(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガス濃度及び前記ボール温度を計算するとき、前記波形データプロセッサは、前記第1及び第2相対変化により、前記ガス濃度に起因する遅延時間の第1対象変化、及び前記ボール温度に起因する遅延時間の第2対象変化を計算することを特徴とする請求項1に記載のガス濃度測定システム。
前記ガス濃度及び前記ボール温度を計算するとき、前記ガス濃度に起因する前記遅延時間の第1対象変化、及び前記ボール温度に起因する前記遅延時間の第2対象変化は、前記第1及び第2相対変化により計算されることを特徴とする請求項11又は12に記載のガス濃度測定方法。
前記ガスを流す前に、前記ボールセンサの前記ボール温度を設定温度に制御するステップをさらに含むことを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載のガス濃度測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の第1及び第2実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は実際のものとは異なる場合がある。また、図面相互間においても寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。また、以下に示す第1及び第2実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。したがって、特許請求の範囲によって規定される技術的範囲内において、本発明の技術的思想に様々な変更を加えることができる。
【0013】
−第1実施形態−
(システム構成)
図1及び
図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る水分濃度測定システムは、センサユニット1と、温度制御部16と、信号処理ユニット40とを備える。センサユニット1は管状のセンサセル31内に埋め込まれたボールセンサ2を有し、センサセル31はブロック状のホルダ11上に配置された板状のアダプタ14上に固定されている。ボールセンサ2は球状であるので、筒状に構成されたセンサセル31は、ボールセンサ2の下部を取り付けるため凹状の内部構造を有している。管状のセンサセル31の上壁が垂直に切り取られて窓を構成している。このセンサセル31の上壁の窓の内壁に、電極ホルダベース32の底部が挿入されて、電極ホルダベース32がセンサセル31上に固定されている。電極ホルダベース32の底部を垂直方向に管路が貫通し、この管路の開口部が、ボールセンサ2の上部を部分的に覆っている。更に、電極ホルダベース32はセンサセルキャップ33によって覆われている。
【0014】
電極ホルダベース32の底部の管路の内部を、鉛直方向にコンタクトピン35aが設けられている。ボールセンサ2は、管路を鉛直方向に貫通するコンタクトピン35aを介して棒状の外部電極35に接続されている。外部電極35の長手方向は垂直に配置され、外部電極35の底部が円筒状の電極ホルダ34の中空の空間内に保持されている。この電極ホルダ34の先端部は、センサセルキャップ33の内部にまで挿入されている。ガス含有微量水分、即ち「測定対象ガス」は、水平に配列された配管36を通して、測定対象ガスがガス流速vでボールセンサ2の表面に接することができるように、センサセル31に導入される。ガス流速vは、典型的には0.1L/minから1L/minである。
【0015】
図2に示すように、ボールセンサ2は、均質な圧電ボール20の表面の所定の領域に配置されたセンサ電極22及び感応膜23を有する。圧電ボール2は、立体的な基体として、その上にSAWを伝播するための円形環状帯が画定される均質な材料球を提供する。センサ電極22は、環状軌道上に成膜した感応膜23を通過しながら圧電ボール20上に画定された円状の環状軌道を繰り返し伝搬する、第1周波数の基本波と第2周波数の高調波とを含むSAWのコリメートビーム21を生成する。感応膜23は、立体的な基体上の環状軌道を規定する環状帯のほぼ全面に形成される。感応膜21は特定のガス分子と反応するように構成されているので、感応膜21は測定対象ガス中の水蒸気を吸着する。
【0016】
圧電ボール20には、水晶、ランガサイト(La
3Ga
5SiO
14)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)、圧電セラミックス(PZT)、ビスマスゲルマニウム酸化物(Bi
12GeO
20)等の結晶球が用いられる。感応膜23としては、シリカ(SiO
x)膜等を用いることができる。センサ電極22は、感応膜23の開口部に形成されている。感応膜23は、均質な圧電ボールの赤道の一部において、圧電ボール20の表面の一部を露出させる。センサ電極22には、電気音響変換素子として、クロム(Cr)膜を用いる櫛歯状電極(IDT)等を用いることができる。均質な圧電ボール20のような単結晶球の場合、SAW周回経路は、結晶材料の種類に応じて、一定の幅を有する特定の軌道帯に限定される。軌道帯の幅は結晶の異方性に応じて増減することができる。
【0017】
圧電ボール20の周りを周回する際の回折損失はなく、材料減衰による伝搬損失のみがある。コリメートビーム21は、水分子を吸着する感応膜23を何度も回転して伝播するようにされている。吸着された水分子はSAWの伝搬特性を変化させるので、感応フィルム23上の吸着された水分子による変化は、複数の周回をしながら回転ごとに積算される。そのため、微量の水蒸気を吸着するほどに感応膜23が薄くても、水分濃度の測定精度を高めることができる。
【0018】
基本波の第1周波数f
1と高調波の第2周波数f
2との間の好適な関係は、
f
2 = nf
1
で表される。ここで、n = 3または5である。即ち、本発明の第1実施形態に係る水分濃度測定システムでは、高調波は3次高調波または5次高調波である。したがって、第1周波数f
1が80MHzのとき、第2周波数f
2は、3次高調波では240MHz、5次高調波では400MHzとなる。直径3.3mmの圧電ボール20に対する第1周波数f
1の好適な範囲は60MHzから100MHzであり、最も好適な第1周波数f
1は80MHzである。第1周波数f
1は、圧電ボール20の直径に反比例する。
【0019】
例えば、ボールセンサ2は、以下のようにして製造することができる。直径約3.3mmの石英ボールの表面に、厚さ約150nmのCr膜のIDTのパターンを形成する。
図3に示すように、IDTは、一対のバスバー25a,25bと、各バスバー25a,25bから延びる複数の電極指26a,26bを有する。電極指26a,26bは交差幅Wcで互いに重なり合い、各電極指26a,26bは指幅Wf及び周期Pを有する。交差幅Wc、指幅Wf及び周期Pは、80MHzのSAWの自然なコリメートビームに対して、それぞれ364μm、6.51μm及び10.0μmに設計される(非特許文献1参照。)。
【0020】
この直径3.3mmの水晶球上のIDTは、基本波として80MHzのSAWと、3次高調波として240MHzのSAWを発生させることができる。そして、ゾルゲル法を用いてシリカフィルムを合成し、以下のように石英ボールの表面に塗布する。3.47gのテトラエトキシシラン(TEOS)、0.75gのイソプロパノール(IPA)、及び1.50gの0.1N塩酸(HCl)を超音波処理(27kHz,45kHz,100kHz;60分)により攪拌して混合する。TEOSは加水分解により重合し、SiO
xを生じる。超音波処理後、混合物をIPAで希釈し、0.5質量%のSiO
x溶液を得る。SAWの伝搬経路の表面は、回転塗布法を使用してSiO
x溶液で塗布される。回転塗布の条件は、3000rpm、20秒間である。干渉顕微鏡による測定から、SiO
x膜の厚さは1029nmであることが確認されている。
【0021】
外部電極35の底面に取り付けられたコンタクトピン35aを用いて、N極(
図2では圧電ボール20の上面)の周囲に配置された電極パッド(図示せず)を介してセンサ電極22にRF電圧が印加される。S極(
図2では圧電ボール20の底部)の周りに配置された他の電極パッド(図示せず)は、接地されたセンサセル31と接触している。
【0022】
図1に示すように、温度制御部16は、ボールセンサ2の直下となるホルダ11の下部に保持されたペルチェ素子12に接続されている。ホルダ11の側方位置には、サーミスタ13が挿入されている。また、温度制御部16は、サーミスタ13に接続されている。ペルチェ素子12は、アダプタ14を介してセンサセル31内のボールセンサ2を加熱及び冷却するために用いられる。サーミスタ13は、監視温度T
thを検出するために用いられる。温度制御部16は、監視温度T
thを用いてペルチェ素子12を制御する。
図1に示すように、センサセル31からのガス漏れを防止するために、サーミスタ13をセンサセル31に直接挿入することはできない。なお、第1実施形態では、サーミスタ13を監視温度T
thの検出に用いたが、熱電対等の温度検出器が使用可能である。
【0023】
信号処理ユニット40は、
図4に示すように、信号発生器と信号受信器(以下、信号発生器と信号受信器の組を「信号発生器/受信器」という。)42と波形データプロセッサ44とを含む。波形データプロセッサ44は、
図5に示すように、計算機システムの論理ハードウェア資源として通信部(通信論理回路)45、計算部(計算論理回路)46、比較部(比較論理回路)47、及び記憶部48を含む。波形データプロセッサ44の通信部45は、所定の「設定温度」、即ちペルチェ素子12の制御温度を温度制御部16に送り、センサセル31にガスを流すための指示をセンサ部1に送る。
【0024】
さらに、通信部45は信号発生器/受信器42に命令を送り、信号発生器/受信器42が、ボールセンサ2のセンサ電極22にバースト信号を送信して、圧電ボール20の周囲を伝搬するSAWのコリメータビーム21をセンサ電極22が励起する。更に、通信部45が信号発生器/受信器42に命令を送ることにより、信号発生器/受信器42は、コリメートビーム21が圧電ボール20の周囲を所定回数回転して伝搬した後、センサ電極22を介してコリメートビーム21のバースト信号を受信する。信号発生器/受信器42は、バースト信号の波形データを波形データプロセッサ44へ送信する。
【0025】
波形データプロセッサ44の計算部46は、バースト信号の波形データを用い、第1周波数の遅延時間が呈する第1相対変化、及び第2周波数の遅延時間が呈する第2相対変化によって、水分濃度w及びボール温度T
Bをそれぞれ算出する。波形データプロセッサ44の比較モジュール47は、測定が熱平衡で実施されたかどうかを判断するために、計算されたボール温度T
Bを以前に測定されたボール温度T
Bの値と比較する。波形データプロセッサ44の記憶部48には、波形データプロセッサ44に水分濃度w及びボール温度T
Bを算出するための波形データの処理を実行させるためのプログラムが記憶されている。また、記憶部48は、ペルチェ素子12の設定温度、算出されたボール温度T
B、以前に測定されたボール温度T
B、及び、波形データプロセッサ44の動作中におけるそれらの算出中及び解析中のデータを記憶する。
【0026】
波形データプロセッサ44は、パーソナルコンピュータ(PC)などの汎用コンピュータシステムの中央処理装置(CPU)の一部として構成すればよい。 波形データプロセッサ44は、算術論理演算を実行する算術論理演算装置(ALU)、ALUにオペランドを供給してALU演算の結果を記憶する複数のレジスタ、及びALUの調整された演算を指示する命令の(メモリからの)フェッチ及び実行を統合する制御装置を含むことができる。ALUを構成する通信部45、計算部46、及び比較部47は、論理回路ブロックまたは単一の集積回路(IC)チップ上に含まれる電子回路などの個別のハードウェア資源で構成してもよく、汎用コンピュータシステムのCPUを用いて、ソフトウェアで実質的に等価な機能を有していても構わない。
【0027】
なお、水分濃度の測定を波形データプロセッサ44に実行させるためのプログラムの保存は、波形データプロセッサ44に設けられた記憶部48に限定されない。例えば、プログラムは外部メモリに保存してもよい。さらに、プログラムは、コンピュータ読取可能記録媒体に保存してもよい。コンピュータ読取可能記録媒体を、波形データプロセッサ44を含むコンピュータシステムの記憶部48に読み込ませることによって、波形データプロセッサ44は、プログラムに記載された一連の命令に従って、水分濃度を測定するための調整された演算を実行する。ここで、「コンピュータ読取可能記録媒体」とは、コンピュータの外部記憶装置、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ等のプログラムを記録することができるような記録媒体または記憶媒体を意味する。
【0028】
遅延時間(DTC)の第1相対変化をΔt
1、及び第2相対変化をΔt
2と表すと、波形データプロセッサ44において実行される測定原理は、以下のように説明される。第1相対変化Δt
1は、第1周波数f
1におけるΔτ
1/τ
1として定義され、第2相対変化Δt
2は、第2周波数f
2におけるΔτ
2/τ
2として定義される。ここで、τ
1は、感応膜23に吸着される水分がなく所定回数の回転で伝搬する間の、第1周波数f
1におけるSAWの遅延時間であり、τ
2は、感応膜23に吸着される水分がなく所定回数の回転で伝搬する間の第2周波数f
2におけるSAWの遅延時間である。又、Δτ
1は水分濃度とボール温度変化による遅延時間τ
1の遅延時間変化で、Δτ
2は水分濃度とボール温度変化による遅延時間τ
2の遅延時間変化である。各回転の遅延時間τ
1及びτ
2は、それぞれ回転での受信バースト信号のウェーブレット変換の実部の最大値に最も近いゼロクロスタイムとして求められる(非特許文献2参照。)。
【0029】
第1相対変化Δt
1及び第2相対変化Δt
2は次式で与えられる。
Δt
1 = B(T
B)f
1G(w)+ A
1(T
B − T
REF)…(1)
Δt
2 = B(T
B)f
2G(w)+ A
2(T
B − T
REF)…(2)
ここで、B(T
B)は感度係数、wは水分濃度、G(w)は水分濃度の関数、T
Bはボールセンサ2のボール温度、T
REFは基準温度、A
1は第1周波数f
1での温度係数、A
2は第2周波数f
2での温度係数である。
【0030】
式(1)及び式(2)から、ガス濃度wによる遅延時間の第1対象変化Δt
wは、次式で与えられる。
Δt
w =Δt
2 − CΔt
1 =(f
2 − Cf
1)B(T
B)G(w)…(3)
また、ボール温度(温度項)T
Bによる遅延時間の第2対象変化Δt
Tは、次式で与えられる。
Δt
T=(f
2/f
1)Δt
1−Δt
2}/(f
2/f
1)−C}=A
1(T
B−T
REF)…(4)
ここで、A
1は第1周波数f
1での温度係数、A
2は第2周波数f
2での温度係数であり、C=A
2/A
1は温度係数比である。水分濃度wとボール温度T
Bは、それぞれ式(3)及び式(4)によって同時に得ることができる。
【0031】
SAWの基本波と3次高調波、即ちf
2=3f
1を用いて、ガス流なしで試験測定を実施した。試験測定の各手順について、
図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。ステップS100において、信号発生器/受信器42aは、SAWのコリメートビーム21を励起するようにバースト信号をボールセンサ2に送信する。ステップS101において、コリメートビーム21がボールセンサ2の周りを所定回数の回転で伝搬した後、信号生成/受信部42は、ボールセンサ2を介してコリメートビーム21のバースト信号を受信する。 バースト信号の波形データは、波形データプロセッサ44に送信される。
【0032】
ステップS102において、波形データプロセッサ44は、波形データを用いて、第1周波数f
1の第1相対変化Δt
1、及び第2周波数f
2の第2相対変化Δt
2を算出する。そして、第1相対変化Δt
1及び第2相対変化Δt
2を用いて、それぞれ水分濃度wに起因する第1対象変化Δt
w、及びボール温度T
Bに起因する第2対象変化Δt
Tが算出される。ステップS103において、波形データプロセッサ44は、第2対象変化Δt
Tを用いて、式(4)によりボール温度T
Bを算出する。ステップS104において、先の測定サイクルからのボール温度T
Bの温度変化ΔTを熱平衡の基準となる閾値ΔTcと比較する。テスト測定では、閾値ΔTcは一時的に20℃に設定され、条件ΔT<ΔTcは12秒の測定サイクルごとに常に満たされている。ステップS105において、ガス濃度wを式(3)により算出する。
【0033】
試験測定の結果として、温度係数比Cは、第1相対変化Δt
1に対する第2相対変化Δt
2の最小二乗フィッティングにより、C=0.9875と測定された。さらに、
図7に示すように、ペルチェ素子12の設定温度を変化させることによって、第2対象変化Δt
Tがボール温度T
Bの関数としてプロットされている。ここで、ボール温度T
Bは、ガス流量vがゼロのときのホルダ11の監視温度T
thと同じであると仮定した。式(4)から、温度係数A
1はフィッティング直線の傾きによって規定することができ、基準温度T
REFは第2対象変化Δt
Tがゼロのときの特定のボール温度によって規定することができる。したがって、温度係数A
1と基準温度T
REFは、−24.25ppm/℃及び24.06℃と決定することができる。
【0034】
式(4)に温度係数A
1と基準温度T
REFを代入すると、ボール温度T
Bは次のようになる。
T
B = 24.06−0.0412Δt
T …(5)
式(5)を用いて計算された他のボール温度の誤差は、0.24%未満と評価されている。上述のように、第1実施形態によれば、ボール温度T
Bを高感度かつ高信頼度で測定することができる。
【0035】
センサセル31の熱容量の影響を評価するために、式(5)によって算出されたボール温度T
Bが、サーミスタ13によって測定された監視温度T
thと比較されている。
図8に示すように、ペルチェ素子12の具体的な設定温度が34℃から24℃に変更された場合、ボール温度T
Bの変化は監視温度T
thから約0.5分遅れており、3分経っても24℃に達していない。この現象は、ステンレス鋼板製のアダプタ14の大きな熱容量によるものである。したがって、感応膜23の粘弾性を利用した精密測定のためには、熱平衡状態で水分濃度を測定する必要がある。非平衡現象による誤差を回避するためには、閾値ΔTcを小さい値、例えば0.1℃以下に設定することが望ましい。反対に、中断することなく測定を続けるためには、閾値ΔTcをより大きな値、例えば10℃以上に設定することが望ましい。
【0036】
図10に示すように、窒素(N
2)ガス流中の水分濃度wを1.3ppbv,234ppbv,1.3ppbv,590ppbv,1.3ppbv,1180ppbv,1.3ppbvの順序で変化させ、各水分濃度wをキャビティリングダウン分光法(CRDS)を用いて評価した(萩原啓他10名、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス(Japanese Journal of Applied Physics)、2014年、第53巻、p.07KD08参照。)。同時に、ペルチェ素子12の設定温度は24℃と14℃の間で変化させた。水分濃度wに起因する第1対象変化Δt
w及びボール温度T
Bを、
図9及び
図11に示すように測定した。
図9から分かるように、ボール温度T
Bは正確に設定温度を再現している。
図9は、式(4)または式(5)の妥当性を示すものであり、ボール温度T
Bは水分濃度wの変化によって、影響を受けないことがわかる。第1対象変化Δt
wは、水分濃度w及びボール温度T
Bと共に変化している。
【0037】
図11に示す表において、第1対象変化Δt
wを用いて、 式(3)の右辺の項は次のように評価される。
(f
2−Cf
1)B(T
B)=aexp[Δe/k
B(T
B+273)] …(6)
ここで、a=−6.33×10
−6、Δe=0.271(eV)、k
B=8.617×10
−5eV/K(ボルツマン定数)であり、
G(w)= w
1/2 …(7)
式(6)と式(7)を式(3)に代入すると、水分濃度wは
w =(Δt
w/a)
2exp[−2Δe/k
B(T
B+273)] …(8)
ここでT
Bは式(5)で与えられる。
図10に示すように、水分濃度wは設定値をほぼ正しく再現している。したがって、第1実施形態によれば、温度を変化させても濃度測定を行うことができる。
【0038】
図12は、水分濃度wを1.3ppbvから1180ppbvに変化させたときの第1対象変化Δt
wとボール温度T
Bの推移を示している。
図12に示すように、第1対象変化Δt
wは、水分濃度w及びボール温度T
Bの変化によるかなり複雑な挙動を示している。しかし、
図13に示すように、水分濃度wはほぼ正しく設定値を再現している。
【0039】
その結果、温度が変化しても濃度測定の信頼性が確認された。しかし、ボール温度T
Bが14℃から24℃の間で急激に変化する温度ジャンプ付近の水分濃度wの変動は、精度向上のために解決すべき課題である。先の測定サイクルからのボール温度T
Bの温度変化ΔTが0.1℃を超えると、温度ジャンプが起こり得る。水分濃度wの変動は、センサセル31及び配管36内の水分の吸着や脱着に起因する可能性があるが、ボール温度T
Bの温度変化ΔTが大きすぎると、水分濃度wの変動が生じる可能性がある。
【0040】
温度ジャンプ付近での水分濃度wの変動の問題を解決するために、閾値ΔTcを0.08℃として、他のテスト測定を実行した。N
2ガス流中の水分濃度wは、CRDSを用いて評価し、3.39ppbv,14.36ppbv,3.39ppbv,41.22ppbv,3.39ppbv,85.74ppbv,3.39ppbv,174.2ppbv,3.39ppbv,434.7ppbv,3.39ppbv,870.4ppbv,3.39ppbvの順序で変化させた。同時に、ペルチェ素子12を使用して、15分ごとにボール温度T
Bを24℃の14℃間で変化させた。
【0041】
図14に示すように、測定されたボール温度T
Bは設定温度を再現している。
図15に示すように、ボール温度T
Bは約5分のあいだ約14℃に維持され、約10分のあいだに14℃から24℃に変化し、約5分のあいだ約24℃に維持されることがわかる。水分濃度wによる第1対象変化Δt
wは、水分濃度wとともにボール温度T
Bによっても変化した。
【0042】
図6に示したフローチャートのステップS104において、閾値ΔTcは0.08℃に設定され、ボール温度T
Bが約14℃または約24℃に約5分間維持されている間、ΔT<ΔTcの平衡条件が満たされている。この場合、式(3)の右辺は、a=−9.00×10
−6、Δe=0.311(eV)として式(6)及び式(7)と評価できる。a=−9.00×10
−6、Δe=0.311(eV)として式(6)及び式(7)を 式(3)に代入して、式(8)を用いて水分濃度wを求めることができる。
図16及び
図17に示すように、温度ジャンプ付近での測定水分濃度wの変動を、
図10及び
図13に比べて小さくすることができる。
【0043】
図18はまた、設定濃度値と60分にわたって平均された測定濃度値との間の比較を示す。
図18に示すように、設定濃度値と測定濃度値との間の一致は顕著であることが理解される。したがって、第1実施形態によれば、温度が変化しても高信頼性の濃度測定を実現することができる。
【0044】
(測定方法)
第1実施形態に係る水分濃度の測定方法について、
図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。 まず、波形データプロセッサ44の通信部45は、ペルチェ素子12の規定の設定温度を
図1に示す温度制御部16に送信する。ボール温度は規定の設定温度でペルチェ素子12により制御され、ホルダー11に挿入されたサーミスタ13はホルダー11の温度を監視する。通信部45から送信された命令に従って、水蒸気を含むガスが配管36を通ってセンサセル31に流れ込む。
【0045】
ステップS100で、通信部45から送信された命令に従って、信号発生器/受信器42からバースト信号がセンサ電極22に送信され、SAWのコリメートビーム21が励起される。
図2に示すように、コリメートビーム21は、環状軌道上に配置された感応膜23を通過しながら、圧電ボール20上の環状軌道を繰り返し伝播する。
【0046】
ステップS101で、コリメートビーム21が圧電ボール20の周りに所定回数の回転、例えば50回転で伝搬した後、信号発生器/受信器42はセンサ電極22を介してコリメートビーム21のバースト信号を受信する。通信部45を介してバースト信号の波形データは、
図4に示す波形データプロセッサ44に送信される。
【0047】
ステップS102で、波形データプロセッサ44の計算部46は、バースト信号の波形データから、第1周波数f
1の第1相対変化Δt
1及び第2周波数f
2の第2相対変化Δt
2をそれぞれ算出する。そして、第1相対変化Δt
1及び第2相対変化Δt
2を用いて、水分濃度w及びボール温度T
Bに起因する第1対象変化Δt
w及び第2対象変化Δt
Tがそれぞれ算出される。
【0048】
ステップS103で、波形データプロセッサ44の計算部46は、第2対象変化Δt
Tを用いてボール温度T
Bを算出する。
【0049】
ステップS104で、波形データプロセッサ44の比較部47により、先の測定サイクルからのボール温度T
Bの温度変化ΔTと閾値ΔTcとが比較される。例えば、閾値ΔTcは0.08℃に設定されている。
【0050】
温度変化ΔTが閾値ΔTc以下である場合、ステップS105で、計算部46によりガス濃度wが算出され、新たな測定値として記憶部48に記録される。一方、温度変化ΔTが閾値ΔTcより大きい場合、感応膜の粘弾性特性を正確に測定するために必要な熱平衡が実現されていないと判断される。したがって、先のサイクルにおける水分濃度wは依然として有効であり、次の測定サイクルを開始するためにステップS100の処理に戻る。
【0051】
第1実施形態に係る測定方法によれば、温度が変化してもボールセンサ2の水分濃度wとボール温度T
Bとを同時に高感度かつ信頼性よく測定することができる。
【0052】
−第2実施形態−
図8に示すように、ボール温度T
Bの変化は、第1実施形態のサーミスタ13の監視温度T
thと比較して、やや緩やかであり、0.5分程度遅れている。さらに、ボール温度T
Bは3分後でさえも所望の設定温度に達していない。その理由の一つは、ステンレス鋼板製のアダプタ14の大きな熱容量にある。また、ボール温度T
Bを監視するためには、サーミスタ13をボールセンサ2のできるだけ近くに設置する必要がある。しかしながら、外気からの水分の漏れを避けるために、サーミスタ13をセンサセル31に設置することはできない。
【0053】
第1実施形態で述べたように、ボール温度T
Bは、SAWの遅延時間τ
1及びτ
2並びに、遅延時間τ
1の相対変化Δτ
1及び遅延時間τ
2の相対変化Δτ
2を用いて求められる。即ち、サーミスタ13による監視温度T
thの代わりに、波形データプロセッサ44により算出されたボール温度T
Bを用いてペルチェ素子12を制御してもよい。このように、ボールセンサ2自体をボール温度T
Bの監視用精密温度計として用いることができる。
【0054】
その結果、温度制御プロセスの性能は理想的であり、ボール温度T
Bの応答は著しく速くなり得る。温度制御には制御信号としてボール温度T
Bを用いる必要があり、制御信号としてボール温度T
Bを用いる場合には、商用の温度コントローラが使用されている構成に比べて、第1実施形態に係る水分濃度測定システムの性能を向上させることができる。この改善は、
図19に示す装置を用いて実現される。
【0055】
本発明の第2実施形態では、
図19に示すように、温度制御部16は、波形データプロセッサ44からペルチェ素子12の規定の設定温度と算出されたボール温度T
Bとを受け取るコマンドインタプリタ18を備えている。その他の構成は、実施形態1とほぼ同様であるので、重複する説明は省略する。
【0056】
測定時には、波形データプロセッサ44は、ペルチェ素子12を制御するために温度制御部16に温度を設定する。信号発生/受信部42は、ボールセンサ2にバースト信号を送信し、その後、コリメートビーム21のバースト信号を受信する。コリメートビーム21は、圧電ボール20の周囲を所定回数の回転で伝播している。続いて、信号生成/受信部42は、バースト信号の波形データを波形データプロセッサ44に送信する。波形データプロセッサ44は、式(4)及び式(5)を用いて、波形データに信号処理を実施し、ボール温度T
Bを算出温度として求める。計算されたボール温度T
Bは、米国電子工業会(EIA)によって標準化されたRS−232C通信プロトコルを使用してコマンドインタプリタ18に送信される。
【0057】
計算されたボール温度T
Bが設定温度より低いかまたは高い場合、温度制御部16は比例積分微分(PID)制御アルゴリズムに従ってペルチェ素子12に加熱または冷却電流を送る。第2実施形態では、ペルチェ素子12を制御するための制御信号としてボール温度T
Bを用いているので、サーミスタ13で監視されている監視温度T
thを用いた場合に比べて、ボール温度T
Bの応答が大幅に速くなる。
【0058】
応答時間は、規定の設定温度に達し、設定温度から±0.2℃の温度範囲内で安定するのに要する時間で評価されている。
図20A及び
図20Bは、時間t=0分においてペルチェ素子12の規定の設定温度を24℃から14℃に変化させ、時間t=15分で14℃から24℃に変化させたときのペルチェ素子12によって制御されるボール温度T
Bの時間変化を示す。
図20Aは、第1実施形態に係る温度制御であり、サーミスタ13による監視温度T
thを制御信号として用いたものである。
図20Bは、第2実施形態に係る温度制御を示しており、波形データプロセッサ44により算出されたボール温度T
Bを制御信号として用いている。
【0059】
図20Aに示すように、規定の設定温度が24℃から14℃に変更された場合の応答時間は約7.0分であり、規定の設定温度が14℃から24℃に変更された場合の応答時間は約4.65分である。
図20Bに示すように、規定の設定温度が24℃から14℃に変更された場合の応答時間は約3.85分であり、規定の設定温度が14℃から24℃に変更された場合の応答時間は約3.1分である。このように、制御信号としてボール温度T
Bを用いるときのボール温度T
Bの応答は、サーミスタ13によって監視される監視温度T
thを用いるときと比較して著しく速くなることが、
図20A及び
図20Bから明らかである。
【0060】
−その他の実施形態−
以上のように、本発明を第1及び第2実施形態よって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。上記の実施形態の開示の趣旨を理解すれば、当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が本発明に含まれ得ることが明らかとなろう。
【0061】
第1及び第2実施形態では、ボールセンサ2の温度制御に温調ユニット10を用いたが、常温又は恒温室内で測定を行う場合、ボールセンサ2の温度制御は必ずしも行わなくてもよい。このような場合、測定システムは、センサユニット1と信号処理ユニット40とを含んでもよい。
【0062】
第1及び第2の実施形態では、微量水分センサをガスセンサとして説明した。しかし、本発明は微量水分センサだけでなく、水素分子、酸素分子、揮発性有機化合物分子などの各種ガス分子用のセンサにも適用可能である。例えば、水素ガスセンサの感応膜23には、パラジウム(Pd)膜やPd化合物膜を用いることができる。このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を当然に包含する。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に記載された発明特定事項によってのみ定められるものである。