(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
路面を転動するタイヤが前記路面上の段差を通過するときにタイヤ回転軸に生じるタイヤ軸力Oの振動から、前記タイヤが前記段差から受けるタイヤ入力Iと、前記タイヤの軸力Oと前記タイヤ入力との間の振動伝達特性Hを、コンピュータが算出するデータ処理方法であって、
前記コンピュータが、前記タイヤ軸力Oの計測データから、設定された前記振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を用いて、前記タイヤ入力Iの仮入力データを算出する入力データ算出ステップと、
前記コンピュータが、前記入力データ算出ステップで算出した前記仮入力データのうち、前記タイヤが前記段差を通過する前後のデータの値を0にした修正仮入力データと前記タイヤ軸力Oの計測データから、前記振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を修正した修正仮値を算出するパラメータ値算出ステップと、を備え、
前記仮入力データのうち前記タイヤが前記段差を通過する前後のデータの値が0に収束する条件を少なくとも含む収束条件を満足するまで、前記コンピュータは、前記修正仮値を、前記特性パラメータの前記仮値として設定して前記入力データ算出ステップ及び前記パラメータ値算出ステップを繰り返し行うことにより、前記収束条件を満足するときの前記タイヤ入力Iの仮入力データと前記特性パラメータの仮値のそれぞれを前記タイヤ入力Iの収束入力データ及び前記特性パラメータの収束値として算出する、ことを特徴とするデータ処理方法。
前記収束条件は、さらに、前記修正仮入力データと前記振動伝達特性の特性パラメータの修正仮値から算出した前記タイヤ軸力Oの予測データが前記計測データに収束する条件を含む、請求項1に記載のデータ処理方法。
前記振動伝達特性は、1自由度振動伝達特性であり、前記特性パラメータは、非減衰固有角振動数と減衰係数を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のデータ処理方法。
路面を転動するタイヤが前記路面上の段差を通過するときにタイヤ回転軸に生じるタイヤ軸力Oの振動から、前記タイヤが前記段差から受けるタイヤ入力Iと、前記タイヤの軸力Oと前記タイヤ入力との間の振動伝達特性Hを算出するデータ処理装置であって、
前記タイヤ軸力Oの計測データを取得するデータ取得部と、
前記計測データから、設定された前記振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を用いて、前記タイヤ入力Iの仮入力データを算出する入力データ算出部と、
前記入力データ算出部で算出した前記仮入力データのうち、前記タイヤが前記段差を通過する前後のデータの値を0にした修正仮入力データと前記タイヤ軸力Oの計測データから、前記振動伝達特性の特性パラメータの仮値を修正した修正仮値を算出するパラメータ値算出部と、
前記仮入力データのうち前記タイヤが前記段差を通過する前後のデータの値が0に収束する条件を少なくとも含む収束条件を満足するまで、前記修正仮値を、前記特性パラメータの前記仮値として設定して前記仮入力データの算出及び前記修正仮値の算出を繰り返し行うよう前記入力データ算出部及び前記パラメータ値算出部を制御する制御部と、
前記収束条件を満足するときの前記タイヤ入力Iの仮入力データと前記特性パラメータの仮値のそれぞれを前記タイヤ入力Iの収束入力データ及び前記特性パラメータの収束値として算出する出力部と、を備えることを特徴とするデータ処理装置。
【発明の概要】
【0005】
上記タイヤの評価方法では、タイヤの固有振動数及び減衰比がタイヤ評価情報として得られる。しかし、同じ凹凸を走行してもタイヤが路面から受ける入力は異なる場合があるため、固有振動数及び減衰比が同じであってもタイヤの評価が異なる場合がある。このため、路面の凹凸からタイヤが受ける入力を適切に取得して評価できることが好ましい。
【0006】
そこで、本発明は、路面上の段差を通過するときにタイヤ軸力に生じるタイヤ軸力の振動からタイヤ入力及びタイヤの振動伝達特性における特性パラメータを算出することができるデータ処理方法及びデータ処理装置、さらには、算出したタイヤ入力及び特性パラメータの少なくとも一方を用いたタイヤの評価方法及び車両の振動乗り心地性能の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、路面を転動するタイヤが前記路面上の段差を通過するときにタイヤ回転軸に生じるタイヤ軸力Oの振動から、前記タイヤが前記段差から受けるタイヤ入力Iと、前記タイヤの軸力Oと前記タイヤ入力との間の振動伝達特性Hを、コンピュータが算出するデータ処理方法である。
当該データ処理方法は、
前記コンピュータが、前記タイヤ軸力Oの計測データから、設定された前記振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を用いて、前記タイヤ入力Iの仮入力データを算出する入力データ算出ステップと、
前記コンピュータが、前記入力データ算出ステップで算出した前記仮入力データのうち、前記タイヤが前記段差を通過する前後のデータの値を0にした修正仮入力データと前記タイヤ軸力Oの計測データから、前記振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を修正した修正仮値を算出するパラメータ値算出ステップと、を備え、
前記仮入力データのうち前記タイヤが前記段差を通過する前後のデータの値が0に収束する条件を少なくとも含む収束条件を満足するまで、前記コンピュータは、前記修正仮値を、前記特性パラメータの前記仮値として設定して前記入力データ算出ステップ及び前記パラメータ値算出ステップを繰り返し行うことにより、前記収束条件を満足するときの前記タイヤ入力Iの仮入力データと前記特性パラメータの仮値のそれぞれを前記タイヤ入力Iの収束入力データ及び前記特性パラメータの収束値として算出する。
【0008】
その際、前記収束条件は、さらに、前記修正仮入力データと前記振動伝達特性の特性パラメータの修正仮値から算出した前記タイヤ軸力Oの予測データが前記計測データに収束する条件を含む、ことが好ましい。
【0009】
前記タイヤ軸力Oは、タイヤ上下軸力及びタイヤ前後軸力のいずれか一方を少なくとも含むことが好ましい。
【0010】
前記振動伝達特性は、1自由度振動伝達特性であり、前記特性パラメータは、非減衰固有角振動数と減衰係数を含む、ことが好ましい。
【0011】
本発明の他の一形態であるタイヤの評価方法は、
前記データ処理方法において前記収束入力データ及び前記特性パラメータの収束値を算出するステップと、
前記収束入力データ及び前記特性パラメータの前記収束値の少なくとも一方を用いて、前記コンピュータが前記タイヤの振動乗り心地性能を評価するステップと、を備える。
【0012】
前記タイヤ評価方法では、前記データ処理方法において前記収束入力データ及び前記特性パラメータの収束値を算出するステップと、
前記特性パラメータの前記収束値のうち、前記非減衰固有角振動数及び前記減衰係数の収束値からタイヤのサイド・ビード部の振動の吸収の程度を表すダンパ要素を前記コンピュータが評価するステップと、を備えることが好ましい。
【0013】
前記タイヤの振動乗り心地性能を評価するステップでは、
前記収束入力データの値の絶対値の積分値、あるいは、前記タイヤが前記段差を通過する期間における前記収束入力データの時間微分の絶対値の平均値を用いて、前記タイヤの振動乗り心地性能のうちの性能1の評価を行う、ことが好ましい。
【0014】
前記タイヤの振動乗り心地性能を評価するステップでは、
前記タイヤの転動する計測用転動速度と異なる評価用転動速度における前記タイヤの振動乗り心地性能のうちの性能2の評価を行うために、前記計測用転動速度における前記収束入力データの時間軸上の波形を前記評価用転動速度に応じて伸縮することで得られる伸縮波形を表した伸縮収束入力データと、前記特性パラメータの前記収束値を有する振動伝達特性を用いてコンボリューション処理を行い、該コンボリューション処理を行うことで算出された前記評価用転動速度に対応した前記タイヤ軸力Oの予測データの絶対値の積分値と前記伸縮収束入力データの絶対値の積分値との差分により、前記性能2の評価を行う、ことが好ましい。
【0015】
本発明のさらに他の一態様は、車両の振動乗り心地性能の評価方法は、
前記データ処理方法において前記収束入力データ及び前記特性パラメータの収束値を算出するステップと、
前記特性パラメータで表した前記タイヤの振動伝達特性を、車両のサスペンションをモデル化したサスペンションモデルに組み合わせた統合モデルに、前記収束入力データを入力することにより、車両の振動乗り心地性能の評価を行うステップと、を備える、ことが好ましい。
【0016】
本発明のさらに他の一態様は、路面を転動するタイヤが前記路面上の段差を通過するときにタイヤ回転軸に生じるタイヤ軸力Oの振動から、前記タイヤが前記段差から受けるタイヤ入力Iと、前記タイヤの軸力Oと前記タイヤ入力との間の振動伝達特性Hを算出するデータ処理装置であって、
前記タイヤ軸力Oの計測データを取得するデータ取得部と、
前記計測データから、設定された前記振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を用いて、前記タイヤ入力Iの仮入力データを算出する入力データ算出部と、
前記入力データ算出部で算出した前記仮入力データのうち、前記タイヤが前記段差を通過する前後のデータの値を0にした修正仮入力データと前記タイヤ軸力Oの計測データから、前記振動伝達特性の特性パラメータの仮値を修正した修正仮値を算出するパラメータ値算出部と、
前記仮入力データのうち前記タイヤが前記段差を通過する前後のデータの値が0に収束する条件を少なくとも含む収束条件を満足するまで、前記修正仮値を、前記特性パラメータの前記仮値として設定して前記仮入力データの算出及び前記修正仮値の算出を繰り返し行うよう前記入力データ算出部及び前記パラメータ値算出部を制御する制御部と、
前記収束条件を満足するときの前記タイヤ入力Iの仮入力データと前記特性パラメータの仮値のそれぞれを前記タイヤ入力Iの収束入力データ及び前記特性パラメータの収束値として算出する出力部と、を備える。
【0017】
前記振動伝達特性は、1自由度振動伝達特性であり、前記特性パラメータは、非減衰固有角振動数と減衰係数を含み、
さらに、前記特性パラメータの前記収束値のうち、前記減衰係数の収束値からタイヤのサイド・ビード部の振動の吸収の程度を表すダンパ要素を前記コンピュータが評価する評価部を備える、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上述のデータ処理方法及びデータ処理装置によれば、路面上の凹凸を通過するときに生じるタイヤ軸力の振動からタイヤ入力及びタイヤの振動伝達特性における特性パラメータを算出することができる。さらに、このタイヤ入力及び特性パラメータを用いてタイヤを評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のデータ処理方法、タイヤの評価方法、車両の振動乗り心地性能の評価方法、及びデータ処理装置について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態のデータ処理方法及びタイヤの評価方法を実行するデータ処理装置10の構成を示す図である。データ処理装置10は、CPU12及びメモリ14を備えるコンピュータで構成された装置である。データ処理装置10には、ディスプレイ16及びキーボードやマウス等を含む入力操作系18と接続されている。
【0022】
さらに、データ処理装置10は、タイヤドラム試験機20と接続されている。タイヤドラム試験機20の試験ドラム22のドラム面には、突起22aが設けられている。試験ドラム22を所定の速度で転回転させ、この試験ドラム22のドラム面にタイヤTを所定の荷重で押し付けてタイヤTを転動させる。このとき、タイヤTは突起22aを通過する度に突起22aから振動の入力を受け、この入力は、タイヤTの振動伝達特性を介してタイヤ回転軸24に伝達される。タイヤ回転軸24には、タイヤ軸力を計測するセンサが設けられている。このセンサからの出力がタイヤ軸力Oにおける振動の計測データであり、このタイヤ軸力の計測データがデータ処理装置10に送られる。なお、タイヤ軸力Oは、ドラム面から受ける一定の負荷荷重の反力と、突起22aをタイヤTが通過するときに生じる振動の力を含むが、センサは、一定の負荷荷重の反力(DC成分)は出力せず、振動のみを出力する。
【0023】
データ処理装置10は、試験ドラム22のドラム面を転動するタイヤTがこのドラム面上の突起22aを通過するときにタイヤ回転軸に生じるタイヤ軸力Oから、タイヤTが突起22aを通過するときに受けるタイヤ入力Iと、タイヤ軸力Oとタイヤ入力Iとの間の振動伝達特性Hを算出するデータ処理を行う。本実施形態では、タイヤTを試験ドラム22のドラム面上を転動させるが、平坦な路面上を転動させてもよい。また、本実施形態では、突起22aを用いるが、突起22aには限定されず、路面に凹部あるいは凸部の段差があればよい。
【0024】
データ処理装置10は、メモリ14に記憶されたプログラムを呼び出して起動することにより、ソフトウェアモジュールが形成される。すなわち、データ処理装置10では、データ取得部30、入力データ算出部32、パラメータ値算出部34、制御部36、出力部38、及び評価部40がソフトウェアモジュールとして形成される。これらの部分の実質的な演算等は、CPU12が行う。
【0025】
データ取得部30は、タイヤドラム試験機20から送られるタイヤ軸力Oの計測データを取得する。計測データは、メモリ14に記憶される。
入力データ算出部32は、タイヤ軸力Oの計測データから、設定された振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を用いて、タイヤ入力Iの仮入力データを算出する。ここで、振動伝達特性Hは、例えば1自由度の振動伝達特性の場合、すなわち、2次伝達特性の場合、特性パラメータは非減衰固有角振動数と減衰係数を含む。タイヤTでは、特性パラメータの値は凡そ一定の範囲内にあるので、入力データ算出部32は、この一定の範囲内のある値を仮値として予め設定しておく。この特性パラメータの仮値は、後述するように繰り返し計算により修正され、最終的に収束した値になる。設定された振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を用いて、タイヤ入力Iの仮入力データを算出する方法については後述する。
【0026】
パラメータ値算出部34は、入力データ算出部32で算出した仮入力データのうち、タイヤTが突起22aを通過する前後のデータの値を0にした修正仮入力データとタイヤ軸力Oの計測データから、振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を修正した修正仮値を算出する。
すなわち、タイヤTが突起22aを通過するときは、突起22aからタイヤ入力Iを受けるが、突起22a以外の部分をタイヤTが通過するとき、試験ドラム22のドラム面から受ける入力データIは0になるので(振動を生じさせるタイヤ入力Iはないので)、仮入力データは、本来、タイヤTが突起22aを通過する前後において0にならなければならない。このため、本実施形態のパラメータ値算出部34は、入力データ算出部32で算出した仮入力データのうち、タイヤTが突起22aを通過する前後のデータの値を0にした修正仮入力データを生成する。この修正仮入力データとタイヤ軸力Oの計測データとから、振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を修正した修正仮値を算出する。修正仮入力データとタイヤ軸力Oの計測データが既知であるので、特性パラメータの修正仮値を算出することができる。振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を修正した修正仮値を算出する方法については後述する。
【0027】
制御部36は、ソフトウェアモジュールの各部分の動作の管理及び制御を行う部分である。制御部36は、入力データ算出部32で算出される仮入力データのうちタイヤTが突起22aを通過する前後のデータの値が0に収束する条件を少なくとも含む収束条件を満足するまで、パラメータ値算出部34で算出した修正仮値を、特性パラメータの仮値として設定して入力データ算出部32における仮入力データの算出及びパラメータ値算出部34における修正仮値の算出を繰り返し行うよう入力データ算出部32及びパラメータ値算出部34を制御する。
【0028】
出力部38は、収束条件を満足するときのタイヤ入力Iの仮入力データと特性パラメータの仮値のそれぞれをタイヤ入力Iの収束入力データ及び特性パラメータの収束値として算出する。算出した収束入力データ及び特性パラメータの収束値は、メモリ14に記憶され、また、ディスプレイ16や図示されないプリンタに出力される。
【0029】
評価部40は、収束入力データ及び特性パラメータの収束値の少なくとも一方を用いて、タイヤTの振動乗り心地性能を評価する。例えば、振動伝達特性Hが、1自由度の振動伝達特性、すなわち、2次伝達特性であって、特性パラメータは非減衰固有角振動数と減衰係数を含む場合、評価部40は、特性パラメータから算出されるダンパC(N・秒/mm)を用いてタイヤTの振動乗り心地性能を評価する。あるいは、評価部40は、収束入力データの波形の積分値を用いて、振動乗り心地性能の各性能を評価する。この点については、後ほど詳述する。評価結果は、メモリ12に記憶され、また、ディスプレイ16や図示されないプリンタに出力される。
【0030】
このようなデータ処理装置10において、データ処理方法及びタイヤの評価方法をより詳細に説明する。
図2は、本実施形態のデータ処理方法の一例を説明する図である。
図3は、本実施形態のデータ処理方法及びタイヤの評価方法の処理の流れを示す図である。
図2に示す例では、振動伝達特性Hが、1自由度の振動伝達特性、すなわち、2次伝達特性である場合を示している。データ取得部30は、タイヤ軸力Oの計測データを取得する(ステップS10)。例えば、
図2に示すような波形を取得する。この後、2次伝達特性のインパルス応答は、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζ(ζ<1)の設定した値を用いて
図2中に示す式で表されるので、この式を利用して、タイヤ入力Iの仮入力データを算出する(ステップS20)。このとき、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの値は、凡そ一定の範囲内にあるので、入力データ算出部32は、この一定の範囲内のある値を初期の仮値として予め設定しておく。初期の仮値として、例えば、ω
n=2π・70(rad/秒)、ζ=0.05と定める。このとき、タイヤ軸力Oと、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの値を含む
図2中の式を用いて、タイヤ軸力Oからタイヤ入力Iを算出する処理方法は、デコンボリューション処理であり、公知の方法でタイヤ入力Iを算出することができる。具体的には、タイヤ軸力Oの計測データの時系列波形の離散値と、
図2中の式を具体的に離散化して表現した行列(具体的には、タイヤ入力Iからタイヤ軸力Oを求めるための、H(t;ω
n,ζ)を用いた行列の逆行列)を用いて行列演算を行って、タイヤ入力Iの仮入力データを算出することができる。
なお、タイヤ入力Iからタイヤ軸力Oを算出する処理方法は、コンボリューション処理であり、公知の方法でタイヤ軸力Oを算出することができる。具体的には、タイヤ入力Iの時系列波形の離散値と、
図2中の式を具体的に離散化して表現した行列を用いて行列演算を行って、タイヤ軸力Oを算出することができる。
【0031】
次に、パラメータ値算出部34は、算出した仮入力データのうち、タイヤTが突起22aを通過する前後のデータの値を0にした修正仮入力データとタイヤ軸力Oの計測データから、振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を修正した修正仮値を算出する(ステップS30)。修正仮値の算出は、例えば、振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を種々変更した振動伝達特性Hと、仮入力データとを用いたコンボリューション処理の処理結果が、タイヤ軸力Oの計測データに最も近似するような特性パラメータの仮値を探索する。特性パラメータの仮値の探索は、ニュートン・ラフソン法等を用いて行うことができる。
次に、制御部36は、ステップS20で算出される仮入力データのうちタイヤTが突起22aを通過する前後のデータの値が0に収束する条件を少なくとも含む収束条件を満足するか否かを判定する(ステップS40)。判定の結果、収束条件を満足する場合、制御部36は、ステップS20で算出した仮入力データを収束入力データとし、ステップS30で算出した修正仮値を特性パラメータの収束値とする。この後、タイヤ評価に移行する(ステップS60)。
一方、判定の結果、収束条件を満足しない場合、ステップS30で算出した修正仮値を、特性パラメータの仮値として設定して(ステップS50)、ステップS20に戻る。こうして、ステップS20及びステップS30を繰り返し行う。すなわち、ステップS40において収束条件を満足するまで、ステップS20及びステップS30を繰り返し行う。
なお、タイヤの評価については、後述する。
【0032】
このように、本実施形態では、タイヤ軸力Oから、タイヤTの振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を用いて算出した仮入力データのうち、タイヤTが突起22aを通過する前後の期間の値が0になることを利用して、仮入力データにおいて、タイヤTが突起22aを通過する前後の期間の値が0に収束するまで、タイヤTの振動伝達特性Hの特性パラメータの仮値を変更するので、タイヤTの振動伝達特性Hの特性パラメータの値及びタイヤ入力のデータを精度よく算出することができる。
【0033】
図4(a)〜(f)は、本実施形態のデータ処理方法による演算結果の一例を示す図である。
図4(a)は、入力データ算出部32が、タイヤ軸力Oから、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの初期の値を仮値として用いて仮入力データを算出した結果の一例を示す。この場合、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの初期値は、実際の非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの値とずれているので、タイヤTが突起22aを通過した後において、仮入力データは0になっていない。このため、パラメータ算出部34は、
図4(b)に示すように、タイヤTが突起22aを通過した前後において、仮入力データの値を0にした修正仮入力データをつくる。パラメータ算出部34は、次に、
図4(b)に示す修正仮入力データと、タイヤ軸力Oの計測データとを用いて、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの値を初期の仮値から修正した修正仮値を算出する。この場合の修正仮値の算出では、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの仮値を種々変更しながら、変更の度に、タイヤ軸Oの時系列波形を算出する。算出したタイヤ軸Oの時系列波形が、タイヤ軸力Oの計測データに最もよく近似するまで仮値を探索する。算出するタイヤ軸Oの時系列波形をタイヤ軸力Oの計測データに最もよく近似させる非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの仮値を、修正仮値とする。
図4(c)は、算出するタイヤ軸Oの時系列波形がタイヤ軸力Oの計測データに最もよく近似する状態の一例を示している。
【0034】
図4(d)は、入力データ算出部32が、パラメータ算出部34が算出した非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの修正仮値を用いてタイヤ軸力Oから、仮入力データを算出した結果の一例を示す。この場合、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの修正仮値は、実際の非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの値とずれているので、タイヤTが突起22aを通過した後において、仮入力データは0になっていない。しかし、タイヤTが突起22aを通過した後の仮入力データの値は、
図4(a)におけるタイヤTが突起22aを通過した後の仮入力データの値は小さくなっている。このことは、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの値が、実際の非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの値に近づいていることを示している。
さらに、パラメータ算出部34は、
図4(e)に示すように、タイヤTが突起22aを通過した前後において、仮入力データの値を0にする。パラメータ算出部34は、次に、
図4(e)に示す仮入力データと、タイヤ軸力Oの計測データとを用いて、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζの修正仮値をさらに修正した修正仮値を、上述した方法と同じ方法で算出する。
図4(f)は、算出するタイヤ軸Oの時系列波形がタイヤ軸力Oの計測データに最もよく近似する状態の一例を示している。
このようにして、
図4(d)に示す仮入力データにおけるタイヤTの突起22aの通過前後の値が許容範囲になるまで、理想的には0になるまで、繰り返し、修正仮入力データと修正仮値を求める。
【0035】
このとき、タイヤTが突起22aを通過する前後の期間は、仮入力データの波形から自動的に求めることが好ましい。
図5は、タイヤTが突起22aを通過する前後の期間を、タイヤTが突起22aを通過する期間を定めることにより定める一例を示す図である。
図5に示すように、タイヤ入力Iの仮入力データが0(N)の横軸とタイヤ入力Iの波形で囲まれた部分の面積を順番にS1,S2,S3,・・・・として求め、この面積の合計の5%〜10%の面積を有する部分であって、多くても最大面積と2番目に大きな面積の部分を取り出し、この最大面積の部分と2番目の面積の部分のうち、最も早い時間から最も遅い時間の間をタイヤTが突起22aを通過する期間として定める。したがって、この通過期間の前後の期間が、タイヤTが突起22aを通過する前後の期間となる。
図5に示す例では、最大面積S1の部分の期間はt1〜t2であり、2番目の大きさの面積S2の部分が占める期間はt3〜t4である。したがって、この場合のタイヤTが突起22aを通過する期間は、t1〜t4となり、タイヤTが突起22aを通過する前後の期間は、t1以前、及びt4以降である。なお、面積S1,S2,S3,・・・・の合計の5%〜10%の面積を有する部分が1つしかない場合、その部分の最初の時間と最後の時間の間を、タイヤTが突起22aを通過するとする。
【0036】
上記実施形態では、タイヤTのトラム面に対して直交する方向の力、いわゆる上下方向の力を対象として説明したが、ドラム面の回転方向の成分、いわゆる前後方向の力を対象とすることもできる。
図6(a)は、突起22aを通過するときに生じるタイヤTの前後方向のタイヤ軸力Oの振動の一例を示す図であり、
図6(b)は、突起22aを通過するときに生じるタイヤTの前後方向のタイヤ軸力Oの振動から、上述のデータ処理方法を用いて算出したタイヤTの前後方向のタイヤ入力I(収束入力データ)の振動の一例を示す図である。
このように、本実施形態のタイヤ軸力Oは、タイヤ上下軸力及びタイヤ前後軸力のいずれか一方を少なくとも含む、データ処理方法であることが好ましい。
【0037】
本実施形態における仮入力データのうち、タイヤTが突起22aを通過する前後の期間の値が0に収束する収束条件は、タイヤTが突起22aを通過する前後の期間における仮入力データの0からの残差の二乗和Q1が所定の閾値以下であることを含むことが好ましい。
【0038】
さらに、この収束条件は、さらに、修正仮入力データと振動伝達特性Hの特性パラメータの修正仮値から算出したタイヤ軸力Oの予測データが、取得したタイヤTのタイヤ軸力Oの計測データに収束する条件を含むことが好ましい。具体的には、収束条件は、上記予測データと計測データの残差の二乗和Q2と上記二乗和Q1の和が予め定めた閾値以下であることを含むことが好ましい。二乗和Q1と二乗和Q2の和によって収束条件を判定することで、タイヤ入力Iのデータを精度良く求めることができる。
【0039】
本実施形態における振動伝達特性Hは、1自由度振動伝達特性あるいは2自由度振動伝達特性、さらには、高次自由度振動伝達特性でもよく、特に制限されないが、簡単な伝達特性で、後述する100Hz以下の振動による性能評価を行うことができる点で、特性パラメータは、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζを含む、1自由度振動伝達特性であることが好ましい。
【0040】
図3に示すステップS60におけるタイヤの評価では、上述したデータ処理方法において算出した収束入力データ及び特性パラメータの収束値の少なくとも一方を用いて、評価部40がタイヤTの振動乗り心地性能を評価する。
例えば、1自由度振動伝達特性の場合、特性パラメータは、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζを含むので、評価部40は、減衰係数ζの値からタイヤのサイド・ビード部の振動の吸収の程度を表すダンパ要素C(N・秒/mm)を評価することができる。
1自由度振動伝達特性の場合、非減衰固有角振動数ω
nと減衰係数ζは、1つの質量m(kg)と1つのばね要素K(N/mm)と、1つのダンパ要素(N・秒/mm)とを用いて、以下のように表すことできる。
ω
n = (K/m)
(1/2)
ζ = C/(2・(m・K)
(1/2))
したがって、m=K/ω
n2 、C=2Kζ/ω
n と表される。
ここで、Kは、予めサイド・ビード部のばね要素Kであり、実験により算出される公知のばね定数に対応するので、実験から既知の値として求めておくことができる。したがって、C=2Kζ/ω
n を用いてダンパ要素Cを算出することができる。
なお、ばね要素Kの算出方法は、特開平01−156634号公報あるいは特開平01−156635号公報に開示されている。
【0041】
図7(a)は、C=2Kζ/ω
n を用いて算出した、構造の異なるタイヤTA〜TDのダンパ要素Cの算出結果の一例を示す図である。
図7(a)からわかるように、タイヤTDのダンパ要素Cが最も高く、大きい順に、タイヤTA、タイヤTB、タイヤTCである。ダンパ要素Cの値は大きいほど、振動伝達特性において振動を減衰させる程度が高く、振動を素早く減衰させるので、タイヤ入力Iがない状態ではダンパ要素Cの値が大きいほど好ましい。したがって、突起22a等の段差を通過した後のタイヤTの振動乗り心地の性の評価では、ダンパ要素Cの値が大きいことが好ましい。
また、タイヤTが突起22aを通過するとき、タイヤ入力Iによってコツゴツとした振動を受けるので、この振動の評価のためには、タイヤ入力Iの入力データを用いることが好ましい。
図7(b)は、タイヤTA〜TDのタイヤ入力Iの入力波形の一例を示す図である。
図7(b)によると、タイヤ構造が異なることにより、タイヤ入力Iの入力波形も変化することがわかる。したがって、この入力波形の大きさや時間変化の大きさによって、コツゴツとした振動の大小を評価することができる。
【0042】
図8は、本実施形態の評価部40が行う評価の一例を説明する図である。評価部40は、2つの性能(性能1、性能2)の評価を行う。評価部40は、性能1について、タイヤ入力Iの収束入力データの積分値、すなわち、タイヤTが突起22aを通過する期間の積分値(積分1)によって評価する。評価部40は、性能2について、タイヤ軸力Oの計測データの積分値(積分2)から、タイヤ入力Iの収束入力データの積分値(積分1)を差し引いた値によって評価する。なお、積分2の積分範囲については、計測データの値が所定のレベル以上の期間を範囲とする。
すなわち、評価部40は、積分1によって性能1を評価し、積分2−積分1によって性能2を評価する。
【0043】
図9(a)は、
図7(b)に示すタイヤTA〜TDの収束入力データを重ね書きした図である。
図9(b)は、タイヤTA〜TDの積分1の値と、性能1のドライバによる官能評価結果を示す図である。
図9(b)によると、積分1の大きさに関して、タイヤTA>タイヤTD>タイヤTB>タイヤTCの順番になっている。ドライバによる官能評価結果では、タイヤTB=タイヤTC>タイヤTD>タイヤTAとなっている。これより、性能1は、積分1の値が小さいほど性能1の評価が高いことがわかる。
したがって、評価部40は、積分1の値が小さいものほど、性能1が優れているタイヤであると評価する。
【0044】
本実施形態では、積分1を用いて性能1の評価を行うが、タイヤTが突起22を通過する期間におけるタイヤ入力Iの収束入力データの時間微分の絶対値の平均値を用いて、性能1の評価を行うことも好ましい。
図10(a)は、
図9(a)に示す収束入力データを時間微分した波形を示す図である。
図10(b)は、上記時間微分した波形の、タイヤTが突起22を通過する期間における絶対値の平均値(“傾斜平均値”)と、性能1のドライバによる官能評価結果を示す図である。
図10(b)によると、平均値の大きさに関して、タイヤTA>タイヤTD>タイヤTB>タイヤTCの順番になっている。ドライバによる官能評価結果では、タイヤTB=タイヤTC>タイヤTD>タイヤTAとなっている。これより、性能1は、上記平均値(“傾斜平均値”)の値が小さいほど性能1の評価が高いことがわかる。
したがって、評価部40は、タイヤTが突起22を通過する期間におけるタイヤ入力Iの収束入力データの時間微分の絶対値の平均値が小さいものほど、性能1が優れているタイヤであると評価することも好ましい。
【0045】
また、評価部40は、性能2に関して、以下の処理を行ってタイヤTを評価することが好ましい。
タイヤTのタイヤ軸力Oの計測データの取得に用いた計測転動速度の条件と異なる評価用転動速度の条件で性能2の評価を行うために、まず、評価部40は、計測に用いた計測転動速度におけるタイヤ入力Iの収束入力データの時間軸上の波形を、
図11に示すように、評価用転動速度に応じて伸縮することで得られる伸縮波形を表した伸縮収束入力データを作成する。
図11は、性能2の評価を行うために行う処理の一例を説明する図である。
【0046】
次に、評価部40は、特性パラメータの収束値を有する振動伝達特性Hを用いてコンボリューション処理を行い、このコンボリューション処理を行うことで算出された評価用転動速度に対応したタイヤ軸力Oの予測データの絶対値の積分値(積分2)と伸縮収束入力データの絶対値の積分値(積分1)と差分により、性能2の評価を行う。
図12は、評価用転動速度を種々変化したときの積分値(積分2−積分1)の変化の一例を示す図である。評価用転動速度が約60km/時において、積分値(積分2−積分1)は低下し、評価用転動速度が約60kmより高くなると、積分値(積分2−積分1)は上昇する挙動を示す。
【0047】
図13は、タイヤTA〜タイヤTDの積分値(積分2−積分1)と、性能2のドライバによる官能評価結果の一例を示す図である。性能2は、特に60〜80km/時の条件で発生し易い振動として知られている。したがって、性能2に関して、60〜80km/時におけるタイヤTA〜タイヤTDの積分値(積分2−積分1)を注目すると、積分値(積分2−積分1)の大きさに関して、タイヤTC>タイヤTB>タイヤTA>タイヤTDの順番になっている。ドライバによる性能2の官能評価結果では、タイヤTA=タイヤTD>タイヤTB>タイヤTCとなっている。これより、性能2は、上記積分値(積分2−積分1)が小さいほど性能2の評価が高いことがわかる。
したがって、評価部40は、上記積分値(積分2−積分1)が小さいものほど、性能2が優れているタイヤであると評価することが好ましい。
【0048】
性能2は、
図8に示すように、積分1の期間を除去しているので、突起22aを通過後の振動の大小に依存する。この場合の振動の大小は、上述したようにダンパ要素Cの大きさに依存する。このため、性能2に関しては、ダンパ要素Cが大きいほど、性能2が優れているともいえる。この点で、ダンパ要素Cを用いて性能2の評価を行うこともできる。
【0049】
また、本実施形態では、
図3に示すステップ40を満足するタイヤ入力Iの収束入力データ及び特性パラメータの収束値を、特性パラメータで表したタイヤの振動伝達特性Hを、車両のサスペンションをモデル化したサスペンションモデルに組み合わせた統合モデルに入力することにより、車両の振動乗り心地性能の評価を行うことも好ましい。これにより、タイヤCのダンパ要素Cを含んだ形態で車両の振動乗り心地性能の評価を行うことができる。
【0050】
以上、本発明のデータ処理方法、タイヤの評価方法、車両の振動乗り心地性能の評価方法、及びデータ処理装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。