【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。実施例において用いた測定方法及び試験は、以下のとおりである。
【0035】
<重量測定>
原料となる繊維材料及び導電糸の単位長さ当りの重量は、電子天秤(メトラー・トレド株式会社製;AB54−S)を用いて測定した。
【0036】
<電気抵抗測定>
デジタル・マルチメータ(株式会社エーディーシー;R6552)を用いて、4端子法により測定した。測定する際に、導電糸に所定荷重で張力を付与した状態で所定長さとなるようにセットして行った。
【0037】
<曲げ剛性測定>
自動化純曲げ試験機(カトーテック株式会社;KESFB2−AUTO−A)を用いて、1本〜5本の糸サンプルを、クランプ間隔10mm、曲げ変形速度0.5cm
-1/sの条件で曲げモーメントを測定し、測定された曲げモーメントに基づいて、曲率0.5〜1.5の範囲で曲げ剛性を算出した。
【0038】
<高周波特性測定>
被試験導電糸を、熱収縮チューブ(Versafit V4−0.8−0−SP−SM)で絶縁被覆した後、2本を平行に密着させて平行二線伝送線路を構成し、4ポートネットワークアナライザ(アジレントテクノロジ株式会社製)とGSSGプローブ(カスケードマイクロテック株式会社製)を用いて、ミクストモードSパラメータを取得することで、差動伝送における伝送損失を求めた。
【0039】
<屈曲耐久性試験>
図1に示すように、500mmの長さの導電糸Cを、1mm間隔を空けて水平に平行配列した一対の屈曲バーBの間に上方から挿入し、下端に20gの重りWを取り付けて上端側を把持体Aに取り付ける。屈曲バーBの断面形状は直径10mmの円形に形成されており、外周面の曲率半径は5mmに設定されている。そして、把持体Aを屈曲バーBと直交する方向に往復揺動させて屈曲バーBにより挟まれた位置を中心に導電糸Cを両側に135度まで屈曲させるように動作させる。把持体Aの動作速度は、約60回/分とした。把持体Aの動作により屈曲バーBに挟まれた導電糸Cの部分が繰り返し屈曲変形するようになる。そして、所定の屈曲回数毎に屈曲変形部分を含む箇所で電気抵抗測定を行った。
【0040】
[実施例1]
原料として、パラアラミド繊維からなる繊維束(帝人株式会社製;テクノーラ)を用いた。繊度として、440デシテックス、1100デシテックス及び1670デシテックスの3種類を準備した。原料として用いた繊維束は、複数の長繊維が繊維長方向に引き揃えられて無撚状態で集束したものを使用した。
【0041】
<導電糸の製造>
まず、前処理工程では、触媒として塩化パラジウムコロイド溶液(奥野製薬工業株式会社製標準処方)を用いて、浸漬法により繊維束を構成する長繊維の表面に触媒を付与し、市販の硫酸溶液(星和ケミカル株式会社製標準処方)を用いた酸浸漬により触媒の活性化処理を行った。
【0042】
次に、前処理により長繊維の周囲に付着した触媒を活性化させた繊維束に対して無電解メッキ処理を行った。無電解メッキ処理では、メッキ液として硫酸銅溶液処方(奥野製薬工業株式会社製標準処方)を用い、メッキ液を収容した複数のメッキ浴槽を繊維束の搬送方向に配列した。そして、繊維束(Dデシテックス)に対して糸長方向に付与する張力(張力Tニュートン)をT=D/500に設定して搬送しながら、溶液温度40℃及び処理時間15分の条件で各メッキ浴槽内を通過させて浸漬することで無電解メッキ処理を行った。繊維束が浸漬された状態で振動を付与することで、繊維束を構成する長繊維がばらけてその周囲を満遍なく無電解メッキ処理した。
【0043】
次に、無電解メッキ処理された繊維束に対して電気メッキ処理を行った。電気メッキ処理では、メッキ液として硫酸銅溶液処方(奥野製薬工業株式会社製標準処方)を用い、メッキ液を収容した複数のメッキ浴槽を繊維束の搬送方向に配列した。そして、繊維束(Dデシテックス)に対して糸長方向に付与する張力(張力Tニュートン)をT=D/500に設定して搬送しながら、溶液温度20℃及び処理時間15分の条件で各メッキ浴槽内を通過させて浸漬することで電気メッキ処理を行った。繊維束が浸漬された状態で振動を付与することで、繊維束を構成する長繊維がばらけてその周囲を満遍なく電気メッキ処理した。
【0044】
以上の処理により、長繊維の周囲を銅により被覆したマルチフィラメントからなる導電糸を製造した。
【0045】
<導電糸の撚糸>
製造した一部の導電糸に対して検撚機(SANKIN ENGINIEERING CO.,LTD.製)により、荷重20gで所定の撚り数で撚糸処理した。440デシテックスの導電糸に撚り数200回/m及び160回/mを加撚したものを作成して実施例1−1及び実施例1−2とし、1100デシテックスの導電糸に撚り数30回/mを加撚したものを実施例1−3として評価した。1670デシテックスの導電糸については、加撚せずにそのまま実施例1−4として評価した。
【0046】
<導電糸に関する各特性の測定>
製造した導電糸を所定の長さに切断し、重量及び電気抵抗を測定し、単位長さ当りの重量及び電気抵抗を算出し、所定の長さの導電糸について曲げ剛性を測定した。測定結果を
図2に示す。また、
図3は、周波数が300MHz〜1500MHzにおける高周波伝送損失の測定結果を示すグラフである。グラフでは、横軸に周波数(MHz)をとり、縦軸に高周波伝送損失(dB)をとっている。
【0047】
[実施例2]
原料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる繊維束(帝人株式会社製;1100デシテックス/192f)を用いた。原料として用いた繊維束は、複数の長繊維が繊維長方向に引き揃えられて無撚状態で集束したものを使用した。
【0048】
<導電糸の製造>
実施例1と同様に、原料となる繊維束に対して、前処理工程、無電解メッキ処理工程及び電気メッキ処理工程を行って導電糸を製造した。得られた導電糸は、加撚せずにそのまま実施例2として評価した。
【0049】
<導電糸に関する各特性の測定>
製造した導電糸を所定の長さに切断し、実施例1と同様に測定を行った。測定結果を
図2及び
図3に示す。
【0050】
[比較例1]
比較例として、単線材からなる銅線(共和ハーモネット株式会社製;2UEW、径0.2mm)と、絶縁被覆銅線(オーナンバ株式会社製;絶縁被覆材、径0.18mm×20本)から取り出した撚線材の本数を2本、12本、20本にした3種で、12本及び20本は、26回/mの撚りであった。単線材からなる銅線を比較例1−1とし、2本、12本及び20本の銅線束をそれぞれ比較例1−2〜1−4とした。
【0051】
<銅線及び銅線束に関する各特性の測定>
比較例1−1〜1−4について所定の長さに切断し、実施例1と同様に測定を行った。測定結果を
図2に示す。また、比較例1−1〜比較例1−3について測定した高周波伝送損失に関するグラフを
図3に示す。
【0052】
<導電糸の特性評価について>
導電糸は、比較例1−1の単線材(径0.2mm)からなる銅線と同程度の重量で5Ω/m以下の低抵抗となっており、軽量化しつつ通信用及び電源供給用に必要な導電性を備えていることがわかる。
【0053】
曲げ剛性では、実施例1−1から実施例1−4では0.04gf・cm
2/ヤーン〜5gf・cm
2/ヤーンの範囲内で柔軟性を備えていることがわかる。これに対して、比較例1−3及び1−4の撚線材からなる銅線束では、曲げ剛性の正確な測定を行うことができず、測定可能な比較例1−1の銅線及び比較例1−2の銅線束についても導電糸の曲げ剛性より大きくなっており、導電糸は銅線に比べて格段に柔軟性を備えていることがわかる。
【0054】
高周波伝送損失では、実施例1−1〜実施例1−4及び実施例2では、300MHz〜1500MHzの範囲において、比較例1−1〜比較例1−3と同程度に低くなっており、いずれも5dB以下の低損失となっている。また、撚り数との関係では、実施例1−1及び実施例1−2を比較すると、撚り数の大きい実施例1−1の方が高周波伝送損失が低下している。後述するように、撚り数が大きくなると電気抵抗が低下するとともに安定してくるため、比較例に示す銅線と同程度の高周波伝送損失を実現することが可能となる。
【0055】
以上のとおり、導電糸は、軽量化、導電性、曲げ剛性及び高周波伝送損失といった各特性に関してバランスの良い特性を備えており、通信用や電源供給用として好適な素材であることを確認することができた。
【0056】
[実施例3]
原料として、実施例1と同様のパラアラミド繊維からなる3種類の繊維束(帝人株式会社製;テクノーラ、440デシテックス、1100デシテックス及び1670デシテックス)を用いて撚り数による電気抵抗値の変化を測定した。原料として用いた繊維束は、複数の長繊維が繊維長方向に引き揃えられて無撚状態で集束したものを使用した。
【0057】
<導電糸の製造>
実施例1と同様に、原料となる繊維束に対して、前処理工程、無電解メッキ処理工程及び電気メッキ処理工程を行って導電糸を製造した。
【0058】
<導電糸の撚糸及び電気抵抗の測定>
製造された導電糸を実施例1と同様の検撚機を用いて撚糸し、所定の撚り数毎に電気抵抗を測定した。電気抵抗の測定では、440デシテックスの導電糸では、荷重20gで張力を付与した状態で500mmの長さとなるようにセットして10cmの間隔で測定し、単位長さ当りの電気抵抗を算出した。また、1100デシテックス及び1670デシテックスの導電糸では、荷重40gで張力を付与した状態で500mmの長さとなるようにセットして10cmの間隔で測定し、単位長さ当りの電気抵抗(Ω/m)を算出した。そして、3箇所での測定結果の平均値を電気抵抗値とした。
【0059】
得られた電気抵抗値を用いて撚り数が0の場合の電気抵抗値との比抵抗を算出した。
図4は、撚り数による比抵抗の推移を示すグラフである。グラフでは、縦軸に比抵抗をとり、横軸に撚り数(回/m)をとっている。
【0060】
<導電糸の撚り数と電気抵抗との関係について>
440デシテックスの導電糸では、撚り数が160回/m以上で電気抵抗が低下した状態で安定した特性を示しており、1100デシテックスの導電糸では、撚り数が100回/m以上で電気抵抗が低下した状態で安定した特性を示しており、1670デシテックスの導電糸では、撚り数が50回/m以上で電気抵抗が低下した状態で安定した特性を示している。いずれの場合でも、導電糸に撚りを付与することで、導電糸を構成する長繊維が互いに密着する表面積が増加するため、長繊維の周囲を被覆する銅が電気的に互いに接続するようになり、電気抵抗の低下とともに安定した特性を示すようになると考えられる。
【0061】
[実施例4]
原料として、実施例1と同様のパラアラミド繊維からなる繊維束(帝人株式会社製;テクノーラ、440デシテックス)を用いて、屈曲耐久性試験を行った。原料として用いた繊維束は、複数の長繊維が繊維長方向に引き揃えられて無撚状態で集束したものを使用した。
【0062】
<導電糸の製造>
実施例1と同様に、原料となる繊維束に対して、前処理工程、無電解メッキ処理工程及び電気メッキ処理工程を行って導電糸を製造した。
【0063】
<導電糸の撚糸>
製造された導電糸を実施例1と同様の検撚機を用いて、撚り数がそれぞれ161回/m、202回/m及び300回/mに加撚した3種類の導電糸を準備し、それぞれ実施例4−1〜実施例4−3とした。
【0064】
<導電糸の屈曲耐久性試験及び電気抵抗の測定>
準備した導電糸に対して屈曲耐久性試験を行い、所定の屈曲回数毎に電気抵抗を測定した。電気抵抗の測定では、荷重20gで張力を付与した状態で500mmの長さとなるようにセットして10cmの間隔で測定し、単位長さ当りの電気抵抗を算出した。算出結果を
図5に示す。
【0065】
[比較例2]
比較例1−1と同様の銅線及び比較例1−2と同様の銅線束をそれぞれ比較例2−1及び比較例2−2として用いて、実施例4と同様の屈曲耐久性試験を行い、所定の屈曲回数毎に電気抵抗を測定した。電気抵抗の測定は、実施例4と同様に測定した。算出結果を
図5に示す。
【0066】
<導電糸の屈曲耐久性について>
導電糸では、7万回以上の屈曲回数でも断線せずに導電性が確保されており、電気抵抗の増加率が150%以下に抑えられていることから、導電糸を使用して織成又は編成することが可能で、電線等の製品となった後の屈曲にも耐えられるものと考えられる。一方、銅線や銅線束の場合には、8千回までで破断しており、本発明に係る導電糸は、銅線に比べて屈曲耐久性が格段に高いことが確認できた。