(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで析出型耐熱Ni基合金にバッチ式の焼鈍ではなく、高温・長時間での連続光輝焼鈍(Continuous Bright Annealing)を施したとしても、結晶粒度は大きくなる。しかし、連続焼鈍にて高温・長時間の処理を行うためには、通常、低速度で処理する必要があるため、必然的に冷却速度が遅くなり、その結果、析出物が生じやすくなる。析出物が生じると硬くなるため加工し難い。
例えば、焼鈍後、加工し、その後、時効処理を施して析出物を生じさせて硬度を高めることで最終製品を得る場合があるが、このような処理が極めて困難となってしまう。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明の目的は、連続焼鈍法によって結晶粒径を大きく成長させることができる程度の高温・長時間の熱処理を施しても、焼鈍後に、析出物の発生が抑制されていて加工しやすい析出型耐熱Ni基合金が得られる、析出型耐熱Ni基合金の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)〜(3)である。
(1)Ni基合金を1000〜1200℃の温度で5〜60分保持した後、0.3〜10℃/秒の冷却速度で室温まで冷却する第1工程と、
その後、1000〜1200℃の温度で0.5〜10分保持した後、3〜40℃/秒の冷却速度で室温まで冷却する第2工程と、
を有し、前記第2工程の冷却速度は前記第1工程の冷却速度よりも早く、かつ、前記第2工程の保持時間は前記第1工程の保持時間よりも短いことを特徴とする、析出型耐熱Ni基合金の製造方法。
(2)連続焼鈍炉で行う、上記(1)に記載の析出型耐熱Ni基合金の製造方法。
(3)前記Ni基合金が帯鋼である、上記(1)又は(2)に記載の析出型耐熱Ni基合金の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、連続焼鈍法によって結晶粒径を大きく成長させることができる程度の高温・長時間の熱処理を施しても、焼鈍後に、析出物の発生が抑制されていて加工しやすい析出型耐熱Ni基合金が得られる、析出型耐熱Ni基合金の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、第1工程と第2工程を含む。また、第1工程と第2工程は連続している。
【0009】
<第1工程>
第1工程について説明する。第1工程では、初めに、Ni基合金を用意する。
Ni基合金はNiをベースとして、Cr、Ti、Al、Nb等を含有する合金である。
Ni基合金はCr、Ti、Al、Nb等がNiと結合することで硬度が高まる、従来公知の析出型耐熱Ni基合金を得るために用いる材料であることが好ましい。
【0010】
Ni基合金としては、例えば、C:0.02〜0.10質量%、Si:0.15質量%以下、Mn:0.10質量%以下、P:0.015質量%以下、S:0.015質量%以下、Cr:18.0〜21.0質量%、Fe:2.0質量%以下、Mo:3.5〜5.0質量%、Cu:0.10質量%以下、Al:1.20〜1.60質量%、Ti:2.75〜3.25質量%、B:0.003〜0.010質量%、Co:12.0〜15.0質量%、Zr:0.02〜0.08質量%、Pb:0.0005質量%以下、Bi:0.00003質量%以下、Se:0.0003質量%以下、Ni:残部、の組成を備えるものが挙げられる。
【0011】
上記とは別のNi基合金としては、例えば、C:0.08質量%以下、Si:0.50質量%以下、Mn:1.00質量%以下、P:0.030質量%以下、S:0.015質量%以下、Ni:70.00質量%以上、Cr:14.0〜17.0質量%、Fe:5.00〜9.00質量%、Cu:0.50質量%以下、Al:0.40〜1.00質量%、Ti:2.25〜2.75質量%、Nb+Ta:0.70〜1.20質量%の組成を備えるものが挙げられる。
【0012】
上記とはさらに別のNi基合金としては、例えば、C:0.08質量%以下、Si:0.35質量%以下、Mn:0.35質量%以下、P:0.015質量%以下、S:0.015質量%以下、Ni:50.00〜55.00質量%、Cr:17.0〜21.0質量%、Mo:2.80〜3.30質量%、Cu:0.30質量%以下、Al:0.20〜0.80質量%、Ti:0.65〜1.15質量%、Nb+Ta:4.75〜5.50質量%、B:0.006質量%以下、Fe:残部、の組成を備えるものが挙げられる。
【0013】
上記とはさらに別のNi基合金としては、例えば、C:0.04〜0.08質量%、Si:0.40質量%以下、Mn:0.60質量%以下、P:0.020質量%以下、S:0.015質量%以下、Cr:19.0〜21.0質量%、Fe:0.70質量%以下、Mo:5.6〜6.1質量%、Cu:0.20質量%以下、Al:0.30〜0.60質量%、Ti:1.9〜2.4質量%、B:0.005質量%以下、Co:19.0〜21.0質量%、Ni:残部、の組成を備えるものが挙げられる。
なお、以上の合金は、JIS G 4902規格に含まれるものもあり、含まれるもの以外のJIS G 4902規格の合金に本発明を適用することも可能である。
【0014】
上記Ni基合金における各成分の添加理由は、以下の通りである。
【0015】
Cは結晶粒界の強度を高める効果を有する。Cを過剰に含有した場合は、粗大な炭化物が形成され、強度および熱間加工性を低下させる。このような効果および他の添加元素とのバランスから上記のCの添加量としている。
【0016】
Crは耐酸化性や耐食性を向上させる元素である。Crを過剰に含有すると、σ相などの脆化相を形成し、強度や熱間加工性を低下させる。このような効果および他の添加元素とのバランスから上記のCrの添加量としている。
【0017】
Coは組成の安定性を改善し、合金が強化元素であるTiを多く含有する場合でも、その熱間加工性を維持することを可能とする。Coが多くなるほど熱間加工性は向上するものの、過剰になると、σ相やη相といった有害相が形成され、強度および熱間加工性が低下する。このような効果および他の添加元素とのバランスから上記のCoの添加量としている。
【0018】
Alは、強化相であるγ'(Ni
3Al)相を形成し、高温強度を向上させる必須元素である。過度の添加は熱間加工性を低下させ、加工中の割れなどの材料欠陥の原因となる。このような効果および他の添加元素とのバランスから上記のAlの添加量としている。
【0019】
Tiも、Alと同様に、γ'相を形成し、γ'相を固溶強化して高温強度を高める必須元素である。過度の添加は、γ'相が高温で不安定となり高温での粗大化を招くとともに、有害なη(イータ)相を形成し、熱間加工性を損なう。このような効果および他の添加元素とのバランスから上記のTiの添加量としている。
【0020】
Moはマトリックスの固溶強化に寄与し、高温強度を向上させる効果がある。Moが過剰となると、金属間化合物相が形成され、高温強度を損なう。このような効果および他の添加元素とのバランスから上記のMoの添加量としている。
【0021】
Bは粒界強度を向上させ、クリープ強度や延性を改善する元素である。Bは、融点を低下させる効果が大きい。また、粗大なホウ化物が形成されると、加工性が阻害される。このような効果および他の添加元素とのバランスから上記のBの添加量としている。
【0022】
Zrは、Bと同様に、粒界強度を向上させる効果を有している。Zrが過剰となると、融点の低下を招き、高温強度や熱間加工性が阻害される。このような効果および他の添加元素とのバランスから上記のZrの添加量としている。
【0023】
Ni基合金の製造方法は特に限定されない。例えば、前述のような特定の化学成分(組成)を含むように原料を調整し、溶解し、鋳造して得ることができる。真空溶解法を適用すれば、AlやTiといった活性元素の酸化を抑制し、介在物を低減することが可能となる。より高品位なNi基合金を得るために、エレクトロスラグ再溶解や真空アーク再溶解といった2次及び3次の溶解を行ってもよい。また、溶解の後に、ハンマ鍛造や、プレス鍛造、圧延、押出などの予備的加工を施してもよい。
【0024】
Ni基合金の形状や大きさ等は特に限定されない。
Ni基合金は帯鋼であることが好ましい。連続焼鈍に適しているからである。
【0025】
第1工程では、上記のようなNi基合金を1000〜1200℃の温度で5〜60分保持する。
【0026】
ここでNi基合金を加熱する温度は1000〜1200℃であり、1050℃以上とすることが好ましい。このような温度とすると、結晶粒の大きさがより大きくなる傾向があるからである。
【0027】
また、Ni基合金を上記のような温度にて保持する時間は5〜60分であり、10分以上とすることが好ましい。このような時間とすると、結晶粒の大きさがより大きくなる傾向があるからである。
【0028】
第1工程では、上記のように、Ni基合金を1000〜1200℃の温度で5〜60分保持した後、0.3〜10℃/秒の冷却速度で室温まで冷却する。
【0029】
<第2工程>
上記のような第1工程によってNi基合金を処理した後、連続して第2工程にて処理する。
【0030】
第2工程では、第1工程に供した後のNi基合金を1000〜1200℃の温度で0.5〜10分保持する。
【0031】
ここで加熱する温度は1000〜1200℃であり、1050℃以上とすることが好ましい。このような温度にて加熱すると、第1工程における冷却速度が遅いことに起因して発生した析出物を再度、固溶化することができる。
【0032】
また、第1工程に供した後のNi基合金を上記のような温度にて保持する時間は0.5〜10分であり、1〜5分とすることが好ましく、2分程度とすることがより好ましい。 ここで、第2工程の保持時間は、第1工程の保持時間よりも短くする。
【0033】
第2工程では、上記のように、Ni基合金を1000〜1200℃の温度で0.5〜10分保持した後、3〜40℃/秒の冷却速度で室温まで冷却する。
【0034】
ここでこの第2工程の冷却速度は、前記第1工程の冷却速度よりも早くする。この場合、より析出物が生じ難くなるので好ましい。
【0035】
本発明の製造方法は連続焼鈍炉にて行うことが好ましい。
【0036】
このように本発明の製造方法では2回の連続焼鈍を行う。1回目の低速度での連続焼鈍(低速通板)によって結晶粒を大きくする。ここで冷却速度が遅いので冷却時に析出硬化で硬さは高くなる。そして、2回目の高速度での連続焼鈍(高速通板)にて析出物を再度固溶化し、冷却速度を早くして析出硬化を防ぐことで硬さを低減する。
【実施例】
【0037】
以下の第1表に示す組成となるように原料を混合し、真空溶解炉で溶解した。その後、エレクトロスラグ再溶解炉を用いて再溶解し、得られた鋼片を熱延し、冷延して、板厚0.2mmの試験片を得た。この試験片は本発明の製造方法におけるNi基合金に相当する。
【0038】
【表1】
【0039】
<実施例>
初めに、得られた試験片について、次の連続焼鈍を施した。
この連続焼鈍は、試験片を1130℃の温度で10分間保持した後、2℃/秒の冷却速度で室温まで冷却し、その後、再度、1130℃の温度で2分間保持した後、9℃/秒の冷却速度で室温まで冷却する処理である。
このような連続焼鈍を上記試験片に施して得られたものを、以下では「サンプル1」とする。
【0040】
<比較例>
次に、得られた別の試験片について、次の連続焼鈍を施した。
この連続焼鈍は、試験片を1130℃の温度で10分間保持した後、2℃/秒の冷却速度で室温まで冷却する処理である。
このような連続焼鈍を上記試験片に施して得られたものを、以下では「サンプル2」とする。
【0041】
得られたサンプル1およびサンプル2について、硬さ、引張強さ、伸び率を測定した。
各々の測定方法を以下に記す。
【0042】
<硬さ>
JIS Z 2244(ビッカース硬さ試験方法)に準拠して、硬さ(Hv)を測定した。測定結果を第2表に示す。
【0043】
<引張強さ、伸び率>
JIS Z 2
241(金属引張試験方法)に準拠して引張試験を行い、引張強さ(N/mm
2)および伸び率(%)を測定した。測定結果を第2表に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
本発明の範囲内であり実施例に相当するサンプル1と、本発明の範囲外であり比較例に相当するサンプル2とを比較すると、サンプル1は、サンプル2に比べて硬さが低く、引張強度も低い。この理由は、焼鈍を2回行う実施例の場合、2回目の焼鈍時に析出物が溶け込み、材料が軟化するためと考えられる。このような軟化した材料は容易に加工することができる点で好ましい。これに対して、サンプル2の場合、熱処理温度が高く、通板速度が遅いので、冷却時に析出物が析出する。よって、材料が硬く、その後の加工することは困難になる。