑制できる、機械振動子を備えた検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る検出器は、振動機構、第1回路、第2回路、同期検波回路、移動平均フィルタおよび第1制御部を含む。前記振動機構は、第1方向に振動可能な第1機械振動子と、当該第1機械振動子に機械的に接続され、前記第1方向に対して垂直な第2方向に振動可能な第2機械振動子とを含む。前記第1回路は、前記第1機械振動子の振動中の前記第1方向における位置を検出し、当該検出した位置に対応する第1信号を出力する。前記第1信号は第1周波数を含む。前記第2回路は、前記第2機械振動子の振動中の前記第2方向における位置を検出し、当該検出した位置に対応する第2信号を出力する。前記同期検波回路は、前記第1信号を同期検波基準信号に用いて前記第2信号を同期検波し、検波信号を出力する。前記移動平均フィルタは、クロック信号に従って前記検波信号に対する移動平均処理を開始し、かつ、前記第1信号を用いて規定した期間においては前記開始した移動平均処理を続ける。前記第1制御部は前記振動機構を制御し、前記クロック信号に同期して前記第1機械振動子の前記第1方向における振動を開始させ、かつ、前記移動平均フィルタが前記移動平均処理を行っている期間においては前記開始された振動を続けさせる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る検出器を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、移動平均フィルタの特性を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る検出器の第1変換回路、第2変換回路、同期検波回路および移動平均フィルタの等価回路の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る検出器の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、比較例の検出器の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、第2の実施形態に係る検出器を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、第2の実施形態に係る検出器の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、第2の実施形態に係る検出器の第1変換回路、第2変換回路、同期検波回路および移動平均フィルタの等価回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図面は、模式的または概念的なものであり、必ずしも現実のものと同一であるとは限らない。また、図面において、同一符号は同一または相当部分を付してあり、重複した説明は必要に応じて行う。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る検出器1を模式的に示す図である。
【0009】
検出器1は回転が生じた時に発生する角速度を検出するジャイロセンサであり、機械振動機構10、角速度検出部20、サンプリングクロック発生回路30、第1制御部41および第2制御部42を含む。
【0010】
機械振動機構10は、第1方向D1に振動可能な第1機械振動子(ドライブ振動子)11と、第1方向D1に対して垂直な第2方向D2に振動可能な第2機械振動子(センス振動子)12とを含む。第2機械振動子12は第1機械振動子11に機械的に接続されている。
【0011】
第1機械振動子11は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型の可変キャパシタ(以下、MEMSキャパシタという)を構成する要素の一つである可動電極である。可動電極はばね(機械要素)の一端に接続されており、当該ばねの伸縮によって可動電極は第1方向D1に振動する。ばねの他端はアンカーと呼ばれる支持部材を介して基板上に接続されている。可動電極は基板上に固定された固定電極と対向するように配置されている。上記のばね、支持部材、基板および固定電極は、可動電極と同様に、MEMSキャパシタを構成する要素である。
【0012】
可動電極の第1方向D1の振動に伴い、可動電極と固定電極との距離が変化し、可動電極と固定電極との間の容量は変化する。すなわち、MEMSキャパシタの容量は、第1機械振動子11である可動電極の第1方向D1の位置(変位)に応じて変化する。機械振動機構10は上記容量(第1方向D1の位置)に対応する信号S11を出力するように構成されている。
【0013】
機械振動機構10は、捕捉及び解放機構(C&R機構)13をさらに含む。捕捉及び解放機構13は、振動中の第1機械振動子11を捕捉するとともに、捕捉した第1機械振動子11を解放して第1機械振動子11の振動を開始するものである。
【0014】
第1機械振動子11が第1方向D1に振動している期間において、第1機械振動子11(機械振動機構10)に回転を生じさせる力が働くと、第2方向D2に平行な向きを有する力(コリオリ力)が第1機械振動子11に働く。上記コリオリ力によって、第1機械振動子11に機械的に接続された第2機械振動子12は第2方向D2に振動する。上記回転は一回転(360度)に満たない回転も含む。
【0015】
第2機械振動子12は、第1機械振動子11と同様に、MEMSキャパシタを構成しており、第2機械振動子12の第2方向D2の位置(変位)に応じて上記MEMSキャパシタの容量は変化する。機械振動機構10は上記容量(第2方向D2の位置)に対応する信号S12を出力する。信号S12には直交バイアス(Quadrature error)という外乱信号が重畳されている。この外乱信号は検出したい角速度に対応する信号(所望信号)と一致した周波数を有するが、所望信号とは位相が90度ずれている。
【0016】
角速度検出部20は、機械振動機構10の出力信号S11,S12に基づいて、第1機械振動子11に発生じた回転の角速度を取得するように構成されている。以下、角速度検出部20についてさらに説明する。
【0017】
角速度検出部20は、第1機械振動子11の第1方向D1の位置を検出するための第1位置検出回路21と、第2機械振動子12の第2方向D2の位置を検出するための第2位置検出回路22とを含む。
【0018】
第1位置検出回路21には信号S11(容量)が入力される。第1位置検出回路21は信号S11(容量)に基づき第1機械振動子11の第1方向D1の位置を検出し、当該検出した位置に対応する信号(第1信号)S21を出力する。信号S21は第1機械振動子11の共振周波数f(第1周波数)を含む。第1機械振動子11が第1方向D1に振動している間は、第1位置検出回路21は信号S21を出力する。
【0019】
同様に、第2位置検出回路22は信号S12(容量)に基づき第2機械振動子12の第2方向D2の位置を検出し、当該検出した位置に対応する信号(第2信号)S22を出力する。信号S22は、共振周波数成分を角速度で変調した成分Iと、直交バイアスによる成分Q(Quadrature error)とを含む。上記角速度は、第1機械振動子の回転の角速度である。
【0020】
角速度検出部20は、同期検波回路23をさらに含む。同期検波回路23には信号S21および信号S22が入力される。同期検波回路23は、信号S21を同期検波基準信号に用いて信号S22を同期検波し、検波信号S23を出力する。より詳細には、同期検波基準信号(信号S21)の位相と、共振周波数成分を角速度で変調した成分Iの位相とを合わせて、同期検波基準信号を用いて信号S22の同期検波を行うと、角速度成分(所望信号)が復調されて低周波側の周波数にシフトし、直交バイアスによる成分Q(外乱信号)は共振周波数fの2倍の周波数にシフトする。検波信号S23は、所望信号に対応する信号(ベースバンド成分)および外乱信号に対応する信号(高周波成分)を含む。
【0021】
角速度検出部20は、移動平均フィルタ24および算出部25をさらに含む。
【0022】
本実施形態では、移動平均フィルタ24としてアナログ移動平均処理を行うアナログ移動平均フィルタを用いる。 移動平均フィルタ24にはサンプリングクロック信号(基準クロック信号)S30が入力される。サンプリングクロック信号S30はサンプリングクロック発生回路30によって発生される。移動平均フィルタ24は、サンプリングクロック信号S30に従って検波信号S23に対するアナログ移動平均処理を開始し、そして、信号S21を用いて規定した期間においては上記開始した移動平均処理を続ける。移動平均処理の実装には大きな容量素子は不要なので、移動平均フィルタ24は容易に小型化できる。
【0023】
移動平均フィルタ24は、
図2に示すように、ローパスフィルタ特性を有するとともに、f/m(mは正の整数)倍の周波数でノッチ特性を有するので、低周波側の周波数にシフトした角速度成分(所望信号)は除去しないが、共振周波数fの2倍の周波数にシフトした成分Q(外乱信号)は除去する。したがって、移動平均フィルタ24の出力信号S24は、低周波側の周波数にシフトした角速度成分(所望信号)は含むが、共振周波数fの2倍の周波数にシフトした成分Q(外乱信号)は含まない。
【0024】
移動平均フィル24による移動平均処理が完了した後、捕捉及び解放機構13は第1機械振動子を捕獲し、第1機械振動子11はその振動エネルギーを保存しながら停止する。このときの捕捉及び解放機構13の制御は第1制御部41によって行われる。
【0025】
算出部25には信号S24が入力され、算出部25は信号S24に基づいて第1機械振動子11に回転を生じさせる力に対応する角速度を算出する。
【0026】
第1制御部41は機械振動機構10を制御する。より詳細には、第1制御部41は、サンプリングクロック信号S30に同期して第1機械振動子11の第1方向D1の振動が開始するように、捕捉及び解放機構13を制御する。第2制御部42は角速度検出部20を制御する。例えば、第2制御部42は、角速度検出部20を構成する要素21〜25の動作のオン/オフを制御する。
【0027】
なお、機械振動機構10および角速度検出部20はそれぞれ第1制御部41および第2制御部42で制御されているが、一つの制御部で制御されても構わない。
【0028】
以下、本実施形態の検出器1についてさらに詳細に説明する。
【0029】
第1位置検出回路21は第1変換回路を含む。当該第1変換回路は信号S11に対応する容量を電圧に変化する。第2位置検出回路22は第2変換回路を含む。当該第2変換回路は信号S12に対応する容量を電圧に変化する。
【0030】
同期検波回路23は電流経路を切り替えるスイッチにより構成され、当該スイッチは信号S21(同期検波基準信号)により制御される。信号S21は電流信号であり、移動平均フィルタ24に入力される。
【0031】
移動平均フィルタ24は、アンプと容量による積分回路と、この容量をリセットするスイッチにより構成される。積分回路はスイッチが開放のときに積分動作(移動平均処理)を行う。より詳細には、移動平均フィルタ24は、同期検波基準信号の周波数(共振周波数f)に対応する周期のM倍(Mは正の整数)の期間(第1信号を用いて規定した期間)だけスイッチを開放にし、当該周期のM倍の期間において積分動作(移動平均処理)を行う。同期検波基準信号の周波数に対応する周期のM倍の期間は、例えば、同期検波基準信号のクロック数をカウンタを用いてカウントすることで取得する。
【0032】
図3は、上述した第1変換回路、第2変換回路、同期検波回路および移動平均フィルタ(積分回路およびアンプ)の等価回路の一例である。
【0033】
第1変換回路は、第1機械振動子11の第1方向の位置(変位x)により容量値が変化する容量C
ドライブと、これにバイアス電圧V
bを印加するための高インピーダンス素子Z
0と、電圧レベルシフト用の容量Cと、電流−電圧変換回路とで構成される。
【0034】
容量C
ドライブにはバイアス電圧V
bが印加されているため、バイアス電圧V
bの値と容量Cの値との積に対応する電荷が保持される。また、容量Cにはインピーダンス素子Z
0と電流−電圧変換回路の入力電圧間の電圧とが印加されている。C>>C
ドライブとすることで容量C
ドライブの容量値が変化しても容量Cに掛かる電圧は変わらない、つまり容量Cと容量C
ドライブとの接続点の電圧は変わらない。第1機械振動子11の変位により容量C
ドライブが変化すると、V
b・(dC
ドライブ/dt)が信号電流として容量Cを介して電流−電圧変換回路に入力され、電圧信号に変換され、同期検波基準信号として出力される。
【0035】
第2変換回路は、第2機械振動子12の第2方向の位置(変位y)により容量値が変化する容量C
センスと、当該容量C
センスにバイアス電圧V
bを印加するための高インピーダンス素子Z
0と、電圧レベルシフト用の容量Cと、当該容量Cに所定の電圧を印加するための高インピーダンス素子Z
1と、電圧-電流変換回路とで構成される。
【0036】
容量C
センスには高インピーダンス素子Z
0を介してバイアス電圧V
bが印加されているため、容量C
センスにはバイアス電圧V
bの値と容量C
センスの値との積に対応する電荷が保持される。また、容量Cにはインピーダンス素子Z
0およびZ
1を介してバイアス電圧V
bが印加されている。C>>C
センスとすることで容量C
センスの容量値が変化しても容量Cに掛かる電圧は変わらない。
【0037】
第2機械振動子12の変位により容量C
センスが変化しても当該容量C
センスが保持している電荷量は変わらないため、C
センスで微分すると、0=dQ/dC
センス=(dV
b/dC
センス)・C
センス+V
bとなる。したがって、ΔV
b=−V
b・(dC
センス/C
センス)となる。なお、ここではdC
センス/C
センス<<1と仮定している。このように第2機械振動子の変位により容量C
センスが変化しても容量C
センスに保持されている電荷量が変わらないように容量Cセンスに掛かる電圧は変化する。当該電圧は信号電圧として容量Cを介して電圧-電流変換回路に入力され、電流信号(信号S22)が出力される。
【0038】
図4は検出器1の動作を説明するためのタイミングチャートであり、サンプリングクロック信号、同期検波基準信号、および、移動平均フィルタが移動平均処理(積分)を行う期間を示している。
【0039】
サンプリングクロック信号は第1制御部41に入力される。第1制御部41は、サンプリングクロック信号に同期して、第1機械振動子11が解放されるように、捕捉及び解放機構13を制御する。
図4の場合、サンプリングクロック信号のクロックの立ち上がりのタイミング(サンプリングトリガ)で、第1機械振動子11は解放される。
【0040】
第1機械振動子11は解放されると振動を開始する。第1機械振動子11が振動している期間においては、第1位置検出回路21の出力信号(S21)は同期検波基準信号(共振周波数f)である。
図4において、斜線で示された期間(キャッチ)は、第1機械振動子1が捕獲されている期間である。当該期間においては、第1位置検出回路21の出力信号(S21)はゼロである。
【0041】
サンプリングクロック信号は移動平均フィルタ24にも入力される。移動平均フィルタ24は、サンプリングクロック信号のクロックの立ち上がりから移動平均処理(積分)を開始する。この移動平均処理(積分)は、同期検波基準信号を用いて規定した期間において続けられる。本実施形態では、上記期間は、同期検波基準信号の周波数に対応する周期の2倍である。上記期間は、一般には、共振周波数fに対応する周期(1/f)のM倍(Mは正の整数)である。
【0042】
移動平均フィルタ24が上記期間において移動平均処理を続けられるように、第1制御部41は捕捉及び解放機構13を制御する。すなわち、第1制御部41の制御によって、上記期間の間、捕捉及び解放機構13は第1機械振動子11を捕獲する。
【0043】
このように第1機械振動子11の解放のタイミングがサンプリングクロック信号に同期するように、第1制御部41が捕捉及び解放機構13を制御することにより、
図4に示したように、移動平均フィルタ24の積分の開始時間はサンプリングクロック信号に同期するため、サンプリングジッターの発生を抑制できる。サンプリングジッターの発生を抑制することにより、移動平均フィル24の出力信号(信号S24)のSN比は大きくなり、検出精度の低下を抑制できる。
【0044】
ここで、期検波基準信号(第1機械振動子11の共振周波数f)は経年変化したり、共振周波数fは一般にはサンプリングクロック信号の周波数の整数倍でない。そのため、本実施形態とは異なり、第1機械振動子11の解放のタイミングが同期検波基準信号に同期するように、第1制御部41が捕捉及び解放機構13を制御する場合(比較例の検出器)、
図5に示すように、サンプリングクロック信号で規定されるサンプリングトリガと、同期検波基準信号で規定される移動平均処理の開始時間とが一致せず、サンプリングトリガから積分開始時間までの期間Jは移動平均処理ごとにばらつきが生じる。このような期間Jのばらつきはジッターを発生させるので、移動平均フィル24の出力信号のSN比は小さくなり、検出精度は低下する。
【0045】
移動平均フィルタ24による移動平均処理が完了したら、第1制御部41は機械振動機構10を構成する要素11〜13の少なくとも一つの動作を停止し、第2制御部41は角速度検出部20を構成する要素21〜24の少なくとも一つの動作を停止することにより、検出器1の消費電力化を図ることができる。消費電力を十分に小さくするためには、機械振動機構10を構成する要素11〜13の全ての動作を停止し、角速度検出部20を構成する要素21〜24の全ての動作を停止する。また、算出部25による角速度の算出が完了したときに、移動平均フィルタ24の場合と同様の消費電力化を図っても構わない。
【0046】
動作が停止していた要素は、一定の期間の経過後に、角速度を取得するために再び動作を開始する(間欠動作)。このような間欠動作を行う際に、移動平均フィルタ24の代わりに通常の連続時間低域通過型フィルタを用いた場合、第1機械振動子の共振周波数fの2倍にある不要成分を除去するためにフィルタの次数が増え、セトリング時間がかかってしまう。移動平均フィルタ24は積分期間のみでフィルタリングをできるため、移動平均フィルタ24を用いた検出器1は間欠動作に適している。
【0047】
なお、
図4はサンプリングクロック信号のクロックの立ち上がりから積分(移動平均処理)を開始する例を示しているが、サンプリングクロック信号のクロックの立ち上がり後、同期検波基準信号(共振周波数f)で規定される一定時間の経過後に積分(移動平均処理)を開始しても構わない。このように積分の開始をサンプリングクロック信号のクロックの立ち上がりから遅らせることにより、間欠動作により動作の停止していた要素(回路)が正確に動作を開始するまでの時間(整定時間)を確保でき、取得される角速度の誤差を小さくできる。これは検出精度の低下の抑制に繋がる。同期検波基準信号で規定される一定時間は例えば、同期検波基準信号の周波数に対応する周期のN倍(Nは正の整数)であり、当該周期の数は例えば同期検波基準信号のクロック数をカウントすることで取得する。
【0048】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態に係る検出器1を模式的に示す図である。
【0049】
本実施形態が第1の実施形態と異なる第1の点は、信号S21の周波数(共振周波数f)よりも高い周波数を有する信号(第3信号)S27を生成する逓倍回路27を備えており、そして、信号27を用いて規定した期間において移動平均処理を行うことにある。
【0050】
本実施形態では、信号S21は逓倍回路27に入力され、逓倍回路27は信号S21の周波数を逓倍することにより信号S27を生成する。以下、信号S27を逓倍クロック信号という。
【0051】
図7は検出器1の動作を説明するためのタイミングチャートであり、サンプリングクロック信号、同期検波基準信号、および、逓倍クロック信号、移動平均フィルタが移動平均処理(積分)を行う期間を示している。
図7では、同期検波基準信号を4逓倍したものが逓倍クロック信号である。言い換えれば、逓倍クロック信号の周期は、同期検波基準信号の周期の1/P倍(Pは2以上の整数)である。
【0052】
図7では、サンプリングクロック信号と同期検波基準信号とは同期していない。本実施形態では、サンプリングクロック信号のクロックの立ち上がり(サンプリングトリガ)後、逓倍クロック信号のクロックの立ち上がりから移動平均処理(積分)を開始し、そして、逓倍クロック信号を用いて規定した期間においては上記開始した移動平均処理を続ける。そのため、同期検波基準信号を用いて規定した期間において移動平均処理を続ける場合に比べて、逓倍数に対応する分だけジッターが圧縮されるため、ジッターに起因するSN比の劣化を抑制できる。
【0053】
ここで、移動平均フィルタ24が上記開始した移動平均処理(積分)を行う期間は、逓倍クロック信号を用いて規定されており、例えば、逓倍クロック信号の周期のQ倍(Q=P
×M、Mは正の整数)である。
【0054】
なお、第1の実施形態と同様に、サンプリングクロック信号のクロックの立ち上がり後、逓倍クロック信号で規定される一定時間の経過後に積分(移動平均処理)を開始しても構わない。逓倍クロック信号で規定される一定時間は、逓倍クロック信号の周期のR倍(Rは正の整数)であり、当該周期の数は例えば逓倍クロック信号のクロック数をカウントすることで取得する。
【0055】
本実施形態が第1の実施形態と異なる第2の点は、振動捕捉及び解放機構13を備えておらず、その代わりに、第1機械振動子11の振動の振幅を一定の大きさに制御するための振幅調整回路26を備えていることにある。振幅調整回路26は例えば発振回路を用いて構成される。振幅調整回路26には信号S21が入力される。振幅調整回路26は、入力された信号S21に基づいて、第1機械振動子11の振動の振幅を一定の大きさに制御するための信号S26を生成する。
【0056】
第1の実施形態と同様に、第1位置検出回路21は容量を電圧に変化する第1変換回路を含み、第2位置検出回路22は容量を電圧に変化する第2変換回路を含み、同期検波回路23は電流経路を切り替えるスイッチを含み、移動平均フィルタ24は積分回路およびスイッチを含む。
図8に
図3に対応する等価回路の一例を示す。
【0057】
なお、本実施形態では、サンプリングクロック発生回路30は角速度検出部20内に設けられているが、第1の実施形態と同様に角速度検出部20外に設けられていても構わない。逆に、第1の実施形態のサンプリングクロック発生回路30は、本実施形態と同様に、角速度検出部20内に設けられていても構わない。また、第1および第2の実施形態では物理量として角速度を検出する検出器を説明したが、同様にして物理量として磁力を検出する検出器を実施することも可能である。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
D1…第1方向、D2…第2方向、S21…第1信号、S22…第2信号、S23…検波信号、S24…信号、27…第3信号、S30…サンプリングクロック信号、1…検出器、10…機械振動機構、11…第1機械振動子、12…第2機械振動子、13…捕捉及び解放機構、20…角速度検出部、21…第1位置検出回路、22…第2位置検出回路、23…同期検波回路、24…移動平均フィルタ、25…算出部、26…振幅調整回路、27…逓倍回路、30…サンプリングクロック発生回路。