(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、非晶性ポリエステル樹脂(B)1〜10質量部、酸変性されたオレフィン系エラストマーおよび酸変性されたスチレン系エラストマーから選ばれる少なくとも1種の酸変性エラストマー(C)0.5〜20質量部、および充填剤(D)10〜100質量部を含み、前記非晶性ポリエステル樹脂(B)が、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールからなり、エチレングリコール/ネオペンチルグリコール(モル比)が50/50〜80/20の範囲の共重合ポリエステル樹脂であり、前記酸変性されたオレフィン系エラストマーのオレフィン系エラストマーが、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、またはエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体であり、前記酸変性されたスチレン系エラストマーのスチレン系エラストマーが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、またはスチレン−エチレン・エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1〜C6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート系樹脂である。ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
【0019】
本発明において用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に制限されない。
【0020】
また、本発明において用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度(IV)は0.6dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましい。さらに好ましくは0.65dL/g以上1.0dL/g以下である。かかる範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)の固有粘度(IV)は、例えば、o−クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0021】
本発明において用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8〜C14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4〜C16の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5〜C10の脂環式ジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1〜C6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8〜C12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6〜C12の脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
【0023】
本発明において用いるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)において、1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール等のC2〜C10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2〜C4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコー成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2〜C6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0025】
以上説明したコモノマー成分を共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体は、何れもポリブチレンテレフタレート樹脂(A)として好適に使用できる。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)として、ホモポリブチレンテレフタレート重合体とポリブチレンテレフタレート共重合体とを組み合わせて使用してもよい。
【0026】
[非晶性ポリエステル樹脂(B)]
本発明における非晶性ポリエステル樹脂(B)とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて−100℃から300℃まで20℃/分の速度で昇温した後、液体窒素により直ちに冷却し、次に−100℃から300℃まで20℃/minの速度で再度昇温したときに、2度の昇温過程のどちらにも明確な融解ピークを示さないポリエステルを意味する。なお、かかる昇温−降温−昇温の操作を行ったときに、その2度の昇温過程の少なくともいずれかで明確な融解ピークを示すものは「非晶性ポリエステル」ではなく「結晶性ポリエステル」である。」)
【0027】
本発明における非晶性ポリエステル樹脂(B)は、熱安定性の点でポリエステル分子の側鎖にメチル基やエチル基などのアルキル基を有するとともに芳香族環をも有する非晶性芳香族ポリエステル樹脂が好ましい。
【0028】
非晶性芳香族ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸成分が少なくとも80モル%、好ましくは90モル%がテレフタル酸からなるジカルボン酸であり、20モル%以下の範囲でテレフタル酸と併用できるジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ナフタレン−1,4−もしくは2,6−ジカルボン酸等が挙げられる。
【0029】
また、グリコール成分としては、ネオペンチルグリコール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールなどの側鎖にメチル基やエチル基などのアルキル基を有するグリコール成分を少なくとも15モル%含むことが好ましい。側鎖にメチル基やエチル基などのアルキル基を有するグリコール成分と併用できるグリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のグリコールを挙げることができる。
【0030】
好ましい具体例としては、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコールおよびネオペンチルグリコールからなり、エチレングリコール/ネオペンチルグリコール(モル比)が50/50〜80/20の範囲の共重合ポリエステル樹脂が挙げられる。
非晶性ポリエステル樹脂(B)は、フェノールとテトラクロルエタンの1:1質量比混合溶媒中で、30℃で測定した固有粘度の下限が好ましくは0.1dL/g以上、より好ましくは0.3dL/g以上のもので、上限が好ましくは1.5dL/g以下、より好ましくは1.0dL/g以下、さらに好ましくは0.8dL/g以下のものである。非晶性ポリエステル樹脂(B)の製造方法は、公知の方法が使用でき、一般的には溶融重縮合反応で製造される。
【0031】
非晶性ポリエステル樹脂(B)の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、0.5〜15質量部であり、1〜10質量部が好ましく、より好ましくは2〜9質量部である。0.5質量部より少ないと、耐ヒートショック性の向上効果が小さく、15質量部を超えると、機械的強度が低下する傾向がある。
【0032】
[酸変性エラストマー(C)]
本発明における(C)酸変性エラストマーとは、酸変性されたオレフィン系エラストマーおよび酸変性されたスチレン系エラストマーから選ばれる少なくとも1種の酸変性エラストマーである。
【0033】
本発明におけるオレフィン系エラストマーとは、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、イソプレンゴム、ニトリルゴム、ポリブテンゴムなどを挙げることができる。
【0034】
スチレン系エラストマーとしては、ポリスチレンブロックとポリオレフィン構造のエラストマーブロックとで構成されたブロック共重合体が好適に用いられる。スチレン系ブロック共重合体の具体例としては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。
【0035】
本発明における酸変性とは、環状酸無水物基を導入しうる化合物、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物などで共重合体側鎖に環状酸無水物基やカルボン酸基を導入することを意味する。
【0036】
環状酸無水物基を側鎖に導入する方法は、通常行われる方法、例えば、上記共重合体に、通常行われる条件、例えば、加熱下での撹拌等により環状酸無水物をグラフト重合させる方法で製造してもよく、また市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、LIR−403(クラレ社製)、LIR−410A(クラレ社試作品)などの無水マレイン酸変性イソプレンゴム;LIR−410(クラレ社製)などの変性イソプレンゴム;クライナック110、221、231(ポリサー社製)などのカルボキシ変性ニトリルゴム;日石ポリブテン(新日本石油社製)などの無水マレイン酸変性ポリブテン;ニュクレル(三井デュポンポリケミカル社製)などのエチレンメタクリル酸コポリマー;ユカロン(三菱化学社製)などのエチレンメタクリル酸共重合体;タフマーM(MA8510(三井化学社製))、TX−1215(三井化学社製)などの無水マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム;タフマーM(MH7020(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性エチレン−ブテンゴム;、HPRシリーズ(無水マレイン酸変性EEA(三井・デュポンポリケミカル社製))、ボンダイン(無水マレイン酸変性EEA(アトフィナ社製))、タフテック(無水マレイン酸変性SEBS、M1943(旭化成社製))、クレイトン(無水マレイン酸変性SEBS、FG1901X(クレイトンポリマー社製))、タフプレン(無水マレイン酸変性SBS、912(旭化成社製))、セプトン(無水マレイン酸変性SEPS(クラレ社製))、レクスパール(無水マレイン酸変性EEA、ET−182G、224M、234M(日本ポリオレフィン社製))、アウローレン(無水マレイン酸変性EEA、200S、250S(日本製紙ケミカル社製))などの無水マレイン酸変性ポリエチレン;アドマー(QB550、LF128(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性ポリプロピレン;等が挙げられる。
【0037】
酸変性エラストマーは、酸変性の度合いとして、酸価が1〜15mgCH
3ONa/gのものを用いることが好ましく、酸価が2〜10mgCH
3ONa/gのものを用いることが更に好ましい。酸価が1mgCH
3ONa/g未満の酸変性スチレン系エラストマーを用いた場合は、機械的強度が低下する場合がある。また、酸価が15mgCH
3ONa/gを越える酸変性スチレン系エラストマーを用いると、樹脂組成物の溶融粘度が高くなりすぎて、成形性に支障をきたす場合がある。
さらに、酸変性エラストマーはポリエステルとの相溶性を向上させるためには230℃×2.16kgfで測定されるメルトフローレート(以下、「MFR」という)は、3〜10g/10minであることが好ましく、4〜9g/10minであることが更に好ましい。MFRが3g/10min未満であると溶融時の流動性が低いため、ポリエステル樹脂と均一に分散しにくく、また、MFRが10g/10minを越えると溶融時の流動性が高すぎるために、ポリエステル樹脂と均一に分散しにくくなる傾向がある。
【0038】
酸変性スチレン系エラストマーは、既存のスチレン系エラストマーを酸変性したものであり、スチレン、エチレン、ブタジエンの各ブロック単位を共重合して得られたスチレン系エラストマーに対し、無水マレイン酸等を用いて分子鎖中に少なくとも一個のカルボキシル基を導入したものであり、市販品としては酸変性スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製タフテックM1911:酸価2mgCH
3ONa/g、MFR4.5g/10min、旭化成ケミカルズ社製タフテックM1913:酸価10mgCH
3ONa/g、MFR5.0g/10min、旭化成ケミカルズ社製タフテックM1943:酸価10mgCH
3ONa/g、MFR8.0g/10min)等が好ましい。
【0039】
酸変性エラストマー(C)の配合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、0.5〜20質量部であり、1〜18質量部が好ましく、より好ましくは2〜16質量部である。0.5質量部より少ないと、耐ヒートショック性の向上効果が小さく、20質量部を超えると、耐ヒートショック性が低下する傾向がある。
【0040】
[充填剤(D)]
本発明における充填剤(D)は、目的に応じて繊維状、非繊維状(粉粒状、板状)等の各種充填剤が用いられる。これらの充填剤は2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0041】
かかる充填剤のうち繊維状充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、シリカ繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、金属繊維、有機繊維等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0042】
一方、粉粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、カオリン、珪藻土、ウォラストナイトの如き珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナの如き金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩、その他炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0043】
また、板状充填剤としてはマイカ、ガラスフレーク等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0044】
これらの充填剤(D)の中では、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の機械的性質が優れることから、繊維状充填剤を用いるのがより好ましい。繊維状充填剤の中では、機械的性質の改良効果とコストのバランスの点で、ガラス繊維を用いるのが好ましい。
【0045】
本発明において用いるガラス繊維は、繊維径、断面形状(例えば、円形、繭形、長円等)等により制限されず、公知のガラス繊維が何れも好ましく使用できる。また、ガラス繊維は、チョップドストランド、ミルド繊維、ロービング等の種々の形態のものを使用することができる。本発明において、ガラス繊維を構成するガラスの種類は特に限定されないが、品質上、Eガラスや、ジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0046】
本発明において、充填剤(D)を用いる場合、充填剤と樹脂マトリックスの界面特性を向上させる目的で、アミノシラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理された充填剤を用いるのが好ましい。有機処理剤で表面処理された充填剤を用いる場合、有機処理剤の使用量は、表面処理された充填剤の質量に対して0.03質量%以上5質量%以下が好ましく、0.3質量%以上2質量%以下がより好ましい。有機処理剤の使用量は、表面処理された充填剤の加熱減量値を測定することにより知ることができる。本発明において、充填剤の表面処理に用いる有機処理剤は特に制限されず、従来、充填剤の表面処理として使用されている種々の表面処理剤を用いることができる。
【0047】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における充填剤(D)の使用量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下であり、20質量部以上90質量部以下が好ましく、30質量部以上80質量部以下がより好ましい。充填剤(D)の使用量をかかる範囲の量とすることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の機械的性質や表面特性を改良しつつ、耐ヒートショック性を優れたものとすることができる。
【0048】
[カルボジイミド化合物(E)]
本発明におけるカルボジイミド化合物(E)は、分子中にカルボジイミド基(−N=C=N−)を有する化合物で有れば特に制限されない。本発明で用いるカルボジイミド化合物(E)において、カルボジイミド基に結合する基は特に制限されず、脂肪族基、脂環族基、芳香族基、又はこれらの有機基が結合した基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、1,4−キシリレン基等)等が挙げられる。本発明において好適に使用されるカルボジイミド化合物の例としては、カルボジイミド基に脂肪族基が連結した脂肪族カルボジイミド化合物、カルボジイミド基に脂環族基が連結した脂環族カルボジイミド化合物、及び、カルボジイミド基に芳香族基又は芳香族基を含む基が連結した芳香族カルボジイミド化合物等が挙げられる。カルボジイミド化合物(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
脂肪族カルボジイミド化合物の具体例としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド等が挙げられ、脂環族カルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド等が挙げられる。
【0050】
芳香族カルボジイミド化合物の具体例としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボジイミド、ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ−p−クロロフェニルカルボジイミド、ジ−p−メトキシフェニルカルボジイミド、ジ−3,4−ジクロロフェニルカルボジイミド、ジ−2,5−クロロフェニルカルボジイミド、ジ−o−クロロフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−クロロフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物、及び、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1−メチル−3,5−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド化合物が挙げられる。
【0051】
カルボジイミド化合物(E)がポリカルボジイミド化合物である場合、その分子量は2000以上であるのが好ましい。かかる分子量のポリカルボジイミド化合物を使用することにより、溶融混練時や成形時のガスや臭気の発生を抑えることができる。
【0052】
[グリシジル基含有ポリオレフィン系共重合体(F)]
本発明におけるグリシジル基含有ポリオレフィン系共重合体(F)とは、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとからなるオレフィン系共重合体であり、オレフィン系共重合体を構成する一方のモノマーであるα−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン等が挙げられ、これらの中ではエチレンがより好ましく用いられる。他のモノマーであるα,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられる。これらのα,β−不飽和酸のグリシジルエステルの中では、メタクリル酸グリシジルエステルが特に好ましい。
【0053】
α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとの好適な比率は、α−オレフィン70質量%以上99質量%以下、α,β−不飽和脂肪酸のグリシジルエステル1質量%以上30質量%以下である。
【0054】
カルボジイミド化合物(E)および/またはグリシジル基含有ポリオレフィン系共重合体(F)を配合することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐ヒートショック性をより優れたものとすることができる。
カルボジイミド化合物(E)およびグリシジル基含有ポリオレフィン系共重合体(F)は、少なくとも一方をポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下含有することが好ましく、0.1質量部以上4.5質量部以下がより好ましく、0.2質量部以上4質量部以下がさらに好ましい。カルボジイミド化合物(E)およびグリシジル基含有ポリオレフィン系共重合体(F)の両方を含む場合は、前記の含有量は合計の量である。
前記含有量が少なすぎる場合には所望の耐ヒートショック性が得られない場合があり、含有量が多すぎる場合は、溶融混練時や成形加工時のゲル化物、炭化物の生成が起こりやすく、引張り強度や曲げ強度等の機械的性質が低下しやすく、湿熱下での急激な強度低下が起こりやすく、また、流動性の低下が起こりやすくなる。
【0055】
カルボジイミド化合物(E)の場合は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、0.2質量部以上1質量部以下含有することが特に好ましい。グリシジル基含有ポリオレフィン系共重合体(F)の場合は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、1質量部以上4質量部以下含有することが特に好ましい。
【0056】
[難燃剤(G)]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃性を付与する場合、公知のハロゲン系難燃剤、非ハロゲン系難燃剤を配合する。
ハロゲン系難燃剤としては、特に限定されないが、臭素化エポキシ化合物と酸化アンチモン化合物との組み合わせが好適であり、臭素化エポキシ化合物としては、ポリ(テトラブロム)ビスフェノールA型エポキシ化合物が好ましく、トリブロモフェノールなどのブロモフェノールで末端が封鎖されたポリ(テトラブロム)ビスフェノールA型エポキシ化合物も用いることもできる。
【0057】
臭素化エポキシ化合物の使用量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上50質量部以下が好ましく、15質量部以上40質量部以下がより好ましい。
【0058】
酸化アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、又はアンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0059】
酸化アンチモン化合物の使用量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下が好ましく、2質量部以上20質量部以下がより好ましい。
【0060】
[その他の成分]
成形品の用途によっては、UL規格94の難燃区分「V−0」であることを要求される場合がある。その場合には、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物にフッ素系樹脂等の滴下防止剤を難燃剤と共に用いることが好ましい。
【0061】
滴下防止剤として好適なフッ素系樹脂としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素含有モノマーの単独又は共重合体や、上記フッ素含有モノマーとエチレン、プロピレン、(メタ)アクリレート等の共重合性モノマーとの共重合体が挙げられる。これらのフッ素系樹脂は1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0062】
このようなフッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等の単独重合体や、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体等の共重合体が例示される。
【0063】
フッ素系樹脂の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して10質量部以下が好ましく、0.1質量部以上5質量部以下がより好ましく、0.2質量部以上1.5質量部以下がさらに好ましい。
【0064】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、さらにその目的に応じて、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、可塑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤、エポキシ化合物等の種々の添加剤を含んでいてもよい。
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、非晶性ポリエステル樹脂(B)、酸変性エラストマー(C)、充填剤(D)、カルボジイミド化合物(E)、グリシジル基含有ポリオレフィン系共重合体(F)および難燃剤(G)((E)成分、(F)成分、(G)成分は任意成分である)の合計で80質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0065】
[インサート部材]
本発明に係るインサート成形品が備えるインサート部材は、従来からインサート成形体に用いられる一般的なものを使用することができる。具体的には、インサート部材は、金属、無機材料、有機材料の何れであってもよい。例えば、鋼、鋳鉄、ステンレス、アルミ、銅、金、銀、真鍮等の金属、熱伝導性のセラミックや炭素材等が挙げられる。また、表面に金属の薄膜が形成された金属等もインサート部材として使用可能である。金属の薄膜としては、例えばメッキ処理(湿式メッキ処理、乾式メッキ処理等)により形成される薄膜を例示することができる。なお、インサート部材とは金属、無機材料等の単体のみならず複数の金属や樹脂等を有する複合体のことを言う場合もある。
【0066】
インサート部材を構成する材料は、例えば、用途等を考慮して、適宜好ましい材料を選択することができる。
【0067】
インサート部材を製造するための成形方法は特に限定されないが、例えば、金属の場合には、従来公知の工作機械による切削加工等の加工、ダイキャスト、射出成形、プレス打ち抜き等の型鋳造等の方法により、所望の形状のインサート部材を製造することができる。
【0068】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法]
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、従来、熱可塑性樹脂組成物の製造方法として知られる種々の方法によって製造することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法として好適な方法としては、例えば、一軸又は二軸押出機等の溶融混練装置を用いて、各成分を溶融混練して押出しペレットとする方法が挙げられる。
【0069】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する製造法としては、上述した各成分を任意の配合順列で配合した後、タンブラー或いはヘンシェルミキサー等で混合し、溶融混錬される。溶融混錬方法は、当業者に周知のいずれかの方法が可能であり、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等が使用できるが、なかでも二軸押出機を使用することが好ましい。
また、押出加工時に破損し易いガラス繊維等は二軸押出機のサイド口から投入し、該ガラス繊維の破損を防止することが好ましいが、特に限定されるものではない。また、加工時の揮発成分、分解低分子成分を除去するため、さらに、変性された樹脂や強化材とポリエステル樹脂の反応性を高めるためには、ガラス繊維投入部分のサイド口と押し出し機先端のダイヘッドとの間で真空ポンプによる吸引を行うことが望ましい。
【0070】
[インサート成形品の製造方法]
インサート部材を金型に配置して、上記ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を金型内に射出することで、本発明のインサート成形体を製造することができる。
【0071】
以上のようにして得られた本発明に係るインサート成形品は、樹脂部材が耐ヒートショック性、難燃性、及び耐加水分解性に優れるため、インサート部品等の種々の用途に好適に用いられる。特に、激しい温度昇降を受けた場合であってもヒートショックによるクラックが発生しにくいことから自動車用途のインサート成形品の材料として好適に使用される。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0073】
<実施例1〜4、及び比較例1〜6>
実施例1〜4、及び比較例1〜6において、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成分として、以下の材料を用いた。
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)(PBT)]
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂:東洋紡社製、IV=0.83dL/g、酸価=30eq/t
[非晶性ポリエステル樹脂(B)]
(B)非晶性ポリエステル樹脂:東洋紡社製、非晶性ポリエステル(テレフタル酸//エチレングリコール/ネオペンチルグリコール=100//70/30(モル比))、IV=0.72dL/g
【0074】
[酸変性エラストマー(C)]
(C−1)酸変性スチレン系エラストマー:旭化成ケミカルズ社製、タフテックM1943(無水マレイン酸変性SEBS)、酸価10mgCH
3ONa/g、MFR8.0g/10min
(C−2)酸変性オレフィン系エラストマー:三井化学社製、タフマーMH7020(無水マレイン酸変性EBR)、MFR1.5g/10min
[その他のエラストマー]
グラフト化オレフィン系エラストマー:日油社製、モディパーA5300(EEA−グラフト−BA・MMA/EEA)
ポリエステル系エラストマー:東洋紡社製、ペルプレンGP300
【0075】
[充填剤(D)]
(D)ガラス繊維:日本電気硝子製、T127−H
【0076】
[カルボジイミド化合物(E)]
(E)カルボジイミド:日清紡ケミカル社製 カルボジライト HMV−15CA(脂肪族ポリカルボジイミド)
[グリシジル基含有ポリオレフィン系共重合体(F)]
(F)グリシジル基含有ポリオレフィン系共重合体:住友化学社製、ボンドファースト7L(エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体)
【0077】
[難燃剤(G)]
(G−1)臭素系難燃剤:DIC社製、ブロモ化エポキシ化合物 プラサームXT−600、臭素含有量57.6質量%、数平均分子量2600
(G−2)三酸化アンチモン:日本精鉱社製、PATOX−MK
【0078】
[離型剤]
TB−75:トリグリセリンフルベヘン酸エステル(理研ビタミン社製)
【0079】
表1に示す成分を、表1に示す含量(質量部)の比率でドライブレンドし、二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX−30)を用いて、シリンダー温度260℃、吐出量15kg/hr、スクリュー回転数150rpmの条件で溶融混練してポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを作製した。得られたペレットを用いて試験片を作製し、評価した結果を表1に記す。なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の各物性は以下の方法に従い測定した。
【0080】
<耐ヒートショック性(ヒートサイクル試験)>
縦150mm、横12mm、厚さ最大部7mm、厚さ最小部4mmの略短冊状成形品(4箇所に穴有)内部に縦140mm、横10mm、厚さ2mmの鉄芯をインサートする金型(ピンゲート)にて、インサート成形品を射出成形して試験片を製造した。得られたインサート成形品について、冷熱衝撃試験機を用いて130℃にて1時間加熱後、−30℃に降温して1時間冷却後、さらに130℃に昇温する過程を1サイクルとする耐ヒートショック試験を行い、成形品にクラックが入るまでのサイクル数を測定し、耐ヒートショック性を評価した。
<難燃性>
試験片(1.6mm厚み)について、アンダーライターズ・ラボラトリーズのUL−94規格垂直燃焼試験により実施した。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例より、ポリブチレンテレフタレート樹脂に非晶性ポリエステル樹脂と酸変性されたオレフィン系エラストマーや酸変性されたスチレン系エラストマーを配合したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、インサート成形品の耐ヒートショック性に優れることが分かる。