(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記電動モータに流すべき電流の指令値と、前記電動モータに発生させる補助力に対応するモータトルクの大きさとを対応付けたテーブルを予め保持しており、前記テーブルを参照して前記モータトルクを発生させる電流の指令値を決定する、請求項1から4のいずれかに記載の電動補助システム。
前記制御装置は、受け取った前記加速度信号に含まれる予め定められた周波数以上の高周波成分を透過させるハイパスフィルタを有する、請求項1から10のいずれかに記載の電動補助システム。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による電動補助システムおよび電動補助車両の実施形態を説明する。実施形態の説明においては、同様の構成要素には同様の参照符号を付し、重複する場合にはその説明を省略する。本発明の実施形-態における前後、左右、上下とは、電動補助車両のサドル(シート)に乗員がハンドルに向かって着座した状態を基準とした前後、左右、上下を意味する。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図1は、本実施形態に係る電動補助自転車1を示す側面図である。電動補助自転車1は後に詳述する駆動ユニット51を有している。電動補助自転車1は本発明にかかる電動補助車両の一例である。駆動ユニット51は、本発明にかかる電動補助システムの一例である。
【0030】
電動補助自転車1は、前後方向に延びる車体フレーム11を有する。車体フレーム11は、ヘッドパイプ12、ダウンチューブ5、ブラケット6、チェーンステイ7、シートチューブ16、シートステイ19を含む。ヘッドパイプ12は車体フレーム11の前端に配置される。ハンドルステム13は、ヘッドパイプ12に回転可能に挿入される。ハンドル14は、ハンドルステム13の上端部に固定される。ハンドルステム13の下端部にはフロントフォーク15が固定される。フロントフォーク15の下端部には、操舵輪である前輪25が回転可能に支持される。フロントフォーク15には、前輪25を制動するブレーキ8が設けられる。ヘッドパイプ12の前方の位置には前かご21が設けられる。フロントフォーク15にはヘッドランプ22が設けられる。
【0031】
ダウンチューブ5は、ヘッドパイプ12から後方斜め下方に向かって延びている。シートチューブ16は、ダウンチューブ5の後端部から上方に向かって延びている。チェーンステイ7は、シートチューブ16の下端部から後方に向かって延びている。ブラケット6は、ダウンチューブ5の後端部、シートチューブ16の下端部、チェーンステイ7の前端部を接続する。
【0032】
シートチューブ16にはシートポスト17が挿入され、シートポスト17の上端部には乗員が座るサドル27が設けられる。チェーンステイ7の後方部は、駆動輪である後輪26を回転可能に支持する。チェーンステイ7の後方部には、後輪26を制動するブレーキ9が設けられる。また、チェーンステイ7の後方部には、駐輪時に車両を立てたまま保持するスタンド29が設けられる。シートステイ19は、シートチューブ16の上部から後方斜め下方に向かって延びている。シートステイ19の下端部は、チェーンステイ7の後方部に接続される。シートステイ19は、サドル27の後方に設けられた荷台24を支持するとともに、後輪26の上部を覆うフェンダー18を支持する。フェンダー18の後方部にはテールランプ23が設けられる。
【0033】
車体フレーム11の車両中央部付近に配置されたブラケット6には駆動ユニット51が設けられる。駆動ユニット51は、電動モータ53、クランク軸57、制御装置70を含む。ブラケット6には、電動モータ53等に電力を供給するバッテリ56が搭載される。バッテリ56はシートチューブ16に支持されてもよい。
【0034】
クランク軸57は駆動ユニット51に左右方向に貫通して支持されている。クランク軸57の両端部にはクランクアーム54が設けられる。クランクアーム54の先端には、ペダル55が回転可能に設けられる。
【0035】
制御装置70は、電動補助自転車1の動作を制御する。典型的には、制御装置70はデジタル信号処理を行うことが可能なマイクロコントローラ、信号処理プロセッサ等の半導体集積回路を有する。乗員がペダル55を足で踏んで回転させたときに発生するクランク軸57の回転出力は、チェーン28を介して、後輪26に伝達される。制御装置70は、クランク軸57の回転出力に応じた駆動補助出力を発生するように電動モータ53を制御する。電動モータ53が発生した補助力は、チェーン28を介して、後輪26に伝達される。なお、チェーン28の代わりにベルト、シャフト等が用いられてもよい。
【0036】
次に、制御装置70の具体的な構成、制御装置70の動作に利用される信号を生成するセンサ群を詳細に説明する。
【0037】
図2Aは、主として制御装置70の構成を示す電動補助自転車1のハードウェアブロック図である。
図2Aには、制御装置70およびその周辺環境が示されている。周辺環境として、例えば制御装置70に信号を出力する各種センサ、および、制御装置70による動作の結果を受けて駆動される電動モータ53が示されている。
【0038】
まず、制御装置70の周辺環境から説明する。
【0039】
上述のように、制御装置70は駆動ユニット51に包含される。
図2Aには、同様に駆動ユニット51に含まれる加速度センサ38、トルクセンサ41、クランク回転センサ42および電動モータ53が示されている。制御装置70は、演算回路71と平均化回路78とモータ駆動回路79とを有する。演算回路71は、トルク信号を受け取って、予め用意された規則に基づいてトルク信号から目標加速度を算出し、目標加速度と現在の加速度との偏差が小さくなるよう、電動モータに発生させる補助力の大きさを決定するための演算と、制御信号の出力とを行う。
【0040】
加速度センサ38は、電動補助自転車1の車両本体の加速度を検出する。加速度センサ38は、例えばピエゾ抵抗型、静電容量型または熱検知型の3軸加速度センサである。3軸加速度センサは、直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)の各方向の加速度を1つで測定することが可能である。加速度信号は加速度の大きさに応じた電圧信号であり得る。加速度センサ38は、電圧信号を加速度値に換算する加速度演算回路(図示せず)を有していてもよい。加速度演算回路は、例えば出力されたアナログ電圧信号をデジタル電圧信号に変換し、デジタル電圧信号の大きさから加速度を算出する。
【0041】
本明細書では、加速度センサ38から出力された、検出された加速度を示す信号を「加速度信号」と呼ぶ。加速度信号は、アナログ電圧信号およびデジタル電圧信号のいずれでもよい。加速度センサ38は、離散的でない連続信号として加速度信号を出力してもよいし、所定の周期(たとえば0.1秒)で加速度を検出した離散信号として加速度信号を出力してもよい。
【0042】
なお、本明細書では、直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)は絶対座標系ではなく、相対座標系を表している。より具体的には、直交する3軸(X軸、Y軸、Z軸)の方向はそれぞれ、加速度センサ38が搭載された電動補助自転車1の前後方向、左右方向、および、上下方向である。なお、電動補助自転車1の前方向はその進行方向に一致し、上下方向は路面に垂直な方向に一致する。よって、平坦路を走行中の電動補助自転車1のX軸、Y軸、Z軸と、傾斜路を走行中の電動補助自転車1のX軸、Y軸、Z軸とは一致しないことがある。
【0043】
3軸加速度センサは加速度センサ38の一例である。加速度センサ38として、X軸の加速度GxおよびZ軸方向の加速度Gzを測定可能な2軸加速度センサを採用してもよい。加速度センサ38として、X軸の加速度Gxを測定可能な1軸加速度センサを採用してもよい。加速度センサ38は、車両の進行方向に沿ったX軸の加速度Gxを少なくとも測定可能であればよい。なお、複数の加速度センサを用いて、それぞれが異なる軸方向の加速度を検出してもよい。
図2Aに示す例では、加速度センサ38は、駆動ユニット51内に配置されているが、配置位置はそれに限定されず、電動補助自転車1の任意の位置に配置されてもよい。
【0044】
トルクセンサ41は、乗員がペダル55に加えた人力(踏力)を、クランク軸57に発生するトルクとして検出する。トルクセンサ41は、例えば磁歪式トルクセンサである。トルクセンサ41は、検出したトルクの大きさに応じた大きさの振幅の電圧信号を出力する。トルクセンサ41は、電圧信号をトルクに換算するトルク演算回路(図示せず)を有していてもよい。トルク演算回路は、例えば出力されたアナログ電圧信号をデジタル電圧信号に変換し、デジタル電圧信号の大きさからトルクを算出する。
【0045】
本明細書では、トルクセンサ41から出力された、検出されたトルクを示す信号を「トルク信号」と呼ぶ。トルク信号は、アナログ電圧信号およびデジタル電圧信号のいずれでもよい。トルクセンサ41は、離散的でない連続信号としてトルク信号を出力してもよいし、所定の周期(たとえば0.1秒)でトルクを検出した離散信号としてトルク信号を出力してもよい。
【0046】
クランク回転センサ42は、クランク軸57の回転角を検出する。例えばクランク回転センサ42は、クランク軸57の回転を所定の角度毎に検出し、矩形波信号または正弦波信号を出力する。出力された信号を用いてクランク軸57の回転角および回転速度が算出され得る。例えば、クランク軸57の周りに磁極(N極、S極)を有する磁性体を複数個配置する。位置が固定されたホールセンサで、クランク軸57の回転に伴う磁界の極性の変化を電圧信号に変換する。制御装置70は、ホールセンサからの出力信号を用いて、磁界の極性の変化をカウントし、クランク軸57の回転角および回転速度を算出する。クランク回転センサ42は、出力された信号からクランク軸57の回転角および回転速度を算出する演算回路を有していてもよい。
【0047】
モータ駆動回路79は、例えばインバータである。モータ駆動回路79は、演算回路71からのモータ電流指令値に応じた振幅、周波数、流れる向き等を有する電流を、バッテリ56から電動モータ53に供給する。当該電流を供給された電動モータ53は回転し、決定された大きさの補助力を発生させる。モータ駆動回路79の詳細は後述する。
【0048】
電動モータ53の回転は、モータ回転センサ46によって検出される。モータ回転センサ46は例えばホールセンサであり、電動モータ53の回転するロータ(図示せず)が生み出す磁界を検出して磁界の強さや極性に応じた電圧信号を出力する。電動モータ53がブラシレスDCモータの場合、ロータには複数の永久磁石が配置されている。モータ回転センサ46は、ロータの回転に伴う磁界の極性の変化を電圧信号に変換する。演算回路71は、モータ回転センサ46からの出力信号を用いて、磁界の極性の変化をカウントし、ロータの回転角および回転速度を算出する。
【0049】
電動モータ53が発生した補助力は動力伝達機構31を介して後輪26に伝達される。動力伝達機構31は、
図2Bを用いて後述するチェーン28、従動スプロケット32、駆動軸33、変速機構36、一方向クラッチ37、電動モータ53の回転を減速させる減速機(図示せず)、後輪26に設けられた変速機(図示せず)等の総称である。以上の構成により、電動補助自転車1の乗員の人力を補助することができる。
【0050】
演算回路71は、加速度センサ38、トルクセンサ41およびクランク回転センサ42からそれぞれ出力される検出信号、および、操作盤60から出力される操作信号を受け取って、補助力の大きさを決定する。演算回路71は、決定した大きさの補助力を発生させるためのモータ電流指令値を、モータ駆動回路79に送信する。その結果、電動モータ53が回転し、電動モータ53の駆動力が後輪26に伝達される。これにより、電動モータ53の駆動力が乗員の人力に加重される。
【0051】
なお、各種のセンサから出力される検出信号はアナログ信号である。検出信号が制御装置70に入力される前に、一般にはアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路(図示せず)が設けられ得る。A/D変換回路は、各センサ内に設けられていてもよいし、駆動ユニット51内の、各センサと制御装置70との間の信号経路上に設けられてもよい。または、A/D変換回路は制御装置70内に設けられていてもよい。
【0052】
電動モータ53が発生させる補助力の大きさは、現在選択されているアシストモードによって変動し得る。アシストモードは、乗員が操作盤60を操作して選択され得る。
【0053】
操作盤60は、電動補助自転車1のハンドル14(
図1)に取り付けられて、例えば有線ケーブルによって制御装置70と接続される。操作盤60は、乗員が行った操作を示す操作信号を制御装置70に送信し、また、制御装置70から乗員に提示するための各種情報を受信する。
【0054】
次に、電動補助自転車1の動力伝達経路を説明する。
図2Bは、電動補助自転車1の機械的構成の一例を示すブロック図である。
【0055】
乗員がペダル55を踏み込んでクランク軸57を回転させると、そのクランク軸57の回転は、一方向クラッチ43を介して合成機構58に伝達される。電動モータ53の回転は、減速機45、一方向クラッチ44を介して合成機構58に伝達される。
【0056】
合成機構58は、例えば筒状部材を有し、その筒状部材の内部にクランク軸57が配置される。合成機構58には、駆動スプロケット59が取り付けられている。合成機構58は、クランク軸57および駆動スプロケット59と同じ回転軸を中心にして回転する。
【0057】
一方向クラッチ43は、クランク軸57の順回転を合成機構58に伝達し、クランク軸57の逆回転は合成機構58に伝達させない。一方向クラッチ44は、電動モータ53が発生した、合成機構58を順回転させる方向の回転を合成機構58に伝達し、合成機構58を逆回転させる方向の回転は合成機構58に伝達させない。また、電動モータ53が停止している状態で、乗員がペダル55を漕いで合成機構58が回転した場合、一方向クラッチ44は、その回転を電動モータ53に伝達しない。乗員がペダル55に加えた踏力と電動モータ53が発生した補助力は、合成機構58に伝達されて合成される。合成機構58で合成された合力は、駆動スプロケット59を介してチェーン28へ伝達される。
【0058】
チェーン28の回転は、従動スプロケット32を介して駆動軸33に伝達される。駆動軸33の回転は、変速機構36および一方向クラッチ37を介して後輪26に伝達される。
【0059】
変速機構36は、乗員による変速操作器67の操作に応じて変速比を変更する機構である。変速操作器67は例えばハンドル14(
図1)に取り付けられる。一方向クラッチ37は、駆動軸33の回転速度が後輪26の回転速度よりも速い場合に、駆動軸33の回転を後輪26に伝達する。駆動軸33の回転速度が後輪26の回転速度よりも遅い場合には、一方向クラッチ37は駆動軸33の回転を後輪26に伝達しない。
【0060】
このような動力伝達経路により、乗員がペダル55に加えた踏力および電動モータ53が発生する補助力は、後輪26に伝達される。
【0061】
図3は、例示的な操作盤60の外観図である。操作盤60は、例えばハンドル14の左グリップの近傍に取り付けられる。
【0062】
操作盤60は、表示パネル61と、アシストモード操作スイッチ62と、電源スイッチ65とを備える。
【0063】
表示パネル61は例えば液晶パネルである。表示パネル61には、制御装置70から提供された、電動補助自転車1の速度、バッテリ56の残容量、アシスト比率を変動させる範囲に関する情報、アシストモードおよびその他の走行情報を含む情報が表示される。
【0064】
表示パネル61は、速度表示エリア61a、バッテリ残容量表示エリア61b、アシスト比率変動範囲表示エリア61cおよびアシストモード表示エリア61dを有する。表示パネル61は、それらの情報等を乗員に報知する報知装置として機能し、この例では情報を表示するが、音声を出力して乗員に報知してもよい。
【0065】
速度表示エリア61aには、電動補助自転車1の車速が数字で表示される。本実施形態の場合、電動補助自転車1の車速は、前輪25に設けられたスピードセンサ35を用いて検出される。
【0066】
バッテリ残容量表示エリア61bには、バッテリ56から制御装置70に出力される電池残容量の情報に基づいて、バッテリ56の残容量がセグメントによって表示される。これにより、乗員はバッテリ56の残容量を直感的に把握することができる。
【0067】
アシスト比率変動範囲表示エリア61cには、制御装置70が設定したアシスト比率を変動させる範囲がセグメントによって表示される。また、その変動範囲において現在実行中のアシスト比率をさらに表示してもよい。
【0068】
アシストモード表示エリア61dには、乗員がアシストモード操作スイッチ62を操作して選択したアシストモードが表示される。アシストモードは、例えば“強”、“標準”、“オートエコ”である。乗員がアシストモード操作スイッチ62を操作してアシストモードオフを選択した場合は、アシストモード表示エリア61dには“アシストなし”と表示される。
【0069】
アシストモード操作スイッチ62は、上述した複数のアシストモード(アシストモードオフを含む。)のうちの一つを乗員が選択するためのスイッチである。複数のアシストモードのうちの一つが選択されたとき、操作盤60の内部に設けられたマイコン(図示せず)は、選択されたアシストモードを特定する操作信号を制御装置70に送信する。
【0070】
電源スイッチ65は、電動補助自転車1の電源のオン/オフを切り替えるスイッチである。乗員は電源スイッチ65を押して、電動補助自転車1の電源のオン/オフを切り替える。
【0071】
操作盤60は、乗員に必要な情報を音により発信するスピーカ63と光により発信するランプ64とをさらに備える。例えば、制御装置70は、乗員がペダル55を漕ぐ動作に連動した加速度の変化に応じて、電動モータ53に発生させる補助力の大きさを変更する。このとき、音声の出力および/または光の点滅等により、補助力の大きさを変更したことを乗員に報知する。これにより、乗員は例えば大きな補助力が発生していることを認識することができる。また、例えばハンドル14および/またはサドル27に振動を発生させることにより、補助力の大きさを変更したことを乗員に報知してもよい。
【0072】
また、補助力を大きくしているときは、電動補助自転車1の周囲の人々に聞こえる音量の音をスピーカ63に発生させたり、ヘッドランプ22およびテールランプ23を点灯または点滅させたりしてもよい。これにより、電動補助自転車1の周囲の人々は、電動補助自転車1が通常の補助力よりも大きな補助力を発生させていることを認識することができる。
【0073】
電動モータ53の補助力は、クランク回転出力に対して、“強”、“標準”、“オートエコ”の順に小さくなる。
【0074】
アシストモードが“標準”の場合、電動モータ53は、例えば電動補助自転車1が発進、平坦路走行または上り坂走行の際に補助力を発生させる。アシストモードが“強”の場合、電動モータ53は、“標準”の場合と同様、例えば電動補助自転車1が発進、平坦路走行または上り坂走行の際に補助力を発生させる。電動モータ53は、アシストモードが“強”の場合には、同じクランク回転出力に対して“標準”の場合よりも大きな補助力を発生させる。アシストモードが“オートエコ”の場合、電動モータ53は、例えば電動補助自転車1が平坦路での発進時には“標準”の場合よりも小さな補助力を発生し、上り坂走行の際には“標準”の場合よりも大きな補助力を発生する。また、平坦路や下り坂の走行などでペダル踏力が小さいときは、電動モータ53は“標準”の場合よりも補助力を小さくしたり補助力の発生を停止したりして、電力消費量を抑える。アシストモードが“アシストなし”の場合、電動モータ53は、補助力を発生しない。
【0075】
このように、上述のアシストモードに応じて、クランク回転出力に対する補助力が変わる。この例では、アシストモードを4段階に切り替えている。しかしながら、アシストモードの切替えは3段階以下であってもよいし、5段階以上であってもよい。
【0076】
次に、乗員がペダル55を漕ぐ動作に連動して変化する加速度に応じて、電動モータ53に発生させる補助力の大きさを変更する動作を説明する。
【0077】
まず、乗員がペダル55を漕ぐ動作と加速度との関係を説明する。
図4は、乗員がペダル55を漕いだときのクランク軸57の回転角、クランク軸57に発生するトルク、車両の進行方向の加速度の関係を示す図である。
図4に示す例では、電動補助自転車1は平坦路を走行しており、図中の左から右へ向かう方向を車両の進行方向xとする。
【0078】
乗員が足でペダル55を漕ぐという電動補助自転車1の構造上、ペダル55の位置、すなわちクランク軸57の回転角に応じてペダル55に加わる乗員の人力(踏力)の大きさは増減する。ペダル55に加わる踏力の増減は、クランク軸57に発生するトルクの増減として現れる。トルクが増減すると、電動補助自転車1を走行させる駆動力が増減する。このため、トルクの増減に応じて、電動補助自転車1の進行方向xの加速度は増減する。
【0079】
図4(a)は、乗員の右足を乗せる電動補助自転車1の右ペダル55Rがクランク軸57の真上に位置し、乗員の左足を乗せる電動補助自転車1の左ペダル55Lがクランク軸57の真下に位置している状態を示している。このときのクランク軸57の回転角を0度とする。この状態では、人力によりクランク軸57に発生するトルクは最小となる。トルクに連動して進行方向xの加速度も最小となる。
【0080】
図4(a)の状態から乗員が右ペダル55Rを踏み込んで、クランク軸57の回転角が大きくなるにつれて、人力によりクランク軸57に発生するトルクは徐々に大きくなっていく。トルクが徐々に大きくなるにつれて、車両の進行方向xの加速度も大きくなっていく。
【0081】
図4(b)は、クランク軸57に対して右ペダル55Rが水平方向前方に位置しており、左ペダル55Lが水平方向後方に位置している状態を示している。このときのクランク軸57の回転角を90度とする。この回転角が90度のとき、人力によりクランク軸57に発生するトルクは最大となる。トルクに連動して、車両の進行方向xの加速度も最大となる。
【0082】
図4(b)の状態からクランク軸57の回転角がさらに大きくなっていくにつれて、人力によりクランク軸57に発生するトルクは徐々に小さくなっていく。トルクが徐々に小さくなるにつれて、車両の進行方向xの加速度も小さくなっていく。
【0083】
図4(c)は、クランク軸57に対して右ペダル55Rが真下に位置しており、左ペダル55Lが真上に位置している状態を示している。このときのクランク軸57の回転角を180度とする。この回転角が180度のとき、人力によりクランク軸57に発生するトルクは最小となる。トルクに連動して、車両の進行方向xの加速度も最小となる。
【0084】
図4(c)の状態から乗員が左ペダル55Lを踏み込んで、クランク軸57の回転角がさらに大きくなるにつれて、人力によりクランク軸57に発生するトルクは徐々に大きくなっていく。トルクが徐々に大きくなるにつれて、車両の進行方向xの加速度も大きくなっていく。
【0085】
図4(d)は、クランク軸57に対して左ペダル55Lが水平方向前方に位置しており、右ペダル55Rが水平方向後方に位置している状態を示している。このときのクランク軸57の回転角を270度とする。この回転角が270度のとき、人力によりクランク軸57に発生するトルクは最大となる。トルクに連動して、車両の進行方向xの加速度も最大となる。
【0086】
図4(d)の状態からクランク軸57の回転角がさらに大きくなっていくにつれて、人力によりクランク軸57に発生するトルクは徐々に小さくなっていく。トルクが徐々に小さくなるにつれて、車両の進行方向xの加速度も小さくなっていく。
【0087】
図4(e)は、クランク軸57に対して右ペダル55Rが真上に位置しており、左ペダル55Lが真下に位置している状態を示している。すなわち、
図4(e)は、
図4(a)の状態からクランク軸57が1回転した状態を示している。このときのクランク軸57の回転角を0度とする。この回転角が0度のとき、人力によりクランク軸57に発生するトルクは最小となる。トルクに連動して、車両の進行方向xの加速度も最小となる。
【0088】
このように、クランク軸57の回転角に応じて、クランク軸57に発生するトルクは増減する。増減するトルクには山と谷とが交互に現れる。この増減するトルクに同期して、車両の進行方向xの加速度は増減する。トルクの山と谷が現れるタイミングに同期して、増減する加速度には山と谷とが交互に現れる。
【0089】
トルクの互いに隣接する山と谷の間における山の頂点は、その区間におけるトルクの最大値である。トルクの谷の底は、その区間におけるトルクの最小値である。本明細書中において、互いに隣接する山と谷の間とは、その山の頂点およびその谷の底の部分も含む。
【0090】
加速度の互いに隣接する山と谷における山の頂点は、その区間における加速度の最大値である。加速度の谷の底は、その区間における加速度の最小値である。増減するトルクの互いに隣接する山と谷が現れるタイミングに同期して、加速度の最大値と最小値とが現れる。
【0091】
電動補助自転車1に乗車する乗員は、ペダル55に加える踏力、および、ペダル55を漕ぐ速さを調整することにより、その乗員が所望する加速感で電動補助自転車1を加速させ、所望する速度で走行させる。電動補助自転車1に乗車する乗員が、
図4に示すような周期的に変化するトルクで電動補助自転車1を漕いでいることを、本明細書では「一定の漕ぎ方」と呼ぶ。
【0092】
乗員が平坦路において一定の漕ぎ方で電動補助自転車1を漕いでいるとき、その乗員は、
図4に示すような周期的な変化を伴う加速度で電動補助自転車1を走行させることを望んでいると考えられる。一方、電動補助自転車1は種々の外乱の影響を受ける。その結果、
図4に示すような周期的に変化する加速度が得られないことがある。例えば、電動補助自転車1の走行に伴う向かい風、気象学的に発生する風および/または傾斜路はいずれも、外乱の一つである。
【0093】
本願発明者は、乗員が一定の漕ぎ方で電動補助自転車1を漕いでいる時には、外乱の影響の有無にかかわらず、
図4に示すような周期的な変化を伴う加速感で電動補助自転車1を走行させるよう電動補助自転車1の補助力を調整することを考えた。本明細書でいう「加速感」とは、
図4に示すような周期的な変化を伴う加速度によって走行するときの、進行方向速度の増減によって乗員が感じる速度感覚を言う。「加速感」は加速度センサ38が検出する加速度とは異なる。後述するように、傾斜路においては、加速度センサ38は傾斜に応じた加速度を検出するため、電動補助自転車1が停止状態であっても加速度センサ38はゼロではない一定の値を出力する。そのため、仮に、平坦路と傾斜路とにおいて電動補助自転車1が全く同じ速度変化で走行していたとしても、平坦路で加速度センサ38が検出する加速度と傾斜路で加速度センサ38が検出する加速度とは一致しない。しかしながら、補助力を適切に調整することで、傾斜路等の、外乱の影響が存在する走行状況下であっても、乗員が平坦路と同じ加速感で電動補助自転車1を漕ぐことができる。同じ加速感とは、例えばある時間区間の平均時速が同じである、と言ってもよい。本発明の実施形態では、平坦路走行時と、負荷が存在する走行時とにおいて、乗員が同じ加速感で電動補助自転車1を運転できるようにした。
【0094】
以下、
図5Aおよび
図5Bを参照しながら、本実施形態による電動補助自転車1の動作の概要を説明する。
【0095】
図5Aは、乗員が負荷として向かい風を受ける場合の電動補助自転車1の運動例を示す。ある時刻までは無風状態であり、それ以降の図面上下方向に平行な破線に示すタイミングで乗員が向かい風を受けたとする。
【0096】
図5Aの(a)はトルク信号に基づいて得られるトルクの値の波形を模式的に示す。(a)の波形から理解されるように、乗員は一定の漕ぎ方で乗車している。本実施形態では、制御装置70は、トルク信号から目標加速度を算出し、目標加速度と現在の加速度との偏差が小さくなるよう、電動モータ53に発生させる補助力の大きさを決定する。
【0097】
本願発明者は、トルク信号が示すトルクの値は、乗員が電動補助自転車1をどのような加速度で運転したいかを直接的に示す値であると考え、トルク信号と目標加速度との対応関係を規定するマップまたは関数を定めた。当該マップまたは関数によれば、トルクの値から目標加速度を一意に決定することができる。
【0098】
図5Aの(b)は、トルクに基づいて算出された目標加速度の波形を模式的に示す。概ね、トルクの値が小さいほど目標加速度は小さくなり、トルクの値が大きいほど目標加速度は大きくなる。目標加速度の値はトルクの値に同期して増減し得る。
【0099】
図5Aの(c)は、車両の進行方向xの加速度を模式的に示す。実線は、加速度センサ38から出力された加速度信号の波形を示し、破線は目標加速度の波形を示す。以下、時刻tにおける隣接する加速度の山と谷との差P−P(t)などと表す。
【0100】
差P−P(t)と、差P−P(t+1)とを比較すると、後者の加速度値の方が負の方向に大きく振れている。そのため、時刻t+1における加速度値と目標加速度値との偏差En(t+1)も相対的に大きくなる。
【0101】
本実施形態では制御装置70は、当該偏差En(t+1)が小さくなるよう、電動モータ53に発生させる補助力の大きさを決定する。「小さくなる」とは、例えば0(ゼロ)にすることを言う。
【0102】
向かい風を受けた後、制御装置70がより強い補助力を発生させたことにより、時刻(t+2)では偏差En(t+2)は概ね0に収束している。これはすなわち、乗員は向かい風を受けたにもかかわらず、同じ踏力(トルク)で電動補助自転車1を漕ぎ続ければ、同じ加速度を維持できていると言える。
【0103】
図5Bは、乗員が負荷として傾斜路から斜面下向きの力を受ける場合の電動補助自転車1の運動例を示す。電動補助自転車1は、ある時刻までは平坦路を走行しており、それ以降の図面上下方向に平行な破線に示すタイミングで傾斜路に差し掛かったとする。なお、
図5Bの(b)および(c)はそれぞれ、目標加速度および現実の加速度を示している。
図5Bの(b)および(c)において、傾斜路に差し掛かった後の波形は、ハイパスフィルタによって傾斜路に伴って重畳される加速度の低周波成分を除去した波形として描かれている。処理の詳細は後述する。
【0104】
図5Bの(a)はトルク信号に基づいて得られるトルクの値の波形を模式的に示す。(a)の波形から理解されるように、乗員は、平坦路では一定の漕ぎ方で乗車しているが、傾斜路に差し掛かった直後はより強い踏力で電動補助自転車1を漕いでいる。このような乗員の漕ぎ方は一般的である。傾斜路に差し掛かる前後では、乗員は傾斜路を上ることに伴う速度の低下を予期して直感的に強く漕ぐからである。
【0105】
図5Bの(b)は、トルクに基づいて算出された目標加速度の波形を模式的に示す。
図5Aの(b)に関連して説明したように、トルクの値が小さいほど目標加速度は小さくなり、トルクの値が大きいほど目標加速度は大きくなる。傾斜路に差し掛かった直後のより強い踏力に同期して目標加速度もそれまでより大きく算出されていることが理解される。
【0106】
図5Bの(c)は、車両の進行方向xの加速度を模式的に示す。実線は、加速度センサ38から出力された加速度信号の波形を示し、破線は目標加速度の波形を示す。
【0107】
差P−P(t)と差P−P(t+1)とを比較すると、後者の加速度値の方が負の方向に大きく振れている。そのため、時刻(t+1)における加速度値と目標加速度値との偏差En(t+1)も相対的に大きくなる。
【0108】
制御装置70は、当該偏差En(t+1)が小さくなるよう、電動モータ53に発生させる補助力の大きさを決定する。本例でも、「小さくなる」とは、例えば0(ゼロ)にすることを言う。
【0109】
傾斜路を上り始めた後、制御装置70がより強い補助力を発生させたことにより、差P−P(t+1)と、差P−P(t+2)とを比較すると、後者の方がより小さくなっている。ただし0には収束していない。そのため制御装置70は、時刻(t+2)における加速度値と目標加速度値との偏差En(t+2)が小さくなるよう、さらに電動モータ53に発生させる補助力の大きさを決定する。このような処理の結果、以後の電動補助自転車1の偏差は概ね0に収束している。
【0110】
なお、傾斜路を進むにつれて電動モータ53がより強い補助力を発生させるため、乗員は踏力(トルク)を徐々に弱め、結果として平坦路走行時の踏力に戻している。乗員は傾斜路を走行し始めた後、十分短い期間内で、踏力(トルク)を平坦路走行時と同じ程度に戻すことができ、かつ、平坦路走行時と同じ加速感を得ることができる。
【0111】
上述の制御を行うことにより、乗員は、負荷が大きい時には強く漕ぐ必要がなくなり、負荷が軽い時には補助力が大きすぎて飛び出すこともなくなる。つまり乗員は、負荷が大きくても小さくても一定の漕ぎ方を継続すれば平坦路と同様の所望の加速感を得ることができる。
【0112】
次に、再び
図2Aを参照して制御装置70の内部構成を説明し、その後、制御装置70の動作を説明する。
【0113】
上述したように、制御装置70は、演算回路71と平均化回路78とモータ駆動回路79とを有する。本実施形態では、演算回路71は複数の回路を統合した集積回路であるとして説明する。しかしながら当該構成は一例である。1つまたは複数の回路が実現する処理を、1つの信号処理プロセッサを用いてソフトウェア処理によって実現してもよい。
【0114】
平均化回路78は、加速度センサ38から出力された各軸方向の検出信号を平滑化するデジタルフィルタ回路である。平均化回路78は、例えば複数の検出信号の移動平均を計算することにより、検出信号を平滑化することができる。他の平滑化アルゴリズムを用いてもよい。なお、本実施形態では平均化回路78を設けているが、本願発明においては平均化回路78を設けることは必須ではない。
【0115】
演算回路71は、アシストモード等からモータ電流指令値を求める演算と、トルクに基づいて目標加速度を求める演算と、目標加速度と現在の加速度との偏差を小さくするモータトルクを求め、当該モータトルクを発生させるようモータ電流指令値を補正する演算と、補正したモータ指令値を速度等の条件を考慮してさらに補正する演算と、制御信号の出力とを行う。
【0116】
本実施形態では、演算回路71は複数種類の処理を行うブロックを有している。具体的には、演算回路71は、目標加速度演算ブロック72と、ハイパスフィルタ73と、モータ電流指令値演算ブロック74と、モータ電流指令値補正ブロック75および76と、記憶ブロック77とを有している。記憶ブロック77を除く各ブロックは演算回路71内の演算コアとして実装されてもよいし、コンピュータプログラムのサブ・ルーチンまたはライブラリとして実装されてもよい。
【0117】
目標加速度演算ブロック72は、トルクセンサ41からトルク信号を受け取り、さらに後述の記憶ブロック77に予め格納された加速度演算規則77aを参照して、トルク信号から目標加速度を算出する。
【0118】
図6は、人間の踏力(トルク信号)と目標加速度との関係を示す加速度演算規則77aの一例である。上述のように、本願発明者は乗員の踏力が分かれば、その乗員が希望する加速度を一意に特定できると考えた。そこで、本願発明者は、人間の踏力(トルク信号)と目標加速度とを対応付けた関係を、加速度演算規則77aとして予め用意して記憶ブロック77に保持させた。目標加速度演算ブロック72は、トルクセンサ41から得られた踏力に基づいて加速度演算規則77aを参照し、目標加速度を算出する。
【0119】
図6では、トルク信号と目標加速度との対応関係が非線形連続関数として表されているが、これは一例である。トルク信号と目標加速度との対応関係を線形連続関数として表してもよいし、トルク信号の信号値と、目標加速度とを1対1で対応づけたマップまたはテーブルで表してもよい。
【0120】
図6の例を拡張することもできる。アシストモードが選択可能であるとき、選択されているアシストモードに応じて異なる関数、マップまたはテーブルを選択してもよい。
【0121】
図7は選択可能なN個のアシストモードの各々について規定された、人間の踏力(トルク信号)と目標加速度との関係を示す。アシスト比率についてはアシストモード1が最も小さく、アシストモードNが最も大きいとする。
図7の例によれば、同じ踏力であっても、アシストモードが大きいほど大きい目標加速度が設定され得る。
【0122】
なお、
図6および
図7の具体的なプロファイルは、電動補助自転車1の仕様等に基づいて、電動補助自転車1の設計者または製造者が適宜決定し得る。換言すれば、電動補助自転車1の仕様が決まらなければ
図6および
図7の具体的なプロファイルは決定されない。その理由は、同じ踏力であっても、たとえばクランク軸に取り付けられるスプロケット(図示せず)および後輪に取り付けられるスプロケット(図示せず)の各々の径および歯数等によって加速性能が大きく異なるためである。
【0123】
モータ電流指令値演算ブロック74は、以後の処理のベースとなるモータ電流指令値を演算する。一般に、電動モータ53により発生するトルクは、電動モータ53を流れる電流に比例する。電動モータ53に流す電流を決めれば、発生するトルクも一義的に決まる。つまり、モータ電流指令値を決めることは、電動モータ53に発生させるトルクを決めることになる。
【0124】
まず、モータ電流指令値の演算方法の概要を説明し、その後その詳細に説明する。モータ電流指令値演算ブロック74は、操作盤60を用いて乗員によって選択されたアシストモードを特定するデータを受け取り、アシストモードを設定する。アシストモードに応じて、モータ電流指令値を決定するためのマップまたは規則が異なるからである。またモータ電流指令値演算ブロック74は、トルクセンサ41が検出したペダルトルクの大きさを示す値を受け取る。ペダルトルクの大きさは、補助力を決定するためのパラメータ一つである。さらにモータ電流指令値演算ブロック74は、変速段センサ48から、変速機の変速段を示すデータを受け取る。変速段センサ48は、動力伝達機構31に包含される変速機の変速段を検出するデータである。変速段の大きさに応じて、後輪26が地面に加える補助力の大きさが変化する。そのため、変速段センサ48の出力値もまた、モータ電流指令値を演算するための基本的なパラメータの一つであると言える。モータ電流指令値演算ブロック74は、スピードセンサ35からの速度データをさらに受け取る。
【0125】
モータ電流指令値演算ブロック74は、ペダル踏力により後輪26の駆動軸に発生するトルクと、電動モータ53により後輪26の駆動軸に発生するトルクとの比率が、アシスト比率に合うように、モータ電流指令値を決める。アシスト比率は、ペダル55に加えられた乗員の人力により発生するクランク回転出力に対する、電動モータ53により発生する補助出力の比率を言う。なお、アシスト比率は駆動補助比率とも呼ばれ得る。
【0126】
モータ電流指令値演算ブロック74は、例えば、ペダル踏力により後輪26の駆動軸に発生するトルクと、電動モータ53により後輪26の駆動軸に発生するトルクとが同じになるように(アシスト比率は1:1)、モータ電流指令値を求める。例えば、予め定めされた「人力トルクとモータ電流指令値との関係を示すテーブル」を用いて、モータ電流指令値を求めることができる。このとき、モータ電流指令値演算ブロック74は、電動モータ53の回転を減速させる減速機の減速比をさらに考慮して電流指令値を演算する。例えば、減速比=Nのときは、ペダル踏力により後輪26の駆動軸に発生するトルクの1/Nのモータトルクが発生するように、モータ電流指令値を演算する。例えば、減速比=2のときは、ペダル踏力により後輪26の駆動軸に発生するトルクの1/2のモータトルクが発生するように、モータ電流指令値を演算する。
【0127】
次に、モータ電流指令値演算ブロック74は、ユーザが設定したアシストモードに応じた係数をモータ電流指令値に掛ける。一例として、アシストモードが“強”のときの係数を2、アシストモードが“標準”のときの係数を1、アシストモードが“弱”のときの係数を0.8とし、ユーザが設定したアシストモードに対応する係数をモータ電流指令値に掛ける。
【0128】
次に、モータ電流指令値演算ブロック74は、車速を考慮してモータ電流指令値を補正する。例えば、車速が低速であるときは、モータ電流指令値を大きめに設定する。車速が大きくなれば、モータ電流指令値を減らしていく。このようにモータ電流指令値を設定することで、車両の発進時の補助力が大きくなるので、運転フィーリングが向上する。
【0129】
次に、モータ電流指令値演算ブロック74は、変速段を考慮してモータ電流指令値を補正する。モータ電流指令値演算ブロック74は、例えば現在の変速段が予め定められた段以下のローギアであるときには、電動モータ53に流れる電流をより低く設定してもよい。これにより、電動モータ53による補助力の大きさが抑えられ、車両の加速度が大きくなりすぎることを防ぐことができる。よって運転フィーリングを向上させることができる。
【0130】
なお、モータ電流指令値演算ブロック74は、電動モータ53の回転速度と車両本体の走行速度から変速段を演算してもよい。モータ電流指令値演算ブロック74は、モータ回転センサ46の出力信号とスピードセンサ35の出力信号を用いて変速段を演算する。この場合は、変速段センサ48は省略されてもよい。
【0131】
上記のモータ電流指令値演算ブロック74の処理の順番は一例であり、上記とは異なる順番で処理が行われてもよい。例えば、変速段を考慮してモータ電流指令値を補正した後に、車速を考慮してモータ電流指令値を補正してもよい。なお、変速段センサ48を設けることは本実施形態では必須ではない。モータ電流指令値演算ブロック74は、モータ電流指令値をモータ電流指令値補正ブロック75に出力する。
【0132】
次に、ハイパスフィルタ73を説明する。ハイパスフィルタ73は、予め定められた周波数、たとえば5Hz以上の高周波成分を透過させるデジタルフィルタである。ただしハイパスフィルタ73にアナログ加速度信号が入力される場合には、ハイパスフィルタ73はアナログフィルタである。上述の「5Hz」の根拠を簡単に説明する。ケイデンスを最大200rpmと仮定したとき、ペダルは毎秒3.3回転である。つまりペダルの回転は3.3Hzである。この値についてマージンを約1.5倍取り、5Hzとした。厳密には5Hzでなくてもよく、当業者であれば適宜調整可能である。
【0133】
モータ電流指令値補正ブロック75は、モータ電流指令値演算ブロック74が算出したモータ電流指令値と、目標加速度演算ブロック72が出力した目標加速度の値と、ハイパスフィルタ73から出力された加速度センサ38の値(検出した加速度の値)とを受け取る。そしてモータ電流指令値補正ブロック75は、目標加速度に対して、検出した加速度が一致するよう、モータ電流指令値を補正する。
【0134】
補正方法の概要は以下のとおりである。
【0135】
補正方法(a):モータ電流指令値補正ブロック75は、検出した加速度の値が目標加速度の値よりも小さければ、モータ電流指令値を補正して増加させる。
【0136】
補正方法(b):モータ電流指令値補正ブロック75は、検出した加速度の値が目標加速度の値を維持している場合には、モータ電流指令値を維持する。
【0137】
補正方法(c)モータ電流指令値補正ブロック75は、検出した加速度の値が目標加速度の値よりも大きければ、モータ電流指令値を補正して減少させる。
【0138】
上述の補正方法に適した処理の一つとして、本実施形態ではPID制御を利用する。モータ電流指令値補正ブロック75は、PID制御を用いて、電動モータ53に発生させるべきモータトルクを算出する。次にモータ電流指令値補正ブロック75は、算出したモータトルクを発生させるためのモータ電流指令値を決定し、現在のモータ電流指令値との差分を求める。差分は正の値、0、負の値のいずれかであり得る。
【0139】
モータ電流指令値補正ブロック75の処理を具体的に説明する。いま、駆動ユニット51の比例要素、微分要素および積分要素の各フィードバックゲインを、それぞれKp、KdおよびKiと表す。また時刻tにおける現在の偏差をe(t)と表す。
【0140】
モータ電流指令値補正ブロック75は、電動モータ53に発生させる補助力に対応するモータトルクFmを、以下の式によって決定する。
【数1】
【0141】
右辺第1項は比例要素に関する演算(比例制御演算)である。一般に、比例制御演算は現在の値を目標値までにスムーズに近づけるために用いられる。偏差が小さくなる、つまり目標値に近づくにつれて、比例制御演算に基づく操作量は少なくなる。モータ電流指令値補正ブロック75は、直前の偏差に比例した大きさのトルクを決定する。
【0142】
右辺第2項は積分要素に関する演算(積分制御演算)である。上述の比例制御演算では目標値に近づくにつれて操作量は少なくなるため、偏差が残留する。積分制御演算はそのような残留偏差をさらに低減するために用いられる。積分制御演算を行うことにより、残留偏差が時間的に累積され、ある大きさになると操作量を増して残留偏差をさらに低減できる。モータ電流指令値補正ブロック75は、残留偏差の累積値に比例した大きさのトルクを決定する。
【0143】
右辺第3項は微分要素に関する演算(微分制御演算)である。一般に、微分制御演算は外乱発生時の応答性(応答の速さ)を向上させるために用いられる。急な外乱により前回の偏差と現在の偏差との差が大きくなると、その差に応じた操作量を大きくして追従性を向上させる。モータ電流指令値補正ブロック75は、残留偏差の微分に比例した大きさのトルクを決定する。
【0144】
なお、比例要素、微分要素および積分要素の各フィードバックゲインKp、KdおよびKiは、電動モータ53の性能、電動補助自転車1の動力伝達機構の仕様等に応じて変化し得る。電動補助自転車1の仕様は、制御システム設計時のモデルにおいて、たとえば制御応答の立ち上がりまでの無駄時間、時定数、収束させるべき定常値をどのように設定するかと深く関連する。各フィードバックゲインKp、KdおよびKiをどのように設定するかも同様である。
【0145】
上述の数1に従ってモータトルクFmを算出すると、モータ電流指令値補正ブロック75は、当該モータトルクFmを生み出すために必要な電流指令値を求める。モータトルクFmと電流指令値との関係は、電動モータ53の性能を示す指標として予め入手可能である。モータ電流指令値補正ブロック75は、当該関係を示す、モータトルク−電流指令値対応テーブルを予め保持している。モータ電流指令値補正ブロック75は、当該テーブルを参照して、数1によって得られたモータトルクFmを生み出すために必要な電流指令値を求め、その後、現在の電流指令値が新たな電流指令値になるよう補正する。
【0146】
なお、上述した数1の左辺はモータトルクFmを表していたが、直接電流指令値を求めることもできる。このとき、数1の右辺に記載された各フィードバックゲインKp、KdおよびKiは、上述のモータトルク−電流指令値対応テーブルの内容を加味した値に変更すればよい。残留偏差に関する比例項、積分項および微分項から電流指令値を求めるための各フィードバックゲインを、それぞれKp’、Kd’およびKi’と表現する。モータ電流指令値補正ブロック75は、電動モータ53に発生させる電流指令値Im(t)を下記数2によって決定することができる。
【数2】
【0147】
モータトルク−電流指令値対応テーブルを利用してモータトルクFmから電流指令値を求めるか、あるいは、フィードバックゲインを変更することにより数1から直接電流指令値を求めるかは設計の問題であり、いずれを採用してもよい。
【0148】
モータ電流指令値補正ブロック75は、モータ電流指令値をモータ電流指令値補正ブロック76に出力する。
【0149】
次に、モータ電流指令値補正ブロック76を説明する。モータ電流指令値補正ブロック76は、モータ電流指令値補正ブロック75によって補正されたモータ電流指令値をさらに補正する。補正の目的は、車速に応じたモータトルクの漸減ため、および、クランク回転を考慮した乗車フィーリングの向上のためである。以下、具体的に説明する。
【0150】
モータ電流指令値補正ブロック76は、車速に応じてモータ電流指令値を補正する。日本では、車速が所定の値以上(例えば時速10km以上)になると、アシスト比率の上限を下げるよう制限が加えられる。時速10km以上では、車速に比例してアシスト比率の上限は漸減していき、時速24km/h以上ではアシスト比率は1:0、すなわち補助出力はゼロになる。モータ電流指令値補正ブロック76は、例えば、予め定められた「車速と漸減率との関係を示すテーブル」等を用いて漸減率を決める。モータ電流指令値に漸減率を掛けることで、電動モータ53により発生するトルクを漸減させる。漸減率変化は、直線的であってもよいし、曲線的であってもよい。
【0151】
また、モータ電流指令値補正ブロック76は、クランク軸57の回転速度に応じてモータ電流指令値を補正する。例えば、停車寸前の低速走行時では、いつ補助力の発生を止めるかで運転フィーリングが変化する。例えば、ペダル踏力が実質的にゼロであっても、わずかな補助力を継続的に発生させた方が、運転フィーリングが向上する場合がある。この場合は、クランク軸57の回転速度を参照することで、乗員の運転意思を確認することができる。クランク軸57が動いている、すなわち乗員がペダルを漕いでいる間は補助力を発生させ、クランク軸57が停止すると補助力の発生を停止する。これにより、運転フィーリングを向上させることができる。
【0152】
モータ電流指令値補正ブロック76は、モータ電流指令値をモータ駆動回路79に出力する。モータ駆動回路79は、モータ電流指令値に応じた電流を電動モータ53に供給する。
【0153】
モータ駆動回路79の処理を具体的に説明する。
【0154】
モータ駆動回路79が受け取ったモータ電流指令値は、電動モータ53に実際に流すべき電流を表す。当該モータ電流指令値は、目標モータ電流値を表すと言える。モータ駆動回路79は、目標モータ電流値どおりの電流が流れるよう、電流量の監視および制御を行う。このとき行われる制御は、フィードバック制御が好適である。本実施形態では、モータ駆動回路79は、フィードバック制御としてPID制御を行う。なお、PID制御は上述の数1によって表現される周知の制御方法である。そのため処理の詳細は省略する。実際に流れる電流がモータ電流指令値に従うよう制御できる限り、モータ駆動回路79は、任意の制御方法を利用することができる。
【0155】
電流の監視のため、駆動ユニット51は電流センサ47を有する。電流センサ47は、電動モータ53を流れる電流の値を検出し、モータ駆動回路79に出力する。モータ駆動回路79は、電流センサ47の出力信号を用いてフィードバック制御を行う。
【0156】
図2Aに例示する電動モータ53は、三相(U相、V相、W相)の巻線を有する三相モータである。電動モータ53は、例えばブラシレスDCモータである。
【0157】
図2Aに示す例では、電流センサ47は、三相の各電流線(U、V、W線)の各々を流れる電流を検出する。電流センサ47は、三相の各電流線ではなく、二相の電流線を流れる電流のみを検出してもよい。三相通電制御において各相を流れる電流の値の合計は、理論上ゼロになる。この関係を用いれば、2つの電流値から残りの1つの電流値を演算により求めることができるからである。これにより、三相のそれぞれを流れる電流の値を取得することができる。なお、U、V、W線には、位相が互いに、120度ずつずれた正弦波波形の電流が流れる。「電流の値」は、一般には波形の振幅を言い、電流の最大値と最小値との差P−P(Peak to Peak)として表され得る。電流実測値から差P−Pを算出する計算方法は周知である。モータ駆動回路79は、電流センサ47によって検出された2つの電流実測値を、所定の計算式に代入することにより、差P−Pを求めることができる。
【0158】
記憶ブロック77は、演算回路71内に設けられた記憶装置である。記憶装置の一例は、不揮発性メモリであるROMまたはフラッシュメモリ、揮発性メモリであるRAM、バッファまたはレジスタである。記憶ブロック77は上述した加速度演算規則77aのデータを格納する。
【0159】
以上の処理により、演算回路71は加速度の偏差を少なくするようなアシスト比率で電動モータ53を回転させることができる。
【0160】
次に、駆動ユニット51内の制御装置70が行う処理の詳細を説明する。
【0161】
図8は、制御装置70の処理の手順を示すフローチャートである。
【0162】
ステップS10において、制御装置70は、自動アシスト切り替えが有効か否かを判定する。制御装置70は、自動アシスト切り替えが有効である場合にのみ、次のステップS11に進む。ステップS10において「No」に該当する場合の処理は、乗員がアシストモードを固定している場合を想定している。このような場合には、その意思に反して電動補助自転車1を動作させる必要はない。自動アシスト切り替えが有効か否かは、ハードウェアボタンによって切り替えられてもよいし、例えばソフトウェア処理によって設定されてもよい。後者の例は、電源スイッチ65の長押しによってアシスト切り替えが禁止されるロックモードであるか否かを判定すればよい。なお、自動アシスト切り替えが有効か否かの判断に代えて、またはその判断に加重して、後述する加速度の偏差に応じた補助力の調整を許可するか否かの設定を行えるようにしてもよい。当該設定の切り替えも、ハードウェアボタンまたはソフトウェア処理によって実現することができる。
【0163】
ステップS11において、平均化回路78は、加速度センサ38から加速度信号を受け取る。平均化回路78は、当該加速度信号を平滑化してハイパスフィルタ73に出力する。ハイパスフィルタ73は平滑化された加速度信号から、予め定められた周波数以上の高周波成分を透過させ、当該周波数未満の周波数成分を除去する。なお平均化回路78を設けない場合には、加速度センサ38から出力された加速度信号をそのままハイパスフィルタ73に入力すればよい。
【0164】
ステップS12において、目標加速度演算ブロック72は、トルクセンサ41から出力されたトルク信号を受け取り、さらに記憶ブロック77に格納された加速度演算規則77aを参照して、トルク信号の値から目標加速度を演算する。加速度演算規則77aが、
図7に示すようなアシストモードに応じて変化し得る複数の関数等を含む場合には、目標加速度演算ブロック72は、現在選択されているアシストモードを示す情報を操作盤60から受け取る。
【0165】
ステップS13において、モータ電流指令値演算ブロック74は、選択されたアシストモード、ペダルトルクおよび変速段に基づいて、モータ電流指令値を演算する。
【0166】
ステップS14において、モータ電流指令値補正ブロック75は、上述した(数1)を利用してモータトルクFm(t)を演算する。さらにモータ電流指令値補正ブロック75は、当該モータトルクを生み出すための電流指令値を、予め用意された、モータトルク−電流指令値対応テーブルを参照して求める。そしてモータ電流指令値補正ブロック75は、得られた電流指令値を利用してモータ電流指令値を補正する。
【0167】
ステップS15において、モータ電流指令値演算ブロック76は、モータ電流指令値補正ブロック75が補正した電流指令値を、車速およびクランク回転に基づいてさらに補正する。
【0168】
モータ電流指令値補正ブロック76によってさらに補正された電流指令値は、モータ駆動回路79に送られ、モータ駆動回路79によって電動モータ53に電流が流される。これにより、電動モータ53が回転し、求められたモータトルクFm(t)を発生する。
【0169】
次に、
図9および
図10を参照しながら、上述の処理を行ったときの各種信号の波形を具体的に説明する。なお、
図9および
図10では横軸は時刻を示しており、図中の左から右へ向かう方向へ時間が経過している。
【0170】
図9は、乗員が一定の漕ぎ方で電動補助自転車1を漕いでいるときの負荷変動発生時の各種信号の波形を示す。負荷変動は、平坦路で走行中に向かい風が吹いたことによって発生したことを想定しており、上述した
図5Aに対応する。
【0171】
図9(a)の縦軸は、電動補助自転車1およびその乗員が受ける負荷の大きさを示している。
図9(b)の縦軸は、車両進行方向における車両速度を示している。ただし状態C12以降の車両速度は、本実施形態にかかる処理を行わないときの車両速度を表す。
図9(c)の縦軸は、加速度センサ38から出力される、x軸方向の加速度信号Gxを示している。状態C12以降の加速度信号Gxは、本実施形態にかかる制御を行わないときのx軸方向の車両加速度信号Gxの波形を示している。
【0172】
図9(d)の縦軸は、クランク回転センサ42から出力されるトルク信号を示している。
図9(e)の縦軸は、トルク信号から求められた、車両進行方向の目標加速度(実線)を示している。
図9(f)の縦軸は、本実施形態にかかる制御を行ったときの車両進行方向における車両速度(実線)を示している。
図9(e)および(f)には、参考として、本実施形態にかかる制御を行わなかったときのx軸方向の実際の加速度信号Gxの波形および車両速度の波形が、それぞれ破線によって示されている。
【0173】
状態C10では、電動補助自転車1は平坦路で停止している。この状態から、乗員はペダル55を踏み込んで電動補助自転車1を発進させる。発進時は、乗員はペダル55を強く踏むため、クランク軸57に発生するトルクは大きくなり(
図9(d))、車両の加速度も大きくなる(
図9(c))。その後速度が上がるにつれて、乗員は踏力を弱め、クランク軸57に発生するトルクのピークは徐々に小さくなる(
図9(d))。状態C11以降、乗員は、電動補助自転車1が希望する速度に到達したと判断し、一定の漕ぎ方でペダル55を漕ぎ始める。この結果、状態C11以降、トルク信号は周期的に変化する(
図9(d))。
【0174】
図9(e)に示されるように、本例では状態C10からC11の間でも目標加速度を求めているが、これは必須ではない。目標加速度は、乗員が電動補助自転車1を一定の漕ぎ方で漕ぎ始めた後、つまり状態C11以降に算出されればよい。なお、状態C10からC11までの間の目標加速度は、
図6に示す加速度演算規則77aとは異なる規則によって定められているが、本願発明の説明には直接関係しないため説明は省略する。
【0175】
状態C11からC12までは、乗員が電動補助自転車1を一定の漕ぎ方で漕いでいる(
図9(d))。車両速度は一定であり(
図9(b)、(f))、車両加速度も周期的に変化する(
図9(c))。
【0176】
状態C12は、向かい風が吹いた状況を想定している(
図9(a))。通常、向かい風の中を同じ踏力で電動補助自転車を漕ぎ続けた場合には、加速度の波形の谷がより強く落ち込み(
図9(c))、車両速度が低下する(
図9(b))。
【0177】
しかしながら、目標加速度演算ブロック72が、一定の漕ぎ方によって生じる踏力に基づいて、状態C11からC12までと同等の目標加速度を状態C12以降で設定する。モータ電流指令値補正ブロック75は、状態C12以降、
図9(e)の破線で示される加速度ではなく、実線で示される加速度が得られるよう電動モータ53の補助力を増加させる。これにより、乗員の踏力が状態C11からC12までの区間と同等であったとしても、車両速度が低下することはない。乗員は、向かい風が吹いた場合でも一定の漕ぎ方を継続して車両速度を維持できる。つまり向かい風の有無にかかわらず、乗員は同じ加速感で電動補助自転車1を運転できる。
【0178】
図10は、乗員が電動補助自転車1を漕いでいるときの負荷変動発生時の各種信号の波形を示す。負荷変動は、平坦路から傾斜路に差し掛かったことによって発生したことを想定しており、上述した
図5Bに対応する。
【0179】
図10(a)から
図10(h)のそれぞれの横軸は時刻を示している。
図10(a)の縦軸は、電動補助自転車1およびその乗員が受ける負荷の大きさを示している。
図10(b)の縦軸は、車両進行方向における車両速度を示している。ただし状態C12以降の車両速度は、本実施形態にかかる処理を行わないときの車両速度を表す。
図10(c)の縦軸は、加速度センサ38から出力される、x軸方向の加速度信号Gxを示している。状態C12以降の加速度信号Gxは、本実施形態にかかる制御を行わないときのx軸方向の車両加速度信号Gxの波形を示している。
図10(d)の縦軸は、ハイパスフィルタ73によって低周波成分が除去された加速度信号を示す。
【0180】
図10(e)の縦軸は、本実施形態にかかる処理を行わないときのクランク回転センサ42から出力されるトルク信号を示している。一方、
図10(f)の縦軸は、本実施形態にかかる処理を行ったときのクランク回転センサ42から出力されるトルク信号を示している。
図10(g)の縦軸は、
図10(f)に示すトルク信号から求められた、目標加速度(実線)を示している。ただしこの目標加速度は、加速度センサ38の出力に重畳される、傾斜路に起因する信号成分を含まない目標加速度である。
図10(h)の縦軸は、本実施形態にかかる制御を行ったときの車両進行方向における車両速度(実線)を示している。
図10(h)には、参考として、本実施形態にかかる制御を行わなかったときのx軸方向の車両速度の波形が破線によって示されている。
【0181】
ここで、
図11Aおよび
図11Bを参照しながら、加速度信号と傾斜との関係を説明する。
【0182】
図11Aは、平坦路における電動補助自転車1の静負荷相関図である。また
図11Bは、傾斜角θの傾斜路における電動補助自転車1の静負荷相関図である。
図11Aおよび
図11Bでは、電動補助自転車1の質量を「M」と記述し、重力加速度を「G」、X軸方向の加速度Gzを「α」、傾斜角を「θ
0」と記述している。
【0183】
図11Aを参照する。電動補助自転車1を、その重心の位置に存在する質点としたとき、電動補助自転車1には鉛直下向きに重力M・Gがかかる。加速度センサ38は重力の影響を常に受けるため、静止している状態では鉛直下方向(たとえばZ軸の負方向)に働く重力加速度Gを検出する。
【0184】
電動補助自転車1が静止状態にあるときは、電動補助自転車1は地面から鉛直上向きに抗力M・Gを受け、鉛直下向きの重力M・Gを相殺している。電動補助自転車1は重力に反して静止している状態であるから、重力加速度を相殺する上方向に加速していることになる。つまり、加速度センサ38は鉛直上向き(Z軸の正方向)に加速度Gを検出することになる。
【0185】
図11Bでも事情は同じである。電動補助自転車1が傾斜路に沿って静止している場合には、電動補助自転車1は傾斜路に沿って下る方向への重力の分力(M・G・sinθ
0)に反して静止している状態である。このときの加速度は、傾斜路を下る方向を負とすると、−G・sinθ
0である。傾斜路上で静止している電動補助自転車1は、傾斜路を下る方向への加速度(G・sinθ
0)を相殺するよう、傾斜路を上る方向に、大きさG・sinθ
0で加速していることになる。つまり加速度は、+G・sinθ
0である。電動補助自転車1が傾斜路を上る方向に走行を開始した後も、常に+G・sinθ
0の加速度が重畳されることになる。
【0187】
図10(c)に示すように、加速度信号Gxは状態C12以降で一定のオフセットを有している。その理由は、上述した+G・sinθ
0の加速度が重畳されているからである。ハイパスフィルタ73は、重畳されたオフセット成分+G・sinθ
0を除去する。モータ電流指令値補正ブロック75は、ハイパスフィルタ73から出力された加速度信号(
図10(d))と、トルク信号(
図10(f))から求められた、車両進行方向の目標加速度(
図10(g))との偏差を求める。モータ電流指令値補正ブロック75は、当該偏差をより小さくするよう、電動モータ53に発生させるモータトルク(補助力)を調整する。以下、具体的に説明する。
【0188】
まず、状態C10からC12までは、
図9において説明した状態C10からC12までと同じであるから説明は省略する。なお、状態C11からC12までは、乗員が電動補助自転車1を一定の漕ぎ方で漕いでいる(
図10(d))。車両速度は一定であり(
図10(b)、(f))、車両加速度も周期的に変化する(
図10(c))。
【0189】
状態C12は、傾斜路に差し掛かった状態を表している(
図10(a))。通常、傾斜路において同じ踏力で電動補助自転車を漕ぎ続けた場合には、加速度の波形の谷がより強く落ち込み(
図10(c))、車両速度が低下する(
図10(b))。
【0190】
電動補助自転車1が傾斜路に差し掛かったときに、乗員が直感的に踏力を増加させている。これは
図19(f)の状態C12直後においてトルク信号が増加し、その後徐々に減少している状態から読み取ることができる。
【0191】
目標加速度演算ブロック72は、踏力(トルク信号)に基づいて目標加速度を算出する。また、モータ電流指令値演算ブロック74は、選択されたアシストモード、ペダルトルクおよび変速段に基づいて、モータ電流指令値を演算する。
【0192】
モータ電流指令値補正ブロック75は、目標加速度演算ブロック72によって算出された目標加速度と、ハイパスフィルタ73から出力された現在の加速度との偏差を求める。モータ電流指令値補正ブロック75は、得られた偏差が小さくなるよう、上述の(数1)の処理を利用して電動モータ53に発生させるモータトルクの大きさを決定する。決定されたモータトルクは、平坦路走行時のモータトルクよりも大きい。このようなトルクを発生させるようにモータ電流指令値が補正され、さらにモータ電流指令値補正ブロック76によってモータ電流指令値がさらに補正される。これにより、状態C12以降の乗員の踏力が、状態C11からC12までの区間の踏力と同等であったとしても、車両速度は維持される(
図10(h))。乗員は、傾斜路を上る場合でも概ね一定の漕ぎ方を継続して車両速度を維持できる。つまり傾斜路の有無にかかわらず、乗員は同じ加速感で電動補助自転車1を運転できる。
【0193】
図12は、ハイパスフィルタ73による低周波成分の除去を行わない場合の目標となる加速度信号(実線)を示す。
図12はまた、本実施形態による処理が行われないとした場合における加速度信号(破線)も示している。
【0194】
上述した処理では、ハイパスフィルタ73によって低周波成分を除去した後の加速度信号を用いたが、結果的には加速度目標値が
図12の実線で示されるように設定されていることになる。ハイパスフィルタ73を用いることにより、傾斜路走行時であるか否かによらず、向かい風等の負荷を受けた場合と同じ処理を実現することができる。
【0195】
上述の説明では、モータ電流指令値補正ブロック75は(数1)を用いてモータトルクを決定すると説明した。他の例として、加速度の偏差Enの大きさに応じて、モータトルクを決定してもよい。
【0196】
図13は、加速度の偏差の大きさに応じたモータトルクを示す。この表によれば、加速度の偏差Enの値に応じてモータトルクFmが決定され得る。すなわち、En<0のときはモータトルクFm=0、0≦En<E1のときはFm=Fm1、E1≦En<E2のときはFm=Fm2、・・・、E(i−1)≦En<E(i)のときはFm=Fmiである。
【0197】
上述した2種類のモータトルクの決定方法は例示であって本発明を限定するものではない。
【0198】
上述の例では、向かい風が吹いた場合、および、傾斜路を上る場合において、制御装置70が電動モータ53の補助力をより大きくした。しかしながら、追い風が吹き、または傾斜路を下る際に、乗員がより小さいトルクでペダル55を漕いだ場合には、目標加速度が小さくなる。よって、制御装置70のモータ電流指令値補正ブロック75は、電動モータ53による補助力をより小さくする。上述した処理は、大きい負荷が電動補助自転車1および乗員にかかる場合だけでなく、負荷が小さくなる場合でも適用可能である。
【0199】
以上、本発明の実施形態を説明した。上述の実施形態の説明は、本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。また、上述の実施形態で説明した各構成要素を適宜組み合わせた実施形態も可能である。本発明は、特許請求の範囲またはその均等の範囲において、改変、置き換え、付加および省略などが可能である。
【0200】
上述したように、本発明の例示的な電動補助システム(駆動ユニット51)は、ペダル55を備えた電動補助車両(電動補助自転車1)に用いられ、ペダルに加えられた乗員の人力により回転するクランク軸57と、クランク軸に発生するトルクの大きさに応じたトルク信号を出力するトルクセンサ41と、乗員の人力を補助する補助力を発生させる電動モータ53と、電動補助車両の進行方向に関する現在の加速度に応じた加速度信号を出力する加速度センサ38と、トルク信号および加速度信号を受け取って、電動モータに発生させる補助力の大きさを決定する制御装置70とを有している。制御装置は、予め用意された規則に基づいてトルク信号から目標加速度を算出し、目標加速度と現在の加速度との偏差が小さくなるよう、電動モータに発生させる補助力の大きさを決定する。
【0201】
乗員が足でペダルを漕ぐという自転車の構造上、乗員がペダルを漕いでいるときのペダルの位置に応じて、ペダルに加わる乗員の人力の大きさは変化する。そのため、乗員がペダルを漕いでいるときのペダルの位置に応じて、電動補助自転車の進行方向の加速度は変化する。電動補助システムは乗員の踏力から求められる目標加速度と、車両の現在の加速度との偏差を小さくするよう、電動モータに発生させる補助力の大きさを変更する。走行時に負荷がかかったとしても、乗員の踏力はその乗員が所望する加速感を表していると考えられるため、踏力から目標加速度を設定して、車両の現在の加速度をその目標加速度に近づけるよう制御することで、乗員は走行時の負荷に応じた適切な補助力によって電動補助車両を走行させることができる。
【0202】
ある実施形態において、制御装置70は、PID制御により、電動モータ53に発生させる補助力の大きさを決定し、偏差を小さくする。
【0203】
ある実施形態において、現在の時刻tにおける現在の偏差をE(t)と表し、補助力制御システムの比例要素、微分要素および積分要素の各フィードバックゲインを、それぞれKp、KdおよびKiと表すとき、制御装置70は、電動モータ53に発生させる補助力に対応するモータトルクFmを、下記の式によって決定してもよい。
【数1】
【0204】
ある実施形態において、制御装置70は、偏差が0に近づくよう、電動モータ53に発生させる補助力の大きさを決定してもよい。
【0205】
上述のいずれの実施形態によっても、目標加速度に対する追従性を向上させることができる。
【0206】
ある実施形態において、制御装置70は、電動モータ53に流すべき電流の指令値と、電動モータに発生させる補助力に対応するモータトルクの大きさとを対応付けたテーブルを予め保持しており、テーブルを参照してモータトルクを発生させる電流の指令値を決定する。
【0207】
ある実施形態において、制御装置70は、偏差の大きさに応じた範囲ごとに、電動モータ53に流すべき電流の指令値と、モータトルクの大きさとが対応付けられたテーブルを予め保持しており、テーブルを参照してモータトルクを発生させる電流の指令値を決定する。
【0208】
ある実施形態において、制御装置70は、現在の時刻tにおける現在の偏差をE(t)と表し、残留偏差に関する比例項、積分項および微分項から電流指令値を求めるための各フィードバックゲインを、それぞれKp’、Kd’およびKi’と表すとき、制御装置は、電動モータに流すべき電流の指令値Imを、下記の式によって決定する。
【数2】
【0209】
ある実施形態において、制御装置70は、前述の予め用意された規則を保持する記憶装置77を備える。
【0210】
ある実施形態において、規則は、トルク信号と目標加速度との対応関係を規定するマップまたは関数であってもよい。
【0211】
ある実施形態において、関数は非線形関数または線形関数であってもよい。
【0212】
ある実施形態において、制御装置70は、受け取った加速度信号に含まれる予め定められた周波数以上の高周波成分を透過させるハイパスフィルタ73を有する。
【0213】
ある実施形態において、制御装置70は、5Hz以上の高周波成分を透過させるハイパスフィルタ73を有する。
【0214】
ハイパスフィルタ73を設けることにより、乗員がペダル55を漕ぐことによる加速度を適切に抽出することができる。
【0215】
ある実施形態において、乗員がペダル55を漕いでクランク軸57を1回転させる期間中に、トルクセンサ41および加速度センサ38は、複数回または連続してトルク信号および加速度信号を出力し、制御装置70は、電動モータ53に発生させる補助力の大きさを複数回または時間的に連続して決定する。
【0216】
ある実施形態において、乗員がペダル55を漕いでクランク軸57を1回転させる期間中に、トルク信号は、乗員がペダルを漕ぐ動作に連動するクランク軸の回転に応じて変化し、加速度信号は、乗員がペダルを漕ぐ動作および電動補助車両(電動補助自転車1)に加えられる外乱に応じて変化し、制御装置70は、予め定められたタイミングで、トルク信号から目標加速度を算出し、加速度信号から加速度を算出し、電動モータ53に発生させる補助力の大きさを決定する。
【0217】
ある実施形態において、電動補助システム(駆動ユニット51)は、指令値に応じて、振幅、周波数、流れる向きの少なくとも一つが制御された電流を電動モータに出力するモータ駆動回路79をさらに備え、制御装置70は、決定した補助力の大きさに対応する電流を流すための指令値をモータ駆動回路79に出力する。これにより、走行時の踏力に応じた目標加速度を得られるよう、適切な補助力を発生させることができる。
【0218】
本願発明の例示的な実施形態による電動補助車両(電動補助自転車1)は、上述の電動補助システム(駆動ユニット51)を備えている。ある実施形態において、電動補助車両は、前輪25および後輪26と、乗員の人力および補助力を後輪に伝達する動力伝達機構31とを備える。本発明の例示的な実施形態に係る電動補助システムを備える電動補助車両は、走行時の踏力に応じた目標加速度を得られるよう、適切な補助力を発生させることができる。