(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記コントローラは、上記インク量決定処理において、直前に上記ノズルからインク滴が吐出されてからの経過時間が長いほど、上記記録ヘッドの周辺の温度が低いほど、或いは上記記録ヘッドの周辺の湿度が低いほど、上記インク量を多く決定する請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
上記コントローラは、上記記録コマンドの送信を予告する先行コマンドを上記通信部を通じて上記情報処理装置から受信したことに応じて、上記インク量決定処理を実行する請求項8から10のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
該インクジェット記録装置は、上記シート対向領域から上記主走査方向に外れた位置で且つ上記第1位置と異なる第2位置に上記キャリッジが位置するときに上記記録ヘッドに対向し、上記記録ヘッドに密着して上記ノズルを覆う被覆位置及び上記記録ヘッドから離間する離間位置の間を、上記記録ヘッドに対して相対移動するキャップを備えており、
上記コントローラは、上記先行コマンドを受信したことに応じて、
上記記録ヘッド及び上記キャップの相対位置を、上記被覆位置から上記離間位置に変更するアンキャップ処理と、
上記キャップと上記記録ヘッドとが離間したことに応じて、上記キャリッジを上記第2位置から上記第1位置へ向けて移動させる第2移動処理とを、上記昇圧処理と並行して実行する請求項11に記載のインクジェット記録装置。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。また、以下の説明では、矢印の起点から終点に向かう進みが「向き」と表現され、矢印の起点と終点とを結ぶ線上の往来が「方向」と表現される。さらに、複合機10が使用可能に設置された状態(
図1の状態)を基準として上下方向7が定義され、開口13が設けられている側を手前側(正面)として前後方向8が定義され、複合機10を手前側(正面)から見て左右方向9が定義される。
【0032】
[複合機10の全体構成]
複合機10は、
図1に示されるように、概ね直方体に形成されている。複合機10は、プリンタ11を備えている。複合機10は、インクジェット記録装置の一例である。また、複合機10は、原稿を読み取って画像データを生成するスキャナ等をさらに備えていてもよい。
【0033】
[プリンタ11]
プリンタ11は、インクを吐出することによって、画像データで示される画像をシート12(
図2参照)に記録する。すなわち、プリンタ11は、所謂インクジェット記録方式を採用している。プリンタ11は、
図2に示されるように、給送部15A、15Bと、給送トレイ20A、20Bと、排出トレイ21と、搬送ローラ部54と、記録部24と、排出ローラ部55と、プラテン42とを備えている。搬送ローラ部54、及び排出ローラ部55は、搬送部の一例である。
【0034】
[給送トレイ20A、20B、排出トレイ21]
プリンタ11の正面には、開口13(
図1参照)が形成されている。給送トレイ20A、20Bは、開口13を通じて前後方向8に挿抜される。給送トレイ20A、20Bは、各々が積層された複数のシート12を支持する。排出トレイ21は、開口13を通じて排出ローラ部55によって排出されたシート12を支持する。
【0035】
[給送部15A、15B]
給送部15Aは、
図2に示されるように、給送ローラ25Aと、給送アーム26Aと、軸27Aとを備える。給送ローラ25Aは、給送アーム26Aの先端部に回転可能に支持されている。給送アーム26Aは、プリンタ11のフレームに支持された軸27Aに回動可能に支持されている。給送アーム26Aは、自重或いはバネ等による弾性力によって、給送トレイ20Aへ向けて回動付勢されている。給送部15Bは、給送ローラ25Bと、給送アーム26Bと、軸27Bとを備える。給送部15Bの具体的な構成は、給送部15Aと共通する。給送部15Aは、給送モータ101(
図6参照)の正転駆動力が伝達されて回転する給送ローラ25Aによって、給送トレイ20Aに支持されたシート12を搬送路65へ給送する。給送部15Bは、給送モータ101の正転駆動力が伝達されて回転する給送ローラ25Bによって、給送トレイ20Aに支持されたシート12を搬送路65へ給送する。
【0036】
[搬送路65]
搬送路65は、ガイド部材18、30と、ガイド部材19、31とによって形成される空間を指す。ガイド部材18、30及びガイド部材19、31は、プリンタ11の内部において所定間隔で対向する。搬送路65は、給送トレイ20A、20Bの後端部からプリンタ11の後方側に延びる経路である。また、搬送路65は、プリンタ11の後方側において下方から上方に延びつつUターンし、記録部24を経て排出トレイ21に至る経路である。なお、搬送路65内におけるシート12の搬送向き16は、
図2において一点鎖線の矢印で示されている。
【0037】
[搬送ローラ部54]
搬送ローラ部54は、記録部24より搬送向き16の上流に配置されている。搬送ローラ部54は、互いに対向する搬送ローラ60及びピンチローラ61を備える。搬送ローラ60は、搬送モータ102(
図6参照)によって駆動される。ピンチローラ61は、搬送ローラ60の回転に伴って連れ回る。シート12は、搬送モータ102の正転駆動力が伝達されて正回転する搬送ローラ60及びピンチローラ61に挟持されて、搬送向き16に沿って搬送される。また、搬送ローラ60は、搬送モータ102の逆転駆動力が伝達されることによって、正回転と逆向きの逆回転する。
【0038】
[排出ローラ部55]
排出ローラ部55は、記録部24より搬送向き16の下流に配置されている。排出ローラ部55は、互いに対向する排出ローラ62及び拍車63を備える。排出ローラ62は、搬送モータ102によって駆動される。拍車63は、排出ローラ62の回転に伴って連れ回る。シート12は、搬送モータ102の正転駆動力が伝達されて正回転する排出ローラ62及び拍車63に挟持されて、搬送向き16に沿って搬送される。
【0039】
[レジストセンサ120]
プリンタ11は、
図2に示されるように、レジストセンサ120を備える。レジストセンサ120は、搬送ローラ部54より搬送向き16の上流に設置されている。レジストセンサ120は、設置位置にシート12が存在するか否かに応じて、異なる検出信号を出力する。レジストセンサ120は、シート12が設置位置に存在していることに応じて、ハイレベル信号を後述するコントローラ130(
図6参照)に出力する。一方、レジストセンサ120は、シート12が設置位置に存在していないことに応じて、ローレベル信号をコントローラ130に出力する。
【0040】
[ロータリエンコーダ121]
プリンタ11は、
図6に示されるように、搬送ローラ60の回転(換言すれば、搬送モータ102の回転駆動)に応じてパルス信号を発生させるロータリエンコーダ121を備える。ロータリエンコーダ121は、エンコーダディスクと、光学センサとを備える。エンコーダディスクは、搬送ローラ60の回転と共に回転する。光学センサは、回転するエンコーダディスクを読み取ってパルス信号を生成し、生成したパルス信号をコントローラ130に出力する。
【0041】
[記録部24]
記録部24は、
図2に示されるように、搬送向き16における搬送ローラ部54及び排出ローラ部55の間に配置されている。また、記録部24は、上下方向7においてプラテン42と対向して配置されている。記録部24は、キャリッジ23と、記録ヘッド39と、エンコーダセンサ38Aと、メディアセンサ122とを備えている。また、キャリッジ23には、
図3に示されるように、インクチューブ32及びフレキシブルフラットケーブル33が接続されている。インクチューブ32は、インクカートリッジのインクを記録ヘッド39に供給する。フレキシブルフラットケーブル33は、コントローラ130が実装された制御基板と記録ヘッド39とを電気的に接続する。
【0042】
キャリッジ23は、
図3に示されるように、前後方向8に離間する位置において各々が左右方向9に延設されたガイドレール43、44に支持されている。キャリッジ23は、ガイドレール44に配置された公知のベルト機構に連結されている。なお、このベルト機構は、キャリッジモータ103(
図6参照)によって駆動される。つまり、キャリッジモータ103の駆動により周運動するベルト機構に接続されたキャリッジ23は、左右方向9に往復移動することができる。左右方向9は、主走査方向の一例である。
【0043】
記録ヘッド39は、
図2に示されるように、キャリッジ23に搭載されている。記録ヘッド39の下面(以下、「ノズル面」と表記する。)には、複数のノズル40が形成されている。記録ヘッド39は、ピエゾ素子等の振動素子が振動されることによって、ノズル40からインク滴を吐出する。キャリッジ23が移動する過程において、プラテン42に支持されているシート12に対して記録ヘッド39がインク滴を吐出する。これにより、シート12に画像が記録される。
【0044】
振動素子は、ノズル40からインク滴を吐出させるためのエネルギー(すなわち、振動エネルギー)を、電源部110によって印加された駆動電圧から生成する吐出エネルギー生成素子の一例である。但し、吐出エネルギー生成素子の具体例は振動素子に限定されず、例えば、熱エネルギーを生成するヒータであってもよい。そして、ヒータは、電源部110によって印加された駆動電圧から生成した熱エネルギーでインクを加熱し、発泡させたインク滴をノズルから吐出させてもよい。また、本実施形態に係る記録ヘッド39は、顔料インクを吐出するが、染料インクであってもよい。
【0045】
なお、記録ヘッド39は、例えば、メイン滴及びサテライト滴をノズル40から吐出してもよい。メイン滴及びサテライト滴は、例えば、ノズル40から吐出される段階では別々の液滴であり、空中で合体してシートのほぼ同じ位置に着弾し、シート上で1ドットを構成するものである。本明細書では、シート上で1ドットを構成するインクの単位を「1滴」或いは「1発」とする。すなわち、後述する「FLS発数」は、シート上の略同一位置に着弾するメイン滴及びサテライト滴を含めて、1発とカウントする。
【0046】
複数のノズル40は、
図2及び
図4に示されるように、前後方向8及び左右方向9に配列されている。前後方向8に配列された複数のノズル40(以下、「ノズル列」と表記する。)は、同一色のインク滴を吐出する。ノズル面には、左右方向9に配列された24列のノズル列が形成されている。そして、隣接する6列ずつのノズル列は、同一色のインク滴を吐出する。本実施形態では、右端から6列のノズル列がブラックインクのインク滴を吐出し、その隣の6列のノズル列がイエローインクのインク滴を吐出し、その隣の6列のノズル列がシアンインクのインク滴を吐出し、左端から6列のノズル列がマゼンタインクのインク滴を吐出する。但し、ノズル列の数及び吐出するインクの色の組み合わせは、前述の例に限定されない。
【0047】
ブラックインク及びマゼンタインクは第1色の一例であり、シアンインク及びイエローインクは第2色の一例である。第2色は、第1色と比較して乾燥に伴う粘度の変化が小さい色である。乾燥に伴う粘度の変化は、例えば、インクを構成する成分によって変化する。また、第1色のインク滴を吐出するノズル40は第1ノズルの一例であり、第2色のインク滴を吐出するノズル40は第2ノズルの一例である。
【0048】
また、ガイドレール44には、
図3に示されるように、左右方向9に延びる帯状のエンコーダストリップ38Bが配置されている。エンコーダセンサ38Aは、エンコーダストリップ38Bに対面する位置において、キャリッジ23の下面に搭載されている。キャリッジ23が移動する過程において、エンコーダセンサ38Aは、エンコーダストリップ38Bを読み取ってパルス信号を生成し、生成したパルス信号をコントローラ130に出力する。エンコーダセンサ38A及びエンコーダストリップ38Bは、キャリッジセンサ38(
図6参照)を構成する。
【0049】
[メディアセンサ122]
メディアセンサ122は、
図2に示されるように、キャリッジ23の下面(プラテン42に対向する面)においてキャリッジ23に搭載されている。メディアセンサ122は、発光ダイオード等からなる発光部と、光学式センサ等からなる受光部とを備える。発光部は、コントローラ130によって指示された光量の光をプラテン42へ向けて照射する。発光部から照射された光は、プラテン42或いはプラテン42に支持されたシート12で反射され、反射された光が受光部で受光される。メディアセンサ122は、受光部の受光量に応じた検出信号をコントローラ130へ出力する。例えば、メディアセンサ122は、受光量が大きいほどレベルの高い検出信号をコントローラ130へ出力する。
【0050】
[プラテン42]
プラテン42は、
図2に示されるように、搬送向き16における搬送ローラ部54及び排出ローラ部55の間に配置されている。プラテン42は、上下方向7において記録部24に対向して配置されている。プラテン42は、搬送ローラ部54及び排出ローラ部55の少なくとも一方によって搬送されるシート12を下方から支持する。本実施形態におけるプラテン42の光反射率は、シート12より低く設定されている。
【0051】
[メンテナンス機構70]
プリンタ11は、
図3に示されるように、メンテナンス機構70をさらに備える。メンテナンス機構70は、記録ヘッド39のメンテナンスを行うものである。より詳細には、メンテナンス機構70は、ノズル40内のインクや空気、及びノズル面に付着した異物を吸引するパージ動作を実行する。また、ノズル40内のインクや空気、及びノズル面に付着した異物のことを、以下ではインク等と表記する。メンテナンス機構70によって吸引除去されたインク等は、排液タンク74(
図4(A)参照)に貯留される。
【0052】
メンテナンス機構70は、
図3に示されるように、シート対向領域から主走査方向の一方(右方)に外れた位置に配置される。シート対向領域は、搬送部によって搬送されたシート12とキャリッジ23とが対面し得る主走査方向の領域を指す。メンテナンス機構70は、
図4(A)に示されるように、キャップ71と、チューブ72と、ポンプ73とを備えている。
【0053】
キャップ71は、ゴムにより構成されている。キャップ71は、シート対向領域から主走査方向の右方に外れた第2位置にキャリッジ23が位置するときに、キャリッジ23の記録ヘッド39に対面する位置に配置されている。チューブ72は、キャップ71からポンプ73を経由して排液タンク74に至る。ポンプ73は、例えば、ロータリ式のチューブポンプである。ポンプ73は、搬送モータ102に駆動されることによって、ノズル40内のインク等をキャップ71及びチューブ72を通じて吸引し、チューブ72を通じて排液タンク74に排出する。
【0054】
キャップ71は、例えば、上下方向7に離間した被覆位置及び離間位置の間を移動可能に構成されている。被覆位置のキャップ71は、第2位置のキャリッジ23の記録ヘッド39に密着してノズル面を覆う。一方、離間位置のキャップ71は、ノズル面から離間する。キャップ71は、給送モータ101によって駆動される不図示の昇降機構によって、被覆位置と離間位置との間を移動する。但し、記録ヘッド39及びキャップ71を接離させる具体的な構成は、前述の例に限定されない。
【0055】
他の例として、キャップ71は、給送モータ101によって駆動される昇降機構に代えて、キャリッジ23の移動に連動して動作する不図示のリンク機構によって移動されてもよい。リンク機構は、キャップ71を被覆位置に保持する第1姿勢と、キャップ71を離間位置に保持する第2姿勢とに姿勢変化が可能である。そして、リンク機構は、例えば、第2位置に向けて移動するキャリッジ23に当接されて、第2姿勢から第1姿勢に姿勢変化する。一方、リンク機構は、例えば、第1位置へ向けて移動するキャリッジ23に離間されて、第1姿勢から第2姿勢に姿勢変化する。
【0056】
他の例として、複合機10は、キャップ71を移動させる機構に代えて、ガイドレール43、44を上下方向7に移動させる昇降機構を備えてもよい。すなわち、第2位置のキャリッジ23は、昇降機構によって昇降されるガイドレール43、44と共に昇降される。一方、キャップ71は、第2位置のキャリッジ23の記録ヘッド39に対面する位置に固定される。そして、ガイドレール43、44及びキャリッジ23が昇降機構によって所定の位置まで降下されることによって、記録ヘッド39のノズル面がキャップ71によって覆われる。また、ガイドレール43、44及びキャリッジ23が昇降機構によって所定の位置まで上昇されることによって、記録ヘッド39及びキャップ71が離間し、且つキャリッジ23が主走査方向に移動可能となる。
【0057】
さらに他の例として、複合機10は、キャップ71を移動させる昇降機構、及びガイドレール43、44を移動させる昇降機構の両方を備えてもよい。そして、キャリッジ23及びキャップ71を互いに近接させる向きに移動させて、キャップ71をノズル面に密着させてもよい。さらに、キャリッジ23及びキャップ71を互いに離間させる向きに移動させて、キャップ71をノズル面から離間させてもよい。すなわち、前述の被覆位置及び離間位置は、記録ヘッド39及びキャップ71の相対位置を指す。そして、記録ヘッド39及びキャップ71の一方或いは両方を移動させることによって、記録ヘッド39及びキャップ71の相対位置を変更すればよい。換言すれば、記録ヘッド39及びキャップ71を相対移動させることによって、記録ヘッド39及びキャップ71の相対位置を変更すればよい。
【0058】
[キャップセンサ123]
キャップセンサ123は、キャップ71が被覆位置か否かに応じて、異なる検出信号を出力する。キャップセンサ123は、キャップ71が被覆位置であることに応じて、ハイレベル信号をコントローラ130に出力する。一方、キャップセンサ123は、キャップ71が被覆位置と異なる位置であることに応じて、ローレベル信号をコントローラ130に出力する。なお、キャップ71を被覆位置から離間位置へ移動させたとき、キャップセンサ123から出力される検出信号は、キャップ71が離間位置へ到達する前にハイレベル信号からローレベル信号に変化する。
【0059】
[インク受け部75]
プリンタ11は、
図3に示されるように、インク受け部75をさらに備える。インク受け部75は、シート対向領域から主走査方向の他方(左方)に外れた位置に配置されている。より詳細には、インク受け部75は、シート対向領域から主走査方向の左方に外れた第1位置にキャリッジ23が位置するときに、キャリッジ23の記録ヘッド39に対面する位置に配置されている。なお、メンテナンス機構70とインク受け部75とは、シート対向領域から主走査方向の同じ側に設けられていてもよい。但し、第1位置及び第2位置は、主走査方向に離間した位置である。
【0060】
インク受け部75は、
図4(B)に示されるように、上面に開口75Aが形成された概ね直方体の箱形状である。主走査方向における開口75Aの幅は、主走査方向におけるノズル面の幅より短い。また、インク受け部75の内部には、左右方向9に離間した位置において、案内板75B、75Cが設けられている。案内板75B、75Cは、上下方向7及び前後方向8に広がる板状の部材である。また、案内板75B、75Cは、左右方向9に傾斜して設けられている。より詳細には、案内板75B、75Cの左面が左斜め上方を向くように、インク受け部75の内部に配置されている。案内板75B、75Cは、記録ヘッド39から吐出されたインク滴をインク受け部75の奥面(底面)に向けて案内する。但し、案内板75B、75Cの数は、2つに限定されない。
【0061】
[駆動力伝達機構80]
プリンタ11は、
図6に示されるように、駆動力伝達機構80をさらに備える。駆動力伝達機構80は、給送モータ101及び搬送モータ102の駆動力を、給送ローラ25A、25B、搬送ローラ60、排出ローラ62、キャップ71の昇降機構、及びポンプ73に伝達する。駆動力伝達機構80は、歯車、プーリ、無端環状のベルト、遊星歯車機構(振子ギヤ機構)、及びワンウェイクラッチ等の全部又は一部を組み合わせて構成される。また、駆動力伝達機構80は、給送モータ101及び搬送モータ102の駆動力の伝達先を切り替える切替機構170(
図5参照)を備えている。
【0062】
[切替機構170]
切替機構170は、
図3に示されるように、シート対向領域より主走査方向の一方に外れた位置に配置されている。また、切替機構170は、ガイドレール43の下方に配置されている。切替機構170は、
図5に示されるように、スライド部材171と、駆動ギヤ172、173と、被駆動ギヤ174、175、176、177と、レバー178と、付勢部材の一例であるバネ179、180とを備える。切替機構170は、第1状態と、第2状態と、第3状態とに切替可能に構成されている。
【0063】
第1状態は、給送モータ101の駆動力を、給送ローラ25Aに伝達し、給送ローラ25B及びキャップ71の昇降機構に伝達しない状態である。第2状態は、給送モータ101の駆動力を、給送ローラ25Bに伝達し、給送ローラ25A及びキャップ71の昇降機構に伝達しない状態である。第3状態は、給送モータ101の駆動力を、キャップ71の昇降機構に伝達し、給送ローラ25A、25Bに伝達しない状態である。また、第1状態及び第2状態は、搬送モータ102の駆動力を、搬送ローラ60及び排出ローラ62に伝達し、ポンプ73に伝達しない状態である。第2状態は、搬送モータ102の駆動力を、搬送ローラ60、排出ローラ62、及びポンプ73の全てに伝達する状態である。
【0064】
スライド部材171は、左右方向9に延びる支軸(
図5において破線で示す)に支持された概ね円柱形状の部材である。また、スライド部材171は、支軸に沿って左右方向9にスライド可能に構成されている。さらに、スライド部材171は、その外面の左右方向9にずれた位置において、駆動ギヤ172、173を各々が独立して回転可能な状態で支持している。すなわち、スライド部材171及び駆動ギヤ172、173は、一体となって左右方向9にスライドする。
【0065】
駆動ギヤ172は、給送モータ101の回転駆動力が伝達されて回転する。駆動ギヤ172は、被駆動ギヤ174、175、176のうちの1つに噛み合う。より詳細には、駆動ギヤ172は、切替機構170が第1状態のときに、
図5(A)に示されるように被駆動ギヤ174に噛み合う。また、駆動ギヤ172は、切替機構170が第2状態のときに、
図5(B)に示されるように被駆動ギヤ175に噛み合う。さらに、駆動ギヤ172は、切替機構170が第3状態のときに、
図5(C)に示されるように被駆動ギヤ176に噛み合う。
【0066】
駆動ギヤ173は、搬送モータ102の回転駆動力が伝達されて回転する。駆動ギヤ173は、切替機構170が第1状態及び第2状態のときに、
図5(A)及び
図5(B)に示されるように被駆動ギヤ176との噛み合いが解除される。また、駆動ギヤ173は、切替機構170が第3状態のときに、
図5(C)に示されるように被駆動ギヤ176に噛み合う。
【0067】
被駆動ギヤ174は、給送ローラ25Aを回転させるギヤ列に噛み合う。すなわち、給送モータ101の回転駆動力は、駆動ギヤ172と被駆動ギヤ174とが噛み合うことによって、給送ローラ25Aに伝達される。また、給送モータ101の回転駆動力は、駆動ギヤ172と被駆動ギヤ174との噛み合いが解除されたことによって、給送ローラ25Aに伝達されない。
【0068】
被駆動ギヤ175は、給送ローラ25Bを回転させるギヤ列に噛み合う。すなわち、給送モータ101の回転駆動力は、駆動ギヤ172と被駆動ギヤ175とが噛み合うことによって、給送ローラ25Bに伝達される。また、給送モータ101の回転駆動力は、駆動ギヤ172と被駆動ギヤ175との噛み合いが解除されたことによって、給送ローラ25Bに伝達されない。
【0069】
被駆動ギヤ176は、キャップ71の昇降機構を駆動させるギヤ列に噛み合う。すなわち、給送モータ101の回転駆動力は、駆動ギヤ172と被駆動ギヤ176とが噛み合うことによって、キャップ71の昇降機構に伝達される。また、給送モータ101の回転駆動力は、駆動ギヤ172と被駆動ギヤ176との噛み合いが解除されたことによって、昇降機構に伝達されない。
【0070】
被駆動ギヤ177は、ポンプ73を駆動するギヤ列に噛み合う。すなわち、搬送モータ102の回転駆動力は、駆動ギヤ173と被駆動ギヤ177とが噛み合うことによって、ポンプ73に伝達される。また、搬送モータ102の回転駆動力は、駆動ギヤ173と被駆動ギヤ177との噛み合いが解除されたことによって、ポンプ73に伝達されない。一方、搬送モータ102の回転駆動力は、切替機構170を経由せずに搬送ローラ60及び排出ローラ62に伝達される。すなわち、搬送ローラ60及び排出ローラ62は、切替機構170の状態に拘わらず、搬送モータ102の回転駆動力によって回転する。
【0071】
レバー178は、スライド部材171の右方に隣接する位置において、支軸に支持されている。また、レバー178は、支軸に沿って左右方向9にスライドする。さらに、レバー178は、上方に突出している。そして、レバー178の先端は、ガイドレール43に設けられた開口43Aを通じて、キャリッジ23に当接し得る位置にまで到達している。レバー178は、キャリッジ23に接離されることによって左右方向9にスライドする。また、切替機構170は、レバー178を係止する複数の係止部を備える。そして、係止部に係止されたレバー178は、キャリッジ23に離間された後も、その位置に留まることができる。
【0072】
バネ179、180は、支軸に支持されている。バネ179は、その一端(左端)がプリンタ11のフレームと当接し、他端(右端)がスライド部材171の左端面に当接している。すなわち、バネ179は、スライド部材171及びスライド部材171に当接するレバー178を右向きに付勢する。バネ180は、その一端(右端)がプリンタ11のフレームに当接し、他端(左端)がレバー178の右端面に当接している。すなわち、バネ180は、レバー178及びレバー178に当接するスライド部材171を左向きに付勢する。さらに、バネ180の付勢力は、バネ179の付勢力より大きい。
【0073】
レバー178が第1係止部に係止されているとき、切替機構170は、第1状態である。そして、右向きに移動するキャリッジ23に押されたレバー178は、バネ180の付勢力に抗して右向きに移動し、第1係止部より右方に位置する第2係止部に係止される。これにより、スライド部材171は、バネ179の付勢力によって、レバー178の動きに追従して右向きに移動する。その結果、切替機構170は、
図5(A)に示される第1状態から、
図5(B)に示される第2状態に切り替えられる。すなわち、レバー178は、第1位置から第2位置へ向かうキャリッジ23に当接されて、切替機構170を第1状態から第2状態に切り替える。
【0074】
また、第2位置まで移動するキャリッジ23に押されたレバー178は、バネ180の付勢力に抗して右向きに移動し、第2係止部よりさらに右方に位置する第3係止部に係止される。これにより、スライド部材171は、バネ179の付勢力によって、レバー178の動きに追従して右向きに移動する。その結果、切替機構170は、
図5(A)に示される第1状態或いは
図5(B)に示される第2状態から、
図5(C)に示される第3状態に切り替えられる。すなわち、レバー178は、第2位置へ移動するキャリッジ23に当接されて、切替機構170を第3状態に切り替える。
【0075】
さらに、第2位置よりさらに右方に移動するキャリッジ23に押され、その後に左向きに移動するキャリッジ23に離間されたレバー178は、第3係止部による係止が解除される。これにより、スライド部材171及びレバー178は、バネ180の付勢力によって左向きに移動される。そして、レバー178は、第1係止部に係止される。その結果、切替機構170は、
図5(C)に示される第3状態から、
図5(A)に示される第1状態に切り替えられる。すなわち、レバー178は、第2位置から第1位置へ移動するキャリッジ23に接離されて、切替機構170を第3状態から第1状態に切り替える。
【0076】
すなわち、切替機構170の状態は、レバー178に対するキャリッジ23の接離によって切り替えられる。換言すれば、給送モータ101及び搬送モータ102の駆動力の伝達先は、キャリッジ23によって切り替えられる。なお、本実施形態に係る切替機構170の状態は、第3状態から第2状態に直接切り替えられず、前述のように、第3状態から第1状態に切り替え、さらに第1状態から第2状態に切り替える必要がある。
【0077】
[電源部110]
複合機10は、
図6に示されるように、電源部110を有する。電源部110は、電源プラグを通じて外部電源から供給された電力を、複合機10の各構成要素に供給する。より詳細には、電源部110は、外部電源から取得した電力を、各モータ101〜103及び記録ヘッド39に駆動電力(例えば、24〜26V)として出力し、コントローラ130に制御電力(例えば、5V)として出力する。
【0078】
また、電源部110は、コントローラ130から出力される電源信号に基づいて、駆動状態と休眠状態とに切り替えが可能である。より詳細には、コントローラ130は、HIGHレベルの電源信号(例えば、5V)を出力することによって、電源部110を休眠状態から駆動状態に切り替える。また、コントローラ130は、LOWレベルの電源信号(例えば、0V)を出力することによって、電源部110を駆動状態から休眠状態に切り替える。
【0079】
駆動状態とは、モータ101〜103及び記録ヘッド39に駆動電力を出力している状態である。換言すれば、駆動状態とは、モータ101〜103及び記録ヘッド39が動作可能な状態である。休眠状態とは、モータ101〜103及び記録ヘッド39に駆動電力を出力していない状態である。換言すれば、休眠状態とは、モータ101〜103及び記録ヘッド39が動作不能な状態である。一方図示は省略するが、電源部110は、駆動状態であるか休眠状態であるかに拘わらず、コントローラ130及び通信部50に制御電力を出力している。
【0080】
[コントローラ130]
コントローラ130は、
図6に示されるように、CPU131、ROM132、RAM133、EEPROM134、及びASIC135を備えており、これらは内部バス137によって接続されている。ROM132には、CPU131が各種動作を制御するためのプログラムなどが格納されている。RAM133は、CPU131が上記プログラムを実行する際に用いるデータや信号等を一時的に記録する記憶領域、或いはデータ処理の作業領域として使用される。EEPROM134には、電源オフ後も保持すべき設定情報が格納される。
【0081】
本実施形態において、EEPROM134は、後述するフラッシング処理を直前に実行した時刻(以下、「FLS実行時刻」と表記する。)を示す時刻情報を記憶する。コントローラ130は、フラッシング処理の実行時にシステムクロック(不図示)から時刻情報を取得し、取得した時刻情報をEEPROM134に記憶させる。また、コントローラ130は、EEPROM134に既に時刻情報が記憶されていることに応じて、既に記憶されている時刻情報を新たな時刻情報で上書きする。なお、時刻情報は、直前にフラッシング処理を実行した時刻に限定されず、後述する記録処理を直前に実行した時刻を示してもよい。
【0082】
ASIC135には、給送モータ101、搬送モータ102、及びキャリッジモータ103が接続されている。ASIC135は、各モータを回転させるための駆動信号を生成し、生成した駆動信号を各モータに出力する。各モータは、ASIC135からの駆動信号に従って正転駆動又は逆転駆動される。また、コントローラ130は、電源部110の駆動電圧を記録ヘッド39の振動素子に印加することによって、ノズル40からインク滴を吐出させる。
【0083】
また、ASIC135には、通信部50が接続されている。通信部50は、情報処理装置51と通信可能な通信インタフェースである。すなわち、コントローラ130は、通信部50を通じて情報処理装置51に各種情報を出力し、通信部50を通じて情報処理装置51から各種情報を受信する。通信部50は、例えば、Wi−Fi(Wi−Fi Allianceの登録商標)に従った通信手順で無線信号を送受信するものであってもよいし、LANケーブル或いはUSBケーブルが接続されるインタフェースであってもよい。なお、
図6において、情報処理装置51を点線の枠で囲むことによって、複合機10の構成要素と区別している。
【0084】
さらに、ASIC135には、レジストセンサ120、ロータリエンコーダ121、キャリッジセンサ38、メディアセンサ122、及びキャップセンサ123が接続されている。コントローラ130は、レジストセンサ120から出力される検出信号と、ロータリエンコーダ121から出力されるパルス信号とに基づいて、シート12の位置を検知する。また、コントローラ130は、キャリッジセンサ38から出力されるパルス信号に基づいて、キャリッジ23の位置を検知する。また、コントローラ130は、キャップセンサ123から出力される検出信号に基づいて、キャップ71の位置を検知する。
【0085】
さらに、コントローラ130は、メディアセンサ122から出力される検出信号に基づいて、搬送部によって搬送されたシート12を検知する。より詳細には、コントローラ130は、時間的に隣接する検出信号の信号レベルの変化量と、予め定められた閾値とを比較する。そして、コントローラ130は、信号レベルの変化量が閾値以上になったことに応じて、上下方向7においてメディアセンサ122と対向する位置に、シート12の先端が到達したことを検知する。
【0086】
[画像記録処理]
次に、
図7〜
図10を参照して、本実施形態の画像記録処理を説明する。複合機10は、通信部50を通じて情報処理装置51からコマンドを受信したことに応じて、画像記録処理を開始する。なお、画像記録処理の開始時点において、キャリッジ23は第2位置に位置し、キャップ71は被覆位置に位置し、切替機構170は第3状態であるものとする。以下の各処理は、ROM132に記憶されているプログラムをCPU131が読み出して実行してもよいし、コントローラ130に搭載されたハードウェア回路によって実現されてもよい。また、各処理の実行順序は、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜変更することができる。
【0087】
まず図示は省略するが、情報処理装置51は、例えば、複合機10に画像記録処理を実行させる指示をユーザから受け付けたことに応じて、複合機10に先行コマンドを送信する。先行コマンドは、後述する記録コマンドの送信を予告するコマンドである。次に、情報処理装置51は、先行コマンドを送信したことに応じて、ユーザによって指定された画像データをラスタデータに変換する。そして、情報処理装置51は、ラスタデータを生成したことに応じて、記録コマンドを複合機10に送信する。記録コマンドは、ラスタデータで示される画像をシートに記録させるコマンドである。
【0088】
コントローラ130は、通信部50を通じて情報処理装置51から先行コマンドを受信したことに応じて(S11:先行コマンド)、FLS条件決定処理を実行する(S12)。FLS条件決定処理は、フラッシング処理の実行条件を決定する処理である。より詳細には、FLS条件決定処理は、フラッシング処理で吐出すべきインク量を決定すると共に、当該インク量のインクを吐出するためのFLS電圧、FLS発数、CR速度、及びFLS回数を決定する処理である。
図8を参照して、FLS条件決定処理の詳細を説明する。
【0089】
なお、FLS電圧は、フラッシング処理において記録ヘッドに印加する駆動電圧である。FLS発数は、フラッシング処理で各ノズル40から吐出するインク滴の合計数である。CR速度は、フラッシング処理におけるキャリッジ23の移動速度である。FLS回数は、フラッシング処理の回数である。FLS電圧、FLS発数、CR速度、及びFLS回数は、フラッシング処理の実行条件の一例である。
【0090】
[FLS条件決定処理]
まず、コントローラ130は、現在時刻を示す時刻情報をシステムクロックから取得する。そして、コントローラ130は、EEPROM134に記憶された時刻情報で示されるFLS実行時刻と現在時刻との差を、フラッシング処理を直前に実行してから先行コマンドを受信するまでの経過時間Tとして算出する。この処理は、計測処理の一例である。但し、経過時間Tの計測方法は、前述の例に限定されない。そして、コントローラ130は、経過時間Tと、閾値時間T
1、T
2、T
3、T
4とを比較する(S21〜S24)。閾値時間T
1、T
2、T
3、T
4は、EEPROM134に予め記憶されている値であって、閾値時間T
1<T
2<T
3<T
4である。
【0091】
コントローラ130は、経過時間Tが閾値時間T
1未満であることに応じて(S21:Yes)、フラッシング処理で吐出するインク量を1500plに決定する(S25)。そして、コントローラ130は、1500plのインクを吐出するためのフラッシング処理の実行条件として、FLS電圧を24Vに決定し、FLS発数を50発に決定し、CR速度を21ipsに決定し、FLS回数を1回に決定する(S30〜S33)。
【0092】
また、コントローラ130は、経過時間Tが閾値時間T
1以上で且つ閾値時間T
2未満であることに応じて(S22:Yes)、インク量を2000plを決定する(S26)。そして、コントローラ130は、2000plのインクを吐出するためのフラッシング処理の実行条件として、FLS電圧を26Vに決定し、FLS発数を50発に決定し、CR速度を21ipsに決定し、FLS回数を1回に決定する(S34〜S37)。
【0093】
また、コントローラ130は、経過時間Tが閾値時間T
2以上で且つ閾値時間T
3未満であることに応じて(S23:Yes)、インク量を3000plに決定する(S27)。そして、コントローラ130は、3000plのインクを吐出するためのフラッシング処理の実行条件として、FLS電圧を26Vに決定し、FLS発数を80〜100発に決定し、CR速度を21ipsに決定し、FLS回数を1回に決定する(S38〜S41)。
【0094】
また、コントローラ130は、経過時間Tが閾値時間T
3以上で且つ閾値時間T
4未満であることに応じて(S24:Yes)、インク量を15000plに決定する(S28)。そして、コントローラ130は、15000plのインクを吐出するためのフラッシング処理の実行条件として、FLS電圧を26Vに決定し、FLS発数を400〜500発に決定し、CR速度を4ipsに決定し、FLS回数を1回に決定する(S42〜S45)。
【0095】
さらに、コントローラ130は、経過時間Tが閾値時間T
4以上であることに応じて(S24:No)、インク量を50000plに決定する(S29)。そして、コントローラ130は、50000plのインクを吐出するためのフラッシング処理の実行条件として、FLS電圧を26Vに決定し、FLS発数を1200〜1500発に決定し、CR速度を4ipsに決定し、FLS回数を3回に決定する(S46〜S49)。
【0096】
すなわち、コントローラ130は、直前にノズル40からインク滴が吐出されてからの経過時間Tが長いほど、インク量を多く決定する。1500pl〜2000plの間のインク量は第1閾値の一例であり、2000pl〜3000plの間のインク量は第2閾値の一例であり、3000pl〜15000plの間のインク量は第3閾値の一例であり、15000pl〜50000plの間のインク量は第4閾値の一例である。ステップS21〜S45の処理は、インク量決定処理の一例である。
【0097】
なお、インク量を決定するためのパラメータは、経過時間Tに限定されない。他の例として、コントローラ130は、記録ヘッド39の周辺の温度が低いほど、インク量を多く決定してもよい。さらに他の例として、コントローラ130は、記録ヘッド39の周辺の湿度が低いほど、インク量を多く決定してもよい。記録ヘッド39の周囲の温度及び湿度は、例えば、キャリッジ23等に搭載されたセンサによって検出すればよい。また、インク量を決定するためのパラメータは1つに限定されず、前述の複数のパラメータを組み合わせてもよい。
【0098】
すなわち、コントローラ130は、ステップS21〜S29で決定したインク量が多いほど、FLS電圧を高くし、FLS発数を多くし、CR速度を遅くし、且つFLS回数を多くする。但し、コントローラ130は、決定したインク量の増加に伴って、まずFLS電圧を高くし、次にFLS発数を多くし、次にCR速度を遅くし、次にFLS回数を多くする。ステップS30〜S49の処理は、条件決定処理の一例である。
【0099】
より詳細には、コントローラ130は、決定したインク量が第1閾値未満である場合にFLS電圧を24Vに決定し、決定したインク量が第1閾値以上である場合にFLS電圧を26Vに決定する。24Vは予め定められた最低電圧の一例であり、26Vは予め定められた最大電圧の一例である。また、本実施形態の最低電圧は、後述する記録処理の実行時における駆動電圧と一致する。
【0100】
なお、本実施形態では、インク量が第1閾値未満のときにFLS電圧を最低電圧24Vに固定し、インク量が第1閾値上のときにFLS電圧を最大電圧26Vに固定する例を説明したが、FLS電圧の決定方法はこれに限定されない。コントローラ130は、例えば、決定したインク量が第1閾値未満である場合に、最低電圧及び最大電圧の範囲内において、インク量が多いほどFLS電圧を高く決定してもよい。
【0101】
また、コントローラ130は、決定したインク量が第2閾値未満である場合にFLS発数を50発に決定し、決定したインク量が第2閾値以上である場合にインク量が多いほどFLS発数を多くする。なお、本実施形態では、インク量が第2閾値未満のときにFLS発数を50発に固定する例を説明したが、FLS発数の決定方法はこれに限定されない。コントローラ130は、例えば、決定したインク量が第2閾値未満である場合に、予め定められた制限範囲内において、インク量が多い程インク滴の数を多く決定してもよい。一方、コントローラ130は、決定したインク量が第2閾値
以上である場合に、前述の制限範囲
の上限を超えて、インク量が多いほどインク滴の数を多く決定してもよい。
【0102】
制限範囲は、例えば、フラッシング処理の他の実行条件(すなわち、FLS電圧、CR速度、FLS回数)が同一である場合において、フラッシング処理の実行時間が実質的に同一となり、且つ必要なインク量を吐出することが可能なFLS発数の範囲を指す。すなわち、FLS発数が制限範囲内でばらついたとしても、フラッシング処理の実行時間は実質的に変化せず、且つ必要なインク量が吐出されるものとする。一例として、制限範囲は、インク滴の基準数(例えば、50発)から基準数の10%を増減させた範囲(例えば、45発〜55発)である。すなわち、制限範囲内であれば、S35で決定されるFLS発数(例えば、45発)が、S31で決定されるFLS発数(例えば、50発)より少なくてもよい。
【0103】
ここで、記録ヘッド39内のインクの粘度は、経過時間Tが閾値時間T
1以上で且つ閾値時間T
2未満のときに(S22:Yes)、経過時間Tが閾値時間T
1未満のとき(S21:Yes)より高い。また、S26で決定されたインク量(2000pl)は、S25で決定されたインク量(1500pl)より多い。すなわち、S31、S35でFLS発数を前述のように決定したとすると、経過時間Tが閾値時間T
1以上で且つ閾値時間T
2未満のときのフラッシング処理では、経過時間Tが閾値時間T
1未満のときのフラッシング処理より、多くのインクを少ないFLS発数で吐出する必要がある。
【0104】
しかしながら、この差は、FLS電圧を2V高くすることによって吸収することができる。まず、約1.3(Pa・s)増粘したインクをFLS電圧26Vで吐出させるときと、増粘前のインクをFLS電圧24Vで吐出させるときとでは、1発当たりのインク量がほぼ同じになる。また、インクの粘度が1.3(Pa・s)高くなる場合とは、記録ヘッド39がインクを吐出しない時間(すなわち、経過時間T)が1年以上となる場合である。一方、前述の閾値時間T
1、T
2は、1年よりも十分に短いので(例えば、T
1=5min,T
2=60min)、制限範囲内におけるFLS発数のばらつきは、FLS電圧の増減によって十分に補われる。
【0105】
また、コントローラ130は、決定したインク量が第2閾値以上である場合において、第1ノズルから吐出するインク滴の数を、第2ノズルから吐出するインク滴の数より多く決定してもよい。さらに、コントローラ130は、決定したインク量が多いほど、第1ノズルから吐出するインク滴の数と、第2ノズルから吐出するインク滴の数との差を大きくしてもよい。一方、コントローラ130は、決定したインク量が第2閾値未満である場合において、第1ノズルから吐出するインク滴の数と、第2ノズルから吐出するインク滴の数とを同一に決定してもよい。
【0106】
より詳細には、コントローラ130は、ステップS39において、ブラックインク及びマゼンタインクのFLS発数を80発に決定し、シアンインク及びイエローインクのFLS発数を100発に決定してもよい。また、コントローラ130は、ステップS43において、ブラックインク及びマゼンタインクのFLS発数を400発に決定し、シアンインク及びイエローインクのFLS発数を500発に決定してもよい。さらに、コントローラ130は、ステップS47において、ブラックインク及びマゼンタインクのFLS発数を1200発に決定し、シアンインク及びイエローインクのFLS発数を1500発に決定してもよい。
【0107】
また、コントローラ130は、決定したインク量が第3閾値未満の場合にCR速度を21ipsに決定し、決定したインク量が第3閾値以上である場合にCR速度を4ipsに決定する。21ipsは第1速度の一例であり、4ipsは第1速度より遅い第2速度の一例である。さらに、コントローラ130は、決定したインク量が第4閾値未満の場合にFLS回数を1回に決定し、決定したインク量が第4閾値以上である場合にFLS回数を3回に決定する。FLS回数=1回はα回の一例であり、FLS回数=3回はα回より多いβ回の一例である。
【0108】
図7に戻って、コントローラ130は、第1準備処理を実行する(S13)。すなわち、先行コマンドは、第1準備処理の実行を指示するコマンドと言い換えることができる。第1準備処理は、プリンタ11を記録処理の実行が可能な状態にするための処理である。「記録処理の実行が可能な状態」とは、例えば、所定以上の品質の画像を記録することが可能な状態と言い換えることができる。第1準備処理は、例えば
図9に示されるように、昇圧処理(S51)と、アンキャップ処理(S52)と、第2移動処理(S53)と、クック処理(S54、S55)とを含む。
【0109】
昇圧処理(S51)は、電源部110がプリンタ11の各構成要素へ供給する駆動電圧を、FLS条件決定処理で決定したFLS電圧V
Fまで昇圧させる処理である。電源部110は、例えば、外部電源から供給される電源電圧を、不図示のレギュレータ回路によってFLS電圧V
Fまで昇圧する。電源部110を昇圧するとは、例えば、不図示のコンデンサ等の蓄電素子に電荷を蓄えることを指す。さらに、レギュレータ回路は、FLS電圧V
Fに相当する電荷が蓄電素子に蓄えられた後において、駆動電圧を維持するための電圧を、継続して蓄電素子に印加し続ける。
【0110】
但し、駆動電圧を急激に昇圧すると、昇圧中の駆動電圧が不安定になる可能性がある。そこで、コントローラ130は、例えばフィードバック制御によって、駆動電圧をチェック電圧V
1まで昇圧する。次に、コントローラ130は、駆動電圧がチェック電圧V
1に達したことに応じて、フィードバック制御によって、駆動電圧をチェック電圧V
2まで昇圧する。このように、複数の昇圧ステップを繰り返して徐々に昇圧する。すなわち、V
1<V
2<・・・<V
Fである。これにより、昇圧中の駆動電圧の変動が抑制される。
【0111】
なお、チェック電圧V
1、V
2、・・・は、FLS電圧V
Fに近づくほど、細かく設定される。一例として、FLS電圧V
F=24Vの場合、チェック電圧は、20V、22V、23V、23.5V、23.75Vに設定される。他の例として、FLS電圧V
F=26Vの場合、チェック電圧は、20V、24V、25V、25.5V、25.75Vに設定される。そして、昇圧処理の処理時間の大部分は、駆動電圧がFLS電圧V
Fに近づいてからのフィードバック制御で示されるので、FLS電圧V
Fが24V、26Vのどちらであっても、昇圧処理の実行時間に大きな差は生じない。
【0112】
また、コントローラ130は、電源部110に記録ヘッド39へ駆動電圧を印加させた状態で、昇圧処理を実行してもよい。「記録ヘッド39に駆動電圧を印加させた状態」とは、例えば、電源部110から記録ヘッド39に至る回路のスイッチ素子を導通状態とすることによって、昇圧中の駆動電圧が記録ヘッド39の振動素子に印加される状態を指す。換言すれば、昇圧中の駆動電圧が24Vに達した場合に、ノズル40からインク滴が吐出される状態と表現することもできる。これにより、以下の理由によって、昇圧中の駆動電圧の変動をさらに抑制することができる。
【0113】
まず、一般的に、回路に印加される電圧が変動した場合において、電圧波形の立ち上がり時間及び立ち下がり時間は、当該回路内における抵抗成分が大きいほど長くなる。すなわち、抵抗成分が大きいほど、単位時間当たりの電圧の変化が少なくなる。そして、電源部110から記録ヘッド39の振動素子に至る回路には、スイッチ素子を構成するトランジスタ、駆動信号を出力する出力部等の抵抗成分が存在する。そこで、電源部110から記録ヘッド39までを1つの回路とすれば、電源部110と記録ヘッド39との間を遮断して電源部110単体の回路とする場合と比較して、昇圧中の駆動電圧の変動を減衰させることができる。
【0114】
また、振動素子を有する記録ヘッド39の制御回路は、所定の静電容量を有するコンデンサとみなすことができる。そして、このコンデンサは、印加される駆動電圧の変動に伴って充電及び放電を繰り返す。その結果、電圧変動のうちの高周波数成分を除去することができるので、昇圧中の駆動電圧の変動をさらに減衰させることができる。
【0115】
さらに、昇圧処理(S51)は、典型的には、複合機10の電源が投入されたタイミング、或いは電源部110が休眠状態から駆動状態に切り替えられたタイミングで実行される。すなわち、既に電源部110が供給する駆動電圧が既にFLS電圧V
Fに達している場合は、昇圧処理(S51)が省略されることがある。
【0116】
アンキャップ処理(S52)は、キャップ71を被覆位置から離間位置へ移動させる処理である。すなわち、コントローラ130は、給送モータ101を予め定められた回転量だけ回転させる。そして、給送モータ101の回転駆動力が第3状態の切替機構170を通じて昇降機構に伝達されることによって、キャップ71が被覆位置から離間位置へ移動される。また、キャップセンサ123から出力される検出信号は、キャップ71が離間位置に到達する前に、換言すれば、アンキャップ処理の実行中にハイレベル信号からローレベル信号に変化する。
【0117】
第2移動処理(S53)は、切替機構170を第3状態から第1状態に切り替える処理と、キャップ71に離間されたキャリッジ23を第2位置から第1位置へ向けて移動させる処理とを含む。すなわち、コントローラ130は、第2位置のキャリッジ23を右向きに移動させ、その後に第1位置へ向けて左向きに移動させる。コントローラ130は、ステップS53において、
図10(A)に示されるように、インク受け部75より左方の位置に、キャリッジ23を到達させる。また、コントローラ130は、記録ヘッド39のノズル40に形成されたインクのメニスカスが破壊されるのを抑制するために、ステップS53の開始時点において、キャリッジ23を低速で左向きに移動させてから、ステップS53の処理を実行してもよい。
【0118】
クック処理(S54、S55)は、給送モータ101及び搬送モータ102の少なくとも一方を正逆回転させる処理である。より詳細には、コントローラ130は、切替機構170が第3状態のときに、給送モータ101及び搬送モータ102の両方を正逆回転させる(S54)。これにより、駆動ギヤ172と被駆動ギヤ176との間の面圧、及び駆動ギヤ173と被駆動ギヤ177との間の面圧が解除されるので、各ギヤの噛み合いがスムーズに解除される。また、コントローラ130は、切替機構170が第1状態に切り替えられる際に、給送モータ101を正逆回転させる(S55)。これにより、駆動ギヤ172と被駆動ギヤ174とをスムーズに噛み合わせることができる。なお、クック処理は、ステップS54、S55の一方のみであってもよい。
【0119】
なお、コントローラ130は、
図9に示されるように、先行コマンドを受信したタイミングでステップS51、S52の処理を同時に開始する。すなわち、コントローラ130は、ステップS51、S52の処理を並行して実行する。また、コントローラ130は、ステップS53、S54を同時に開始する。すなわち、コントローラ130は、ステップS53〜S55の処理を並行して実行する。但し、各ステップS51〜S55の実行タイミングは
図9の例に限定されない。
【0120】
さらに、コントローラ130は、キャップセンサ123の検出信号がハイレベル信号からローレベル信号に変化したタイミングでステップS53の処理を開始する。すなわち、コントローラ130は、ステップS51、S52の開始より後にステップS53を開始する。より詳細には、コントローラ130は、ステップS53のうち、キャリッジ23を低速で左向きに移動させる処理と、キャリッジ23を第2位置より右方に移動させる処理とを、ステップS52と並行して実行する。一方、コントローラ130は、ステップS53のうち、キャリッジ23を第1位置へ向けて左向きに移動させる処理を、ステップS52の終了後に実行する。
【0121】
典型的には、昇圧処理は、第1準備処理に含まれる複数の処理(S51〜S55)のなかで実行時間が最も長い。そこで、コントローラ130は、
図9に示されるように、ステップS51の処理と、ステップS52〜S55の各処理とを並行して実行する。換言すれば、コントローラ130は、ステップS51の処理を実行中の所定のタイミングで、ステップS52〜S55の各処理を実行する。さらに換言すれば、ステップS52〜S55の各処理は、ステップS51の処理に対して並行して実行される。
【0122】
次に
図7に戻って、コントローラ130は、通信部50を通じて情報処理装置51から記録コマンドを受信したことに応じて(S11:記録コマンド)、第1準備処理が終了したか否かを判断する(S14)。すなわち、記録コマンドの受信タイミングは、
図9に示されるように第1準備処理の終了前の場合もあるし、第1準備処理の終了後の場合もある。コントローラ130は、第1準備処理が未だ終了していないと判断したことに応じて(S14:No)、第1準備処理が終了するまで以降の処理の実行を待機する。
【0123】
そして、コントローラ130は、第1準備処理が終了したと判断したことに応じて(S14:Yes)、第2準備処理を実行する(S15)。第2準備処理は、プリンタ11を記録処理の実行が可能な状態にするための処理のうち、第1準備処理に含まれない処理である。第2準備処理は、例えば
図9に示されるように、フラッシング処理(S61)と、第1移動処理(S62)と、降圧処理(S63)と、給送処理(S64)と、頭出し処理(S65)とを含む。
【0124】
フラッシング処理(S61)は、FLS条件決定処理で決定した実行条件に従って、インク受け部75に向けて記録ヘッド39にインク滴を吐出させる処理である。すなわち、コントローラ130は、ステップS61において、キャリッジ23をCR速度で移動させる過程で、FLS電圧V
Fを振動素子に印加して、FLS発数のインク滴を記録ヘッド39に吐出させるフラッシング処理を、FLS回数だけ実行する。
【0125】
まず、コントローラ130は、1回目のフラッシング処理として、
図10(A)に示される位置から右方にキャリッジ23を移動させ、ノズル40毎に予め定められたタイミングで各ノズル40からインク滴を吐出させる。なお、キャリッジ23は、フラッシング処理の期間中において、停止した状態からCR速度まで加速し、CR速度で定速で移動する。すなわち、FLS条件決定処理で決定したCR速度は、フラッシング処理におけるキャリッジ23の最高速度或いは目標速度を指す。
【0126】
インク滴の吐出タイミングは、案内板75B、75C上の目標位置にインク滴が着弾するように、予め定められている。各ノズル40の吐出タイミングは、例えば、キャリッジセンサ38から出力されるパルス信号によって特定される。本実施形態では、例えば
図10(B)に破線で示されるように、ブラックインクを吐出する右端のノズル列と、シアンインクを吐出する右端のノズル列とから最初のタイミングでインク滴が吐出され、インク滴が吐出されたノズル列の左隣のノズル列から次のタイミングでインク滴が吐出される。すなわち、コントローラ130は、各ノズル40から主走査方向の配列順(すなわち、右から左の順)にインク滴を吐出させる。
【0127】
また、FLS回数=1回の場合は、1回のフラッシング処理において、FLS発数のインク滴が各ノズル40から吐出される。一方、FLS回数=3回の場合は、1回のフラッシング処理において、FLS発数の1/3のインク滴が各ノズル40から吐出される。より詳細には、コントローラ130は、1回のフラッシング処理において、(FLS発数/FLS回数)のインク滴を、各ノズル40に吐出させる。すなわち、コントローラ130は、ステップS61で複数回のフラッシング処理を実行する場合に、FLS発数のインク滴を複数のフラッシング処理で分散して各ノズル40に吐出させる。
【0128】
次に、FLS回数=3回の場合、コントローラ130は、1回目のフラッシング処理で全てのノズル40からインク滴を吐出させた後に、
図10(C)に示される位置にキャリッジ23を停止させる。そして、コントローラ130は、2回目のフラッシング処理として、
図10(C)に示される位置から左方にキャリッジ23を移動させ、ノズル40毎に予め定められたタイミングで各ノズル40からインク滴を吐出させる。すなわち、1回目のフラッシング処理と、2回目のフラッシング処理とは、キャリッジ23の移動向き(左向き)と、各ノズル40にインク滴を吐出せる順序(すなわち、左から右の順)とが相違する。
【0129】
さらに、コントローラ130は、2回目のフラッシング処理が終了したことに応じて、3回目のフラッシング処理として、1回目のフラッシング処理と同様の処理を実行する。すなわち、FLS条件決定処理で決定したFLS回数に拘わらず、コントローラ130は、最後のフラッシング処理において、シート対向領域に近づく向き(すなわち、右向き)にキャリッジ23を移動させる。
【0130】
なお、コントローラ130は、1回目のフラッシング処理の前に、非吐出フラッシング処理をさらに実行してもよい。非吐出フラッシング処理とは、ノズル40からインク滴が吐出されない程度に振動素子を振動させる処理である。非吐出フラッシング処理は、昇圧処理を終了した後の任意のタイミングで実行されてもよい。すなわち、非吐出フラッシング処理は、記録コマンドを受信する前に開始されてもよい。また、非吐出フラッシング処理の実行時間は、例えば、経過時間Tが長いほど長くしてもよい。これにより、フラッシング処理において、ノズル40からインク滴が吐出されやすくなる。
【0131】
第1移動処理(S62)は、キャリッジ23を検出位置に移動させる処理である。検出位置とは、シート対向領域のうち、給送トレイ20A、20Bが支持可能な全てのサイズ(例えば、A4、B4、L版など)のシート12が通過する位置である。主走査方向におけるシート12の中央が位置決めされた状態で給送トレイ20A、20Bに支持されている場合、検出位置は、主走査方向におけるシート対向領域の中央であってもよい。
【0132】
コントローラ130は、FLS回数=1回のときの1回目のフラッシング処理において、或いはFLS回数=3回のときの3回目のフラッシング処理において、全てのノズル40からインク滴が吐出されたことに応じて、移動中のキャリッジ23を停止させずに検出位置に到達させる。一例として、コントローラ130は、CR速度=21ipsでフラッシング処理を実行した場合に、キャリッジ23の速度を変更することなく第1移動処理を実行する。他の例として、コントローラ130は、CR速度=4ipsでフラッシング処理を実行した場合に、キャリッジ23を14ipsに加速して第1移動処理を実行する。但し、コントローラ130は、CR速度=21ips或いはCR速度=4ipsでキャリッジ23を検出位置まで移動させてもよい。
【0133】
降圧処理(S63)は、FLS条件決定処理で決定したFLS電圧から最低電圧に降圧する処理である。すなわち、コントローラ130は、ステップS51で駆動電圧を最低電圧より高い電圧に昇圧した場合に、降圧処理を実行する。一方、コントローラ130は、ステップS51で駆動電圧を最低電圧に昇圧した場合に、降圧処理の実行をスキップする。コントローラ130は、蓄電素子に対する電圧の印加をレギュレータ回路に停止させる。これにより、蓄電素子に蓄えられた電荷が自然放電される。そして、コントローラ130は、蓄電素子に蓄えられた電荷が最低電圧に達したことに応じて、駆動電圧を最低電圧に維持するための電圧を、蓄電素子に対してレギュレータ回路に継続して印加させる。
【0134】
給送処理(S64)は、給送トレイ20Aに支持されたシート12を、搬送ローラ部54に到達する位置まで給送部15Aに給送させる処理である。この給送処理は、シート12の給送元として給送トレイ20Aを記録コマンドが示す場合に実行される。コントローラ130は、給送モータ101を正転させ、レジストセンサ120の検出信号がローレベル信号からハイレベル信号に変化してから予め定められた回転量だけさらに正転させる。そして、給送モータ101の回転駆動力が第1状態の切替機構170を通じて給送ローラ25Aに伝達されることによって、給送トレイ20Aに支持されたシートが搬送路65に給送される。
【0135】
頭出し処理(S65)は、給送処理によって搬送ローラ部54に到達されたシート12を、最初に画像が記録される領域(以下、「記録領域」と表記することがある。)が記録ヘッド39に対面し得る位置まで、搬送部に搬送向き16に搬送させる処理である。シート12上の最初の記録領域は、記録コマンドに示されている。コントローラ130は、搬送モータ102を正転させることによって、メディアセンサ122によってシート12の先端を検知し、さらに記録コマンドに示される最初の記録領域が記録ヘッド39に対面するまで、搬送ローラ部54に到達されたシート12を搬送部に搬送させる。
【0136】
なお、第2準備処理に含まれる各処理(S61〜S65)は、第1準備処理に含まれる複数の処理の少なくとも一部が終了した後でなければ、開始することができない。フラッシング処理は、昇圧処理、アンキャップ処理、及び第2移動処理が終了した後でなければ開始できず、クック処理が終了していなくても開始できる。一方、給送処理は、クック処理が終了した後でなければ開始できず、昇圧処理及び第2移動処理が終了していなくても開始できる。また、第1移動処理は、フラッシング処理が終了した後でなければ開始できない。さらに、頭出し処理は、給送処理及び第1移動処理が終了した後でなければ開始できない。
【0137】
すなわち、コントローラ130は、記録コマンドを受信し且つ昇圧処理、アンキャップ処理、及び第2移動処理が終了したことに応じて(S11:記録コマンド&S14:Yes)、フラッシング処理を開始する。そして、コントローラ130は、フラッシング処理が終了したことに応じて、第1移動処理及び降圧処理を開始する。すなわち、コントローラ130は、第1移動処理及び降圧処理を並行して実行する。また、コントローラ130は、記録コマンドを受信し且つクック処理が終了したことに応じて(S11:記録コマンド&S14:Yes)、給送処理を開始する。そして、コントローラ130は、給送処理及び第1移動処理が終了したことに応じて、頭出し処理を開始する。
【0138】
また図示は省略するが、シート12の給送元として給送トレイ20Bを記録コマンドが示す場合、コントローラ130は、フラッシング処理が終了したことに応じて、切替機構170を第1状態から第2状態に切り替える。すなわち、コントローラ130は、フラッシング処理で移動中のキャリッジ23をさらに右向きに移動させて、第1係止部に係止されたレバー178を第2係止部に係止させる。そして、コントローラ130は、切替機構170を第2状態に切り替えたことに応じて、キャリッジ23を検出位置に移動させる。さらに、コントローラ130は、切替機構170を第2状態に切り替えたことに応じて、給送トレイ20Bに支持されたシート12を給送する給送処理を開始する。
【0139】
再び
図7に戻って、コントローラ130は、第2準備処理に含まれる全ての処理が終了したことに応じて、受信した記録コマンドに従って記録処理を実行する(S16〜S19)。記録処理は、例えば、交互に実行される吐出処理(S16)及び搬送処理(S18)と、排出処理(S19)とを含む。吐出処理(S16)は、記録ヘッド39に対面されたシート12の記録領域に対して、記録ヘッド39にインク滴を吐出させる処理である。搬送処理(S18)は、搬送向き16に沿う所定の搬送幅だけシート12を搬送部に搬送させる処理である。排出処理(S19)は、画像が記録されたシート12を排出ローラ部55に排出トレイ21へ排出させる処理である。
【0140】
すなわち、コントローラ130は、キャリッジ23をシート対向領域の一端から他端に移動させ、記録コマンドで示されるタイミングで記録ヘッド39にインク滴を吐出させる(S16)。次に、コントローラ130は、次の記録領域に記録すべき画像が存在することに応じて(S17:No)、次の記録領域が記録ヘッド39に対面される位置まで、搬送部にシート12を搬送させる(S18)。コントローラ130は、全ての記録領域に画像を記録するまで(S17:No)、ステップS16〜S18の処理を繰り返し実行する。コントローラ130は、全ての記録領域に画像を記録したことに応じて(S17:Yes)、排出ローラ部55にシート12を排出トレイ21へ排出させる(S19)。
【0141】
また図示は省略するが、コントローラ130は、記録処理(S16〜S19)が終了してから所定の時間が経過したことに応じて、キャリッジ23を第2位置に移動させ、切替機構170を第3状態に変化させ、キャップ71を被覆位置に移動させる。さらに、コントローラ130は、キャップ71を被覆位置に移動させてから所定の時間が経過したことに応じて、電源部110を駆動状態から休眠状態に切り替え、所謂ディスチャージフラッシングを実行する。ディスチャージフラッシングは、蓄電素子に対する電圧の印加をレギュレータ回路に停止させ、且つ駆動電圧を印加して振動素子を振動させる処理である。これにより、蓄電素子に蓄電された電荷が瞬時に放出される。また、振動素子の振動によってノズル40からインク滴が吐出されたとしても、当該インクはキャップ71内に着弾するので、シート対向領域の汚染を抑制できる。
【0142】
[本実施形態の作用効果]
単位時間当たりにノズル40から吐出可能なインクの量は、駆動電圧が高いほど多くなる。そこで上記構成のように、吐出すべきインク量が第1閾値以上の場合に、第1閾値未満の場合よりFLS電圧を高くする。ここで、FLS電圧の増減は、FLS発数、CR速度、FLS回数の増減と比較して、準備処理(S13、S15)の実行時間に与える影響が少ない。そこで、フラッシング処理の実行条件である複数のパラメータのうち、FLS電圧をまず増減させることによって、フラッシング処理の実行時間が長くなることを抑制しつつ、画像記録品質を維持するのに必要なインクを吐出させることができる。
【0143】
一方、駆動電圧には上限値が定められているので、吐出すべきインク量が第2閾値以上の場合に、第2閾値未満の場合より吐出するインク滴の数を多くする。また、インク受け部に対向する領域におけるキャリッジの移動速度を、吐出すべきインク量が第3閾値未満の場合に、第3閾値以上の場合より速くする。さらに、インク受け部に対向する領域においてキャリッジを移動させる回数を、吐出すべきインク量が第4閾値未満の場合に、第4閾値以上の場合より少なくする。これにより、フラッシング処理で吐出すべきインク量が多い場合でも、画像記録品質を維持するのに必要なインクを、確実に吐出させることができる。
【0144】
また、乾燥に伴う粘度の変化は、インクの組成等によって異なる。そのため、同一の駆動電圧で各ノズル40からインク滴を吐出した場合、粘度が高いインクほど1滴当たりのインク量が少なくなる傾向がある。そこで上記構成のように、第1ノズル及び第2ノズルでFLS発数を異ならせることにより、相対的に粘度の高いインクの吐出量が確保できると共に、相対的に粘度の低いインクが必要以上に吐出されることが抑制される。但し、第1ノズル及び第2ノズルからの吐出量を調整する方法は、FLS発数に限定されず、FLS電圧であってもよい。すなわち、コントローラ130は、決定したインク量が第1閾値以上の場合に、第1ノズルのFLS電圧を、第2ノズルのFLS電圧より高くしてもよい。
【0145】
なお、決定したインク量が第1閾値未満である場合のFLS電圧は、最低電圧に固定されてもよいし、インク量に応じて増減されてもよい。また、決定したインク量が第2閾値未満である場合のFLS発数は、50発に固定されてもよいし、前述の制限範囲内においてインク量に応じて増減させてもよい。これにより、吐出すべきインク量が少ない場合において、フラッシング処理の実行時間が長くなることを抑制できると共に、必要以上のインクが吐出されることが抑制される。
【0146】
また、FLS回数の組み合わせはα=1、β=3に限定されず、例えば、α=2、β=4であってもよい。この場合の1回目のフラッシング処理は、第2移動処理で左方に移動中のキャリッジ23に実行させてもよい。すなわち、コントローラ130は、第2移動処理の実行中に昇圧処理及び非吐出フラッシングを終了させ、且つキャリッジ23が所定の位置に到達したタイミングで1回目のフラッシング処理を実行してもよい。さらに、α≧2である場合のフラッシング処理において、コントローラ130は、FLS条件決定処理で決定したインク量のインクを分散して記録ヘッド39に吐出させればよい。
【0147】
また、記録ヘッド39へ駆動電圧を印加した状態の電源部110を昇圧すると、昇圧時の駆動電圧の変動が抑制される。これにより、昇圧ステップの数を削減しても駆動電圧がFLS電圧V
Fを超えるのを抑制できる。その結果、昇圧処理の実行時間が短縮されるので、第1準備処理全体の実行時間が短縮される。さらに、駆動電圧がFLS電圧V
Fを超えて記録ヘッド39からインクが吐出される可能性が低減されるので、昇圧処理及び第2移動処理を並行して実行しても、シート対向領域でのインクの誤吐出が抑制される。なお、昇圧処理の他の例として、コントローラ130は、電源部110から記録ヘッド39に至る回路のスイッチ素子を遮断状態にして、昇圧処理を実行してもよい。
【0148】
また、上記の実施形態に係る降圧処理では、蓄電素子の自然放電によって駆動電圧を降圧させるので、降圧処理と第1移動処理とを並行して実行したとしても、シート対向領域にインクが誤吐出されるのを抑制できる。なお、降圧処理の具体例は前述の例に限定されず、電源部110を駆動状態から休眠状態に切り替えるときのように、ディスチャージフラッシングによって駆動電圧を降圧させてもよい。
【0149】
また、上記の実施形態によれば、キャップ71及びキャリッジ23の移動中に駆動電圧が昇圧されるので、アンキャップ処理と、第2移動処理と、昇圧処理とを順番に実行する場合と比較して、第1準備処理の実行時間が短縮される。このように、第1準備処理に含まれるアンキャップ処理、第2移動処理、及び昇圧処理を適切なタイミングで実行することによって、FPOTをさらに短縮できる。
【0150】
また、上記の実施形態によれば、先行コマンドをトリガとして第1準備処理が実行されるので、記録コマンドを受信してから第1準備処理を実行する場合と比較してFPOTを短縮することができる。また、第1準備処理において、昇圧処理に対して、アンキャップ処理、第2移動処理、クック処理を並行して実行することにより、各処理を順番に実行する場合と比較して、第1準備処理の実行時間を短縮することができる。
【0151】
一方、上記の実施形態によれば、記録コマンドを受信した後にフラッシング処理が実行されるので、フラッシング処理が終了してから記録処理が開始されるまでの待機時間を短くすることができる。すなわち、ノズル内のインクが乾燥することによる画像記録品質の低下を抑制することができる。このように、第1準備処理及び第2準備処理を適切なタイミングで実行することによって、FPOTを短縮できると共に、画像記録品質の低下を抑制できる。
【0152】
また、上記の実施形態では、キャリッジ23が主走査方向に移動する過程において記録ヘッド39にインク滴を吐出させる例を説明した。しかしながら、本発明の記録ヘッドは、これに限定されず、例えば、シート対向領域の全域にノズルが配列された所謂ラインヘッドであってもよい。