特許第6805612号(P6805612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805612
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】冷却装置および制御装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20201214BHJP
   F25B 5/00 20060101ALI20201214BHJP
   F25D 13/00 20060101ALI20201214BHJP
   F25B 5/02 20060101ALI20201214BHJP
   F25D 11/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   F25B1/00 371F
   F25B5/00 301C
   F25D13/00 101F
   F25B5/02 510G
   F25D11/00 101Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-152312(P2016-152312)
(22)【出願日】2016年8月2日
(65)【公開番号】特開2018-21696(P2018-21696A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年7月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】城戸 武志
(72)【発明者】
【氏名】田村 武史
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−047418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00−1/10
F25B 5/00−5/02
F25D 11/00−13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍機と、
前記冷凍機によって冷却される冷却機器と、
前記冷凍機および前記冷却機器の状態を取得し、取得した前記冷凍機および前記冷却機器の状態に基づいて冷却負荷および冷却能力の過不足を取得し、取得した前記過不足に基づいて前記冷凍機の出力の制御目標値の決定を行う制御部とを備え、
前記制御部は、前記冷却負荷の急があった場合に、前記制御目標値に前記冷却機器の庫内の温度に対応する補正量を加えて、前記制御目標値と前記補正量とに基づき前記冷凍機の出力を制御するように構成されており
前記制御部は、前記冷却機器の庫内の温度が第1閾値を超える場合には、前記制御目標値に前記補正量として第1補正量を加えるとともに、前記冷却機器の庫内の温度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値を超える場合には、前記制御目標値に前記補正量として前記第1補正量よりも大きい第2補正量を加えるように構成されている、冷却装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記冷却負荷の変化量または変化率に基づいて、前記冷却負荷の急変の検出を行うとともに、急変の検出が行われた場合に、前記制御目標値に前記補正量を加える制御を行うように構成されている、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記冷却機器の冷却動作開始後一定時間経過後における前記冷却機器の庫内の温度の一定時間における温度変化量または温度変化率に基づいて、前記冷却負荷の急変の検出を行うように構成されている、請求項2に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記制御目標値と前記補正量とに基づいて前記冷凍機の出力の制御を行う場合に、前記冷却機器の庫内の温度変化量または温度変化率が変化した場合には、前記補正量を、前記冷却機器の庫内の温度に対応する補正量に更新するように構成されている、請求項3に記載の冷却装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記冷却負荷の急変がある可能性の高い時間帯で、かつ、前記冷却負荷の急変の検出があった場合に、前記制御目標値に前記補正量を加える制御を行うように構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の冷却装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記制御目標値に前記補正量を加えている間、前記制御目標値を前記冷却負荷の急変を検出した時点のものに固定するように構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の冷却装置。
【請求項7】
冷凍機および冷却機器の状態を取得し、取得した前記冷凍機および前記冷却機器の状態に基づいて冷却負荷および冷却能力の過不足を取得し、取得した前記過不足に基づいて前記冷凍機の出力の制御目標値の決定を行う制御部を備え、
前記制御部は、前記冷却負荷の急があった場合に、前記制御目標値に前記冷却機器の庫内の温度に対応する補正量を加えて、前記制御目標値と前記補正量とに基づき前記冷凍機の出力を制御するように構成されており
前記制御部は、前記冷却機器の庫内の温度が第1閾値を超える場合には、前記制御目標値に前記補正量として第1補正量を加えるとともに、前記冷却機器の庫内の温度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値を超える場合には、前記制御目標値に前記補正量として前記第1補正量よりも大きい第2補正量を加えるように構成されている、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷却装置および制御装置に関し、特に、冷却機器の冷却負荷に基づいて、冷凍機の冷却能力の制御を行う冷却装置および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷却機器の冷却負荷に基づいて、冷却機器に接続されている冷凍機の冷却能力の制御を行う冷却装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、1つまたは複数の冷却機器、および、1つまたは複数の冷却機器に共通に接続されている冷凍機を備える冷却装置において、冷却装置全体の冷却負荷に対する冷凍機の冷却能力の過不足を判定する制御部が設けられている。また、各冷却機器にはそれぞれ蒸発器が設けられており、蒸発器へ冷媒を流すことによって、冷却機器の冷却を行っている。また、各冷却機器にはそれぞれ電磁弁が設けられており、電磁弁の開動作および閉動作によって、蒸発器への冷媒の流れを開始および停止させるように構成されている。制御部は、庫内の温度が目標温度の範囲より高い冷却機器があれば、その冷却機器につながった電磁弁を開いて、冷媒を流し、冷却する。一方、庫内の温度が目標温度の範囲より低い冷却機器があれば、その冷却機器につながった電磁弁を閉じて、冷媒の流れを停止し、冷却を止める。ここで、制御部は、冷凍機の出力の過不足を、冷凍機および冷却機器の状態から判断し、過剰であれば出力を下げ、不足であれば出力を上げる。
【0004】
また、特許文献1の冷却装置では、外部からの熱量の流入がある程度限られた平常状態を前提として、温度の維持に必要となる程度に冷凍機の出力を大きく下げることにより、消費電力を低減するように構成されていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−318644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記特許文献1の冷却装置では、特に冷凍・冷蔵倉庫などにおいて、商品の入荷・出荷を除く時間帯など、冷却機器の扉の開閉などによる熱侵入が少なく冷却負荷が長時間安定する場合には、上記のように消費電力の低減を図るために冷凍機の出力を下げた場合にも、十分な冷却効果を期待できる。しかしながら、商品の入荷・出荷の時間帯など、冷凍機の冷却負荷が大きく変化する(急変する)場合には、消費電力の低減のために冷凍機の出力を下げていることに起因して、冷却負荷に対する冷凍機の出力の追従性が悪化すると考えられる。そこで、消費電力の低減を図りながら、冷却負荷に対する冷凍機の出力の追従性を向上させる冷却装置および制御装置が望まれている。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、消費電力の低減を図りながら、冷却負荷に対する冷凍機の出力の追従性を向上させることが可能な冷却装置および制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の局面による冷却装置は、冷凍機と、冷凍機によって冷却される冷却機器と、冷凍機および冷却機器の状態を取得し、取得した冷凍機および冷却機器の状態に基づいて冷却負荷および冷却能力の過不足を取得し、取得した過不足に基づいて冷凍機の出力の制御目標値の決定を行う制御部とを備え、制御部は、冷却負荷の急があった場合に、制御目標値に冷却機器の庫内の温度に対応する補正量を加えて、制御目標値と補正量とに基づき冷凍機の出力を制御するように構成されており制御部は、冷却機器の庫内の温度が第1閾値を超える場合には、制御目標値に補正量として第1補正量を加えるとともに、冷却機器の庫内の温度が第1閾値よりも大きい第2閾値を超える場合には、制御目標値に補正量として第1補正量よりも大きい第2補正量を加えるように構成されている
【0009】
この発明の第1の局面による冷却装置では、冷却負荷の急変があった場合に、制御目標値に補正量を加えて、制御目標値と補正量とに基づき冷凍機の出力を制御する制御部を設ける。これにより、冷却負荷に急変の検出があれば、制御目標値に補正量を加え、冷凍機の出力(冷却能力)を、急変に応じて一時的に増加させることができるので、冷却負荷に急変がある場合にも、冷却負荷に対する冷凍機の出力の追従性を向上させることができる。また、冷凍機および冷却機器の状態を取得し、取得した冷凍機および冷却機器の状態に基づいて冷却負荷および冷却能力の過不足を取得し、取得した過不足に基づいて冷凍機の出力の制御目標値の決定を行うように構成する。これにより、制御部は、冷却能力が過剰な場合には、制御目標値である冷凍機に含まれる圧縮機の運転周波数などを下げ、冷却能力が不足している場合には、圧縮機の運転周波数などを上げるので、冷却負荷の急変がない平常状態において、冷却負荷に対する冷凍機の出力を適正なものに保つことができる。この場合に、温度の維持に必要となる程度に冷凍機の出力を低下させるように構成すれば、消費電力を低減することができる。
【0010】
上記第1の局面による冷却装置において、好ましくは、制御部は、冷却負荷の変化量または変化率に基づいて、冷却負荷の急変の検出を行うとともに、急変の検出が行われた場合に、制御目標値に補正量を加える制御を行うように構成されている。このように構成すれば、冷却負荷の変化量または変化率が、たとえば、ある閾値を超えたか否かを判断することによって、容易に冷却負荷の急変の検出を行うことができる。
【0011】
上記冷却負荷の変化量または変化率に基づいて、冷却負荷の急変の検出を行う構成において、好ましくは、制御部は、冷却機器の冷却動作開始後一定時間経過後における冷却機器の庫内の温度の一定時間における温度変化量または温度変化率に基づいて、冷却負荷の急変の検出を行うように構成されている。このように構成すれば、冷却負荷は冷却機器の庫内の温度が上がれば増大するため、温度変化量または温度変化率が、たとえば、ある閾値を超えたか否かを判断することによって、容易に冷却負荷の急変の検出を行うことができる。
【0012】
この場合、好ましくは、制御部は、制御目標値と補正量とに基づいて冷凍機の出力の制御を行う場合に、冷却機器の庫内の温度変化量または温度変化率が変化した場合には、補正量を、冷却機器の庫内の温度に対応する補正量に更新するように構成されている。このように構成すれば、冷却負荷の急変に対応した冷却動作を始めてから冷却機器内の温度が増加し、冷却負荷がさらに増加した場合に、補正量が更新されるので、冷却負荷に対して冷凍機の出力をより適切に追従させることができる。
【0013】
上記第1の局面による冷却装置において、好ましくは、制御部は、冷却負荷の急変がある可能性の高い時間帯で、かつ、冷却負荷の急変の検出があった場合に、制御目標値に補正量を加える制御を行うように構成されている。このように構成すれば、冷却負荷の急変が頻繁にある可能性の高い時間帯で、かつ、冷却負荷の急変の検出があった場合は、冷凍機の出力の追従性を向上させることができるので、冷凍機の出力の増加が冷却負荷の増大に間に合わなくなることを防ぐことができる。また、冷却負荷が安定していて、冷却負荷の急変が続けて起こることがほとんどない時間帯は、補正量を用いないので、冷凍機の出力を低く抑えることにより、消費電力の低減を図ることができる。
【0014】
この発明の第2の局面による制御装置は、冷凍機および冷却機器の状態を取得し、取得した冷凍機および冷却機器の状態に基づいて冷却負荷および冷却能力の過不足を取得し、取得した過不足に基づいて冷凍機の出力の制御目標値の決定を行う制御部を備え、制御部は、冷却負荷の急があった場合に、制御目標値に冷却機器の庫内の温度に対応する補正量を加えて、制御目標値と補正量とに基づき冷凍機の出力を制御するように構成されており制御部は、冷却機器の庫内の温度が第1閾値を超える場合には、制御目標値に補正量として第1補正量を加えるとともに、冷却機器の庫内の温度が第1閾値よりも大きい第2閾値を超える場合には、制御目標値に補正量として第1補正量よりも大きい第2補正量を加えるように構成されている
【0015】
この発明の第2の局面による制御装置では、冷却負荷の急変があった場合に、制御目標値に補正量を加えて、制御目標値と補正量とに基づき冷凍機の出力を制御する制御部を設ける。これにより、冷却負荷に急変の検出があれば、制御目標値に補正量を加え、冷凍機の出力(冷却能力)を、急変に応じて一時的に増加させることができるので、冷却負荷に急変がある場合にも、冷却負荷に対する冷凍機の出力の追従性を向上させることができる。また、冷凍機および冷却機器の状態を取得し、取得した冷凍機および冷却機器の状態に基づいて冷却負荷および冷却能力の過不足を取得し、取得した過不足に基づいて冷凍機の出力の制御目標値の決定を行うように構成する。これにより、制御部は、冷却能力が過剰な場合には、制御目標値である冷凍機に含まれる圧縮機の運転周波数などを下げさせ、冷却能力が不足している場合には、圧縮機の運転周波数などを上げさせるので、冷却負荷の急変がない平常状態において、冷却負荷に対する冷凍機の出力を適正なものに保つことができる。この場合に、温度の維持に必要となる程度に冷凍機の出力を低下させるように構成すれば、消費電力を低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のように、消費電力の低減を図りながら、冷却負荷に対する冷凍機の出力の追従性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態による冷却装置の全体構成を示したブロック図である。
図2】本発明の一実施形態による冷却装置の制御部および制御装置の構成を示したブロック図である。
図3】本発明の一実施形態による冷却機器の庫内の温度変化グラフおよび制御の様子の一例を示した図である。
図4】本発明の一実施形態によるスケジュールの一例を示した図である。
図5】本発明の一実施形態による制御パラメータの一例を示した図である。
図6】本発明の一実施形態による制御部および制御装置の負荷変動検出・補正処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
まず、図1図6を参照して、本実施形態による冷却装置100の構成について説明する。
【0020】
(冷却装置の構成)
本実施形態による冷却装置100は、図1に示すように、6台の冷却機器1,2,3,4,5および6と、冷却機器1〜6に冷媒配管20を介して接続された1台の冷凍機10と、冷却機器1〜6および冷凍機10の運転を制御する制御装置30とを備える。
【0021】
(冷凍機の構成)
冷凍機10は、図1に示すように、圧縮機11と、凝縮器12と、凝縮器12を冷却する外気ファン13と、圧力センサ14とを備える。図2に示すように、圧縮機11と外気ファン13と圧力センサ14とが制御部300に電気的に接続されている。
【0022】
圧縮機11は、運転周波数(1秒間あたりの回転数)の変更により冷媒吐出量が制御可能なインバータ制御式となっている。ここでは、圧縮機11は、1台設けられている。凝縮器12は、高温高圧の冷媒を、外気と熱交換させることで熱を放出させ、凝縮させる。外気ファン13は、凝縮器12に外気を送風し、冷媒の熱交換を促進させる。圧力センサ14は、圧縮機11の吸入圧力を測定する。
【0023】
(冷却機器の構成)
冷却機器1,2,3,4,5および6は、図1に示すように、電磁弁1a,2a,3a,4a,5aおよび6aと、電子膨張弁1b,2b,3b,4b,5bおよび6bと、蒸発器1c,2c,3c,4c,5cおよび6cと、庫内ファン1d,2d,3d,4d,5dおよび6dと、温度センサ1e,2e,3e,4e,5eおよび6eとをそれぞれ備える。冷却機器1〜6は機器構成が基本的に同様であるので、以降では、代表して冷却機器1を説明する。説明の都合上、冷却機器2〜6の構成についても適宜言及する。図1に示すように、冷却機器1(2〜6)と冷凍機10とによって冷媒を循環させる冷凍サイクル装置が構成されている。また、冷却機器1〜6は、冷却機器1〜6が置かれた部屋の屋外または屋内の機械室等に設置された冷凍機10に対して冷媒配管20を介して互いに並列に接続されている。なお、冷却機器1〜6は、たとえば、ショーケース、ユニットクーラ、冷凍・冷蔵倉庫などが含まれる。また、本実施形態においては、圧縮機11は1台としたが、複数台として構成することもできる。また、冷却機器1〜6の台数についても、6台に限らず、必要に応じて、1台または複数台の範囲で増減させて構成することもできる。
【0024】
冷媒配管20の内部を流れる冷媒は、圧縮機11から矢印P方向に吐出され、凝縮器12を経た後に分流して蒸発器1cに流通した後、圧縮機11に戻される。電磁弁1aは、全開および全閉の動作のみが可能である。電磁弁1a〜6aのいずれかが閉栓状態に制御された場合、対応する蒸発器1c〜6cのいずれかには冷媒が流通しないことになり、その冷却機器は、冷却運転が停止される。電子膨張弁1bは、開栓の開き具合を調整することができるので、蒸発器1cに向かう冷媒の流量をコントロールすることが可能である。蒸発器1cは、対応する電子膨張弁1bによって絞り膨張し低温低圧の液体と気体が混ざった冷媒湿り蒸気に、蒸発器1cを介して庫内の空気の熱を移し、冷媒過熱蒸気に変えることで、庫内の温度を冷やす。庫内ファン1dは、冷却機器1の庫内と蒸発器1cとの間で冷気を循環させ、また、蒸発器1cによる冷媒の蒸発を促進させる。温度センサ1eは、冷却機器1の庫内および蒸発器1cの温度を検出する。また、図2に示すように、電磁弁1aと、電子膨張弁1bと、庫内ファン1dと、温度センサ1eとが制御部300に通信回線81によって電気的に接続されている。
【0025】
冷却機器1の運転内容としては、庫内の設定の温度範囲と温度センサ1eにより検出される庫内の温度の現在値との比較に基づいて、制御部300により電磁弁1aが開栓状態または閉栓状態に制御される。電磁弁1aが開かれると冷凍機10からの冷媒が電子膨張弁1bを経て蒸発器1cに流通される。電子膨張弁1bの開度制御とともに蒸発器1cへの冷媒流量が制御されて冷却能力が発揮される。庫内の温度が設定値に達すると電磁弁1aが閉栓状態に切り替えられて蒸発器1cの冷却動作が停止される。そして、庫内の温度が設定値未満になると、再び電磁弁1aが開状態に切り替えられて蒸発器1cの冷却動作が再開される。これにより、冷却機器1の庫内の温度が設定の温度範囲に保たれる。冷却機器2〜6についても、運転内容は同様である。したがって、同じ時刻における冷却機器1〜6の運転状態(電磁弁1a〜6aの各々の開閉状態など)に応じて、冷凍機10の出力も変動する。この場合、冷却機器の運転台数(電磁弁1a〜6aの開栓状態の数)に対応して設定された圧縮機11の吸入圧力設定値と現在の吸入圧力との差に基づいて圧縮機11の運転周波数の制御が行われる。これにより、冷凍サイクル装置内を循環する冷媒量が調整される。
【0026】
(制御装置の構成)
制御装置30は、図2に示すように、CPUおよびメモリなどを含むハードウェアとしての制御部300を含む。また、制御部300は、ソフトウェアとしての機能ブロックとして、冷却機器通信・制御部301と、冷凍機通信・制御部302と、運転率算出部303と、負荷変動検出・補正部306と、制御目標値決定部304と、スケジュール管理部305とを含む。そして、図1および図2に示すように、冷凍機10と制御部300とは通信回線80を介して通信可能に接続されている。また、冷却機器1〜6と制御部300とは通信回線81を介して通信可能に接続されている。
【0027】
ソフトウェアからなる機能ブロックとしての冷却機器通信・制御部301は、電磁弁1aの開栓と閉栓の変更を制御し、電子膨張弁1bの開度状態の変更を制御する。また、冷却機器通信・制御部301は、冷却機器1の庫内および蒸発器1cの温度の情報を温度センサ1eから取得し、庫内ファン1dの送風出力を制御する。さらに、冷却機器通信・制御部301は、取得した冷却機器1の庫内および蒸発器1cの温度の情報を運転率算出部303および負荷変動検出・補正部306に送出する。
【0028】
ソフトウェアからなる機能ブロックとしての冷凍機通信・制御部302は、圧縮機11運転周波数を制御する。また、冷凍機通信・制御部302は、外気ファン13の送風出力を制御し、圧力センサ14から圧縮機11の吸入圧力の情報を取得する。さらに、冷凍機通信・制御部302は、取得した圧縮機11の吸入圧力の情報を制御目標値決定部304に送出する。
【0029】
ソフトウェアからなる機能ブロックとしての運転率算出部303は、冷却機器通信・制御部301を介して冷却機器1〜6から伝達された、冷却機器1〜6全体の庫内の温度や電磁弁1a〜6a全体の開・閉栓状態から算出される電磁弁1a〜6aの開閉率などから、冷却装置100の運転率、および、冷却機器1〜6の庫内を目標の温度範囲に変化させまたは維持するために取り除くべき熱量である冷却負荷を算出する。
【0030】
ソフトウェアからなる機能ブロックとしての制御目標値決定部304は、運転率算出部303から取得した冷却負荷および冷却機器1の状態と、冷凍機通信・制御部302から得た冷凍機10の状態から、冷却機器1〜6の庫内の温度を目標の温度範囲に変化させまたは維持するために到達すべき制御目標値を算出し、決定する。なお、制御目標値は、圧縮機11の運転周波数、圧縮機11の吸入圧力、蒸発器1cにおける冷媒の蒸発温度などの目標値である。そして、現在の冷却機器1および冷凍機10の状態を制御目標値に向けて変化させるために、通信回線81および80を介して、圧縮機11の運転周波数と、電磁弁1aおよび電子膨張弁1bの開度状態とを変更させる。
【0031】
ソフトウェアからなる機能ブロックとしてのスケジュール管理部305は、あらかじめスケジュール時間と制御パラメータとが入力されている。また、スケジュール管理部305は、現在が冷却負荷の急変がある可能性の高い時間帯かどうかを判断し、スケジュール時間か否かの結果および制御パラメータを運転率算出部303および負荷変動検出・補正部306に送出する。
【0032】
ソフトウェアからなる機能ブロックとしての負荷変動検出・補正部306は、現在がスケジュール時間内であるとの情報をスケジュール管理部305から取得した場合、運転率算出部303から取得した冷却負荷の変動が急変でないかどうかを判断する。冷却負荷の変動が急変であれば、制御目標値決定部304で算出した制御目標値に、さらに補正量を加えて、冷凍機10の出力を制御する。また、制御目標値に補正量を加える場合、制御目標値決定部304に、制御目標値を、補正を加えた時点のものに固定させる。
【0033】
なお、制御部300と冷却機器2〜6との関係については、冷却機器1と同様であるので、説明を省略する。
【0034】
ここで、本実施形態では、制御部300は、冷凍機10および冷却機器1〜6の状態を取得し、取得した冷凍機10および冷却機器1〜6の状態に基づいて冷却負荷および冷却能力の過不足を取得し、取得した過不足に基づいて冷凍機10の出力の制御目標値の決定を行うように構成されている。また、制御部300は、冷却負荷の急変があった場合に、制御目標値に補正量を加えて、制御目標値と補正量とに基づき冷凍機10の出力を制御するように構成されている。
【0035】
また、制御部300は、冷却負荷の変化量に基づいて、冷却負荷の急変の検出を行うとともに、急変の検出が行われた場合に、制御目標値に補正量を加える制御を行うように構成されている。
【0036】
また、制御部300は、冷却機器1〜6の冷却動作開始後一定時間経過後における冷却機器1〜6の庫内の温度の一定時間における温度変化量または温度変化率に基づいて、冷却負荷の急変の検出を行うように構成されている。
【0037】
また、制御部300は、制御目標値と補正量とに基づいて冷凍機10の出力の制御を行う場合に、冷却機器1〜6の庫内の温度変化量または温度変化率が変化した場合には、補正量を、冷却機器1〜6の庫内の温度に対応する補正量に更新するように構成されている。
【0038】
また、制御部300は、冷却負荷の急変がある可能性の高い時間帯で、かつ、冷却負荷の急変の検出があった場合に、制御目標値に補正量を加える制御を行うように構成されている。
【0039】
また、制御部300は、制御目標値に補正量を加えている間、制御目標値を冷却負荷の急変を検出した時点のものに固定するように構成されている。
【0040】
(平常時における冷却装置の動作)
まず、冷却負荷が穏やかに変化する平常時における冷却装置100の動作について、簡単に説明する。平常時においては、圧縮機11や電子膨張弁1b〜6bは、制御装置30により、制御目標値のみに合わせて制御されている。また、冷却機器1〜6は、それぞれ上限値Tonと下限値Toffの範囲を持ったある目標温度を設定されている。
【0041】
冷却装置100は、様々な状態を時々刻々と移り変わっている。制御部300は、常時、冷却機器1〜6および冷凍機10の状態の取得を行い、制御している。ここでは、簡略化のために、冷却機器1〜6の庫内の温度すべてがそれぞれに設定された目標温度の設定範囲に収まり、電磁弁1a〜6aが全て閉栓され、しばらく経過した状態から説明を開始する。また、この平常時における冷却装置100の動作説明において、冷却機器2〜6の庫内の温度は、目標温度の設定範囲に常に収まっているとする。上記の状態において、蒸発器1c〜6c側において、電磁弁1a〜6aと圧縮機11との間にある冷媒は、圧縮機11により吸い出され、冷凍機10に回収されている。
【0042】
ここで、例として、冷却機器1の庫内の温度が変動する場合を説明する。冷却機器1の庫内の温度が目標温度の設定範囲の上限値Tonを超えると、電磁弁1aが開栓状態となり、圧力差から、冷媒が冷凍機10に含まれる凝縮器側から冷却機器1に含まれる蒸発器1c側に、電磁弁1aを通って流入する。蒸発器1cで蒸発した冷媒蒸気による吸入圧力を圧力センサ14が検知し、制御部300の制御により圧縮機11は運転を開始する。その結果、圧縮機11と、凝縮器12と、電子膨張弁1bと、蒸発器1cとで構成される冷凍サイクルにおいて、図1に示される矢印Pの方向に、冷媒の循環が始まる。ある程度の時間が経つと、冷却機器1の庫内の温度は下がり始め、目標温度の設定範囲の上限値Tonを下回る。庫内の温度はさらに下がり続け、目標温度の設定範囲の下限値Toffを下回れば、電磁弁1aを閉栓状態にして、冷媒の流れを止める。そして、冷却機器1側の冷媒は、圧縮機11により冷凍機10側に回収され、蒸発器1c〜6cに流れる冷媒がなくなるので、吸入圧力が下がり、圧縮機11は停止する。
【0043】
実際には、それぞれの冷却機器1〜6の庫内の目標温度は庫外よりも低いため、庫外からの熱進入により、庫内の温度は、冷媒を流さなければいずれ上昇していく。そして、冷却機器1〜6の庫内の温度に対応して、電磁弁1a〜6aは、それぞれが開栓と閉栓を繰り返している。そのため、熱進入と電磁弁1a〜6aの開閉とによって、庫内の温度は常に上下し、すべてが設定範囲に収まっているとは限らない。そこで、冷却装置100は、それぞれの冷却機器1〜6の庫内の温度を設定範囲に保ちつつ、できる限り冷凍機10の出力が無駄にならないように構成されているのが望ましい。そのため、制御部300は、圧縮機11の運転周波数(冷凍機10の出力)および電子膨張弁1b〜6bの開度を制御し、運転状態を常に適正なものに変更する。
【0044】
まず、電磁弁1a〜6aの内、閉じている時間が長いものの割合が多い場合、冷却装置100は、冷却機器1〜6の庫内の温度が設定範囲を超えた場合に、庫内の温度を短時間で設定範囲に戻すことができている。すなわち、流れている冷媒の冷却能力が高すぎると考えられる。したがって、制御部300は、冷媒の流量を減らすために、比較的庫内の温度の低い冷却機器1〜6に対応するいくつかの電子膨張弁1b〜6bの開度を減少させる。または、制御部300は、圧縮機11の運転周波数を下げさせる制御を行う。一方で、電磁弁1a〜6aの内、開いている時間が長いものの割合が多い場合、冷却装置100は、庫内の温度を設定範囲に戻すのに時間がかかりすぎている、または、設定範囲に戻すことができていない。すなわち、冷媒の冷却能力が足りていないと考えられる。したがって、制御部300は、冷媒の流量を増やすために、比較的庫内の温度の高い冷却機器1〜6に対応するいくつかの電子膨張弁1b〜6bの開度を増加させる。または、制御部300は、圧縮機11の運転周波数を上げさせる制御を行う。
【0045】
また、たとえば、冷媒の流量を変化させてしばらく経った後で、蒸発器1cの出口付近において冷媒蒸気の過熱度が高すぎる場合、冷媒の供給を増やす余地があり、十分な冷却効率が得られていないと考えられる。したがって、制御部300は、蒸発器1cに向かう冷媒の流量を増やすために、電子膨張弁1bの開度を増加させる。一方で、蒸発器1cの出口付近において冷媒蒸気の過熱度が低すぎる場合、圧縮機11に入る冷媒過熱蒸気が液体に戻る危険性がある。したがって、制御部300は、蒸発器1cに向かう冷媒の流量を減らすために、電子膨張弁1bの開度を減少させる。
【0046】
圧縮機11の運転周波数を上げれば、冷却能力が上がるものの、消費電力は上がる。また、たとえば、電子膨張弁1bの開度を増加させると、開度を増加させた電子膨張弁1bにつながる冷却機器1については冷媒の流量が増え冷却能力が上がるものの、その他の冷却機器2〜6については冷媒の流量が減り冷却能力が下がる。その結果、圧縮機11の運転周波数を上げる必要が生じ、消費電力は上がる。
【0047】
また、冷媒の蒸発温度が低下すると、蒸発器1c〜6c内の冷媒の蒸発量が低下する。その結果、蒸発器1c〜6cの出口付近における冷媒蒸気の密度が減少するため、圧縮機11に吸入される冷媒の量が減少し、冷却能力が下がる。また、圧縮機11の吸入圧力は下がる。
【0048】
そこで、制御目標値決定部304は、制御目標値である圧縮機11の運転周波数、圧縮機11の吸入圧力、蒸発器における冷媒の蒸発温度をシフトさせ、制御目標値に基づいて、圧縮機11の運転周波数と電子膨張弁1b〜6bの開度状態を制御するように構成されている。冷却機器の庫内の温度を設定範囲に保てる範囲で、圧縮機11の運転周波数をできるだけ低く抑えるように制御目標値を決定することにより、消費電力の低減を図ることができる。また、簡略化のために、主に冷却機器1を対象にして説明したが、冷却機器2〜6についても同様である。
【0049】
(負荷変動検出・補正時における冷却装置の動作)
図3図6を参照して、負荷変動検出・補正時(冷却負荷の急変検出時)における冷却装置100の動作について説明する。上記のように、平常時の運転では、庫内の温度の維持に必要となる程度に冷凍機10の出力を低下させている。また、冷却負荷は、常に変動している。制御目標値は、冷却装置100の効率化のため、ある程度の時間間隔(たとえば、30分間)における平均的な量によって算出している。ここで、たとえば、冷却機器1の温度が設定範囲の上限を超えれば、電磁弁1aが開栓状態となり、蒸発器1cに冷媒が流れ始め、冷却機器1の冷却が開始される。しかしながら、庫内の温度が短時間に大きく上昇する(急変する)と、低く抑えた出力で冷やしても、冷却が間に合わず、庫内の温度は上昇を続けることになってしまう。庫内の温度に急変があった場合には、外部からの熱量の流入がある程度限られた平常時を前提としてシフトさせる制御目標値だけでは、冷凍機10の出力に温度の急変が反映されるのが遅くなってしまう。つまり、消費電力の低減を図るように設定されている制御目標値では、庫内の温度に対する追従性が不十分である。そこで、冷却負荷が増大した場合に、冷凍機10の出力を制御目標値で上昇させるとともに、冷却負荷の急変に対応して補正量を加え、さらに出力を増大させるように構成する。
【0050】
急変に対する補正量の決定を、図3を参照して、具体的に説明する。図3のグラフは、冷却機器1の庫内の温度が時間によって変化する様子を示している。上から、冷却機器1の温度変化のグラフ、電磁弁1aの開閉状態の変遷、冷却装置100の制御の種類の変遷および制御目標値に加えられる補正量の変遷を表している。最初(時刻t1以前)、電磁弁1aが閉栓状態であり、かつ、冷却機器1の庫内の温度が設定範囲内に収まっている。庫内の温度が上昇し、時刻t1において庫内の温度が設定範囲の上限値Tonを超えると、制御部300は、電磁弁1aを開栓状態にさせて、庫内の冷却が開始される。冷却を始めても、すぐには温度が下がらないため、庫内の温度はしばらく上昇を続けるが、その後、庫内の温度は下降に転じる。時刻t2において、すなわち、電磁弁1aを開栓状態にしてから、応答時間trが経過した時点において、制御部300は、冷却機器1の庫内の温度を取得し、第1閾値T1を超えるか否かを判断する。今回は、庫内の温度が第1閾値T1以下であるので、制御部300は、温度の急変はなかったと判断し、制御目標値に補正量を加えない。その後、温度は下降を続ける。時刻t3において、設定範囲の下限値Toffに到達することにより、電磁弁1aは、閉栓状態となる。なお、応答時間trは、ある一定の短い時間であり、特許請求の範囲における「一定時間」の一例である。
【0051】
設定範囲を下回った庫内の温度は、再び上昇に転じ、設定範囲の下限値Toffを超えた後、しばらくは設定範囲内に収まる。その後、時刻t4において、再び設定範囲の上限値Tonを超えるので、制御部300は、電磁弁1aを開栓状態にさせる。時刻t4から応答時間trを経過した時刻t5において、庫内の温度が第1閾値T1を超えているため、制御部300(負荷変動検出・補正部306)は、冷却負荷の急変があったと判断し、たとえば、吸入圧力の制御目標値に第1補正量を加える。その結果、圧縮機11の運転周波数である冷凍機10の出力が上げられ、冷凍機10の冷却能力が増加する。その後、庫内の温度が下がり始め、時刻t6において、設定範囲の下限値Toffを下回り、電磁弁1aは閉栓状態となる。
【0052】
その後、庫内の温度はまた上昇を始めるが、時刻t7において、電磁弁1aが開栓状態となり、時刻t8において、庫内の温度が第1閾値T1に至り、制御部300が制御目標値に第1補正量を加えるまでは上記とほぼ同様である。しかしながら、第1補正量を加えた後、庫内の温度はさらに上昇を続けるため、時刻t9において、第2閾値T2を超える。この時点で、制御部300は、第1補正量を、より冷凍機10の出力を大きくする第2補正量に更新する。そして、庫内の温度は次第に下降に転じる。その後の経過は、他と同様で、時刻t10において、電磁弁1aは閉栓状態となる。なお、応答時間trが経過した時点で、庫内の温度が第2閾値T2を超えて高かった場合は、当初から第2補正量が加えられることになる。
【0053】
なお、制御目標値は、他の冷却機器2〜6との兼ね合いなどで、補正値を加えた後で下がる可能性もある。つまり、冷却負荷(庫内の温度)の急変があった冷却機器1〜6の温度が目標温度に下がりきる前に、冷凍機10の出力が下がってしまう可能性がある。そのため、制御部300(制御目標値決定部304)は、冷却負荷の急変を検出した時点から、急変を検出した冷却機器1の庫内の温度が設定範囲の下限値Toffを下回るまでの期間、急変を検出した時点の制御目標値に固定するように構成されている。また、図3のグラフは簡略化のために直線的に書いたが、実際には、庫内の温度は、上下に振れながら変動していく。したがって、冷却装置100が適切に動作するように、目標温度の設定範囲の上下幅である上限値Tonおよび下限値Toffと、冷却負荷の急変や加えるべき補正量の値を判断するための温度である第1閾値T1やよび第2閾値T2とは冷却装置100の能力や使用状況に応じて設定する必要がある。また、庫内の大きさ、庫内に入れる冷却対象物や目標温度などに応じて、これらの値は、冷却機器1〜6ごとに違ったものを設定する必要がある。
【0054】
(スケジュール管理)
上記のように構成すれば、庫内の温度の急変があった場合に、冷凍能力をすぐに上げることが可能で、庫内の温度をすぐに設定範囲まで下げることができる。しかしながら、庫内の温度の大きな上昇も、それほど頻度が多くなければ、必ずしも冷凍機10の出力を上げなくとも、元の出力のままで対応できる場合もある。その場合、消費電力の低減を図って設定される制御目標値の効果が薄れてしまうため、あらかじめ冷却負荷の急変がある可能性が高い時間帯で、かつ、冷却負荷の急変があった場合にのみ、制御目標値に対して補正量を加えるように構成されている。
【0055】
たとえば、商品の入荷・出荷時に、冷却機器1〜6の扉を長時間開放することによる熱進入や、商品の入荷時に、庫内より温度が高い状態の商品を搬入することによる熱負荷の増大などによって、冷却機器1〜6の庫内の温度が短時間に大きく上昇する場合を考える。一般に、商品の入荷・出荷の時間帯は予定されている。そのため、冷却装置100の使用者は、あらかじめ、スケジュール管理部305に、入荷・出荷の時間帯をスケジュール設定として入力しておく。スケジュール管理部305は、冷却負荷の急変の検出があり、かつ、スケジュール時間内であれば、負荷変動検出・補正部306により、制御目標値に補正量を加えさせる。また、急変の検出があっても、スケジュール時間外であれば、補正量は加えさせない。
【0056】
スケジュール時間は、たとえば、図4のように設定する。毎日、15:00から17:00までが入荷・出荷の時間であることを示している。また、夜間の入荷・出荷時間帯が月曜日は、20:00から6:00まであることを示している。また、火曜から日曜までは、19:00から4:00までであることを示している。また、12月31日は、大晦日のため、入荷・出荷時間帯が12:00から18:00となっている。
【0057】
(制御パラメータの具体例)
上記の応答時間tr、第1閾値T1・第2閾値T2および第1補正量・第2補正量を制御パラメータとする。具体的に、制御パラメータは、たとえば、図5のように設定される。ただし、第1偏差ΔT1は第1閾値T1と設定温度の上限値Tonとの間の差分であり、第2偏差ΔT2は第2閾値T2と設定温度の上限値Tonとの間の差分である。左側に書いた冷却機器a,bおよびcは、冷却機器1〜6のいずれかを表している。負荷変動検出・補正部306は、冷却機器aに対応する電磁弁(1a〜6aのいずれか)が開栓状態になってから応答時間trである60秒後に、冷却機器aの庫内の温度を取得する。冷却機器aの庫内の温度が、目標温度の設定範囲の上限値Tonから、第1偏差ΔT1である2.0K以上高ければ、一時的に、第1補正量として、吸入圧力の制御目標値にさらに0.2Mpaを加える。また、応答時間trである60秒が経過した時点において、庫内の温度が、設定範囲の上限値Tonより、第2偏差ΔT2である4.0K以上高ければ、第2補正量として、吸入圧力の制御目標値に0.4Mpaを加える。また、第1補正量または第2補正量を加えた場合に、制御目標値決定部304は、制御目標値を、第1補正量または第2補正量を加えた応答時間trである60秒経過時点のものに、固定する。
【0058】
また、第1補正量を加えた後も、冷却機器aの庫内の温度が上昇を続けたとする。冷却機器aの庫内の温度が、設定範囲の上限値Tonより、第2偏差ΔT2である4.0Kを超えれば、制御目標値決定部304は、第1補正量を第2補正量に更新し、吸入圧力の制御目標値に0.4Mpaを加える。第2補正量の加算の有無にかかわらず、その後、冷却機器aの温度が設定範囲の下限値Toffを下回れば、補正量を加える処理を停止し、平常時の運転に戻す。また、制御目標値決定部304は、消費電力を低減させるために、再び、制御目標値のシフトを始める。図4の冷却機器b,cについても同様である。また、制御パラメータは、庫内の大きさや目標温度に応じて、冷却機器1〜6ごとに違った値を設定する必要がある。
【0059】
(負荷変動検出・補正処理)
上記のような、スケジュール時間内外における、平常時、および、急変検出時における負荷変動検出・補正部306の動作が、まとめて、負荷変動検出・補正処理として制御されている。図6を参照して、冷却装置100の制御部300による負荷変動検出・補正処理について説明する。なお、負荷変動検出・補正処理は、冷却装置100の運転時に継続して行われる。
【0060】
図6のステップS1において、補正状態が補正なしか否かが判断される。補正状態=補正なしであれば(Yes)、ステップS2に進み、補正状態が補正なしでなければ(No)、ステップS7に進む。
【0061】
ステップS2において、スケジュール時間内であるか否かが判断される。スケジュール時間内であれば(Yes)、ステップS3に進み、スケジュール時間外であれば(No)、ステップS1に戻る。
【0062】
ステップS3において、電磁弁1a(2a〜6a)が開栓されており、かつ、応答時間trが経過したか否かが判断される。電磁弁1a(2a〜6a)が開栓されており、かつ、応答時間trが経過していれば(Yes)、ステップS4に進む。一方、電磁弁1a(2a〜6a)が開栓されておらず、または、応答時間trが経過していない場合(No)、ステップS1に戻る。
【0063】
ステップS4において、庫内の温度が第2閾値T2より大きいか否かが判断される。庫内の温度が第2閾値T2以下であれば(No)、ステップS5に進み、庫内の温度が第2閾値T2より大きければ(Yes)、ステップS9に進む。
【0064】
ステップS5において、庫内の温度が第1閾値T1より大きいか否かが判断される。庫内の温度が第1閾値T1より大きければ(Yes)、ステップS6に進み、庫内の温度が第1閾値T1以下であれば(No)、ステップS1に戻る。
【0065】
ステップS6において、補正量が第1補正量に設定される。また、ステップS6において、まだ制御目標値をシフトさせている状態であれば、制御目標値決定部304に制御目標値を、第1補正量を加えた時点のものに固定させる。その後、ステップS1に戻る。
【0066】
また、ステップS4において、庫内の温度が第2閾値T2より大きいと判断されれば(Yes)、ステップS9に進み、ステップS9において、補正量が第2補正量に設定される。また、ステップS9において、まだ制御目標値をシフトさせている状態であれば、制御目標値決定部304に、制御目標値を、第2補正量を加えた時点のものに固定させる。その後、ステップS1に戻る。
【0067】
ステップS1において、補正状態が補正なしでない(補正あり)と判断された場合(No)、ステップS7に進み、ステップS7において、補正状態が第1補正量であるか否かが判断される。補正状態が第1補正量であれば(Yes)、ステップS8に進み、補正状態が第1補正量でなければ(No)、ステップS10に進む。
【0068】
ステップS8において、庫内の温度が第2閾値T2より大きいか否かが判断される。庫内の温度が第2閾値T2より大きければ(Yes)、ステップS9に進み、庫内の温度が第2閾値T2以下であれば(No)、ステップS10に進む。
【0069】
ステップS9において、補正量が第2補正量に設定される。また、ステップS9において、まだ制御目標値をシフトさせている状態であれば、制御目標値決定部304に、制御目標値を、第2補正量を加えた時点のものに固定させる。その後、ステップS1に戻る。
【0070】
ステップS10において、庫内の温度が目標温度以下であるか否かが判断される。庫内の温度が目標温度の設定範囲の下限値Toff以下であれば(Yes)、ステップS11に進み、庫内の温度が目標温度の設定範囲の下限値Toffより大きければ(No)、ステップS1に戻る。
【0071】
ステップS11において、補正状態が補正なしに設定される。また、ステップS11において、制御目標値決定部304に、再び制御目標値のシフトを開始させる。その後、ステップS1に戻る。
【0072】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、次のような効果を得ることができる。
【0073】
本実施形態では、上記のように、冷却負荷の急変があった場合に、制御目標値に補正量を加えて、制御目標値と補正量とに基づき冷凍機10の出力を制御するように制御部300を設ける。これにより、冷却負荷に急変の検出があれば、制御目標値に補正量を加え、冷凍機10の出力(冷却能力)を、急変に応じて一時的に増加させることができるので、冷却負荷に急変がある場合にも、冷却負荷に対する冷凍機10の出力の追従性を向上させることができる。また、制御部300は、冷却能力が過剰な場合には、制御目標値である冷凍機10に含まれる圧縮機11の運転周波数などを下げ、冷却能力が不足している場合には、圧縮機11の運転周波数などを上げるので、冷却負荷の急変がない平常状態において、冷却負荷に対する冷凍機10の出力を適正なものに保つことができる。この場合に、温度の維持に必要となる程度に冷凍機10の出力を低下させるように構成すれば、消費電力を低減することができる。
【0074】
また、本実施形態では、上記のように、制御部300を、冷却負荷の変化量または変化率に基づいて、冷却負荷の急変の検出を行うとともに、急変の検出が行われた場合に、制御目標値に補正量を加える制御を行うように構成する。これにより、冷却負荷の変化量または変化率が、たとえば、ある閾値を超えたか否かを判断することによって、容易に冷却負荷の急変の検出を行うことができる。
【0075】
また、本実施形態では、上記のように、制御部300を、冷却機器1〜6の冷却動作開始後一定時間経過後における冷却機器1〜6の庫内の温度の一定時間における温度変化量または温度変化率に基づいて、冷却負荷の急変の検出を行うように構成する。これにより、冷却負荷は冷却機器1〜6の庫内の温度が上がれば増大するため、温度変化量または温度変化率が、たとえば、ある閾値を超えたか否かを判断することによって、容易に冷却負荷の急変の検出を行うことができる。
【0076】
また、本実施形態では、上記のように、制御部300を、制御目標値と補正量とに基づいて冷凍機10の出力の制御を行う場合に、冷却機器1〜6の庫内の温度変化量または温度変化率が変化した場合には、補正量を、冷却機器1〜6の庫内の温度に対応する補正量に更新するように構成する。これにより、冷却負荷の急変に対応した冷却動作を始めてから冷却機器1〜6内の温度が増加し、冷却負荷がさらに増加した場合に、補正量が更新されるので、冷却負荷に対して冷凍機10の出力をより適切に追従させることができる。
【0077】
また、本実施形態では、上記のように、制御部300を、冷却負荷の急変がある可能性の高い時間帯で、かつ、冷却負荷の急変の検出があった場合に、制御目標値に補正量を加える制御を行うように構成する。これにより、冷却負荷の急変が頻繁にある可能性の高い時間帯で、かつ、冷却負荷の急変の検出があった場合は、冷凍機10の出力の追従性を向上させることができるので、冷凍機10の出力が冷却負荷の増大に間に合わなくなることを防ぐことができる。また、冷却負荷が安定していて、冷却負荷の急変が続けて起こることがほとんどない時間帯は、補正量を用いないので、冷凍機10の出力を低く抑えることにより、消費電力の低減を図ることができる。
【0078】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0079】
たとえば、上記実施形態では、補正量が圧縮機11の吸入圧力となる例を示したが、本発明はこれに限られない。圧縮機11の運転周波数や、蒸発器1c〜6cにおける蒸発温度についての制御目標値に補正量を加えてもよい。または、圧縮機11が複数台であれば、制御目標値として圧縮機11の運転台数を扱い、補正量として圧縮機11の運転台数を増加させる構成にしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、スケジュール時間内に冷却機器1〜6のいずれか1台に冷却負荷の急変があったかによって冷却負荷の急変を判断し、その場合に、対応する冷却機器1〜6ごとに一定の第1補正量または第2補正量を加える例を示したが、本発明はこれに限られない。冷却機器1〜6の内、冷却負荷の急変が検出されるものの台数が増えれば、さらに加える補正量を大きなものに更新する構成にしてもよい。また、加える補正量を判断するための温度の閾値を、第3閾値、第4閾値…と増やし、対応する補正量も、第3補正量、第4補正量…と増やす構成にしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、スケジュール時間帯中は制御パラメータを変更させない例を示したが、本発明はこれに限られない。スケジュール時間ごとに制御パラメータを変化させる構成にしてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、冷却負荷の急変を、庫内の温度が設定範囲の上限値Tonを超えてから一定時間である応答時間trを経過した後に第1温度閾値を超えるか否かで判断する例を示したが、本発明はこれに限られない。庫内の温度がTonを超える前後の、冷却負荷の急変に対応できる程度に短い所定の期間における庫内の平均温度を取得し、その期間の庫内の温度変化率から、冷却負荷の急変を求める構成にしてもよい。この場合、負荷変動検出・補正部306は、温度変化率がある閾値よりも大きければ、補正量を加えるように構成してもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、冷却装置100の使用者が、あらかじめ、スケジュール管理部305に、入荷・出荷の時間帯をスケジュール設定として入力しておく例を示したが、本発明はこれに限られない。スケジュール設定の入力が手動等である必要はなく、たとえば、運送車などに備えられたコンピュータと通信し、発送予定時刻と入荷・出荷される荷物の量とを取得し、取得した情報から算出される時間帯に自動で更新するように構成してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、説明の便宜上、制御部300の処理を「フロー駆動型」のフローチャートを用いて説明したが、本発明はこれに限られない。制御部300の処理をイベント単位で実行する「イベント駆動型」により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0085】
1〜6 冷却機器
10 冷凍機
30 制御装置
100 冷却装置
300 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6