(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るトランスカバーおよびトランス装置について図面を参照しつつ説明する。本実施形態のトランス装置は、例えば、車載用の各種電子機器に適用される。
【0018】
図3は、本発明の実施形態による横型の面実装トランス装置を示す正面斜視図であり、
図4は、
図3の状態から、カバー部材160およびテープ111が取り外された状態を示すものである。
図3に示すように、トランス100は、コア110A、Bと、コイルボビン120と、コイル(本願明細書においては巻線170(
図9を参照)が巻回された状態を表す:巻回巻線とも称する)150と、カバー部材160とを備えている。なお、コア110A、Bの周囲には、1対のコア110A、Bをコイルボビン120とともに互いに固定する接着テープ(固定用粘着テープ)111が巻かれている。
また、本実施形態における説明においては、
図3に矢印で示される各方向を基準とし、他の図面の説明も、部材間の位置関係は、
図3で定めたこの方向により説明を行うものとする。
【0019】
以下、これらの各部材について順次説明する。
まず、コア110A、Bは同一形状の1対のE型のコアからなる。すなわち、いずれのコア110A、Bも、両方の側脚部110C、D、E、Fの中央に位置する中脚部110G(
図4においては、コア110Bの中脚部は巻軸部122に隠れて見えていない)がコイルボビン120の、コイル150が巻回される巻軸部122における中空孔134の開口部134Aから内部に挿入され、この中空孔134の内部で2つの中脚部110Gの先端同士が所定の間隔をおいて対向するようになっている。なお、コア110A、Bの対向する両方の側脚部110C、D、E、Fの先端同士は、
図3、5に示すように、互いに当接するように配設されている。
【0020】
次に、コイルボビン120は、
図5および
図6に示されるような形状をなし、成形性、量産性、微細加工性、電気絶縁性、低廉性および機械的な強度等を考慮し、例えば、6,6−ナイロン等の絶縁性樹脂を用いて成形される。
コイルボビン120は、巻線170が巻回される巻軸部122と、この巻軸部122の両外側に形成された鍔部121A、Bと、巻軸部122および鍔部121A、Bの下方に
、これら巻軸部122、および鍔部121A、Bと一体に設けられた端子台140A、Bとから構成されている。
【0021】
図5に示すように、巻軸部122は断面がほぼ矩形状とされており、前側および後側の側面には、この側面の上下方向の全長に亘って延びる、左右1対の端部溝123A、Bおよび中央溝124が形成されている。
また、巻軸部122には、軸方向(左右方向)に貫通する中空孔134が設けられており、前述したように、コア110A、Bの各中脚部110Gが、開口部134Aからこの中空孔134に挿通される。
【0022】
また、端子台140A、Bには、鍔部121A、Bの底面部が載設される台状部143A、Bと、端子台140A、Bの最下部に位置する複数の面実装端子141A、B(本実施形態においては各々4つずつ設けられている)と、台状部143A、Bと面実装端子141A、Bの間に位置する複数の巻線接続用端子142A、B(本実施形態においては各々4つずつ設けられている)を備えている。なお、面実装端子141A、Bと、対応する巻線接続用端子142A、Bとは、端子台140A、Bの内部で各々電気的に接続されている。複数の面実装端子141A、Bと、複数の巻線接続用端子142A、Bは、各々実装面(面実装端子141A、Bが載設される平面で、図示されていない)に対して平行に配列されている。
【0023】
また、
図6は、上記コイルボビン120を、底面側から見た斜視図であり、
図6に示すように、巻軸部122の平面状の底面部分から垂直に一対の突起127A、Bが立設され、その突起127A、Bの外側に位置する、鍔部121A、B(実際には端子台140A、Bの領域)の内壁面はドーム状に抉られ、ドーム状(半ドーム状)の空間部129A、Bが形成されている。
【0024】
これらの突起127A、Bは、外側に滑らかな裾部127C、Dが延設されており、裾部127C、Dを含む突起127A、Bの大部分が、上記空間部129A、B内に配されるように形成されている。このように、突起127A、Bにこのような裾部127C、Dを形成したのは、配線作業を容易にするとともに、巻線170の折返し時に作用するテンションによる折れを防止する、という理由による。
なお、この突起127A、Bの、先端面は、両鍔部121A、Bの対向方向に短く、巻軸部122の幅方向に長い、楕円形状とされている。これは、突起127A、Bの強度を得るために所定の断面積が必要となるが、両鍔部121A、Bの対向方向は、できるだけ巻回領域として使用するために、長くすることが困難であることから、その分、巻軸部122の幅方向を長くして断面積をかせぐようにしているため、先端面形状としては図示するような楕円とされている。
【0025】
また、鍔部121A、Bの内壁面に形成されたドーム状の空間部129A、Bにおいて、突起127A、Bと鍔部121A、Bの内壁面との間にはスペース128A、Bが形成されており、この巻軸部122に巻回された巻線170がこのスペース128A、Bを通り、突起127A、Bの裾部127C、Dの外周に架けられて折り返し可能とされている。
【0026】
また、上記コイル150を形成する巻線170は、1次巻線および2次巻線を構成するものであって、銅、アルミニウム等の線材を2層以上の絶縁皮膜によって積層被覆してなり、絶縁皮膜は、例えば、フッ素系樹脂、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂や、エチレン-プロピレン-コポリマー等の熱硬化性樹脂、さらには、他の種々の樹脂材料によって形成することができる。
【0027】
また、
図5に示すように、コイルボビン120において、実装面に対して略平行となる、端子取付け部144A、Bの上面144C、Dと、この上面144C、Dから垂直に立ち上がる端子台140A、Bの側壁部145A、Bと、台状部143A、Bの下面143C、D(実際には、下面143C、Dの表面にテープ111が貼付されている)とによって3方を囲まれる係合用溝部146A、Bが形成されており、カバー部材160の係合用突起164A、Bが
図3の後方から挿入され、係合用突起164A、Bの前側端面が、コイルボビン120の前面と略面一となる状態まで、スライドされる。
なお、詳しくは後述するが、係合用突起164A、Bの後端面側には、このスライド動作が、上記スライド方向にそれ以上なされないように、
図3に示す状態において規制するストッパー部が形成されている。
【0028】
また、係合用溝部146A、Bにおいて、台状部143A、Bの下面143C、Dは、対向する端子取付け部144A、Bの上面144C、Dとは平行になっておらず(下面143C、Dが実装面に対して傾斜している)、係合用溝部146A、Bの外側に向かうにしたがって溝の間隔が広がるように形成されている。
すなわち、係合用溝部146A、Bの内側(側壁部145A、B側)では、係合用溝部146A、Bの上下幅が、係合用突起164A、Bの上下幅とほぼ同様のサイズとされているが、係合用溝部146A、Bの外側では、係合用溝部146A、Bの上下幅が、係合用突起164A、Bの上下幅よりも広めに形成されている。
【0029】
これにより、テープ111をコア110A、Bと、この端子台140A、Bの台状部143A、Bを一体として巻回接着するときに、テープ貼着用の治具を、この係合用溝部146A、B内に挿入することが容易となり、さらに治具を用いた作業もし易くなり、その結果、この係合用溝部146A、Bの内壁部にテープ111を容易に貼付することができる。
【0030】
そして、カバー部材160とコイルボビン120とが、
図3に示す状態までスライドしたときに、係合用突起164A、Bの前端面側と後端面側において、この係合用突起164A、Bに対して熱かしめ(係合用突起164A、Bの前端面側と後端面側の所定位置を赤外線などによって熱溶融させ、この熱溶融部分を押圧部材によって押圧してかしめる手法)がなされ、これにより、係合用溝部146A、B内での係合用突起164A、Bのスライド動作が阻止され、カバー部材160とコイルボビン120とが互いに固定される。
また、この熱かしめにより、カバー部材160とコイルボビン120間のガタ付きが抑えられる。
【0031】
次に、本実施形態のカバー部材160を、正面図である
図1と背面図である
図2を用いて説明する。このカバー部材160は、絶縁性を有するとともにマウント機能を有しており、組立時において部品搬送用の吸着手段によりエア吸着される平坦面を有する天板部161と、この天板部161から、両側方において、下方に延びる側壁部163A、Bと、この側壁部163A、Bの下端部の内面側に形成されたスライド係合用の断面矩形状の係合用突起164A、Bとを備えている。
この側壁部163A、Bはコア110A、Bの脱落を防止するとともに、沿面距離を長くして絶縁性を高める機能を有しているが、天板部161から離れた下方位置に係合用突起164A、Bを設けることができるので、カバー部材160とコイルボビン120との係合機構の設計、製造が容易となる。
【0032】
上記天板部161には、コイルボビン120の形状に沿って、上方に向かって凸状をなす上記平坦面からなる吸着面部165A、および、この吸着面部165Aの両側方において、中空の三角柱形状の屋根型補強部162A、Bが形成されている。この屋根型補強部162A、Bによって、天板部161への振動に抗する強度、および上記側壁部163A
、Bを内外に曲げる方向への力に抗する強度が補強されている。
【0033】
また、屋根型補強部162A、Bは中空(三角柱状の空間部)とされており、その側面には開口部162C、Dが設けられている。この開口部162C、Dから屋根型補強部162A、Bの中空部に充填剤を注入し内部で硬化させることにより、上記補強をより強固なものとすることができる。
なお、2つの屋根型補強部162A、Bは、共に最上部分(棟部)が平坦面とされている。
【0034】
前述したように、側壁部163A、Bは、天板部161に対して垂直に配されており、コア110A、Bの側部平面形状に沿う平板形状とされている。
すなわち、カバー部材160が、コイルボビン120とスライド可能に係合した状態で、上記天板部161および側壁部163A、Bがコイルボビン120の各部と、わずかな間隔を空けて対向するように配置されている。これにより、カバー部材160が、コイルボビン120上にスムーズにスライドして配置されるとともに、カバー部材160を設けたことによる大型化を最小限に抑えることができる。
【0035】
断面矩形状の係合用突起164A、Bにおいて、前端面166C、Dは、
図1に示すように、この係合用突起164A、Bの断面形状と同様の長方形形状とされている。
これに対し、後端部分167A、Bは、
図2に示すように、ストッパー構造として機能する複雑な形状とされている。すなわち、この係合用突起164A、Bは、後端部分167A、Bにおいて、折り曲げられて下方に延びる折曲げ片形状を備えている。この折曲げ片形状は、その折曲げ片形状の上部に位置する折曲げ片上方部168A、Bと、その折曲げ片形状の下方に位置する折曲げ片下方部168C、Dと、これら折曲げ片上方部168A、Bと折曲げ片下方部168C、Dとの間に位置し、矩形状の切欠き部168E、Fと後方へ延びる突出部168G、Hを有する折曲げ片中間部168I、Jとを有している。
【0036】
上記折曲げ片上方部168A、Bは、前後方向の厚みが薄い板状部材であり、折曲げ片下方部168C、Dは、前後方向の厚みが厚い板状部材である。折曲げ片下方部168C、Dの左右方向の幅は折曲げ片上方部168A、Bの左右方向の幅よりも大きく、その幅の差の分だけ折曲げ片下方部168C、Dの方が内側に延びた形状とされている。
また、折曲げ片中間部168I、Jは、切欠き部168E、Fが設けられたことにより、折曲げ片上方部168A、Bよりも左右方向の幅が狭くなっており、その幅が狭くなった部分の一部に突出部168G、Hが後方に突出するように形成されている。
【0037】
次に、上記のように構成されたカバー部材160が、コイルボビン120上に取り付けられる様子を、
図7を用いて説明する。なお、
図7においても、
図3において説明した方向の定義に準拠して、方向付けを行う。そのため、各部材の面等を説明する際には、図面右奥方向を前側、図面左手前方向を後側として説明する。
コイルボビン120は全体として、
図5および
図6において説明した通りであるが、溝部146A、Bの後端部分147A、Bには、溝部146A、Bの下方面を構成する端子取付け部144A、Bの後端面148A、Bにおける外方下側領域から後方側に、直方体状の突起148C、Dが形成されている。この突起148C、Dの後端面148E、Fは、溝部146A、Bの側方面を構成する側壁部145A、B(145Bについては
図5を参照)の後端面148G、Hと、略同様な前後方向位置まで延びた構成とされている。
【0038】
また、上記突起148C、Dと側壁部145A、Bとにより、これらの部材の間にスリット148I、Jが形成される構成とされている。
【0039】
上記構成とされたコイルボビン120に、カバー部材160が取り付けられる際には、
まず、カバー部材160の係合用突起164A、Bが前端面166A、B側から、溝部146A、B内の後端部分147A、B側に挿入され、この後、係合用突起164A、Bが溝部146A、B内を前側にスライドして終端位置(
図3に示す位置)に到達する。
この終端位置において、係合用突起164A、Bの後端部分167A、Bのストッパー構造が、溝部146A、Bの後端部分147A、Bの構造と組み合わせられて、カバー部材160がコイルボビン120に対して、この終端位置においてスライド動作を停止するようになっている。
【0040】
すなわち、この終端位置に到達したときに、折曲げ片上方部168A、Bと折曲げ片中間部168I、Jの前面側の壁面が、端子取付け部144A、Bの後端面148A、Bに当接することになり、これによりこの終端位置において、カバー部材160のコイルボビン120上でのスライド動作が停止する。
また、この終端位置に到達したときに、折曲げ片中間部168I、Jがスリット148I、Jに丁度がはまり込んで、コイルボビン120に対するカバー部材160の左右方向の移動(ガタ)が抑制される。
【0041】
また、この終端位置に到達したときに、折曲げ片中間部168I、Jの矩形形状の切欠き部168E、Fが、端子取付け部144A、Bの後端面148A、Bに設けられた矩形状の突起148C、Dと嵌めあわされて、コイルボビン120に対するカバー部材160の上下方向の移動(ガタ)が抑制される。なお、この終端位置に到達したときに、折曲げ片下方部168C、Dの上面は、突起148C、Dの下面だけではなく、コイルボビン120の側壁部145A、Bの後端面148G、H部分の下面にも当接し、これによりコイルボビン120に対するカバー部材160の上下方向の移動(ガタ)の抑制がより確実となる。
【0042】
次に、係合用突起164A、Bが溝部146A、B内をスライドして終端位置に到達した際に行われるカシメ処理について説明する。
このカシメ処理は、カバー部材160の係合用突起164A、Bの前端部分166A、Bおよび後端部分167A、B(合計で4か所)のそれぞれについて行われる。
まず、係合用突起164A、Bの前端部分166A、Bについては、
図1に示す係合用突起164Aの前端面166C、Dに赤外線やレーザー等の熱線を照射し得る熱溶融手段を用いて行われる。すなわち、このカバー部材160は、前述したナイロン系樹脂等の熱可塑性樹脂により形成されており、この係合用突起164Aの前端面166C、Dに、熱溶融手段からの光を照射し、これによって前端面166C、Dを柔らかい状態にし、この後、図示されない押圧部材によって、この前端面166C、Dを押圧して、前端面166C、Dを下方および側方に延出させる。この下方への延出部が、上記端子取付け部144A、Bの前端面148K、L(
図5を参照)に係止され、コイルボビン120に対するカバー部材160の後方への戻り動作が抑止される。
【0043】
なお、
図8は、カバー部材160のカシメ処理を終了した後の状態を示すものであり、前端面166C、Dが押圧されて、延出部が下方および側方に形成された状態の前端面166C´、D´が示されている。
【0044】
一方、係合用突起164A、Bの後端部分167A、Bにおけるカシメ処理については、
図2に示す折曲げ片中間部168I、Jの突出部168G、Hに対して赤外線やレーザー等を照射する熱溶融手段を用いて行われる。すなわち、この係合用突起164Aの突出部168G、Hに、熱溶融手段からの熱線を照射し、これによって突出部168G、Hを柔らかい状態にし、この後、図示されない押圧部材によって、この突出部168G、Hの後端面を押圧して、後端面を両側方に延出させる。この側方への延出部が、上記端子取付け部144A、Bの後端面148A、Bに形成された突起148C、Dの後端面148E
、F、および側壁部145A、Bの後端面148G、Hに当接することにより、コイルボビン120に対するカバー部材160の前後方向のクリアランス程度の移動(ガタ)についても除去される。
【0045】
この突出部168G、Hが押圧された際の延出部形状は、
図8における突出部168G´、H´のように形成される。
上述したように、カバー部材160は、熱によって溶融しやすいように熱可塑性樹脂により形成されているが、その一方で、このカバー部材160が係合されるコイルボビン120は、この熱によって溶融しないように熱硬化性樹脂を用いて形成されている。これにより、上記カバー部材160をコイルボビン120に取り付けた状態であっても、上記熱カシメ処理を行うことが可能となる。
【0046】
上述したカシメ処理を行う順序としては、
図3に示す終端位置に到達して、ストッパー処理が行われた後、係合用突起164A、Bの前端部分166A、Bの前端面166C、Dについて、カシメ処理を行い、最後に後端部分167A、Bの突出部168G、Hに対してカシメ処理を行うことによってクリアランスや塵埃などがはさまること等により生じる微小なガタを取るようにしている。
このように、本実施形態においては、カバー部材160の係合用突起164A、Bの前端部分166A、Bと後端部分167A、Bにおいて、カシメ処理を行うことにより、上述したストッパーによる作用と相俟って、コイルボビン120に対するカバー部材160の前後、左右および上下の各方向での移動が抑制されるとともに、ガタも除去される。
【0047】
また、本実施形態においては、コイルボビン120において、左右の鍔部121A、Bの間に形成された巻軸部122の前後の2面に、1次巻線が巻回される際にはまり込んで係止される、端部溝123A、Bおよび中央溝124が形成されている。このことを
図9を用いて説明する。
【0048】
本実施形態においては、端部溝123A、Bおよび中央溝124の3つの溝によって、巻軸部122内で両端に位置する巻線170と、中央に位置する巻線の位置を規制することができ、その他の位置における巻線は、溝と溝の間に自ら配置されることから、全体として、大まかに均等な巻線位置を維持することができる。
しかも、溝は3本であり、巻軸部122内で両端に位置する巻線170と、略中央に位置する巻線170の各位置が規制されるだけであるから、巻線の巻回数は限定されない。また、1つの溝に配される巻線の数は1本に限られず2本以上でもよいので、巻回数の自由度を高めることができる。
【0049】
ところで、巻線170が一層巻きとされる場合には、通常、巻線170の始端と終端を一方の端子台140A、Bに設けられた巻線接続用端子142A、Bに接続させることとなるので、巻線170を他方側から一方側に向かって折り返す必要が生じるが、折り返した巻線170を引き廻した時に、せっかく巻回した巻線170による巻姿が崩れてしまうことになりかねない。そこで、本実施形態においては、
図9に示すように、巻軸部122の底面部側にこの底面部から垂直に立ち上がる1対の突起127A、Bが設けられている。
【0050】
すなわち、1次巻線である巻線170の巻線始端171Aを、1つの巻線接続用端子142Bに接続し、端子台140Bの底壁面の形状に沿って引き廻し、突起127Bと鍔部121Bの空間部129Bの内壁面との間のスペース128Bを通過させた後、図中
右側の端部溝123Bにはめ入れ、次に対向す
る鍔部121Aに向かって反時計回りで巻回していく。この後、図中
右側の中央溝124にはめ入れ、次に対向する中央溝124にはめ入れ、さらに鍔部121Aに向かって反時計回りで巻回していき、最後に、図中
左側の端部溝123Aにはめ入れ、
この対向する端部溝123Aにはめ入れて、巻軸部122への巻回巻線172の1層分の巻回を終了する。
【0051】
本実施形態においては、1次巻線について1層巻きとされており、巻線終端171Bが、鍔部121B側の1つの巻線接続用端子142B(巻線始端171Aが接続される巻線接続用端子142Bに隣接する)に接続するように設定されているので、巻線170の巻回が終わった後、この巻線170を折り返す必要がある。
【0052】
この折返しをそのまま行うと、せっかく巻回した巻線の巻姿が崩れることになりかねないので、本実施形態においては、図中
左側の端部溝123Aから引き出された巻線170を鍔部121A側の突起127Aの周囲に沿わせて突起127Aと鍔部121Aの内壁面との間のスペース128Aを通過させ、突起127Aに係止させ、所望の方向に巻線170を引き出すようにしている。
【0053】
すなわち、このとき突起127Aにおける巻線170の係止高さを調整することができ、また弛ませずに鍔部121B方向に引き廻すことができるので、すでに巻回された巻回巻線172の巻姿を崩すことなく、折り返し線173を鍔部121B(実際には端子台140B)のドーム状の空間部129Bの内壁面まで引き廻すことができる。
【0054】
この後、巻線170は、ドーム状の空間部129A、Bの内壁面に沿い、さらに端子台140Bの底壁面の形状に沿って引き廻され、その巻線終端171Bは、
図9中で最も上方に位置する巻線接続用端子142Bに接続される。
なお、巻線170を引き廻す際には、治具によって、巻線170を対応するコイルボビン120の各部壁面に押し付けて、次に巻回する巻線170を巻きやすくしている。また、特に、線径が細いものにおいては、巻線170を対応するコイルボビン120の各部壁面に押し付けて空中配線をなくすことにより、断線を防止することができる。
なるべく空中配線が生じないように処理することが好ましい。
【0055】
また、
図9からも明らかなように、突起127A、Bが設けられている位置は、この突起127A、Bの外側部分が、巻軸部122の巻線巻回領域における最も外側の位置よりもさらに外側に位置するようになっている。なお、巻線巻回領域とは、1対の鍔部121A、Bの対向する面の間に位置する領域を称するものとする。
【0056】
これは、図示するように、両突起127A、Bの外方に位置する鍔部121A、Bの内壁面がドーム状に抉られることにより、突起127A、Bの外側がこのドーム状の空間部129A、B内に配されるように、また、突起127A、Bとこの空間部129A、Bの内壁面との間に、巻線170を突起127A、Bの外側に沿わせるスペース128A、Bが確保されるように構成することが可能となっている。さらに、この突起127A、Bの外側が、滑らかに下降する裾部127C、Dとされているので、この裾部127C、Dの長さに応じて、空間部129A、Bのサイズを確保する必要がある。
【0057】
本実施形態においては、突起127A、Bの配設位置を工夫することによって、前記巻軸部122の巻線巻回領域が突起127A、Bの配設スペースによって侵食されないようにすることができ、コイルボビン120の大型化を阻止することができる。
この後、
図9に示す状態から、2次巻線を巻回する処理が行なわれる。2次巻線は、上記1次巻線の巻回処理とは丁度、点対称状態となるように巻線170が引き廻される。
【0058】
すなわち、2次巻線である巻線170の巻線始端(図示せず)を、図中下側から2番目の巻線接続用端子142Aに接続し、
図9中の突起127Aと空間部129Aの内壁面との間のスペース128Aを通過させた後、図中
左側の端部溝123Aにはめ入れ、巻回された1次巻線をなぞるようにして、鍔部121Bに向かって反時計回りで巻回していく。この間に、1次巻線の巻線170と同様にして、中央溝124および端部溝123Bにはめ入れて、巻軸部122への巻線170の1層分の巻回を終了する。
【0059】
そして、図中
右側の端部溝123Bから引き出された2次の巻線170を鍔部121B側の突起127Bの周囲に沿わせて突起127Bと空間部129Bの内壁面との間のスペース128Bを通過させ、突起127Bに係止させ、所望の方向に巻線170を引き出す。
すなわち、このとき突起127Bにおける2次の巻線170の係止高さを調整することができ、また弛ませずに鍔部121A方向に引き廻すことができるので、すでに巻回された2次の巻回巻線172(図示せず)の巻姿を崩すことなく、折り返し線(図示せず)を鍔部121Aのドーム状の空間部129Aの内壁面まで引き廻すことができる。
この後、2次の巻線170は、ドーム状の空間部129Aの内壁面に沿い、さらに端子台140の底壁面の形状に沿って引き廻され、その巻線終端(図示せず)は、
図9中で最も下方に位置する巻線接続用端子142Aに接続される。
【0060】
なお、本発明のトランスカバーおよびトランス装置としては、上記実施形態のものに限られるものではなく、その他の種々の態様のものを適用することができる。
例えば、上記実施形態のトランスカバーおよびトランス装置は、車載用各種電子機器等に用いるものとされているが、本発明のトランスカバーおよびトランス装置としては、その他の種々の装置に採用可能である。
また、本実施形態においては、カシメ処理は熱カシメを用いているが、必ずしも熱によるものでなくともよく、圧力をかけることにより対象部位を変形させる一般のカシメ処理を用いてもよい。
【0061】
また、本実施形態においては、係合用突起164A、Bと係合する溝部146A、Bをコイルボビン120のみによって構成しているが、コア110A、Bのみ、あるいはコイルボビン120とコア110A、Bの両者によって構成してもよい。
また、本実施形態においては、カバー部材160の係合用突起164A、Bの後端部分147A、Bの形状と、コイルボビン120の溝部146A、Bの後端部分147A、Bの形状によって、ストッパー構造が構成されているが、カバー部材160の係合用突起164A、Bの前端部分166A、Bの形状と、コイルボビン120の溝部146A、Bの前端部分146C、Dの形状によって、ストッパー構造を構成してもよい。
【0062】
また、本実施形態においては、カバー部材160に係合用突起164A、Bを、コイルボビン120に溝部146A、Bを各々設けて、互いにスライドによる係合を行うようにしているが、カバー部材160に溝部を、コイルボビン120に係合用突起164A、Bを各々設けて、互いにスライドによる係合を行うようにしてもよい。
【0063】
また、コイルボビン、およびカバー部材の形状としては上記実施形態のものに限られるものではなく、種々の形状やタイプのものに変更が可能である。
また、例えば、コイルボビンの巻軸部に隔壁を設けてもよい。
また、コアについても、前述したように、2つのE字状のコアに限られるものではなく、他の形状のコア要素を組み合わせたものであってもよい。また、コア要素は2つに限られるものではなく、3つ以上としてもよい。
【0064】
また、本実施形態においては、突起127A、Bが設けられている位置は、この突起127A、Bの外側領域が、巻軸部122の巻線巻回領域における最も外側の位置よりもさらに外側とされているが、この突起127A、Bの内側領域は、巻軸部122の巻線巻回領域における最も外側の位置よりも内側とされていてもよいし、外側とされていてもよい
。
また、上記実施形態とは逆に、一端側から他端側に向かう往路ではなく、他端側から一端側に向かうように折返した後の復路において巻線の巻回を行う場合にも、往路の巻線を、上記突起127A、Bに係止させて折り返すようにしてもよく、この場合にも、この往路の巻線が位置規制されて弛みが生じる虞れを防止できるので、復路において巻回された巻線の巻姿に崩れや乱れが生じる事態を阻止することができる。
【0065】
また、上記実施形態においては、突起127A、Bが1対設けられているが、何れか一方のみを設けてもよい。
また、上記実施形態においては、1次巻線と2次巻線が共に対応する突起127A、Bに係止されるようになっているが、何れか一方の巻線のみが係止されるように構成されていてもよい。
【0066】
また、上記実施形態においては、粘着性帯状部として固定用粘着テープを用いているが、本発明のトランスカバーおよびトランス装置においてはこれに限られるものではなく、所定幅の帯状ベース部材の一方側の表面に、接着剤を塗布するようにした粘着性帯状部を用いてもよい。