(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流路内に前記検体を注入するか、または前記流路から前記検体を吸引するときの前記検体の流量は、10μL/分以上15000μL/分以下である、請求項1または請求項2に記載のヘマトクリット値の測定方法。
前記流路内に前記検体を注入するか、または前記流路から前記検体を吸引するときの前記検体の液量は、50μL以上500μL以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のヘマトクリット値の測定方法。
前記液体取扱部が前記流路内に前記検体を注入するか、または前記流路から前記検体を吸引するときの前記検体の流量は、10μL/分以上15000μL/分以下である、請求項8または請求項9に記載のヘマトクリット値の測定装置。
前記液体取扱部が前記流路内に前記検体を注入するか、または前記流路から前記検体を吸引するときの前記検体の液量は、50μL以上500μL以下である、請求項8〜10のいずれか一項に記載のヘマトクリット値の測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、本発明に係る測定装置の代表例として、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy:以下「SPFS」と略記する)を利用した測定装置(SPFS装置)について説明する。
【0016】
図1は、本実施の形態に係るSPFS装置100の構成の一例を示す模式図である。
図1に示されるように、SPFS装置100は、励起光出射部110、シグナル検出部120、液体取扱部130、搬送部140および制御処理部(処理部)150を有する。本実施の形態では、励起光出射部110およびシグナル検出部120は、ともに検体中の被測定物質の量を示す測定値を取得するための測定値取得部を構成する。
【0017】
SPFS装置100は、搬送部140のチップホルダー142に測定チップ10を装着した状態で使用される。そこで、先に測定チップ10について説明し、その後にSPFS装置100について説明する。なお、チップホルダー142、液体取扱部130および制御処理部150は、ともに検体のヘマトクリット値を測定するための、ヘマトクリット値の測定装置を構成する。
【0018】
(測定チップ)
図2は、測定チップ10の構成の一例を示す断面図である。
図2は、
図1の紙面に垂直であり、かつ流路41内の液体の流れ方向に沿う平面における断面図である。測定チップ10は、プリズム20、金属膜30および流路蓋40を有する。本実施の形態では、測定チップ10の流路蓋40は、後述の液体チップ50と一体化されている。
【0019】
プリズム20は、入射面21、成膜面22および出射面23を有する。入射面21は、励起光出射部110からの励起光αをプリズム20の内部に入射させる。成膜面22上には、金属膜30が配置されている。プリズム20の内部に入射した励起光αは、プリズム20と金属膜30との界面(成膜面22)で反射されて反射光となる。出射面23は、反射光をプリズム20の外部に出射させる。
【0020】
プリズム20の形状は、特に限定されない。本実施の形態では、プリズム20の形状は、台形を底面とする柱体である。台形の一方の底辺に対応する面が成膜面22であり、一方の脚に対応する面が入射面21であり、他方の脚に対応する面が出射面23である。底面となる台形は、等脚台形であることが好ましい。これにより、入射面21と出射面23とが対称になり、励起光αのS波成分がプリズム20内に滞留しにくくなる。
【0021】
入射面21は、励起光出射部110からの励起光αが入射面21で反射して励起光出射部110に戻らないように形成される。励起光αの光源がレーザーダイオード(以下「LD」ともいう)である場合、励起光αがLDに戻ると、LDの励起状態が乱れてしまい、励起光αの波長や出力が変動してしまう。そこで、理想的な共鳴角または増強角を中心とする走査範囲において、励起光αが入射面21に垂直に入射しないように、入射面21の角度が設定される。
【0022】
ここで「共鳴角」とは、金属膜30に対する励起光αの入射角を走査した場合に、出射面23から出射される反射光の光量が最小となるときの、入射角を意味する。また、「増強角」とは、金属膜30に対する励起光αの入射角を走査した場合に、測定チップ10の上方に放出される励起光αと同一波長の散乱光(以下「プラズモン散乱光」という)γの光量が最大となるときの、入射角を意味する。本実施の形態では、入射面21と成膜面22との角度および成膜面22と出射面23との角度は、いずれも約80°である。
【0023】
なお、測定チップ10の設計により、共鳴角(およびその極近傍にある増強角)が概ね決まる。設計要素は、プリズム20の屈折率や、金属膜30の屈折率、金属膜30の厚み、金属膜30の消衰係数、励起光αの波長などである。金属膜30上に捕捉された被測定物質によって共鳴角および増強角がシフトするが、その量は数度未満である。
【0024】
プリズム20は、励起光αに対して透明な誘電体からなる。プリズム20は、複屈折特性を少なからず有する。プリズム20の材料の例には、樹脂およびガラスが含まれる。プリズム20を構成する樹脂の例には、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、およびシクロオレフィン系ポリマーが含まれる。プリズム20の材料は、好ましくは、屈折率が1.4〜1.6であり、かつ複屈折が小さい樹脂である。
【0025】
金属膜30は、プリズム20の成膜面22上に配置されている。これにより、成膜面22に全反射条件で入射した励起光αの光子と、金属膜30中の自由電子との間で表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:以下「SPR」と略記する)が生じ、金属膜30の表面上に局在場光(一般に「エバネッセント光」または「近接場光」とも呼ばれる)を生じさせることができる。局在場光は、金属膜30の表面から励起光αの波長程度離れた距離まで及ぶ。金属膜30は、成膜面22上の全面に形成されていてもよいし、成膜面22上の一部に形成されていてもよい。本実施の形態では、金属膜30は、成膜面22の全面に形成されている。
【0026】
金属膜30には、被測定物質を捕捉するための捕捉体が固定化されている。金属膜30上において、捕捉体が固定化されている領域を、特に「反応場」という。本実施の形態では、捕捉体は、金属膜30上に亘って略均一に固定化されている。したがって、反応場は、金属膜30上に亘って形成されている。また、捕捉体は、被測定物質に特異的に結合する。このため、被測定物質は、捕捉体を介して金属膜30上に固定化され得る。
【0027】
捕捉体の種類は、被測定物質を捕捉することができれば特に限定されない。たとえば、捕捉体は、被測定物質に特異的に結合可能な抗体(1次抗体)またはその断片、被測定物質に特異的に結合可能な酵素などである。
【0028】
金属膜30の材料は、表面プラズモン共鳴を生じさせうる金属であれば特に限定されない。金属膜30の材料の例には、金、銀、銅、アルミニウム、およびこれらの合金が含まれる。本実施の形態では、金属膜30は、金薄膜である。金属膜30の厚みは、特に限定されないが、SPRを効率的に発生させる観点から、20〜60nmの範囲内が好ましい。金属膜30の形成方法は、特に限定されない。金属膜30の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、メッキが含まれる。
【0029】
流路蓋40は、金属膜30上に配置されている。金属膜30がプリズム20の成膜面22の一部にのみ形成されている場合、流路蓋40は、成膜面22上に配置されていてもよい。本実施の形態では、流路蓋40は、金属膜30の上に配置されている。金属膜30上に流路蓋40を配置することで液体を収容するための空洞である流路41が形成される。本実施の形態では、流路41は、底面と、天面と、当該底面および当該天面を接続する一対の側面とを有する。本明細書中、流路41のプリズム20側の面を「流路41の底面」といい、流路41の、流路41の底面と対向する面を「流路41の天面」という。詳細については後述するが、所望の流路抵抗を得る観点から、流路41の一対の側面の間の長さは、0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、流路41の天面と、流路41の底面との間の長さは、0.1mm以上1mm以下であることが好ましく、検体の流れ方向(流路41の長手方向)における流路41の長さは、10mm以上50mm以下であることが好ましい。
【0030】
図2に示されるように、流路蓋40は、枠体42、液体注入部被膜フィルム43および液体貯蔵部被膜フィルム44を有する。枠体42には、2つの貫通孔が形成されている。枠体42の裏面には、凹部(流路溝)が形成されている。金属膜30(およびプリズム20)上に流路蓋40(枠体42)が配置され、当該凹部の開口部が金属膜30により閉塞されることで、流路41が形成される。さらに、一方の貫通孔の開口部が液体注入部被膜フィルム43により閉塞されることで、液体注入部45が形成され、他方の貫通孔の開口部が液体貯蔵部被膜フィルム44により閉塞されることで、液体貯蔵部46が形成される。液体貯蔵部被膜フィルム44には、通気孔47が設けられている。
【0031】
局在場光が及ぶ領域を十分に確保する観点からは、流路41の高さ(流路溝の深さ)は、ある程度大きいことが好ましい。流路41内に混入する不純物の量を低減する観点からは、流路41の高さ(流路溝の深さ)は、小さいことが好ましい。このような観点から、流路41の高さは、0.05〜0.15mmの範囲内であることが好ましい。流路41の両端は、流路41内と外部とを連通させるように、流路蓋40に形成された液体注入部45および液体貯留部46とそれぞれ接続されている。
【0032】
枠体42は、金属膜30上から放出される光(蛍光βおよびプラズモン散乱光γ)に対して透明な材料からなることが好ましい。流路蓋40の材料の例には、ガラスおよび樹脂が含まれる。当該樹脂の例には、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)が含まれる。また、上記の光に対して透明であれば、枠体42の他の部分は、不透明な材料で形成されていてもよい。枠体42は、例えば、両面テープや接着剤などによる接着や、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより金属膜30またはプリズム20に接合されている。
【0033】
液体注入部被覆フィルム43は、ピペットチップ134を挿入可能であり、かつピペットチップ134を挿入した際には、ピペットチップ134の外周に隙間なく密着することが可能なフィルムである。たとえば、液体注入部被覆フィルム43は、弾性フィルムおよび粘着フィルムの2層フィルムである。液体注入部被覆フィルム43には、ピペットチップ134を挿入するための微細な貫通孔が設けられていてもよい。本実施の形態では、液体注入部被覆フィルム43に、外径が1.2mmのピペットチップ挿入用貫通孔48が設けられている。液体注入部被膜フィルム43がピペットチップ134の外周に隙間なく密着するように構成されていることにより、送液時において、液体注入部42側の流路41内を密封することができる。
【0034】
前述のとおり、液体貯留部被覆フィルム44は、通気孔47を有する。液体貯留部被覆フィルム44の構成は、特に制限されない。たとえば、液体貯留部被覆フィルム44は、前述の液体注入部被覆フィルム43と同様の2層フィルムであってもよい。
【0035】
前述のとおり、本実施の形態では、測定チップ10および液体チップ50は、一体化されている(
図1参照)。より具体的には、枠体42および液体チップ50が一体化されている。液体チップ50は、液体を収容するためのウェルを有する。ウェルの開口部は、液体を収容した状態でフィルムなどにより閉塞されていてもよい。ウェルの開口部を閉塞するフィルムは、液体チップ50の使用前にユーザーにより取り除かれてもよい。また、ピペットチップ134がフィルムを貫くことができる場合は、ウェルの開口部がフィルムで閉塞された状態で液体チップ50が使用されてもよい。
【0036】
液体チップ50に収容される液体の例には、血液を含む検体や、蛍光物質で標識された捕捉体を含む標識液、洗浄液(緩衝液)およびこれらの希釈液が含まれる。
【0037】
測定チップ10および液体チップ50は、通常、測定のたびに交換される。また、測定チップ10は、好ましくは各片の長さが数mm〜数cmの構造物であるが、「チップ」の範疇に含まれないより小型の構造物またはより大型の構造物であってもよい。
【0038】
(SPFS装置)
次に、SPFS装置100の各構成要素について説明する。前述のとおり、SPFS装置100は、励起光出射部110、シグナル検出部120、液体取扱部130、搬送部140および制御処理部(処理部)150を有する。
【0039】
励起光出射部110は、励起光αを出射する。蛍光βの検出時には、励起光出射部110は、金属膜30で表面プラズモン共鳴が発生するように、金属膜30に対するP波を入射面21に向けて出射する。ここで「励起光」とは、蛍光物質を直接もしくは間接に励起させる光である。たとえば、励起光αは、プリズム20を介して金属膜30に表面プラズモン共鳴が生じる角度で照射されたときに、蛍光物質を励起させる局在場光を金属膜30の表面上に生じさせる光である。励起光出射部110は、光源ユニット111、角度調整機構112および光源制御部113を含む。
【0040】
光源ユニット111は、コリメートされ、かつ波長および光量が一定の光を、金属膜30の裏面における照射スポットの形状が略円形となるように出射する。光源ユニット111は、例えば、光源、ビーム整形光学系、APC機構および温度調整機構(いずれも不図示)を含む。
【0041】
光源の種類は、特に限定されず、例えばレーザーダイオード(LD)である。光源の他の例には、発光ダイオードや水銀灯などのレーザー光源が含まれる。光源から出射される励起光αの波長は、例えば、400nm以上1000nm以下である。光源から出射される励起光αがビームでない場合は、励起光αは、レンズや鏡、スリットなどによりビームに変換される。また、光源から出射される励起光αが単色光でない場合は、励起光αは、回折格子などにより単色光に変換される。さらに、光源から出射される励起光αが直線偏光でない場合は、励起光αは、偏光子などにより直線偏光の光に変換される。
【0042】
ビーム整形光学系は、例えば、コリメーターやバンドパスフィルター、直線偏光フィルター、半波長板、スリット、ズーム手段などを含む。ビーム整形光学系は、これらのすべてを含んでいてもよいし、一部を含んでいてもよい。
【0043】
コリメーターは、光源から出射された励起光αをコリメートする。
【0044】
バンドパスフィルターは、光源から出射された励起光αを中心波長のみの狭帯域光にする。光源から出射された励起光αは、若干の波長分布幅を有しているためである。
【0045】
直線偏光フィルターは、光源から出射された励起光αを直線偏光の光にする。
【0046】
半波長板は、金属膜30にP波成分が入射するように光の偏光方向を調整する。
【0047】
スリットおよびズーム手段は、金属膜30の裏面における照射スポットの形状が所定サイズの円形となるように、光源から出射された励起光αのビーム径や輪郭形状などを調整する。
【0048】
APC機構は、光源の出力が一定となるように光源を制御する。より具体的には、APC機構は、励起光αから分岐させた光の光量を不図示のフォトダイオードなどで検出する。そして、APC機構は、回帰回路で投入エネルギーを制御することで、光源の出力を一定に制御する。
【0049】
温度調整機構は、例えば、ヒーターやペルチェ素子などである。光源から出射された励起光αの波長およびエネルギーは、温度によって変動することがある。このため、温度調整機構で光源の温度を一定に保つことにより、光源から出射された励起光αの波長およびエネルギーを一定に制御する。
【0050】
角度調整機構112は、金属膜30(プリズム20と金属膜30との界面(成膜面22))に対する励起光αの入射角を調整する。角度調整機構112は、プリズム20を介して金属膜30の所定の位置に向けて所定の入射角で光を照射するために、光源から出射された励起光αの光軸とチップホルダー142とを相対的に回転させる。たとえば、角度調整機構112は、金属膜30上において励起光αの光軸と直交する軸(
図1の紙面に対して垂直な軸)を中心として光源ユニット111を回動させる。このとき、入射角を走査しても金属膜30上での照射スポットの位置がほとんど変化しないように、回転軸の位置を設定する。特に、回転中心の位置を、入射角の走査範囲の両端における2つの光源から出射された励起光αの光軸の交点近傍(成膜面22上の照射位置と入射面21との間)に設定することで、照射位置のズレを極小化することができる。
【0051】
前述のとおり、光源から金属膜30に対して出射された励起光αの入射角のうち、プラズモン散乱光γの光量が最大となる角度が増強角である。光源から出射された励起光αの入射角を増強角またはその近傍の角度に設定することで、高強度の蛍光βおよびプラズモン散乱光γを検出することが可能となる。プリズム20の材料および形状、金属膜30の厚み、流路41内の液体の屈折率などにより、光源から出射された励起光αの基本的な入射条件が決まるが、流路41内の捕捉体の種類および量、プリズム20の形状誤差などにより、最適な入射条件はわずかに変動する。このため、測定ごとに最適な増強角を求めることが好ましい。
【0052】
光源制御部113は、光源ユニット111に含まれる各種機器を制御して、光源ユニット111からの励起光αの出射を制御する。光源制御部113は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
【0053】
シグナル検出部120は、金属膜30上に、検体に含まれていた被測定物質が固定化され、かつ検体が存在しない状態で、励起光出射部110がプリズム20を介して金属膜30に、表面プラズモン共鳴が生じる入射角で励起光αを出射したときに、測定チップ10で生じるシグナル(例えば、蛍光β、反射光またはプラズモン散乱光γ)を検出する。シグナル検出部120は、検出したシグナル量(例えば、蛍光βの光量、反射光の光量、またはプラズモン散乱光γの光量)を示す信号を制御処理部150に出力する。シグナル検出部120は、受光光学系ユニット121、位置切替え機構122およびセンサー制御部127を含む。
【0054】
受光光学系ユニット121は、測定チップ10の金属膜30の法線上に配置される。受光光学系ユニット121は、第1のレンズ123、光学フィルター124、第2のレンズ125および受光センサー126を含む。
【0055】
位置切替え機構122は、光学フィルター124の位置を、受光光学系ユニット121における光路上または光路外に切り替える。具体的には、第1の受光センサー126が蛍光βを検出するときには、光学フィルター124を受光光学系ユニット121の光路上に配置し、第1の受光センサー126がプラズモン散乱光γを検出するときには、光学フィルター124を受光光学系ユニット121の光路外に配置する。
【0056】
第1のレンズ123は、例えば、集光レンズであり、金属膜30上から出射される光(シグナル)を集光する。第2のレンズ125は、例えば、結像レンズであり、第1のレンズ123で集光された光を第1の受光センサー126の受光面に結像させる。両レンズの間において、光は、略平行の光束となっている。
【0057】
光学フィルター124は、第1のレンズ123および第2のレンズ125の間に配置されている。光学フィルター124は、蛍光検出時においては、光学フィルター124に入射する光のうち、蛍光成分のみを透過させ、励起光成分(プラズモン散乱光γ)を除去する。これにより、蛍光成分のみを第1の受光センサー126に導き、高いS/N比で蛍光βを検出することができる。光学フィルター124の種類の例には、励起光反射フィルター、短波長カットフィルターおよびバンドパスフィルターが含まれる。光学フィルター124の例には、所定の光成分を反射する多層膜を含むフィルターと、所定の光成分を吸収する色ガラスフィルターとが含まれる。
【0058】
受光センサー126は、蛍光βおよびプラズモン散乱光γを検出する。受光センサー126は、微量の被測定物質からの微弱な蛍光βを検出することが可能な、高い感度を有する。受光センサー126は、例えば、光電子増倍管(PMT)やアバランシェフォトダイオード(APD)、シリコンフォトダイオード(SiPD)などである。
【0059】
センサー制御部127は、受光センサー126の出力値の検出や、当該出力値による受光センサー126の感度の管理、適切な出力値を得るための受光センサー126の感度の変更などを制御する。センサー制御部127は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
【0060】
液体取扱部130は、チップホルダー142に保持された測定チップ10の流路41内に、検体などの液体を供給する。また、液体取扱部130は、測定チップ10の流路41内から液体を除去する。液体取扱部130は、ピペット131およびピペット制御部136を含む。
【0061】
ピペット131は、シリンジポンプ132と、シリンジポンプ132に接続されたノズルユニット133と、ノズルユニット133の先端に装着されたピペットチップ134と、シリンジポンプ132とノズルユニット133との間に接続された圧力センサー135とを有する。
【0062】
シリンジポンプ132内のプランジャーの往復運動によって、ピペットチップ134における液体の吸引および排出が定量的に行われる。ピペットチップ134の開口部の開口面積は、液体の流れ方向に垂直な流路41の断面積よりも大きい。流路41の流路抵抗は、ピペットチップ134から流路41内に注入されるときの抵抗と比較して、より大きくなる。これにより、流路41の断面積に応じて、流路抵抗が、調整され得る。
【0063】
圧力センサー135は、ピペットチップ134内の圧力を検出する。圧力センサー135の種類は、圧力センサー135によりピペットチップ134内の圧力を検出することができれば特に限定されない。圧力センサー135の種類の例には、歪みゲージ抵抗式圧力センサー、半導体ピエゾ抵抗式圧力センサー、静電容量式圧力センサーおよびシリコンレゾナント式圧力センサーが含まれる。
【0064】
ピペット制御部136は、シリンジポンプ132の駆動装置、およびノズルユニット133の移動装置を含む。シリンジポンプ132の駆動装置は、シリンジポンプ132のプランジャーを往復運動させるための装置であり、例えば、ステッピングモーターを含む。ノズルユニット133の移動装置は、例えば、ノズルユニット133を、垂直方向に自在に動かす。ノズルユニット133の移動装置は、例えば、ロボットアーム、2軸ステージまたは上下動自在なターンテーブルによって構成される。
【0065】
ピペット制御部136は、シリンジポンプ132を駆動して、液体チップ50から各種液体をピペットチップ134内に吸引させる。そして、ピペット制御部136は、ノズルユニット133を移動させて、測定チップ10の流路41内にピペットチップ134を挿入させるとともに、シリンジポンプ132を駆動して、ピペットチップ134内の液体を流路41内に注入させる。また、液体の導入後、ピペット制御部136は、シリンジポンプ132を駆動して、流路41内の液体をピペットチップ134内に吸引させる。このように流路41内の液体を順次交換することによって、反応場において捕捉体と被測定物質を反応させたり(1次反応)、被測定物質と蛍光物質で標識された捕捉体とを反応させたりする(2次反応)。ピペット制御部136は、圧力センサー135によりピペットチップ134内の圧力を検出しつつ、流路41内に液体を注入するか、または流路41から液体を吸引する。
【0066】
搬送部140は、測定チップ10を設置位置、測定位置または送液位置に搬送し、固定する。ここで「設置位置」とは、測定チップ10をSPFS装置100に設置するための位置である。また、「測定位置」とは、検体中の被測定物質の量を示す測定値を取得するための位置であり、励起光出射部110が測定チップ10に向けて励起光αを出射したときに、測定チップ10から放出されるシグナルをシグナル検出部120が検出する位置である。さらに、「送液位置」とは、液体取扱部130が測定チップ10の流路41内に液体を供給するか、または測定チップ10の流路41内の液体を除去する位置である。
【0067】
搬送部140は、搬送ステージ141およびチップホルダー142を含む。
【0068】
搬送ステージ141は、チップホルダー142を一方向およびその逆方向に移動させる。搬送ステージ141も、励起光αや、励起光αの反射光、蛍光β、プラズモン散乱光γなどの光の光路を妨げない形状である。搬送ステージ141は、例えば、ステッピングモーターなどで駆動される。
【0069】
チップホルダー142は、搬送ステージ141に固定されており、測定チップ10を着脱可能に保持する。チップホルダー142の形状は、測定チップ10を保持することができ、かつ励起光αや励起光αの反射光、蛍光β、プラズモン散乱光γなどの光の光路を妨げない形状である。たとえば、チップホルダー142には、上記の光が通過するための開口が設けられている。
【0070】
制御処理部150は、角度調整機構112、光源制御部113、位置切替え機構122、センサー制御部127、ピペット制御部136および搬送ステージ141を制御する。制御処理部150は、シグナル検出部120(受光センサー126)および液体取扱部130(圧力センサー135)の検出結果を処理する処理部としても機能する。本実施の形態では、制御処理部150は、シグナル検出部120による蛍光βの検出結果に基づいて、検体中の被測定物質の量を示す測定値を決定する。また、制御処理部150は、液体取扱部130によるピペットチップ134内の圧力の時間変化に関する情報に基づいて、検体のヘマトクリット値を決定する。これとともに、制御処理部150は、ヘマトクリット値に基づいて上記測定値を補正する。これにより、制御処理部150は、血漿または血清中の被測定物質の量を決定する。
【0071】
また、制御処理部150には、上記の検出結果を処理する際に使用される所定の情報(例えば、種々の変換係数、検量線に関するデータ)などがあらかじめ記録されていてもよい。本実施の形態では、制御処理部150には、ピペットチップ134内の圧力の時間変化に関する情報に基づいてヘマトクリット値を決定するための検量線に関するデータがあらかじめ記録されている。制御処理部150は、例えば、演算装置、制御装置、記憶装置、入力装置および出力装置を含む公知のコンピュータやマイコンなどによって構成される。
【0072】
(SPFS装置における光路)
図1に示されるように、励起光αは、入射面21からプリズム20内に入射する。プリズム20内に入射した励起光αは、金属膜30に全反射角度(SPRが生じる角度)で入射する。このように、金属膜30に対して励起光αをSPRが生じる角度で照射することで、金属膜30上に局在場光を発生させることができる。この局在場光により、金属膜30上に存在する被測定物質を標識する蛍光物質が励起され、蛍光βが放出される。SPFS装置100は、蛍光物質から放出された蛍光βの光量(強度)を検出する。なお、特に図示していないが、金属膜30での励起光αの反射光は、出射面23でプリズム20外に出射する。
【0073】
(SPFS装置の動作手順)
次に、本実施の形態に係るSPFS装置100の動作手順(本実施の形態に係る測定方法)について説明する。
図3は、SPFS装置100の動作手順の一例を示すフローチャートである。本実施の形態では、検体中の被測定物質の量を示す測定値として、蛍光βの光量である蛍光値が測定される。
図4は、
図3に示される測定値を取得する工程(工程S120)内の工程を示すフローチャートである。
図5は、
図3に示されるヘマトクリット値を決定する工程(工程S130)内の工程を示すフローチャートである。
【0074】
本実施の形態に係る測定方法は、1)測定の準備をする工程(工程S110)と、2)測定値を取得する工程(工程S120)と、3)ヘマトクリット値を測定する工程(工程S130)と、4)測定値を補正する工程(工程S140)と、を含む。
【0075】
1)測定の準備
まず、測定の準備をする(工程S110)。具体的には、SPFS装置100の設置位置に配置されたチップホルダー142に、測定チップ10を設置する。測定チップ10の金属膜30上に保存試薬が存在する場合は、捕捉体が適切に被測定物質を捕捉できるように、金属膜30上を洗浄して保存試薬を除去する。検体は、液体チップ50内に収容される。
【0076】
2)測定値の取得
次いで、検体中の被測定物質の量を示す測定値を取得する(工程S120)。測定値を取得する工程(工程S120)は、入射角を増強角に設定する工程(工程S121)と、光学ブランク値を測定する工程(工程S122)と、1次反応を行う工程(工程S123)と、2次反応を行う工程(工程S124)と、蛍光値を測定する工程(工程S125)と、を含む。
【0077】
まず、金属膜30(成膜面22)に対する励起光αの入射角を増強角に設定する(工程S121)。具体的には、制御処理部150は、搬送ステージ141を制御して、測定チップ10を設置位置から送液位置に移動させる。制御処理部150は、ピペット制御部136を制御して、液体チップ50内の測定用の緩衝液を流路41内に提供する。制御処理部150は、搬送ステージ141を制御して、測定チップ10を送液位置から測定位置に移動させる。制御処理部150は、位置切替え機構122を制御して、光学フィルター124を受光光学系ユニット121の光路外に移動させる。制御処理部150は、光源制御部113、角度調整部112およびセンサー制御部127を制御して、光源ユニット111から励起光αを、金属膜30の所定の位置に、金属膜30に対する励起光αの入射角度を走査しながら照射するとともに、受光センサー126でプラズモン散乱光γを検出する。これにより、制御処理部150は、励起光αの入射角と、プラズモン散乱光γの光量との関係を含むデータを得る。得られたデータは、制御処理部150に記憶される。そして、制御処理部150は、データを解析して、プラズモン散乱光γの光量が最大となる入射角である増強角を決定する。最後に、制御処理部150は、角度調整部112を制御して、金属膜30(成膜面22)に対する励起光αの入射角を決定した増強角に設定する。
【0078】
なお、増強角は、プリズム20の素材および形状、金属膜30の厚み、流路41内の液体の屈折率などにより決まるが、流路41内の捕捉体の種類および量、プリズム20の形状誤差などの各種要因によりわずかに変動する。このため、測定を行うたびに増強角を決定することが好ましい。増強角は、0.1°程度のオーダーで決定される。
【0079】
次いで、光学ブランク値を測定する(工程S122)。ここで、「光学ブランク値」とは、測定チップ10の上方に放出される蛍光βと同じ波長の光の光量を意味する。
【0080】
制御処理部150は、位置切替え機構122を制御して、光学フィルター124を受光光学系ユニット121の光路上に移動させる。ついで、制御処理部150は、光源制御部113を制御して、金属膜30(成膜面22)に向けて光源ユニット111から励起光αを出射させる。これと同時に、制御処理部150は、センサー制御部127を制御して、受光センサー126で蛍光βと同じ波長の光の光量を検出する。これにより、受光センサー126は、蛍光値の測定(工程S125)においてノイズとなる光の光量(光学ブランク値)を測定することができる。光学ブランク値は、制御処理部150に送信され、記録される。
【0081】
次いで、検体中の被測定物質と金属膜30上の捕捉体とを反応させる(1次反応;工程S123)。具体的には、制御処理部150は、搬送ステージ141を制御して、測定チップ10を測定位置から送液位置に移動させる。この後、制御処理部150は、ピペット制御部136を制御して、流路41内の緩衝液を排出した後に、液体チップ50内の検体をピペットチップ134に採取し、採取した検体を流路41内に注入する。これにより、検体中に被測定物質が存在する場合には、被測定物質の少なくとも一部は金属膜30上の捕捉体により捕捉される。この後、流路41内を緩衝液などで洗浄して、捕捉体に捕捉されなかった物質を除去する。
【0082】
次いで、金属膜30上の捕捉体に捕捉された被測定物質を蛍光物質で標識する(2次反応;工程S124)。具体的には、制御処理部150は、ピペット制御部136を制御して、液体チップ50内の蛍光標識液を流路41内に注入する。これにより、被測定物質を蛍光物質で標識することができる。蛍光標識液は、例えば、蛍光物質で標識された抗体(2次抗体)を含む緩衝液である。この後、流路41内を緩衝液などで洗浄し、遊離の蛍光物質などを除去する。
【0083】
次いで、反応場の被測定物質を標識している蛍光物質から放出される蛍光βを検出して、蛍光値を測定する(工程S125)。具体的には、制御処理部150は、搬送ステージ141を制御して、測定チップ10を送液位置から測定位置に移動させる。この後、制御処理部150は、光源制御部113を制御して、検体中に含まれていた被測定物質が固定化され、かつ検体が存在しない状態で、励起光出射部110の光源ユニット111から励起光αを、プリズム20を介して捕捉体が固定化されている領域に対応する金属膜30の裏面に、表面プラズモン共鳴が生じる入射角で照射する。これとともに、制御処理部150は、センサー制御部127を制御して、測定チップ10内で生じる蛍光β(シグナル)を受光センサー126で検出する。これにより、受光センサー126は、蛍光βの光量である蛍光値(測定値)を取得する。蛍光値は、制御処理部150に送信され、記録される。なお、本明細書中、「検体が存在しない状態」とは、流路41内から検体を除去する操作が行われた状態をいう。すなわち、流路41内に検体が実質的に存在していなければよく、流路41内に除去しきれなかった検体がわずかに残存していてもよい。
【0084】
3)ヘマトクリット値の測定
次いで、ヘマトクリット値を測定する(工程S130)。ヘマトクリット値を決定する工程(工程S130)は、検体を流路内に注入したときの、ピペットチップ134内の圧力の時間変化を検出する工程(工程S131)と、ヘマトクリット値を決定する工程(工程S132)と、を含む。
【0085】
まず、検体を流路41内に注入するとともにピペットチップ134内の圧力の時間変化を検出する(工程S131)。具体的には、制御処理部150は、搬送ステージ141を制御して、測定チップ10を測定位置から送液位置に移動させる。制御処理部150は、ピペット制御部136を制御して、液体チップ50中の検体をピペットチップ134に採取する。本実施の形態では、制御処理部150は、液量100μLの検体をピペットチップ134に採取する。次いで、制御処理部150は、ピペット制御部136を制御して、ピペットチップ134の先端部の外周が液体注入部被膜フィルム43に密着するように、ピペットチップ134を液体注入部45に挿入する。次いで、採取した検体を、ピペットチップ134から流路41内にピペットチップ134内の圧力を検出しつつ、流路41内に注入する。このとき、ピペットチップ134および液体注入部皮膜フィルム43が互いに密着しているため、液体注入部45側の流路41が密封される。これにより、検体は、流路41内に入り込むことができる。圧力センサー135は、検体を流路41内に注入したときの、ピペットチップ134内の圧力の時間変化に関する情報を取得する。当該情報は、制御処理部150に送信され、記録される。
【0086】
なお、圧力センサー135の測定レンジおよび分解能の観点から、液体取扱部130が検体を流路41内に注入するときの検体の流量は、10μL/分以上15000μL/分以下であることが好ましく、500μL/分以上10000μL/分以下であることがより好ましい。また、圧力センサー135の測定レンジおよびピペットチップ134の容量の観点から、液体取扱装置130が検体を流路41内に注入するときの検体の液量は、50μL以上500μL以下であることが好ましく、100μL以上200μL以下であることがより好ましい。
【0087】
次いで、ヘマトクリット値を決定する(工程S132)。制御処理部150は、圧力センサー135により取得された、流路41内に検体を注入したときの、ピペットチップ134内の圧力の時間変化に関する情報に基づいて検体のヘマトクリット値を決定する。
【0088】
図6A、Bは、ヘマトクリット値を決定する方法について説明するためのグラフである。
図6A、Bにおいて、横軸は時間(秒)を示し、縦軸はピペットチップ134内の圧力(kPa)を示している。また、
図6A、Bは、大きさ20mm×4.6mm×0.1mmの流路41内に検体(液量100μL、ヘマトクリット値68%)を注入したときの、ピペットチップ134内の圧力の時間変化を示すグラフである。
図6A、Bにおいて、横軸は時間であり、縦軸はピペットチップ134内の圧力である。
図6Aは、多い流量(10000μL/分)で流路41内に検体を注入したときのグラフであり、
図6Bは、少ない流量(500μL/分)で流路41内に検体を注入したときのグラフである。
【0089】
ピペットチップ134から流路41内に検体が注入されると、検体は流路41の内壁面から抵抗(流路抵抗)を受ける。このため、
図6A、Bに示されるように、ピペットチップ134内の圧力は、高くなる。また、前述のとおり、ピペットチップ134の開口部の開口面積は、液体の流れ方向に垂直な流路41の断面積よりも大きい。このため、上記流路抵抗の大きさは、検体の流れ方向に垂直な断面における流路41の断面積の大きさに応じて決定される。すなわち、流路41の断面積の大きさは、所望の流路41の流路抵抗に応じて決定され得る。
【0090】
流路41内に検体が注入されてから時間が経過するにつれて、ピペットチップ134内の圧力は低下し、平衡状態に達する。ピペットチップ134内の圧力がピークに達してから、平衡状態に達するまでの時間tは、検体の粘度が大きくなるほど長くなる。検体の粘度は、検体中の血球成分の割合が高くなるほど(ヘマトクリット値が大きくなるほど)高くなる。すなわち、時間tおよび検体のヘマトクリット値には相関がある。したがって、平衡状態に達するまでの時間tに基づいて、検体のヘマトクリット値を決定することができる。平衡状態に達したか否かを判断する基準は、必要に応じて適宜に決定され得る。たとえば、平衡状態に達するまでの時間tは、ピペットチップ134内の圧力がピーク値に達してから1%以下になるまでの時間であってもよいし、ピペットチップ134内の圧力の単位時間当たりの変化量がピーク値に対して2%以下になるまでの時間であってもよい。
【0091】
図7は、検体を流路41内に注入したときの、平衡状態に達するまでの時間tからヘマトクリット値Hctを決定するための検量線の一例を示すグラフである。
図7において、横軸は平衡状態に達するまでの時間t(秒)を示し、縦軸はヘマトクリット値を示している。
図7に示される検量線は、大きさ20mm×4.6mm×0.1mmの流路41内にヘマトクリット値Hctが既知である検体(液量100μL)を注入したときの、平衡状態に達するまでの時間tをそれぞれ測定し、時間tとヘマトクリット値Hctとをプロットすることにより作成された。
図7において、黒丸(●)は、多い流量(10000μL/分)で流路41内に検体を注入したときの結果を示し、白丸(○)は、少ない流量(500μL/分)で流路41内に検体を注入したときの結果を示している。
図7に示されるように、ヘマトクリット値Hctは、平衡状態に達するまでの時間tが長くなるほど大きくなる傾向がある。すなわち、測定された平衡状態に達するまでの時間tを測定することにより、測定された時間tとあらかじめ作成しておいた検量線とに基づいて、検体のヘマトクリット値Hctを決定することができる。
【0092】
なお、検体の粘度は、検体における血球成分の割合以外の他の要因によっても変動し得るが、検体の希釈率を調整することで上記他の要因による影響を低減することができる。
【0093】
また、ピペットチップ134から流路41内に検体を注入したとき、ピペットチップ134内の圧力がピークに達するまでの時間は、検体の流量が高いほど短くなることがわかる(
図6Aおよび
図6Bを比較参照)。一方で、平衡状態に達するまでの時間tは、検体の流量が異なってもほとんど同じである。すなわち、検体のヘマトクリット値Hctは、ピペットチップ134から流路41内に検体を注入するときの流量によることなく、決定され得る。
【0094】
最後に、ヘマトクリット値に基づいて測定値を補正する(工程S140)。蛍光値は、被測定物質を標識する蛍光物質に由来する蛍光成分(シグナル成分)と、蛍光物質以外の要因に起因するノイズ成分(光学ブランク値)とを含む。したがって、制御処理部150は、工程S125で得られた蛍光値から、工程S122で得られた光学ブランク値を引くことで、検体中の被測定物質の量を示す測定値(シグナル成分)を算出することができる。さらに、制御処理部150は、算出された測定値に以下の式(1)で表される変換係数cを掛けることで、算出された測定値を血漿中の被測定物質の量に変換する。
【数1】
[上記式(1)において、Hctはヘマトクリット値(0〜100%)であり、dfは検体の希釈倍率である。]
【0095】
以上の手順により、血漿中の被測定物質の量(濃度)を決定することができる。
【0096】
なお、上記実施の形態では、入射角を増強角に設定する工程(工程S121)、光学ブランク値を測定する工程(工程S122)および1次反応を行う工程(工程S123)をこの順番に行う態様について説明した。しかし、本発明に係る測定方法および測定装置では、この順番に限定されない。たとえば、1次反応を行った後に入射角を増強角に設定してもよいし、光学ブランク値を測定した後に1次反応を行ってもよい。
【0097】
また、上記実施の形態では、1次反応(工程S123)の後に、2次反応(工程S124)を行った(2工程方式)。しかしながら、被測定物質を蛍光物質で標識するタイミングは、特に限定されない。たとえば、測定チップ10の流路41内に検体を導入する前に、検体に標識液を添加して被測定物質を予め蛍光物質で標識しておいてもよい。また、測定チップ10の流路41内に検体と標識液を同時に注入してもよい。前者の場合は、測定チップ10の流路41内に検体を注入することで、蛍光物質で標識されている被測定物質が捕捉体により捕捉される。後者の場合は、被測定物質が蛍光物質で標識されるとともに、被測定物質が捕捉体により捕捉される。いずれの場合も、測定チップ10の流路41内に検体を導入することで、1次反応および2次反応の両方を完了することができる(1工程方式)。
【0098】
(効果)
本実施の形態では、ピペットチップ134内の圧力を検出するための圧力センサー135を利用することで、ヘマトクリット値と相関がある検体の粘度に基づいて、ヘマトクリット値を測定することができる。通常、液体を取り扱う測定装置は、圧力センサーを有する。このため、本実施の形態に係る測定方法によれば、血液を含む検体中の被測定物質の量を示す測定値をヘマトクリット値で補正する場合に、測定装置がヘマトクリット値を測定するための測定系を有していないとしても、別途、測定系を追加する必要がない。このため、測定装置の高コスト化および大型化が抑制され得る。
【0099】
なお、上記実施の形態では、ピペットチップ134から流路41内に検体を注入したときの、ピペットチップ134内の圧力の時間変化に関する情報に基づいて検体のヘマトクリット値を決定する態様について説明したが、本発明はこの態様に限定されない。たとえば、流路41からピペットチップ134内に検体を吸引したときの、ピペットチップ134内の圧力の時間変化に関する情報に基づいて検体のヘマトクリット値を決定してもよい。
【0100】
また、上記実施の形態では、測定値の取得工程(工程S120)の後にヘマトクリット値の測定工程(工程S130)を行う態様について説明したが、本発明はこの態様に限定されない。たとえば、1次反応を行う工程(工程S123)において、検体を流路41内に注入するときに、ピペットチップ134内の圧力の時間変化を検出してもよい。ピペットチップ134内の圧力の時間変化の検出と、1次反応とを同時に行うことで、測定時間を短縮化することができる。
【0101】
また、上記実施の形態では、SPFS法を利用し、測定値として蛍光物質からの蛍光βの蛍光値を測定する態様について説明したが、本発明はこの態様に限定されない。たとえば、SPR法を利用し、測定値として励起光αの反射光の光量を測定してもよい。または、本発明は、ELISA法やRIfS法、QCM法などを利用して測定値を取得してもよい。
【実施例】
【0102】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されない。
【0103】
本実施例では、ミクロヘマトクリット法または粘度法(上記実施の形態に係るヘマトクリット値の測定方法)を利用して、ヘマトクリット値Hctをそれぞれ測定し、あらかじめ取得しておいた被測定物質の量を示す測定値を当該ヘマトクリット値Hctで補正し、それらの測定結果を比較した。
【0104】
1.測定値の取得
検体としては、ヘパリンが添加された、心筋トロポニン(cTn)Iを含む24種類の全血を使用した。高感度自動免疫測定装置(上記実施の形態に係るSPFS装置)を用いて、検体中のcTnIの濃度を測定した。
【0105】
2.ミクロヘマトクリット法
上記検体をガラス製のキャピラリーに入れ、公知のヘマトクリット遠心分離機(センテック3220;株式会社久保田製作所製、「センテック」は同社の登録商標)を用いて、12000rpmで5分間、遠心した。ヘマトクリット遠心分離機に付属のヘマトクリット計測器を用いて、遠心後の検体のヘマトクリット値を測定した。次いで、測定したヘマトクリット値に基づいて、検体中のcTnIの濃度を、血漿中のcTnIの濃度に補正した。
【0106】
3.粘度法
高感度自動免疫測定装置を用いて、大きさが20mm×4.6mm×0.1mmの流路を有する測定チップの当該流路内に、開口径がφ1mmの開口部を有するピペットチップから上記検体(流量10000μL/分、液量100μL)を注入した。このとき、ピペットチップ内の圧力の時間変化に基づいて、検体を流路内に注入したときの、ピペットチップ内の圧力がピークから1%以下になるときの時間を測定し、当該時間に基づいて検体のヘマトクリット値を決定した。次いで、測定したヘマトクリット値に基づいて、検体中のcTnIの濃度を、血漿中のcTnIの濃度に補正した。
【0107】
検体No.と、検体中のcTnI濃度WB−cTnI、ミクロヘマトクリット法により得られたヘマトクリット値Hctおよび血漿中のcTnI濃度(補正値A(基準値))と、粘度度法により得られた平衡状態に達するまでの時間t、ヘマトクリット値Hct、血漿中のcTnI濃度(補正値B)および基準値に対する補正値Bのずれ量BiasBと、を表1に示す。表1において、BiasBは、下記式(2)により算出された値である。
【数2】
【0108】
【表1】
【0109】
図8は、粘度法によって血漿中の被測定物質の量を決定したときの精度を示すグラフである。
図8において、横軸は、平均cTnI濃度を示し、縦軸は、補正値A(基準値)に対する補正値Bのずれ量であるBiasBを示している。
図8および表1に示されるように、BiasBは、本実施例で使用したいずれの検体においても5%以内であった。このように、粘度法によれば、ミクロヘマトクリット法と同等に血漿中の被測定物質の量を高精度に決定できることがわかる。ミクロヘマトクリット法と比較して、粘度法では、遠心分離装置のような装置を別途準備する必要がない。本発明によれば、ヘマトクリット値を測定するための装置を別途準備することなく、同一装置内で簡易に高精度なヘマトクリット値の測定が可能である。