(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態の保冷ライナ20を模式的に示す断面図である。保冷ライナ20は、原紙21と、原紙21上に形成されたアンカー層22と、アンカー層22上に形成された保温層23と、保温層23上に形成されたニス層24とを備えている。
【0011】
図2は、保冷ライナ20を用いて形成された段ボール10を模式的に示す断面図である。段ボール10は、保冷ライナ20を第一ライナとし、第一ライナおよび第二ライナ30の一対のライナの間に中芯40が配置された公知の基本構造を有する。
段ボール10を用いると、すべての内面が保冷ライナ20で構成された保冷段ボール箱を作製することができる。
以降の説明において、保冷ライナ20を第一ライナ20と称することがある。
【0012】
原紙21としては、一般的な段ボールに用いられるライナを使用できる。段ボール原紙の他にも、マニラボールやコートボールなどの白板紙等を、箱の用途に応じて用いることができる。
アンカー層22は、原紙21と保温層23との密着性を高める機能を有する。アンカー層22の材料としては、酸基を有するポリウレタン樹脂とポリアミン樹脂を含むものが好ましく、酸基を有するポリウレタン樹脂およびポリアミン化合物を含有する水性ポリウレタン樹脂と、水溶性高分子と、無機層状鉱物とを含有するものがさらに好ましい。後者の材料として、例えば、特開2015−44944号公報に記載の水系コーティング剤を例示することができる。この水系コーティング剤により形成したアンカー層は、濡れ性を向上させる効果があり、本実施形態の保温層との密着性が好適に向上される。
【0013】
アンカー層の材料の平均分子量は、800〜10000の範囲が好ましい。平均分子量が800より小さいと、十分な透湿度(詳細は後述)を得にくい。平均分子量が10000より大きいと、溶解性が低下し、アンカー層を形成するための塗工用インキを調製しにくくなる。
【0014】
保温層23は、樹脂成分23aと金属粒子23bとを含有する。樹脂成分23aとしては、例えば、ウレタンと塩化ビニル酢酸ビニルとの共重合樹脂(ウレタン−塩酢ビ樹脂)や、硝化綿樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂等を用いることができる。
【0015】
金属粒子23bとしては、例えばアルミニウム粒子が好適である。金属粒子23bの粒径は、10μm〜30μmの範囲が好ましい。粒径が10μmより小さいと凝集しやすくなり、30μmより大きいと、保温層を形成するためのインキ中で沈殿して加工がしにくくなる。
【0016】
保温層23における金属粒子23bの含有率は、45%〜65%の範囲が好ましい。含有率が45%より小さいと、赤外線放射率を十分確保しにくくなり、65%より大きいと、保温層が脆くなる。
【0017】
保温層23は、樹脂成分を硬化させる、例えばイソシアネート系等の硬化剤を含有してもよい。これにより、保温層23を硬くして金属粒子の脱落を防ぐとともに、原紙21との密着性を高めることができる。
【0018】
ニス層24は、保温層23の一部を覆うように形成されている。ニス層24に用いられるニスとしては、例えばアクリル系ニス、スチレン−アクリル系ニス、ニトロセルロース系ニス等が挙げられ、中でもアクリル系ニスが好ましい。
ニス層24は、保温層23の摩耗を防止する機能を有するため、保温層24のうち、ニス層24に被覆されない領域が一方向に所定の長さ(例えば0.1mm)以上連続しないように形成されるのが好ましい。このような条件を満足するニス層24の形状としては、例えば網状や点状の分布が挙げられ、各種印刷により形成することができる。
【0019】
上述した保冷段ボール箱は、第一ライナ20のうちニス層24が形成された面がすべての内面を構成するように段ボール10を折り曲げや接着等により組み立てて作製することができる。これにより、保冷段ボール箱において内容物が収容される内部空間は、一部がニス層24によって被覆された保温層23によって覆われる。
保温層23は金属粒子を含有しているため、保冷段ボール箱の内面において、赤外線の放射率が0.6未満に低下し、容器内を効率的に冷却することができる。
【0020】
本発明においては、保冷ライナにおいて通常考慮される赤外線放射率に加えて、保冷ライナの透湿度についても考慮された構造となっている。
例えば我が国の夏のような、高温高湿の環境下で保冷段ボール箱が保存された場合、水蒸気を含んだ高温の外気が段ボールを透過して保冷段ボール箱の内部空間に進入する。進入した外気は内部空間に存在する冷気で冷やされるが、その際に水蒸気が水になると、凝結熱が発生して内部空間の温度を上昇させる。このような現象の発生を抑制するためには、保冷段ボール箱を構成する段ボールの透湿度を低く抑えることが好ましい。
【0021】
本実施形態においては、原紙21と保温層23との間にアンカー層22を備える第一ライナ20により段ボール10の透湿度が低減されている。その結果、水蒸気の内部空間への進入を抑制し、凝結熱による内部空間の温度上昇を好適に抑制することができる。
凝結熱による内部空間の温度上昇を好適に抑制する観点からは、第一ライナ20の透湿度は、1000g/m
2・day以下とされ、700g/m
2・day以下が好ましい。
アンカー層22が層状無機鉱物を含有していると、層状無機鉱物により生じる迷路効果により、さらに透湿度を低下させることができる。
【0022】
以上説明したように、本実施形態における保冷段ボール箱は、原紙21と保温層23との間にアンカー層22を備える第一ライナ20を用いて構成され、さらにその内面は、第一ライナ20のうちニス層24が設けられた側の面で構成されているため、高温高湿の環境下においても、内部空間に収容された低温の収容物を、温度上昇を抑えつつ長時間保存することができる。
【0023】
また、第一ライナ20の保温層23は、フィルムの積層でなく、印刷等により設けることができるため、保冷段ボール箱の使用後は、そのままリサイクルに供することができ、環境への負荷が小さい。
【0024】
さらに、保温層23の少なくとも一部がニス層24に覆われているため、収容物や梱包作業者の手指等が保温層23に直接接触しにくい。その結果、保温層23の耐摩耗性が高められ、露出した金属粒子等が脱落しにくい。
ここで、保温層23の全面をニス層で覆ってしまうと、内面の放射率が上昇しやすいため、ニス層24による保温層23の被覆率を50%〜80%の範囲内とすると、放射率低低減と耐摩耗性向上とを好適に両立させやすい。
【0025】
上述した各構成により、本実施形態における保冷段ボール箱は、発泡ポリスチレンよりもはるかに薄い構成で良好な保冷性能を発揮するため、単位容積あたりの寸法を小さくすることができ、収容物の輸送効率が著しく向上される。さらに、第一ライナ20に形成される各層は印刷や塗工により形成することができるため、低コストで製造でき、環境負荷も小さくすることができる。
【0026】
上述した本実施形態の保冷ライナについて、実施例および比較例を用いてさらに説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、これら実施例の具体的内容により何ら限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
(第一ライナの作製)
第一ライナ20の原紙21として、Cライナ(商品名C160、興亜工業(株)製)を使用した。原紙21の一方の面に、特開2015−44944号公報に記載の水系コーティング剤を塗布して、厚さ2μmのアンカー層22を形成した。その後、ウレタン−塩酢ビ樹脂、アルミペーストおよびイソシアネート系硬化剤(樹脂及びアルミペーストの合計に対して4質量部)を含むインキをアンカー層22上に塗工して、厚さ2μmの保温層23を形成した。保温層23の乾燥塗膜中におけるアルミニウムの比率(含有率)を55重量%(wt%)とした。さらに、アクリル系ニスを保温層23上に網状に印刷し、保温層23の70%を被覆する厚さ1μmのニス層24を形成した。以上により、第一ライナ20を作製した。
(第二ライナの準備)
上述した原紙21を第二ライナ30として準備した。
(段ボールの作製)
保温層23およびニス層24が形成された面を外側にして、第一ライナ20と第二ライナ30とでセミケミカルパルプの中芯40(Bフルート、120g/m
2)を挟み、コルゲータを用いて段ボール10を作製した。
(保冷段ボール箱の作製)
上述の段ボール10を用いて、外形の長辺300mm、短辺200mm、高さ150mmの保冷段ボール箱を、第一ライナ20を内面側にして作製した。
【0028】
(実施例2)
保温層23を形成するインキにおいて、ウレタン−塩酢ビ樹脂に代えて硝化綿樹脂を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例2の第一ライナを作製した。その後、同様の手順で段ボールおよび保冷段ボール箱を作製した。
【0029】
(実施例3)
イソシアネート系硬化剤を用いない点を除き、実施例1と同様の手順で実施例3の第一ライナを作製した。その後、同様の手順で段ボールおよび保冷段ボール箱を作製した。
【0030】
(実施例4)
ニス層24による保温層23の被覆率を50%とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例4の第一ライナを作製した。その後、同様の手順で段ボールおよび保冷段ボール箱を作製した。
【0031】
(比較例1)
アンカー層22を設けない点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1の第一ライナを作製した。その後、同様の手順で段ボールおよび保冷段ボール箱を作製した。
【0032】
(比較例2)
ポリビニルアルコール(PVA)を用いて厚さ2μmのアンカー層を設けた点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1の第一ライナを作製した。その後、同様の手順で段ボールおよび保冷段ボール箱を作製した。
【0033】
(比較例3)
保温層23の乾燥塗膜中におけるアルミニウムの比率を30wt%とした点を除き、実施例1と同様の手順で比較例3の第一ライナを作製した。その後、同様の手順で段ボールおよび保冷段ボール箱を作製した。
【0034】
(比較例4)
ニス層24による保温層23の被覆率を30%とした点を除き、実施例1と同様の手順で比較例4の第一ライナを作製した。その後、同様の手順で段ボールおよび保冷段ボール箱を作製した。
【0035】
(比較例5)
ニス層24をベタ印刷により形成した(保温層23の被覆率100%)点を除き、実施例1と同様の手順で比較例5の第一ライナを作製した。その後、同様の手順で段ボールおよび保冷段ボール箱を作製した。
【0036】
各実施例および比較例における段ボールまたは保冷段ボール箱について、以下の項目について評価を行った。
(透湿度の評価)
各例の第一ライナを用いて、JIS Z0208の透湿度試験方法(カップ法、条件B(40℃、90%RH(相対湿度)))に則り透湿度を測定した。
(赤外線放射率の評価)
放射率測定機(TSS−5X、ジャパンセンサー(株)製)を用いて、第一ライナ表面の赤外線放射率を測定した。
(保温層密着性の評価)
第一ライナの表面にカットしたテープ材(18mm幅、ニチバン(株)製)を重さ2kgのローラを2往復させて貼りつけた。その後、表面の法線方向に引っ張ってテープ材を素早く剥がし、テープ材への保温層の付着の有無を評価した。
評価は、下記3段階とした。
×(bad):テープ材面積の80%以上に保温層が付着している。
△(fair):テープ材面積の50%以上80%未満に保温層が付着している。
○(good):テープ材面積の50%未満に保温層が付着している。
【0037】
(第一ライナ表面の耐摩耗性の評価)
上質紙を取り付けた摩擦子および重り500gを第一ライナの表面に接触させて、500往復(30往復/分)させた後の表面状態を評価した。往復動作は、学振型摩擦試験機(RT−300、大栄科学精器製作所製)により行った。
評価は、下記3段階とした。
×(bad):摩擦子の面積の80%以上に保温層が付着している。
△(fair):摩擦子の面積の50%以上80%未満に保温層が付着している。
○(good):摩擦子の面積の50%未満に保温層が付着している。
(保冷性の評価)
各例の保冷段ボール箱内にドライアイス1kgを入れ、密閉状態で内部空間の温度を1分ごとに継続的に測定した。内部空間の温度が20℃に到達するまでの時間を保冷性の指標とした。
【0040】
実施例1から4では、透湿度が1000g/m
2・day以下と良好であり、保冷性も450分前後と十分であった。
一方、比較例1および2では、保冷性が十分でなく、透湿度が高いことが原因と考えられた。また、比較例1および2では、保温層の密着性も十分でなかった。
金属粒子の含有率が低すぎる比較例3では、保冷性が十分でなかった。
ニス層の被覆率が低すぎる比較例4では、保温層の耐摩耗性が劣っていた。また、ニス層の被覆率が高すぎる比較例5では、赤外線放射率が高くなる結果、保冷性が十分でなかった。
なお、保温層において、乾燥塗膜中におけるアルミニウムの比率を70wt%にすることを試みたが、膜状の保温層を形成することはできなかった。
【0041】
以上、本発明の一実施形態および実施例について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態等の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態では、第一ライナを備えた段ボールで保冷段ボール箱が形成される例を説明したが、これに代えて、第一ライナのみで箱が形成されてもよい。上述した低い透湿性は、もっぱらアンカー層および保温層を備える第一ライナによって実現されているため、第一ライナのみを用いて箱を形成しても、同様の効果を得ることができる。
また、段ボールで保冷段ボール箱を形成する場合、2枚の第一ライナで中芯が挟まれた段ボールが用いられてもよい。