特許第6805740号(P6805740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805740
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20201214BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20201214BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20201214BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   B60C15/06 C
   B60C15/00 K
   B60C1/00 Z
   B60C5/14 Z
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-218403(P2016-218403)
(22)【出願日】2016年11月8日
(65)【公開番号】特開2018-75935(P2018-75935A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(74)【代理人】
【識別番号】100195590
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 博臣
(72)【発明者】
【氏名】棚田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】廣 真誉
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−45375(JP,A)
【文献】 特開平10−265616(JP,A)
【文献】 特開2005−272716(JP,A)
【文献】 特開2001−71721(JP,A)
【文献】 特開2005−113027(JP,A)
【文献】 特開2015−199465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00,5/14,15/00−15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード、カーカス、インナーライナー及び一対のチェーファーを備えており、
上記カーカスが一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されており、
上記インナーライナーが上記カーカスの内側に位置しており、
それぞれのチェーファーが、それぞれのビードの近傍に位置しており、このタイヤがリムに組み込まれたときにこのリムと接触するように構成されており、
上記ビードがリング状のコアを備えており、
上記チェーファーが第一チェーファーと第二チェーファーとを備えており、
上記第一チェーファーが上記ビードの軸方向外側に位置しており、
上記第二チェーファーが上記インナーライナー及び上記第一チェーファーのそれぞれと接合しており、
上記第二チェーファーと上記インナーライナーとの第一接合部分が上記コアの軸方向内側に位置しており、この第二チェーファーと上記第一チェーファーとの第二接合部分がこのコアの半径方向内側に位置しており、
上記第二チェーファーがゴム組成物からなり、
上記ゴム組成物が基材ゴム及びポリプロピレン粉末を含んでいる、空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイガムをさらに備えており、
上記タイガムが、上記インナーライナーの外側において、上記カーカスに沿って延在しており、
上記タイガムの端部が、上記第二チェーファーと上記コアとの間に位置している、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
このタイヤの外面における、このタイヤと上記リムとの接触面の軸方向内端に対応する地点を、嵌合端としたとき、
上記第二チェーファーの外端が、軸方向において、上記嵌合端よりも外側に位置している、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
上記第二接合部分において、上記第一チェーファーが上記第二チェーファーの半径方向内側に位置しており、
上記第一チェーファーの内端が、軸方向において、上記嵌合端よりも内側に位置している、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
上記嵌合端における、上記チェーファーの厚さが1.5mm以上3.0mm以下である、請求項3又は4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
上記ゴム組成物において、上記ポリプロピレン粉末の量が、上記基材ゴム100質量部に対して10質量部以上40質量部以下である、請求項1から5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
上記第一チェーファーの複素弾性率が8.0MPa以上である、請求項1から6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
上記ポリプロピレン粉末の粒径が1μm以上である、請求項1から7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。詳細には、本発明は、バス、トラック等に装着される重荷重用の空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤには、インナーライナーが設けられている。このインナーライナーは、タイヤの内側に位置し、内圧を保持する役割を果たしている。
【0003】
インナーライナーは、ゴム組成物を用いて作製された架橋ゴムからなる。インナーライナーのゴム組成物は通常、基材ゴムとして、ブチルゴムを含んでいる。ブチルゴムは、空気等の気体が透過しにくいゴムとして知られている。その一方で、このブチルゴムはゴム部材の接着性を損なう恐れがあることも知られている。
【0004】
インナーライナーに関しては、タイヤの耐リーク性能及び耐久性の観点から、様々な検討がなされている。この検討の一例が、特開2004−168244公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−168244公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タイヤがリムに組み込まれるとき、タイヤのビードの部分はリムのシートに載せられる。タイヤの内部に空気を充填すると、このビードの部分はシートに沿って軸方向外向きにスライドしていく。このビードの部分は、リムのフランジに接触する。これにより、タイヤのリムへの組み込みは完了する。
【0007】
重荷重用タイヤでは、シートが軸方向に対して傾斜するように構成されたリムを用いることがある。このリムでは、シートの傾斜角度は通常、15°である。タイヤをこのリムに組み込むと、このタイヤのトゥの部分がシートから浮き上がる。タイヤとシートとの間に隙間が形成されるので、この隙間から、水分や酸素がタイヤに浸透する恐れがある。
【0008】
タイヤのビードの部分には、コアが存在している。コアには通常、スチールワイヤーが用いられている。このため、水分等が浸透した場合には、コアに錆が発生する恐れがある。
【0009】
タイヤのビードの部分には、カーカスプライも位置している。カーカスプライは、カーカスコードを含んでいる。重荷重用タイヤでは、カーカスコードとしてスチールコードが一般的に用いられる。水分等が浸透した場合には、このカーカスコードに錆が発生する恐れがある。
【0010】
重荷重用タイヤではさらに、ビードの部分の補強の観点から、この部分にフィラーを採用することがある。このフィラーは通常、コアの半径方向内側部分を覆うように配置される。このようなフィラーは、ノーマルフィラーとも称される。このノーマルフィラーもコードを含んでおり、このコードとしてはスチールコードが用いられる。このため、水分等が浸透した場合には、このノーマルフィラーのコードにも錆が発生する恐れがある。
【0011】
錆の発生は、強度の低下を招来する。カーカスコードは、例えば、コアをなすワイヤーよりも細い。このため、錆の発生により強度が低下すると、カーカスコードに破断が生じる恐れがある。
【0012】
軽量化の観点から、コアの半径方向内側部分全体でなく、その一部を覆うように、フィラーを構成することがある。このような構成のフィラーは、シートフィラーとも称される。シートフィラーを採用した場合、タイヤの外面とコアとの間にフィラーが存在しない部分が形成されてしまう。このため、特に、シートフィラーを採用したタイヤでは、ノーマルフィラーを採用したタイヤに比べて、コアやカーカスコードまで水分等が浸透しやすく、コアやカーカスコードに錆が発生しやすいという問題がある。
【0013】
錆の発生防止のためには、気体(水分)が浸透する箇所にインナーライナーを配置させればよい。しかし前述の通りインナーライナーは、接着性に劣る。このため、インナーライナーの配置箇所によっては、インナーライナーが剥離する恐れがある。この剥離は、タイヤの耐久性を阻害する。
【0014】
以上の説明から明らかなように、コアやカーカスコードにおける錆の発生防止のための技術が十分に確立されていないのが実状である。
【0015】
本発明の目的は、ビードのコア及びカーカスコードにおける錆の発生防止が達成された空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る空気入りタイヤは、一対のビード、カーカス、インナーライナー及び一対のチェーファーを備えている。上記カーカスは、一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されている。上記インナーライナーは、上記カーカスの内側に位置している。それぞれのチェーファーは、それぞれのビードの近傍に位置しており、このタイヤがリムに組み込まれたときにこのリムと接触するように構成されている。上記ビードは、リング状のコアを備えている。上記チェーファーは、第一チェーファーと第二チェーファーとを備えている。上記第一チェーファーは、上記ビードの軸方向外側に位置している。上記第二チェーファーは、上記インナーライナー及び上記第一チェーファーのそれぞれと接合している。上記第二チェーファーと上記インナーライナーとの第一接合部分は上記コアの軸方向内側に位置しており、この第二チェーファーと上記第一チェーファーとの第二接合部分はこのコアの半径方向内側に位置している。上記第二チェーファーは、ゴム組成物からなる。上記ゴム組成物は、基材ゴム及びポリプロピレン粉末を含んでいる。
【0017】
好ましくは、この空気入りタイヤはタイガムをさらに備えている。上記タイガムは、上記インナーライナーの外側において、上記カーカスに沿って延在している。上記タイガムの端部は、上記第二チェーファーと上記コアとの間に位置している。
【0018】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、このタイヤの外面における、このタイヤと上記リムとの接触面の軸方向内端に対応する地点を、嵌合端としたとき、上記第二チェーファーの外端は、軸方向において、上記嵌合端よりも外側に位置している。
【0019】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記第二接合部分において、上記第一チェーファーは上記第二チェーファーの半径方向内側に位置している。上記第一チェーファーの内端は、軸方向において、上記嵌合端よりも内側に位置している。
【0020】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記嵌合端における、上記チェーファーの厚さは1.5mm以上3.0mm以下である。
【0021】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記ゴム組成物において、上記ポリプロピレン粉末の量は、上記基材ゴム100質量部に対して10質量部以上40質量部以下である。
【0022】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記第一チェーファーの複素弾性率は8.0MPa以上である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る空気入りタイヤでは、第二チェーファーは、インナーライナーとの第一接合部分がコアよりも軸方向内側に位置し、第一チェーファーとの第二接合部分がこのコアよりも半径方向内側に位置するように、配置される。このタイヤでは、タイヤをリムに組み込んだときに、このタイヤとこのリムとの間に隙間が形成される恐れの高い部分に、この第二チェーファーは位置している。
【0024】
このタイヤでは、第二チェーファーのためのゴム組成物はポリプロピレン粉末を含んでいる。この第二チェーファーは、インナーライナーほどではないが、従来のチェーファーよりも水分等の透過を抑える。
【0025】
ビードのコアは一般的に非伸縮性のワイヤーを含むが、このワイヤーの典型的な材質はスチールである。重荷重用のタイヤでは通常、スチールコードがカーカスコードとして用いられる。
【0026】
前述したように、このタイヤでは、タイヤをリムに組み込んだときに、このタイヤとこのリムとの間に隙間が形成される恐れの高い部分に、第二チェーファーが位置している。第二チェーファーがタイヤ内部への水分等の浸透を防止するので、このタイヤでは、ビードのコア及びカーカスコードにおける錆の発生が防止される。本発明によれば、ビードのコア及びカーカスコードにおける錆の発生防止が達成された空気入りタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図2図2は、図1のタイヤの一部が示された拡大断面図である。
図3図3は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0029】
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。詳細には、この図1には、このタイヤ2の中心軸を含む平面に沿った、このタイヤ2の断面の一部が示されている。この図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0030】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のビード8、カーカス10、ベルト12、インナーライナー14、タイガム16、一対のフィラー18及び一対のチェーファー20を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、トラック、バス等に装着される。このタイヤ2は、重荷重用である。
【0031】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接地するトレッド面22を形成する。トレッド4には、溝24が刻まれている。この溝24により、トレッドパターンが形成されている。このトレッド4は、架橋ゴムからなる。このトレッド4では、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性が考慮されている。
【0032】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール6は、カーカス10の軸方向外側に位置している。このサイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。このサイドウォール6は、カーカス10の損傷を防止する。
【0033】
それぞれのビード8は、サイドウォール6よりも半径方向内側に位置している。このビード8の軸方向外側には、チェーファー20の一部が位置している。ビード8は、コア26と、エイペックス28とを備えている。
【0034】
コア26は、リング状である。コア26は、巻回された非伸縮性ワイヤー30を含む。詳細には、巻回された非伸縮性ワイヤー30からなる束32がラッピングゴム34で被覆されることにより、このコア26は構成されている。ワイヤー30の典型的な材質は、スチールである。
【0035】
エイペックス28は、コア26から半径方向外向きに延びている。図1から明らかなように、エイペックス28は半径方向外向きに先細りである。エイペックス28は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0036】
カーカス10は、カーカスプライ36を備えている。このタイヤ2では、カーカス10は1枚のカーカスプライ36からなる。このカーカス10が2枚以上のカーカスプライ36から形成されてもよい。
【0037】
このタイヤ2では、カーカスプライ36は、両側のビード8の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6の内側に沿っている。カーカスプライ36は、それぞれのコア26の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、このカーカスプライ36には、主部36aと一対の折り返し部36bとが形成されている。このカーカスプライ36は、主部36aと一対の折り返し部36bとを備えている。
【0038】
図示されていないが、カーカスプライ36は並列された多数のカーカスコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのカーカスコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス10はラジアル構造を有する。カーカスコードの材質は、スチールである。このカーカスプライ36は、スチールコードを含んでいる。
【0039】
このタイヤ2では、折り返し部36bの端は半径方向においてエイペックス28の外側端とコア26との間に位置している。前述したように、このタイヤ2はトラック、バス等に装着される。このタイヤ2のビード8の部分には、大きな荷重が作用する。この折り返し部36bの端には、歪みが集中する傾向にある。このタイヤ2では、このビード8の部分に、中間層38及びストリップ40がさらに設けられている。これらは、折り返し部36bの端への歪みの集中を抑制する。
【0040】
ベルト12は、トレッド4の半径方向内側に位置している。ベルト12は、カーカス10と積層されている。ベルト12は、カーカス10を補強する。このタイヤ2では、ベルト12は、第一層12a、第二層12b、第三層12c及び第四層12dからなる。このタイヤ2では、ベルト12は4層で構成されている。このベルト12が3層で構成されてもよいし、2層で構成されてもよい。
【0041】
図1から明らかなように、このタイヤ2では、軸方向において、ベルト12を構成する第一層12a、第二層12b、第三層12c及び第四層12dのうち、第二層12bが最も大きな幅を有している。このタイヤ2では、ベルト12を構成する複数の層のうち、最も大きな軸方向幅を有する層、すなわち、第二層12bの端がベルト12の端である。このタイヤ2では、ベルト12の軸方向幅は第二層12bの軸方向幅で表される。ベルト12の軸方向幅は、タイヤ2の最大幅の0.7倍以上が好ましい。
【0042】
図示されていないが、第一層12a、第二層12b、第三層12c及び第四層12dのそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードの材質は、スチールである。このベルト12は、スチールコードを含んでいる。それぞれの層12において、コードは、赤道面に対して傾斜している。このコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、12°から70°である。
【0043】
インナーライナー14は、カーカス10の内側に位置している。インナーライナー14は、タイガム16を介してカーカス10の内面に接合されている。インナーライナー14は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー14の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー14は、タイヤ2の内圧を保持する。言い換えれば、インナーライナー14はタイヤ2の耐リーク性能に寄与する。このタイヤ2では、インナーライナー14の端はコア26よりも半径方向内側に位置している。これにより、インナーライナー14による内圧保持効果が十分に確保されている。
【0044】
タイガム16は、カーカス10とインナーライナー14とに挟まれている。タイガム16は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。タイガム16は、カーカス10と堅固に接合し、インナーライナー14とも堅固に接合する。タイガム16により、インナーライナー14のカーカス10からの剥離が防止されている。タイガム16の典型的な基材ゴムは、天然ゴムである。
【0045】
それぞれのフィラー18は、ビード8の近くに位置している。フィラー18は、カーカス10と積層12されている。フィラー18は、カーカス10の半径方向内側において、ビード8のコア26の周りで折り返されている。図1に示されているように、このフィラー18は、コア26の半径方向内側部分の略全体を覆うように配置されている。このフィラー18は、ノーマルフィラーとも称される。図示されていないが、フィラー18は並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、半径方向に対して傾斜している。コードの材質は、スチールである。フィラー18は、ビード8の部分の倒れを抑える。このフィラー18は、タイヤ2の耐久性に寄与する。このタイヤ2では、フィラー18の端はカバーゴム42で覆われている。
【0046】
それぞれのチェーファー20は、それぞれのビード8の近傍に位置している。チェーファー20は、サイドウォール6の端から半径方向略内向きに延在している。チェーファー20の一部は、軸方向において、ビード8及びカーカス10よりも外側に位置している。このチェーファー20は、タイヤ2のヒールHの位置から軸方向略内向きに延在している。このチェーファー20の一部は、半径方向において、ビード8よりも内側に位置している。このチェーファー20はさらに、タイヤ2のトゥTの位置から半径方向略外向きに延びている。このチェーファー20の一部は、軸方向において、ビード8よりも内側に位置している。図1に示されているように、このチェーファー20の軸方向外側部分はサイドウォール6の半径方向内側部分と接合されている。このチェーファー20の軸方向内側部分はインナーライナー14の半径方向内側部分と接合されている。このタイヤ2では、チェーファー20は架橋ゴムからなる。
【0047】
図2には、図1のタイヤ2のビード8の部分が示されている。この図2において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。
【0048】
図2には、このタイヤ2が組み込まれるリム44も示されている。このリム44は、正規リムである。タイヤ2はリム44に組み込まれ、タイヤ2の内部には、タイヤ2の内圧が正規内圧となるように空気が充填される。
【0049】
本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0050】
本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0051】
本明細書において正規荷重とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0052】
本発明では、特に言及のない限り、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。なお、乗用車用タイヤ2の場合には、内圧が180kPaの状態で寸法及び角度を測定することがある。
【0053】
リム44は、一対の嵌合部46を備えている。それぞれの嵌合部46に、タイヤ2のビード8の部分が嵌め合わされる。嵌合部46は、シート48とフランジ50とを備えている。
【0054】
図2に示されたリム44では、シート48は軸方向に対して傾斜している。このシート48の傾斜角度は通常、15°に設定される。シート48の傾斜角度が15°に設定されたリム44は、15°テーパーリムとも称される。この傾斜角度は、シート48の、チェーファー20の側の面の傾斜角度で表される。
【0055】
このタイヤ2では、ビード8のコア26の断面は六角形状を呈している。このコア26の断面は、6つの角部を有している。図2には、本発明の説明の便宜のために、これらの角部に符号a、b、c、d、e及びfが付されている。このコア26では、角部bがこのコア26の軸方向内側端である。
【0056】
このタイヤ2では、角部aと角部fとを結ぶ面がコア26の底面である。この底面は、シート48と対向している。このタイヤ2のコア26は、このタイヤ2がリム44に組み込まれたとき、リム44のシート48と対向する底面を備えている。図2に示されたこのタイヤ2の断面は、このタイヤ2の中心軸を含む平面に沿っている。この底面は、このタイヤ2の断面において、略軸方向に延在している。角部aはこの底面の軸方向内側端であり、角部fはこの底面の軸方向外側端である。
【0057】
図2において、符号CEはタイヤ2とリム44との接触面の一方の端、具体的には、この接触面の軸方向内端に対応する、このタイヤ2の外面上の地点を表している。図2に示されているように、軸方向において、この地点CEより内側の部分では、タイヤ2はリム44とは接触しない。この地点CEより軸方向内側の部分には、タイヤ2とリム44との間に隙間が形成される。本発明においては、このタイヤ2の外面における、このタイヤ2とリム44との接触面の軸方向内端に対応する地点CEは、嵌合端と称される。
【0058】
図2に示されているように、嵌合端CEの位置は、軸方向において、コア26の角部aの位置と略一致している。言い換えれば、このタイヤ2がリム44に組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態では、嵌合端CEは、軸方向において、コア26の角部aに対応する、タイヤ2の外面上の地点に形成される。
【0059】
図2から明らかなように、リム44のシート48には、このタイヤ2のチェーファー20の一部、詳細には、ヒールHとトゥTとの間に位置するチェーファー20が載せられる。フランジ50には、このチェーファー20の他の一部、詳細には、このチェーファー20の軸方向外側部分が接触させられる。このタイヤ2では、チェーファー20は、このタイヤ2がリム44に組み込まれたときにこのリム44と接触するように構成されている。
【0060】
このタイヤ2では、チェーファー20は第一チェーファー52と第二チェーファー54とを備えている。詳細には、このチェーファー20は第一チェーファー52及び第二チェーファー54からなる。換言すれば、このチェーファー20は二つの部材で構成されている。
【0061】
第一チェーファー52は、サイドウォール6の半径方向略内側に位置している。第一チェーファー52は、ビード8の軸方向外側に位置している。詳細には、この第一チェーファー52は、軸方向において、ビード8、カーカス10及びフィラー18よりも外側に位置している。このタイヤ2では、第一チェーファー52は耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。
【0062】
第一チェーファー52は、リム44のフランジ50と当接する。符号DEは、タイヤ2とリム44との接触面の他方の端、具体的には、この接触面の軸方向外端に対応する、このタイヤ2の外面上の地点を表している。図2に示されているように、この地点DEは第一チェーファー52の外面に位置している。タイヤ2に荷重が作用すると、この地点DEの付近には歪みが集中する傾向にある。このため、ビード8の部分の変形を抑制し、良好な耐久性を維持するには、この第一チェーファー52がある程度の剛性を有しているのが好ましい。この観点から、このタイヤ2では、第一チェーファー52の複素弾性率E*は8.0MPa以上が好ましい。第一チェーファー52の剛性が高すぎると、タイヤ2の乗り心地が損なわれる恐れがある。良好な乗り心地の観点から、この複素弾性率E*は30MPa以下が好ましい。
【0063】
本発明において、複素弾性率は、「JIS K 6394」の規定に準拠して測定される。この測定では、板状の試験片(長さ=45mm、幅=4mm、厚み=2mm)が用いられる。この試験片は、タイヤ2から切り出されてもよいし、ゴム組成物からシートを作製し、このシートから切り出されてもよい。測定条件は、以下の通りである。なお、タイガム16の損失正接について後述するが、この損失正接もこの複素弾性率と同様にして測定される。
粘弾性スペクトロメーター:岩本製作所の「VESF−3」
初期歪み:10%
動歪み:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0064】
第二チェーファー54は、インナーライナー14と第一チェーファー52との間に位置している。この第二チェーファー54は、インナーライナー14及び第一チェーファー52のそれぞれと接合している。本発明においては、第二チェーファー54とインナーライナー14との接合部分56は第一接合部分と称される。この第二チェーファー54と第一チェーファー52との接合部分58は、第二接合部分と称される。このタイヤ2では、第一接合部分56はビード8のコア26の軸方向内側に位置している。第二接合部分58はこのコア26の半径方向内側に位置している。
【0065】
このタイヤ2では、第二チェーファー54はゴム組成物からなる。具体的には、この第二チェーファー54はゴム組成物から作製された架橋ゴムからなる。このタイヤ2では、第二チェーファー54は、第一チェーファー52をなす架橋ゴムとは異なる架橋ゴムで構成されている。
【0066】
このタイヤ2では、第二チェーファー54のためのゴム組成物は基材ゴムを含んでいる。このゴム組成物の好ましい基材ゴムは、ジエン系ゴムである。ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレン(IR)、ポリブタジエン(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)及びポリクロロプレン(CR)が挙げられる。2種以上のゴムが併用されてもよい。このタイヤ2では、接着性の観点から、この基材ゴムの主成分としては天然ゴムが好ましい。
【0067】
第二チェーファー54のためのゴム組成物は、補強剤を含むことができる。典型的な補強剤は、カーボンブラックである。好ましいカーボンブラックは、FEF、GPF、HAF、ISAF、SAF等のファーネスブラックである。第二チェーファー54の強度の観点から、このファーネスブラックとしては、FEF(例えば、ASTM D1765に基づくN550)及びGPF(例えば、ASTM D1765に基づくN660)がより好ましい。なお、このタイヤ2では、カーボンブラックと共にシリカが用いられてもよい。この場合、乾式シリカ及び湿式シリカが用いられる。
【0068】
このタイヤ2では、第二チェーファー54の強度の観点から、カーボンブラックの量は、基材ゴム100質量部に対して30質量部以上が好ましい。第二チェーファー54による転がり抵抗への影響が抑えられるとの観点から、カーボンブラックの量は60質量部以下が好ましい。
【0069】
第二チェーファー54のためのゴム組成物は、ポリプロピレン粉末を含む。このポリプロピレン粉末は、重合後乾燥されたものでも、重合後乾燥されたものを凍結粉砕したものでもよい。このポリプロピレン粉末の製造方法に、特に制限はない。
【0070】
このタイヤ2では、ポリプロピレン粉末は1μm以上の粒径を有している。ゴム組成物において偏在することなく、分散させやすいという観点から、このポリプロピレン粉末の粒径は、500μm以下が好ましく、300μmがより好ましく、100μm以下が特に好ましい。
【0071】
第二チェーファー54のためのゴム組成物は、補強剤及びポリプロピレン粉末以外に、充填剤、軟化剤、粘着性付与剤、硫黄などの架橋剤、加硫促進剤、架橋助剤、老化防止剤等の薬品も含むことができる。タイヤ2の加工性及び性能が考慮されて、最適な薬品が最適な量でこのゴム組成物に配合される。
【0072】
前述したように、このタイヤ2では、第二チェーファー54のためのゴム組成物はポリプロピレン粉末を含んでいる。発明者らは、様々なゴム組成物について水分の透過係数を調査したところ、意外にも、このポリプロピレン粉末を含むゴム組成物において、水分等の透過が抑えられるとの知見を見出すに至っている。本発明の第二チェーファー54は、この知見に基づいている。
【0073】
このタイヤ2では、第二チェーファー54の水分の透過係数は5000×10−10(cm・cm/cm・sec・cmHg)未満である。具体的には、この透過係数は、3000×10−10(cm・cm/cm・sec・cmHg)から4000×10−10(cm・cm/cm・sec・cmHg)の範囲にある。一方、インナーライナー14の透過係数は2000×10−10(cm・cm/cm・sec・cmHg)程度であり、そして従来のチェーファー20の透過係数は15000×10−10(cm・cm/cm・sec・cmHg)程度である。すなわち、本発明の第二チェーファー54では、インナーライナー14ほどではないが、従来のチェーファーよりも水分等の透過が抑えられる。なお、透過係数は、JIS K 7126「プラスチックフィルムおよびシートの気体透過度試験方法」に準拠して、計測される。
【0074】
前述したように、このタイヤ2では、第二チェーファー54は、インナーライナー14との第一接合部分56がコア26よりも軸方向内側に位置し、第一チェーファー52との第二接合部分58がこのコア26よりも半径方向内側に位置するように、配置される。図2から明らかなように、このタイヤ2では、タイヤ2をリム44に組み込んだときに、このタイヤ2とこのリム44との間に隙間が形成される恐れの高い部分に、この第二チェーファー54は位置している。
【0075】
このタイヤ2では、スチールワイヤー30の束32からなるコア26、及び、スチールコードを含むカーカスプライ36の半径方向内側に、第二チェーファー54が位置している。このタイヤ2では、第二チェーファー54がタイヤ2の内部への水分等の浸透を防止するので、従来のタイヤで見られるような、コア26及びカーカスコードにおける錆の発生が防止される。つまり、本発明によれば、ビード8のコア26及びカーカスコードにおける錆の発生防止が達成された空気入りタイヤ2が得られる。
【0076】
前述したように、このタイヤ2では、第二チェーファー54のためのゴム組成物において、基材ゴムの主成分は好ましくは天然ゴムである。この第二チェーファー54は、インナーライナー14と十分に接合する。この第二チェーファー54は、第一チェーファー52とも十分に接合する。この第二チェーファー54は、タイヤ2からはがれにくい。この第二チェーファー54は、このタイヤ2の耐久性に寄与する。この観点から、基材ゴムが主成分として天然ゴムを含む場合には、この基材ゴムの質量に対するこの天然ゴムの質量の比率は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0077】
このタイヤ2では、前述したように、第二チェーファー54のためのゴム組成物に含まれるポリプロピレン粉末が水分等の透過の抑制に効果的に寄与する。このため、水分等の透過の抑制のために、このゴム組成物の基材ゴムは、インナーライナー14の基材ゴムに用いられる、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等のブチル系ゴムを含む必要がない。本発明によれば、良好な接着性を維持しつつ、水分等の透過が効果的に抑制された第二チェーファー54が得られる、この観点から、このタイヤ2では、第二チェーファー54のためのゴム組成物の基材ゴムは、ブチル系ゴムを含まないのが好ましい。
【0078】
このタイヤ2では、第二チェーファー54のためのゴム組成物において、ポリプロピレン粉末の量は、基材ゴム100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、40質量部以下が好ましい。ポリプロピレン粉末の量が10質量部以上に設定されることにより、第二チェーファー54が水分等の透過の抑制に効果的に寄与する。この観点から、このポリプロピレン粉末の量は15質量部以上がより好ましい。このポリプロピレン粉末の量が40質量部以下に設定されることにより、第二チェーファー54の強度が適切に維持される。この観点から、このポリプロピレン粉末の量は35質量部以下がより好ましい。
【0079】
図2に示されているように、第二チェーファー54の外端60は、軸方向において、嵌合端CEよりも外側に位置している。このタイヤ2では、第二チェーファー54は、このタイヤ2とこのリム44との間に隙間が形成される恐れの高い部分に位置している。第二チェーファー54がタイヤ2の内部への水分等の進入経路を塞ぐように配置されるので、このタイヤ2の内部への水分等の透過が効果的に抑制される。このタイヤ2では、コア26及びカーカスコードにおける錆の発生が防止される。この観点から、このタイヤ2では、第二チェーファー54の外端60は、軸方向において、嵌合端CEよりも外側に位置しているのが好ましい。
【0080】
このタイヤ2がリム44に組み込まれるとき、タイヤ2のビード8の部分はリム44のシート48を軸方向外向きにスライドさせられる。このタイヤ2では、第二チェーファー54と第一チェーファー52との第二接合部分58においては、第一チェーファー52が第二チェーファー54の半径方向内側に位置している。このため、ビード8の部分がシート48をスライドしているときに、第一チェーファー52が第二チェーファー54から剥がれることも、第二チェーファー54が第一チェーファー52から剥がれることも、効果的に防止される。タイヤ2のリム44への嵌合時において第二接合部分58に起因した損傷が抑えられるとの観点から、このタイヤ2では、第二接合部分58においては、第一チェーファー52が第二チェーファー54の半径方向内側に位置しているのが好ましい。ビード8の部分がシート48を滑らかにスライドできるとの観点から、図2に示されているように、第一チェーファー52の内端62は、軸方向において、嵌合端CEよりも内側に位置しているのがより好ましい。
【0081】
このタイヤ2では、滑らかなリム44への嵌合、及び錆の発生防止の観点から、第二接合部分58においては、第一チェーファー52が第二チェーファー54の半径方向内側に位置し、軸方向において第一チェーファー52の内端62と第二チェーファー54の外端60との間に嵌合端CEが位置しているのがより好ましい。
【0082】
図2において、両矢印LLは第一チェーファー52の内端62から第二チェーファー54の外端60までの軸方向距離である。この距離LLは、第二接合部分58の軸方向長さでもある。両矢印L1は、嵌合端CEから第一チェーファー52の内端62までの軸方向距離である。両矢印L2は、嵌合端CEから第二チェーファー54の外端60までの軸方向距離である。
【0083】
このタイヤ2では、距離LLは10mm以上20mm以下が好ましい。この距離LLが10mm以上に設定されることにより、第一チェーファー52と第二チェーファー54とが十分に接合された第二接合部分58が得られる。このタイヤ2では、第一チェーファー52が第二チェーファー54から剥がれることも、第二チェーファー54が第一チェーファー52から剥がれることも、効果的に防止される。このタイヤ2は、耐久性に優れる。この観点から、この距離LLは12mm以上がより好ましい。この距離LLが20mm以下に設定されることにより、十分な厚さを有する第二チェーファー54を含んだ第二接合部分58が得られる。この第二接合部分58は、水分等の透過を効果的に抑える。このタイヤ2では、コア26及びカーカスコードにおける錆の発生が防止される。この観点から、この距離LLは18mm以下がより好ましい、
【0084】
このタイヤ2では、距離L1は5mm以上10mm以下が好ましい。この距離L1が5mm以上に設定されることにより、第一チェーファー52がリム44への滑らかな嵌合に効果的に寄与する。この観点から、この距離L1は6mm以上がより好ましい。この距離L1が10mm以下に設定されることにより、第二接合部分58が水分等の透過の抑制に効果的に寄与する。この観点から、この距離L1は9mm以下がより好ましい。
【0085】
このタイヤ2では、距離L2は5mm以上10mm以下が好ましい。この距離L2が5mm以上に設定されることにより、第二チェーファー54が水分等の透過の抑制に効果的に寄与する。この観点から、この距離L2は6mm以上がより好ましい。この距離L2が10mm以下に設定されることにより、第二接合部分58の強度が適切に維持される。この観点から、この距離L2は9mm以下がより好ましい。
【0086】
図2において、両矢印tは嵌合端CEにおけるチェーファー20の厚さである。このタイヤ2では、このチェーファー20の厚さtは1.5mm以上3.0mm以下が好ましい。この厚さtが1.5mm以上に設定されることにより、チェーファー20が水分等の透過の抑制に効果的に寄与する。この観点から、この厚さtは1.7mm以上がより好ましい。この厚さtが3.0mm以下に設定されることにより、このチェーファー20によるタイヤ2の耐久性への影響が効果的に抑えられる。この観点から、この厚さtは2.8mm以下がより好ましい。このタイヤ2では、特に嵌合端CEからこのタイヤ2のトゥTに向かってチェーファー20は、ほぼ一様の厚さtを有している。
【0087】
このタイヤ2では、第二チェーファー54の内端64はコア26の角部b、すなわち、コア26の軸方向内側端よりも半径方向において外側に位置している。このタイヤ2では、コア26の軸方向内側においても、第二チェーファー54が水分等の透過の抑制に寄与している。このタイヤ2では、コア26及びカーカスコードにおける錆の発生が効果的に防止される。この観点から、このタイヤ2では、第二チェーファー54の内端64はコア26の軸方向内側端よりも半径方向外側に位置しているのが好ましい。具体的には、この第二チェーファー54の内端64は、このコア26の軸方向内側端からこの内端64までの半径方向距離が3mm以上15mm以下となるように配置されるのが好ましい。
【0088】
図2に示されているように、このタイヤ2では、インナーライナー14の端の部分は半径方向内向きに先細りな形状を呈している。
【0089】
前述したように、このタイヤ2では、第二チェーファー54は水分等の透過の抑制に寄与している。このため、インナーライナー14の、この第二チェーファー54との接合部分を、このタイヤ2のように、先細りな形状としても、コア26等における錆の発生を防止しつつ、良好な耐リーク性能を維持することができる。しかもインナーライナー14の端の部分を半径方向内向きに先細りな形状で構成することにより、このタイヤ2の製造において、この端の部分にエアが巻き込むことが効果的に防止される。そして、端の部分が半径方向内向きに先細りな形状で構成されたインナーライナー14は、タイヤ2の質量への影響を抑える。この第二チェーファー54は、高品質なタイヤ2の製造及びタイヤ2の軽量化に寄与する。
【0090】
このタイヤ2では、第二チェーファー54の内端64の部分は半径方向外向きに先細りな形状を呈している。前述したように、インナーライナー14の端の部分は半径方向内向きに先細りな形状を呈している。このタイヤ2では、第二チェーファー54とインナーライナー14との第一接合部分56では、第二チェーファー54及びインナーライナー14のそれぞれは先細りな形状を呈している。このタイヤ2では、この第一接合部分56による、タイヤ2の質量への影響が小さく抑えられている。
【0091】
このタイヤ2では、第二チェーファー54の内端64の部分は、インナーライナー14の端から半径方向外側において、先細りな形状とされ、インナーライナー14の端の部分は、第二チェーファー54の内端64から半径方向内側において先細りな形状とされるのが好ましい。これにより、インナーライナー14及び第二チェーファー54で構成される部分、すなわち第一接合部分56に、特異な厚さを有する部分が形成されることが防止される。このタイヤ2では、インナーライナー14及び第二チェーファー54で構成される部分が、全体として、概ね一様な厚さで構成される。このインナーライナー14及び第二チェーファー54で構成される部分は、全体として水分等の透過の抑制に寄与する。
【0092】
このタイヤ2がリム44に組み込まれると、コア26とリム44との間に位置する部分には圧縮方向の力が作用する。この状態で、タイヤ2は長期にわたって保持されるため、この部分の形状は、この圧縮された状態で記憶される。このように形状が記憶されることは、この部分における圧縮方向の力に抗する作用を消失させてしまう。この作用の喪失は、タイヤ2の耐久性に影響する。このタイヤ2では、インナーライナー14の外側において、カーカス10に沿ってタイガム16が延在し、このタイガム16の端部66が第二チェーファー54とコア26との間に位置している。このタイガム16の損失正接は、例えば、ブチル系ゴムを基材ゴムに含むゴム組成物からなる部材のそれよりも小さい。このタイガム16では、圧縮方向の力の作用により形状が変化しても、形状は回復しやすい。言い換えれば、圧縮方向の力に抗する作用が持続するので、耐久性に影響するようなビード8の部分の変形が抑えられる。このタイヤ2では、良好な耐久性が維持される。この観点から、このタイヤ2では、タイガム16の端部66は第二チェーファー54とコア26との間に位置しているのが好ましい。
【0093】
このタイヤ2では、タイガム16の損失正接は0.15以下が好ましい。この損失正接が0.15以下に設定されることにより、このタイガム16がビード8の部分の変形を効果的に抑制する。このタイヤ2は、耐久性に優れる。この観点から、この損失正接は0.10以下がより好ましい。なお、損失正接は低いほど好ましいので。この損失正接の下限は設定されない。
【0094】
図3には、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤ72の断面の一部が示されている。この図3において、上下方向がタイヤ72の半径方向であり、左右方向がタイヤ72の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ72の周方向である。
【0095】
このタイヤ72では、フィラー74以外は、図1に示されたタイヤ2と同等の構成を有している。従って、この図3において、図1のタイヤ2の部材と同一の部材には同一符号を付して、その説明は省略する。
【0096】
このタイヤ72では、フィラー74の一端76は、コア26の半径方向内側に位置している。このフィラー74は、その一端76からチェーファー20に沿って半径方向略外向きに延在している。図3に示されているように、このフィラー74は、図1に示されたタイヤ2のフィラー18のように、コア26の半径方向内側部分の全体を覆うのではなく、このコア26の半径方向内側部分の一部を覆っている。このようなフィラー74は、シートフィラーとも称される。
【0097】
図示されていないが、このフィラー74も、図1に示されたタイヤ2のフィラー18と同様、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのコードは、半径方向に対して傾斜している。コードの材質は、スチールである。フィラー74は、ビード8の部分の倒れを抑える。このフィラー74は、タイヤ72の耐久性に寄与する。このタイヤ72では、フィラー74の他端がカバーゴム42で覆われている。
【0098】
このタイヤ72においても、図1に示されたタイヤ2と同様、チェーファー20は第一チェーファー52及び第二チェーファー54を備えている。第二チェーファー54は、インナーライナー14との第一接合部分56がコア26よりも軸方向内側に位置し、第一チェーファー52との第二接合部分58がこのコア26よりも半径方向内側に位置するように、配置される。このタイヤ72では、タイヤ72をリムに組み込んだときに、このタイヤ72とこのリムとの間に隙間が形成される恐れの高い部分に、この第二チェーファー54は位置している。
【0099】
このタイヤ72では、第二チェーファー54のためのゴム組成物はポリプロピレン粉末を含んでいる。この第二チェーファー54は、インナーライナー14ほどではないが、従来のチェーファーよりも水分等の透過を抑える。
【0100】
このタイヤ72では、第二チェーファー54がタイヤ72の内部への水分等の浸透を防止するので、ビード8のコア26及びカーカスコードにおける錆の発生が防止される。錆の発生をより確実に抑制できるとの観点から、第二チェーファー54は、その内端60がフィラー74の一端76よりも軸方向外側に位置するように構成されるのが好ましい。
【0101】
図3から明らかなように、このタイヤ72では、フィラー74にシートフィラーを採用しているので、タイヤ72の外面とコア26との間にフィラー74が存在しない部分が形成されてしまう。しかしこのタイヤ72では、フィラー74が存在しない部分と重複するように第二チェーファー54が配置されている。このタイヤ72では、この第二チェーファー54が水分等の透過を効果的に抑える。このタイヤ72では、フィラー74にシートフィラーを採用しているにも関わらず、ビード8のコア26及びカーカスコードにおける錆の発生が防止される。本発明は、フィラー74にシートフィラーを採用したタイヤ72において、より顕著な効果を奏する。
【実施例】
【0102】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0103】
[実施例1]
図1−2に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、11R22.5である。この実施例1では、ノーマルフィラーが採用された。
【0104】
この実施例1では、第二チェーファーのためのゴム組成物において、基材ゴムには、天然ゴム(RSS#3)及びスチレンブタジエンゴム(JSR社製の商品名「SBR1500」)を用いた。この基材ゴムには、ブチル系ゴムは配合していない。このことが、表1の「ブチル系ゴム」の欄に「N」で表されている。この実施例1では、基材ゴムの質量に対する天然ゴムの質量の比率は、80質量%に設定された。ポリプロピレン粉末には、日本ポリプロ社製の商品名「ノバテックPP」を用いた。このポリプロピレン粉末の量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部に設定された。
【0105】
第一チェーファーの内端は、嵌合端CEよりも軸方向内側に配置された。このことが、表1の「第一チェーファー端」の欄に「in」で表されている。第二チェーファーの外端は、嵌合端CEよりも軸方向外側に配置された。このことが、表1の「第二チェーファー端」の欄に「out」で表されている。第二接合部分の長さLLは、15mmに設定された。嵌合端CEにおけるチェーファーの厚さtは、2.0mmに設定された。第一チェーファーの複素弾性率E*は、8.0MPaであった。
【0106】
[実施例2−5]
ポリプロピレン粉末の量を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−5のタイヤを得た。
【0107】
[比較例1]
チェーファーに従来のチェーファーを採用した他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。この比較例1は、従来のタイヤである。この比較例1のチェーファーの複素弾性率E*は、8.0MPaであった。
【0108】
[参考例1]
第二チェーファーのためのゴム組成物において、基材ゴムの天然ゴムをブチル系ゴム(ハロゲン化ブチルゴム:EXXON社製の商品名「Bromobutyl 2255」)に置き換えた他は実施例1と同様にして、参考例1のタイヤを得た。基材ゴムにブチル系ゴムを用いたことが、表1の「ブチル系ゴム」の欄に「Y」で表されている。
【0109】
[実施例6]
フィラーに、図3に示されたシートフィラーを採用した他は実施例1と同様にして、実施例6のタイヤを得た。
【0110】
[実施例7−8]
第一チェーファーの内端及び第二チェーファーの外端の嵌合端CEに対する位置を下記の表2に示される通りとした他は実施例6と同様にして、実施例7−8のタイヤを得た。
【0111】
[比較例2]
チェーファーに従来のチェーファーを採用した他は実施例6と同様にして、比較例2のタイヤを得た。この比較例2も、従来のタイヤである。この比較例2のチェーファーの複素弾性率E*は、8.0MPaであった。
【0112】
[実施例9−12]
長さLLを下記の表3に示される通りとした他は実施例6と同様にして、実施例9−12のタイヤを得た。
【0113】
[実施例13−16]
厚さtを下記の表4に示される通りとした他は実施例6と同様にして、実施例13−16のタイヤを得た。
【0114】
[実施例17]
第一チェーファーの複素弾性率E*を下記の表4に示される通りとした他は実施例6と同様にして、実施例17のタイヤを得た。
【0115】
[耐久性(WET)]
タイヤをリム(サイズ=7.50×22.5)に組み込み、このタイヤの内部に水(約300cc)を入れた後、このタイヤに空気を充填して内圧を正規内圧とした。このタイヤをドラム式走行試験機に装着し、正規荷重の3倍の縦荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、80km/hの速度で、半径が1.7mであるドラムの上を走行させた。この走行が、タイヤに損傷が生じるまで継続された。走行後タイヤを解体し、カーカスプライのトッピングゴムの水分量を計測するとともに、コア及びカーカスコードに錆が発生しているか、カーカスコードにフレッティングが発生しているかの確認を行った。この結果が、指数として、下記の表1−4に示されている。水分量に関しては、数値が小さいほど、水分量が少なく好ましい。錆又はフレッティングに関しては、数値が大きいほど、錆又はフレッティングが抑えられており好ましい。
【0116】
[耐久性(DRY)]
タイヤをリム(サイズ=7.50×22.5)に組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を正規内圧とした。この評価では、タイヤの内部には水は投入されていない。このタイヤをドラム式走行試験機に装着し、正規荷重の3倍の縦荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、80km/hの速度で、半径が1.7mであるドラムの上を走行させた。この走行が、タイヤに損傷(プライターンルース=PTL)が生じるまでの走行距離が計測された。走行後タイヤを解体し、ビードの変形角(特開2003−07326公報の図6に示された角度β)を計測するとともに、インナーライナーの剥離の有無を確認した。この結果が、下記の表1−4に示されている。損傷が生じるまでの走行距離に関しては、指数で結果が示されている。数値が大きいほど走行距離は長く、耐久性に優れることを表している。変形角に関しては、計測値が示されている。数値が小さいほどビードの部分の変形は抑えられており好ましい。剥離に関しては、剥離が確認された場合が「Y」で、この剥離が確認されなかった場合が「N」で示されている。剥離はなかったものの、クラックの発生が認められた場合には、剥離の欄に「crack」と表記している。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
表1−4に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0122】
以上説明されたチェーファーに関する技術は、種々のタイプのタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0123】
2、72・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
8・・・ビード
10・・・カーカス
14・・・インナーライナー
16・・・タイガム
18、74・・・フィラー
20・・・チェーファー
26・・・コア
28・・・エイペックス
30・・・ワイヤー
36・・・カーカスプライ
44・・・リム
48・・・シート
50・・・フランジ
52・・・第一チェーファー
54・・・第二チェーファー
56・・・第一接合部分
58・・・第二接合部分
60・・・第二チェーファー54の外端
62・・・第一チェーファー52の内端
66・・・タイガム16の端部
76・・・フィラー74の一端
78・・・フィラー74の他端


図1
図2
図3