(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805246
(24)【登録日】2020年12月7日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】酵素的方法によって人参のサポニンからコンパウンドKおよびコンパウンドYを選択的に製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 33/20 20060101AFI20201214BHJP
C07J 75/00 20060101ALI20201214BHJP
C07J 9/00 20060101ALI20201214BHJP
C07J 17/00 20060101ALI20201214BHJP
C12R 1/66 20060101ALN20201214BHJP
C12R 1/685 20060101ALN20201214BHJP
C12R 1/69 20060101ALN20201214BHJP
C12R 1/885 20060101ALN20201214BHJP
【FI】
C12P33/20
C07J75/00
C07J9/00
C07J17/00
C12R1:66
C12R1:685
C12R1:69
C12R1:885
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-520580(P2018-520580)
(86)(22)【出願日】2016年10月21日
(65)【公表番号】特表2018-537422(P2018-537422A)
(43)【公表日】2018年12月20日
(86)【国際出願番号】KR2016011910
(87)【国際公開番号】WO2017069569
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2019年9月27日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0147355
(32)【優先日】2015年10月22日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506213681
【氏名又は名称】アモーレパシフィック コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】ナム ギ ベク
(72)【発明者】
【氏名】キム ドン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】ホン ヨン ドク
(72)【発明者】
【氏名】ジャン チェン イ
(72)【発明者】
【氏名】パク ジュン ソン
【審査官】
松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2008−0028266(KR,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0057536(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 33/20
C07J 9/00
C07J 17/00
C07J 75/00
C12R 1/66
C12R 1/685
C12R 1/69
C12R 1/885
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス属の微生物から分離したペクチナー
ゼと、トリコデルマ属の微生物から分離したペクチナー
ゼとを用いて、人参のサポニンを転換させることによって、下
記化学式1で示すコンパウンドKおよび下
記化学式2で示すコンパウンドY
を製造する方法。
[化学式1]
【化1】
[化学式2]
【化2】
【請求項2】
前記方法は、以下の段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法:
(1)基質である人参のサポニンを水性溶媒または水性溶媒と有機溶媒との混合液中に溶解させ、酵素としてアスペルギルス属の微生物から分離したペクチナーゼと、トリコデルマ属の微生物から分離したペクチナーゼとを添加して、加温状態の水浴槽上で撹拌しながら反応させ、コンパウンドKおよびコンパウンドYが含まれた反応液を得る段階;
(2)前記の基質が完全消失したら、前記(1)の反応液中の酵素を不活性化させて反応を終了させる段階;および
(3)前記(2)の段階後の反応液に酢酸エチルを添加して抽出した後に濃縮させて、コンパウンドKおよびコンパウンドYを分離する段階。
【請求項3】
前記基質である人参のサポニンは、ジンセノサイドRb1、Rb2、Rc、Rdまたはこれらの混合物中から選択される一種以上であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アスペルギルス属の微生物は、アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルスアクレアタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルスルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)およびアスペルギルスオリゼ(Aspergillus oryzae)からなる群より選択される一種以上であって、
前記トリコデルマ属の微生物は、トリコデルマアグレシバム(Trichoderma aggressivum)、トリコデルマハルジアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマリーゼイ(Trichoderma reesei)およびトリコデルマビリデ(Trichoderma viride)からなる群より選択される一種以上であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記アスペルギルス属から分離したペクチナーゼと、トリコデルマ属から分離したペクチナーゼとは、同時にまたは順次的に添加されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素の全体量は、基質の量に対して10〜400重量%に該当することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記(1)の酵素の反応は、35〜60℃の温度で行われることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記(1)の酵素の反応は、24〜96時間反応することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記水性溶媒または水性溶媒と有機溶媒との混合液は、pHが3〜6の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人参のサポニンから、本来人参内に微量に存在するコンパウンドKおよびコンパウンドYを選択的に製造する方法に関し、さらに詳細には、人参から得られるサポニンに特定の酵素を処理して、上記サポニンを構造転換させることによって所望する目標化合物、すなわちコンパウンドKおよびコンパウンドYを高収率に収得することのできる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人参サポニンは他の植物から発見されるサポニンとは異なる特異な化学構造を有しており、これによって薬理効能も特異なため、人参(ginseng)配糖体(glycoside)という意味で“ジンセノサイド(ginsenoside)”とも呼ばれる。人参サポニンの具体的な種類としては、パナキサジオール系であるジンセノサイドRb1、Rb2、Rc、Rd、コンパウンドK、コンパウンドMc、コンパウンドOなど、およびパナキサトリオール系であるジンセノサイドRe、Rf、Rg1、Rg3、Rg5、Rh1、Rh2などがあって、これら人参サポニンはそれぞれ異なる効能を表す。
【0003】
[反応式1]
【化1】
【0004】
上記の反応式1に示すように、特にパナキサジオール系サポニンであるジンセノサイドRb1、Rb2、Rcなどは微生物代謝によって他の人参サポニンに転換され得るため、人参サポニンから他の種類の特定の人参サポニンに転換させる方法として酵素を用いる方法が以前から使用されている。
【0005】
しかしながら、従来の酵素を用いる転換反応は、基質に対する酵素の非特異性が大きいため用いられるサポニン基質対比極めて多い量の酵素を使用せざるを得ず、また、生成される所望する人参サポニンの収率が極めて低かった。
【0006】
人参サポニンを収得する従来の方法は、所望する特定の人参サポニンだけに転換させるのではなく、転換された多様な人参サポニンを抽出などを通じて収得した後、これを精製して、所望する人参サポニンのみを分離することを技術的解決策としている。
【0007】
ところが、このような従来方法は、純粋な特定の人参サポニンを収得するために精製による追加的な費用、時間などが所要されるため、人参サポニンの販売価が上昇せざるを得ず、これによって関連製品に人参サポニンを多量に適用するには限界がある。
【0008】
特に、コンパウンドKの場合には人参サポニンから転換される化合物の経路において最後に生成される化合物に該当するため、中間代謝体を全て反応させることのできる多様な酵素が必要となって、さらに反応中間に生成される代謝産物により代謝体と酵素間の反応性が落ちるようになる。それのみならず、中間代謝体間の反応液内の固まる現象によって収率が低くなる問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】大韓民国公開特許第10−2010−0107865号(2010年10月06日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の方法により特定の人参サポニンを収得するためには費用が多くかかるのみならず、所望する人参サポニンを大量に入手することが困難であった。したがって、目標人参サポニンを大量に生産することができ、かつ費用を節減することのできる製造方法を開発する必要性が存在した。
【0011】
それゆえ、本発明は所望する特定の人参サポニンを高収率に収得することができ、かつ実施が容易な人参サポニンの転換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明は、アスペルギルス属から分離したペクチナーゼ、ナリンギナーゼ、セルラーゼおよびヘミセルラーゼからなる群より選択される一種以上と、トリコデルマ属から分離したペクチナーゼおよびセルラーゼからなる群より選択される一種以上とを用いて、人参のサポニンを転換させることによって、コンパウンドKおよびコンパウンドYを高収率で製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明による人参サポニンへの転換方法を用いることによって、所望する人参サポニンを高収率で容易に収得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、人参サポニンへの転換反応後に生成されるコンパウンドKおよびコンパウンドYをシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、酵素的方法によって人参サポニンから、下記の化学式1で示すコンパウンKおよび下記の化学式2で示すコンパウンドYを選択的に製造する方法に関する。
【0018】
本発明の方法によると、微生物由来の酵素を用いることによって、人参のサポニン、具体的には人参のパナキサジオール系のサポニン、さらに具体的にはジンセノサイドRb1、Rb2、Rc、Rdまたはこれらの混合物から、所望する人参サポニンへの転換が効率的に行われるようにして、高収率にコンパウンドKおよびコンパウンドYを収得することができる。
【0019】
具体的には、本発明において用いられる酵素は、好ましくはアスペルギルス属の微生物およびトリコデルマ(Trichoderma)属の微生物から得られるものであって、好ましくはアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルスアクレアタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルスルチュエンシス(Aspergillus luchuensis)およびアスペルギルスオリゼ(Aspergillus oryzae)からなる群より選択される一種以上のアスペルギルス属の微生物、およびトリコデルマ(Trichoderma)属の微生物は、トリコデルマアグレシバム(Trichoderma aggressivum)、トリコデルマハルジアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマリーゼイ(Trichoderma reesei)およびトリコデルマビリデ(Trichoderma viride)からなる群より選択される一種以上のトリコデルマ属の微生物から得られるものであって、最も好ましくはアスペルギルスアクレアタスおよびトリコデルマリーゼイから得られるものである。
【0020】
さらに、本発明において用いられる酵素は、上記の微生物から分離したナリンギナーゼ、ヘミセルラーゼ、ベータ−グルカナーゼ、ラクターゼ、セルラーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ペクチナーゼであることができ、好ましくはペクチナーゼ、ナリンギナーゼ、ヘミセルラーゼまたはセルラーゼである。
【0021】
大部分が同一な作用を行う同じ種類の酵素であっても、酵素が由来した微生物の種によって具体的に酵素が基質内で作用する部位が相違して基質特異性に差が生じる。したがって、本発明においては、最も好ましくはアスペルギルスアクレアタスから得られるペクチナーゼ、ナリンギナーゼ、セルラーゼおよびヘミセルラーゼからなる群より選択される一種以上と、トリコデルマリーゼイから得られるペクチナーゼ、セルラーゼまたはこれらの混合物からなる群より選択される一種以上とを同時に用いることである。
【0022】
本発明においては、人参のサポニンを溶媒に0.01〜20重量%の量で溶解させた後、上記酵素を用いて酵素的方法によって、サポニンを所望する人参サポニンに転換させる。このとき用いられる溶媒としては、酵素の活性を阻止しないものを使用するのが好ましく、例えば、水または緩衝溶液のような水性溶媒、あるいは水または緩衝溶液のような水性溶媒と有機溶媒との混合液を使用することができる。具体的にこのとき用いられる緩衝溶液としては酢酸、クエン酸、リン酸またはクエン酸−リン酸などであり、有機溶媒としてはアセトニトリル、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどである。好ましくは、用いられる溶媒としてはpH範囲が2.5〜7.5、より好ましくは3〜6、さらに好ましくは3.5〜5.5である。
【0023】
本発明の方法において、用いられる酵素の全体量は使用する基質の量に対して、1〜500重量%の量で添加されるのが好ましく、より好ましくは10〜400重量%、さらに好ましくは10〜200重量%の量で添加される。
【0024】
反応温度は、酵素の不活性化が行われない温度条件でなければならないが、好ましくは30〜60℃、より好ましくは35〜60℃、さらに好ましくは40〜55℃の範囲で温度を維持することである。
【0025】
さらに、反応時間も酵素の活性が維持される期間であれば特に制限を受けないが、1〜120時間、好ましくは1〜96時間、より好ましくは24〜96時間、さらに好ましくは24〜72時間撹拌しながら反応させることである。
【0026】
酵素反応は、二つの酵素を基質に同時に添加するか、一つの酵素を先に反応させた後、残りの酵素を後に投入する順次的方式で遂行することもできる。
【0027】
以降、沸騰水浴槽における加熱のような公知の方法を用い、酵素を不活性化することによってコンパウンドKおよびコンパウンドYが多量含有された反応液を得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。但し、次の実施例で本発明の範疇が限定されるものではない。
【0029】
[参考例1]人参精製サポニンの製造
紅参、白参、水参、尾参あるいはこれらの人参の葉、人参の花、人参の実2kgにエタノール20リットル(L)を入れ、3回還流抽出した後、15℃で6日間沈積させた。その後、ろ過布ろ過と遠心分離を通じて残渣とろ液を分離し、分離されたろ液を減圧濃縮して得られたエキスを水に懸濁した後に、エーテル1Lで5回抽出して色素を除去し、水層を1−ブタノール1Lで3回抽出した。これから得られた総1−ブタノール層を5%KOHで処理した後に蒸留水で洗浄し、減圧濃縮して1−ブタノールエキスを収得し、これを少量のメタノールに溶かした後、大量の酢酸エチルに加えて、生成された沈殿物を乾燥させることによって、人参精製サポニン(ジンセノサイドRb1、Rb2、Rc、Rd、Re、Rg1、Rfなどを含む)40〜80gを収得した。
【0030】
[実施例1]酵素反応を通じたコンパウンドKおよびコンパウンドYの製造
上記参考例1の人参精製サポニン(ジンセノサイドRb1、Rb2、Rc、Rd、Re、Rg1、Rfなどを含む)10gを水1Lに入れて溶解した。
その後、上記混合液にアスペルギルスアクレアタスから分離したペクチナーゼとトリコデルマリーゼイから分離したペクチナーゼとを同時に添加し、このとき上記の酵素はそれぞれ基質対比100重量%ずつ添加して、30℃で72時間反応させた。薄層クロマトグラフィーによって周期的に確認して基質が完全に消失されると、沸騰水浴槽で10分間加熱して酵素を不活性化させて反応を終了させた。最後に、反応液に酢酸エチルを1:1の比率(反応液に対する体積比)で入れて3回抽出した後に濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=9:1)によって、
図1に示すようにコンパウンドKおよびコンパウンドYを分離した。
【0031】
使用した参考例1の人参サポニン10gには、2.66gのジンセノサイドRb1、0.73gのジンセノサイドRb2、1.23gのジンセノサイドRcおよび0.38gのジンセノサイドRdが存在した。コンパウンドKは、ジンセノサイドRb1、ジンセノサイドRcおよびジンセノサイドRdから95%以上の収率で転換し、コンパウンドYは、ジンセノサイドRb2から95%以上の収率で転換した。