特許第6805599号(P6805599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805599
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】多層シート、トレイ及び包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20201214BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20201214BHJP
   B65D 77/02 20060101ALI20201214BHJP
   B65D 1/34 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   B32B27/32 Z
   B65D65/40 D
   B65D77/02 C
   B65D1/34
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-143236(P2016-143236)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2018-12263(P2018-12263A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年6月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】山口 啓太
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−223701(JP,A)
【文献】 特開2012−210975(JP,A)
【文献】 特公平06−015227(JP,B2)
【文献】 特開平11−254604(JP,A)
【文献】 特開昭59−167252(JP,A)
【文献】 特表2006−517168(JP,A)
【文献】 特表2012−512058(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0248076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65D 1/00− 1/48
B65D 65/00−79/02
B65D 81/18−81/30;81/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気バリア層と、酸素バリア層と、一対の表面層と、を有し、最表層の両側に前記表面層がそれぞれ積層された多層シートであって、
前記水蒸気バリア層が、高密度ポリエチレンと、無機充填剤と、を含み、
前記水蒸気バリア層中の無機充填剤の含有率が20質量%以上33質量%以下であって、
JIS−Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15(g/m・day)以下である、多層シート。
【請求項2】
前記無機充填剤が、層状ケイ酸塩類、酸化チタン、及び炭酸カルシウムのうち少なくとも1つを含む、請求項に記載の多層シート。
【請求項3】
前記層状ケイ酸塩類が、タルク、マイカ、モンモリロナイト、カオリン、ベントナイト、及びヘクトライトのうち少なくとも1つを含む、請求項に記載の多層シート。
【請求項4】
前記水蒸気バリア層が、石油樹脂を含む、請求項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項5】
前記石油樹脂が、ジシクロペンタジエンを原料として含む重合体である、請求項に記載の多層シート。
【請求項6】
少なくとも一方の表面層と前記水蒸気バリア層とが、隣接して積層される、請求項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項7】
前記表面層が、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレンのうち少なくとも1つの樹脂を含む、請求項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項8】
2つの前記水蒸気バリア層を有し、当該水蒸気バリア層が前記表面層とそれぞれ隣接して積層される、請求項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項9】
前記多層シートの厚さが、500μm以上、1500μm以下である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項10】
25℃、60%RHの条件における酸素透過量が、0.35cc/m・day以下である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
【請求項11】
請求項1に記載の多層シートを成形したトレイ。
【請求項12】
請求項11に記載のトレイと、蓋材と、を備える包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層シート、トレイ及び包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医薬品、医療品、食品、飲料等の包装材としては、紙、合成樹脂シートあるいはフィルム、蒸着フィルム、合成樹脂フィルムとのラミネート物、アルミ包装等が使用されている。上記のような用途で使用する際には、内容物保護性とりわけ、水蒸気や酸素に対するバリア性が必要な特性となっており、内容物を長期的に保護するには高度なバリア性が求められている。
【0003】
上記のような水蒸気バリア性及び酸素バリア性の両方を満たすものとしては、蒸着フィルムやアルミ包装等が挙げられる。しかしながら、これらはパウチ形状等の特定の包装体として使用することは可能であるが、成形機等で任意の形状に成形することが難しく、使用用途が限られていた。
【0004】
一方、包装容器の形態としては、底材として合成樹脂製のシートを用いて容器に成形した後、蓋材としてフィルム及びアルミ箔をヒートシールした包装形態がよく用いられている。底材である合成樹脂製のシートとしては、成形性、生産性、耐薬品性、水蒸気バリア性に優れたポリオレフィン系の樹脂が特に用いられている。
【0005】
しかしながら、ポリオレフィン系の樹脂は、水蒸気バリア性に優れるが、酸素バリア性に劣る。そのため、内容物が酸化、劣化、腐敗、又は錆の発生等、種々の問題が生じる場合があった。
【0006】
上記問題を解決するため、例えば、特許文献1には、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ナイロン等の酸素バリア性に優れる樹脂を含有する層と、ポリオレフィン系等の水蒸気バリア性に優れる樹脂を含有する層とを備える樹脂積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平06−015227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された樹脂積層体では、水蒸気、酸素バリア性及びシール性が十分ではないという問題があった。特に、医療用等のいくつかの用途では、さらなる水蒸気バリア性が要求されているのが実状であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、酸素バリア性及びシール性を有し、水蒸気バリア性に優れた多層シートを提供することを課題とする。
【0010】
また、本発明は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れたトレイ及び包装体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
(1) 水蒸気バリア層と、酸素バリア層と、一対の表面層と、を有し、最表層の両側に前記表面層がそれぞれ積層された多層シートであって、前記水蒸気バリア層が、高密度ポリエチレンと、無機充填剤と、を含み、前記水蒸気バリア層中の無機充填剤の含有率が20質量%以上33質量%以下であって、JIS−Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15(g/m・day)以下である、多層シート。
【0012】
(2) 前記無機充填剤が、層状ケイ酸塩類、酸化チタン、及び炭酸カルシウムのうち少なくとも1つを含む、前項に記載の多層シート。
) 前記層状ケイ酸塩類が、タルク、マイカ、モンモリロナイト、カオリン、ベントナイト、及びヘクトライトのうち少なくとも1つを含む、前項に記載の多層シート。
【0013】
) 前記水蒸気バリア層が、石油樹脂を含む、前項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
) 前記石油樹脂が、ジシクロペンタジエンを原料として含む重合体である、前項に記載の多層シート。
【0014】
) 少なくとも一方の表面層と前記水蒸気バリア層とが、隣接して積層される、前項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
) 前記表面層が、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレンのうち少なくとも1つの樹脂を含む、前項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
) 2つの前記水蒸気バリア層を有し、当該水蒸気バリア層が前記表面層とそれぞれ隣接して積層される、前項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
) 前記多層シートの厚さが、500μm以上、1500μm以下である、前項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
10) 25℃、60%RHの条件における酸素透過量が、0.35cc/m・day以下である、前項1乃至のいずれか一項に記載の多層シート。
【0015】
11) 前項1に記載の多層シートを成形したトレイ。
12) 前項11に記載のトレイと、蓋材と、を備える包装体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多層シートは、水蒸気バリア層と酸素バリア層と表面層とを有し、両側の最表層に表面層が積層されており、水蒸気バリア層が高密度ポリエチレンを含むとともに、JIS−Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15(g/m・day)以下であるであるため、酸素バリア性及びシール性を有し、水蒸気バリア性に優れる。
【0017】
また、本発明のトレイは、上記多層シートを2次成形することにより得られるため、酸素バリア性及びシール性を有するとともに、水蒸気バリア性に優れる。
【0018】
また、本発明の包装体は、上記トレイと、蓋材とを備えるため、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を適用した一実施形態である多層シートの構成を示す断面図である。
図2】本発明を適用した一実施形態である包装体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した一実施形態である多層シート、及びこの多層シートを2次成形することにより得られるトレイ、並びにこのトレイを備える包装体について、詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
<多層シート>
先ず、本発明を適用した一実施形態である多層シートの構成の一例について説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態である多層シート1の断面模式図である。図1に示すように、本実施形態の多層シート1は、酸素バリア層2と、接着層3と、水蒸気バリア層4と、表面層5,6と、を備えて概略構成されている。
本実施形態の多層シート1は、例えば、医薬品、製剤、輸液製剤、血液製剤、医療機器、化粧品、医薬部外品、食品、飲料、工業部材、電子部品等の包装材の用途に用いることができる。
【0022】
酸素バリア層2は、酸素及び水蒸気の透過を抑制する樹脂層であり、多層シート1に酸素バリア性及び水蒸気バリア性を付与するために設けられている。また、多層シート1を包装体に成形した場合には、包装体内への酸素及び水蒸気の透過を抑制することができる。
【0023】
酸素バリア層2に含まれる樹脂としては、具体的には、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。この中でも、特に、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミドが、水蒸気バリア層4との製膜性の観点から好ましい。酸素バリア層2は、上記樹脂を1種類含むものでもよいし、2種類以上を含むものでもよい。また、酸素バリア層2として酸素吸収材を用いたものでもよい。
【0024】
酸素バリア層2は、上記樹脂の他に無機充填剤を含むものであってもよい。無機充填剤としては、具体的には、例えば、タルク、マイカ、カオリン、クレー、ベントナイト等の層状ケイ酸塩類、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、ガラスフィラー、ガラス繊維、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化アルミニウム、鉄、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。酸素バリア層2に含まれる無機充填剤としては、バリア性を向上させる観点から、アスペクト比の大きな板状及び鱗片状フィラーが好ましく、上記無機充填剤の中でも、タルク、マイカがより好ましい。
【0025】
また、酸素バリア層2中の無機充填剤の含有率としては、具体的には、例えば、酸素バリア層2全体の質量に対して、10質量%以上、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以上、30質量%以下であることがより好ましい。酸素バリア層2中の無機充填剤の含有率が、酸素バリア層2全体の質量に対して、10質量%以上であることにより、酸素バリア層2の水蒸気バリア性を向上させ、多層シート1全体として水蒸気バリア性を劇的に向上させることができる。また、酸素バリア層2中の無機充填剤の含有率が、酸素バリア層2全体の質量に対して、40質量%以下であることにより、シートの製膜性及び包装体への成形性が悪化するのを防ぐことができる。
【0026】
酸素バリア層2の厚さとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、12.5μm以上、225μm以下であることが好ましく、25μm以上、150μm以下であることがより好ましい。酸素バリア層2の厚さが12.5μm以上であることにより、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を十分に発現することができる。また、酸素バリア層2の厚さが225μm以下であることにより、容器成形時に成形しやすく、シートとしての伸びも維持することができる。さらに、上記厚さが、25μm以上、150μm以下であることにより、上記効果をより顕著に発揮することができる。
【0027】
酸素バリア層2の厚さの比率としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、多層シート1の総厚に対して、2.5%以上、15%以下であることが好ましく、2.5%以上、10%以下であることがより好ましい。酸素バリア層2の厚さの比率が、多層シート1の総厚に対して、2.5%以上であることにより、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を十分に発現させることができる。また、酸素バリア層2の厚さの比率が、多層シート1の総厚に対して、15%以下であることにより、水蒸気バリア層4の厚さの比率を維持することができ、水蒸気バリア性及び酸素バリア性を十分に発現させることができる。さらに、上記比率が、2.5%以上、10%以下であることにより、上記効果をより顕著に得ることができる。
【0028】
接着層3は、酸素バリア層2と水蒸気バリア層4とを接着するために、酸素バリア層2と水蒸気バリア層4との間にそれぞれ1層ずつ設けられている。酸素バリア層2、接着層3及び水蒸気バリア層4をこの順に積層することにより、接着層3を介して酸素バリア層2と水蒸気バリア層4とを接着することができる。
【0029】
接着層3の材料としては、酸素バリア層2と水蒸気バリア層4とを接着することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、無水マレイン酸変性オレフィン等の接着性樹脂、酸素バリア層2や水蒸気バリア層4に含まれる樹脂を混合した樹脂等が挙げられる。
【0030】
水蒸気バリア層4は、水蒸気の透過を抑制する樹脂層であり、多層シート1に水蒸気バリア性を付与するために設けられている。水蒸気バリア層4は、酸素バリア層2の表面の両側に、接着層3を介してそれぞれ1層ずつ積層されている。これにより、本実施形態の多層シート1を包装体に成形した場合には、内容物を保護するとともに、包装体内への水蒸気の透過を抑制することができる。また、その結果、酸素バリア層2の吸湿による酸素バリア性の低下を抑制することができる。さらに、酸素バリア層2を構成する樹脂の分子間水素結合の水蒸気による切断が妨げられ、酸素バリア層2を構成する樹脂の分子間隙を狭い状態で維持できるため、酸素バリア層2が水蒸気バリア性を発現することができる。
【0031】
水蒸気バリア層4に含まれる樹脂としては、具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン(HDPE)、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー等のポリオレフィン系樹脂、石油樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等のハロゲン原子を含む樹脂等が挙げられる。これらの中でも、高密度ポリエチレンを主成分とすることにより、多層シート1に対して高い水蒸気バリア性を付与することができる。
【0032】
なお、本明細書において高密度ポリエチレン(HDPE)とは、密度が0.941g/cm〜0.970g/cmの範囲のポリエチレン樹脂をいうものとする。これらのなかでも、水蒸気バリア性の点から、0.950g/cm以上のものが好ましく、0.955g/cm以上のものがより好ましい。
【0033】
ここで、本実施形態の多層シート1は、水蒸気バリア層4に含まれる樹脂成分の総量に対して、主成分である高密度ポリエチレンの含有量が、20質量%以上、90質量%以下であることが好ましく、30質量%以上、80質量%以下であることがより好ましい。水蒸気バリア層4に含まれる樹脂成分の総量に対して、高密度ポリエチレンの含有量が20質量%以上であることにより、高い水蒸気バリア性を発現させることができる。また、高密度ポリエチレンの含有量が90質量%以下であることにより、他の樹脂成分を添加して、水蒸気バリア層4に水蒸気バリア性以外の特性を付与することができる。さらに、高密度ポリエチレンの含有量が、30質量%以上、80質量%以下であることにより、上記効果をより顕著に得ることができる。
【0034】
水蒸気バリア層4に含まれる樹脂成分中には、主成分である高密度ポリエチレンの他に、石油樹脂が含まれていてもよい。水蒸気バリア層4に含まれる樹脂成分中に、主成分として高密度ポリエチレンと、石油樹脂とを含むことにより、多層シート1に対して極めて高い水蒸気バリア性を付与することができる。
【0035】
ここで、石油樹脂とは、石油ナフサを熱分解してエチレン、プロピレンやブタジエンなどの留分を採取した残りの留分のうち、主としてC系あるいはC系留分から得られる樹脂をいう。
【0036】
石油樹脂としては、脂肪族系、芳香族炭化水素樹脂系、脂環族飽和炭化水素樹脂系、共重合系等が使用可能であるが、透明性と臭気の観点から脂肪族系炭化水素樹脂が好ましく、より好ましくはジシクロペンタジエンを熱重合したのちに水添反応を施して得られる水素添加ジシクロペンタジエン系石油樹脂である。石油樹脂中のジシクロペンタジエンの含有割合は30%以上が好ましい。
【0037】
また、石油樹脂の軟化点(環球法、JIS K2548に準ずる)は、70〜150℃程度とするのが好ましく、より好ましくは90〜140℃である。軟化点を70℃以上にすることにより組成物のポリオレフィンに対する接着性能および耐熱性のバランスが良好となる。軟化点を150℃以下とすることで、樹脂の製造が容易になり、製造コストの面でも有利になるため好ましい。
【0038】
石油樹脂の数平均分子量は、300〜2000とするのが好ましく、より好ましくは350〜1000である。数平均分子量を前記範囲以上とすることにより、樹脂組成物の凝集力等の接着性能が良好となり、水蒸気バリア性も向上する。数平均分子量を前記範囲以下とすることで、ベースポリマーのゴム系重合体または合成樹脂系重合体との相溶性が良好となるとともに、樹脂の製造が容易になり、製造コストの面でも有利になるため好ましい。なお、数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値による。
【0039】
水蒸気バリア層4は、多層シート1への成形性、包装体への成形性、蓋材とのシール性、隣接する層との接着性、コストの観点から、樹脂成分中に高密度ポリエチレン及び石油樹脂以外の樹脂を1種類以上含むものであってもよい。
【0040】
水蒸気バリア層4は、上記樹脂の他に無機充填剤を含むことが好ましい。無機充填剤としては、具体的には、例えば、タルク、マイカ、モンモリロナイト、カオリン、クレー、ベントナイト、ヘクトライト等の層状ケイ酸塩類、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、ガラスフィラー、ガラス繊維、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化アルミニウム、鉄、亜鉛、アルミニウム等が挙げられる。水蒸気バリア層4は、上記無機充填剤を1種類含むものでもよいし、2種類以上を含むものでもよい。酸素バリア層2に含まれる無機充填剤としては、バリア性を向上させる観点から、アスペクト比の大きな板状及び鱗片状フィラーが好ましく、上記無機充填剤の中でも、タルク、マイカがより好ましい。
【0041】
また、水蒸気バリア層4中の無機充填剤の含有率としては、具体的には、例えば、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、10質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上、40質量%以下であることがより好ましい。水蒸気バリア層4中の無機充填剤の含有率が、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、10質量%以上であることにより、水蒸気バリア層4の水蒸気バリア性を向上させ、多層シート1全体として水蒸気バリア性を劇的に向上させることができる。また、水蒸気バリア層4中の無機充填剤の含有率が、水蒸気バリア層4全体の質量に対して、50質量%以下であることにより、多層シート1の製膜性及び包装体への成形性が悪化するのを防ぐことができる。
【0042】
水蒸気バリア層4の1層の厚さとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、100μm以上、660μm以下であることが好ましく、225μm以上、640μm以下であることがより好ましい。水蒸気バリア層4の1層の厚さが200μm以上であることにより、水蒸気バリア性を十分に発現することができる。また、水蒸気バリア層4の1層の厚さが640μm以下であることにより、多層シート1を包装体へ成形しやすくすることができる。さらに、上記厚さが、225μm以上、640μm以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0043】
水蒸気バリア層4の2層の総厚の比率としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、多層シート1の総厚に対して、40%以上、87.5%以下であることが好ましく、45%以上、85%以下であることがより好ましい。水蒸気バリア層4の2層の総厚の比率が、多層シート1の総厚に対して、40%以上であることにより、シート全体として水蒸気バリア性を十分に発現することができる。また、水蒸気バリア層4の2層の総厚の比率が、多層シート1の総厚に対して、87.5%以下であることにより、水蒸気バリア性に加え、十分な酸素バリア性を確保することができる。さらに、上記比率が、45%以上、85%以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0044】
水蒸気バリア層4の水蒸気透過量としては、具体的には、例えば、40℃、90%RHの雰囲気下において、0.6g/m・day以下が好ましく、0.55g/m・day以下がより好ましく、0.5g/m・day以下が特に好ましい。水蒸気バリア層4の水蒸気透過量が、40℃、90%RHの雰囲気下において、0.6g/m・day以下であることにより、酸素バリア層2への水蒸気透過量が減少し、酸素バリア層2の吸湿による酸素バリア性の低下が抑制され、さらに酸素バリア層2が水蒸気バリア性を十分に発現することができる。さらに、上記水蒸気透過量が、0.55g/m・day以下、0.5g/m・day以下でれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0045】
なお、水蒸気バリア層4の水蒸気透過量の測定は、JIS−Z 0208法に記載の方法に準拠して行うことができる。
【0046】
表面層5,6は、多層シート1にシール性や光沢性を付与するために、多層シート1の両側の最表層となるように、それぞれ設けられている。すなわち、表面層5,6は、水蒸気バリア層4にそれぞれ隣接するように積層されている。ここで、多層シート1をトレイに成形する際、例えば、表面層5を内側(内表面)に設けた場合、表面層5はシール性を付与する機能を発揮するため、トレイと蓋材とのシール強度のばらつきを抑えると同時に、シール性を向上させることができる。一方、外側(外表面)となる表面層6は、光沢性を付与するため、トレイのつやを向上して、優れた外観を付与することができる。
【0047】
内表面となる表面層(以下、「内表面層」ともいう)5に含まれる樹脂としては、水蒸気バリア層4や、(トレイに成形した際に)蓋材等に接着することができる樹脂であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系の樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ハロゲン系樹脂等が挙げられる。表面層5は、上記樹脂を1種類含むものでもよいし、2種類以上を含むものでもよい。上記樹脂を選択することで、多層シート1を成形してトレイとした際に、当該トレイと蓋材とのシール強度を十分に確保することができる。
【0048】
より具体的には、表面層5として上記樹脂を1種類含む場合、ポリプロピレン(PP)、またはポリエチレンを選択することが好ましい。また、上記樹脂を2種類以上含む場合、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)を選択することが好ましい。
【0049】
また、内表面となる表面層5は、無機充填剤を含有しないことが好ましい。すなわち、表面層5は、樹脂のみからなる層であることが好ましい。
【0050】
ところで、水蒸気バリア層4は、上述したように無機充填剤を含むことが好ましい。しかしながら、無機充填剤を含有する樹脂層を多層シート1の最表層とした場合、多層シート1を成形したトレイと蓋材とのシール強度のばらつきが大きくなり、十分なシール性を得ることができないおそれがある。これに対して、無機充填剤を含まない表面層5を多層シート1の最表層とすることにより、シール強度のばらつきを抑え、シール性を向上させることができる。
【0051】
さらに、内表面となる表面層5が無機充填剤を含まないことにより、多層シート1の製造時に多層シート1がダイリップと接着した際に、ダイリップへ無機充填剤等が付着することにより生産性が低下するのを防止することができる。
【0052】
なお、表面層5(あるいは表面層6)に含まれる樹脂は、上述した水蒸気バリア層4に含まれる樹脂と同一であっても良いし、異なっていてもよい。
【0053】
一方、外表面となる表面層(以下、「外表面層」ともいう)6に含まれる樹脂としては、表面層5と同様のものを用いることができる。また、表面層6は、表面層5と同様に、無機充填剤を含有しないことが好ましい。
【0054】
ところで、水蒸気バリア層4は、上述したように無機充填剤を含むことが好ましい。しかしながら、無機充填剤を含有する樹脂層を多層シート1の最表層とした場合、多層シート1の光沢性が失われるおそれがある。これに対して、無機充填剤を含まない表面層6を多層シート1の最表層とすることにより、多層シート1の光沢性を十分に担保することができる。
【0055】
表面層5,6の厚さとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、12.5μm以上、280μm以下であることが好ましく、25μm以上、200μm以下であることがより好ましい。表面層5,6の厚さが12.5μm以上であれば、シール強度の安定化と光沢性を十分に発現することができる。また、表面層5,6の厚さが280μm以下であれば、水蒸気バリア性を十分に発現することができる。さらに、上記厚さが、25μm以上、200μm以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0056】
表面層5,6を合せた厚みの比率としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、多層シート1の総厚に対して、2.5%以上、56%以下であることが好ましく、5%以上、40%以下であることがより好ましい。表面層5,6を合せた厚みの比率が、多層シート1の総厚に対して、2.5%以上であれば、シール強度の安定化と光沢性を十分に発現することができる。また、上記比率が、多層シート1の総厚に対して、56%以下であれば、十分な水蒸気バリア性を確保することができる。さらに、上記比率が、5%以上、40%以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0057】
本実施形態の多層シート1の総厚としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、500μm以上、1500μm以下であることが好ましく、800μm以上、1350μm以下であることがより好ましい。多層シート1の総厚が500μm以上であれば、水蒸気バリア性及び酸素バリア性の両方を十分に発現することができる。また、多層シート1の総厚が1500μm以下であれば、容器形状への成形サイクルを短くすることができる。さらに、上記総厚が、800μm以上、1350μm以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0058】
本実施形態の多層シート1の水蒸気バリア性としては、具体的には、JIS−Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15g/m・day以下であることが好ましく、0.13g/m・day以下であることがより好ましく、0.10g/m・day以下であることが特に好ましい。
【0059】
多層シート1の40℃、90%RHの雰囲気下における水蒸気透過量が、0.15g/m・day以下であることにより、多層シート1を包装体に成形した場合、内容物を外部の水分から十分に保護することが可能となり、水分に弱い内容物を長期的に保存することが可能となる。また、内容物が液体を含む場合には、内容物からの水分の蒸発を防ぐことが可能となり、長期的に内容物の液体濃度を維持することができる。
【0060】
その結果、従来の包装体では水蒸気バリア性が低く、短期間で廃棄となっていた商品の使用期間を延長することが可能となり、廃棄物の量を減らすことが可能となる。そのため、製品のトータールコストや製品及び包装体の廃棄量を減らすことができる。
【0061】
さらに、上記水蒸気透過量が、0.13g/m・day以下、0.10g/m・day以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0062】
なお、多層シート1の水蒸気透過量の測定は、JIS−Z 0208法に記載の方法に準拠して行うことができる。を用いて行うことができる。
【0063】
本実施形態の多層シート1の酸素バリア性としては、具体的には、例えば、25℃、60%RHの雰囲気下において、酸素透過量が0.35cc/m・day以下であることが好ましく、0.3cc/m・day以下であることがより好ましく、0.25cc/m・day以下であることが特に好ましい。
【0064】
多層シート1の25℃、60%RHの雰囲気下における酸素透過量が、0.35cc/m・day以下であれば、多層シート1を包装体に成形した場合、内容物を外部の酸素から十分に保護することが可能となり、内容物の酸化、劣化、腐敗、錆等の発生を防ぎ、内容物を長期的に保存することができる。また、酸化防止剤を使用せずに内容物を長期保存することができるため、包装体に酸化防止剤を同封する手間が省けると同時に、酸化防止剤の誤飲を防ぐことが可能となる。
【0065】
さらに、上記酸素透過量が、0.3cc/m・day以下、0.25cc/m・day以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0066】
なお、多層シート1の酸素透過量の測定は、酸素透過率測定装置(例えば、MOCON社製、「OX−TRAN MODEL 2/21」等)を用いて、JIS K 7126B法に記載の方法に準拠して行うことができる。
【0067】
本実施形態の多層シート1の内表面側となる表面層5(あるいは表面層6)の表面の光沢度としては、具体的には、例えば、60°において10以上、40以下であることが好ましく、15以上、35以下であることがより好ましく、18以上、30以下であることが特に好ましい。光沢度が10以上であれば、多層シート1を2次成形して得たトレイと蓋材とのシール強度のばらつきを抑えることができる。また、光沢度が40以下であれば、多層シート1,1同士が接着するのを防止し、多層シート1を扱いやすくすることができる。さらに、上記光沢度が、15以上、35以下、18以上、30以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0068】
本実施形態の多層シート1の外表面側となる表面層6(あるいは表面層5)の表面の光沢度としては、具体的には、例えば、60°において70以上、98以下であることが好ましく、72.5以上、97以下であることがより好ましく、75以上、96以下であることが特に好ましい。光沢度が70以上であれば、多層シート1を2次成形して得たトレイのつやを向上し、見た目を改善することができる。また、光沢度が98以下であれば、つやが十分であり見た目を十分に満たすことができる。さらに、上記光沢度が、72.5以上、97以下、75以上、96以下であれば、上記効果がより顕著に得られる。
【0069】
なお、多層シート1の光沢度の測定は、光沢計(例えば、日本電色工業社製、「PG−1」等)を用いて、JIS Z 8741に記載の方法に準拠して行うことができる。
【0070】
<多層シートの製造方法>
次に、上述した多層シート1の製造方法について説明する。
本実施形態の多層シート1の製造方法は、特に限定されるものではないが、数台の押出機により、原料となる樹脂等を溶融押出するフィードブロック法やマルチマニホールド法等の共押出Tダイ法、空冷式又は水冷式共押出インフレーション法及びラミネート法が挙げられる、この中でも、共押出Tダイ法で製膜する方法が各層の厚さ制御に優れる点で特に好ましい。
【0071】
その後の工程として、各層を形成する単層のシート又はフィルムを適当な接着剤を用いて貼り合せるドライラミネート法、押出ラミネート法、ホットメルトラミネート方法、ウエットラミネート方法、サーマル(熱)ラミネート方法等、及びそれらの方法を組み合わせて用いられる。また、コーティングによる方法で積層してもよい。
【0072】
また、無機充填剤を添加する際には、二軸混練機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で事前混練したものを使用した方がシート性能及びシート製膜時の無機充填剤の飛散によるコンタミを防ぐことができるため、より好ましい。
【0073】
<包装体>
次に、上述した多層シート1を用いた包装体について説明する。図2は、本発明を適用した一実施形態である包装体11の断面模式図である。図2に示すように、本実施形態の包装体11は、トレイ12と、蓋材13と、を備えて概略構成されている。
【0074】
本実施形態の包装体11は、内容物14として、例えば、医薬品、製剤、輸液製剤、血液製剤、医療機器、化粧品、医薬部外品、食品、飲料、工業部品、電子部品、電化製品等を包装する際に用いることができる。また、上記内容物14を包装した一次包装体の二次包装容器としても用いることができる。さらに、多層シート1は耐熱性を有しているため、レトルトや滅菌等が必要な内容物14であっても、適用することができる。
【0075】
トレイ12は、多層シート1を2次成形することで得られる。具体的には、多層シート1を凹ませることで、収納空間Sと、この収納空間Sの周りに端縁部15と、を成形する。
【0076】
多層シート1からトレイ12を2次成形する方法としては、特に限定されないが、具体的には、例えば、真空成形、圧空成形、圧空真空成形、プラグアシスト圧空成形、プラグアシスト真空成形、プラグアシスト圧空真空成形、プラグ成形、プレス成型等が挙げられる。
【0077】
蓋材13は、トレイ12の端縁部15において内表面側となる表面層5と接着している。これにより、収納空間Sが密封される。蓋材13の材料としては、トレイ12と接着するものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、アルミ、透明蒸着フィルム等が挙げられる。
【0078】
本実施形態の包装体11は、収納空間S側から、酸素バリア層2と、水蒸気バリア層4と、外表面となる表面層6とが、この順番で積層されていることが好ましい。これにより、酸素バリア層2の吸湿による酸素バリア性の低下を抑制し、包装体11の水蒸気バリア性及び酸素バリア性が最大限に発揮されることで、内容物14の保護期間の長期化が可能となる。
【0079】
また、本実施形態の包装体11は、収納空間S側から、内表面となる表面層5と、第1の水蒸気バリア層4と、酸素バリア層2と、第2の水蒸気バリア層4と、外表面となる表面層6とが、この順番で積層されていることが好ましい。すなわち、酸素バリア層2の両側に水蒸気バリア層4,4が設けられていることが好ましい。これにより、外部からの水蒸気バリア性及び酸素バリア性が十分に発揮されると同時に、収納空間S側からの水分蒸発を防ぐことが可能となる。
【0080】
以上説明したように、本実施形態の多層シート1によれば、水蒸気バリア層4と酸素バリア層2と表面層5,6とを有し、両側の最表層に表面層5,6が積層されており、水蒸気バリア層4が高密度ポリエチレン(HDPE)を含むとともに、JIS−Z 0208に規定のカップ法によって測定した、40℃、90%RHの条件における水蒸気透過量が、0.15(g/m・day)以下であるであるため、高い水蒸気バリア性を有する多層シート1を提供することができる。
【0081】
また、本実施形態の多層シート1によれば、25℃、60%RHでの酸素透過量が0.35cc/m・day以下であるとともに、内表面側に表面層5を設けた際の表面の光沢度が、60°において10以上、40以下であるため、酸素バリア性及びシール性にも優れる。
【0082】
また、本実施形態の多層シート1によれば、外表面側に表面層6を設けた際の表面の光沢度が、60°において70以上、98以下であるため、多層シート1を2次成形してトレイを作製した際に、トレイのつやを向上し、見た目に優れる。
【0083】
また、本実施形態のトレイ12によれば、上記多層シート1を2次成形することで得られるため、酸素バリア性及びシール性、特に水蒸気バリア性に優れる。
【0084】
また、本実施形態の包装体11によれば、上記トレイ12と、蓋材13とを備えるため、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れる。
【0085】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。例えば、上述した多層シート1は、基本的な性能を損なわない範囲で結晶核剤、石油樹脂、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、アンチブロッキング剤、界面活性剤、染料、顔料、難燃剤、消臭剤、可塑剤、分散剤等の添加剤を、多層シート1に含まれる1つ以上の層に添加したものであってもよい。このような層を含むことで、多層シート1及び包装体11の生産性の向上、劣化の防止、及び識別性の付与が可能となる。
【0086】
また、上述した多層シート1は、外表面層6を備える構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、外表面層6を備えない構成であってもよい。
【0087】
また、上述した多層シート1は、接着層3、水蒸気バリア層4を2層ずつ備える構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、接着層3、水蒸気バリア層4は、それぞれ1層のみ備える構成としてもよいし、それぞれ2層以上備える構成としてもよい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0089】
<多層シートの作製>
(実施例1)
図1に示す構成の多層シートを、以下の手順で作製した。
先ず、酸素バリア層に含まれる樹脂として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(クラレ社製、品番:F101A)を用意した。
また、第1及び第2の接着層に含まれる樹脂として、無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学社製、品番:NF536)を用意した。
また、第1及び第2の水蒸気バリア層に含まれる樹脂として、高密度ポリエチレン(旭化成ケミカル社製、品番:B161)を用意した。
また、第1及び第2の水蒸気バリア層に含まれる無機充填剤として、タルク(日本タルク社製、品番:K−1)を用意した。
また、内表面層及び外表面層に含まれる樹脂として、ポリプロピレン(住友化学社製、品番:住友ノーブレンFS2011DG2)を用意した。
【0090】
次に、内表面層と、第1の水蒸気バリア層と、第1の接着層と、酸素バリア層と、第2の接着層と、第2の水蒸気バリア層と、外表面層とを、この順番で共押出成形して多層シートを作製した。その際、第1及び第2の水蒸気バリア層では、高密度ポリエチレンが67質量%、タルクが33質量%となるように、混合比を調整した。また、シートを冷却ロールに固定する際にはエンボスタッチロールを使用し、その固定圧力を0.2MPaとした。
【0091】
なお、多層シートの総厚は1000μmであった。多層シートの総厚に対する、各層の厚さの比率は、内表面層が10%、第1の水蒸気バリア層が35.0%、第1の接着層が2.5%、酸素バリア層が5%、第2の接着層が2.5%、第2の水蒸気バリア層が35.0%、外表面層が10%であった。
【0092】
(実施例2)
外表面層の樹脂をポリプロピレン75質量%、ポリエチレン25質量%とした以外は実施例1と同様にして、多層シート1を作製した。
【0093】
なお、多層シートの総厚は1000μmであった。多層シートの総厚に対する、各層の厚さの比率は、内表面層が10%、第1の水蒸気バリア層が35.0%、第1の接着層が2.5%、酸素バリア層が5%、第2の接着層が2.5%、第2の水蒸気バリア層が35.0%、外表面層が10%であった。
【0094】
(実施例3)
水蒸気バリア層と酸素バリア層の厚さの比率を代えた以外は実施例1と同様にして、多層シート1を作製した。
【0095】
なお、多層シートの総厚は1000μmであった。多層シートの総厚に対する、各層の厚さの比率は、内表面層が10%、第1の水蒸気バリア層が32.5%、第1の接着層が2.5%、酸素バリア層が10%、第2の接着層が2.5%、第2の水蒸気バリア層が32.5%、外表面層が10%であった。
【0096】
(実施例4)
第1及び第2の水蒸気バリア層を、高密度ポリエチレン59質量%、タルクが33質量%、石油樹脂が8質量%となるように混合比を調整した以外は実施例1と同様にして、多層シート1を作製した。
【0097】
なお、多層シートの総厚は1000μmであった。多層シートの総厚に対する、各層の厚さの比率は、内表面層が10%、第1の水蒸気バリア層が35.0%、第1の接着層が2.5%、酸素バリア層が5%、第2の接着層が2.5%、第2の水蒸気バリア層が35.0%、外表面層が10%であった。
【0098】
(実施例5)
外表面層の樹脂をポリプロピレン75質量%、ポリエチレン25質量%とした以外は実施例3と同様にして、多層シート1を作製した。
【0099】
なお、多層シートの総厚は1000μmであった。多層シートの総厚に対する、各層の厚さの比率は、内表面層が10%、第1の水蒸気バリア層が35.0%、第1の接着層が2.5%、酸素バリア層が5%、第2の接着層が2.5%、第2の水蒸気バリア層が35.0%、外表面層が10%であった。
【0100】
(比較例1)
第1及び第2の水蒸気バリア層を、ポリプロピレン70質量%、タルクが30質量%、となるように、混合比を調整し、第1及び第2の接着層に含まれる樹脂として、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学社製、品番:ER313E−1)を使用した以外は実施例1と同様にして、多層シート1を作製した。
【0101】
なお、多層シートの総厚は1000μmであった。多層シートの総厚に対する、各層の厚さの比率は、内表面層が10%、第1の水蒸気バリア層が32.5%、第1の接着層が2.5%、酸素バリア層が10%、第2の接着層が2.5%、第2の水蒸気バリア層が32.5%、外表面層が10%であった。
【0102】
(比較例2)
内表面層、外表面層を付与しないこと以外は実施例1と同様にして、多層シート1を作製した。
【0103】
なお、多層シートの総厚は1000μmであった。多層シートの総厚に対する、各層の厚さの比率は、第1の水蒸気バリア層が45%、第1の接着層が2.5%、酸素バリア層が5%、第2の接着層が2.5%、第2の水蒸気バリア層が45%であった。
【0104】
<水蒸気バリア性の評価>
実施例1〜5、比較例1〜2で作製した多層シート、及び水蒸気バリア層(単層)について、水蒸気バリア性の評価を行った。水蒸気バリア性の評価は、40℃、90%RHの雰囲気下における、水蒸気透過量を測定することにより行った。結果を表1に示す。
なお、水蒸気バリア層(単層)について、水蒸気透過量は、JIS−Z 0208法に記載の方法に準拠して行った。
また、多層シートについて、水蒸気透過量は、JIS−Z 0208法に記載の方法に準拠して行った。
【0105】
<酸素バリア性の評価>
実施例1〜5、比較例1〜2で作製した多層シートについて、酸素バリア性の評価を行った。酸素バリア性の評価は、25℃、60%RHの雰囲気下における、酸素透過量を測定することにより行った。なお、酸素透過量の測定は、酸素透過率測定装置(例えば、MOCON社製、「OX−TRAN MODEL 2/21」等)を用いて、JIS K 7126B法に記載の方法に準拠して行った。結果を表1に示す。
【0106】
<光沢度の評価>
実施例1〜5、比較例1〜2で作製した多層シートについて、光沢度の評価を行った。光沢度の評価は、多層シート1の内表面層及び外表面層に対して、60°における光沢度を測定することにより行った。なお、光沢度の測定は、光沢計(日本電色工業社製、「PG−1」)を用いて、JIS Z 8741に記載の方法に準拠して行った。また、測定は10回行い、各回の平均値及び偏差を求めた。結果を表1に示す。
【0107】
<成形性および外観の評価>
実施例1〜5、比較例1〜2で作製した多層シートを、凹ませてカップ状のトレイに真空成形した際の成形性および外観を評価した。結果を表1に示す。なお、表1の「成形性および外観」の項目について、「○」は形状通りに均一に成形できており、外観が良好であることを示し、「×」は形状が出ていない、又は表面が荒れており、外観が不良であることを示している。
【0108】
【表1】
【0109】
表1に示すように、実施例1〜5の多層シートによれば、水蒸気バリア層が高密度ポリエチレン(HDPE)を主成分として含むため、水蒸気透過量が0.15g/m・day以下であり、非常に優れた水蒸気バリア性を有していることを確認した。
【0110】
また、実施例1〜5の多層シートによれば、ポリプロピレン(PP)、またはポリプロピレン及びポリエチレンを主成分とする内表面層及び外表面層を有するため、成形性及び外観にも優れていることを確認した。
【0111】
これに対して、比較例1の多層シートによれば、水蒸気バリア層がポリプロピレン(PP)を主成分として含むため、水蒸気透過量が0.16g/m・dayであり、0.15g/m・day以下という非常に優れた水蒸気バリア性は得られなかった。
【0112】
また、比較例2の多層シートによれば、高密度ポリエチレン(HDPE)を主成分とする水蒸気バリア層が当該多層シートの層厚の90%であるため、0.15g/m・day以下という非常に優れた水蒸気バリア性が得られたが、内表面層及び外表面層を有しないため、成形性及び外観に劣っていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の多層シートは、医薬品、製剤、輸液製剤、血液製剤、医療機器、食品、飲料、工業部材、電子部品等の包装材として利用可能性がある。また、本発明のトレイ及び包装体は、医薬品、化粧品、医薬部外品、製剤、輸液製剤、血液製剤、医療機器、食品、飲料、工業部材、電子部品等を包装するのに利用可能性がある。
【符号の説明】
【0114】
1…多層シート
2…酸素バリア層
3…接着層
4…水蒸気バリア層
5…表面層(内表面層)
6…表面層(外表面層)
11…包装体
12…トレイ
13…蓋材
14…内容物
15…端縁部
S…収納空間
図1
図2