(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
本発明の医療用具用重合体用単量体組成物は、グリセリンモノ(メタ)アクリレートを含み、グリセリンモノ(メタ)アクリレート100質量%に対する、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量が0.3質量%以下であることを特徴とする。このような医療用具用重合体用単量体組成物を重合体の原料として用いることで、MPC等の高価な材料を使用しなくても生体適合性に優れた重合体を製造することができるため、より安価に医療用具用重合体を製造することができる。
グリセリンモノ(メタ)アクリレート100質量%に対する、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量は、好ましくは、0.2質量%以下であり、更に好ましくは、0.1質量%以下である。
医療用具用重合体用単量体組成物中のグリセリンモノ(メタ)アクリレート100質量%に対する、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量は、単量体組成物をガスクロマトグラフ分析して得られるグリセリンモノ(メタ)アクリレート由来のピークと1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物のピークとの面積比から算出することができる。
【0012】
本発明の医療用具用重合体用単量体組成物はまた、グリセリンモノ(メタ)アクリレート100質量%に対する、ハロゲンの含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。ハロゲンは、有機ハロゲン化合物の毒物を形成する場合があるため、ハロゲン含有量がこのような割合であることで、本発明の医療用具用重合体用単量体組成物が医療用具用重合体の原料としてより好適なものとなる。グリセリンモノ(メタ)アクリレート100質量%に対する、ハロゲンの含有量は、より好ましくは、0.01質量%以下であり、特に好ましくは、0.001質量%以下である。
ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素が挙げられる。
医療用具用重合体用単量体組成物中のハロゲンの含有量は、イオンクロマトグラフィーを用いて実施例に記載の方法で測定することができる。
【0013】
上記グリセリンモノ(メタ)アクリレートは、グリセリンモノアクリレート及び/又はグリセリンモノメタクリレートを表すが、本発明の医療用具用重合体用単量体組成物は、グリセリンモノアクリレートを含むことが好ましい。
一般に高分子化合物に水が水和した場合、高分子化合物の表面には、高分子化合物と強い相互作用を有して凍結しない水(不凍水)と、高分子化合物との相互作用が弱い自由水とが存在するが、高分子化合物の中には、高分子化合物と中間的な相互作用をする水(中間水)を有するものがあることが明らかになってきている。生体成分や生体組織は、血液中や体液中で水和殻を形成して安定しており、この水和殻が高分子化合物表面の不凍水に接触して攪乱又は破壊されると生体成分や生体組織が高分子材料表面に吸着し、生体防御機構が活性化されると考えられるが、高分子材料の表面の不凍水層の上に中間水が安定に存在することで、生体成分や生体組織と接触してもタンパク質や細胞表面の水和構造が破壊されにくくなり、これにより高分子化合物が生体適合性の高いものとなることが明らかになってきている。本発明者は、式(1)で表される構造単位が中間水を含有することに関して非常に有利な構造であることを見出している。つまり、式(1)で表される構造単位が中間水を有することに関して非常に有利であるため、式(1)で表される構造単位を有する重合体が、広い組成範囲において中間水を有し、そのために生体適合性に優れたものとなると推測される。更に本発明者は、グリセリンモノアクリレートを原料とする重合体が、グリセリンモノメタクリレートを原料とする重合体に比べてより多くの中間水を有し、不凍水が少ないことを確認した。このため、グリセリンモノアクリレートを含むことで本発明の医療用具用重合体用単量体組成物から得られる重合体が、医療用具用途に用いられる材料としてより好適なものとなる。
本発明の医療用具用重合体用単量体組成物がグリセリンモノアクリレートを含む場合、該単量体組成物が含むグリセリンモノ(メタ)アクリレート全体のうち、グリセリンモノアクリレートの割合は50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、80質量%以上であり、更に好ましくは、90質量%以上であり、最も好ましくは、該単量体組成物が含むグリセリンモノ(メタ)アクリレートの全てがグリセリンモノアクリレートであることである。
【0016】
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を表す。)で表される構造単位を有する医療用具用重合体でもある。上記式(1)で表される構造単位は、グリセリンモノ(メタ)アクリレートを重合させたときに形成される構造単位であり、このような構造単位を有する重合体は、医療用具用材料として好適に用いることができる。
【0017】
上記式(1)で表される構造単位を有する重合体は、分子量分布が5未満であることが好ましい。分子量分布は重量平均分子量の数平均分子量に対する比で定義される。
1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物等の架橋性の不純物を含む医療用具用重合体用単量体組成物を原料として重合体を製造した場合、不純物のために架橋反応が起こり、分子量分布が大きくなる。分子量分布が大きくなると、生体適合性が低下する要因はよくわかっていないが、分子量分布が大きくなると、それ自体を定量的に検出することは非常に困難であるが、いわゆるミクロゲルと言われる架橋された微量成分が生成することが考えられる。ミクロゲルは架橋密度が高く架橋されているため分子鎖の運動性が低く、そのため、中間水が少なく、不凍水が多い状態となっていると考えられる。そのため、生体防御機構が活性化されると推測される。また、ミクロゲルが存在すると、コーティングした際、表面の平滑性が阻害され、凹凸の多い表面となり、タンパク質の滞留を招き、ミクロゲル表面の不凍水とタンパク質の接触が起こりやすくなり、生体適合性が低下するものと推測される。医療用具用途に使用される重合体としては、分子量分布は5未満が好ましく、4未満がより好ましい。更に好ましくは3未満である。
重合体の分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、実施例に記載の測定条件で測定することができる。
【0018】
ミクロゲルが生成し得るような条件では、やはり生体適合性に関して好ましくない不溶分が生成する場合がある。上記重合体は、不溶分の含有量が10質量%以下であることが好ましい。医療用具用途に使用される材料は、不溶分の混入が少ないものが好ましく、重合体の重量に対して、10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、5質量%以下であり、更に好ましくは、1質量%以下であり、特に好ましくは、0.1質量%以下である。
なお、ここでいう不溶分とは、架橋反応により、溶媒に溶解しなくなった重合体の成分を意味する。不溶分は、定性的には濃度10%以下の重合体溶液をガラス等の容器に入れて流展した時に壁面に粒状に残るため、目視確認でその存在を知ることができる。定量方法としては、濃度10%以下に調整した共重合体溶液を、目開き0.45μmのフィルターで濾過し、フィルター上に残存した不溶分を溶媒で洗浄する。このフィルターを80℃で1時間乾燥させた後、その重量を測定して、濾過前後における重量増加分を求め、下記式に基づき不溶分含有率を算出する。あまりにも不溶分が多い場合はフィルターが目詰まりを起こし、濾過不能となることがある。
不溶分含有率(%)=〔重量増加分(g)/重合体固形分(g)〕×100
なお、上記不溶分含有量の評価に使用する溶媒は、ゲル化していない重合体を充分に溶解可能な溶媒から選択する。また、上記フィルターでろ過して不溶分含有量の評価を行う場合、溶け残りが生じたり、粘度が高くなり過ぎたりしないように、適宜濃度を調整して評価する。
【0019】
上記式(1)で表される構造単位を有する重合体は、全構造単位100モル%に対して、式(1)で表される構造単位を5〜90モル%有することが好ましい。医療用具用途に用いられる重合体には、生体成分や生体組織に対する高い親和性や、医療用具の基材として用いられる材料への密着性に優れることが求められるが、同時に、生体成分や生体組織に溶解しないことも必要である。これら両方の要求を満たすため、式(1)で表される構造単位をこのような割合で有することが好ましい。
式(1)で表される構造単位の含有割合は、より好ましくは、10〜60モル%であり、更に好ましくは、15〜50モル%であり、特に好ましくは、20〜40モル%である。
【0020】
上記式(1)で表される構造単位を有する重合体が、上記式(1)で表される構造単位以外の構造単位を有する共重合体である場合、共重合体は、ランダム重合、ブロック重合、交互重合のいずれの形態のものであってもよいが、均一な表面を形成し、再現性良く安定した生体適合性を示すため、ランダム重合体であることが好ましい。
【0021】
上記式(1)で表される構造単位を有する重合体は、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以下である単量体由来の構造単位を有することが好ましい。このような構造単位を有すると、重合体が医療用具を使用する温度域で柔軟なものとなり、医療用具用途に用いる重合体としてより好適なものとなる。
上記構造単位を形成する単量体は、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以下ものが好ましいが、より好ましくは、ホモポリマーのガラス転移温度が40℃以下のものであり、更に好ましくは、30℃以下のものであり、特に好ましくは、20℃以下のものである。また、上記構造単位を形成する単量体としては、通常、ホモポリマーのガラス転移温度が−80℃以上のものが好ましい。
単量体のホモポリマーのガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量計)により測定することができる。
【0022】
上記式(1)で表される構造単位を有する重合体が、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以下である単量体由来の構造単位を有する場合、重合体の全構造単位100モル%に対して、当該構造単位を90〜10モル%有することが好ましい。より好ましくは、85〜20モル%であり、更に好ましくは、80〜30モル%であり、特に好ましくは、70〜40モル%である。
【0023】
上記ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以下である単量体としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
上記式(1)で表される構造単位を有する重合体は、式(1)で表される構造単位、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以下である単量体由来の構造単位以外のその他の構造単位を有していてもよい。その他の単量体単位を有する場合、重合体の全構造単位100モル%に対して、当該構造単位の含有割合は、50モル%以下であることが好ましい。より好ましくは、30モル%以下であり、更に好ましくは、20モル%以下であり、特に好ましくは、10モル%以下である。
【0025】
上記式(1)で表される構造単位、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以下である単量体由来の構造単位以外のその他の構造単位を形成する単量体としては、スチレン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イソプロペニルオキサゾリン、フェニルマレイミド等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
上記式(1)で表される構造単位を有する重合体は、重量平均分子量が5,000以上、2,000,000以下であることが好ましい。重合体の重量平均分子量がこのような範囲であると、重合体が医療用具用途に用いられる重合体としてより好適なものとなる。重合体の重量平均分子量は、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることが更に好ましく、50,000以上であることが特に好ましい。
また重合体の重量平均分子量は、2,000,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることが更に好ましく、500,000以下であることが特に好ましい。
【0027】
また、上記式(1)で表される構造単位を有する重合体は、分子量が5,000以下の成分の割合が重合体全体の5.0%以下であることが好ましい。分子量5,000以下の成分の割合が重合体全体の5.0%以下であると、長期の使用によっても血液中への低分子量成分の溶出を抑制することができ、生体組織との親和性がより良好となる。分子量5,000以下の成分の割合は、より好ましくは、重合体全体の1.0%以下であり、更に好ましくは、重合体全体の0.5%以下である。
重合体の重量平均分子量、及び、分子量5,000以下の成分の割合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、実施例に記載の測定条件で測定することができる。
【0028】
上記式(1)で表される構造単位を有する重合体は、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物由来の構造単位の含有量が、該重合体を構成する全構成単位100モル%に対して、0.15モル%以下であることが好ましい。このような架橋性単量体由来の構造単位の含有量が少ない重合体は、ゲル化しにくく、医療用具用材料としてより好適なものとなる。1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物由来の構造単位の含有量は、より好ましくは、該重合体を構成する全構成単位100モル%に対して、0.1モル%以下であり、更に好ましくは、0.05モル%以下であり、特に好ましくは、0.01モル%以下である。
このような重合体は、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量が少ない原料を用いて重合することで得ることができる。すなわち、本発明の医療用具用重合体は、本発明の医療用具用重合体用単量体組成物を原料として用いて得られたものであることが好ましい。
なお、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物由来の構造単位とは、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物が重合反応することにより形成される構造単位を意味し、具体的には、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物に含まれる炭素−炭素二重結合の少なくとも1つが、炭素−炭素一重結合に置き換わった構造単位をいう。
【0029】
本発明の医療用具用重合体用単量体組成物の製造方法は特に制限されないが、カルボン酸(塩)又はそのエステルを有するビニル化合物にグリセロール化合物を反応させた後、水を反応させてグリセリンモノ(メタ)アクリレートを製造する方法が好ましい。この方法では、ビニル化合物とグリセロール化合物とのエステル交換反応によりカルボキシル基部分が保護され、これにより、ビニル化合物の2量体化の進行が抑制されるため、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物の生成を抑制しながらグリセリンモノ(メタ)アクリレートを製造することができ、医療用具用重合体の原料として好適な、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量が、該グリセリンモノ(メタ)アクリレート100質量%に対して、0.3質量%以下である単量体組成物を製造することができる。
このような医療用具用重合体用単量体組成物の製造方法、すなわち、下記式(2);
【0031】
(式中、R
2は、水素原子又はメチル基を表す。R
3は、水素原子、アルカリ金属原子、アンモニウム基又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)で表されるビニル化合物と下記式(3);
【0033】
(式中、R
4、R
5は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)で表されるグリセロール化合物とを反応させる工程と、
該反応工程の反応生成物に水を反応させて下記式(4);
【0035】
(式中、R
2は、式(2)と同様である。)で表されるグリセリンモノ(メタ)アクリレートを得る工程とを含む医療用具用重合体用単量体組成物の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0036】
上記式(2)のR
3におけるアルカリ金属原子としては、ナトリウム原子、カリウム原子等が挙げられる。
上記式(2)、(3)のR
3〜R
5における炭素数1〜30の炭化水素基としては特に制限されないが、反応性の点から、炭素数1〜20の炭化水素基が好ましい。より好ましくは、炭素数1〜10の炭化水素基であり、更に好ましくは、炭素数1〜5の炭化水素基である。
また、炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基等のいずれのものであってもよい。
なお、R
3〜R
5は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0037】
上記式(2)で表されるビニル化合物と上記式(3)で表されるグリセロール化合物とを反応させる工程(以下、第1工程ともいう)では、ビニル化合物1モルに対して、グリセロール化合物を0.05〜20モルの割合で使用することが好ましい。より好ましくは、0.1〜10モルの割合であり、更に好ましくは、0.2〜5モルの割合である。
【0038】
上記第1工程の反応は、触媒を用いて行ってもよい。触媒としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラキス(2−エチルヘキシルオキシド)、チタンテトラステアリルオキシド等のチタン化合物;ジ−n−ブチルスズオキシド、ジ−n−オクチルスズオキシド、ジ−n−ブチルスズジメトキシド、ジ−n−ブチルスズジアクリレート、ジ−n−ブチルスズジメタクリレート、ジ−n−ブチルスズジラウレート等のスズ化合物の他、リチウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の周期表第1族又は第2族の金属原子の酸化物、塩化物、炭酸塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0039】
上記触媒を使用する場合の使用量は適宜設定すればよいが、上記式(3)で表されるグリセロール化合物100質量%に対して、0.1〜10質量%とすることが好ましく、より好ましくは、0.5〜5質量%とすることである。
【0040】
上記第1工程の反応は溶媒を用いて行ってもよい。溶媒としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
上記第1工程の反応は、20〜150℃の温度で行うことが好ましい。より好ましくは、50〜100℃の温度である。
上記第1工程の反応は、常圧、加圧、減圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0042】
上記第1工程の反応は、エステル交換反応であるため、反応生成物の収率を向上させるため、反応生成物及び/又は副生するアルコールを除去しながら反応を行うことが好ましい。
反応生成物及び/又は副生するアルコールを除去する方法は特に制限されないが、蒸留等を用いることができる。
【0043】
上記第1工程の反応生成物に水を反応させて式(4)で表されるグリセリンモノ(メタ)アクリレートを得る工程(以下、第2工程ともいう)は、触媒を用いて行うことが好ましい。
触媒としては、カチオン交換樹脂、無機固体酸等の酸触媒の1種又は2種以上を用いることができる。
カチオン交換樹脂としては、強酸性イオン交換樹脂が好ましく、例えば、アンバーリスト15Jwet、アンバーリスト15W(IR−200CH)(ローム&ハース社製);RCP−160M、RCP−150H、RCP−170H、PK−216(三菱化学社製);ダウエックス50W(ダウケミカル社製)等が挙げられる。
【0044】
上記触媒を使用する場合の使用量は適宜設定すればよいが、上記第1工程の反応生成物100質量%に対して、0.001〜20質量%とすることが好ましく、より好ましくは、0.1〜10質量%とすることである。
【0045】
上記第2の工程の反応における水の使用量は、第1工程の反応生成物1モルに対して、1モル以上であることが好ましい。より好ましくは、3モル以上である。水は第2の工程の反応の溶媒としての作用も有するため、水の使用量には特に上限はないが、例えば、第1工程の反応生成物1モルに対して、50モル以下として反応を行うことができる。
【0046】
上記第2工程の反応は、−10〜150℃の温度で行うことが好ましい。より好ましくは、20〜100℃の温度である。
上記第2工程の反応は、常圧、加圧、減圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0047】
上記第1工程及び第2工程の反応では、ビニル化合物の重合を抑制するために、重合禁止剤を使用することや、酸素を含むガスを反応液中にバブリングしながら反応を行うことのいずれか又は両方を行うことが好ましい。
重合禁止剤としては、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール等のキノン系重合禁止剤;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6―ジ―tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール等のアルキルフェノール系重合禁止剤;アルキル化ジフェニルアミン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイリオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のアミン系重合禁止剤;2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル系重合禁止剤等を用いることができる。これらの中でも、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、フェノチアジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等の1種又は2種以上を用いることができる。
上記重合禁止剤の使用量としては、ビニル化合物100質量%に対して、0.0005〜5質量%とすることが好ましい。より好ましくは、ビニル化合物100質量%に対して、0.005〜0.5質量%である。
上記酸素を含むガスを反応液中にバブリングしながら反応を行う場合、バブリングするガス中の酸素濃度は、1体積%以上であることが好ましい。
【0048】
本発明の医療用具用重合体用単量体組成物の製造方法は、上記第1工程、第2工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、濃縮工程、精製工程等が挙げられる。
【0049】
本発明はまた、上記医療用具用重合体用単量体組成物の製造方法で得られた医療用具用重合体用単量体組成物を用いて重合反応を行う工程を含む医療用具用重合体の製造方法でもある。上述のとおり、本発明の医療用具用重合体用単量体組成物の製造方法で得られた医療用具用重合体用単量体組成物は、1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物の含有量が少ないため、良好な重合性を有し、様々な他の単量体との共重合体を製造することができる。また、本発明の医療用具用重合体用単量体組成物の製造方法で得られた医療用具用重合体用単量体組成物を用いて重合体を製造すると、架橋性不純物の含有量が少なく、他の製造方法で製造されたグリセリンモノ(メタ)アクリレートを用いた場合に比べて分子量分布の狭い重合体を製造することができる。
【0050】
上記医療用具用重合体の製造方法では、医療用具用重合体用単量体組成物と、必要に応じてそれ以外の他の単量体とを用いて重合反応を行うことができる。
他の単量体としては、上述したホモポリマーのガラス転移温度が50℃以下である単量体や、上記式(1)で表される構造単位、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以下である単量体由来の構造単位以外のその他の構造単位を形成する単量体を用いることができる。
重合体の原料中におけるこれらの単量体の好ましい使用量は、上記式(1)で表される構造単位を有する重合体の全単量体単位におけるこれらの単量体由来の構造単位の好ましい割合と同様である。
【0051】
上記医療用具用重合体の製造方法における重合反応は、重合開始剤の存在下で重合反応を行うことが好ましい。重合開始剤としては、例えば、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酢酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物等が好適である。これらの重合開始剤は、単独で使用されてもよく、2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
重合開始剤の使用量としては、重合反応に使用される単量体の使用量1モルに対して、0.01g以上、10g以下であることが好ましく、0.1g以上、5g以下であることがより好ましい。
【0052】
上記重合反応は、溶媒を使用せずに行っても良いが、溶媒を使用することが好ましい。溶媒としては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
溶媒の使用量としては、重合反応に使用される単量体100質量%に対して40〜250質量%が好ましい。
【0053】
上記重合反応は、通常、0℃以上で行われることが好ましく、また、150℃以下で行われることが好ましい。より好ましくは、40℃以上であり、更に好ましくは、60℃以上であり、特に好ましくは、80℃以上である。また、より好ましくは、120℃以下であり、更に好ましくは、110℃以下である。上記重合温度は、重合反応において、常にほぼ一定に保持する必要はなく、一度または二度以上変動(加温または冷却)しても良い。
重合反応は、常圧、加圧、減圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0054】
上記重合反応において、医療用具用重合体用単量体組成物、医療用具用重合体用単量体以外の他の単量体、重合開始剤等の原料は、それぞれ反応器に一括で添加しても良く、逐次的に添加しても良い。医療用具用重合体用単量体組成物以外の他の単量体を使用する場合には、該他の単量体を医療用具用重合体用単量体組成物の共存下で重合する工程を含むことが好ましい。
【0055】
本発明の医療用具用重合体の製造方法は、上記重合反応工程以外の他の工程を含んでいてもよい。例えば、熟成工程、中和工程、重合開始剤や連鎖移動剤の失活工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程等が挙げられる。
【0056】
本発明の医療用具用重合体は、上述したとおり、優れた生体適合性を有し、医療用具の材料として好適に用いることができる。このような本発明の医療用具用重合体を含む医療用具用材料もまた、本発明の1つである。
本発明の医療用具用材料は、生体成分や生体組織との親和性が高いことから、血液と接触しても血栓を生じにくい抗血栓性材料として好適に使用することができ、各種医療用具の生体成分又は生体組織と接触する部分を構成する材料としても好適に使用することができる。更に、本発明の医療用具用材料は、細胞培養基材としても好適に使用することができる。
このような、本発明の医療用具用材料を用いてなる医療用具であって、該医療用具は、生体成分又は生体組織と接触する部分の少なくとも一部が前記医療用具用材料を用いて構成される医療用具もまた、本発明の1つであり、本発明の医療用具用材料を用いてなる抗血栓性材料や細胞培養基材もまた、本発明の1つである。
本発明の医療用具は、生体成分又は生体組織と接触する部分の少なくとも一部が前記医療用具用材料を用いて構成されていればよいが、生体成分又は生体組織と接触する部分の面積の50%以上が前記医療用具用材料で覆われていることが好ましく、80%以上覆われていることがより好ましく、生体成分又は生体組織と接触する部分の全てが前記医療用具用材料で覆われていることが最も好ましい。
本発明の医療用具は、いずれの生体成分や生体組織と接触する用途にも用いることができるが、血液と接触する用途に用いられることは、本発明の医療用具の好適な実施形態の1つである。
本発明の医療用具用材料を用いてなる医療用具は、医療用具の生体成分又は生体組織と接触する部分の少なくとも一部を本発明の医療用具用材料で表面処理し、本発明の医療用具用材料を保持させる方法を用いて製造することができる。このように、本発明の医療用具用材料は、医療用具の表面処理剤として用いることができ、例えば、抗血栓性コーティング剤として用いることができる。このような、本発明の医療用具用材料を用いてなる抗血栓性コーティング剤もまた、本発明の1つである。
【0057】
各種医療用具の生体成分又は生体組織と接触する部分に本発明の医療用具用材料を保持させる方法としては、医療用具又はその部品の表面を医療用具用材料でコーティングする方法、放射線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線によるグラフト重合を利用して医療用具の表面と医療用具用材料とを結合させる方法、医療用具の表面の官能基と医療用具用材料とを反応させて結合させる方法等、種々の方法を用いることができる。コーティング法を用いる場合、医療用具又はその部品の表面を医療用具用材料でコーティングする方法として、塗布法、スプレー法、ディップ法等のいずれの方法を用いてもよい。なお、上記医療用具用重合体用単量体組成物を必須とする組成物を用いて、塗布法、スプレー法、ディップ法等でコーティングした後、加熱・活性エネルギー線の照射等により重合反応を行い、医療用具もしくは医療用具の材料の表面に本発明の医療用具材料層を形成させることにより、コーティングしても良い。
【0058】
本発明の医療用具用材料を保持させる医療用具の材質は特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂、スチロール樹脂等のいずれの材質のものであってもよい。また、金属、セラミックス及びこれらの複合材料等も例示でき、複数の基体より基材が構成されていてもよい。 金属としては、金、銀等の貴金属、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム等の卑金属、及びこれらの金属の合金並びにこれらの表面が金めっきされたものが例示できるがこれらに限定されるものではない。金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。価格や入手の容易さの観点から、ニッケル、銅及びこれらを主成分とする金属を用いることが好ましい。ここで、主成分とは、上記基体を形成する材料のうち50重量%以上を占める成分をいう。基材の形態も特に制限されず、成形体、繊維、不織布、多孔質体、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等のいずれの形態でもよい。
【0059】
本発明の医療用具用材料を細胞培養基材として使用する場合、医療用具用材料をそのまま用いてもよく、所定の基材上にコーティングして用いてもよい。
基材の材質は特に制限されず、木綿、麻等の天然高分子、ポリエステル、ナイロン、オレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリレート等の合成高分子等を用いることができる。また、金属、セラミックス及びこれらの複合材料等も例示でき、複数の基体より基材が構成されていてもよい。 金属としては、金、銀等の貴金属、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム等の卑金属、及びこれらの金属の合金並びにこれらの表面が金めっきされたものが例示できるがこれらに限定されるものではない。金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。価格や入手の容易さの観点から、ニッケル、銅及びこれらを主成分とする金属を用いることが好ましい。ここで、主成分とは、上記基体を形成する材料のうち50重量%以上を占める成分をいう。
基材の形態も特に制限されず、成形体、繊維、不織布、多孔質体、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等のいずれの形態でもよい。
【0060】
本発明の医療用具用材料は、人工血管や人工臓器等の人工生体組織用や、血液フィルター、各種カテーテル、若しくは各種ステント等;生体組織と接触する用具用の部材として、また、細胞培養基材、血液透析装置用の部材、血液若しくは組織検査用器具の部材等;生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具用の部材として適用することができる。
すなわち、本発明における医療用具には、生体組織と接触する用具、生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具等が含まれる。
すなわち、本発明における医療用具用材料は、生体組織や生体由来成分(細胞や血液等)と接触する医療用具、細胞培養基材、抗血栓性材料に用いられる物を言う。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0062】
以下の実施例における各種測定は、以下のように行った。
<ガスクロマトグラフィー>
GC−2010(島津製作所製)を用い、キャピラリーカラム DB−17HT L30m×ID0.25mm、DF0.15mmにより測定した。
ピーク面積の測定の際には、ピークの左右のベースラインを直線で繋ぎ、該ベースラインとピークとで囲まれた部分の面積をピーク面積として測定した。
<重量平均分子量、分子量5000以下の成分の割合>
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPCシステム、東ソー社製)を用い、カラムにTSKgel SuperH3000と、TSKgel SuperH4000と、TSKgel SuperH5000とを連結したものを用い、溶離液にテトラヒドロフランを用いて、ポリスチレン換算により求めた。
【0063】
実施例1(GLMAモノマーの合成)
(1)イソピリデングリセリルアクリレート(iPGLMA)の合成
撹拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管、及び、留出液受器に繋げたトの字管を付し、アクリル酸メチル230g、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール(DOM)70gを仕込み、ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7vol%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、オイルバス(バス温110℃)で加熱を開始した。留出液に水が出てこなくなってから、チタンテトライソプロポキシド4.5gを反応容器に添加し、エステル交換反応を開始させた。生成してくるメタノールをアクリル酸メチルで共沸留去しながら、ガスクロマトグラフィ(GC)分析によりiPGLMA/DOMの面積比を追跡した。反応開始から7時間後のGC分析で、iPGLMA/DOMの面積比が9/1を超えたのを確認し、反応を終了し、室温まで冷却した。反応液に精製水150gと抽出溶媒として酢酸エチル300gを加え10分撹拌した。触媒の加水分解により生じた酸化チタンの沈殿を、吸引濾過で除いた濾液を分液漏斗に移し、有機層と水層を分離した。有機層を精製水で2回洗浄したのち、ロータリーエバポレーターに移し、残存アクリル酸メチル及び軽沸成分を留去し、iPGLMA96gを得た。
【0064】
(2)iPGLMAの脱保護
撹拌子を入れたナスフラスコにガス導入管を設け、精製水160mlとiPGLMA80gを加えて溶解させた後に、予め水に浸漬後に風乾した固体酸触媒アンバーリスト15Jwetを35g加え、ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7vol%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、室温下で脱保護反応を開始させた。GC分析によりGLMA/iPGLMAの面積比を追跡し、面積比が99/1を超えたのを確認し、4時間で反応を終了した。固体酸触媒を濾別して得られた濾液をn−ヘキサンで洗浄し、未反応MG−2iPGLを除いた。水層を減圧濃縮し、目的とするGLMA53gを得た。得られた生成物中の架橋性不純物(1分子中に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物)、及び、塩素の含有量を分析した。また、ブレンマーGLM(市販のグリセリンモノメタクリレート、日油社製)についても同様に架橋性不純物をGCにより分析した。塩素含有量は三菱化学社製試料燃焼装置QF02で、試料を900℃で燃焼した後、生成ガスを0.3%過酸化水素水20mlに吸収させ、この吸収液についてイオンクロマトグラフィーで塩素の定量を行った。
結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例2(GLMA/BA共重合体の合成)
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMA2.0g、ブチルアクリレート(BA)3.0g、溶媒としてメチルエチルケトン5.0g、アゾ系ラジカル重合開始剤0.025g(和光純薬社製、商品名:V−601)を仕込み、窒素ガスを流しながら攪拌と昇温を開始した。内温80℃で重合を開始し、3hr反応を行った。
得られた反応液をアセトンで希釈し、大量のn−ヘキサン中に撹拌しながら投入することで再沈した。沈殿物を真空乾燥機によって、減圧下、80℃で3時間減圧乾燥し、固体の重合体を得た。得られた重合体は、重量平均分子量が13.4万であり、分子量分布が2.9、分子量5000以下の成分の含有量は0.5%以下であった。重合体をメタノールに溶解して1%溶液としたが、目視で不溶物は観測されなかった。更に、0.45μmのフィルターでろ過し、フィルターの重量増加より不溶分量を求めたが、フィルター上にろ別された塊上の重合体はなく、フィルターの重量変化は0.1%以下であった。
【0067】
参考例1(GLMM/BA共重合体の合成)
モノマーとして、GLMAに代えて、ブレンマーGLMを用いた以外はすべて実施例2と同様にして重合を行ったところ、重合途中から増粘し、ゲル化した。
【0068】
比較例1(PMEAの合成)
攪拌翼、ガス導入管、温度計、冷却管を付した反応容器に、単量体としてメトキシエチルアクリレート(MEA)20.0g、溶媒としてメチルエチルケトン30.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら攪拌、昇温を開始した。内温が70℃で安定したのを確認した後、アゾ系ラジカル重合開始剤0.02g(和光純薬社製、商品名:V−601)をメチルエチルケトン0.5gに溶解した溶液を添加し、重合を開始した。内温が69℃〜71℃になるよう調整しながら、4hr毎に0.02gのV−601をメチルエチルケトン0.5gに溶解した溶液を加え、最終的に8hr反応を行った。
得られた反応液をアセトンで希釈し、大量のイオン交換水中に撹拌しながら投入することで再沈し、固体の重合体(PMEA)を得た。得られた重合体は、重量平均分子量が13万、分子量5000以下の成分の含有量が0.5%以下であった。
【0069】
実施例3、比較例2〜4
実施例2で合成したGLMA/BA共重合体、及び、比較として用いる生体適合性ポリマー(ホスホコリン系ポリマー、商品名:リビジュアCM5206、日油株式会社製)、比較例1で合成したPMEAを用いて、以下の方法により、血小板粘着試験を行った。更に、GLMA/BA共重合体とPMEAについて、以下の方法により、基材密着性試験を行った。結果を表2に示す。なお、比較例4は、PETフィルムのみの試料の試験結果である。
<血小板粘着試験>
試験を行う材料をそれぞれ、0.2%メタノール溶液として、PETフィルム上にスピンコートによって塗布、乾燥したものを試料とした。試料上にクエン酸ナトリウムで抗凝固したウサギ新鮮多血小板血漿0.2mLをピペットで滴下し、37℃で60分間静置した。続いてリン酸緩衝溶液でリンスし、グルタルアルデヒドで固定した後、基体を走査型電子顕微鏡で観察し、1×10
4μm
2の面積に接着した血小板数をカウントした。
<基材密着性試験>
試験を行う材料をそれぞれ、1%メチルエチルケトン溶液を調整し、基板上にバーコーターを用いて塗布、乾燥し、基板上に厚さ約3μmの塗膜を形成した。基板ごとイオン交換水に1晩浸漬し、外観の変化を目視で観察し、表面の状態を顕微鏡で観察した。
【0070】
【表2】
【0071】
比較例2、3のPMEA、CM5206は、広く生体適合性に優れていると認められている材料である。血小板粘着試験では、実施例3のGLMA/BA共重合体は、PMEAやCM5206と同等以上に血小板粘着が少なく、生体適合性に優れることが確認された。ネガティブコントロールのPETで、血小板粘着が多いことより、この試験方法で正しく評価できていることが保証される。
基材密着性試験では、PMEAは水に浸漬すると、基板との密着性が劣るため、膨潤した塗膜と基板ではじきが生じ、細かな孔となったため、外観が白濁して見えるようになったが、GLMA/BA共重合体では目視、顕微鏡観察ともに変化がなく、塗膜と基板との密着性に優れることが確認された。