特許第6805668号(P6805668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6805668表示体、表示体付きデバイス、および、表示体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805668
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】表示体、表示体付きデバイス、および、表示体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20201214BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20201214BHJP
   B42D 25/30 20140101ALI20201214BHJP
【FI】
   G02B5/18
   G02B5/28
   B42D25/30
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-181036(P2016-181036)
(22)【出願日】2016年9月15日
(65)【公開番号】特開2018-45155(P2018-45155A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川下 雅史
【審査官】 菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−275740(JP,A)
【文献】 特開2011−002491(JP,A)
【文献】 特開2009−186813(JP,A)
【文献】 特開2014−215383(JP,A)
【文献】 特開2014−219546(JP,A)
【文献】 特開2011−123186(JP,A)
【文献】 特表2016−503356(JP,A)
【文献】 特表2016−505161(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/125843(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/147283(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0219807(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0235399(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0000616(KR,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1007198(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18− 5/28
B42D 25/00−25/485
G07D 7/00− 7/207
G09F 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と裏面とを有する表示体であって、
前記裏面に沿う面から前記表面に向けて突出する複数の凸部であって、前記表面と対向する方向から見てサブ波長周期を有した二次元格子状に位置する前記複数の凸部を備えた誘電体である凹凸構造層と、
前記凹凸構造層に対する前記表面側に位置して前記凹凸構造層に接し、前記凹凸構造層の表面形状に追従する形状を有した金属層と、
多層膜干渉を生じさせる多層膜層であって、前記金属層に対する前記表面側に位置して前記凹凸構造層と前記金属層とからなる構造体を覆う前記多層膜層と、
を備え
前記凹凸構造層と前記金属層とからなるプラズモン構造体は、前記多層膜層を透過して前記プラズモン構造体に入射した光の一部をプラズモン共鳴によって消費し、かつ前記多層膜層を透過して前記プラズモン構造体に入射した光の他部を前記多層膜層とは反対側に透過して出射する
表示体。
【請求項2】
前記凹凸構造層と前記金属層と前記多層膜層とを備える領域が表示領域であり、
前記表示領域は、前記表面と対向する方向から見て、第1表示領域と第2表示領域とを含み、前記表示体の外側から前記表面に向けて白色の光を照射して前記表示体を表面側から観察する表面反射観察において、前記第1表示領域と前記第2表示領域とは、互いに異なる色相の色を呈するように構成されている
請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記第1表示領域における前記凸部の周期と、前記第2表示領域における前記凸部の周期とは、互いに異なる
請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記凹凸構造層と前記金属層と前記多層膜層とを備える領域が表示領域であり、
前記表示体は、前記表示領域とは異なる領域として、金属層を備える補助領域をさらに備え、
前記表示体の外側から前記表面に向けて白色の光を照射して前記表示体を前記表面側から観察する表面反射観察において、前記補助領域は金属光沢を呈するように構成されている
請求項1〜3のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項5】
前記表示領域の備える前記金属層と、前記補助領域の備える前記金属層とは、相互に連続した1つの層である
請求項4に記載の表示体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の表示体と、
前記表示体に対する裏面側に位置する太陽電池と、
を備える表示体付きデバイス。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の表示体と、
前記表示体の裏面の一部と対向する位置に配置され、前記表示体の前記裏面に向けて光を放つことが可能に構成された光射出構造体と、
を備える表示体付きデバイス。
【請求項8】
基材の表面に塗工された樹脂に凹版を押し付けて前記樹脂を硬化させることにより前記樹脂からなる複数の凸部を形成し、これによって、前記基材の表面と対向する方向から見てサブ波長周期を有した二次元格子状に位置する前記複数の凸部を備える凹凸構造層を形成する第1工程と、
前記凹凸構造層の表面形状に追従する形状を有した金属層を前記凹凸構造層の上に形成する第2工程と、
前記凹凸構造層と前記金属層とからなる構造体の上に、多層膜干渉を生じさせる多層膜層を形成する第3工程と、を含み、
前記第1工程は、前記凹凸構造層と前記金属層とからなるプラズモン構造体が、前記多層膜層を透過して前記プラズモン構造体に入射した光の一部をプラズモン共鳴によって消費し、かつ前記多層膜層を透過して前記プラズモン構造体に入射した光の他部を前記多層膜層とは反対側に透過して出射するように、前記凹凸構造層を形成する
表示体の製造方法。
【請求項9】
前記表示体において、前記凹凸構造層と前記金属層と前記多層膜層とを備える領域が表示領域であり、前記表示領域は、前記凸部の周期が互いに異なる2つの領域である第1表示領域と第2表示領域とを含み、
前記第1工程では、前記第1表示領域の前記凸部と、前記第2表示領域の前記凸部とを同時に形成する
請求項8に記載の表示体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示体、表示体付きデバイス、および、表示体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示体は、回折格子や多層膜による光の干渉等を利用して、構造色を呈する(例えば、特許文献1参照)。表示体は、例えば、パスポートや免許証等の認証書類や、商品券や小切手等の有価証券類のように、偽造が困難であることを求められる物品に備えられることにより、物品の偽造の困難性を高める。また、表示体は、身の回りの物品に備えられることにより、物品の意匠性を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5124272号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
物品の偽造の困難性や意匠性をより高めるために、互いに異なる色相を呈する複数の表示体を1つの物品に組み込むことや、互いに異なる色相を呈する複数の領域を1つの表示体に組み込むことが試みられている。こうした試みにおいて偽造の困難性や意匠性をさらに高めるためには、互いに異なる色相の差異が明瞭であること、すなわち、1つずつの表示体が担う色相、あるいは、1つずつの領域が担う色相が鮮明であることが望ましい。
本発明は、視認される色相の鮮明さを高めることのできる表示体、表示体付きデバイス、および、表示体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する表示体は、表面と裏面とを有する表示体であって、前記裏面に沿う面から前記表面に向けて突出する複数の凸部であって、前記表面と対向する方向から見てサブ波長周期を有した二次元格子状に位置する前記複数の凸部を備えた誘電体である凹凸構造層と、前記凹凸構造層に対する前記表面側に位置して前記凹凸構造層に接し、前記凹凸構造層の表面形状に追従する形状を有した金属層と、多層膜干渉を生じさせる多層膜層であって、前記金属層に対する前記表面側に位置して前記凹凸構造層と前記金属層とからなる構造体を覆う前記多層膜層と、を備える。
【0006】
上記構成によれば、表示体の外側から表示体の表面に向けて光が照射されると、多層膜層では所定の波長域の光が干渉により強められて、表示体の表面側に射出される。そして、金属層と凹凸構造層とからなる構造体では、多層膜層を透過した光が、光と電子の集団的な振動との結合、すなわち、プラズモン共鳴現象により、表面プラズモンとなって上記構造体を透過することや、凹凸構造層上に位置する金属層の局所的に薄くなっている部分から上記構造体を透過することが起こる。なお、上記構造体を透過した表面プラズモンは、裏面側に射出される際に光に再変換される。したがって、多層膜層を透過した光が表示体の表面側に射出されることが抑えられる。それゆえ、表示体の表面側において、多層膜層によって強められた波長域の光とは異なる波長域の光が射出することが抑えられるため、表面側から表示体を見た場合に視認される色相の鮮明さが高められる。
【0007】
上記表示体において、前記凹凸構造層と前記金属層と前記多層膜層とを備える領域が表示領域であり、前記表示領域は、前記表面と対向する方向から見て、第1表示領域と第2表示領域とを含み、前記表示体の外側から前記表面に向けて白色の光を照射して前記表示体を表面側から観察する表面反射観察において、前記第1表示領域と前記第2表示領域とは、互いに異なる色相の色を呈するように構成されていてもよい。
【0008】
上記構成によれば、第1表示領域と第2表示領域とは、表面反射観察において、互いに異なる色相の色を呈する。そして、第1表示領域と第2表示領域との各々で、視認される色相の鮮明さが高められているため、第1表示領域の色相と第2表示領域の色相との差異が明瞭となり、これらの領域によって表現される像の視認性が高められる。したがって、表示体を備える物品にて、偽造の困難性や意匠性が高められる。
上記表示体において、前記第1表示領域における前記凸部の周期と、前記第2表示領域における前記凸部の周期とは、互いに異なってもよい。
【0009】
上記構成によれば、凸部の周期の違いを利用して、第1表示領域の色相と第2表示領域の色相とが変えられている。こうした構成によれば、多層膜層の層数や材料や膜厚等の層構成のみによって第1表示領域の色相と第2表示領域の色相とを異ならせる構成と比較して、2つの領域における色相の調整についての自由度が高い。また、上記構成によれば、多層膜層における層構成のみによって第1表示領域の色相と第2表示領域の色相とを異ならせる構成と比較して、2つの領域における多層膜層の層構成の違いを小さくすることも可能である。2つの領域に互いに異なる周期の凸部を形成することは、2つの領域に互いに異なる層構成の多層膜層を積層することと比較して容易であるため、上記構成によれば、表示体の製造工程の簡素化を図ることができる。
【0010】
上記表示体において、前記凹凸構造層と前記金属層と前記多層膜層とを備える領域が表示領域であり、前記表示体は、前記表示領域とは異なる領域として、金属層を備える補助領域をさらに備え、前記表示体の外側から前記表面に向けて白色の光を照射して前記表示体を前記表面側から観察する表面反射観察において、前記補助領域は金属光沢を呈するように構成されていてもよい。
【0011】
上記構成によれば、表面反射観察において、表示領域と補助領域とは、質感が異なるように見える。したがって、表示領域と補助領域とによって、多彩な表現が可能であり、表示体を備える物品にて、偽造の困難性や意匠性が高められる。
上記表示体において、前記表示領域の備える前記金属層と、前記補助領域の備える前記金属層とは、相互に連続した1つの層であってもよい。
【0012】
上記構成によれば、表示領域の備える金属層と補助領域の備える金属層とが、相互に連続した1つの層であるため、これらの層が別々の層である構成と比較して、表示体の備える層数を削減することが可能である。
上記課題を解決する表示体付きデバイスは、上記表示体と、前記表示体に対する裏面側に位置する太陽電池と、を備える。
【0013】
上記構成によれば、表示体付きデバイスの外側から表示体の表面に向けて太陽光が照射されている状態で表面側から表示体を観察すると、色相の鮮明さが高められた像が視認される。そして、金属層と凹凸構造体層とからなる構造体を透過して表示体の裏面側へ射出された所定の波長の光が、太陽電池による発電に利用される。したがって、表示体における像を形成するための領域を太陽電池へ光を通す領域としても利用できるため、表示体付きデバイスの意匠性を高めることと太陽電池の発電効率を高めることとの両立が可能である。
【0014】
上記課題を解決する表示体付きデバイスは、上記表示体と、前記表示体の裏面の一部と対向する位置に配置され、前記表示体の前記裏面に向けて光を放つことが可能に構成された光射出構造体と、を備える。
【0015】
上記構成によれば、光射出構造体から射出された光の一部が表示体を透過して表面側に射出される。したがって、表示体付きデバイスの外側から表示体の表面に向けて光が照射されている状態で表面側から表示体を観察すると、表示体のなかで光射出構造体と重なっていない部分では、色相の鮮明さが高められた像が視認され、表示体のなかで光射出構造体と重なっている部分では、上記光射出構造体と重なっていない部分とは異なる色が視認され、光射出構造体の形状に応じた像が見える。それゆえ、より多様な像の表現が可能であり、表示体付きデバイスにおける偽造の困難性や意匠性が高められる。
【0016】
上記課題を解決する表示体の製造方法は、基材の表面に塗工された樹脂に凹版を押し付けて前記樹脂を硬化させることにより前記樹脂からなる複数の凸部を形成し、これによって、前記基材の表面と対向する方向から見てサブ波長周期を有した二次元格子状に位置する前記複数の凸部を備える凹凸構造層を形成する第1工程と、前記凹凸構造層の表面形状に追従する形状を有した金属層を前記凹凸構造層の上に形成する第2工程と、前記凹凸構造層と前記金属層とからなる構造体の上に、多層膜干渉を生じさせる多層膜層を形成する第3工程と、を含む。
上記製法によれば、微細な凹凸を有する凹凸構造層を好適に形成することができる。
【0017】
上記製法において、前記表示体において、前記凹凸構造層と前記金属層と前記多層膜層とを備える領域が表示領域であり、前記表示領域は、前記凸部の周期が互いに異なる2つの領域である第1表示領域と第2表示領域とを含み、前記第1工程では、前記第1表示領域の前記凸部と、前記第2表示領域の前記凸部とを同時に形成してもよい。
上記製法によれば、第1表示領域の凸部と第2表示領域の凸部とを別の工程にて形成する製造方法と比較して、効率よく表示体を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表示体において、視認される色相の鮮明さを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】表示体の一実施形態における平面構造を示す平面図。
図2】表示体の表示領域における断面構造と凹凸構造層の平面構造とを示す図。
図3】表示体の補助領域における断面構造を示す断面図。
図4】第1実施形態の表示体の作用を表面側での反射観察によって示す作用図。
図5】第2実施形態の表示体の作用を表面側での反射観察および裏面側での透過観察によって示す作用図。
図6】第2実施形態の表示体の作用を表面側での透過観察および裏面側での反射観察によって示す作用図。
図7】第2実施形態の表示体を備える物品の一例を示す図。
図8】第3実施形態の表示体付きデバイスの構成を模式的に示す図。
図9】第3実施形態の表示体付きデバイスが備える表示体の平面構造の一例を示す平面図。
図10】第3実施形態の表示体付きデバイスの作用を示す作用図。
図11】第4実施形態の表示体付きデバイスの構成を模式的に示す図。
図12】第4実施形態の表示体付きデバイスの平面構造の一例を示す平面図。
図13】第4実施形態の表示体付きデバイスの作用を示す作用図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照して、表示体、表示体付きデバイス、および、表示体の製造方法の実施形態を説明する。以下では、第1〜第4の4つの実施形態について説明するが、これらの実施形態において、表示体の基本構造は共通しているため、まず、表示体の基本構造とその製造方法について説明する。
【0021】
[表示体の構造]
図1が示すように、表示体10は、表面10Fと、表面10Fとは反対側の面である裏面10Rとを有し、表面10Fと対向する方向から見て、表示体10は、表示領域20と補助領域30とを含んでいる。表示領域20は、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとの二種類の領域を含んでおり、表面10Fは、第1表示領域20Aと、第2表示領域20Bと、補助領域30とに区画されている。表示領域20は構造色を呈し、白色の光が表面10Fに照射されている状態において、第1表示領域20Aの呈する色相と第2表示領域20Bの呈する色相とは互いに異なる。補助領域30は、金属光沢を有する色を呈する。
【0022】
例えば、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとによって、文字、記号、図形、模様、絵柄等が表現され、補助領域30によって背景が表現される。一例として、図1に示す構成では、緑系の色を呈する第1表示領域20Aと青系の色を呈する第2表示領域20Bとによって地球の絵柄が表現され、銀色を呈する補助領域30によって背景が表現されている。
【0023】
図2を参照して、表示領域20の構造について説明する。
図2が示すように、表示領域20において、表示体10は、基材11と、凹凸構造層12と、金属層13と、多層膜層14とを備えている。基材11、凹凸構造層12、金属層13、および、多層膜層14は、この順に並んでおり、基材11に対して多層膜層14の位置する側が表示体10の表面側であり、多層膜層14に対して基材11の位置する側が表示体10の裏面側である。図2は、表示領域20の断面構造とともに、表示体10の表面10Fと対向する方向から見た凹凸構造層12の平面構造を示している。
【0024】
基材11は板状を有し、基材11の有する面のうち、表示体10の表面側に位置する面が基材11の表面である。基材11は、可視領域の光に対して透明であり、可視領域の光を透過する。可視領域の光が有する波長は、400nm以上800nm以下である。基材11は誘電体であり、基材11の材料としては、例えば、合成石英や、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PC(ポリカーボネート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等の樹脂が挙げられる。基材11の屈折率は、空気層よりも高く、例えば1.2以上1.7以下である。基材11は、1つの層から構成されていてもよいし、複数の層から構成されていてもよい。
凹凸構造層12と金属層13とからなる構造体であるプラズモン構造体層15は、入射光を、プラズモン共鳴などによって透過させる。
【0025】
凹凸構造層12は、基材11の表面に沿って広がる平坦部12aと、平坦部12aから表示体10の表面側に突き出した複数の凸部12bとから構成されている。すなわち、凸部12bは、表示体10の裏面10Rに沿って広がる面から表面10Fに向けて突出している。凹凸構造層12は、可視領域の光に対して透明な誘電体であり、例えば、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂から構成されている。凹凸構造層12の屈折率は、空気層よりも高い。
【0026】
凸部12bは、四角錐台形状、すなわち、四角錐の頂部が平面となっている形状を有しており、基材11の表面に沿った方向における凸部12bの幅は、表示体10の裏面10Rから表面10Fに向かう方向に、徐々に小さくなっている。
【0027】
凸部12bの基端から先端までの長さ、すなわち、凸部12bの延びる方向における凸部12bの長さが、凸部高さHであり、凸部12bの基部を構成する正方形の一辺の長さが、凸部幅Dである。凸部12bの加工の精度が得られやすいこと等の観点において、凸部幅Dに対する凸部高さHの比であるアスペクト比Ar(Ar=H/D)は、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。
【0028】
複数の凸部12bは、表示体10の表面10Fと対向する方向から見て、二次元格子の一例である正方配列に並んでいる。正方配列は、一辺が構造周期Pである正方形SQの各頂点に凸部12bの中心が位置する配列である。すなわち、構造周期Pは、互いに隣り合う2つの凸部12bにおける中心間の距離であり、また、構造周期Pは、互いに隣り合う2つの凸部12bの間の距離である凸部間距離Wと凸部幅Dとの合計である。構造周期Pは、可視領域の波長以下の長さであり、すなわち、構造周期Pは、サブ波長周期である。凸部12bの加工の精度が得られやすいこと等の観点において、構造周期Pは、100nm以上400nm以下であることが好ましく、200nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0029】
複数の凸部12bが配置されている領域全体の面積Saは、表示体10の表面10Fと対向する方向から見た凹凸構造層12の面積であって、すなわち、凸部12bの間に露出する平坦部12aの面積と各凸部12bの基部を構成する正方形の面積との合計である。凸部12bの加工の精度が得られやすいこと等の観点において、面積Sa×凸部高さHによって表される体積に対する複数の凸部12bの個々の体積の合計の比である体積比率Vrは、0.05以上0.5以下であることが好ましい。体積比率Vrは、すなわち、平坦部12a上で凹凸構造が形成されている空間の単位体積当たりにおいて凸部12bが占める割合である。凸部間距離Wは、所望の体積比率Vrや構造周期Pや凸部12bの形状を考慮して、決定されればよい。
【0030】
金属層13は、凹凸構造層12に対して表示体10の表面側に位置し、凹凸構造層12の全面を覆っている。金属層13は、凹凸構造層12の表面形状に追従した形状を有している。すなわち、金属層13の表面は、凹凸構造層12の有する凹凸に追従した凹凸を有している。金属層13における凹凸構造の周期や高さは、凹凸構造層12における凹凸構造の周期や高さ、すなわち、構造周期Pや凸部間距離Wや、凸部高さHおよび凸部幅Dを含めた凸部12bの形状に依存する。
【0031】
金属層13は、金属材料から構成されており、金属層13の屈折率は、空気層よりも低い。プラズモン共鳴が生じやすいこと等の観点において、金属層13は、可視領域の波長における複素誘電率の実部が負の値である金属材料から構成されており、金属層13の膜厚は、10nm以上200nm以下であることが好ましい。金属層13の材料としては、例えば、アルミニウム、金、銀、タンタル、インジウム等が挙げられる。
【0032】
なお、表示体10の表面10Fと対向する方向から見て、凹凸構造層12において、凸部12bの間から露出する平坦部12aの面積は、各凸部12bの基部を構成する正方形の面積の合計よりも大きいことが好ましい。この場合、平坦部12aの直上の領域、すなわち、金属層13のなかで平坦部12aに積層された部分と凸部12bの基部とを含む領域において、金属層13は、構造的および光学的に海成分であり、凸部12bの基部は、構造的および光学的に、海成分のなかに分布する島成分である。
【0033】
多層膜層14は、複数の薄膜14aが積層された構造を有し、多層膜干渉を生じさせる。すなわち、多層膜層14は、表示体10の表面側からの入射光を受けたとき、各薄膜14aにて反射された光の干渉の結果として、特定の波長域の光を強く返す。これにより、表示体10の表面側から見て、表示領域20には、特定の色相の構造色が視認される。
【0034】
多層膜層14は、金属層13の有する凹凸に従って起伏を繰り返す形状、換言すれば、表示体10の表面側に向けて膨らむように湾曲した部分が凹凸構造層12における凸部12bの配列方向に沿って連なる形状を有している。例えば、多層膜層14にて最も表示体10の裏面10Rに近い部分、すなわち、湾曲部分の端部は、凹凸構造層12における凸部12bの間の領域にまで入り込んでいる。なお、各薄膜14aの湾曲の程度は、多層膜層14中における薄膜14aの位置に応じて異なる。
【0035】
薄膜14aは、可視領域の光に対して透明な材料から構成されており、複数の薄膜14aの屈折率は、互いに異なる。薄膜14aの材料としては、例えば、TiO(酸化チタン)、SiO(酸化ケイ素)、Al(酸化アルミニウム)、Nb(酸化ニオブ)、Ta(酸化タンタル)、HfO(酸化ハフニウム)、ZnS(硫化亜鉛)、ZrO(酸化ジルコニウム)等の無機物や、ナイロン、ポリエステル等の高分子化合物を用いることができる。
【0036】
多層膜層14の有する薄膜14aの数や、各薄膜14aの材料および膜厚は、表示体10の表面側から反射光を見る場合に表示領域20の呈する色として視認させたい色相に応じて、この色相に対応する波長域の光が強められて多層膜層14から反射されるように、設定される。
【0037】
また、薄膜14aの湾曲の程度によって、薄膜14aを通る光の光路の長さが変わるため、多層膜層14にて干渉によって強められる光の波長も変わる。したがって、凹凸構造層12における構造周期Pおよび凸部間距離Wを含めた凸部12bの配置、凸部高さHおよび凸部幅Dを含めた凸部12bの形状の変更によっても、表示体10の表面側から反射光を見る場合に表示領域20にて視認される色の色相を変化させることができる。
【0038】
例えば、凸部12bの形状が一定の場合においては構造周期Pが大きいほど、凸部間距離Wが大きく、凸部12bの間の領域に位置する多層膜層14の広さは大きい。結果として、薄膜14aを通る光の光路の長さが長くなるため、より長い波長の光が強められて多層膜層14から反射される。
【0039】
すなわち、多層膜層14における各薄膜14aの構成と凹凸構造層12における凸部12bの配置および形状とは、表示体10の表面側から反射光を見る場合に表示領域20の呈する色として視認させたい所望の色相に応じて、この色相に対応する波長域の光が強められて多層膜層14から反射されるように調整されている。そして、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとは、多層膜層14における各薄膜14aの構成や、凹凸構造層12における凸部12bの配置および形状がこれらの領域において互いに異なっていることによって、表示体10の表面側から反射光を見る場合に互いに異なる色相を呈する。
【0040】
なかでも、2つの領域20A,20Bに互いに異なる構造周期Pの凸部12bを形成することは、2つの領域20A,20Bに薄膜14aの数や材料や膜厚等の層構成が互いに異なる多層膜層14を形成することと比較して容易であるため、構造周期Pの違いによって、第1表示領域20Aの色相と第2表示領域20Bの色相とを異ならせることが好ましい。すなわち、第1表示領域20Aの多層膜層14と第2表示領域20Bの多層膜層14とは、同一の層構成を有して相互に連続する1つの多層構造体であることが好ましい。
【0041】
図3を参照して、補助領域30の構造について説明する。
図3が示すように、補助領域30は、基材11と金属層13とを備えており、基材11の表面に平坦な金属層13が位置している。基材11は、表示領域20と補助領域30とで相互に連続する1つの構造体であり、金属層13は、表示領域20と補助領域30とで相互に連続する1つの層である。これにより、表示体10の表面側からの入射光を受けたとき、表面側から見て、補助領域30は、金属層13の材料に応じた色を呈し、金属光沢を有するように見える。
【0042】
[表示体の製造方法]
上述の表示体10を製造する方法を説明する。
初めに、表示領域20の製造方法について説明する。まず、基材11の表面に、凹凸構造層12を形成する。凹凸構造層12における凸部12bを形成する方法としては、例えば、光、あるいは、荷電粒子線を用いたフォトリソグラフィー法、ナノインプリント法、プラズマエッチング法が挙げられる。なかでも、ナノインプリント法は、微細な凹凸を有する凹凸構造層12の形成に適している。
【0043】
ナノインプリント法を用いる場合、例えば、基材11として、ポリエチレンテレフタラートシートを用い、基材11の表面に、紫外線硬化性樹脂を塗工する。次いで、紫外線硬化性樹脂からなる塗工膜の表面に、凸部12bに追従する形状および配置の凹部を有する凹版である合成石英モールドを押し当て、塗工膜および合成石英モールドに紫外線を照射する。続いて、硬化した紫外線硬化性樹脂から合成石英モールドを離型する。これにより、凸部12bが形成されて、凹凸構造層12が成形される。なお、紫外線硬化性樹脂に代えて熱硬化性樹脂を用いてもよく、この場合、紫外線の照射を熱に変更すればよい。また、紫外線硬化性樹脂に代えて熱可塑性樹脂を用いてもよく、この場合、紫外線の照射は、加熱および冷却に変更すればよい。
【0044】
第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとで、凹凸構造層12における凸部12bの配置や形状が異なっている場合には、第1表示領域20Aに対応する部分と第2表示領域20Bに対応する部分とで合成石英モールドにおける凹部の配置や形状を変えることによって、第1表示領域20Aの凹凸構造層12と第2表示領域20Bの凹凸構造層12とを同時に形成することができる。
【0045】
次いで、凹凸構造層12の表面に、金属層13を形成する。金属層13を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法が挙げられる。さらに、金属層13の表面に、薄膜14aを順に成膜することによって、多層膜層14を形成する。薄膜14aを成膜する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法が挙げられる。これにより、表示領域20の積層構造が形成される。
【0046】
また、補助領域30は、表示領域20の製造工程のうち、凹凸構造層12の形成工程と多層膜層14の形成工程とを行わないことによって製造することができる。すなわち、表示領域20における金属層13の形成と同時に、補助領域30における基材11の表面に金属層13が形成される。
【0047】
[表示体の変形例]
表示体10における表示領域20の構造は、以下のように変更してもよい。
基材11と凹凸構造層12は一体であってもよい。また、凹凸構造層12は平坦部12aを備えず、凸部12bは基材11の表面から突き出していてもよい。
凸部12bは、四角錐台形状に限らず、直方体形状であってもよいし、円錐台形状や円柱形状であってもよい。すなわち、基材11の表面に沿った方向における凸部12bの幅は一定であってもよいし、表示体10の表面10Fと対向する方向から見た凸部12bの形状は円形であってもよい。さらに、凸部12bは、角錐形状や円錐形状のように、先端に平面を有さない形状であってもよい。
【0048】
表示体10の表面10Fと対向する方向から見た凸部12bの配置は、正方配列に限らず、二次元格子状であればよい。正方配列は、二次元平面内において直交する2つの方向の各々に沿って凸部12bが並ぶ配列であり、二次元格子状の配列には、正方配列の他に、二次元平面内において90度とは異なる角度で交差する2つの方向の各々に沿って凸部12bが並ぶ配列が含まれる。
【0049】
金属層13は、凹凸構造層12の全面を覆わず、例えば、凸部12bの間に露出する平坦部12a上と、凸部12bの頂部上とに位置していてもよい。要は、金属層13は、層全体としての形状が凹凸構造層12の表面形状に追従した形状を有していればよく、換言すれば、金属層13は、表面側に向けて飛び出ている部分が凸部12bの配置に沿った二次元格子状に点在している形状を有していればよい。
要は、凹凸構造層12と金属層13とは、これらの層からなるプラズモン構造体層15が、プラズモン共鳴などによって入射光を透過させる構造を有していればよい。入射光の透過が起こる理由は、主として、プラズモン共鳴が生じることによるが、透過理由には、プラズモン共鳴に加えて、入射光が金属層13の局所的に薄くなっている部分から構造体を透過すること等も含まれる。
【0050】
(第1実施形態)
図4を参照して、第1実施形態について説明する。第1実施形態は、表示体の実施形態であり、第1実施形態の表示体10は、主として表面側から表示体10に光が入射し、表面側からのみ表示体10が観察される態様で用いられる。例えば、表示体10は、物品における不透明な面であって光を反射しにくい面に貼り付けられている。表示体10は、物品の偽造の困難性を高める目的で用いられてもよいし、物品の意匠性を高める目的で用いられてもよいし、これらの目的を兼ねて用いられてもよい。
【0051】
物品の偽造の困難性を高める目的としては、表示体10は、例えば、パスポートや免許証等の認証書類、商品券や小切手等の有価証券類、クレジットカードやキャッシュカード等のカード類、紙幣等に貼り付けられる。
【0052】
また、物品の意匠性を高める目的としては、表示体10は、例えば、身に着けられる装飾品や、使用者に携帯される物品、家具や家電等のように据え置かれる物品、壁や扉等の構造物等に取り付けられる。
【0053】
[表示体の作用]
図4を参照して、表示体10の表面10Fと対向する方向から表示領域20を観察した場合に視認される像について説明する。なお、図4では、理解を容易にするために、凹凸構造層12と金属層13とから構成されるプラズモン構造体層15を、1つの平坦な層として模式的に表し、多層膜層14を1つの平坦な層として模式的に表している。
【0054】
表示体10の外側から表示体10の表面10Fに向けて白色の光I1が照射されると、多層膜層14では、各薄膜14aで反射された所定の波長域の光I2が干渉により強められて、この光I2が表示体10の表面側に射出される。
【0055】
多層膜層14は、白色の光I1に含まれる一部の波長域の光I3を透過し、この光I3はプラズモン構造体層15に入る。プラズモン構造体層15における凹凸構造は誘電体に金属薄膜が積層された構造であり、凹凸構造の周期は可視領域の波長以下のサブ波長周期である。そのため、光I3を受けたプラズモン構造体層15では、一次回折光が生じることが抑えられ、光I3に含まれる特定の波長域の光E1と電子の集団的な振動とが結合するプラズモン共鳴が生じる。そして、プラズモン構造体層15は、光I3に含まれる一部の波長域の光を表面プラズモンとして透過し、プラズモン構造体層15から射出される光I4に変換する。光I4の波長域は、凹凸構造の周期、すなわち、構造周期Pによって決まる。なお、プラズモン構造体層15から射出される光には、金属層13の局所的に薄くなっている部分から構造体を透過する等によってプラズモン構造体層15を透過した光も含まれる。ただし、表示体10の裏面側に射出される光においては、光I4が支配的である。
【0056】
以上のように、表示体10の表面側には、多層膜層14で反射された光I2が射出される。したがって、表示体10の外側から表面10Fに向けて白色の光I1が照射されている状態で、表示体10の表面側から表面10Fを観察する表面反射観察によれば、光I2の波長域に応じた色相、すなわち、多層膜層14によって強められた波長域に応じた色相の色が、表示領域20にて視認される。この光I2の波長域に応じた色は、白色および黒色とは異なる色である。
【0057】
上記構成では、表示体10がプラズモン構造体層15を備えていることにより、多層膜層14を透過した光が、例えば、基材11とその上層との界面等、表示体10の内部で反射すること等により表示体10の表面側に射出されることが抑えられる。したがって、表示体10の表面側に、多層膜層14によって強められた波長域の光I2とは異なる波長域の光が射出することが抑えられるため、表示領域20にて視認される色相の鮮明さが高められる。
【0058】
上述のように、第1表示領域20Aの多層膜層14によって強められる波長域と、第2表示領域20Bの多層膜層14によって強められる波長域とは異なっているため、表面反射観察においては、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとは、互いに異なる色相の色に見える。そして、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとの各々で、視認される色相の鮮明さが高められているため、第1表示領域20Aの色相と第2表示領域20Bの色相との差異が明瞭となり、これらの領域によって表現される絵柄等の像の視認性が高められる。
【0059】
なお、表示体10の表面10Fと対向する方向から補助領域30を観察した場合、表示体10の外側から表面10Fに向けて白色の光I1が照射されると、金属層13の材料に応じた波長域の光が金属層13の自由電子の集団的な運動によって跳ね返される。そのため、補助領域30は、跳ね返された光の波長域に応じた色相にて、金属光沢を有するように見える。
【0060】
したがって、表示領域20と補助領域30とは、相互に質感が異なるように見えるため、表示体10においては、表示領域20と補助領域30とによる多彩な像の表現が可能となる。なお、表示領域20と補助領域30との観察に際して表示体10の表面10Fに照射される光は、白色の光でなくてもよい。
【0061】
以上、第1実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)表示体10がプラズモン構造体層15を備えていることにより、多層膜層14を透過した光が、表示体10の内部での反射等により表示体10の表面側に射出されることが抑えられる。したがって、表示体10の表面側に、多層膜層14によって強められた波長域の光I2とは異なる波長域の光が射出することが抑えられるため、表示領域20にて視認される色相の鮮明さが高められる。
【0062】
(2)表示領域20は、表面反射観察にて互いに異なる色相の色が視認される第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとを含んでいる。そして、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとの各々で、視認される色相の鮮明さが高められているため、第1表示領域20Aの色相と第2表示領域20Bの色相との差異が明瞭となり、これらの領域によって表現される像の視認性が高められる。したがって、表示体10を備える物品にて、偽造の困難性や意匠性がより高められる。
【0063】
(3)第1表示領域20Aにおける凸部12bの構造周期Pと、第2表示領域20Bにおける凸部12bの構造周期Pとが互いに異なる構成では、多層膜層14の層数や材料や膜厚等の層構成のみによって第1表示領域20Aの色相と第2表示領域20Bの色相とを異ならせる構成と比較して、2つの領域20A,20Bにおける色相の調整についての自由度が高い。また、上記構成では、多層膜層14の層構成のみによって第1表示領域20Aの色相と第2表示領域20Bの色相とを異ならせる構成と比較して、2つの領域20A,20Bにおける多層膜層14の層構成の違いを小さくすることも可能である。2つの領域20A,20Bに互いに異なる構造周期Pの凸部12bを形成することは、2つの領域20A,20Bに互いに異なる層構成の多層膜層14を積層することと比較して容易であるため、上記構成によれば、表示体10の製造工程の簡素化を図ることができる。
【0064】
なかでも、第1表示領域20Aの多層膜層14と第2表示領域20Bの多層膜層14とが、同一の層構成を有する連続した1つの多層構造体であり、構造周期Pの違いによって、第1表示領域20Aの色相と第2表示領域20Bの色相とを異ならせている構成では、表示体10の製造が特に容易である。
【0065】
(4)表示体10が、表示領域20と補助領域30とを備える構成では、表面反射観察にて表示領域20と補助領域30とは、質感が異なるように見える。したがって、表示領域20と補助領域30とによって、多彩な表現が可能であり、表示体10を備える物品にて、偽造の困難性や意匠性がより高められる。
【0066】
(5)表示領域20の備える金属層13と補助領域30の備える金属層13とが、連続した1つの層であるため、これらの層が別々の層である構成と比較して、表示体10の製造が容易である。
【0067】
(6)基材11の表面に塗工された樹脂に凹版を押し付けて樹脂を硬化させることにより複数の凸部12bを形成し、これによって凹凸構造層12を形成する製造方法によれば、微細な凹凸を有する凹凸構造層12を好適に形成することができる。
【0068】
(7)第1表示領域20Aにおける凸部12bの構造周期Pと、第2表示領域20Bにおける凸部12bの構造周期Pとが互いに異なる表示体10を製造する際に、第1表示領域20Aの凸部12bと第2表示領域20Bの凸部12bとを上記凹版を用いて同時に形成する製造方法によれば、第1表示領域20Aの凸部12bと第2表示領域20Bの凸部12bとを別の工程にて形成する製造方法と比較して、効率よく表示体10を製造することができる。
【0069】
(第2実施形態)
図5図7を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、表示体の実施形態であり、第2実施形態の表示体10は、表面側および裏面側の双方から表示体10が観察される態様で用いられる。例えば、表示体10は、表示体10の表面および裏面の双方が、空気層もしくは透明な部材と接するように物品に取り付けられている。表示体10は、物品の偽造の困難性を高める目的で用いられてもよいし、物品の意匠性を高める目的で用いられてもよい。
【0070】
[表示体の作用:表面反射観察、裏面透過観察]
図5を参照して、表面側から表示体10に光が入射しているときに、表面側および裏面側の各々から表示体10の表示領域20を観察した場合に視認される像について説明する。なお、図5では、理解を容易にするために、凹凸構造層12と金属層13とから構成されるプラズモン構造体層15を、1つの平坦な層として模式的に表し、多層膜層14を1つの平坦な層として模式的に表している。
【0071】
表示体10の外側から表面10Fに向けて白色の光I1が照射されているとき、表示体10の表面側には、第1実施形態と同様に、多層膜層14によって強められた波長域の光I2が射出される。したがって、表面側から表示領域20を観察した場合、光I2の波長域に応じた色相の色が、表示領域20にて視認される。
【0072】
第1実施形態にて説明したように、表示体10がプラズモン構造体層15を備えていることにより、多層膜層14を透過した光が、表示体10の内部での反射等によって表示体10の表面側に射出されることが抑えられるため、表面側から見た表示領域20の色相の鮮明さが高められる。
【0073】
一方、多層膜層14を透過した光I3に含まれる一部の波長域の光E1は、プラズモン構造体層15におけるプラズモン共鳴によって消費され、光I3に含まれる一部の波長域の光I4がプラズモン構造体層15と基材11とを透過して、表示体10の裏面側に射出される。
【0074】
したがって、表示体10の裏面側から表示領域20を観察した場合、光I4の波長域に応じた色相の色が表示領域20にて視認される。この光I4の波長域に応じた色は、白色、黒色、および、光I2の波長域に応じた色とは異なる色である。上述のように、プラズモン構造体層15から射出される光I4の波長域は、凹凸構造層12における構造周期Pによって決まるため、構造周期Pを変更することによって、表示体10の裏面側に出る光I4の波長域を変えることができる。
【0075】
なお、表示体10の表面側から補助領域30を観察した場合、第1実施形態と同様に、補助領域30は、金属層13の材料に応じた色相で金属光沢を有するように見える。また、表示体10の裏面側から補助領域30を観察した場合、表示体10の外側から表面10Fに向けて照射された光I1のうち補助領域30を透過する光の強度は微小であるため、補助領域30は、黒色に近い暗色に視認される。
【0076】
以上のように、表示体10の外側から表面10Fに向けて白色の光I1が照射されている状態で、表示体10の表面側から表面10Fを観察する表面反射観察によれば、第1実施形態同様の像が観察される。
【0077】
一方、表示体10の外側から表面10Fに向けて白色の光I1が照射されている状態で、表示体の裏面側から裏面10Rを観察する裏面透過観察によれば、表示領域20には、表面反射観察とは異なる色相の色が視認される。また、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとで、凹凸構造層12における構造周期Pを異ならせることにより、裏面透過観察にて、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとで視認される色の色相を異ならせることができる。こうした構成によれば、裏面透過観察によっても、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとから構成される絵柄等の像、さらには、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bと補助領域30とから構成される絵柄等の像が観察される。
【0078】
なお、上記表面反射観察や裏面透過観察の結果は、表面10Fに向けた外光の光量が、裏面10Rに向けた外光の光量よりも高い場合においても、同様の傾向を示す。また、表示体10の表面10Fに照射される光は、白色の光でなくてもよい。
【0079】
[表示体の作用:表面透過観察、裏面反射観察]
図6を参照して、裏面側から表示体10に光が入射しているときに、表面側および裏面側の各々から表示体10の表示領域20を観察した場合に視認される像について説明する。なお、図6では、理解を容易にするために、凹凸構造層12と金属層13とから構成されるプラズモン構造体層15を、1つの平坦な層として模式的に表し、多層膜層14を1つの平坦な層として模式的に表している。
【0080】
図6が示すように、表示体10の外側から裏面10Rに向けて白色の光I1が照射されると、光I1は、空気層から基材11に入り、基材11からプラズモン構造体層15に入る。
【0081】
ここで、プラズモン構造体層15における平坦部12aの直上の領域は、凸部12bの基部と、金属層13のなかで凸部12bの間にて平坦部12aに積層されている部分とから構成されており、この領域の屈折率は、これら凸部12bの基部の屈折率と、凸部12bの間の金属層13の屈折率とによって、平均化された大きさに近似される。凸部12bの間の空間の体積が複数の凸部12bの体積よりも大きい構成であれば、平坦部12aの直上の領域の屈折率は、海成分である金属層13に支配された大きさとなり、空気層の屈折率よりも十分に低い。したがって、基材11に入射した光I1は、空気層よりも高い屈折率を有した基材11および凹凸構造層12の平坦部12aから、空気層よりも低い屈折率を有した上記平坦部12aの直上の部分に入るため、これらの境界でフレネル反射を生じやすい。
【0082】
一方で、プラズモン構造体層15に光I1が入射すると、プラズモン構造体層15では、プラズモン共鳴が生じる。結果として、光I1に含まれる一部の波長域の光I5は反射光として表示体10の裏面側に射出され、光I1に含まれる一部の波長域の光E2はプラズモン共鳴によって消費され、光I1に含まれる一部の波長域の光I6はプラズモン構造体層15を透過する。さらに、光I6に含まれる波長域の光I7が多層膜層14を透過して、表示体10の表面側に射出される。
【0083】
光I5,I6の波長域は、凹凸構造層12における構造周期Pによって調整可能であり、構造周期Pを変更することによって、表示体10の表面側に出る光I7の波長域を変えることができる。また、光I7の波長域は、多層膜層14における薄膜14aの構成によっても調整が可能である。
【0084】
以上のように、表示体10の外側から裏面10Rに向けて白色の光I1が照射されている状態で、表示体の表面側から表面10Fを観察する表面透過観察によれば、表示領域20にて、光I7の波長域に応じた色相の色が視認される。この光I7の波長域に応じた色は、白色および黒色とは異なる色である。
【0085】
また、表示体10の外側から裏面10Rに向けて白色の光I1が照射されている状態で、表示体の裏面側から裏面10Rを観察する裏面反射観察によれば、表示領域20にて、光I5の波長域に応じた色相の色が視認される。この光I5の波長域に応じた色は、白色、黒色、および、光I7の波長域に応じた色とは異なる色である。すなわち、表示領域20は、表面透過観察と裏面反射観察とで、互いに異なる色相の色に見える、あるいは、互いに異なる彩度や明度の色に見える。
【0086】
さらに、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとで、凹凸構造層12における構造周期Pを異ならせることにより、表面透過観察において、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとで視認される色の色相を異ならせることが可能であり、裏面反射観察においても、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとで視認される色の色相を異ならせることが可能である。こうした構成によれば、表面透過観察および裏面反射観察のいずれにおいても、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとから構成される絵柄等の像が観察される。
【0087】
また、補助領域30についての表面透過観察では、裏面透過観察と同様に、補助領域30は、黒色に近い暗色に視認される。また、補助領域30についての裏面反射観察では、表面反射観察と同様に、補助領域30は、金属層13の材料に応じた色相で金属光沢を有するように見える。したがって、表面透過観察および裏面反射観察のいずれにおいても、表示領域20と補助領域30とから構成される絵柄等の像が観察される。
【0088】
なお、上記表面透過観察や裏面反射観察の結果は、裏面10Rに向けた外光の光量が、表面10Fに向けた外光の光量よりも場合においても、同様の傾向を示す。また、表示体10の裏面10Rに照射される光は、白色の光でなくてもよい。
【0089】
また、プラズモン構造体層15にて、光I5の反射や光E2の吸収が起こるため、表示体10がプラズモン構造体層15を備えていない構成と比較して、裏面10Rに向けて照射された光I1のなかで表示体10を透過する光は減少する。したがって、表示体10の表面10Fと裏面10Rとに光I1が照射されている場合には、プラズモン構造体層15の存在によって、表面10Fに照射された光I1のなかで多層膜層14での反射光以外の光が表面側に返ってくることが抑えられるとともに、裏面10Rに照射された光I1に含まれる光が表示体10を透過して表面側に出ることも抑えられる。これによっても、表面反射観察に際して表示領域20にて視認される色相の鮮明さが高められる。
【0090】
図7は、第2実施形態の表示体10の具体例として、眼鏡90のレンズに貼り付けられた表示体10を示す。例えば、表示体10の表面10Fが外側に向けられており、外光が眼鏡90に当たっている状態では、眼鏡90の外側からは、表面反射観察による像が視認され、眼鏡の内側からは、裏面透過観察による像が視認される。なお、表示体10の表示領域20がレンズの全面を覆っていてもよい。外光が強ければ、眼鏡90の装着者からは、眼鏡90の外側の光景が、表示体10の裏面10Rから出た光の波長に応じた色相を帯びつつ、視認可能である。
【0091】
また、その他の例として、表示体10は、窓に取り付けられてもよい。表示体10の表面10Fが外側に向けられており、例えば昼間に外光が窓に当たっている状態では、窓の外側からは、表面反射観察による像が視認され、窓の内側からは、裏面透過観察による像が視認される。一方、例えば夜間に室内が点灯されている状態では、窓の外側からは、表面透過観察による像が視認され、窓の内側からは、裏面反射観察による像が視認される。
【0092】
以上、第2実施形態によれば、第1実施形態の(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(8)表示体10の外側から表面10Fに向けて光が照射されているとき、表面反射観察と裏面透過観察とで、表示領域20には異なる色相の色が視認される。また、表示体10の外側から裏面10Rに向けて光が照射されているとき、表面透過観察と裏面反射観察とで、表示領域20には異なる色相の色が視認される。このように、表示体10を表面側から観察した場合と裏面側から観察した場合とで、視認される像の色相が異なるため、表示体10を備える物品にて、偽造の困難性や意匠性がより高められる。また、表示体10の表裏の識別も容易である。
【0093】
さらに、各観察における第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとの色相の違いや、表示領域20と補助領域30との色の違い等の組み合わせによって、多様な像の表現が可能であり、表示体10を備える物品にて、偽造の困難性や意匠性が一層高められる。
【0094】
(第3実施形態)
図8図10を参照して、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、表示体付きデバイスの実施形態である。
図8が示すように、表示体付きデバイス100は、表示体10と太陽電池50とを備えている。太陽電池50は、太陽電池50における受光領域が表示体10の裏面10Rと対向する位置に配置されており、例えば、表示体10の裏面10Rと太陽電池50の受光領域とは接している。太陽電池50は、受光領域に入射した光のエネルギーから電力を生成する。
【0095】
例えば、表示体付きデバイス100は、太陽電池によって駆動する時計に具体化され、このとき、表示体10は文字盤として用いられて、物品の意匠性を高める。例えば、図9が示すように、表示体10の表面10Fにおいて、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bと補助領域30とは、装飾のための絵柄や、時刻表示のための数字や文字等を構成している。数字や文字や絵柄の一部は、表示領域20および補助領域30とは異なる構成、例えば、表面10Fに対する樹脂や金属の貼付によって形成されていてもよい。
【0096】
なお、表示体付きデバイス100は、時計に限らず、太陽電池によって駆動するデバイスであればよく、例えば、太陽電池の駆動対象は表示装置等であってもよい。要は、表示体付きデバイス100は、表示体10に対して裏面側に太陽電池50が位置する構成を有していればよい。また、太陽電池50は、表示体10の裏面10Rの一部の領域と対向していてもよく、少なくとも表示領域20と対向していればよい。
【0097】
[表示体付きデバイスの作用]
図10を参照して、表示体付きデバイス100に入射した光の進行の態様について説明する。なお、図10では、理解を容易にするために、表示体10の表示領域20について、凹凸構造層12と金属層13とから構成されるプラズモン構造体層15を、1つの平坦な層として模式的に表し、多層膜層14を1つの平坦な層として模式的に表している。
【0098】
図10が示すように、表示体付きデバイス100の外側から表示体10の表面10Fに向けて太陽光I1が照射されたとき、第1実施形態と同様に、表示領域20では、表示体10の表面側に、多層膜層14によって強められた波長域の光I2が射出される。したがって、表示体10の表面側から見て、光I2の波長域に応じた色相の色が、表示領域20にて視認される。
【0099】
第1実施形態にて説明したように、表示体10がプラズモン構造体層15を備えていることにより、多層膜層14を透過した光が、表示体10の内部での反射等によって表示体10の表面側に射出されることが抑えられるため、表面側から見た表示領域20の色相の鮮明さが高められる。
【0100】
一方、多層膜層14を透過した光I3に含まれる一部の波長域の光E1は、プラズモン構造体層15におけるプラズモン共鳴によって消費され、光I3に含まれる一部の波長域の光I4がプラズモン構造体層15と基材11とを透過して、表示体10の裏面側に射出される。そして、射出された光I4が、太陽電池50の受光領域に入射する。これにより、太陽電池50は、入射した光I4のエネルギーから電力を生成する。
【0101】
上述のように、プラズモン構造体層15から射出される光I4の波長域は、凹凸構造層12における構造周期Pによって決まるため、構造周期Pを変更することによって、表示体10の裏面側に出る光I4の波長域を変えることができる。したがって、構造周期Pの調整によって、光I4の波長域を太陽電池50にて効率よく吸収される波長域に調整し、太陽電池50における光電変換に寄与しない波長域を表示領域20が呈する構造色とすることもできる。
【0102】
なお、表示体10の表面側から補助領域30を観察した場合、第1実施形態と同様に、補助領域30は、金属層13の材料に応じた色相で金属光沢を有するように見える。
【0103】
以上のように、表示体付きデバイス100の外側から表示体10の表面10Fに向けて光I1が照射されている状態で、表示体10の表面側から表面10Fを観察すると、第1実施形態の表面反射観察と同様の像が観察される。そして、表示体10の裏面側から射出された光I4が、太陽電池50による発電に利用される。
【0104】
時計の文字盤に意匠性を高めるための絵柄等を付そうとするとき、光を透過しない材料によって像を形成すれば、材料選択の自由度が高まるため多様な像の表現が可能ではあるが、文字盤の一部に、太陽電池へ光を入射させるための孔を形成せざるを得ない。こうした孔を大きくすれば、太陽電池へ入射する光量が大きくなって発電効率は高まるものの意匠性は低下し、一方で、孔を小さくすれば、意匠性は高まるものの太陽電池へ入射する光量が少なくなって発電効率が低下する。
【0105】
これに対し、第3実施形態の表示体付きデバイス100を太陽電池によって駆動する時計に具体化した構成では、表示領域20を、像を形成するための領域として利用するとともに、太陽電池へ光を通す領域としても利用できる。したがって、意匠性を高めることと太陽電池の発電効率を高めることとの両立が可能である。
【0106】
以上、第3実施形態によれば、第1実施形態の(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(9)表示体付きデバイス100の外側から表示体10の表面10Fに向けて光が照射されている状態で、表示体10の表面側から表面10Fを観察すると、表示領域20にて、色相の鮮明さが高められた像が視認される。そして、表示領域20を透過して表示体10の裏面側から射出された所定の波長の光が、太陽電池50による発電に利用される。したがって、表示領域20を、像を形成するための領域として利用するとともに、太陽電池50へ光を通す領域としても利用できるため、表示体付きデバイス100の意匠性を高めることと太陽電池50の発電効率を高めることとの両立が可能である。
【0107】
(第4実施形態)
図11図13を参照して、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、表示体付きデバイスの実施形態である。
図11が示すように、表示体付きデバイス110は、表示体10と、光を放つことが可能に構成された光射出構造体60とを備えている。光射出構造体60は、光射出構造体60に照射された光を反射によって射出する構造体、もしくは、光射出構造体60自身の発光によって光を射出する構造体である。例えば、光射出構造体60は、白色光下において白色に見える構造体である。
【0108】
光射出構造体60は、表示体10の裏面10Rの一部と対向する位置に配置されており、光射出構造体60と裏面10Rとは離間している。すなわち、表示体10の表面10Fと対向する方向から見て、表面10Fには、光射出構造体60と重なる領域と、光射出構造体60と重ならない領域とが含まれる。詳細には、光射出構造体60は、表示領域20の一部と対向する位置に配置されている。
【0109】
例えば、図12が示すように、表示体付きデバイス110は、表示体10が文字盤であって、光射出構造体60が文字盤の下に配置された歯車等の部品である時計に具体化される。なお、表示体付きデバイス110は、時計に限らず、表示体10に対して裏面側に光射出構造体60が配置された構成を有していればよい。
【0110】
[表示体付きデバイスの作用]
図13を参照して、表示体付きデバイス110に入射する光の進行の態様について説明する。なお、図13では、理解を容易にするために、表示体10の表示領域20について、凹凸構造層12と金属層13とから構成されるプラズモン構造体層15を、1つの平坦な層として模式的に表し、多層膜層14を1つの平坦な層として模式的に表している。
【0111】
図13が示すように、表示体付きデバイス110の外側から表示体10の表面10Fに向けて白色の光I1が照射されたとき、表示領域20のなかで表示体10の裏面側に光射出構造体60が配置されていない部分では、表示体10の表面側には、第1実施形態と同様に、多層膜層14によって強められた波長域の光I2が射出される。したがって、表示体10の表面側から見た場合、表示領域20のなかで光射出構造体60と重なっていない部分では、光I2の波長域に応じた色相の色が視認される。
【0112】
第1実施形態にて説明したように、表示体10がプラズモン構造体層15を備えていることにより、多層膜層14を透過した光が、表示体10の内部での反射等によって表示体10の表面側に射出されることが抑えられるため、表示領域20のなかで光射出構造体60と重なっていない部分にて視認される色相の鮮明さが高められる。
【0113】
一方、多層膜層14を透過した光I3に含まれる一部の波長域の光E1は、プラズモン構造体層15におけるプラズモン共鳴によって消費され、光I3に含まれる一部の波長域の光I4がプラズモン構造体層15と基材11とを透過して、表示体10の裏面側に射出される。そして、表示体10の裏面側に光射出構造体60が位置している部分では、光射出構造体60から、表示体10の裏面10Rに向けて、光I8が射出される。光射出構造体60が光射出構造体60に照射された光を反射によって射出する構造体である場合、この光I8は、表示体10から射出された光I4を光射出構造体60が反射した光であってもよいし、光射出構造体60の付近に設けられた光源から光射出構造体60に照射された光を光射出構造体60が反射した光であってもよい。また、光射出構造体60が自身の発光によって光を射出する構造体である場合、光I8は、光射出構造体60の発光によって生じた光である。
表示体10の裏面10Rに向けて光I8が照射されると、光I8は、基材11に入り、基材11からプラズモン構造体層15に入る。
【0114】
プラズモン構造体層15に光I8が入射すると、第2実施形態の表面透過観察と同様に、光I8に含まれる一部の波長域の光I9は反射光として表示体10の裏面側に射出され、光I8に含まれる一部の波長域の光E3はプラズモン共鳴によって消費され、光I8に含まれる一部の波長域の光I10はプラズモン構造体層15を透過する。さらに、光I10に含まれる波長域の光I11が多層膜層14を透過して、表示体10の表面側に射出される。
【0115】
光I9,I10の波長域は、凹凸構造層12における構造周期Pによって調整可能であり、構造周期Pを変更することによって、表示体10の表面側に出る光I11の波長域を変えることができる。また、光I11の波長域は、多層膜層14における薄膜14aの構成によっても調整が可能である。
【0116】
したがって、表示体10の表面側から見た場合、表示領域20のなかで光射出構造体60と重なっている部分では、光I2と光I11との波長域に応じた色相の色が視認される。
【0117】
結果として、表示体付きデバイス100の外側から表示体10の表面10Fに向けて白色の光I1が照射されている状態で、表示体10の表面側から表面10Fを観察すると、表示領域20のなかで光射出構造体60と重なっている部分と、光射出構造体60と重なっていない部分とが、互いに異なる色相の色に見える、あるいは、互いに異なる彩度や明度の色に見える。したがって、光射出構造体60の形状に応じた像が視認され、さらに、第1表示領域20Aと第2表示領域20Bとの色相の違いや、表示領域20と補助領域30との色の違い等の組み合わせによって、多様な像の表現が可能である。
【0118】
また、光射出構造体60に対する光の照射の入切や光射出構造体60の発光の入切によって、光射出構造体60の形状に応じた像が見えたり見えなかったりするように、像の視認性の調節も可能である。これによっても、より多様な像の表現が可能である。
【0119】
以上、第4実施形態によれば、第1実施形態の(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(10)光射出構造体60から射出された光の一部が表示体10の表示領域20を透過して表面側に射出される。したがって、表示体付きデバイス100の外側から表示体10の表面10Fに向けて光が照射されている状態で、表示体10の表面側から表面10Fを観察すると、表示領域20のなかで光射出構造体60と重なっている部分と、光射出構造体60と重なっていない部分とが、互いに異なる色に見える。それゆえ、光射出構造体60の形状に応じた像が視認され、より多様な像の表現が可能であり、表示体付きデバイス110における偽造の困難性や意匠性がより高められる。
【0120】
[変形例]
上記各実施形態は、以下のように変更してもよい。
・表示領域20が第3表示領域を含み、第3表示領域において、凹凸構造層12の構造周期Pが一定でなく、第3表示領域における構造周期Pの平均値に対して例えば1/10である所定の標準偏差を有して構造周期Pが分布するように、表面10Fと対向する方向から見た凸部12bの中心位置が決定されていてもよい。こうした構成によれば、第3表示領域は、極微小な領域にて互いに異なる色相を呈し、全体としては、表面反射観察において、これらの色相が混じった色に視認される。したがって、第3表示領域を白色に近い色に視認されるように構成することも可能であり、表示領域20が構成する像が有する色彩についての自由度が高まる。
【0121】
・表示領域20には、互いに異なる色相を呈する3以上の領域が含まれてもよい。また、表示領域20は、1種類の色相を呈する領域であってもよく、この場合でも、表示体10が色相の鮮明さの高められた表示領域20を有することにより、他の表示体との組み合わせや物品に付されている装飾との組み合わせ等によって、物品の偽造の困難性や意匠性の向上が可能である。
【0122】
・補助領域30は、表示体10の表面側から反射光を見る場合に金属光沢が視認される領域であればよく、例えば、金属層13と基材11との間に、凹凸構造層12の平坦部12aと連続する平坦な樹脂層を備えていてもよい。あるいは、補助領域30は、表示領域20の金属層13とは別の層である金属層を備えていてもよい。
【0123】
・表示体10は補助領域30を含まなくてもよく、表示領域20のみから構成されてもよいし、表示領域20に加えて、例えば、基材11と樹脂層とを備えて表面反射観察にて樹脂層の材料に応じた色に見える領域を有していてもよい。
【0124】
・第3実施形態と第4実施形態が組み合わされてもよい。すなわち、表示体付きデバイスは、表示体10と、表示体の裏面側に配置された太陽電池50および光射出構造体60とを備えていてもよい。
【符号の説明】
【0125】
D…凸部幅、H…凸部高さ、I1〜I11,E1〜E3…光、P…構造周期、W…凸部間距離、10…表示体、10F…表面、10R…裏面、11…基材、12…凹凸構造層、12a…平坦部、12b…凸部、13…金属層、14…多層膜層、14a…薄膜、15…プラズモン構造体層、20…表示領域、20A…第1表示領域、20B…第2表示領域、30…補助領域、50…太陽電池、60…光射出構造体、100,110…表示体付きデバイス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13