特許第6805830号(P6805830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6805830蒸着用メタルマスク基材、蒸着用メタルマスク、蒸着用メタルマスク基材の製造方法、および、蒸着用メタルマスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805830
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】蒸着用メタルマスク基材、蒸着用メタルマスク、蒸着用メタルマスク基材の製造方法、および、蒸着用メタルマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20201214BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20201214BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   C23C14/04 A
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-566838(P2016-566838)
(86)(22)【出願日】2016年7月15日
(86)【国際出願番号】JP2016070951
(87)【国際公開番号】WO2017014172
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2019年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-143509(P2015-143509)
(32)【優先日】2015年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-171440(P2015-171440)
(32)【優先日】2015年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-79099(P2016-79099)
(32)【優先日】2016年4月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田村 純香
(72)【発明者】
【氏名】新納 幹大
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 大生
(72)【発明者】
【氏名】西辻 清明
(72)【発明者】
【氏名】西 剛広
(72)【発明者】
【氏名】三上 菜穂子
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−055007(JP,A)
【文献】 特開平11−140667(JP,A)
【文献】 特開2009−127105(JP,A)
【文献】 特開2005−076068(JP,A)
【文献】 特開2015−129334(JP,A)
【文献】 特開2002−212763(JP,A)
【文献】 特開平04−162328(JP,A)
【文献】 特開2003−213401(JP,A)
【文献】 Wear,1986年,Vol. 109,p. 69-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と、前記表面とは反対側の面である裏面とを備え、30質量%以上のニッケルを含む鉄ニッケル合金からなるニッケル含有金属シートであり
前記表面および前記裏面の少なくとも一方は、レジスト層が位置するための対象面であり、
前記対象面の表面粗さSaが0.019μm以下であり、かつ、前記対象面の表面粗さSzが0.308μm以下であり、
ハロゲンランプから射出された光が前記対象面の法線方向に対して45°±0.2°の入射角度で前記対象面に入射したときの正反射による反射率が67.5%以上97.0%以下であり、
前記対象面において相互に直交する2つの方向の各々が前記光の入射する方向であり、前記2つの方向における前記反射率の差が3.6%以下である
蒸着用メタルマスク基材。
【請求項2】
30質量%以上のニッケルを含む鉄ニッケル合金からなるニッケル含有金属シートから構成されるマスク部を含み、
前記マスク部は、
表面開口を含む表面と、
前記表面開口と連通する裏面開口を含み、前記表面とは反対側の面
である裏面とを備え、
前記表面および前記裏面の少なくとも一方が対象面であり、
前記対象面の表面粗さSaが0.019μm以下であり、かつ、前記対象面の表面粗さSzが0.308μm以下であり、
ハロゲンランプから射出された光が前記対象面の法線方向に対して45°±0.2°の入射角度で前記対象面に入射したときの正反射による反射率が67.5%以上97.0%以下であり、
前記対象面において相互に直交する2つの方向の各々が前記光の入射する方向であり、前記2つの方向における前記反射率の差が3.6%以下である
蒸着用メタルマスク。
【請求項3】
前記対象面は、少なくとも前記表面を含み、
前記表面開口は、蒸着粒子を前記表面開口から前記裏面開口に向けて通すための開口であって、前記裏面開口よりも大きい
請求項に記載の蒸着用メタルマスク。
【請求項4】
電解によって電極面に30質量%以上のニッケルを含む鉄ニッケル合金からなるニッケル含有金属シートを形成することと、
前記電極面から前記ニッケル含有金属シートを分離することとを含み、
前記ニッケル含有金属シートは、表面と、前記表面とは反対側の面である裏面とを備え、
前記表面および前記裏面の少なくとも一方は、レジスト層が位置するための対象面であり、
前記電解は、
前記対象面の表面粗さSaを0.019μm以下とし、かつ、前記対象面の表面粗さSzを0.308μm以下とし、
ハロゲンランプから射出された光が前記対象面の法線方向に対して45°±0.2°の入射角度で前記対象面に入射したときの正反射による反射率を67.5%以上97.0%以下とし、
前記対象面において相互に直交する2つの方向の各々が前記光の入射する方向であり、前記2つの方向における前記反射率の差を3.6%以下とする
蒸着用メタルマスク基材の製造方法。
【請求項5】
蒸着用メタルマスク基材の対象面にレジストマスクを形成することと、
前記レジストマスクを用いたウェットエッチングによって前記対象面をエッチングすることとを含み、
前記蒸着用メタルマスク基材が、請求項1に記載の蒸着用メタルマスク基材である
蒸着用メタルマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着用メタルマスク基材、蒸着用メタルマスク、蒸着用メタルマスク基材の製造方法、および、蒸着用メタルマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着法を用いて製造される表示デバイスの1つとして有機ELディスプレイが知られる。有機ELディスプレイが備える有機層は、蒸着工程において昇華された有機分子の堆積物である。蒸着工程に用いられる蒸着用メタルマスクの備えるマスク孔は、昇華された有機分子を基板に向けて通す通路である。マスク孔の有する開口は、有機ELディスプレイの備える画素の形状に応じた形状を有する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−055007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、蒸着用メタルマスクを製造する方法は、蒸着用メタルマスク基材に開口を形成する工程を含む。開口を形成する工程では、例えばフォトリソグラフィ法を用いたレジストマスクの形成と、レジストマスクを用いたウェットエッチングとが行われる。この際、レジストマスクの形成では、蒸着用メタルマスク基材の表面に位置するレジスト層のなかの露光対象領域が露光される。そして、レジスト層に照射された光の少なくとも一部が、蒸着用メタルマスク基材の表面で散乱し、散乱した光の一部は、レジスト層のなかの露光対象領域以外の部分に照射される。結果として、ネガ型のレジスト材料がレジスト層に採用される場合には、光の散乱によってレジスト材料の残渣となる部分が形成され、また、ポジ型のレジスト材料がレジスト層に採用される場合には、レジストマスクの欠けが形成されてしまう。そして、実際に形成されたレジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間の差異の増大を招き、それによって、ウェットエッチング法によって形成される開口の構造と、設計された開口の構造との間の差異の増大を招くおそれがある。
【0005】
本発明は、蒸着用メタルマスクが有する開口の構造上の精度を高めることを可能とする蒸着用メタルマスク基材、蒸着用メタルマスク、蒸着用メタルマスク基材の製造方法、および、蒸着用メタルマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための蒸着用メタルマスク基材は、表面と、前記表面とは反対側の面である裏面とを備えるニッケル含有金属シートを含み、前記表面および前記裏面の少なくとも一方は、レジスト層が位置するための対象面であり、前記対象面の表面粗さSaが0.019μm以下であり、かつ、前記対象面の表面粗さSzが0.308μm以下である。この蒸着用メタルマスク基材において、前記対象面に入射した光の正反射による反射率が53.0%以上97.0%以下であってもよい。また、この蒸着用メタルマスク基材において、前記ニッケル含有金属シートは、インバーシートであってもよい。
【0007】
上記課題を解決するための蒸着用メタルマスク基材は、表面と、前記表面とは反対側の面である裏面とを備えるニッケル含有金属シートを含み、前記表面および前記裏面の少なくとも一方は、レジスト層が位置するための対象面であり、前記対象面に入射した光の正反射による反射率が53.0%以上97.0%以下である。
【0008】
上記課題を解決するための蒸着用メタルマスク基材の製造方法は、電解によって電極面にニッケル含有金属シートを形成することと、前記電極面から前記ニッケル含有金属シートを分離することとを含む。そして、前記ニッケル含有金属シートは、表面と、前記表面とは反対側の面である裏面とを備え、前記表面および前記裏面の少なくとも一方は、レジスト層が位置するための対象面であり、前記電解は、前記対象面の表面粗さSaを0.019μm以下とし、かつ、前記対象面の表面粗さSzを0.308μm以下とする。
【0009】
上記課題を解決するための蒸着用メタルマスク基材の製造方法は、電解によって電極面にニッケル含有金属シートを形成することと、前記電極面から前記ニッケル含有金属シートを分離することとを含む。そして、前記ニッケル含有金属シートは、表面と、前記表面とは反対側の面である裏面とを備え、前記表面および前記裏面の少なくとも一方は、レジスト層が位置するための対象面であり、前記電解は、前記対象面に入射した光の正反射による反射率を53.0%以上97.0%以下とする。
【0010】
上記課題を解決するための蒸着用メタルマスクの製造方法は、前記蒸着用メタルマスク基材の前記対象面にレジストマスクを形成することと、前記レジストマスクを用いたウェットエッチングによって前記対象面をエッチングすることとを含む。
【0011】
上記各構成によれば、レジストマスクが位置するための対象面で光が散乱することが抑えられるため、露光、および、現像によって形成されるレジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間に差異が生じることを抑えることが可能となる。ひいては、蒸着用メタルマスクが有する開口の構造上の精度を高めることが可能となる。また、ニッケル含有金属シートがインバーシートである構成においては、金属材料のなかで熱膨張係数が小さいインバーによって対象面が構成されるため、蒸着時に受ける熱による蒸着用メタルマスクの構造的な変化を抑えることが可能ともなる。
【0012】
上記課題を解決するための蒸着用メタルマスクは、ニッケル含有金属シートから構成されるマスク部を含み、前記マスク部は、表面開口を含む表面と、前記表面開口と連通する裏面開口を含み、前記表面とは反対側の面である裏面とを備え、前記表面および前記裏面の少なくとも一方が対象面であり、前記対象面の表面粗さSaが0.019μm以下であり、かつ、前記対象面の表面粗さSzが0.308μm以下である。この蒸着用メタルマスクにおいて、前記対象面に入射した光の正反射による反射率が53.0%以上97.0%以下であってもよい。
【0013】
上記課題を解決するための蒸着用メタルマスクは、ニッケル含有金属シートから構成されるマスク部を含み、前記マスク部は、表面開口を含む表面と、前記表面開口と連通する裏面開口を含み、前記表面とは反対側の面である裏面とを備え、前記表面および前記裏面の少なくとも一方が対象面であり、前記対象面に入射した光の正反射による反射率が53.0%以上97.0%以下である。
【0014】
上記各構成によれば、光が対象面で散乱することを抑えられるため、対象面にレジストマスクを形成して開口を形成することに際し、露光および現像によって形成されるレジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間の差異を、対象面上において抑えることが可能となる。ひいては、蒸着用メタルマスクが有する開口の構造上の精度を高めることが可能となる。
【0015】
上記蒸着用メタルマスクにおいて、前記対象面は、少なくとも前記表面を含み、前記表面開口は、蒸着粒子を前記表面開口から前記裏面開口に向けて通すための開口であって前記裏面開口よりも大きくてもよい。
【0016】
上記蒸着用メタルマスクによれば、表面開口が裏面開口よりも大きいため、表面開口から入る蒸着粒子に対するシャドウ効果を抑えることが可能となる。ここで、マスク部を製造するための基材に孔を形成するとき、表面と裏面とのうち、エッチングされる量が大きい方の面では、エッチングされる量が小さい方の面よりも開口の大きさが大きくなる。この点、上記蒸着用メタルマスクでは、表面開口が裏面開口よりも大きいため、表面でエッチングされる量が、裏面でエッチングされる量よりも大きくなる。そして、こうした表面が対象面であるため、蒸着用メタルマスクを製造する方法としては、表面にレジストマスクを形成し、蒸着用メタルマスク基材のエッチングを表面から進める方法を採用することが可能ともなる。それによって、蒸着用メタルマスクが有する開口の構造上の精度を高めることが可能となる。
【0017】
上記蒸着用メタルマスクにおいて、前記ニッケル含有金属シートは、インバーシートであってもよい。この蒸着用メタルマスクの対象面は、金属材料のなかで熱膨張係数が小さいインバーによって構成されるため、蒸着時に受ける熱による蒸着用メタルマスクの構造的な変化を抑えることが可能ともなる。
【0018】
上記各構成においては、前記対象面において相互に直交する2つの方向の各々が前記光の入射する方向であり、前記2つの方向における前記反射率の差が3.6%以下であってもよい。この構成によれば、蒸着用メタルマスクが有する開口の構造上の精度を、対象面に含まれる二次元方向において高めることが可能ともなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態における蒸着用メタルマスク基材の一例について断面構造を示す断面図。
図2】一実施形態における蒸着用メタルマスク基材の他の例について断面構造を示す断面図。
図3】一実施形態におけるマスク装置の平面構造を示す平面図。
図4】一実施形態における蒸着用メタルマスクの断面構造の一例についてその一部を示す断面図。
図5】一実施形態における蒸着用メタルマスクの断面構造の他の例についてその一部を示す断面図。
図6】蒸着用メタルマスクの製造方法における工程の流れを示す工程フロー図。
図7】各試験例における蒸着用メタルマスク基材の製造方法と、平坦面の表面粗さ、および、反射率との関係を示す図。
図8】各試験例における蒸着用メタルマスク基材の対象面での反射率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、蒸着用メタルマスク基材、蒸着用メタルマスク、蒸着用メタルマスク基材の製造方法、および、蒸着用メタルマスクの製造方法の一実施の形態を説明する。まず、図1から図5を参照して、蒸着用メタルマスク基材の構成、および、蒸着用メタルマスクの構成を説明する。次いで、図6を参照して、蒸着用メタルマスクの製造方法を説明し、また、図7および図8を参照して蒸着用メタルマスク基材が有する表面性状から得られる効果を説明する。
【0021】
[蒸着用メタルマスク基材]
図1が示すように、蒸着用メタルマスク基材10は、ニッケル含有金属シート11から構成される。ニッケル含有金属シート11は、基材表面11aと、基材表面11aとは反対側の面である基材裏面11bとを備える。基材表面11a、および、基材裏面11bの少なくとも一方は、レジスト層が位置するための対象である対象面である。対象面は、蒸着用メタルマスクが形成される過程において、レジストマスクが形成される面である。
【0022】
ニッケル含有金属シート11を構成する材料は、ニッケル、もしくは、鉄ニッケル合金であり、例えば、30質量%以上のニッケルを含む鉄ニッケル合金、なかでも、36質量%ニッケルと64質量%鉄との合金を主成分とする、すなわちインバーである。なお、ニッケル含有金属シート11を構成する鉄ニッケル合金は、微量成分としてマンガン、炭素、クロム、銅、ケイ素、マグネシウム、コバルトなどを適宜含んでもよい。ニッケル含有金属シート11がインバーシートである場合、ニッケル含有金属シート11の熱膨張係数は、例えば1.2×10−6/℃程度である。このような熱膨張係数を有するニッケル含有金属シート11であれば、蒸着用メタルマスク基材10を用いて製造された蒸着用メタルマスクにおける熱膨張の度合いと、ガラス基板における熱膨張の度合いとが整合するため、蒸着対象の一例としてガラス基板を用いることが好適である。
【0023】
ニッケル含有金属シート11が有する厚さT1は、1μm以上100μm以下であり、好ましくは、2μm以上40μm以下である。ニッケル含有金属シート11が有する厚さT1が40μm以下であれば、ニッケル含有金属シート11に形成される孔の深さを40μm以下とすることが可能である。このような厚さT1を有するニッケル含有金属シート11であれば、蒸着用メタルマスク基材10を用いて製造された蒸着用メタルマスクにおいて、蒸着用メタルマスクに向けて飛行する蒸着粒子から成膜対象を見たときに、蒸着用メタルマスクによって付着できない部分(陰となる部分)を少なくすることが可能である。言い換えれば、シャドウ効果を抑えることが可能となる。
【0024】
ニッケル含有金属シート11が有する対象面の表面性状は、下記[条件1]および[条件2]の少なくとも一方を満たす。
[条件1]表面粗さSa≦0.019μm、かつ、表面粗さSz≦0.308μm。
【0025】
[条件2]53.0%≦対象面の反射率R≦97.0%。
表面粗さSa、および、Szは、ISO 25178に準拠する方法によって測定される値である。反射率Rは、ハロゲンランプから射出された光が対象面に入射したときの正反射による反射光の測定を通じ、下記式(1)によって算出される。ハロゲンランプから射出された光は、対象面の法線方向に対して、45°±0.2°の入射角度で対象面における14mmの領域に入射する。反射光を受光する素子の面積は、11.4mmである。反射率Rの測定は、対象面のなかで相互に異なる3つの部位に対して行われる。対象面の反射率Rは、対象面の各部位から得られた反射率Rの平均値である。また、各部位における反射率Rの測定は、相互に直交する2つの方向から照射された光を用い、各方向に対して別々に行われる。なお、母材の圧延のみによって形成されたニッケル含有金属シート11を測定の対象とする場合、対象面と対向する方向から見て、対象面に入射する光の方向のいずれかは、母材の圧延された方向と同じである。
【0026】
反射率R=
[正反射による反射光の光量/入射光の光量]×100…(1)
[条件1]および[条件2]の少なくとも一方を満たす表面性状であれば、対象面に照射された光が対象面で散乱することが抑えられる。そして、対象面に位置するレジスト層に光が照射されることに際し、光の一部が対象面で散乱し、散乱した光がレジスト層のなかの露光対象領域以外の部分を照射してしまうことが抑えられる。結果として、露光、および、現像によって形成されるレジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間の差異を抑えることが可能である。そして、ウェットエッチング法によって形成される開口の構造と、設計された開口の構造との間の差異が生じることを抑えることが可能となる。
【0027】
ニッケル含有金属シート11が有する対象面の表面性状は、レジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間の差異を抑えられる観点において、下記[条件3]をさらに満たすことが好ましい。
【0028】
[条件3]相互に直交する2つの方向での反射率差≦3.6%
相互に直交する2つの方向は、対象面に含まれる方向である。相互に直交する2つの方向は、第1方向と第2方向とである。相互に直交する2つの方向での反射率差は、第1方向から照射された光における反射率と、第2方向から照射された光における反射率との差である。
【0029】
ここで、ニッケル含有金属シート11を形成するための加工のなかに、圧延が含まれる場合、ニッケル含有金属シート11を形成するための母材は、一つの方向(一次元方向)に引き延ばされる。結果として、対象面に含まれる方向のなかで、母材が引き延ばされる方向と、その方向とは異なる方向との間において、対象面の反射率Rに差異が生じる。
【0030】
また、ニッケル含有金属シート11を形成するための加工のなかに、物理的研磨や化学的機械研磨が含まれる場合、一つの方向、あるいは、相互に異なる複数の方向に、研磨が進められる。結果として、対象面に含まれる方向のなかで、研磨が進められる方向と、その方向とは異なる方向との間において、対象面の反射率Rに差異が生じる。
【0031】
また、ニッケル含有金属シート11を形成するための加工のなかに、電解による金属箔の形成が含まれる場合、金属箔の成長の進み方や電極の表面形態などに起因して、対象面に入射する光の方向に応じて、対象面の反射率Rに差異を生じる場合がある。上記[条件3]を満たすニッケル含有金属シート11は、レジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間の差異を抑える効果を、対象面に含まれる二次元方向において発現する。電解条件によっては上述した異方性が生じやすいため、レジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間の差異を抑えるという効果は、上記[条件3]を満たすことによって著しいものとなる。
【0032】
なお、図2が示すように、蒸着用メタルマスク基材10は、ニッケル含有金属シート11の他に、樹脂製の支持層12をさらに備えることも可能である。すなわち、蒸着用メタルマスク基材10は、ニッケル含有金属シート11と支持層12との積層体として具体化することも可能である。支持層12を構成する材料は、例えば、レジストやポリイミドである。
【0033】
支持層12を構成する材料がレジストである場合、支持層12はレジスト層である。支持層12としてのレジスト層は、例えば、ニッケル含有金属シート11の基材表面11aに密着する。この際、ニッケル含有金属シート11の対象面は、少なくとも基材表面11aを含む。支持層12としてのレジスト層は、シート状に形成された後に、基材表面11aに貼り付けられる。あるいは、支持層12としてのレジスト層は、レジスト層を形成するための塗液が基材表面11aに塗布されることによって形成される。
【0034】
支持層12を構成する材料がポリイミドである場合、支持層12としてのポリイミド層は、ニッケル含有金属シート11の基材裏面11bに密着する。この際、ニッケル含有金属シート11の対象面は、少なくとも基材表面11aを含む。そして、ニッケル含有金属シート11の基材表面11aに、レジスト層が位置する。ポリイミドが有する熱膨張係数、および、その温度の依存性は、インバーの熱膨張係数、および、その温度の依存性と同じ程度であるため、支持層12の温度の変化による支持層12の膨張や収縮によってニッケル含有金属シート11に反りが生じることが抑えられる。
【0035】
支持層12の厚さT2は、例えば、5μm以上50μm以下である。支持層12とニッケル含有金属シート11との積層体における機械的な強度が高められる観点において、支持層12の厚さT2は、5μm以上であることが好ましい。また、蒸着用メタルマスクが製造される過程において、アルカリ溶液などへの浸漬によってニッケル含有金属シート11から支持層12が除去される場合がある。こうした除去に要する時間が過剰に長くなることを抑えられる観点において、支持層12の厚さは、50μm以下であることが好ましい。
【0036】
[蒸着用メタルマスク基材の製造方法]
蒸着用メタルマスク基材の製造方法は、蒸着用メタルマスクの製造方法に含まれる。蒸着用メタルマスク基材の製造方法は、(A)電解、(B)圧延および研磨、(C)電解および研磨、(D)圧延のみのなかから、いずれか1つが用いられる。
【0037】
なお、ニッケル含有金属シート11を形成するための圧延用の母材が形成されるとき、通常、圧延用の母材を形成するための材料中に混入した酸素を除くことが行われる。材料中に混入した酸素を除くことは、例えば、粒状のアルミニウムやマグネシウムなどの脱酸剤が、母材を形成するための材料に混ぜられることである。この結果として、アルミニウムやマグネシウムは、酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの金属酸化物として母材に含まれる。金属酸化物の大部分は、母材が圧延される前に、母材から取り除かれる一方で、金属酸化物の一部分は、圧延の対象となる母材に残る。母材のなかに残る金属酸化物は、上述した反射率の異方性を生じる要因の一つでもある。この点、電解を用いる製造方法によれば、上記金属酸化物がニッケル含有金属シート11に混ざることが抑えられる。
【0038】
支持層12を備えた蒸着用メタルマスク基材の製造方法においては、別体である支持層12がニッケル含有金属シート11の対象面に貼り付けられてもよいし、ニッケル含有金属シート11の対象面に塗布などによって別途形成されてもよい。
【0039】
(A)電解
ニッケル含有金属シート11の製造方法として電解が用いられる場合、電解に用いられる電極の表面に、ニッケル含有金属シート11が形成される。その後、電極の表面からニッケル含有金属シート11が分離される。それによって、対象面と、対象面とは反対側の面であって電極の表面に接していた面とを備えたニッケル含有金属シート11が製造される。ニッケル含有金属シート11の対象面と同じ程度の表面形態を電極の表面が有している場合、ニッケル含有金属シート11の基材表面11aと基材裏面11bとの両方が、対象面に相当する表面性状を有する。ニッケル含有金属シート11の対象面よりも大きい表面粗さや、ニッケル含有金属シート11よりも低い反射率を電極の表面が有している場合、この電極の表面と接していた面とは反対側の面が、ニッケル含有金属シート11の対象面となる。なお、基材表面11aと基材裏面11bとの両方が対象面に相当する表面性状を有する構成は、対象面にレジスト層を形成することに際して、基材表面11aと基材裏面11bとの区別に要する負荷を軽減することを可能とする。なお、分離されたニッケル含有金属シート11は、分離された後にアニール処理を施されてもよい。
【0040】
電解に用いられる電解浴は、例えば、鉄イオン供給剤、ニッケルイオン供給剤、および、pH緩衝剤を含む。また、電解に用いられる電解浴は、応力緩和剤、Fe3+イオンマスク剤、リンゴ酸やクエン酸などの錯化剤などを含んでもよく、電解に適したpHに調整された弱酸性の溶液である。鉄イオン供給剤は、例えば、硫酸第一鉄・7水和物、塩化第一鉄、スルファミン酸鉄などである。ニッケルイオン供給剤は、例えば、硫酸ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル、臭化ニッケルである。pH緩衝剤は、例えば、ホウ酸、マロン酸である。マロン酸は、Fe3+イオンマスク剤としても機能する。応力緩和剤は、例えばサッカリンナトリウムである。電解に用いられる電解浴は、例えば、上述した添加剤を含む水溶液であり、5%硫酸、あるいは、炭酸ニッケルなどのpH調整剤によって、例えば、pHが2以上3以下となるように調整される。
【0041】
電解に用いられる電解条件は、対象面の有する表面性状、および、ニッケル含有金属シート11におけるニッケルの組成比などが、電解浴の温度、電流密度、および、電解時間によって調整された条件である。特に、上記[条件3]を満たすニッケル含有金属シート11の製造においては、電極の表面における電解箔の成長が、電極の表面において等方的であるように、電解浴の温度、電流密度、電極の配置、電解浴の攪拌方法、電解浴の組成などが調整される。また、上記[条件3]を満たすニッケル含有金属シート11の製造においては、適切な光沢剤が添加される。上述した電解浴を用いた電解条件における陽極は、例えば、純鉄とニッケルである。電解条件における陰極は、例えば、SUS304などのステンレス板である。電解浴の温度は、例えば、40℃以上60℃以下である。電流密度は、例えば、1A/dm以上4A/dm以下である。
【0042】
(B)研磨
ニッケル含有金属シート11の製造方法のなかに研磨が用いられる場合、研磨前のニッケル含有金属シート11は、(A)電解によって製造されてもよいし、圧延によって製造されてもよい。研磨前のニッケル含有金属シート11を圧延によって製造する方法は、まず、ニッケル含有金属の母材を圧延し、その後、圧延された母材をアニールする。この際、研磨前のニッケル含有金属シート11における基材表面11aの段差は、母材の表面における段差よりも小さい。また、研磨前のニッケル含有金属シート11における基材裏面11bの段差は、母材の裏面における段差よりも小さい。そして、研磨前のニッケル含有金属シート11のなかで平滑面となる対象面に、物理的、化学的、化学機械的、あるいは、電気的な研磨加工が施される。それによって、対象面を備えたニッケル含有金属シート11が製造される。
【0043】
化学的な研磨に用いられる研磨液は、例えば、過酸化水素を主成分とした鉄系合金用の化学研磨液である。電気的な研磨に用いられる電解液は、過塩素酸系の電解研磨液や硫酸系の電解研磨液である。なお、研磨前のニッケル含有金属シート11は、圧延後のニッケル含有金属シート11が、酸性エッチング液によるウェットエッチングによって薄く加工されたものに具体化することもできる。
【0044】
[蒸着用メタルマスク]
図3が示すように、マスク装置20は、メインフレーム21と、複数の蒸着用メタルマスク30とを備える。メインフレーム21は、複数の蒸着用メタルマスク30を支持する枠板状を有する。メインフレーム21は、蒸着を行うための蒸着装置に取り付けられる。メインフレーム21は、複数のメインフレーム孔21Hを有する。各メインフレーム孔21Hは、各蒸着用メタルマスク30が取り付けられる部位のほぼ全体にわたり、メインフレーム21を貫通する。
【0045】
蒸着用メタルマスク30は、サブフレーム31と、複数のマスク部32とを備える。サブフレーム31は、複数のマスク部32を支持する枠板状を有する。サブフレーム31は、メインフレーム21に取り付けられる。サブフレーム31は、複数のサブフレーム孔33を有する。各サブフレーム孔33は、各マスク部32が取り付けられる部位のほぼ全体にわたり、サブフレーム31を貫通する。各マスク部32は、サブフレーム孔33の周囲に溶着や接着によって固定される。各マスク部32が有する断面構造の一例を、図4を参照して説明し、各マスク部32が有する断面構造の他の例を、図5を参照して説明する。
【0046】
図4が示すように、各マスク部32は、ニッケル含有金属シート321から構成される。ニッケル含有金属シート321を構成する材料は、上述した蒸着用メタルマスク基材10においてニッケル含有金属シート11を構成する材料とほぼ等しい。ニッケル含有金属シート321は、上述したニッケル含有金属シート11にマスク孔321Hが形成されることによって製造される。ニッケル含有金属シート321は、マスク表面321aと、マスク表面321aとは反対側の面であるマスク裏面321bとを備える。マスク表面321a、および、マスク裏面321bの少なくとも一方は、レジスト層が位置していた対象面である。マスク表面321aは、蒸着装置において蒸着源と対向する面である。マスク裏面321bは、蒸着装置において、ガラス基板などの蒸着対象と接触する面である。ニッケル含有金属シート321が備える対象面の表面性状は、ニッケル含有金属シート11が備える対象面の表面性状とほぼ等しい。ニッケル含有金属シート321が備える対象面のなかでマスク孔32H以外の領域における表面性状は、上述した[条件1]および[条件2]の少なくとも一方を満たす。また、ニッケル含有金属シート321が備える対象面のなかでマスク孔32H以外の領域における表面性状は、上述した[条件3]を満たすことが好ましい。
【0047】
マスク部32は、ニッケル含有金属シート321を貫通する複数のマスク孔321Hを有する。マスク孔321Hを区画する孔側面は、ニッケル含有金属シート321の厚さ方向に対して、断面視において、マスク表面321aからマスク裏面321bに向けて緩やかに曲がる弧を描く。マスク表面321aは、マスク孔321Hの開口である表面開口Haを含む。マスク裏面321bは、マスク孔321Hの開口である裏面開口Hbを含む。表面開口Haの大きさは、平面視において、裏面開口Hbよりも大きい。各マスク孔321Hは、蒸着源から昇華した蒸着粒子が通る通路である。蒸着源から昇華した蒸着粒子は、表面開口Haから裏面開口Hbに向けて進む。表面開口Haが裏面開口Hbよりも大きいマスク孔321Hは、表面開口Haから入る蒸着粒子に対してシャドウ効果を抑えることが可能となる。
【0048】
ここで、蒸着用メタルマスク基材10のニッケル含有金属シート11にマスク孔321Hが形成されるとき、基材表面11a、および、基材裏面11bのうち、エッチングされる量が大きい方の面では、エッチングされる量が小さい方の面よりも、開口の大きさが大きくなる。上記蒸着用メタルマスク30であれば、表面開口Haが裏面開口Hbよりも大きいため、基材表面11aでエッチングされる量を、基材裏面11bでエッチングされる量よりも大きく設定することが可能である。そして、基材表面11aが対象面である構成は、蒸着用メタルマスク30を製造する方法として、基材表面11aにレジストマスクを形成し、ニッケル含有金属シート11のエッチングを基材表面11aから進める方法を採用することが可能ともなる。結果として、レジストマスクが位置するための対象面で光が散乱することが抑えられる。そのため、露光、および、現像によって形成されるレジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間に差異が生じることを抑えることが可能となる。ひいては、蒸着用メタルマスク30が有するマスク孔321Hの構造上の精度を高めることが可能となる。特に、上記[条件3]を満たす対象面は、マスク孔321Hの構造上の精度を、対象面における二次元方向で高めることが可能ともなる。
【0049】
図5が示す他の例では、各マスク部32は、ニッケル含有金属シート321を貫通する複数のマスク孔321Hを有する。図5が示す例においても、表面開口Haの大きさは、平面視において、裏面開口Hbよりも大きい。各マスク孔321Hは、表面開口Haを有するマスク大孔32LHと、裏面開口Hbを有するマスク小孔32SHとから構成される。マスク大孔32LHは、表面開口Haからマスク裏面321bに向けて、その断面積が単調に減少する孔である。マスク小孔32SHは、裏面開口Hbからマスク表面321aに向けて、その断面積が単調に減少する孔である。
【0050】
各マスク孔321Hを区画する孔側面は、断面視において、マスク大孔32LHとマスク小孔32SHとが接続する部分を有する。マスク大孔32LHとマスク小孔32SHとが接続する部分は、ニッケル含有金属シート321の厚さ方向の中間に位置する。マスク大孔32LHとマスク小孔32SHとが接続する部分は、マスク孔321Hの内側に向けて突き出た形状を有する。マスク孔321Hの孔側面において最も突き出た部位と、マスク裏面321bとの間の距離は、ステップハイトSHである。先に図4で説明した断面構造は、ステップハイトSHをゼロとする例である。上述したシャドウ効果を抑える観点においては、ステップハイトSHがゼロである方が好ましい。なお、ステップハイトSHがゼロであるマスク部32を得るためには、例えば、基材表面11aから基材裏面11bまでのウェットエッチングによってマスク孔321Hが形成され、基材裏面11bからのウェットエッチングが不要となるように、ニッケル含有金属シート11の厚さが、40μm以下であることが好ましい。こうした観点においても、(A)電解、(B)圧延および研磨、(C)電解および研磨によって製造される蒸着用メタルマスク基材10は、好適である。
【0051】
ここで、ニッケル含有金属シート11にマスク大孔32LHが形成されるとき、ニッケル含有金属シート11のエッチングを基材表面11aから進める方法が採用される。また、ニッケル含有金属シート11にマスク小孔32SHが形成されるとき、ニッケル含有金属シート11のエッチングを基材裏面11bから進める方法が採用される。基材表面11aが対象面であり、かつ、基材裏面11bもまた対象面である構成は、各レジストマスクの位置するための対象面で光が散乱することが抑えられる。そのため、蒸着用メタルマスク30が有するマスク孔321Hの構造上の精度を、さらに高めることが可能となる。
【0052】
[蒸着用メタルマスクの製造方法]
図4で説明した蒸着用メタルマスク30を製造する方法と、図5で説明した蒸着用メタルマスク30を製造する方法とは、ニッケル含有金属シート11にウェットエッチングを行う工程が異なる一方で、それ以外の工程はほぼ同様である。以下では、図4で説明した蒸着用メタルマスク30の製造方法を主に説明し、図5で説明した蒸着用メタルマスク30の製造方法に関しては、その重複した説明を省略する。
【0053】
図6が示すように、蒸着用メタルマスクの製造方法は、まず、上述した(A)電解や(B)圧延および研磨などによってニッケル含有金属シート11を準備する(ステップS1−1)。次いで、ニッケル含有金属シート11が有する対象面の1つにレジスト層を形成し(ステップS1−2)、レジスト層に対する露光、および、現像を行うことによって、対象面にレジストマスクを形成する(ステップS1−3)。
【0054】
次に、レジストマスクを用いた対象面のウェットエッチングによって、ニッケル含有金属シート11にマスク孔321Hを形成する(ステップS1−4)。次いで、レジストマスクを対象面から除去することによって、上述したマスク部32が製造される(ステップS1−5)。そして、複数のマスク部32におけるマスク表面321aをサブフレーム31に固定することによって、上述した蒸着用メタルマスクを製造する(ステップS1−6)。
【0055】
ニッケル含有金属シート11をエッチングするエッチング液は、酸性のエッチング液であって、インバーをエッチングすることが可能なエッチング液であればよい。酸性のエッチング液は、例えば、過塩素酸第二鉄液、および、過塩素酸第二鉄液と塩化第二鉄液との混合液に対して、過塩素酸、塩酸、硫酸、蟻酸、および、酢酸のいずれかを混合した溶液である。対象面のエッチングは、ニッケル含有金属シート11を酸性のエッチング液に浸漬するディップ式であってもよいし、ニッケル含有金属シート11の対象面に対して酸性のエッチング液を吹き付けるスプレー式であってもよい。また、対象面のエッチングは、スピナーによって回転するニッケル含有金属シート11に酸性のエッチング液を滴下するスピン式であってもよい。
【0056】
ここで、対象面に位置するレジスト層に光が照射されることに際して、光の一部が対象面で散乱し、散乱した光がレジスト層のなかの露光対象領域以外の部分を照射してしまうことが抑えられる。そのため、露光、および、現像によって形成されるレジストマスクの構造と、設計されたレジストマスクの構造との間に差異が生じることを抑えることが可能となる。ひいては、ニッケル含有金属シート321が有するマスク孔321Hの構造上の精度を高めることが可能となる。なお、対象面に形成されるレジスト層は、シート状に形成された後に対象面に貼り付けられてもよいし、レジスト層を形成するための塗液が対象面に塗布されることによって形成されてもよい。
【0057】
なお、図5で説明した蒸着用メタルマスク30の製造方法では、上述したステップS1−1からステップS1−5までの工程が、マスク表面321aに対応する基材表面11aに施され、それによって、マスク大孔32LHが形成される。次いで、マスク大孔32LHを保護するためのレジストなどがマスク大孔32LHに充填される。続いて、上述したステップS1−2からステップS1−5までの工程が、マスク裏面321bに対応する基材裏面11bに施され、それによって、マスク小孔32SHが形成され、マスク部32が得られる。そして、複数のマスク部32におけるマスク表面321aがサブフレーム31に固定されることによって、上述した蒸着用メタルマスクが製造される(ステップS1−6)。
【0058】
また、蒸着用メタルマスク基材10がポリイミドからなる支持層12を備える場合、支持層12は、ステップS1−5の後、蒸着用メタルマスク基材10から除去される。支持層12の分離は、レーザー照射による剥離、化学的な溶解や剥離、物理的な剥離などによって除去される。あるいは、蒸着用メタルマスク基材10がポリイミドからなる支持層12を備える場合、支持層12は、蒸着用メタルマスクの構成要素として、サブフレーム31に組み付けられてもよい。支持層12を化学的に除去する方法であれば、ニッケル含有金属シート11から支持層12を物理的に引きはがす場合と比べて、ニッケル含有金属シート11に外力が作用せず、ニッケル含有金属シート11に皺や歪みが生じることが抑えられる。なお、蒸着用メタルマスク基材10から支持層12を化学的に除去する方法では、例えば、支持層12を溶解することによって、支持層12をニッケル含有金属シート11から剥離するアルカリ溶液を用いることが好ましい。
【0059】
[試験例]
図7および図8を参照して、上記蒸着用メタルマスク基材10における表面粗さSa,Sz、反射率R、反射率差、および、レジストマスクの加工精度を説明する。図7は、試験例1から試験例9の各水準における表面粗さSa,Szと、反射率Rと、反射率差とを示す。図8は、試験例1から試験例9の各々に対して測定した反射率のなかで、代表的な例となる試験例1、試験例2、試験例3、試験例9の各々の反射率の反射光角度依存性を示す。
【0060】
図7が示すように、試験例1、試験例2、試験例3、試験例6、試験例7は、上記(A)電解によって製造された、厚さが20μmの蒸着用メタルマスク基材10である。試験例4、試験例5の各々は、上記(B)圧延および研磨によって製造された厚さが20μmの蒸着用メタルマスク基材10である。なお、上記(A)電解によって製造された蒸着用メタルマスク基材10は、電極と接する面の表面性状を、対象面に相当する表面性状として示す。この際、SUS製の電極における表面粗さSaは、0.018μmであり、表面粗さSzは、0.170μmである。試験例8、試験例9の各々は、圧延によって得られた研磨前の蒸着用メタルマスク基材10であって、研磨の施されていない蒸着用メタルマスク基材10である。試験例8、試験例9の各々の厚さは、試験例8と試験例9との研磨量である10μmだけ、試験例4、試験例5の各々よりも厚い。
【0061】
試験例1、試験例2、試験例3、試験例6、試験例7の各々は、下記添加物が添加された水溶液であって、pH2.3に調整された電解浴を用い、電流密度を1(A/dm)以上4(A/dm)以下の範囲で変更することによって得られた。試験例1、試験例2、試験例3、試験例6、試験例7の各々は、鉄とニッケルとの組成比が互いに異なる。
【0062】
(試験例用電解液)
・硫酸第一鉄・7水和物 :83.4g
・硫酸ニッケル(II)・6水和物:250.0g
・塩化ニッケル(II)・6水和物:40.0g
・ホウ酸 :30.0g
・サッカリンナトリウム2水和物:2.0g
・マロン酸 :5.2g
・温度 :50℃
試験例4、試験例5の各々は、圧延によって得られた研磨前のニッケル含有金属シート11に、過酸化水素系の化学研磨液を用いた化学的な研磨を施して得られた。
【0063】
試験例8、試験例9の各々は、圧延および研磨によって得られた試験例4、試験例5において研磨前のニッケル含有金属シート11であって、化学的な研磨を施していない水準である。
【0064】
試験例1から試験例7までの各水準において、対象面の表面粗さSaは0.019μm以下であり、かつ、対象面の表面粗さSzが0.308μm以下であることが認められた。これに対して、試験例8、試験例9の各水準においては、対象面の表面粗さSaは、ほぼ0.04μmであり、これによって、上述した(A)電解や(B)研磨によって製造された蒸着用メタルマスク基材であれば、表面粗さSaを大幅に低下させられていることが認められた。また、試験例8、試験例9の各水準においては、対象面の表面粗さSzは、ほぼ0.35μm以上である。したがって、上述した(A)電解や(B)研磨によって製造された蒸着用メタルマスク基材であれば、表面粗さSzを低下させられていることが認められた。
【0065】
図7および図8が示すように、試験例1から試験例3までの各水準において、上述した反射率Rは53.0%以上97.0%以下であることが認められた。これに対して、試験例8、試験例9においては、反射率Rは53.0%よりも小さく、また、他の試験例よりも大きい半値幅を有していることが認められた。これによって、上述した(A)電解や(B)研磨によって製造された蒸着用メタルマスク基材であれば、53.0%以上の大きい反射率Rを得られることが認められた。
【0066】
さらに、試験例1から試験例3までの各水準において、相互に直交する2つの方向での反射率差は、2.%以下であることが認められた。また、試験例5において、相互に直交する2つの方向での反射率差は、3.6%であることが認められた。これに対して、試験例9においては、反射率差が6.2%であり、また、試験例1から試験例3までとは電解条件が異なる試験例6においても、反射率差が6.5%であることが認められた。したがって、圧延によっては得られない低い反射率差が、(A)電解における電解浴の温度や電流密度の調整によって得られることが認められた。
【0067】
そして、試験例1から試験例7の各々の対象面に形成したレジストマスクの最小解像度の寸法は、紫外光の露光によってレジスト層に円形孔を形成することに際して、4μm以上5μm以下の範囲内に分散することが認められた。特に、反射率差が3.6%以下である試験例1から試験例3、および、試験例5の各々においては、対象面に含まれる二次元方向において、試験例6や試験例7よりも、最小解像度の寸法におけるばらつきが少ないことが認められた。特に、反射率差が2.%以下である試験例1から試験例3の各々においては、反射率差が3.6%以下である試験例5よりも、さらに小さい寸法が、最小解像度として得られた。一方で、試験例8と試験例9との表面に同様の製法によって形成したレジストマスクの最小解像度寸法は、紫外光の露光によってレジスト層に円形孔を形成することに際して、7μm以上であった。そのため、蒸着用メタルマスクが有する開口の構造上の精度を高める観点において、反射率差は、3.6%以下が好ましく、2.%以下がより好ましい。
【0068】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・電解による蒸着用メタルマスク基材の製造に際して、ニッケル含有金属シート11のマスクとなるパターンを、電極の表面に予め形成してもよい。この製造方法においては、電極の表面のなかでパターン以外の部分に、ニッケル含有金属シート11が形成される。そして、電極の表面にニッケル含有金属シート11が形成された状態で、電極の表面からパターンが溶解などによって取り除かれ、次いで、電極の表面からニッケル含有金属シートが分離される。これによって、蒸着用メタルマスク基材が製造される。電極の表面に予め形成されるパターンは、そのパターンにおいてニッケル含有金属シート11の成長が抑えられるパターンであればよく、例えばレジストパターンを用いることが可能である。
【0069】
こうした蒸着用メタルマスク基材の製造方法によれば、蒸着用メタルマスク基材10のなかでパターンに相当する部位に、孔や窪みを形成することが可能となる。そして、電極の表面に形成されるパターンの構造と、マスク孔などの孔が有する構造とを整合させることが可能となる。これによって、蒸着用メタルマスク基材10に対するウェットエッチングの負荷を軽減すること、さらには、ウェットエッチングの工程自体を割愛することが可能ともなる。
【0070】
・ステップS1−6において、サブフレーム31に固定される対象を、複数のマスク部32におけるマスク表面321aから、複数のマスク部32におけるマスク裏面321bに変更することも可能である。すなわち、蒸着用メタルマスクは、マスク表面321aがサブフレーム31に固定された構造体であってもよいし、マスク裏面321bがサブフレーム31に固定された構造体であってもよい。
【0071】
図5で説明した蒸着用メタルマスク30の製造方法において、マスク大孔32LHを形成する工程は、マスク小孔32SHを形成する工程の後へ変更することも可能である。
【符号の説明】
【0072】
10…蒸着用メタルマスク基材、11,321…ニッケル含有金属シート、11a…基材表面、11b…基材裏面、12…支持層、20…マスク装置、21H…メインフレーム孔、30…蒸着用メタルマスク、31…サブフレーム、32…マスク部、321H…マスク孔、32LH…マスク大孔、32SH…マスク小孔、33…サブフレーム孔、321…ニッケル含有金属シート、321a…マスク表面、321b…マスク裏面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8