特許第6805783号(P6805783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

<>
  • 特許6805783-可変圧縮比機構 図000002
  • 特許6805783-可変圧縮比機構 図000003
  • 特許6805783-可変圧縮比機構 図000004
  • 特許6805783-可変圧縮比機構 図000005
  • 特許6805783-可変圧縮比機構 図000006
  • 特許6805783-可変圧縮比機構 図000007
  • 特許6805783-可変圧縮比機構 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805783
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】可変圧縮比機構
(51)【国際特許分類】
   F02B 75/04 20060101AFI20201214BHJP
   F16J 1/14 20060101ALI20201214BHJP
   F16C 7/02 20060101ALI20201214BHJP
   F02B 75/32 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   F02B75/04
   F16J1/14
   F16C7/02
   F02B75/32 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-240509(P2016-240509)
(22)【出願日】2016年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-96259(P2018-96259A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
(72)【発明者】
【氏名】百々 泰
【審査官】 北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−106256(JP,A)
【文献】 特開2014−020375(JP,A)
【文献】 実開昭52−93996(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/04
F02B 75/32
F16C 7/02
F16J 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンとクロスヘッドとを接続する接続部材と、
前記接続部材に相対的に回転可能に螺合され、前記ピストンのストローク方向の移動が規制された回転部材と、
前記接続部材に設けられた被規制部に対し、前記回転部材の回転方向に対向し、前記接続部材の回転を規制する規制部と、
を備える可変圧縮比機構。
【請求項2】
前記接続部材は、前記ピストンが設けられるピストンロッドに接続される請求項1に記載の可変圧縮比機構。
【請求項3】
前記接続部材は、前記ピストンが設けられるピストンロッドである請求項1に記載の可変圧縮比機構。
【請求項4】
前記接続部材は前記回転部材に挿通されている請求項1から3のいずれか1項に記載の可変圧縮比機構。
【請求項5】
前記回転部材に形成されたネジ溝に螺合する回転駆動部材を備える請求項1から4のいずれか1項に記載の可変圧縮比機構。
【請求項6】
前記回転駆動部材の回転軸中心に対して偏心した位置に設けられる当接部と、
前記ピストンが下死点に位置するとき、前記当接部に当接する被当接部と、
を備える請求項5に記載の可変圧縮比機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ピストンとクロスヘッドを備えるエンジンの可変圧縮比機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ユニフロー掃気式2サイクルエンジンは、例えば、船舶の機関として用いられる。ユニフロー掃気式2サイクルエンジンでは、ピストンロッドの一端にピストンが設けられる。ピストンロッドの他端にはクロスヘッドが設けられる。連接棒(コネクティングロッド)は、クロスヘッドとクランクシャフトを連結する。クロスヘッドの往復移動がクランクシャフトの回転移動に変換される。
【0003】
特許文献1のエンジンは、クロスヘッド型エンジンであって、ピストンロッドの下端には、油圧ピストンが当接している。クロスヘッド内にはネジ孔が形成される。ネジ孔内には、ネジ孔に螺合するネジ部材が配される。ネジ部材の上端は、油圧室の下壁をなしている。ネジ部材の下端には、ピニオンが設けられる。歯型ラックが移動してピニオンが回転すると、ネジ部材がネジ孔内を昇降する。ネジ部材の昇降によって油圧ピストンとともにピストンロッドが昇降する。こうして、ピストンの上死点の位置が変化して圧縮比が可変となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−020375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載の構成では、ネジ部材が回転しながらストローク方向に昇降する。ネジ部材の回転がピストンロッドに伝達されると、ピストンが回転してしまう。ピストンが回転した場合にどのような現象が生じるのか確認されておらず、不確定要因となってしまう。そのため、ネジ部材とピストンロッドとの間に油圧室を設けるなどして、ネジ部材の回転をピストンロッドに伝達させない工夫が必要となる。しかし、ネジ部材とピストンロッドとの間に油圧室を設けると、油圧室の油圧を確保するための機構を要し、構造が複雑となってしまう。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑み、ピストンを回転させずに圧縮比を可変とする機能を簡易な構成で実現することが可能な可変圧縮比機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る可変圧縮比機構は、ピストンとクロスヘッドとを接続する接続部材と、接続部材に相対的に回転可能に螺合され、ピストンのストローク方向の移動が規制された回転部材と、接続部材に設けられた被規制部に対し、回転部材の回転方向に対向し、接続部材の回転を規制する規制部と、を備える。
【0008】
接続部材は、ピストンが設けられるピストンロッドに接続されてもよい。
【0009】
接続部材は、ピストンが設けられるピストンロッドであってもよい。
【0010】
接続部材は回転部材に挿通されていてもよい。
【0011】
回転部材に形成されたネジ溝に螺合する回転駆動部材を備えてもよい。
【0012】
回転駆動部材の回転軸中心に対して偏心した位置に設けられる当接部と、ピストンが下死点に位置するとき、当接部に当接する被当接部と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、ピストンを回転させずに圧縮比を可変とする機能を簡易な構成で実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ユニフロー掃気式2サイクルエンジンの全体構成を示す図である。
図2】可変圧縮比機構を構成する部材の分解斜視図である。
図3】可変圧縮比機構を構成する部材の組立後の斜視図である。
図4】クロスヘッドピン全体の斜視図である。
図5】クロスヘッドピンとクロスヘッドピンの内部の部材および可動装置の分解斜視図である。
図6】クロスヘッド近傍の部材の断面図である。
図7】可動装置の内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の全体構成を示す図である。本実施形態のユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、例えば、船舶の機関として用いられる。ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、シリンダ110と、ピストン112と、ピストンロッド114と、クロスヘッド116と、連接棒118と、冷却器120と、環状配管122と、排気通路124と、を含んで構成される。
【0017】
ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100では、シリンダ110内をピストン112が摺動する。ピストン112の上昇行程および下降行程の2行程の間に、排気、吸気、圧縮、燃焼、膨張が行われる。ピストン112には、ピストンピン126を介してピストンロッド114の一端が取り付けられる。ピストンロッド114の他端側には、クロスヘッド116がクロスヘッドピン128を介して連結される。クロスヘッド116は、ピストン112とともに往復移動する。ピストン112の往復移動に伴いクロスヘッド116が往復移動する。
【0018】
シリンダ110の下方には、ガイド部が設けられる。クロスヘッド116はガイド部によって、ピストン112のストローク方向(以下、単にストローク方向という)に垂直な方向(図1中、左右方向)の移動が規制されている。
【0019】
連接棒118は、クロスヘッド116およびクランクシャフトを連結する。連接棒118の一端には、貫通孔が設けられる。クロスヘッドピン128は、連接棒118の貫通孔に挿通される。ピストンロッド114の他端、および、連接棒118の一端は、クロスヘッド116を介して接続されている。
【0020】
連接棒118の他端は、クランクシャフトが回転自在に連結される。ピストン112の往復移動に伴いクロスヘッド116が往復移動する。クロスヘッド116の往復移動に連動して、クランクシャフトが回転する。ピストン112の往復移動に応じて、シリンダ110内に冷却器120によって冷却された活性ガスが吸入される。活性ガスは、酸素、オゾン等の酸化剤、または、その混合気(例えば空気)を含む。
【0021】
環状配管122は、シリンダ110の径方向外側(以下、単に径方向外側という)に位置する。また、環状配管122は、シリンダ110の周方向に環状に延在する。環状配管122は、シリンダ110を囲繞する。不図示の燃料タンクに貯留された燃料ガスは、環状配管を通って、シリンダ110の径方向外側に流出する。シリンダ110の径方向外側に流出した燃料ガスは、活性ガスと共にシリンダ110内に吸入される。
【0022】
ガス運転モードにおいては、エンジンサイクルにおける所望の時点で適量の燃料油が噴射される。かかる燃料油は、燃焼室の熱で気化するとともに自然着火する。自然着火した燃料油は、僅かな時間で燃焼して、燃焼室の温度を極めて高くする。燃料ガスは、燃焼室で燃料油の燃焼熱によって昇温されて燃焼する。ピストン112は、主に燃料ガスの燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0023】
ディーゼル運転モードにおいては、環状配管122への燃料ガスの供給が停止される。ガス運転モードにおける燃料油の噴射量よりも多量の燃料油が燃焼室に噴射される。ピストン112は、燃料ガスではなく、燃料油の燃焼による膨張圧によって往復移動する。
【0024】
このように、ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100は、ガス運転モードとディーゼル運転モードの一方の運転モードを選択的に実行する。ユニフロー掃気式2サイクルエンジン100には、可変圧縮比機構200が設けられている。可変圧縮比機構200は、運転モードに応じてユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比を可変とする。以下、可変圧縮比機構200について詳述する。
【0025】
図2は、可変圧縮比機構200を構成する部材の分解斜視図である。図2に示すように、可変圧縮比機構200は、クロスヘッド116を含んで構成される。クロスヘッド116は、2つのリング部116aを有する。2つのリング部116aは、ストローク方向に垂直な方向に対向する。
【0026】
2つのリング部116aには、クロスヘッドピン128が挿通される。クロスヘッドピン128は、外形が大凡円柱形状である。クロスヘッドピン128の内部に空間が形成される。クロスヘッドピン128の内部の空間は、上方に開口している。クロスヘッドピン128の内部には、ネジ部材202(接続部材)などが収容される。ネジ部材202の上方には、球面スイベル204が配され、球面スイベル204の上方にピストンロッド114が配される。ピストンロッド114とネジ部材202との間に球面スイベル204が挟まれる。
【0027】
カップリング部材206は、ストローク方向に見たとき、互いに大凡対称な半円弧形状の2つの部材からなる。2つの部材を合わせると環状となる。2つの部材は、不図示の締結部材によって締結される。カップリング部材206の間に、ネジ部材202の一端、球面スイベル204、ピストンロッド114の他端が挟まれる。ネジ部材202、球面スイベル204、ピストンロッド114は、カップリング部材206によって締結される。ネジ部材202は、ピストンロッド114を介してピストン112とクロスヘッド116を接続する。連接棒118の一端には、円筒部118aが設けられる。円筒部118aには、クロスヘッドピン128が挿通される。
【0028】
図3は、可変圧縮比機構200を構成する部材の組立後の斜視図である。図3に示すように、円筒部118aは、クロスヘッド116の2つのクロスヘッドピン128の間に挟まれる。クロスヘッドピン128は、クロスヘッド116と連接棒118に挿通されて双方を連結する。連接棒118の円筒部118aは、クロスヘッドピン128に対して回転可能となっている。
【0029】
円筒部118aを形成する上方の壁部には、ストローク方向に貫通する貫通孔が形成される。カップリング部材206は、この貫通孔に挿通される。この貫通孔には、ピストンロッド114の他端および球面スイベル204が位置する。このように、クロスヘッド116(クロスヘッドピン128)を介して、ピストンロッド114と連接棒118が連結されている。
【0030】
クロスヘッドピン128のうち、中心軸方向の一方の端面には、可動装置220が設けられる。可動装置220の下方には、油圧シリンダ222、224(被当接部)が配される。油圧シリンダ222、224は、ピストン112が下死点にあるときにクロスヘッド116が位置する部位近傍に設けられる。可動装置220および油圧シリンダ222、224については、後に詳述する。
【0031】
図4は、クロスヘッドピン128全体の斜視図である。図4に示すように、クロスヘッドピン128には、ピン穴128aが形成される。ピン穴128aによってクロスヘッドピン128の内部の空間が形成される。また、クロスヘッドピン128は、収容穴128bを有する。
【0032】
収容穴128bは、クロスヘッドピン128のうち、ピン穴128aに対して中心軸方向に直交(交差)する方向に位置する。収容穴128bは、クロスヘッドピン128の外周面から窪んでいる。収容穴128bは、中心軸方向にストローク方向よりも長く延在する。収容穴128bの底面には、ピン穴128aが開口する。
【0033】
図5は、クロスヘッドピン128とクロスヘッドピン128の内部の部材および可動装置220の分解斜視図である。図5に示すように、クロスヘッドピン128には、下方ブッシュ226、ライナー228、ナット230(回転部材)、ネジ部材202、上方ブッシュ232、リテーナ234、キー236(規制部)が設けられる。クロスヘッドピン128の収容穴128bには、ウォーム238(回転駆動部材)、ベアリング240、ベアリングキャップ242が設けられる。
【0034】
下方ブッシュ226、ライナー228、ナット230、上方ブッシュ232、リテーナ234には、ネジ部材202が挿通される。下方ブッシュ226、ライナー228、ナット230、上方ブッシュ232は大凡環状である。ナット230の外周面には、周方向に亘ってネジ溝230aが形成される。ネジ溝230aは、ナット230の上端面230bから離隔している。ネジ溝230aの中心は、ナット230の中心軸方向の中心に対して下方にずれている。ただし、ネジ溝230aの中心は、ナット230の中心軸方向の中心に対して上方にずれてもよいし、ナット230の中心軸方向の中心に位置してもよい。ネジ溝230aの中心軸方向の位置は限定されない。
【0035】
ネジ部材202の外周面には、ネジ部202aが設けられる。ネジ部202aには、ネジ溝が形成されている。ネジ部202aは、ネジ部材202の下端から上端側に向って延在する。ネジ部202aは、ネジ部材202の上端面から僅かに下方に離隔している。ネジ部材202の上端面202bは、中心ほど上方に突出する向きに湾曲している。上端面202bは、球面スイベル204の下端面に当接する。球面スイベル204の下端面は、ネジ部材202の上端面202bに沿った湾曲形状となっている。
【0036】
ネジ部材202の外周面には、キー溝202c(被規制部)が形成される。キー溝202cは、ネジ部材202の上端面202bからストローク方向に延在している。上方ブッシュ232には、キー溝202cと同じ周方向の位置に切欠部232aが形成される。
【0037】
キー236は、大凡直方体形状である。キー236は、ネジ部材202のキー溝202cおよび上方ブッシュ232の切欠部232aに嵌合する。キー236は、キー溝202cの側壁202dに対して、ナット230の回転方向に対向する。
【0038】
ウォーム238は、収容穴128bに収容される。ウォーム238の一端は、クロスヘッドピン128のうち、中心軸方向の一方の端面から突出し、可動装置220に連結される。ウォーム238は、可動装置220によって回転する。ウォーム238は、ネジ部238aを有する。ネジ部238aの外周面には、周方向に亘ってネジ溝が形成される。ベアリング240は、環状部材である。ベアリング240は、ウォーム238の回転軸方向に離隔して2つ設けられる。ベアリング240は、ウォーム238を軸支する。
【0039】
ベアリングキャップ242は、2つ設けられる。ベアリングキャップ242は、大凡直方体形状である。ベアリングキャップ242は、ベアリング240を収容穴128bの底面側に向って支持する。
【0040】
図6は、クロスヘッド116近傍の部材の断面図である。図6には、ネジ部材202の中心軸を通りクロスヘッドピン128の中心軸に垂直な平面による断面を示す。図6に示すように、下方ブッシュ226は、クロスヘッドピン128のピン穴128aのうち、下方に配される。ライナー228は、ピン穴128aに配される。ライナー228は、下方ブッシュ226に上方から当接する。
【0041】
ナット230は、ピン穴128aに配される。ナット230はライナー228に上方から当接する。ライナー228は、ナット230から作用する荷重を受ける。ナット230は、ネジ部230cを有する。ネジ部238aの内周面にはネジ溝が形成される。ネジ部230cは、ネジ部材202のネジ部202aに螺合する。
【0042】
リテーナ234は、ピン穴128aの上方に位置する。リテーナ234は、クロスヘッドピン128のうち、ピン穴128aが開口する上面128cに当接する。リテーナ234の下端部は、ピン穴128aに挿通される。ナット230の上端面230bは、リテーナ234の下端部に当接する。ナット230は、リテーナ234によって上方から押さえられる。ナット230は、リテーナ234によってストローク方向の移動が規制される。
【0043】
上方ブッシュ232は、リテーナ234の内部に配される。上方ブッシュ232にネジ部材202が挿通され、その径方向外側にリテーナ234が位置する。上記のように、キー236は、ネジ部材202のキー溝202cおよび上方ブッシュ232の切欠部232a(図5参照)に嵌合する。キー236は、リテーナ234の内部に配される。
【0044】
ウォーム238の中心軸方向は、クロスヘッドピン128の中心軸方向に平行に配される。ウォーム238のうち、ネジ部238aが形成された部位は、収容穴128bからピン穴128aに突出する。ウォーム238のネジ部238aは、ナット230のネジ溝230aに螺合する。ここでは、ウォーム238の中心軸方向がクロスヘッドピン128の中心軸方向と平行である場合について説明した。しかし、ウォーム238のネジ部238aがナット230のネジ溝230aに螺合すれば、ウォーム238は、他の向きに配されてもよい。例えば、ウォーム238の中心軸方向が、クロスヘッドピン128の中心軸方向に対して垂直、または、斜めに交差する向きに、ウォーム238が配されてもよい。
【0045】
可動装置220によってウォーム238が回転すると、ネジ部238aおよびネジ溝230aを介してナット230が回転する。ナット230の内側のネジ部230cに螺合するネジ部材202は、キー236によって回転が規制される。そのため、ナット230は、ネジ部材202に対して相対回転する。こうして、ネジ部材202は、ストローク方向に昇降する。ここでは、キー236が、ネジ部材202のうちの上方側であってリテーナ234の内部に配される場合について説明した。しかし、キー236は、ネジ部材202のうちの下方側に配されてもよい。この場合、クロスヘッドピン128のピン穴128aに、キー236が嵌合するキー溝が形成される。
【0046】
ネジ部材202の昇降に伴い、ピストンロッド114およびピストン112が昇降する。すなわち、ピストン112の上死点の位置が可変となる。こうして、運転モードに応じてユニフロー掃気式2サイクルエンジン100の圧縮比を可変とすることが可能となる。
【0047】
また、ネジ部材202の回転はキー236によって規制されている。そのため、ピストン112にナット230の回転が伝達されない。このように、キー236によってネジ部材202の回転を規制することで、ピストン112を回転させずに圧縮比を可変とする機能を、簡易な構成で実現することが可能である。
【0048】
図7は、可動装置220の内部構造を示す図である。図7に示すように、可動装置220のケーシングの内部には、ウォーム238の一端が進入している。歯車244は、ウォーム238の一端に取り付けられる。歯車244は、ウォーム238と一体回転する。歯車244は、可動装置220のケーシングに対して相対回転可能である。
【0049】
可動装置220のケーシングの内部には、2つの係止部材246、248が配される。係止部材246、248は、一端側が軸支されており、一端側を中心に回転可能である。
【0050】
2つの係止部材246、248の間には、カム250が配される。カム250は、不図示のモータによって回転する。係止部材246、248は、カム250から作用する力によって、一端側を中心に回転する。具体的に、カム250によって押圧されると、係止部材246、248は、他端が歯車244から離隔する。係止部材246、248は、カム250から離隔すると、他端が歯車244に当接する。
【0051】
図7に示すように、係止部材246が嵌合位置にあるとき、可動装置220が反時計回りに回転すると、歯車244は、係止部材246に押圧されて可動装置220と一体に反時計回りに回転する。一方、係止部材248が嵌合位置にあるとき、可動装置220が時計回りに回転すると、歯車244は、係止部材248に押圧されて可動装置220と一体に時計回りに回転する。カム250によって、歯車244が可動装置220と一体回転する方向が切り換え可能となっている。
【0052】
図5に示すように、可動装置220のケーシングのうち、クロスヘッドピン128と反対側の端面220aには、2つの突出部252、254(当接部)が設けられる。突出部252、254は、歯車244の回転軸中心に対して偏心した位置に設けられる。突出部252、254は、回転軸中心を挟んで配される。突出部252、254の下方には、上記の油圧シリンダ222、224が配される。油圧シリンダ222、224は、油圧により伸縮可能である。油圧シリンダ222、224の先端部は、伸縮に伴って昇降する。
【0053】
油圧シリンダ222、224の先端部を上死点側に伸ばした状態で、ピストン112が下死点に位置するとする。このとき、油圧シリンダ222、224の先端部は、突出部252、254に当接する。そして、突出部252、254が油圧シリンダ222、224の先端部に押圧される。突出部252、254が押圧されることで、可動装置220が回転する。
【0054】
例えば、油圧シリンダ224を伸ばし、油圧シリンダ222を収縮させる。この状態で、ピストン112が下死点に到達すると、油圧シリンダ224によって突出部254が押圧される。可動装置220が反時計回りに回転する。このとき、図7に示すように、係止部材246を歯車244に当接させておく。そのため、歯車244は、可動装置220と一体に反時計回りに回転する。回転量は、例えば、歯車244の1ノッチ分である。歯車244を介して、ウォーム238に回転動力が伝達される。こうして、上記のように、ピストン112が上昇または下降する。
【0055】
一方、油圧シリンダ222を伸ばし、油圧シリンダ224を収縮させる。この状態で、ピストン112が下死点に到達すると、油圧シリンダ222によって突出部252が押圧される。可動装置220が時計回りに回転する。このとき、図7とは逆に、係止部材248を歯車244に当接させておく。そのため、歯車244は、可動装置220と一体に時計回りに回転する。回転量は、例えば、歯車244の1ノッチ分である。歯車244を介して、ウォーム238に回転動力が伝達される。こうして、上記のように、ピストン112が下降または上昇する。
【0056】
ピストン112が上昇するとき、カム250は、係止部材246、248の双方を押圧する位置に回転する。係止部材246、248は、歯車244から離隔する。可動装置220は、自重によって、逆方向に回転して初期位置に戻る。すなわち、可動装置220は、油圧シリンダ222、224に押圧されて回転した分(1ノッチ分)、逆方向に回転する。ピストン112が、再び下死点に到達するまでに、係止部材246または係止部材248を歯車244に当接させておく。油圧シリンダ222が突出部252に当接し(または、油圧シリンダ224が突出部252に当接し)、可動装置220と一体に歯車244が回転する。こうして、1ストロークごとに1ノッチ分ずつ、ウォーム238が回転する。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に技術的範囲に属するものと了解される。
【0058】
例えば、上述した実施形態では、ピストンロッド114とネジ部材202を別部材として、カップリング部材206がピストンロッド114とネジ部材202を締結している場合について説明した。しかし、ピストンロッド114とネジ部材202を一体に形成してもよい。すなわち、ピストンロッド114の他端にナット230のネジ部230cに螺合するネジ溝を設けてもよい。
【0059】
また、上述した実施形態では、ネジ部材202がナット230に挿通される場合について説明した。しかし、ネジ部材202にネジ穴が形成され、ナット230に代えて、外周面にネジ溝が形成された部材をネジ部材202のネジ穴に挿通してもよい。
【0060】
また、上述した実施形態では、ナット230の外周面にネジ溝230aが形成される場合について説明した。ネジ溝230aにウォーム238のネジ部238aが螺合して回転動力が伝達される場合を例に挙げて説明した。しかし、ナット230に回転動力を伝達する他の機構を設けてもよい。また、回転部材としてナット230を例に挙げて説明した。しかし、ネジ部材202に螺合して回転可能であれば、ナット230は必須の構成ではない。また、ナット230を設ける場合、ネジ溝230a、ネジ部230cの摩耗があっても、ナット230のみを換装すればよく、メンテナンスのコストが低減される。
【0061】
また、上述した実施形態では、突出部252、254および油圧シリンダ222、224を備える場合について説明した。しかし、突出部252、254および油圧シリンダ222、224は、必須の構成ではない。ただし、突出部252、254および油圧シリンダ222、224を設けることで、ピストン112の動力を利用して、圧縮比を可変とすることが可能となる。
【0062】
また、上述した実施形態では、燃料ガスが活性ガスとともにシリンダ110の内部に吸入される場合について説明した。しかし、シリンダ110に、活性ガスを吸入するポートとは別に燃料ガスを吸入するポートを設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示は、ピストンとクロスヘッドを備えるエンジンの可変圧縮比機構に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
112 ピストン
114 ピストンロッド
116 クロスヘッド
200 可変圧縮比機構
202 ネジ部材(接続部材)
202c キー溝(被規制部)
222 油圧シリンダ(被当接部)
224 油圧シリンダ(被当接部)
230 ナット(回転部材)
230a ネジ溝
236 キー(規制部)
238 ウォーム(回転駆動部材)
252 突出部(当接部)
254 突出部(当接部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7