特許第6805596号(P6805596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6805596薄肉鋳片の製造方法及び薄肉鋳片の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805596
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】薄肉鋳片の製造方法及び薄肉鋳片の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20201214BHJP
【FI】
   B22D11/06 330B
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-141569(P2016-141569)
(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公開番号】特開2018-12118(P2018-12118A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】諸星 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 実開平03−024350(JP,U)
【文献】 特開平08−206793(JP,A)
【文献】 特開平08−001284(JP,A)
【文献】 特開平03−066453(JP,A)
【文献】 特表2005−512819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部にMnを含む溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
前記溶鋼溜まり部及び前記冷却ドラムの上方には、チャンバーが配設されており、
このチャンバー内において、前記冷却ドラムの上方にTi又はTi含有量74%以上のTi合金からなるカバー部材を配置し、
前記カバー部材が、前記冷却ドラムの上方に間隔1cm以上に隔てて配置されており、
このカバー部材によって、前記冷却ドラムのうち前記チャンバー内の空間に露出されたドラム露出部の水平面への投影面積の少なくとも45%以上を覆うことを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【請求項2】
前記カバー部材が、前記冷却ドラムの上方に間隔5cm以下に隔てて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項3】
前記カバー部材は、ドラム幅中央部を含むドラム幅方向長さの少なくとも50%以上、かつ、ドラム周方向の水平面への投影長さの少なくとも45%以上を覆うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項4】
前記カバー部材の下部空間において、前記冷却ドラムの回転方向に沿ってガスを供給し、Mn蒸気を排出することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項5】
前記チャンバーの天井又はスカム堰の表面の少なくとも一方に、Ti又はTi含有量74%以上のTi合金からなるTi製部材を配設することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項6】
前記カバー部材の上部空間にガスを供給することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【請求項7】
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰を有し、これら一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部にMnを含む溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造装置であって、
前記溶鋼溜まり部及び前記冷却ドラムの上方には、チャンバーが配設されており、
このチャンバー内の前記冷却ドラムの上方には、Ti又はTi含有量74%以上のTi合金からなるカバー部材が配設され、
前記カバー部材が、前記冷却ドラムの上方に間隔1cm以上に隔てて配置されており、
前記冷却ドラムのうち前記チャンバー内の空間に露出されたドラム露出部の水平面への投影面積の少なくとも45%以上を覆っていることを特徴とする薄肉鋳片の製造装置。
【請求項8】
前記カバー部材が、前記冷却ドラムの上方に間隔5cm以下に隔てて配置されていることを特徴とする請求項7に記載の薄肉鋳片の製造装置。
【請求項9】
前記カバー部材の下部空間に対してガスを供給するガス供給手段を備えていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の薄肉鋳片の製造装置。
【請求項10】
前記チャンバー内の天井又はスカム堰表面の少なくとも一方に、Ti又はTi合金からなるTi製部材が配設されていることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の薄肉鋳片の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部に、溶鋼を供給して薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法及び薄肉鋳片の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、内部に水冷構造を有する冷却ドラムを備え、回転する一対の冷却ドラム間に形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ドラムの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合し、圧下して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置が提供されている。このような双ドラム式連続鋳造装置は、各種金属において適用されている。
【0003】
上述の双ドラム式連続鋳造装置においては、冷却ドラムの表面が汚れると、汚れ付着による抜熱むらを生じ、これにより凝固不均一を引き起こし、鋳片割れや鋳片厚み変動等の問題が生じるおそれがある。したがって、冷却ドラム表面を清浄に保つことは、薄肉鋳片の品質確保のために、非常に重要である。
そこで、例えば特許文献1,2には、冷却ドラムの表面を清浄するブラシロールを備えた薄肉鋳片の製造装置が提案されている。
また、非特許文献1においては、ドラム表面の汚れの原因として、ドラム表面に形成される酸化膜が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−176650号公報
【特許文献2】特開平05−177311号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松本、大野、梅田、田中、佐々木;CAMP−ISIJ、vol.5(1992),p.321
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の薄肉鋳片の製造装方法においては、溶鋼の酸化を抑制するために、前記溶鋼溜まり部及び前記冷却ドラムの上方にチャンバーを配設し、このチャンバー内を不活性ガス雰囲気として鋳造を行っている。
ここで、鋼には、一般的にMnが含まれているが、このMnは金属元素の中では蒸気圧が比較的高い。このため、溶鋼溜まり部の湯面からMnが蒸発し、Mn蒸気がチャンバー内に拡散・充満しやすい傾向にある。そして、蒸発したMnは、チャンバー内の比較的低温な部分において凝縮・付着することになる。特に、冷却ドラムは水冷構造とされていることから、冷却ドラムのうちチャンバー内の空間に露出した部分には、Mnが凝縮・付着しやすくなる。
【0007】
そして、冷却ドラムは、鋳造中に回転していることから、チャンバー内でMn蒸気を含む雰囲気にさらされた後、溶鋼と接触して凝固シェルを形成する。凝固シェルは、ドラムキス点以降で冷却ドラムから剥離し、冷却ドラムの表面が大気と接触することになる。なお、冷却ドラムの下方側にチャンバーを配設することもあるが、薄肉鋳片を引き抜くためにシールが不十分であり、やはり、冷却ドラムの表面が大気と接触することになる。ここで、鋳造後の冷却度ドラムは高温であることから、ドラム表面に付着したMnは酸化されてMn酸化物となり、冷却ドラムの表面に汚れが堆積していく。
【0008】
ここで、特許文献1,2に記載されたようにブラシを用いた場合には、溶融金属のスプラッシュなど比較的厚みがある付着物については容易に除去することができるが、上述のMn酸化物からなるドラム表面に付着した汚れは、十分に除去することは困難であった。
【0009】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、冷却ドラム表面にMn酸化物からなる汚れが付着・堆積することを抑制し、長時間安定して高品質な薄肉鋳片を製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法、及び、薄肉鋳片の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部にMnを含む溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて、薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、前記溶鋼溜まり部及び前記冷却ドラムの上方には、チャンバーが配設されており、このチャンバー内において、前記冷却ドラムの上方にTi又はTi含有量74%以上のTi合金からなるカバー部材を配置し、前記カバー部材が、前記冷却ドラムの上方に間隔1cm以上に隔てて配置されており、このカバー部材によって、前記冷却ドラムのうち前記チャンバー内の空間に露出されたドラム露出部の水平面への投影面積の少なくとも45%以上を覆うことを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る薄肉鋳片の製造装置は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰を有し、これら一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部にMnを含む溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造装置であって、 前記溶鋼溜まり部及び前記冷却ドラムの上方には、チャンバーが配設されており、 このチャンバー内の前記冷却ドラムの上方には、Ti又はTi含有量74%以上のTi合金からなるカバー部材が配設され、前記カバー部材が、前記冷却ドラムの上方に間隔1cm以上に隔てて配置されており、前記冷却ドラムのうち前記チャンバー内の空間に露出されたドラム露出部の水平面への投影面積の少なくとも45%以上を覆っていることを特徴としている。
【0012】
上述の構成の薄肉鋳片の製造方法及び薄肉鋳片の製造装置によれば、チャンバー内において前記冷却ドラムの上方にカバー部材を配置し、このカバー部材によって、前記冷却ドラムのうち前記チャンバー内の空間に露出されたドラム露出部の水平面への投影面積の少なくとも45%以上を覆っているので、溶鋼から蒸発したMn蒸気が冷却ドラムの表面に接触することを抑制でき、Mn酸化物からなる汚れが付着・堆積することを抑制できる。
よって、長時間鋳造した場合であっても、冷却ドラムからの抜熱量が均一となり、薄肉鋳片の割れや厚み変動の発生を抑制することができる。
本発明に係る薄肉鋳片の製造方法及び薄肉鋳片の製造装置においては、前記カバー部材が、前記冷却ドラムの上方に間隔5cm以下に隔てて配置されていることが好ましい
【0013】
ここで、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法においては、前記カバー部材は、ドラム幅中央部を含むドラム幅方向長さの少なくとも50%以上、かつ、ドラム周方向の水平面への投影長さの少なくとも45%以上を覆うことが好ましい。
薄肉鋳片の凝固収縮ひずみは、幅中央部に集中しやすいことから、ドラム幅中央部をカバー部材で覆って汚れの付着を抑制することで、薄肉鋳片の割れを効果的に抑制することができる。また、ドラム幅中央部を含むドラム幅方向長さの少なくとも50%以上、ドラム周方向の水平面への投影長さの少なくとも45%以上を覆うことで、Mn酸化物からなる汚れの付着・堆積をさらに効果的に抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法においては、前記カバー部材の下部空間において、前記冷却ドラムの回転方向に沿ってガスを供給し、Mn蒸気を排出することが好ましい。
さらに、本発明に係る薄肉鋳片の製造装置においては、前記カバー部材の下部空間に対してガスを供給するガス供給手段を備えていることが好ましい。
この場合、前記カバー部材の下部空間にガスを供給することにより、冷却ドラム表面周辺からMn蒸気を排出することができ、冷却ドラムの表面にMn酸化物からなる汚れが付着することを抑制できる。
【0015】
さらに、本発明に係る薄肉鋳片の製造方法においては、前記チャンバーの天井又はスカム堰の表面の少なくとも一方に、Ti又はTi合金からなるTi製部材を配設することが好ましい。
また、本発明に係る薄肉鋳片の製造装置においては、前記チャンバー内の天井又はスカム堰表面の少なくとも一方に、Ti又はTi合金からなるTi製部材が配設されていることが好ましい。
Tiは、Mnと反応して化合物を生成する。さらに、Ti中のMnの拡散速度が比較的速い。このため、チャンバー内にTi又はTi合金からなるTi製部材を配設することにより、チャンバー内のMnをTi製部材の表面に付着して固定することが可能となる。また、表面に付着したMnがTi製部材の内部へと拡散しやすく、Ti製部材の表面のMn濃度が飽和しにくい。これにより、Mn固定効果が持続するため、Mn蒸気が冷却ドラムの表面に接触することをさらに抑制できる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本発明によれば、冷却ドラム表面にMn酸化物からなる汚れが付着・堆積することを抑制し、長時間安定して高品質な薄肉鋳片を製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法、及び、薄肉鋳片の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造装置の一例を示す説明図である。
図2図1における溶鋼溜まり部周辺の拡大説明図である。
図3図2の上面説明図である。
図4】TiとMnの2元系状態図である。
図5】本発明の他の実施形態である薄肉鋳片の製造装置の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法及び薄肉鋳片の製造装置について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態において製造される薄肉鋳片1は、各種組成の鋼からなり、Mnを含有するものとされている。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が500mm以上2000mmの範囲内、厚さが1mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0020】
次に、本実施形態である薄肉鋳片の製造方法に用いられる薄肉鋳片の製造装置10について説明する。
本実施形態である薄肉鋳片の製造装置10は、図1に示すように、一対の冷却ドラム11、11と、薄肉鋳片1を曲げるベンダーロール12、12と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール13、13と、一対の冷却ドラム11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ドラム11、11とサイド堰15とによって画成された溶鋼溜まり部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ17と、このタンディッシュ17から溶鋼溜まり部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル18と、を備えている。
【0021】
この薄肉鋳片の製造装置10においては、溶鋼3が回転する冷却ドラム11,11に接触して冷却されることにより、冷却ドラム11,11の周面の上で凝固シェル5、5が成長し、一対の冷却ドラム11,11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がドラムキス点で圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0022】
図2に、図1における溶鋼溜まり部16周辺の拡大説明図を示す。本実施形態である薄肉鋳片の製造装置10においては、図2に示すように、溶鋼溜まり部16に、スカム堰19が配設されている。このスカム堰19は、浸漬ノズル18と冷却ドラム11、11との間に配置され、その一部が溶鋼3内に浸漬されている。
【0023】
本実施形態である薄肉鋳片の製造装置10においては、図2に示すように、溶鋼溜まり部16及び冷却ドラム11,11の上方には、チャンバー20が配設されている。
そして、このチャンバー20内には、冷却ドラム11,11の上部空間に、カバー部材21が配置されている。本実施形態では、図2に示すように、溶鋼溜まり部16に浸漬されたスカム堰19の後方側(浸漬ノズル18とは反対側)にカバー部材21が配置されている。このカバー部材21により、溶鋼溜まり部16から発生するMn蒸気9が冷却ドラム11,11の表面に付着することを抑制できる。
【0024】
このカバー部材21は、鋳造を行う際には、冷却ドラム11,11のうちチャンバー20の空間に露出されたドラム露出部11aの水平面への投影面積の少なくとも45%以上を覆うように構成されている。
ここで、ドラム露出部11aは、上方から見た場合、図3に示すように、幅方向両端がサイド堰15又は耐火物繊維製の布を有するチャンバー側壁20aで区切られ、周方向の一方が溶鋼3で区切られ、周方向の他方が耐火物繊維製の布を有するチャンバー壁20bで区切られた領域となる。
【0025】
カバー部材21は、上述のドラム露出部11aの全てを覆うことが好ましいが、溶鋼溜まり部16における湯面高さを制御するために冷却ドラム11,11の幅端部では湯面を監視する必要がある。そこで、本実施形態では、ドラム露出部11aの水平面への投影面積の少なくとも45%以上を覆うように構成している。前記投影面積の少なくとも45%以上を覆うことで、冷却ドラム11,11の表面にMn酸化物からなる汚れの付着を抑制することが可能となるのである。なお、前記投影面積の少なくとも80%以上を覆うことで、カバー部材21の周囲からのMn蒸気9の混入を抑制でき、さらに効果的に、冷却ドラム11,11の表面にMn酸化物からなる汚れが付着・堆積することを抑制できる。
【0026】
さらに、本実施形態では、このカバー部材21は、図3に示すように、ドラム幅中央部を含むドラム幅方向長さの少なくとも50%以上、かつ、ドラム周方向の水平面への投影長さの少なくとも45%以上を覆うように構成されている。
冷却ドラム11、11に対するMnの付着量は、Mn蒸気9を含むチャンバー20内雰囲気に曝されている時間に比例することから、本実施形態では、ドラム周方向の水平面への投影長さの少なくとも45%以上を覆うように、カバー部材21を配設している。
【0027】
また、カバー部材21は、ドラム幅中央部を覆うように配置されている。これは、薄肉鋳片1の凝固収縮ひずみは幅中央部に集中しやすいことから、ドラム幅中央部におけるMn酸化物の付着を抑制することが薄肉鋳片1の割れ抑制に効果的であるためである。なお、カバー部材21は、ドラム幅中央部を覆うように構成されていればよく、幅中心に対して対称に配置する必要はない。例えば、カバー部材21の位置を一方側にずらしておき、他方側から湯面を監視するような構成としてもよい。
【0028】
ここで、カバー部材21と冷却ドラム11との距離は、最接近点で10cm以下とすることが望ましく、5cm以下とすることがさらに望ましい。
カバー部材21と冷却ドラム11との最接近距離hが10cmを超えると、ガスの対流とドラム回転に随伴するガス流動が干渉して、カバー部材21の下部空間へのMn蒸気9の巻き込みが多くなるおそれがある。ドラム回転に随伴するガスの境界層厚さが1cm程度であることから、カバー部材21と冷却ドラム11との最接近距離hが境界層の10倍以上となると、カバー部材21の外側のガス流動の影響を受けやすくなる。よって、本実施形態では、カバー部材21と冷却ドラム11との距離を、最接近点で10cm以下に設定している。
【0029】
また、本実施形態においては、図2に示すように、カバー部材21の下部空間に対してガスを供給するガス供給手段27が設けられている。このガス供給手段27は、チャンバー20の外部からMn蒸気を含まないガスを、カバー部材21の下部空間に向けて供給する。これにより、カバー部材21の下部空間に存在するMn蒸気9を排出する。なお、供給されるガスとしては、溶鋼の酸化を防止するために、Ar、N、He等の不活性ガスが用いられる。
【0030】
ここで、ガス供給手段27は、冷却ドラム11の回転方向に沿うように、冷却ドラム11の回転方向後方側から凝固開始点Pに向けてガスを供給する。すると、ガス供給手段27から供給されたガスによって冷却ドラム11の回転に随伴するガス境界層が形成されるので、Mn蒸気9の付着を効果的に抑制することができる。
なお、図示はしていないが、カバー部材21の上方空間にもガスを供給してもよい。カバー部材21の上部空間及び下部空間にガスを供給することで、カバー部材21の端部からMn蒸気9が巻き込まれることをさらに抑制できる。このとき、カバー部材21の上方空間と下部空間とで供給するガス種を変更してもよい。このガス種は、冷却ドラム11/凝固シェル5間の熱伝達制御や、鋼種の吸収窒素許容限度などの条件に応じて適宜選択することが好ましい。
【0031】
また、本実施形態では、チャンバー20内に、Ti又はTi合金からなるTi製部材が配設されている。具体的には、上述のカバー部材21がTi又はTi合金からなるTi製部材とされている。さらに、本実施形態では、スカム堰19についても、本体を耐火物製とし、表面のうち溶鋼に浸漬しない部位に、Ti又はTi合金からなるTi製部材を配設している。
【0032】
Ti又はTi合金は、耐熱性に優れていることから、カバー部材21やスカム堰19の表面部材をTi製部材とすることで、高温環境下で使用しても変形等を抑制することができる。
また、Tiは、Mnと結合しやすいため、カバー部材21やスカム堰19の表面部材をTi製部材とすることで、これらの表面においてチャンバー20内のMnを固定することができる。具体的には、図4の状態図に示すように、TiとMnのモル比が1:1であるMnTi(約47質量%Ti)を形成することから、Mnを固定しやすい。
さらに、Tiは、他の金属に比べてMnの拡散速度が大きい。よって、表面に付着したMnがTi内部に拡散して表面のMn濃度が飽和しにくく、より多くのMnを固定することが可能となる。
【0033】
ここで、カバー部材21やスカム堰19の表面部材は、純Ti製であることが好ましいが、耐熱性や強度等を考慮して、Ti合金製としてもよい。ただし、Mnを固定する作用効果を十分に奏功せしめるためには、Ti合金におけるTiの含有量を70質量%以上とすることが好ましい。
【0034】
以上のような構成とされた本実施形態である薄肉鋳片の製造方法及び薄肉鋳片の製造装置10によれば、チャンバー20内において冷却ドラム11の上方にカバー部材21を配置し、このカバー部材21によって、冷却ドラム11のうちチャンバー20内の空間に露出されたドラム露出部11aの水平面への投影面積の少なくとも45%以上を覆っているので、溶鋼3から蒸発したMn蒸気9が冷却ドラム11の表面に接触することを抑制でき、Mn酸化物からなる汚れが付着・堆積することを抑制できる。よって、長時間鋳造した場合であっても、冷却ドラム11からの抜熱量が均一となり、薄肉鋳片1の割れや厚み変動の発生を抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態では、カバー部材21は、ドラム幅中央部を含むドラム幅方向長さの少なくとも50%以上を覆う構成としていることから、薄肉鋳片1の割れを効果的に抑制することができる。また、ドラム幅中央部を含むドラム幅方向長さの少なくとも50%以上、ドラム周方向の水平面への投影長さの少なくとも45%以上、を覆うことで、Mn酸化物からなる汚れの付着・堆積をさらに効果的に抑制することができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、カバー部材21の下部空間に対してガスを供給するガス供給手段27を備えており、カバー部材21の下部空間において、冷却ドラム11の回転方向に沿って凝固開始点Pに向かって、ガスを供給する構成としているので、冷却ドラム11表面周辺からMn蒸気9を排出することができ、冷却ドラム11の表面にMn酸化物からなる汚れが付着したり、堆積したりすることを抑制できる。また、冷却ドラム11の回転に随伴するガス境界層を供給したガスによって形成することができ、供給するガス種を選択することで、冷却ドラム11/凝固シェル5間の熱伝達を制御することができる。
【0037】
また、本実施形態では、チャンバー20内に、Ti又はTi合金からなるTi製部材を配設しており、具体的には、カバー部材21とスカム堰19の表面部材をTi又はTi合金で構成しているので、チャンバー20内のMnをカバー部材21とスカム堰19の表面に付着して固定することができる。また、表面に付着したMnがTi製部材の内部へと拡散しやすく、Ti製部材の表面のMn濃度が飽和しにくい。これにより、Mn蒸気9が冷却ドラムの表面に接触することをさらに抑制できる。
【0038】
以上、本発明の実施形態である本実施形態である薄肉鋳片の製造方法及び薄肉鋳片の製造装置について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1に示すように、ベンダーロール及びピンチロールを配設した薄肉鋳片の製造装置を例に挙げて説明したが、これらのロール等の配置に限定はなく、適宜設計変更してもよい。
【0039】
また、本実施形態では、図2に示すように、ガス供給手段27を配設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、図5に示すように、ガス供給手段を有さないものであってもよい。
さらに、本実施形態では、図2に示すように、スカム堰19を配設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、図5に示すように、スカム堰を有さないものであってもよい。
【0040】
また、本実施形態では、図2及び図3に示すように、カバー部材21を平板状のものとして説明したが、これに限定されることはなく、カバー部材の形状に特に制限はない。チャンバー内の形状や、チャンバー内の他の部材の配置、カバー部材の設置方法等を考慮して、適宜設計変更してもよい。例えば、湯面の監視のために一部を切り欠いた形状としてもよい。また、ドラムの周面に合わせて湾曲した形状のものとしてもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
C;0.12質量%、Si;0.65質量%、Mn;3.2質量%、P;0.01質量%、S;0.005質量%、Al;0.03質量%を含有する炭素鋼からなる薄肉鋳片を、上述の実施形態に示す薄肉鋳片の製造装置を用いて製造した。
【0042】
以下に、薄肉鋳片の製造方法の共通の条件を示す。
冷却ドラムの直径:1200mm
鋳造幅:800mm
鋳造厚み:平均2.5mm
鋳造速度:平均50m/min
鋳造雰囲気:Ar+25vol%N
ブラシロール:鉄製ブラシロールを使用
鋳造量:1トン
【0043】
そして、表1に示すように、スカム堰の有無、カバー部材の材質、カバー部材の配置、ガス供給、Ti製部材の配置等の条件を設定した。
上述の条件で鋳造を行い、以下の項目について評価した。
【0044】
(鋳造後のドラム表面汚れ)
鋳造前の冷却ドラムの表面は金属光沢を有しているが、鋳造後にMn酸化物が付着すると、薄茶色に変色する。そこで、鋳造後の冷却ドラム表面を写真撮影し、この画像を画像処理して、汚れ面積率を測定した。画像処理では、金属光沢部と最も汚れた部位の明度の中間値を基準とし、この基準値よりも暗い部分を汚れと判断した。
【0045】
(最大凝固不均一度)
薄肉鋳片の幅方向断面試料を採取し、樹脂に埋め込み後に観察面を研磨してピクリン酸飽和液でエッチングし、デンドライト組織を全幅にわたって観察した。柱状晶の厚みを5mm間隔で測定し、そのうち、凝固遅れ部の柱状晶厚(d1)と、凝固遅れ部に隣接する健全部の柱状晶厚(d2)を用いて、以下の式で凝固不均一度aを算出した。
a=(d2−d1)/d2×100(%)
表2においては、全幅観察で見つかった凝固遅れ部のうち、凝固不均一度の最大値を指標とし、30%未満を合格とした。
【0046】
(薄肉鋳片の割れ)
薄肉鋳片1mを酸洗した後、表面及び裏面を観察し、目視及び8倍ルーペを用いて、長さ1m以上の割れの有無を確認した。20個/m未満を合格とした。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
No.1〜16は鋳造後のドラム表面汚れ面積率は50%未満であり、最大凝固不均一度は30%未満であった。その結果、表面割れは20個/m未満であった。
【0050】
No.1は、スカム堰が無い場合で、入手が容易なSS400を素材とした鉄製のカバー部材を設置した例である。ドラム露出部投影面積の80%以上を覆っているので、ドラム表面へのMn蒸気の付着を抑制できている。一方で、スカム堰を設置しなかったため、湯面のスカムを凝固開始点から巻き込んだことから、最大凝固不均一度は27%、割れは17個/mであった。
【0051】
No.2〜16は、スカム堰を設置するとともに、カバー部材を設置した例である。スカム巻込みを防止しているので、最大凝固不均一度や割れはNo.1より低減した。No.2は、被覆面積率が80%以上であるので、汚れ面積率が10〜25%であった。No3は、幅方向での被覆率が50%、No.4は、周方向で被覆率が50%であり、被覆面積率が45%であるので、ドラム表面汚れ面積率が50%弱に達し、最大凝固不均一度や割れ個数がNo.2より劣位であった。
【0052】
No.5〜16では、チャンバー内を鋳造開始前にAr+Nに置換したうえで、さらに鋳造開始前および鋳造中に、カバー部材の下部空間や上部空間からシールガスを吹き込んだ。その結果、No.1〜4よりも、ドラム表面へのMn蒸気付着をより低減できたので、最大凝固不均一度を20%未満、割れ個数を10個/m未満に低減できた。
No.7よりNo.9で、最大凝固不均一度や割れ個数がやや増加したのは、上部空間からのみシールガスを吹き込んだ場合、下部空間に多少のMn蒸気が浸入して、表面汚れ面積率が10%未満ではあるがやや増加したためである。したがって、下部空間からシールガスを吹き込む方が有利である。No.12は、下部空間と上部空間に同種のガスを供給した例、No.13は異なった種類のガスを供給した例である。
【0053】
No.6〜16は、カバー部材とドラム間の最近接間隔を5cm、または1cmに低減して、下部空間へのMn蒸気の浸入をより低減した例である。カバー部材による被覆面積率が同じNo.5とNo.6を比べると、表面汚れ率は10〜25%から、10%未満に低減し、最大凝固不均一度と割れ個数が低減した。カバー部材を1cmに近付けたNo.13は、表面汚れ率は5%未満、表面割れは0個/mであった。
【0054】
No.7〜16では、カバー部材の素材をTi、またはTi含有率が50%以上のTi合金製とした。Ti含有率が70%以上で、高い効果が得られた。
No.14〜16では、カバー部材のほかに、チャンバー内の一部、具体的にはスカム堰の表面やチャンバー天井にTi製部位を設置した例である。Ti製部材を、カバー部材の下部空間や上部空間に面して設置したNo.14よりも、湯面から上昇したMn蒸気が充満しているスカム堰のノズル側や天井にTi製部材を配置して、より多くのMn蒸気を付着できたNo.15やNo.16の方が良好であった。
【0055】
一方、No.21〜23は、本発明の要件の一部を満たしていない比較例である。No.21は、カバー部材が無く、Mn蒸気がドラム表面全面に付着したため、凝固不均一度が高く、割れが30個/mを超えた。No.22は、Ti製のカバー部材がドラム幅方向の40%しか覆っていなかったので、No.23は、ドラム周方向の40%しか覆っていなかったので、いずれもドラム表面汚れ面積率が50%を超え、凝固不均一度が30%を超えて、割れが20個/mを超えた。
【0056】
以上のことから、本発明例によれば、冷却ドラム表面にMn酸化物からなる汚れが付着することを抑制し、安定して高品質な薄肉鋳片を製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法及び薄肉鋳片の製造装置を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0057】
1 薄肉鋳片
3 溶鋼
11 冷却ドラム
15 サイド堰
16 溶鋼溜まり部
20 チャンバー
21 カバー部材
27 ガス供給手段
図1
図2
図3
図4
図5