(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ノイズ対策を行っても電源ノイズを完全に無くすことはできないため、電子部品が誤作動しないようにノイズマージンを設定するのが一般的である。このノイズマージンは、正規分布に従うノイズの大きさや頻度に基づいて計算することが可能である。
【0006】
しかしながら、従来のようにリップル波形やノイズの大きさを取得する技術では、正規分布に従わないランダムノイズが混入しているか否かを判定できない。その結果、意図しない電源装置の異常に起因して、電子部品に測定誤差が発生してしまう。しかも、特許文献1の技術では、インバータの故障個所しか特定することができず、汎用性に欠ける。
【0007】
そこで、電源に含まれる様々なノイズを正確に判定できる汎用性の高い電源ノイズ判定装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電源ノイズ判定装置の特徴構成は、電源装置の電圧値を所定時間に亘って抽出する電圧値抽出部と、前記電圧値に関する電圧データからヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、前記電圧データの平均値および標準偏差から確率密度関数を生成する確率密度関数生成部と、前記ヒストグラムと前記確率密度関数とが一致する
場合に前記電源装置が良品であると判定する判定部と、を備え
、前記判定部は、前記ヒストグラムにおいて前記電圧値ごとの発生回数を並べた頻度ベクトルと、前記頻度ベクトルにおける夫々の前記電圧値に対応する確率密度を並べた確率密度ベクトルとの成す角が所定の閾値以下であれば、前記ヒストグラムと前記確率密度関数とが一致していると判定する点にある。
【0009】
本構成によると、ノイズが含まれる実電圧値に関する電圧データからヒストグラムを生成し、該ヒストグラムと電圧データの正規分布である確率密度関数とを比較することで、正規分布に従わないノイズの有無を判定することができる。その結果、ノイズの大きさや頻度が基準値を満たしている電源装置であっても、正規分布に従わないノイズによってノイズマージンを正確に設定できない電源装置として不良品判定することができる。しかも、ヒストグラムと確率密度関数とを用いて判定しているので、判定方法が簡便であると共に、様々な電源装置に適用することが可能であり汎用性が高い。
【0010】
また、電圧データの平均値および標準偏差も算出しているので、正規分布に従うノイズの大きさや頻度も判定指標として用いることが可能となり、判定精度を高めることができる。
XY座標系のヒストグラムにおいて、電圧値をX座標値として並べた場合、発生回数がY座標値となる。つまり、本構成の頻度ベクトルは、X座標値ごとにY座標値を取得して順番に並べたベクトルである。また、このX座標値ごとに対応する確率密度を取得して順番に並べたものが確率密度ベクトルとなり、頻度ベクトルと確率密度ベクトルとの成す角が所定の閾値以下であれば、ヒストグラムと確率密度関数とが一致していると判定することができる。その結果、ノイズマージンを正確に設定できる電源装置として良品判定される。この成す角は、2つのベクトルの内積を、2つのベクトルの大きさの積で除算するだけで演算できるので、判定部の演算量を少なくすることができ、判定方法が簡便である。このように、電源装置に含まれる様々なノイズを正確に判定できる汎用性の高い電源ノイズ判定装置を提供できた。
【0011】
電源ノイズ判定装置の特徴構成は、電源装置の電圧値を所定時間に亘って抽出する電圧値抽出部と、前記電圧値に関する電圧データからヒストグラムを生成するヒストグラム生成部と、前記電圧データの平均値および標準偏差から確率密度関数を生成する確率密度関数生成部と、前記ヒストグラムと前記確率密度関数とが一致する場合に前記電源装置が良品である判定する判定部と、を備え、前記電圧データは、前記電圧値の平均に対する差分値であり、前記判定部は、前記ヒストグラムにおいて前記差分値ごとの発生回数を並べた頻度ベクトルと、前記頻度ベクトルにおける夫々の前記差分値に対応する確率密度を並べた確率密度ベクトルとの成す角が所定の閾値以下であれば、前記ヒストグラムと前記確率密度関数とが一致していると判定する点にある。
【0012】
本構成のように差分値を用いれば、該差分値はノイズ成分となり、XY座標系の確率密度関数のピーク値がX座標の原点に配置される。このため、実電圧の平均値から確率密度関数を生成する場合に比べて、ヒストグラムとの比較が容易なものとなる。しかも、ノイズ成分を算出することで、ノイズの大きさや頻度も容易に把握することができる。
【0013】
【0014】
XY座標系のヒストグラムにおいて
、差分値をX座標値として並べた場合、発生回数がY座標値となる。つまり、本構成の頻度ベクトルは、X座標値ごとにY座標値を取得して順番に並べたベクトルである。また、このX座標値ごとに対応する確率密度を取得して順番に並べたものが確率密度ベクトルとなり、頻度ベクトルと確率密度ベクトルとの成す角が所定の閾値以下であれば、ヒストグラムと確率密度関数とが一致していると判定することができる。その結果、ノイズマージンを正確に設定できる電源装置として良品判定される。この成す角は、2つのベクトルの内積を、2つのベクトルの大きさの積で除算するだけで演算できるので、判定部の演算量を少なくすることができ、判定方法が簡便である。
【0015】
他の特徴構成は、前記電圧値抽出部は、複数の周波数帯域ごとに前記電圧値を抽出し、前記判定部は、前記複数の周波数帯域ごとに前記閾値を設定して判定する点にある。
【0016】
電子部品の感度は、種類に応じて異なる周波数帯域を有する。本構成のように複数の周波数帯域ごとに閾値を設定すれば、例えば、感度の高い周波数帯域にはシビアな閾値を設定することが可能となり、より精度の高いノイズ判定ができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る電源ノイズ判定装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0019】
センサなどの電子部品を作動させる電源装置Xのノイズに起因して、該電子部品に測定誤差が発生することがある。これを防止するため、電子部品にノイズマージンを設定するのが一般的であり、ノイズマージンの設定にあたっては正規分布に従うノイズの大きさや頻度に基づいて計算することが可能である。そこで、本実施形態における電源ノイズ判定装置Yは、電源装置Xのノイズが正規分布に従うノイズか否かの判定を行うように構成している。
【0020】
図1に示すように、この電源ノイズ判定装置Yは、電圧値抽出部1と、差分値生成部3と、ヒストグラム生成部4と、確率密度関数生成部5と、判定部6とを備えている。これら各機能部は各種処理を実行するCPUやメモリを中核としたソフトウェア、又はハードウェアとソフトウェアとの協働により構成されている。なお、各機能部は、夫々独立した物理構成を有する必要はなく、夫々の機能が実現されれば良い。つまり、各機能部を併合しても良いし、各機能部を細分化しても良い。また、各機能部は、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜省略することができる。
【0021】
電圧値抽出部1は、例えばデジタルオシロスコープによって構成されており、電源装置Xの電圧値Vを所定時間(例えば500ms)に亘って抽出する。この際、所定値(例えば1MHz)よりも大きい周波数成分は除去されて抽出される。また、電圧値抽出部1は、複数の周波数帯域Fごとに電圧値Vを抽出することが好ましい。本実施形態では、ローパスフィルタによって第一周波数帯域F1(例えば10kHz以下)の第一電圧値V1が抽出され、ハイパスフィルタ(又はバンドパスフィルタ)によって第二周波数帯域F2(例えば10kHz〜1MHz)の第二電圧値V2が抽出される。なお、電圧値抽出部1は
、バンドパスフィルタを用いて、所定の範囲にある周波数帯域(例えば10kHz〜300kHz)を抽出しても良い。
【0022】
差分値生成部3は、デジタルオシロスコープの機能に組み込まれており、電圧値抽出部1で抽出された電圧値Vの平均に対する差分値S(電圧データの一例)を生成する。この差分値Sは、電源装置Xのノイズ成分に相当する。この差分値生成部3は、第一周波数帯域F1の第一差分値S1と、第二周波数帯域F2の第二差分値S2とを生成する。
【0023】
ヒストグラム生成部4は、デジタルオシロスコープの機能に組み込まれており、差分値生成部3で生成された差分値Sからヒストグラムを生成する。このヒストグラムは、例えば
図4において、10kHz以下(第一周波数帯域F1)の第一差分値S1のリップル波形左側に表示されるものである。このヒストグラムを90度反時計回りに回転したものが
図5に示されており、X座標(横軸)は、ノイズ成分である第一差分値S1の値であり、Y座標(縦軸)は、第一差分値S1ごとの発生回数(頻度)となっている。なお、差分値生成部3やヒストグラム生成部4の機能をデジタルオシロスコープに組み込まずに、別のコンピュータで実行しても良い。
【0024】
確率密度関数生成部5は、差分値Sの平均値および標準偏差から確率密度関数を生成する。この確率密度関数は、例えば
図5に示すような第一差分値S1の正規分布を示すものである。電源ノイズがこの確率密度関数に従っていれば、電子部品のノイズマージンの設定が正確なものとなる。
【0025】
判定部6は、ヒストグラム生成部4で生成されたヒストグラムと確率密度関数生成部5で生成された確率密度関数とが一致しているか否かを判定する。この判定部6は、ヒストグラムにおいて差分値Sごとの発生回数を並べた頻度ベクトルaと、頻度ベクトルaにおける夫々の差分値Sに対応する確率密度を並べた確率密度ベクトルbとの成す角θが、所定の閾値TH以下であるか否かを判定する。
【0026】
頻度ベクトルaは、例えば
図5に示すヒストグラムにおいて複数の差分値SであるX座標値(x=x
1〜x
n)ごとに発生回数であるY座標値を順番に並べたものである。同様に、確率密度ベクトルbは、確率密度関数において複数の差分値SであるX座標値(x=x
1〜x
n)ごとに確率密度であるY座標値を順番に並べたものである。このとき、頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとのY座標値は、X座標値を対応させている。つまり、同じ差分値Sに対応するヒストグラムの発生回数と確率密度とは、配列要素が同じ場所に位置する。なお、x
1〜x
nは、ノイズ成分が分布している範囲を示しており、例えば、x
1=−20mV、x
n=20mVにそれぞれ対応している。
【0027】
このように生成されたn個の要素を持つ頻度ベクトルa=(a1,a2,・・・,an)およびn個の要素を持つ確率密度ベクトルb=(b1,b2,・・・,bn)を用いて、ヒストグラムと確率密度関数との一致度を判定する。
図2に示すように、頻度ベクトルaの大きさと確率密度ベクトルbの大きさとの積に、頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの成す角θの余弦関数(COS)を乗算した値が、頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの内積に等しくなる。その結果、頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの内積を
頻度ベクトルaおよび確率密度ベクトルbの大きさの積で除算すれば、頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの成す角θを求めることができる。この成す角θは、ヒストグラムと確率密度関数との一致度を表しており、値が小さいほど両者が一致している。つまり、頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの成す角θが所定の閾値TH以下であれば、ヒストグラムと確率密度関数とが一致していると判定し、ノイズマージンを正確に設定できる電源装置Xとして良品判定される。
【0028】
また、判定部6は、電圧値抽出部1で電圧値が抽出された複数の周波数帯域F1,F2ごとに閾値TH1,TH2を設定して判定する。具体的には、差分値生成部3で演算された、第一周波数帯域F1の第一差分値S1に基づいて演算された成す角θ1と、第二周波数帯域F2の第二差分値S2に基づいて演算された成す角θ2とに、夫々異なる閾値TH1(例えば7°)、TH2(例えば2°)が設定される。例えば、第二周波数帯域F2に感度を有するセンサの場合、第一周波数帯域F1に第一閾値TH1を設定し、第二周波数帯域F2に第一閾値TH1より小さい第二閾値TH2が設定される。このように複数の周
波数帯域F1,F2ごとに閾値TH1,TH2を設定すれば、より精度の高いノイズ判定をすることができる。
【0029】
続いて、
図3を用いて、電源ノイズ判定装置Yの判定フローを説明する。まず、電圧値抽出部1は、電源装置Xの電圧値Vを抽出する(#31)。このとき、第一周波数帯域F1および第二周波数帯域F2ごとに500msのサンプル期間で4回抽出する。そして、第一周波数帯域F1の第一電圧値V1の平均値を算出し、第一電圧値V1と該平均値との差を第一差分値S1として生成する(#32、
図4,
図6の中央のリップル波形参照)。同様に、第二周波数帯域F2の第二電圧値V2の平均値を算出し、第二電圧値V2と該平均値との差を第二差分値S2として生成する(#32、
図4,
図6の下側のリップル波形
参照)。
【0030】
次いで、第一差分値S1および第二差分値S2について、夫々平均値および標準偏差を算出し(#33)、確率密度関数を生成する(#34)。同時に、第一差分値S1および第二差分値S2ごとにヒストグラムを生成する(#34)。
図5,
図7には、第一周波数帯域F1のヒストグラムと確率密度関数とを比較した図が示される。
図5は、
図4の中央のリップル波形に基づくものであり、
図7は
図6の中央のリップル波形に基づくものである。
図5のヒストグラムは正規分布と一致しておらず、
図7のヒストグラムは正規分布とほぼ一致していることが目視できる。
【0031】
図3に戻って、ヒストグラムにおいて差分値Sごとの発生回数を並べた頻度ベクトルaと、頻度ベクトルaにおける夫々の差分値Sに対応する確率密度を並べた確率密度ベクトルbとの成す角θを算出する(#35)。本実施形態では、第一周波数帯域F1の頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの成す角θ1と、第二周波数帯域F2の頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの成す角θ2とを算出する。
【0032】
次いで、第一周波数帯域F1の成す角θ1が第一閾値TH1(例えば7°)以下か否かが判定される(#36)。第一周波数帯域F1の成す角θ1が第一閾値TH1より大きい場合(#36No判定)、ヒストグラムと確率分布関数が一致しないと判定し、電源装置Xは不良品と判断される(#39)。一方、第一周波数帯域F1の成す角θ1が第一閾値TH1(例えば7°)以下である場合(#36Yes判定)、第二周波数帯域F2の成す角θ2が第二閾値TH2(例えば2°)以下か否かが判定される(#37)。
【0033】
第二周波数帯域F2の成す角θ2が第二閾値TH2より大きい場合(#37No判定)、ヒストグラムと確率分布関数が一致しないと判定し、電源装置Xは不良品と判断される(#39)。一方、第二周波数帯域F2の成す角θ2が第二閾値TH2以下である場合(#37Yes判定)、ヒストグラムと確率分布関数が一致すると判定し、電源装置Xは良品と判断される(#38)。
【0034】
一例として、
図5に示される電源装置Xは、第一周波数帯域F1の成す角θ1は約18°であり、正規分布に従わない電源ノイズが含まれているので不良品と判断される。
図7に示される電源装置Xは、第一周波数帯域F1の成す角θ1は約2°であり、正規分布に従う電源ノイズが含まれているので、ノイズマージンを適正に設定できる良品と判断される。このように、ヒストグラムと確率密度関数とを用いて判定しているので、判定方法が簡便であると共に、様々な電源装置Xに適用することが可能であり汎用性が高い。しかも成す角θは、2つのベクトルの内積を、2つのベクトルの大きさの積で除算するだけで演算できるので、判定部6の演算量を少なくすることができ、判定方法が簡便である。
【0035】
[その他の実施形態]
(1)上述した実施形態では、電圧値Vに関する電圧データとして、実際の電圧値Vと平均値との差分値Sを用いたが、実際の電圧値Vそのものを用いても良い。
(2)上述した実施形態では、頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの成す角θに基づいてヒストグラムと確率密度関数との一致度を判定したが、頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの差分の和や2乗和に基づいて判定しても良い。また、頻度ベクトルaと確率密度ベクトルbとの差分に差分値Sに応じた重み付けをして2乗和を算出しても良い。
(3)上述した実施形態では、2つの周波数帯域F1,F2ごとに閾値TH1,TH2を設定して判定したが、1つの周波数帯域又は3つ以上の周波数帯域ごとに閾値を設定して
判定しても良い。
(4)上述した実施形態では差分値Sの平均値および標準偏差も算出しているので、正規分布に従うノイズの大きさや頻度も判定指標として用いてもよい。これにより、判定精度をさらに高めることができる。