(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面等を参照して説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本発明による偏光装置1の第1実施形態を示す断面図である。
図2は、偏光装置1を分解して示した断面図である。
なお、
図1を含め、以下に示す各図は、模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張して示している。
また、以下の説明では、具体的な数値、形状、材料等を示して説明を行うが、これらは、適宜変更することができる。
【0021】
第1実施形態の偏光装置1は、第1の偏光子10Aと、第2の偏光子10Bと、固定枠18とを備えている。
【0022】
第1の偏光子10Aは、特定の偏光軸の方向に振動する光を透過させる偏光子であって、本実施形態では、ワイヤーグリッド型偏光子を用いている。
【0023】
第2の偏光子10Bは、第1の偏光子10Aと同一の形態をしている偏光子である。第2の偏光子10Bは、第1の偏光子10Aに対して積層配置された状態で第1の偏光子10Aとの位置が相対的に移動しないように固定されており、第1の偏光子10Aの偏光軸と同じ方向の偏光軸の方向に振動する光を透過させる。
【0024】
固定枠18は、例えば、金属、又は、樹脂成型品により構成され、スリット状に構成された溝部18aに第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bが挿入されて、これらを固定している。また、溝部18aに挿入された第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bは、不用意に脱落しないように、不図示の蓋部材により押さえられている。よって、第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bは、両者が積層配置された状態であって、両者の位置が相対的に移動しないように固定されている。また、第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bは、いずれも、同じ偏光軸の方向に振動する光を透過させるように配置されている。
【0025】
このように、第1実施形態の偏光装置1は、第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bを固定枠18により固定してひとつの偏光装置として構成したものである。このように第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bを積層配置したことによる効果については、後述する。
【0026】
ここで、第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bについて、より具体的に説明する。なお、第2の偏光子10Bは、第1の偏光子10Aと同一の形態をしている偏光子であるので、以下では、第1の偏光子10Aについて説明を行う。
【0027】
図3は、第1の偏光子10A(第2の偏光子10B)の斜視図である。
第1の偏光子10Aは、ワイヤーグリッド型偏光子であり、入射光のうち、透過軸方向と直交する方向に振動する光を反射するいわゆる反射型の偏光子である。すなわち、第1の偏光子10Aは、特定の偏光軸の方向(反射される光の振動方向と直交する方向)に振動する光を透過させる。
第1の偏光子10Aは、透過を制御する波長帯域で透明な透明材料により形成された賦型樹脂層16を備えている。この賦型樹脂層16の表面には、凹状溝11が一定のピッチPで繰り返して並べて配置されている。この凹状溝11の延長方向と直交する方向への繰り返しの凹凸形状によって、賦型樹脂層16の表面には、周期構造が設けられている。
【0028】
第1の偏光子10Aは、凹状溝11間の凸部の頂部に、金属材料が配置されており、これにより凹状溝11に沿って延長する金属材料による第1の金属線状部(凸部金属層)12が形成されている。また、凹状溝11の底面部には、第1の金属線状部12と同一の金属材料が配置されており、凹状溝11に沿って延長する金属材料によって第2の金属線状部(凹部金属層)13が形成されている。第1の偏光子10Aは、この第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の繰り返しピッチP(凹状溝11の繰り返しピッチと同じ)が、この第1の偏光子10Aにより透過を制御する波長帯域の最短波長λmin以下のピッチP(P≦λmin)となっている。このように、第1の偏光子10Aは、凹状溝11間の頂部に設けられた第1の金属線状部12と、凹状溝11の底面に設けられた第2の金属線状部13とによる2層構造の金属線状部を備えており、偏光子として機能する。なお、本実施形態において、透過を制御する波長帯域としては、波長が800nm以上、2500nm以下の近赤外光領域を波長帯域としているが、例えば、波長が380nm以上、780nm以下の可視光域を波長帯域としてもよい。
【0029】
ここで、この凹状溝11の繰り返しによる凹凸形状は、凸部となる平坦な部位を間に挟んで、断面矩形形状の凹状溝11が複数並んで作製される。よって、第1の偏光子10Aは、凸部の頂部及び凹部の底面部がそれぞれ平坦面に作製される。そして、この頂部及び底面部に一定の厚みT1及びT2となるように金属材料を配置して第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13が形成される。これにより第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、それぞれ凸部の頂部形状、凹部の底面部形状に対応して凸部の頂部側及び凹状溝11の底面側が平坦面に形成される。しかし、凸部の頂部及び又は凹部の底面部は、例えば、断面形状を円弧形状等に形成してもよく、種々の形状を広く適用することができる。また、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、凸部の頂部形状、凹部の底面部形状に応じた種々の形状を適用することができる。さらに、これに対応して第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、凸部の頂部側とは逆側、凹部の底面部側とは逆側についても、種々の形状を適用することができる。
【0030】
第1の偏光子10Aは、透明フィルム材を素材とする基材(基材層)15に、透明材料を素材とする賦型樹脂層16が支持されて設けられており、この賦型樹脂層16の賦型処理により凹状溝11が並んで配置された周期構造が形成される。またこの周期構造が作製された微細な凹凸面上に、蒸着、又は、スパッタリング、又は、電界メッキ、又は、無電解メッキ等により金属層が作製されて第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13が作製される。
【0031】
ここで、この基材15には、樹脂材料を面内の一方向に延伸して作製される透明フィルム材が用いられており、光学的に異方性を備えている。すなわち、基材15に用いられる透明フィルム材は、樹脂材料の延伸による光学異方性の発現により、延伸方向の屈折率が延伸方向と直交する方向に比して増大した又は減少した(すなわち延伸方向(延伸軸方向)が遅相軸方向である又は延伸方向(延伸軸方向)に直交する方向が遅相軸方向である)状態にある。
なお、このような延伸方向(延伸軸方向)が遅相軸方向である樹脂材料は、正の複屈折性を示す樹脂材料であり、例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂等である。また、COP(シクロオレフィンポリマー)フィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、ポリイミドフィルム、PEN(ポリエチレンナフタレート)が挙げられる。また、延伸方向(延伸軸方向)に直交する方向が遅相軸方向である樹脂材料は、負の複屈折性を示す樹脂材料であり、例えばPS(ポリスチレン)樹脂等である。
【0032】
第1の偏光子10Aは、この基材15の遅相軸方向に対して、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の延長方向が平行となるように、すなわち、基材15の延伸軸の方向が第1の偏光子10Aの偏光軸の方向に対して0度の関係を持って配置されている。
このように設定すれば、基材15においては、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13で反射する偏光成分に対して面内方向の屈折率が最も大きい向きであることにより、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13で反射する偏光成分を、最も効率よく反射する向きに基材15が配置されることになる。またこれにより第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13で透過する偏光成分に対しては、界面反射が最も小さくなる向きに基材15が配置されることになり、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13を透過する偏光成分を最も効率よく透過する向きに基材15が配置されることになる。
【0033】
なお、基材15の延伸軸の方向は、第1の偏光子10Aの偏光軸の方向に対して90度の関係を持って配置されていてもよい。この90度の関係としても、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13を透過する偏光成分に対して偏光作用を及ぼさないからである。
また、上述した基材15の延伸軸の方向と第1の偏光子10Aの偏光軸の方向との関係は、0度±1度以内、又は、90度±1度以内、の角度を持って配置されていれば、第1の偏光子10Aを透過した偏光成分に対して、基材15が偏光作用を及ぼすことによる悪影響を無視できるレベルに抑えることができる。なお、上述の0度及び90度に設けた±1度の範囲を超えてしまうと、急激に偏光状態が乱れるので、上記範囲内に納めることが望ましい。
【0034】
賦型樹脂層16は、賦型処理可能な各種の硬化性樹脂を用いることができるが、本実施形態では、紫外線硬化性樹脂を用いている。なお、基材15を加熱して軟化させた状態で賦型用金型に押圧して賦型処理してもよく、この場合、賦型樹脂層16は、基材15により構成されることになる。
【0035】
第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13に用いる金属材料は、例えば各種の導体に係る金属、合金、金属化合物等を広く適用することができるが、アルミニウム、ニッケル、クロム、銀、のいずれかの金属、又は、これらいずれかの金属を含む合金、又は、これらいずれかの金属の化合物を用いることが望ましい。なお、透過を制限する電磁波(光)を効率よく反射する観点からは、アルミニウム、ニッケル、銀等の反射率の高い金属、又は、これら金属の合金、又は、これら金属の化合物を用いることが望ましく、赤外光や可視光に対しては、特にアルミニウムが好ましい。またこれとは逆に、透過を制限する電磁波の反射を抑圧する観点からは、クロム等の反射率の低い金属、又は、これら金属の合金、又は、これら金属の化合物を用いることが望ましい。
【0036】
第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、複数の層構造となるように作製してもよい。このような層構造により作製することにより、例えば第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の上下から入射する入射光に対して特性を異ならせ、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の両面の色合いを異ならせたりすることができる。
【0037】
なお、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の作製には、蒸着、又は、スパッタリングを用いることができ、さらに、化学気相成長、原子層堆積法等を用いてもよい。
【0038】
以上のような構造の第1の偏光子10A(第2の偏光子10B)は、
図3中のP=100nm、L=50nm、S=50nm、T1=100nm、T2=80nm、D=120nmの寸法となるようにして、作製された。
【0039】
図1に戻って、上述した構成の第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bは、いずれも、第1の金属線状部12が入光側となるように配置されている。
図1中では、上方が入光側である。仮に、入光側を
図1中の下方としてしまうと、入射光が第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13に到達する前に賦型樹脂層16に入光し、賦型樹脂層16の屈折率の影響を受けることから、偏光特性の劣化が生じ、所望の偏光特性を得られない場合があるからである。
【0040】
次に、第1の偏光子10A(第2の偏光子10B)の製造工程について説明する。
図4は、第1の偏光子10Aの製造工程を示すフローチャートである。
図5は、第1の偏光子10Aの製造工程を示す図である。
この製造工程では、ロールに巻き取った長尺透明フィルム材から基材15が提供される。この製造工程は、ロールから基材15を引き出して搬送しながら、凹凸形状作製工程ステップ(以下、単にS)2により、基材15の表面に凹凸形状を作製する。
【0041】
より具体的には、このS2の凹凸形状作製工程では、
図5(A)に示すように、始めに、基材15に紫外線硬化性樹脂の塗工液を塗工した後、周側面に微細凹凸形状が作製されている賦型用金型であるロール版に基材15を押圧して搬送しながら、紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化させる。その後、硬化した紫外線硬化性樹脂を基材15と一体にロール版より剥離する。このように、この工程では、
図5(B)に示すように、ロール版の周側面に形成された微細凹凸形状を転写して、基材15の表面に、凹状溝11の繰り返しによる凹凸形状を作製する。本実施形態では、円周方向に延長する向きに凸条が作製されたロール版30を使用して、基材15の長手方向に延長する凹状溝11を作製する。よって、この基材15の遅相軸方向に対して、凹状溝11の延長方向が平行となり、基材15の遅相軸方向に対して、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の延長方向が平行となるように形成される。
【0042】
続いて、金属線状部作製工程S3において、蒸着、又は、スパッタリング等により、
図5(C)に示すように、凹状溝11が作製された凹凸形状面の上面(
図5中における上面)の全面に、金属材料を堆積させる。ここで、このように凹状溝11が作製された凹凸形状面に金属材料を堆積させる場合、この凹凸形状の凹状溝11間である頂部では、到来する金属材料が順次堆積して第1の金属線状部12が形成される。これに対して凹状溝11に到来する金属材料は、凹状溝11に侵入して底面に堆積し、その結果、第2の金属線状部13が形成される。このようにして、本実施形態では、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13を作製する。
【0043】
上述のようにして金属材料を堆積して第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13を作製した後、エッチング工程S4により隣接する第1の金属線状部12間の空隙幅Sを拡大する。
【0044】
上述したように蒸着、又は、スパッタリング等により金属材料を堆積する場合、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の間の、凹状溝11の壁面にも金属材料が付着することもあるが、この壁面に付着する金属材料は、極めて少量であって厚みが薄く、これにより金属材料層として機能することなく、第1の金属線状部12と第2の金属線状部13とは、互いに繋がることなく間隔を開けて配置されている。よって、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13は、幅方向について、隣接する第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13との間で絶縁性が担保され、第1の偏光子10Aにおいては、偏光面による透過率の選択性が担保される。
【0045】
しかし、例えば、蒸着により金属材料を堆積させる場合には、
図5(D)に示すように、第1の金属線状部12において、厚み方向だけでなく、幅方向にも金属材料が成長し、その結果、第1の金属線状部12間の空隙幅Sが極端に低下するおそれがある。このように空隙幅Sが極端に低下すると、第1の金属線状部12おける開口率(第1の金属線状部12の繰り返し方向に係る空隙幅Sの占める割合)が低下し、その結果、透過率が低下することになる。
【0046】
そこで、本実施形態では、エッチング液を使用したエッチングにより開口率を増大させるエッチング工程(S4)を行う。
なおエッチング処理では、第1の金属線状部12の厚みTも減少することになるが、この厚みTの減少に比べて空隙幅Sをより多く広げることができる。しかし、エッチング時間が余りに長いと、第2の金属線状部13の厚みが薄くなって光学特性が劣化し、特に吸収軸方向の反射率Rsが急激に低下する。一方、余りにエッチング時間が短いと、透過軸方向の透過率Tpが低下する。また、エッチングの進行は、エッチング液の濃度や液温によっても左右される。したがって、エッチングの条件は、エッチング液の濃度、及び、エッチング液の温度、さらに、エッチング時間に関して、適切な条件を設定して行うとよい。
【0047】
なお、上述したウェットエッチングに代えて、いわゆるドライエッチングにより空隙幅Sを広げるようにしてもよい。また、実用上充分に空隙幅Sが確保されている場合には、エッチング工程を省略してもよい。なお、このエッチング工程により、凹状溝11の壁面に付着した金属材料も全部又は一部が除去され、これにより第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13間の絶縁性を向上して偏光特性を向上することができる。
【0048】
図6は、第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13の断面形状がエッチング処理により変化した状態を示す図である。
エッチング処理を行ったことにより、
図6に示すように、空隙幅Sを広げることができ、また、第1の金属線状部12と第2の金属線状部13との間が互いに繋がることなく、確実に間隔を開けることができる。これにより、偏光効率の向上が期待できる。
【0049】
このようにして第1の金属線状部12及び第2の金属線状部13を作製すると、この製造工程の最終工程で、例えば、長尺の第1の偏光子10Aをロールに巻き取って偏光子巻取体が作製される。そして、この偏光子巻取体が続く処理工程に搬送されて切断処理が実行される。
【0050】
所定のサイズに切断された第1の偏光子10A、及び、第2の偏光子10Bは、固定枠18に固定されて、偏光装置1が完成する。
【0051】
ここで、第1の偏光子10Aの製造工程中の凹凸形状作製工程S2において用いられるロール版30について説明する。
図7は、ロール版30の製造工程を説明する図である。
ロール版30は、周側面に微細凹凸形状が作製された賦型用金型であり、凹状溝11に対応する凸条である微細凹凸形状が周側面に形成されている。この実施形態において、この凸条は、円周方向に延長するように、凹状溝11の溝幅に対応する幅に形成されている。そして、このロール版30を用いて賦型処理を行い、基材15の長手方向に延長する凹状溝11が作製される。
【0052】
ロール版30は、切削加工が容易な金属材料を素材とする円筒形状又は円柱形状により母材31が形成されている。本実施形態では、銅のパイプ材が母材31に用いられている。ロール版30の製造工程は、先ず、平滑化工程において、バイト32を使用した母材31の周側面の切削処理により母材31の周側面を平滑化した後、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法により母材31の周側面を超鏡面化する。
【0053】
続いて、ロール版30の製造工程は、切削工程において、母材31を切削装置に装着した後、バイト32の先端を母材31の周側面に押し当て、この状態で矢印Bにより示すように母材31を回転させながら、矢印Cにより示すようにバイト32を母材31の管軸に沿った方向に移動させ、これにより母材31の周側面をらせん状に切削加工する。このようにして、母材31は、その周側面に、円周方向に延長する断面が矩形形状に形成され、凹状溝11に対応する凸条が作製される。なお、バイト32は、同時並列的に複数の凹状溝を作製可能とするために、先端が櫛歯状に形成されており、切削工程では、ロール版30の作製に要する時間を短縮することができる。このような微細な櫛歯形状によるバイト32の作製方法は、特に限定されないが、一般にこれらを達成する微細精密加工法として知られる高エネルギ線加工やリソグラフィ加工、化学的エッチング、又は、精密切削法等を適宜選択してもよいし、また、これらを自由に組み合わせて作製してもよい。
【0054】
なお、ロール版30に形成される凸条は、らせん状に形成されているが、非常に微細なピッチ、かつ、微小な送り量で形成されているので、賦型樹脂層16の表面に賦型される凹状溝11は、直線状に形成されていると見なすことができる。
【0055】
また、第1の偏光子10Aの製造工程中の凹凸形状作製工程S2において、上述のロール版30を用いずに、板状版を用いてもよい。
図8は、板状版40の製造工程を説明する図である。
板状版40の製造工程は、基板41の上に微細凹凸形状を形成するための材料層42Aを形成し、さらにその上にレジスト層(43A,44A)を形成する工程と、レジスト層(43A,44A)を加工して、微細凹凸形状に対応したレジストパターンを形成する工程と、レジストパターンをエッチングマスクに用いて材料層42Aをエッチング加工する工程と、を備えるものである。
【0056】
図8に示す例では、
図8(a)に示すように、まず、基板41の上に、微細凹凸形状を形成するための材料層42Aと、ハードマスク材料層43Aと、レジスト層44Aとを、順次形成した積層体を準備する。
次に、電子線等を照射し、現像等を施して、微細凹凸形状に対応したレジストパターン44Bを形成する(
図8(b))。
次に、レジストパターン44Bをエッチングマスクに用いてハードマスク材料層43Aをエッチング加工して、ハードマスクパターン43Bを形成する(
図8(c))。例えば、ハードマスク材料層43Aの材料にクロムを用いた場合には、塩素と酸素の混合ガスを用いたドライエッチングにより、ハードマスクパターン43Bを形成することができる。
次に、レジストパターン44B及びハードマスクパターン43Bをエッチングマスクに用いて、材料層42Aをエッチング加工して、微細凹凸形状42Bを形成する(
図8(d))。例えば、材料層42Aの材料にモリブデンシリサイドを用いた場合には、SF6ガスを用いたドライエッチングにより、微細凹凸形状42Bを形成することができる。なお、材料層42Aの材料は、モリブデンシリサイドに限るものではない。例えば、材料層42Aの材料は、クオーツ(SiO
2、合成石英)板であってもよいし、通常のガラス板や金属板等、型として用いることができるものであればよい。
最後に、レジストパターン44B及びハードマスクパターン43Bを除去し、基板41の上に、微細凹凸形状42Bが形成された板状版40を得る(
図8(e))。
【0057】
図9は、板状版40の他の製造工程を説明する図である。
図9に示すように、先に説明した
図8の製造工程から、ハードマスク材料層43A及びハードマスクパターン43Bを省略してもよい。
図9の製造工程は、ハードマスク材料層43A及びハードマスクパターン43Bを省略した他は、上記
図8の場合と同じなので、詳細な説明は、省略する。
【0058】
本実施形態の偏光装置1は、上述の第1の偏光子10Aと第2の偏光子10Bとを、両者の偏光軸が一致するようにして積層配置している。2つの偏光子を積層配置したことにより、本実施形態の偏光装置1は、非常に優れた偏光特性を獲得している。
図10は、第1の偏光子10Aと第2の偏光子10Bとを積層配置することによる偏光特性の変化を示すグラフである。
図10中の曲線は、以下の特性を示している。
10ATp:第1の偏光子10AにおけるP偏光の透過率
10BTp:第2の偏光子10BにおけるP偏光の透過率
1Tp:第1の偏光子10Aと第2の偏光子10Bとを2枚重ねた偏光装置1におけるP偏光の透過率
10ATs:第1の偏光子10AにおけるS偏光の透過率
10BTs:第2の偏光子10BにおけるS偏光の透過率
1Ts:第1の偏光子10Aと第2の偏光子10Bとを2枚重ねた偏光装置1におけるS偏光の透過率
【0059】
図10に示したように、第1の偏光子10Aと第2の偏光子10Bとを2枚重ねた偏光装置1におけるP偏光の透過率は、第1の偏光子10Aと第2の偏光子10BにおけるP偏光の透過率よりも低下してしまっている。しかし、第1の偏光子10Aと第2の偏光子10Bとを2枚重ねた偏光装置1におけるS偏光の透過率は、非常に小さな値になっている。波長940nmの光に関して着目すると、P偏光の透過率は、
10ATp(波長940nm)=86.90%
10BTp(波長940nm)=86.88%
1Tp(波長940nm)=76.39%
となっている。
一方、S偏光の透過率は、
10ATs(波長940nm)=0.098%
10BTs(波長940nm)=0.110%
1Ts(波長940nm)=0.009%
となり、2枚の偏光子を重ねることにより、S偏光の透過率を飛躍的に小さな値に抑えることができている。このような低い透過率は、単一の偏光子だけでは容易に到達できない値である。
【0060】
以上説明したように、第1実施形態の偏光装置1は、第1の偏光子10Aと第2の偏光子10Bとを、両者の偏光軸を揃えて2枚重ねて固定している。したがって、偏光装置1は、上述の例では、特にS偏光の透過率を非常に低い値にすることができる。すなわち、変更装置1は、特定の偏光軸の方向に振動する光を透過させ、この特定の偏光軸と直交する方向に振動する光の透過率を、極めて小さな値に抑え込むことができる。また、偏光装置1は、第1の偏光子10Aと第2の偏光子10Bとが相対的に移動しないように固定されているので、優れた偏光特性を安定して得ることができる。
【0061】
(第2実施形態)
図11は、本発明の第2実施形態である反射光検出装置100を示す図である。
反射光検出装置100は、自動車の運転席前方に設けられて、運転者の目に赤外光を照射して、運転者の目により反射して戻って来た反射光を受光して、運転者の瞳孔の位置や動きを取得するための装置として用いられる。ここで、単純に赤外光を照射するだけでは、例えば、運転者が眼鏡をかけていた場合には、眼鏡の表面からの反射光も受光部に到達してしまう。この眼鏡表面からの反射光は、受光部から見て運転者の瞳孔の位置と重なる位置に生じる可能性が高く、その場合、瞳孔を正確に抽出することができなくなるおそれがある。そこで、本実施形態では、第1実施形態における偏光装置1を投光側偏光装置1−1及び受光側偏光装置1−2として、反射光検出装置100に2つ用いて、眼鏡表面からの不要な反射光を低減している。
反射光検出装置100は、投光部21と、投光側偏光装置1−1と、受光部22と、受光側偏光装置1−2とを備えている。
【0062】
投光部21は、運転者の目の位置に向けて検出光を投光する。ここで、投光部21が投光する検出光は、近赤外光である。赤外光であれば、運転者が視認できず、運転操作に支障がない。
【0063】
投光側偏光装置1−1は、投光部21から投光される検出光を偏光する偏光装置であり、第1実施形態に示した偏光装置1と同じものが用いられている。なお、
図11では、固定枠18については、省略して示している。また、
図11において、投光側偏光装置1−1の偏光軸の方向を矢印で示している。
【0064】
受光部22は、投光側偏光装置1−1により偏光された検出光が物体、すなわち運転者の目と、運転者が眼鏡をかけている場合には、さらに眼鏡の表面とにより反射された反射光を受光する。より具体的には、受光部22は、CMOSイメージセンサ等の撮像素子により構成されており、運転者の目周辺の画像を撮影する。なお、受光部22が受光して取得した情報(撮影した画像上情報)は、不図示の画像処理部へ送られ、運転者の瞳孔を抽出して、居眠り防止処理等に用いられる。
【0065】
受光側偏光装置1−2は、受光部22が受光する反射光を受光部22に到達する前の位置で偏光する偏光装置であり、第1実施形態に示した偏光装置1と同じものが用いられている。
図11において、受光側偏光装置1−2の偏光軸の方向についても、矢印で示している。
図11中の矢印で示したように、投光側偏光装置1−1と受光側偏光装置1−2とは、偏光軸の向きが90度の関係にある。すなわち、投光側偏光装置1−1及び受光側偏光装置1−2を、それぞれ1つの偏光子とみなすと、両者はクロスニコルの関係にある。
【0066】
次に、本実施形態の反射光検出装置100の検出光が投光側偏光装置1−1及び受光側偏光装置1−2によりどのような作用を受けるかについて説明する。
【0067】
投光部21から投光される検出光としての赤外光には、様々な振動方向の光が含まれているが、ここでは、理解を容易にするために、S偏光とP偏光とが投光部21から投光されるものとして、
図11では示している。投光部21から投光されたS偏光とP偏光とは、投光側偏光装置1−1に到達する。ここで、投光側偏光装置1−1は、S偏光の透過率が高く、P偏光の透過率が低くなる向きに配置されているものとする。したがって、投光側偏光装置1−1を通過した赤外光は、その殆どがS偏光成分となる。
【0068】
投光側偏光装置1−1を通過したS偏光成分が大部分である赤外光は、眼鏡Gがある場合には、眼鏡Gの表面でその一部が反射される。眼鏡Gの表面は、平滑な面であるので、眼鏡Gの表面で反射された赤外光の偏光状態には、変化がなく、S偏光の反射光として、受光部22の前にある受光側偏光装置1−2へと向かう。
【0069】
一方、眼鏡Gがあっても、眼鏡Gは、赤外光の多くを透過させるので、投光側偏光装置1−1を通過したS偏光成分が大部分である赤外光は、運転者の目Eに到達する。運転者の目Eは、赤外光を拡散反射するので、S偏光で目Eに到達した赤外光の偏光状態が解消されて、P偏光とS偏光を含む光となり、さらに眼鏡Gを通過して受光側偏光装置1−2へと向かう。
【0070】
受光側偏光装置1−2へは、上述した様に、眼鏡Gの表面で反射されたS偏光の反射光と、目Eで反射されてP偏光とS偏光とを含む反射光との、2種類の反射光が、到達する。ここで、受光側偏光装置1−2は、投光側偏光装置1−1に対してクロスニコルの関係に配置されているので、投光側偏光装置1−1が透過可能な偏光成分を遮る作用がある。
図11の例では、受光側偏光装置1−2は、S偏光を遮り、P偏光を透過させる。したがって、受光側偏光装置1−2は、眼鏡Gの表面で反射されたS偏光の反射光と、目Eで反射された反射光のうちS偏光の成分とを遮る。しかし、目Eで反射された反射光のうちP偏光の成分については、受光側偏光装置1−2を通過することができ、受光部22へと到達する。
【0071】
よって、眼鏡Gの表面で反射されたS偏光の反射光は、その殆どが受光側偏光装置1−2に遮られて受光部22には到達しない。このような構成によって、本実施形態の反射光検出装置100は、眼鏡Gの表面での不要な反射光を低減し、本来観察したい運転者の目Eからの反射光を観察可能としている。
【0072】
ここで、眼鏡Gの表面で反射されたS偏光の反射光は、その殆どが受光側偏光装置1−2に遮られて受光部22には到達しないと説明したが、眼鏡Gの表面で反射されたS偏光の反射光の全てを遮断できるものではない。すなわち、第1実施形態で説明したように、偏光子には、S偏光及びP偏光のそれぞれを透過させる透過率があり、透過させない偏光成分の透過率は、0%ではない。一方の偏光成分の透過率が100%であり、それに直交する方向の偏光成分の透過率が0%である偏光子を用いることができれば、それは理想的な状態であって、完全に眼鏡Gの表面での不要な反射光を除去可能である。しかし、実際には、不要な偏光成分を完全に除去できる偏光子は、容易には作製することができない。
【0073】
そこで、本実施形態では、単なる偏光子を用いずに、第1の偏光子10Aと第2の偏光子10Bとを2枚重ねた偏光装置1を、投光側偏光装置1−1と受光側偏光装置1−2とに用いている。偏光装置1(投光側偏光装置1−1,受光側偏光装置1−2)は、第1実施形態で説明したように、透過させたくない偏光成分の透過率が、0.009%と、極めて低い値となっている。したがって、透過させたくない偏光成分を殆ど遮断することができ、理想的な状態に近づけることが可能である。
したがって、本実施形態の反射光検出装置100は、眼鏡Gの表面での不要な反射光を無視できる程度にまで低減することができ、本来観察したい運転者の目Eからの反射光を正確に観察可能である。しかも、偏光装置1(投光側偏光装置1−1,受光側偏光装置1−2)は、作製及び入手が比較的容易な偏光子を積層配置したものであり、構成が容易であって、安価に実現可能である。
【0074】
(第3実施形態)
図12は、本発明の第3実施形態である反射光検出装置200を示す図である。
第3実施形態の反射光検出装置200は、受光側偏光装置1−3の偏光軸の配置方向が、第1実施形態の受光側偏光装置1−2と異なる点と、利用状況が異なる他は、第2実施形態と同様である。よって、前述した第2実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
第2実施形態の反射光検出装置200は、運転者が偏光サングラスSGをかけている場合に好適な形態であり、偏光サングラスSGを運転者がかけていても、運転者の瞳孔を適切に観察可能とする形態である。
反射光検出装置200は、投光部21と、投光側偏光装置1−1と、受光部22と、受光側偏光装置1−3とを備えている。
【0075】
受光側偏光装置1−3は、受光部22が受光する反射光を受光部22に到達する前の位置で偏光する偏光装置であり、第1実施形態に示した偏光装置1と同じものが用いられている。
図12において、受光側偏光装置1−3の偏光軸の方向についても、矢印で示している。
図12中の矢印で示したように、投光側偏光装置1−1と受光側偏光装置1−3とは、偏光軸の向きが0度の関係にある。すなわち、投光側偏光装置1−1及び受光側偏光装置1−3を、それぞれ1つの偏光子とみなすと、両者はパラレルニコルの関係にある。
なお、偏光サングラスSGの偏光軸の方向は、投光側偏光装置1−1及び受光側偏光装置1−3の偏光軸の方向と一致している。
【0076】
次に、本実施形態の反射光検出装置200の検出光が投光側偏光装置1−1及び受光側偏光装置1−3によりどのような作用を受けるかについて説明する。
【0077】
投光部21から投光されたS偏光とP偏光とは、投光側偏光装置1−1に到達する。ここで、投光側偏光装置1−1は、S偏光の透過率が高く、P偏光の透過率が低くなる向きに配置されているものとする。したがって、投光側偏光装置1−1を通過した赤外光は、その殆どがS偏光成分となる。
【0078】
投光側偏光装置1−1を通過したS偏光成分が大部分である赤外光は、偏光サングラスSGがある場合には、偏光サングラスSGがS偏光を透過させる偏光子であるので、そのまま偏光サングラスSGを通過する。
【0079】
偏光サングラスSGを通過した赤外光は、運転者の目Eに到達する。運転者の目Eは、赤外光を拡散反射するので、S偏光で目Eに到達した赤外光の偏光状態が解消されて、P偏光とS偏光を含む光となり、偏光サングラスSGへと向かう。
【0080】
運転者の目Eにより反射されて偏光サングラスSGへ到達した赤外光は、偏光サングラスSGによってP偏光成分が遮断されて、S偏光成分のみが偏光サングラスSGを通過して受光側偏光装置1−3へと向かう。
【0081】
受光側偏光装置1−3へは、上述した様に、目Eで反射されて偏光サングラスSGを通過したS偏光の反射光のみが到達する。ここで、受光側偏光装置1−3は、投光側偏光装置1−1に対してパラレルニコルの関係に配置されているので、投光側偏光装置1−1と同じ偏光成分を透過させる。
図12の例では、受光側偏光装置1−3は、S偏光を透過させ、P偏光を遮る。したがって、受光側偏光装置1−3は、目Eで反射された反射光のうちS偏光の成分を透過させるので、目Eで反射された反射光のうちS偏光の成分は、受光部22へと到達する。
【0082】
よって、本実施形態によれば、偏光サングラスSGを運転者が装着していた場合であっても、適切に運転者の瞳孔を観察できる。
【0083】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の範囲内である。
【0084】
(1)各実施形態において、偏光装置1は、固定枠18により第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bを固定している例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bの間に接着層を設けて、両者を固定してもよい。
【0085】
(2)第2実施形態及び第3実施形態において、反射光検出装置は、運転者の目を観察する用途に用いられる例を挙げて説明した。これに限らず、反射光検出装置は、運転以外の状況下で人の目を観察するものであってもよいし、人の目に限らず、他の物体からの反射光を検出する装置であってもよい。
【0086】
(3)各実施形態において、偏光装置1は、2枚の偏光子を積層配置した例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、3枚以上の偏光子を積層配置してもよい。
【0087】
(4)
図13は、第1の偏光子10A及び第2の偏光子10Bの変形形態を示す図である。
各実施形態において、断面が矩形形状の凹状溝を作製する例を挙げて説明した。これに限らず例えば、
図13(A)に示すように、対向する壁面が先細りのテーパ面である断面形状が楔形形状となっている凹状溝としてもよい。また、
図13(B)に示すように、全体が波形の形状となっている凹凸面形状の凹状溝としてもよく、適宜形状を変更可能である。