(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一例について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更して適用することができる。
【0020】
1、シリカ粒子分散体
まず本発明の第一の態様であるシリカ粒子分散体について説明する。
本発明のシリカ粒子分散体(以下「分散体」とも称す)は、表面処理シリカ粒子と溶媒とを含む。必要に応じて、他の成分を含んでもよく、各含有成分はそれぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
以下、シリカ粒子分散体の各含有成分を説明する。
【0021】
−表面処理シリカ粒子−
表面処理シリカ粒子とは、シリカ粒子表面の一部又は全部が処理(改質)された粒子を意味する。特に本発明では、表面処理シリカ粒子として、疎水化度が15〜35%であり、かつフェニルアルコキシシランにより表面処理されてなる粒子、すなわち言い替えれば、シリカ粒子表面の水酸基の少なくとも一部がフェニルアルコキシシラン由来の基で置換された粒子であって、疎水化度が当該範囲内にある粒子を使用する。
【0022】
通常、シリカ表面は親水性であるが、上記表面処理シリカ粒子では、フェニル基が有する立体障害や疎水性に起因して適度な疎水性が付与されており、しかもシリカ粒子表面とフェニルアルコキシシランとの結合が強固であるために経時で結合が切れることが充分に抑制されるため、溶媒中で粒子の分散状態を安定して維持することができる。それゆえ、シリカ粒子分散体が長期安定性に優れるものとなる。
なお、特許文献1〜3の実施例では、シリカ粒子を、アミノプロピルトリエトキシシラン、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)又はメチルトリメトキシシランで表面処理している。だが、これらの表面処理剤は、フェニルアルコキシシランと異なって、フェニル基を有さないため、フェニル基に起因した立体障害や疎水性をシリカ粒子に付与することができない(例えば、後述の試験例13、14参照)。それゆえ、溶媒中で粒子の分散状態を安定して維持するという本発明の作用効果を発揮することができない。
【0023】
上記フェニルアルコキシシランは、フェニル基及びアルコキシ基を含有し、かつSi−O結合を有する化合物であればよいが、中でも、下記一般式(1):
X
m−Si−(OR)
4−m (1)
(式中、Xは、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。Rは、炭素数1〜5のアルキル基を表す。mは、1〜3の整数を表す。)で表される化合物が好ましい。
【0024】
上記一般式(1)中、Xは、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。置換基としては、例えば、水酸基、ハロゲン原子等が挙げられる。中でも、分散体の安定性を高める観点から、アミノ基を含有しないこと、すなわちアミノ基非含有フェニル基が好適である。より好ましくは、置換基を有しないこと、すなわち非置換フェニル基である。
【0025】
Rは、炭素数1〜5のアルキル基を表す。直鎖、分岐鎖又は環状のいずれであってもよいが、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが好ましい。炭素数は、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜3、更に好ましくは1〜2である。
【0026】
mは、1〜3の整数を表す。好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。すなわち上記一般式(1)で表される化合物としてより好ましくは、フェニルトリアルコキシシランである。
【0027】
上記フェニルアルコキシシランとして具体的には、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが好適である。
【0028】
表面処理シリカ粒子の疎水化度は、15〜35%である。疎水化度がこの範囲であると、例えば、後述する比誘電率が5〜30である溶媒との親和性が向上され、シリカ粒子分散体の長期安定性がより良好になる。好ましくは18%以上、より好ましくは20%以上であり、また、好ましくは33%以下である。
本明細書中、疎水化度は、後述する実施例に記載の測定方法に従って求められる。
【0029】
表面処理シリカ粒子は、150〜210℃での気化水分量が600ppm以下であることが好ましい。気化水分量がこの範囲内にある表面処理シリカ粒子においては、シリカ粒子表面とフェニルアルコキシシランとの結合がより充分に強固であることから、分散体中で粒子の自然沈降がより抑制され、分散体の長期安定性が更に向上する。より好ましくは580ppm以下、更に好ましくは550ppm以下である。下限は0ppm以上であれば特に限定されない。
本明細書中、気化水分量は、後述する実施例に記載の方法に従って求められる。
【0030】
表面処理シリカ粒子の比表面積は、20〜60m
2/gであることが好ましい。比表面積がこの範囲内にあることで、シリカ粒子の自然沈降がより抑制され、分散体の長期安定性が向上する。また、比表面積が60m
2/g以下であることで、シリカ粒子の自己凝集力がより充分に低減され、弱いシェアで溶媒に分散させることができるため、分散設備に要するコスト低減や生産性向上に寄与する。より好ましくは21m
2/g以上であり、また、より好ましくは55m
2/g以下である。
【0031】
本明細書中、比表面積は、BET法により得られたBET比表面積(SSAとも称す)を意味する。BET法は、窒素等の気体粒子を固体粒子に吸着させ、吸着した量から比表面積を測定する気体吸着法であり、圧力Pと吸着量Vとの関係からBET式によって単分子吸着量VMを求めることで、比表面積が定まる。本明細書中の比表面積の詳しい測定方法は、後述の実施例において説明する。
【0032】
表面処理シリカ粒子は、平均SEM径が0.05〜0.20μmであることが好ましい。これにより、粒子の自然沈降がより抑制され、長期安定性が更に向上する。より好ましくは0.06μm以上、更に好ましくは0.07μm以上、特に好ましくは0.08μm以上であり、また、より好ましくは0.18μm以下、更に好ましくは0.16μm以下である。
本明細書中、平均SEM径は、後述する実施例に記載の方法により求められる。
【0033】
表面処理シリカ粒子はまた、CV値が0.15以下であることが好ましい。このような粒子は、粒子径が均一であり、粗粒が少ないために、シリカ粒子分散体としたときの沈降速度が充分に遅くなることから、長期安定性により優れるシリカ粒子分散体が得られる。より好ましくは0.1以下、更に好ましくは0.09以下である。下限は0以上であれば特に限定されない。
本明細書中、CV値とは、粒度分布の広がり、すなわち粒子径のバラツキの指標を意味し、後述する実施例に記載の方法により求められる。
【0034】
表面処理シリカ粒子の形状は特に限定されないが、シリカ粒子分散体の長期安定性向上の観点から、略球状(球状又は球状に近い形状)であることが好ましい。
粒子形状は、走査型電子顕微鏡等によって観察することができる。
【0035】
−溶媒−
溶媒は、比誘電率が5〜30であることが好ましい。すなわち溶媒として、比誘電率が5〜30である化合物を用いることが好適である。このような溶媒は上記表面処理シリカ粒子との親和性に優れるため、シリカ粒子分散体の長期安定性がより良好になり、封止材料用途に更に有用なものとなる。より好ましくは、比誘電率が8〜25の溶媒である。
なお、溶媒は1種又は2種以上を使用することができるが、2種以上用いる場合は、その混合溶媒全体としての比誘電率が上記範囲にあることが好ましい。
【0036】
比誘電率が5〜30である溶媒としては特に限定されないが、例えば、シクロヘキサノン(比誘電率:18.3(20℃))、メチルエチルケトン(比誘電率:18.5(20℃))、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(比誘電率:8.3)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(比誘電率:12.3)、エタノール(比誘電率:24.3(25℃))、n−プロピルアルコール(比誘電率:20.1(25℃))、ベンジルアルコール(比誘電率:13.1(20℃))、フェノール(比誘電率:9.78(60℃))、m−クレゾール(比誘電率:11.8(25℃))、アセトン(比誘電率:20.7(25℃))、テトラヒドロフラン(比誘電率:7.6)等が好適である。比誘電率が5〜30である溶媒の中でも、取扱い性が良好で、かつ樹脂組成物により好適に適用可能になる点から、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。
【0037】
参考までに、その他の代表的な溶媒であるヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、p−キシレン、メタノール、グリセリン、ジエチルエーテル、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水の比誘電率は、それぞれ1.924(20℃)、2.023(20℃)、2.284(20℃)、2.379(25℃)、2.27(20℃)、32.6(25℃)、42.5(25℃)、4.335(20℃)、32、45〜49、32、37、38、80.1(20℃)である。
【0038】
本発明のシリカ粒子分散体において、表面処理シリカ粒子濃度(固形分濃度)は、使用される用途等によって適宜設定すればよいが、例えば、シリカ粒子分散体100質量%に対し、30〜70質量%であることが好ましい。30質量%以上であると、例えばフィルム状封止材料に使用した場合に、封止材の作製中に揮発する溶媒量が低減され、生産効率が向上する。また、70質量%以下であると、分散体中のシリカ粒子同士の距離が適度なものとなり、シリカ粒子の凝集及び沈降がより抑制される他、分散体の粘度が良好なものとなり、各種用途で使用する際の作業性が向上する。より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0039】
上記シリカ粒子分散体は、1000時間静置による沈降率が10%以下であることが好ましい。このような形態であれば、長期安定性に優れるため、本発明の作用効果をより充分に発揮することが可能となる。より好ましくは8%以下、更に好ましくは6%以下、特に好ましくは5%以下、最も好ましくは4.5%以下である。
本明細書中、1000時間静置による沈降率とは、分散体を作製後、24〜26℃で1000時間静置した後にシリカ粒子が沈降した割合を意味する。具体的には、後述する実施例に記載の測定方法に従って求められる。
【0040】
<製造方法>
本発明のシリカ粒子分散体を得るには、例えば、シリカ粒子(「原料シリカ粒子」とも称す)と表面処理剤とを混合する工程(I)と、該工程(I)で得た混合物を120〜250℃に加熱する工程(II)と、溶媒に分散させる工程(III)とを含み、該表面処理剤はフェニルアルコキシシランを含む、製造方法を採用することが好適である。この製造方法によれば、本発明の分散体を容易かつ簡便に得ることができる。必要に応じて1又は2以上のその他の工程を更に含んでもよく、その他の工程は特に限定されない。
以下、各工程について更に説明する。
【0041】
−工程(I)−
工程(I)は、原料シリカ粒子と表面処理剤とを混合する工程である。中でも、分散媒の存在下、原料シリカ粒子と表面処理剤とを混合する工程であること、すなわちシリカ粒子、表面処理剤及び分散媒を含むスラリー(「懸濁液」とも称す)を作製する工程であることが好ましい。作製方法は特に限定されず、各原料が均一に混合された状態になるように、撹拌することが好ましい。各原料の添加混合順序も特に限定されない。スラリー作製時の温度も特に限定されないが、例えば、作業面や、フェニルアルコキシシランを加水分解しやすくする観点からは、5〜60℃とすることが好ましい。より好ましくは30〜60℃、更に好ましくは40〜60℃である。
なお、各原料はそれぞれ1種又は2種以上使用することができる。
【0042】
以下、使用される原料について更に説明する。
原料シリカ粒子は、無水ケイ酸及び含水ケイ酸のいずれであってもよい。例えば無水ケイ酸としては、乾式法(火炎燃焼法等)により製造されるシリカ(ヒュームドシリカ)の他、石英、トリディマイト、クリストバル石、コーサイト、スティショフ石、石英ガラス等が挙げられる。含水ケイ酸としては、シリカヒドロゾルをゲル化し乾燥して得られる、いわゆる非晶質のシリカゲルの他、コロイダルシリカ、シリケートオリゴマー、ミセルテンプレート型シリカ等が挙げられる。中でも、非晶質シリカがより好ましい。
【0043】
原料シリカ粒子は、平均SEM径が0.05〜0.19μmであることが好ましい。これにより、工程(II)の表面処理がより好適に行われる。また、工程(II)を経て得られる表面処理シリカ粒子の平均SEM径が好適範囲となるため、上述したようにシリカ粒子分散体の長期安定性が向上し、また分散設備に要するコスト低減や生産性向上に寄与できる。より好ましくは0.06μm以上、更に好ましくは0.07μm以上であり、また、より好ましくは0.18μm以下、更に好ましくは0.16μm以下である。
本明細書中、平均SEM径は、後述する実施例に記載の方法により求められる。
【0044】
原料シリカ粒子の形状は特に限定されないが、シリカ粒子分散体の長期安定性向上の観点から、略球状(球状又は球状に近い形状)であることが好ましい。
粒子形状は、走査型電子顕微鏡等によって観察することができる。
【0045】
原料シリカ粒子の比表面積は特に限定されないが、例えば、20〜50m
2/gであることが好ましい。これにより、工程(II)を経て得られる表面処理シリカ粒子の比表面積が好適範囲となるため、上述したようにシリカ粒子分散体の長期安定性が向上し、また分散設備に要するコスト低減や生産性向上に寄与できる。特に原料シリカ粒子の比表面積が50m
2/g以下であると、シリカ粒子分散体の長期安定性が著しく向上する。原料シリカ粒子の比表面積の下限値は、より好ましくは21m
2/g以上であり、また、上限値はより好ましくは47m
2/g以下である。
【0046】
表面処理剤としては、フェニルアルコキシシランを少なくとも含む。これにより、フェニル基が有する立体障害や疎水性に起因して、工程(II)を経て得られる表面処理シリカ粒子に適度な疎水性が付与されるため、得られる分散体の長期安定性がより優れたものとなる。フェニルアルコキシシランについては上述したとおりである。
【0047】
表面処理剤としてはまた、フェニルアルコキシシラン以外の他の表面処理剤を併用してもよいが、得られるシリカ粒子分散体の長期安定性向上の観点から、他の表面処理剤の使用量は、全表面処理剤の総量100質量%中、50質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。すなわち、表面処理剤として、実質的にフェニルアルコキシシランのみを用いることが特に好ましい。
【0048】
表面処理剤の使用量は、例えば、原料シリカ粒子100質量部に対し、1〜30質量部とすることが好ましい。これにより、工程(II)によるシリカ粒子の表面処理がより効率的に行われる。より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、また、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは12質量部以下である。
【0049】
ここで、原料シリカ粒子の使用量100質量部に対する、表面処理剤の使用量(質量部)を「a」とし、原料シリカ粒子の比表面積(m
2/g)を「b」とした場合、(a/b)は、0.1以上、0.6以下であることが好ましい。この範囲内にあると、得られるシリカ粒子分散体が長期安定性により優れるものとなる。より好ましくは0.12以上、更に好ましくは0.14以上であり、また、より好ましくは0.3以下、特に好ましくは0.26以下、一層好ましくは0.25以下、より一層好ましくは0.23以下、最も好ましくは0.21以下である。
【0050】
表面処理剤はまた、分散媒と表面処理剤とを含む分散液(又は溶液)として工程(I)に供することが好ましい。すなわち上記製造方法は、工程(I)の前に、表面処理剤と分散媒とを含む分散液(又は溶液)を作製する工程を含むことが好適である。これにより、シリカ粒子との混合がより容易になる。ここで使用される分散媒としては特に限定されず、工程(I)で好ましく使用される分散媒と同様のものが挙げられる。中でも、水溶性アルコールと水との混合溶媒が好適である。
【0051】
工程(I)は、上述したように分散媒の存在下で行うことが好ましい。分散媒としては特に限定されず、例えば、水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。
有機溶媒としては、アルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられ、アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等の1価の水溶性アルコール;エチレングリコール、グリセリン等の2価以上の水溶性アルコール;等が挙げられる。分散媒として好ましくは水であり、より好ましくはイオン交換水である。
【0052】
工程(I)では、必要に応じて、他の原料を1種又は2種以上併用してもよい。他の原料としては特に限定されないが、例えば、シリカ粒子以外の他の無機酸化物粒子を使用すると、工程(II)を経ることで、表面処理されたケイ素含有複合無機粒子が得られる。
他の無機酸化物粒子としては特に限定されないが、例えば、元素周期表II〜VI族の元素を含むものが好ましく、より好ましくは元素周期表III〜IV族の元素を含むものである。中でも、Al、Ti及び/又はZrが好ましい。他の無機酸化物粒子の使用量は、用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、原料無機酸化物粒子の総量(シリカ粒子と他の無機酸化物粒子との合計量)100質量%に対し、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは1質量%以下(これを「原料無機酸化物粒子として、実質的にシリカ粒子のみを用いる形態」と称す)である。
【0053】
工程(1)における混合手段は、特に限定されないが、撹拌羽根による撹拌、振とう攪拌、ミキサーによる撹拌、スターラーによる撹拌等が挙げられる。混合の前処理としてビーズミル、ボールミル等による粉砕をしても良い。
【0054】
工程(I)で得られるスラリーは、pHが2〜7であることが好ましい。これにより、工程(II)によるシリカ粒子の表面処理がより効率的に行われる。より好ましくは3以上、更に好ましくは3.5以上であり、また、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下である。
【0055】
工程(I)で得られるスラリー中、原料シリカ粒子の濃度は、スラリー総量100質量%に対し、5〜50質量%とすることが好ましい。原料シリカ粒子の濃度がこの範囲にあるスラリーを工程(II)に供することで、溶媒との馴染みがより良好な表面被覆シリカ粒子が得られるため、分散体としたときの長期安定性がより向上する。より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、また、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
なお、工程(I)後、工程(II)に供する前に分散媒を除去することも好適である。これにより、工程(II)による表面処理がより効率的に行われる。分散媒の除去の方法は特に限定されないが、濾過、静置乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
【0056】
−工程(II)−
工程(II)は、工程(I)で得た混合物を120〜250℃で加熱する工程である。この温度で加熱する、すなわちこの温度で上記混合物を熱処理することで、表面処理剤とシリカ粒子との結合が強固な表面処理シリカ粒子を得ることができる。これを工程(III)に供すると、経時で表面処理剤がシリカ粒子から遊離することが充分に抑制され、適度な疎水性を維持することができ、よって、長期安定性に優れるシリカ粒子分散体が得られる。
【0057】
加熱(熱処理)温度は、表面処理剤とシリカ粒子との結合をより強固にする観点から、好ましくは125℃以上、より好ましくは130℃以上である。また、設備や生産性等の観点から、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下である。
なお、熱処理むらを無くすため、均一な温度分布になるように工程(II)を行うことが好適である。
【0058】
加熱(熱処理)時間は、例えば0.5〜12時間であることが好ましい。0.5時間以上であると、表面処理剤とシリカ粒子との結合がより強固なものとなる。また、12時間を超えても、それに見合う効果が充分に得られず、生産性をより高めることができないことがある。より好ましくは0.5〜6時間である。
【0059】
本明細書中、「加熱温度」とは、加熱(熱処理)時の最高温度を意味する。「加熱時間」とは、加熱時の最高温度の保持時間を意味し、最高温度に達するまでの昇温時間は含まない。昇温時間は特に限定されないが、できるだけ短くすることが好適である。
【0060】
加熱方法は特に限定されず、例えば、流動床法であってもよいし、固定床法であってもよい。また、雰囲気は特に限定されず、例えば大気雰囲気下、窒素、アルゴン雰囲気下といった不活性ガス雰囲気等で熱処理を行ってもよい。
【0061】
ここで、工程(II)は、上記温度で加熱する工程である限り、乾燥工程であってもよい。乾燥方法は特に限定されず、例えば、静置乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥等が挙げられる。噴霧乾燥を行う場合、噴霧乾燥機の回収用ホッパー内温度が120〜250℃であって、熱処理時間が、回収用ホッパー内で滞留する時間として上記範囲内にあることが好ましい。だが、シリカ粒子表面とフェニルアルコキシシランとの結合をより強固なものとする観点から、工程(II)は、噴霧乾燥工程ではないことが好ましい。
【0062】
上記製造方法では、必要に応じて工程(II)を複数回繰り返してもよい。複数回繰り返して行う場合、その合計の加熱時間が、上述した好ましい加熱時間の範囲内となることが好適である。
【0063】
−工程(III)−
工程(III)は、溶媒に分散させる工程である。すなわち、上記工程(II)で得た表面処理シリカ粒子を溶媒に分散させる工程であることが好ましい。分散方法は特に限定されず、例えば、ビーズミル等の通常の分散手法を採用することができる。
【0064】
溶媒は、比誘電率が5〜30であることが好ましい。これにより、封止材料用途により有用なシリカ粒子分散体となる他、分散体の長期安定性がより向上する。このような比誘電率を有する溶媒については上述したとおりである。
なお、溶媒は1種又は2種以上を使用することができるが、2種以上用いる場合は、その混合溶媒全体としての比誘電率が上記範囲にあることが好ましい。
【0065】
溶媒に分散させる際に使用する表面処理シリカ粒子の使用量は、シリカ粒子分散体の用途等によって適宜設定すればよいが、上述したシリカ粒子分散体中の表面処理シリカ粒子濃度を満たすように設定することが好ましい。
【0066】
2、表面処理シリカ粒子
次に、本発明の第二の態様である表面処理シリカ粒子について説明する。
本発明の表面処理シリカ粒子は、フェニルアルコキシシランにより表面処理されてなり、疎水化度が15〜35%である粒子である。このようにシリカ粒子表面の水酸基の少なくとも一部が、フェニルアルコキシシラン由来の基で置換されたシリカ粒子であって、かつ疎水化度が当該範囲にあることによって、長期間安定して分散状態を維持することができるシリカ粒子分散体を与えることができる。
なお、表面処理シリカ粒子の好ましい形態については、本発明の第一の態様であるシリカ粒子分散体の説明において上述したとおりである。
【0067】
<製造方法>
本発明の表面処理シリカ粒子を得るには、例えば、シリカ粒子と表面処理剤とを混合する工程(I)と、該工程(I)で得た混合物を120〜250℃に加熱する工程(II)とを含み、該表面処理剤はフェニルアルコキシシランを含む、表面処理シリカ粒子の製造方法を採用することが好適である。この製造方法によれば、本発明の表面処理シリカ粒子を容易かつ簡便に得ることができる。この製造方法では、必要に応じて1又は2以上のその他の工程を含んでもよく、その他の工程は特に限定されない。
工程(I)及び(II)は、上述したシリカ粒子分散体の製造方法における工程(I)及び(II)とそれぞれ同様である。
【0068】
3、シリカ含有樹脂組成物
更に、本発明の第三の態様であるシリカ含有樹脂組成物について説明する。
本発明のシリカ含有樹脂組成物(単に「樹脂組成物」とも称す)は、上述した本発明のシリカ粒子分散体と、樹脂成分とを含む。樹脂組成物は、必要に応じて更にその他の成分を含んでもよく、各含有成分はそれぞれ1種又は2種以上使用することができる。
【0069】
上記樹脂成分は、用途等に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、例えば、封止材料用途に使用する場合は、エポキシ樹脂が好適である。
【0070】
上記樹脂組成物において、シリカ粒子分散体と樹脂成分との質量比は、用途等に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、例えば、樹脂成分100質量部に対し、シリカ粒子分散体に含まれる表面処理シリカ粒子を1〜70質量部とすることが好ましい。これにより、表面処理シリカ粒子と樹脂成分との親和性がより高まる。より好ましくは10質量部以上であり、また、より好ましくは60質量部以下である。
【0071】
−用途−
本発明のシリカ含有樹脂組成物は、長期安定性に優れるため、種々の用途に有用である。中でもフィルム状封止材料の原料として特に有用である。すなわち上記シリカ含有樹脂組成物は、フィルム状封止材料用樹脂組成物であることが特に好ましい。この樹脂組成物を用いてフィルム状封止材料を作製する方法としては特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を塗工した後に溶媒を揮発させ、フィルム状とすることが好ましい。その他、他の形状の封止材料や、フィルム材料、トナー材料、歯科材料等の各種用途にも好ましく使用することができる。特に半導体に用いることが好適である。また、上述した本発明の表面処理シリカ粒子と樹脂成分とを含む封止材もまた、本発明に包含される。封止材はフィルム状であることが好適である。
【実施例】
【0072】
本発明を詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。なお、各種物性等は以下のようにして評価した。
【0073】
1、粒子物性
(1)BET比表面積(m
2/g)
BET比表面積は、試料を窒素雰囲気中、200℃で40分間熱処理し、マイクロメリティクス社製GEMINI VII 2390を用いてBET多点法で測定した。
【0074】
(2)疎水化度(%)
200mLビーカーにイオン交換水を50mL入れ、その後、試料0.200gを入れ、スターラーで攪拌しながら、ビュレットを用いてメタノールを滴下し、液面上に浮いた試料が完全に沈むまで滴下したメタノール量を読み取り、下記数式(1)より疎水化度を算出した。
疎水化度(%)={滴定量(mL)/[滴定量(mL)+50(mL)]}×100 (1)
【0075】
(3)気化水分量(ppm)
平沼産業社製水分気化装置EV−2000を用い、150℃で30分間加熱することにより吸着水を除去した後、210℃で20分間加熱により気化する水分量を測定した。水分量の測定は、平沼産業社製AQV−2200を用い、カールフィッシャー試薬としてFluka社製HYDRANAL−Composite5を用いた。
【0076】
(4)平均SEM径
日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM−840Fで撮影し、撮影したSEM像のファイルを旭化成エンジニアリング社製画像解析ソフト(A像くん(商標))で読み込み、円形粒子解析のアプリケーションを用い、50個以上のシリカ粒子の平均SEM径を測定した。
【0077】
(5)CV値
下記数式(2)よりCV値を算出した。
CV値=SEM径標準偏差/平均SEM径 (2)
式中、平均SEM径とは、SEM径を測定した全粒子のSEM径の平均値を意味する。
【0078】
2、分散体物性
(1)接触角(°)
各分散体をグラインドゲージ(0−100μm)の上に滴下し、スクレーパーを用いて均一になるように塗工し、室温で90分間乾燥することにより、塗膜を作製した。ニック社製ぬれ性評価装置LSE−B100を用い、ゲージ目盛20〜60μmの範囲の塗膜の上に、懸滴5μlで10ヶ所の接触角を測定し、その平均値から接触角を算出した。
【0079】
(2)沈降率(%)
各分散体50gを140mlのマヨネーズ瓶に秤量し、24〜26℃で1000時間静置した後、分散体の高さ(c)と沈降物の高さ(d)とを測定し、下記数式(3)より沈降率を算出した。
d/c×100(%) (3)
【0080】
調製例1
水6300gにメタノール2700gを投入した後、50℃に昇温した。50℃に保持した水とメタノール溶液にフェニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、信越シリコーンKBM−103)を90g投入し、50℃にて30分撹拌することによりフェニルトリメトキシシラン加水分解液(1)を調製した。
【0081】
調製例2〜7
原料及びその投入量を表1のとおりに変更したこと以外は、調製例1と同様にして、表面処理剤の加水分解液(2)〜(7)を各々調製した。なお、調製例7では、表面処理剤を2種併用した。表1中、HMDSとは、ヘキサメチルジシラザンを意味する。
【0082】
【表1】
【0083】
試験例1
水3000gに、比表面積47.0m
2/gのシリカ(堺化学工業社製、商品名「Sciqas 0.05μm」、平均SEM径:0.07〜0.08μm)1000gと、調製例1で得た加水分解液(1)を全量投入し、撹拌羽根を使用し60分撹拌することによりシリカスラリーを調製した。シリカスラリーのpHは3.99であった。このシリカスラリーをスプレードライヤー(アシザワ・ニロアトマイザー社製、モービルマイナー型スプレードライヤー)を使用し、熱風入口温度300℃、熱風出口温度80℃で乾燥した後、ステンレス製のバットに充填し、130℃に設定した乾燥機で3時間熱をかけ、表面処理シリカ粒子(1)を得た。
得られた表面処理シリカ粒子(1)の物性を上述した方法にて測定又は評価した。結果を表3に示す。
【0084】
次に、140mlのマヨネーズ瓶に、表面処理シリカ粒子(1)42.0g、シクロヘキサノン28.0g、0.7mmΦガラスビーズ49.8gを秤量し、レッドデビル社製ペイントシェーカーで40分間分散した。分散後、ナイロンメッシュ(目開き25μm)でガラスビーズを分離し、シリカ粒子分散体(1)を得た。
得られたシリカ粒子分散体(1)の物性を上述した方法にて測定又は評価した。結果を表3に示す。
【0085】
試験例2〜15
原料及び乾燥機の温度を表2のとおりに変更したこと以外は、試験例1と同様にして、表面処理シリカ粒子(2)〜(15)を各々得た。得られた各表面処理シリカ粒子の物性を上述した方法にて測定又は評価した。結果を表3に示す。
次に、原料及び溶媒を表2のとおりに変更したこと以外は、試験例1と同様にして、シリカ粒子分散体(2)〜(15)を各々得た。得られた各シリカ粒子分散体の物性を上述した方法にて測定又は評価した。結果を表3に示す。
なお、試験例7及び15で使用した原料シリカ粒子の詳細は以下のとおりである。
試験例7:堺化学工業社製、商品名「Sciqas 0.1μm」、比表面積:21.2m
2/g、平均SEM径:0.15μm
試験例15:堺化学工業社製、商品名「Sciqas 0.25μm」、比表面積:13.7m
2/g、平均SEM径:0.24μm
【0086】
【表2】
【0087】
表2中、※1は、下記aをbで除した値(a/b)を意味する。
a:原料シリカ粒子の使用量100重量部に対する、表面処理剤の使用量(重量部)である。
b:原料シリカ粒子の比表面積(m
2/g)
【0088】
【表3】
【0089】
表3中、以下の略号はそれぞれ以下の化合物を意味する。
MEK:メチルエチルケトン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0090】
上記例より、以下のことが確認された。
試験例1〜11で得たシリカ粒子分散体は、フェニルアルコキシシランで表面処理されてなり、疎水化度が15〜35%である表面処理シリカ粒子と、溶媒とを含むのに対し、試験例12〜15で得たシリカ粒子分散体は、表面処理シリカ粒子の疎水化度が15%未満又は35%を超えており、かつ試験例13、14は、表面処理シリカ粒子を得る際にフェニルアルコキシシラン以外の表面処理剤を使用した例である。このような相違の下、シリカ粒子分散体の1000時間静置後の沈降度を比較すると、試験例12〜15で得た分散体に対し、試験例1〜11で得た分散体は、沈降度が著しく低い。従って、フェニルアルコキシシランにより表面処理されてなり、疎水化度が15〜35%である表面処理シリカ粒子と、溶媒とを含む構成の分散体であると、シリカ粒子の沈降が充分に抑制され、保管や輸送が容易で、長期間安定して分散状態を維持できることが分かった。
【0091】
表には記載していないが、試験例2における表面処理シリカ粒子を得る際の乾燥機の温度を変更して、その温度の違いによる、シリカ粒子分散体の沈降率に与える影響を検討したところ、乾燥機の温度が120℃以上であると(中でも試験例2のように130℃以上であると)、沈降率がより著しく低減されることが分かった。なお、乾燥機温度を120℃未満とした場合、乾燥後の表面処理シリカ粒子の気化水分量は600ppmを超えていた。
また試験例1において、シリカ粒子分散体を作製する際の溶媒を変更して、その溶媒の違いによるシリカ粒子分散体の沈降率に与える影響を検討したところ、試験例1、8〜10(溶媒:シクロヘキサノン、MEK、PGMEA又はPGME)では、溶媒としてシクロヘキサン、メタノール又は水を用いた場合(すなわち比誘電率が5〜30の範囲外となる溶媒を用いた場合)に比べ、沈降率がより一層低減され、分散状態がより安定に維持されたことが分かった。