特許第6805835号(P6805835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805835
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 19/22 20060101AFI20201214BHJP
   H02K 1/14 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   H02K19/22
   H02K1/14 C
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-4369(P2017-4369)
(22)【出願日】2017年1月13日
(65)【公開番号】特開2018-113824(P2018-113824A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2018年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】谷口 真
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕樹
【審査官】 大島 等志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−57301(JP,A)
【文献】 特開2009−207333(JP,A)
【文献】 特開平11−164499(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/027897(WO,A1)
【文献】 特開2014−036483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/22
H02K 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコア(21)にステータ巻線(22)が巻装されている環状のステータ(20)と、前記ステータに対して径方向内側に対向して配置されるロータ(30)と、を備える回転電機(1)であって、
前記ロータは、
回転軸に固定される筒状のボス部(321,321a,321b)と、前記ボス部の軸方向端部から径方向外側に広がるディスク部(322,322a,322b)と、前記ディスク部の径方向先端部から軸方向に延在し、前記ボス部の径方向外側に配置され、回転周方向に交互に異なる極性の磁極が形成される複数の爪状磁極部(323,323a,323b)と、を有する界磁コア(32)と、
前記ボス部と前記爪状磁極部との間に配置され、通電により起磁力を発生する界磁巻線(33)と、
回転周方向に隣接する2つの前記爪状磁極部の間に磁化容易軸が回転周方向に向けられて配置され、前記界磁巻線の起磁力により該2つの前記爪状磁極部に現れる極性と一致するように磁極が形成されている永久磁石(34,34A)と、
前記爪状磁極部における前記ボス部に対向する内周側部位に固定され、前記爪状磁極部を内周側から支持する環状の固定部材(35)と、
を備え、
前記界磁巻線の起磁力により形成される磁束が前記ボス部、前記ディスク部、一対の前記爪状磁極部、及び前記ステータコアを経由して流れるd軸磁気回路(60)と、前記永久磁石の磁力により形成される磁束が流れる磁石磁気回路(62,63)と、は少なくとも一部で互いに共通した共通回路部を有し、
前記ロータの負荷時、前記d軸磁気回路のパーミアンスは、前記ステータ巻線の通電時に形成される磁束がd軸に対して電気角で90°ずれた位置にあるq軸を通るq軸磁気回路(61)のパーミアンスに比べて小さく、
前記界磁コアは、第1材料と前記第1材料に比べて飽和磁束密度が低い第2材料とにより形成されており、
前記爪状磁極部は、前記第1材料により形成され、
前記ボス部及び前記ディスク部は、前記第2材料により形成されている、回転電機。
【請求項2】
前記d軸磁気回路のパーミアンスPrt及び前記q軸磁気回路のパーミアンスPstは、前記ロータの負荷時において、Pst:Prt=2n(但し、nは1以上の実数である。):1の関係が成立するように設定されている、請求項1記載の回転電機。
【請求項3】
ステータコア(21)にステータ巻線(22)が巻装されている環状のステータ(20)と、前記ステータに対して径方向内側に対向して配置されるロータ(30)と、を備える回転電機(1)であって、
前記ロータは、
回転軸に固定される筒状のボス部(321,321a,321b)と、前記ボス部の軸方向端部から径方向外側に広がるディスク部(322,322a,322b)と、前記ディスク部の径方向先端部から軸方向に延在し、前記ボス部の径方向外側に配置され、回転周方向に交互に異なる極性の磁極が形成される複数の爪状磁極部(323,323a,323b)と、を有する界磁コア(32)と、
前記ボス部と前記爪状磁極部との間に配置され、通電により起磁力を発生する界磁巻線(33)と、
回転周方向に隣接する2つの前記爪状磁極部の間に磁化容易軸が回転周方向に向けられて配置され、前記界磁巻線の起磁力により該2つの前記爪状磁極部に現れる極性と一致するように磁極が形成されている永久磁石(34,34A)と、
前記爪状磁極部における前記ボス部に対向する内周側部位に固定され、前記爪状磁極部を内周側から支持する環状の固定部材(35)と、
を備え、
前記爪状磁極部の外周面の表面積As及び前記ボス部の一対のNS磁極当たりの磁路断面積Abは、0.9<As/Ab<1.7の関係が成立するように設定されており、
前記界磁コアは、第1材料と前記第1材料に比べて飽和磁束密度が低い第2材料とにより形成されており、
前記爪状磁極部は、前記第1材料により形成され、
前記ボス部及び前記ディスク部は、前記第2材料により形成されている、回転電機。
【請求項4】
前記ボス部の外径Db及び前記ロータの外径Drは、0.46<Db/Dr<0.53の関係が成立するように設定されている、請求項3記載の回転電機。
【請求項5】
ステータコア(21)にステータ巻線(22)が巻装されている環状のステータ(20)と、前記ステータに対して径方向内側に対向して配置されるロータ(30)と、を備える回転電機(1)であって、
前記ロータは、
回転軸に固定される筒状のボス部(321,321a,321b)と、前記ボス部の軸方向端部から径方向外側に広がるディスク部(322,322a,322b)と、前記ディスク部の径方向先端部から軸方向に延在し、前記ボス部の径方向外側に配置され、回転周方向に交互に異なる極性の磁極が形成される複数の爪状磁極部(323,323a,323b)と、を有する界磁コア(32)と、
前記ボス部と前記爪状磁極部との間に配置され、通電により起磁力を発生する界磁巻線(33)と、
回転周方向に隣接する2つの前記爪状磁極部の間に磁化容易軸が回転周方向に向けられて配置され、前記界磁巻線の起磁力により該2つの前記爪状磁極部に現れる極性と一致するように磁極が形成されている永久磁石(34,34A)と、
前記爪状磁極部における前記ボス部に対向する内周側部位に固定され、前記爪状磁極部を内周側から支持する環状の固定部材(35)と、
を備え、
前記爪状磁極部の外周面の表面積As及び前記ディスク部の磁路断面積Adは、0.9<As/Ad<1.7の関係が成立するように設定されており、
前記界磁コアは、第1材料と前記第1材料に比べて飽和磁束密度が低い第2材料とにより形成されており、
前記爪状磁極部は、前記第1材料により形成され、
前記ボス部及び前記ディスク部は、前記第2材料により形成されている、回転電機。
【請求項6】
前記永久磁石の残留磁束密度が1[T]以上である、請求項3乃至5の何れか一項記載の回転電機。
【請求項7】
前記ボス部の一対のNS磁極当たりの磁路断面積Ab、前記ボス部に5000[A/m]の界磁が加えられた際の磁束密度B50、前記永久磁石の残留磁束密度Br、及び前記永久磁石の磁路断面積Amは、2×Br×Am<B50×Abの関係が成立するように設定されている、請求項1乃至6の何れか一項記載の回転電機。
【請求項8】
前記第2材料は、前記第1材料に比べて透磁率が高い材料である、請求項1乃至7の何れか一項記載の回転電機。
【請求項9】
前記固定部材は、前記爪状磁極部に固定される固定部の外径が回転周方向全域において一致するように円環状に形成されている、請求項1乃至の何れか一項記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータと、ロータと、を備える回転電機が知られている(例えば、特許文献1など)。特許文献1記載の回転電機において、ロータは、界磁コアと、界磁巻線と、永久磁石と、を備えている。界磁コアは、回転軸に固定される筒状のボス部と、ボス部の軸方向端部から径方向外側に広がるディスク部と、ディスク部の径方向先端から軸方向に延在し、ボス部の径方向外側に配置される爪状磁極部と、を有している。爪状磁極部は、回転軸回りに所定角度ごとに設けられており、回転周方向に交互に異なる極性の磁極が形成されるように複数設けられている。界磁巻線は、ボス部と爪状磁極部との間に配置されており、通電により起磁力を発生する。また、永久磁石は、回転周方向に隣接する2つの爪状磁極部の間に磁化容易軸が回転周方向に向けられて配置されており、その永久磁石の磁極は、界磁巻線の起磁力により回転周方向に隣接する2つの爪状磁極部に現れる極性と一致するように形成されている。
【0003】
永久磁石は、ステータに鎖交する磁束が流れる第1磁石磁気回路と、ボス部を通りロータ内で磁束の流れが完結する第2磁石磁気回路との2つの磁石磁気回路を形成する。また、ロータに負荷がかけられたときすなわち界磁巻線に界磁電流が通電されたとき、界磁巻線の起磁力により形成される磁束が界磁コアのボス部、ディスク部、一対の爪状磁極部、ステータコアを経由して流れるd軸磁気回路が形成される。上記2つの磁石磁気回路のうち第2磁石磁気回路を流れる磁石磁束は、d軸磁気回路の磁束と逆方向に流れるので、抵抗が大きく流れ難い状態になる。
【0004】
d軸磁気回路のパーミアンスPrt及びq軸磁気回路のパーミアンスPstがPst>Prtの関係が成立するように設定されれば、上記第1磁石磁気回路を流れる磁石磁束が増大するので、永久磁石の磁石磁束を有効利用して発電能力を大幅に向上させることが可能である。この具体的な実現手段としては、爪状磁極部及びディスク部を一体として第1軟磁性材料により形成すると共に、ボス部を爪状磁極部及びディスク部とは別体で上記の第1軟磁性材料に比してパーミアンス係数の小さな第2軟磁性材料により形成することが考えられる。この場合、ロータコアは、爪状磁極部及びディスク部が一体化されたポール部材の一対とボス部材とを合わせた3ピース構造となり、回転軸を貫通させて支持固定している。或いは、爪状磁極部、ディスク部、及びボス部を同一の軟磁性材料により一体形成したものを2ピース突き合わせたうえで、ボス部若しくはディスク部の一部若しくは全部を細くして磁路断面積を小さくして磁束飽和し易くすることが考えられる。これらの手法によれば、永久磁石の磁石磁束が、ボス部側を通過し難くなり、ステータに鎖交し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−255451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、界磁コアのディスク部は、ロータの高速回転により発生する爪状磁極部及び永久磁石に作用する遠心力に耐え得る支持機能を有するものである。しかし、上記の3ピース構造のロータコアでは、ディスク部の保持が回転軸にのみ依存することとなるので、ディスク部の剛性が低下して爪状磁極部及び永久磁石の遠心力に耐えられなくなるおそれがある。また、ボス部やディスク部の磁路断面積が小さい場合も、そのディスク部の剛性が低下して爪状磁極部及び永久磁石の遠心力に耐えられなくなるおそれがある。更に、ボス径が小さいと、ディスク部の径方向長が伸びて遠心力による曲げモーメントが大きくなり、やはり遠心力に対する耐性が低下してしまう。
【0007】
このため、回転電機の運用面では、フェールセーフのため、最高回転数を低く抑え、或いは、ロータ界磁コアとステータとの干渉防止のためステータとロータとの空隙距離を拡大することが考えられるが、これでは、回転電機の性能低下や大型化を招いてしまう。
【0008】
本発明は、爪状磁極部及び永久磁石の遠心力に対する耐性を向上させることで、性能低下や大型化を回避した回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ステータコアにステータ巻線が巻装されている環状のステータと、前記ステータに対して径方向内側に対向して配置されるロータと、を備える回転電機であって、前記ロータは、回転軸に固定される筒状のボス部と、前記ボス部の軸方向端部から径方向外側に広がるディスク部と、前記ディスク部の径方向先端部から軸方向に延在し、前記ボス部の径方向外側に配置され、回転周方向に交互に異なる極性の磁極が形成される複数の爪状磁極部と、を有する界磁コアと、前記ボス部と前記爪状磁極部との間に配置され、通電により起磁力を発生する界磁巻線と、回転周方向に隣接する2つの前記爪状磁極部の間に磁化容易軸が回転周方向に向けられて配置され、前記界磁巻線の起磁力により該2つの前記爪状磁極部に現れる極性と一致するように磁極が形成されている永久磁石と、前記爪状磁極部における前記ボス部に対向する内周側部位に固定され、前記爪状磁極部を内周側から支持する環状の固定部材と、を備え、前記界磁巻線の起磁力により形成される磁束が前記ボス部、前記ディスク部、一対の前記爪状磁極部、及び前記ステータコアを経由して流れるd軸磁気回路と、前記永久磁石の磁力により形成される磁束が流れる磁石磁気回路と、は少なくとも一部で互いに共通した共通回路部を有し、前記ロータの負荷時、前記d軸磁気回路のパーミアンスは、前記ステータ巻線の通電時に形成される磁束がd軸に対して電気角で90°ずれた位置にあるq軸を通るq軸磁気回路のパーミアンスに比べて小さく、前記界磁コアは、第1材料と前記第1材料に比べて飽和磁束密度が低い第2材料とにより形成されており、前記爪状磁極部は、前記第1材料により形成され、前記ボス部及び前記ディスク部は、前記第2材料により形成されている、回転電機である。
【0010】
この構成によれば、回転周方向に隣接する爪状磁極部の間に配置された永久磁石の磁力により、ステータに鎖交する磁束が流れる磁石磁気回路と、ボス部を通りロータ内で完結する磁束が流れる磁石磁気回路との2つの磁石磁気回路が形成される。そして、ロータに負荷が掛けられた時、すなわち、界磁巻線に界磁電流が通電された時に、界磁巻線の起磁力により形成される磁束が界磁コアのボス部、一対の爪状磁極部及びステータコアを経由して流れるd軸磁気回路が形成される。このとき、2つの磁石磁気回路のうちステータに鎖交する磁束が流れる磁石磁気回路を流れる磁石磁束は、d軸磁気回路の磁束と逆方向に流れているので、抵抗が大きく流れ難い状態となる。また、d軸磁気回路のパーミアンスPrtは、q軸磁気回路のパーミアンスPstに比べて小さいため、2つの磁石磁気回路のうちステータに鎖交する磁束が流れる磁石磁気回路の磁石磁束が増大する。これにより、磁石磁束を有効活用して、発電能力を大幅に向上させることができる。また、ロータの有する各爪状磁極部におけるボス部に対向する内周側部位に環状の固定部材が固定されているため、その固定部材により、ロータの回転時に生じる遠心力などによって界磁コアの爪状磁極部が径方向外側に向けて移動する変形を抑えることができる。これにより、爪状磁極部及び永久磁石の遠心力に対する耐性を向上させることができ、性能低下及び大型化を回避することができる。
【0011】
上記した回転電機において、前記d軸磁気回路のパーミアンスPrt及び前記q軸磁気回路のパーミアンスPstは、前記ロータの負荷時において、Pst:Prt=2n(但し、nは1以上の実数である。):1の関係が成立するように設定されている。この構成によれば、ランデル型ロータへの負荷時の態様をIPM型ロータの態様に近付けることができ、q軸インダクタンスLqとd軸インダクタンスLdとの比(=Lq/Ld)である突極比ρを2以上にできる。これにより、ランデル型ロータであっても、IPM型ロータ並のリラクタンストルクを出すことが可能である。
【0012】
本発明は、ステータコアにステータ巻線が巻装されている環状のステータと、前記ステータに対して径方向内側に対向して配置されるロータと、を備える回転電機であって、前記ロータは、回転軸に固定される筒状のボス部と、前記ボス部の軸方向端部から径方向外側に広がるディスク部と、前記ディスク部の径方向先端部から軸方向に延在し、前記ボス部の径方向外側に配置され、回転周方向に交互に異なる極性の磁極が形成される複数の爪状磁極部と、を有する界磁コアと、前記ボス部と前記爪状磁極部との間に配置され、通電により起磁力を発生する界磁巻線と、回転周方向に隣接する2つの前記爪状磁極部の間に磁化容易軸が回転周方向に向けられて配置され、前記界磁巻線の起磁力により該2つの前記爪状磁極部に現れる極性と一致するように磁極が形成されている永久磁石と、前記爪状磁極部における前記ボス部に対向する内周側部位に固定され、前記爪状磁極部を内周側から支持する環状の固定部材と、を備え、前記爪状磁極部の外周面の表面積As及び前記ボス部の一対のNS磁極当たりの磁路断面積Abは、0.9<As/Ab<1.7の関係が成立するように設定されており、前記界磁コアは、第1材料と前記第1材料に比べて飽和磁束密度が低い第2材料とにより形成されており、前記爪状磁極部は、前記第1材料により形成され、前記ボス部及び前記ディスク部は、前記第2材料により形成されている、回転電機である。
【0013】
この構成によれば、固定部材が爪状磁極部を内周側から支持しているので、ボス部の磁路断面積Abが従来よりも小さく、爪状磁極部及び永久磁石が及ぼす遠心力に対するボス部の剛性が劣っていても、爪状磁極部が径方向外側に広がる変形を抑えることができる。この状態において、以下の作用が生じてもロータの遠心力による変形を抑止できる。また、爪状磁極部の外周面の表面積As及びボス部の一対のNS磁極当たりの磁路断面積Abは、0.9<As/Ab<1.7の関係が成立するように設定されているため、回転周方向に隣接する爪状磁極部の間に配置された永久磁石により形成される磁石磁気回路のうち、ステータに鎖交する磁束が流れる磁石磁気回路の磁石磁束を増大させることができる。これにより、磁石磁束を有効活用して、発電能力を大幅に向上させることができる。また、従来では隣接する爪状磁極部間の磁束の整流や漏れ防止を目的に使われていた永久磁石を、PM型ロータの永久磁石の如く使用しており、漏れ防止ではなく、純粋な磁束アップ、即ち、トルクアップ源や出力アップ源として扱うことができる。
【0014】
上記した回転電機において、前記ボス部の外径Db及び前記ロータの外径Drは、0.46<Db/Dr<0.53の関係が成立するように設定されている。この構成によれば、ボス部断面積Abが、磁石磁力のボス磁力に対する反作用を最大限に考慮されて決められた範囲であり、その時の磁石磁力による反作用を弾き返せるだけのボス部の磁力が界磁コアに働いている時に、ボス部の総磁力及び磁石の総磁力をステータ側に伝えることができる。
【0015】
本発明は、ステータコアにステータ巻線が巻装されている環状のステータと、前記ステータに対して径方向内側に対向して配置されるロータと、を備える回転電機であって、前記ロータは、回転軸に固定される筒状のボス部と、前記ボス部の軸方向端部から径方向外側に広がるディスク部と、前記ディスク部の径方向先端部から軸方向に延在し、前記ボス部の径方向外側に配置され、回転周方向に交互に異なる極性の磁極が形成される複数の爪状磁極部と、を有する界磁コアと、前記ボス部と前記爪状磁極部との間に配置され、通電により起磁力を発生する界磁巻線と、回転周方向に隣接する2つの前記爪状磁極部の間に磁化容易軸が回転周方向に向けられて配置され、前記界磁巻線の起磁力により該2つの前記爪状磁極部に現れる極性と一致するように磁極が形成されている永久磁石と、前記爪状磁極部における前記ボス部に対向する内周側部位に固定され、前記爪状磁極部を内周側から支持する環状の固定部材と、を備え、前記爪状磁極部の外周面の表面積As及び前記ディスク部の磁路断面積Adは、0.9<As/Ad<1.7の関係が成立するように設定されており、前記界磁コアは、第1材料と前記第1材料に比べて飽和磁束密度が低い第2材料とにより形成されており、前記爪状磁極部は、前記第1材料により形成され、前記ボス部及び前記ディスク部は、前記第2材料により形成されている、回転電機である。
【0016】
この構成によれば、固定部材が爪状磁極部を内周側から支持しているので、ディスク部の磁路断面積Adが従来よりも小さく、爪状磁極部及び永久磁石が及ぼす遠心力に対するディスク部の剛性が劣っていても、爪状磁極部が径方向外側に広がる変形を抑えることができる。この状態において、以下の作用が生じてもロータの遠心力による変形を抑止できる。また、爪状磁極部の外周面の表面積As及びディスク部の磁路断面積Adは、0.9<As/Ad<1.7の関係が成立するように設定されているため、回転周方向に隣接する爪状磁極部の間に配置された永久磁石により形成される磁石磁気回路のうち、ステータに鎖交する磁束が流れる磁石磁気回路の磁石磁束を増大させることができる。これにより、磁石磁束を有効活用して、発電能力を大幅に向上させることができる。また、従来では隣接する爪状磁極部間の磁束の整流や漏れ防止を目的に使われていた永久磁石を、PM型ロータの永久磁石の如く使用しており、漏れ防止ではなく、純粋な磁束アップ、即ち、トルクアップ源や出力アップ源として扱うことができる。
【0017】
上記した回転電機において、前記永久磁石の残留磁束密度が1[T]以上である。この構成によれば、上記した作用効果を一層効果的に発揮させることができる。
【0018】
上記した回転電機において、前記ボス部の一対のNS磁極当たりの磁路断面積Ab、前記ボス部に5000[A/m]の界磁が加えられた際の磁束密度B50、前記永久磁石の残留磁束密度Br、及び前記永久磁石の磁路断面積Amは、2×Br×Am<B50×Abの関係が成立するように設定されている。この構成によれば、永久磁石の発生磁力がd軸磁気回路により吸収されることが可能となるので、逆起電力を下げ、無通電時の高速回転状態における発電電力を抑えることができる。
【0019】
これらの発明の構成によれば、爪状磁極部及びディスク部よりもボス部が早めに磁束飽和し、IPM型ロータの磁束特性の挙動に変化し易くなるので、発電能力の向上をより確実に達成することができる。
【0020】
上記した回転電機において、前記第2材料は、前記第1材料に比べて透磁率が高い材料である。この構成によれば、ロータへの無負荷時において、逆起電力の吸収能力を高めることができる。
【0021】
上記した回転電機において、前記固定部材は、前記爪状磁極部に固定される固定部の外径が回転周方向全域において一致するように円環状に形成されている。この構成によれば、固定部材の形状を簡素化することができると共に、固定部材を爪状磁極部に固定するうえでの作業性を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る回転電機を軸線を含む面で切断した際の断面図である。
図2】本実施形態の回転電機が備えるロータの斜視図である。
図3】本実施形態の回転電機が備えるロータの諸寸法を表した、軸線を含む面で切断したロータの斜視図である。
図4】本実施形態の回転電機が備えるロータ及びステータの諸寸法を表した断面図である。
図5】本実施形態の回転電機が備えるロータの有する固定部材の斜視図である。
図6】本実施形態の回転電機が備えるロータの爪状磁極部の諸寸法を表した側面図である。
図7】本実施形態の回転電機が備えるロータ及びステータの諸寸法を表した断面図である。
図8】本実施形態の回転電機において形成されるd軸磁気回路及びq軸磁気回路を表した図である。
図9】本実施形態の回転電機において形成されるd軸磁気回路の界磁コア側での磁束の流れを表した図である。
図10】本実施形態の回転電機におけるロータの突極比をランデル型ロータ及びIPM型ロータそれぞれの突極比ρと比較した図である。
図11】本実施形態の回転電機において永久磁石により形成される2つの磁石磁気回路を表した図である。
図12】本実施形態の回転電機における、爪状磁極部の表面積Asとボス部の磁路断面積Abとの比(=As/Ab)と、ステータ負荷時の鎖交磁束量との関係を表した図である。
図13】本実施形態の回転電機における、ボス部の外径Dbとロータの外径Drとの比(=Db/Dr)と、ステータ負荷時の鎖交磁束量との関係を表した図である。
図14】本実施形態の回転電機における、爪状磁極部の表面積Asとボス部の磁路断面積Abとの比(=As/Ab)と、ボス部の外径Dbとロータの外径Drとの比(=Db/Dr)との関係を表した図である。
図15】本発明の変形形態に係る回転電機において形成される磁石磁気回路の磁束の流れを表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る回転電機の具体的な実施形態について、図1図15を参照しつつ説明する。
【0026】
本実施形態において、回転電機1は、例えば、車両などに搭載されており、バッテリなどの電源から電力が供給されることで車両を駆動するための駆動力を発生すると共に、車両のエンジンから動力が供給されることでバッテリを充電するための電力を発生する車両用発電電動機である。回転電機1は、図1に示す如く、ハウジング10と、ステータ20と、ロータ30と、界磁巻線給電装置40と、整流装置50と、を備えている。
【0027】
ハウジング10は、フロントハウジング11と、リアハウジング12と、を有している。フロントハウジング11及びリアハウジング12はそれぞれ、一端が開口した有底円筒状に形成されている。フロントハウジング11及びリアハウジング12は、開口部同士が接合された状態でボルト13により締結されている。
【0028】
ステータ20は、ステータコア21と、ステータ巻線22と、を有している。ステータコア21は、円環状に形成されている。ステータコア21は、ティース23と、スロット24と、を有している。ティース23は、円環部の径方向内面から径方向内側に向けて延びており、回転周回りに複数配置されている。スロット24は、回転周方向に隣接する2つのティース23の間に設けられた孔部である。ステータコア21は、フロントハウジング11及びリアハウジング12により軸方向に挟持されつつその内周壁面に固定されている。
【0029】
ステータ巻線22は、ステータコア21(具体的には、そのティース23)に巻装されている。ステータ巻線22は、ステータコア21のスロット24に収容される直線状のスロット収容部と、ステータコア21の軸方向端から軸方向外側に突出する湾曲状のコイルエンド部と、を有している。ステータ巻線22は、回転電機1の相数に対応した数だけ設けられた多相巻線(例えば三相の相巻線)である。ステータ巻線22の各相巻線はそれぞれ、インバータ装置に接続されている。各相巻線に印加される電圧は、インバータ装置内のスイッチング素子がスイッチング駆動されることにより制御される。
【0030】
ロータ30は、ステータ20(具体的には、ティース23の先端)に対して径方向内側に対向して配置されている。ロータ30とステータ20との間には、所定の空隙が空けられている。ロータ30は、ステータ20の径方向内側において回転可能に設けられている。
【0031】
ロータ30は、いわゆるランデル型回転子である。ロータ30は、回転軸31と、界磁コア32と、界磁巻線33と、永久磁石34と、リング部材35と、を有している。回転軸31は、ハウジング10に一対の軸受14,15を介して回転可能に支持されている。ロータ30は、回転軸31に締め付け固定されたプーリ36を介して、車両のエンジンにより回転駆動される。界磁巻線33は、界磁コア32のボス部321の外周側に巻装されている。
【0032】
界磁コア32は、軸方向に2分割された一対のポールコア32a,32bよりなるランデル型の界磁コアである。以下、一対のポールコア32a,32bを第1ポールコア32a及び第2ポールコア32bと称す。第1ポールコア32a及び第2ポールコア32bはそれぞれ、軟磁性体からなり、例えば鍛造成形される。第1ポールコア32a及び第2ポールコア32bは、互いに同一形状をなしている。第1ポールコア32aは、回転軸31の一端側(図1における左側)に固定されている。第2ポールコア32bは、回転軸31の他端側(図1における右側)に固定されている。
【0033】
第1ポールコア32aは、第1ボス部321aと、第1ディスク部322aと、第1爪状磁極部323aと、を有している。第2ポールコア32bは、第2ボス部321bと、第2ディスク部322bと、第2爪状磁極部323bと、を有している。第1ボス部321a及び第2ボス部321bは、回転軸31が挿入可能なシャフト孔が開いた円筒状の部材であって、回転軸31の外周側に嵌合固定される部位である。第1ボス部321a及び第2ボス部321bには、界磁束が界磁巻線33の径方向内側にて軸方向に流れる。
【0034】
第1ディスク部322aは、第1ボス部321aの軸方向一端部から径方向外側に広がる円盤状の部位であって、回転周方向の所定角度ピッチで径方向外側へ延在する部位である。第2ディスク部322bは、第2ボス部321bの軸方向他端部から径方向外側に広がる円盤状の部位であって、回転周方向の所定角度ピッチで径方向外側へ延在する部位である。第1ディスク部322a及び第2ディスク部322bには、界磁束が径方向に流れる。
【0035】
第1爪状磁極部323aは、第1ディスク部322aの径方向先端部から軸方向他端側に延在し、第1ボス部321aの径方向外側に配置される部位である。第2爪状磁極部323bは、第2ディスク部322bの径方向先端部から軸方向一端側に延在し、第2ボス部321bの径方向外側に配置される部位である。第1爪状磁極部323a及び第2爪状磁極部323bは、界磁巻線33の径方向外側において軸方向に延在するように配置されている。第1爪状磁極部323a及び第2爪状磁極部323bは、ステータコア21との間で磁束を授受することが可能である。
【0036】
第1爪状磁極部323a及び第2爪状磁極部323bは、ロータ30の回転周方向において複数の同じ数(例えば、8個)ずつ設けられている。第1ポールコア32aと第2ポールコア32bとは、第1爪状磁極部323aと第2爪状磁極部323bとが互い違いに向かい合うように軸方向端面同士が接した状態に組み付けられる。第1爪状磁極部323aと第2爪状磁極部323bとは、図2及び図3に示す如く、回転周方向に隙間空間37を空けて交互に配置されている。第1爪状磁極部323aと第2爪状磁極部323bとは、ディスク部322a,322bに連接する軸方向根元側(又は軸方向先端側)が互いに軸方向逆側となるように回転周方向に交互に配置されている。第1爪状磁極部323a及び第2爪状磁極部323bには、互いに異なる極性(具体的には、N極及びS極)の磁極が形成される。
【0037】
各爪状磁極部323a,323bは、回転周方向において所定の幅(すなわち、周方向幅)を有すると共に、径方向において所定の厚さ(すなわち、径方向厚さ)を有するように形成されている。各爪状磁極部323a,323bは、ディスク部322a,322bとの連接部近傍の根元側から軸方向先端側にかけて、周方向幅が徐々に小さくなりかつ径方向厚さが徐々に小さくなるように形成されている。すなわち、各爪状磁極部323a,323bは、軸方向先端側ほど回転周方向及び径方向の双方において細くなるように形成されている。尚、各爪状磁極部323a,323bは、回転周方向にその周方向中心を挟んで左右対称となるように形成されていることが好ましい。
【0038】
以下、図3に示す如く、界磁コア32のボス部321a,321bの外径をボス部外径Dbとし、かつ、ロータ30(すなわち、爪状磁極部323a,323b)の外径をロータ外径Drとする。これらのボス部外径Db及びロータ外径Drは、次式(1)の関係が成立するように設定されている。
0.46<Db/Dr<0.53 ・・・(1)
【0039】
また、図4に示す如く、爪状磁極部323a,323bの表面積(すなわち、径方向外側に向いた面の面積)を爪状磁極部表面積As[mm]とし、ボス部321a,321bの一対のNS磁極当たりの磁路断面積(すなわち、軸方向に延びるボス部321a,321bをその軸方向に対して垂直な面で切断した際に現れる面の面積)をボス部断面積Ab[mm]とし、かつ、ディスク部322a,322bの磁路断面積(すなわち、径方向に延びるディスク部322a,322bをその延在方向に対して垂直な面で切断した際に現れる面の面積)をディスク部断面積Ad[mm]とする。爪状磁極部表面積As及びボス部断面積Abは、次式(2)の関係が成立するように設定されている。また、爪状磁極部表面積As及びディスク部断面積Adは、次式(3)の関係が成立するように設定されている。尚、ボス部断面積Abは、ボス部321a,321bの総断面積をAとしかつ回転電機1の極対数をPとしたとき、A/Pで表される。
0.9<As/Ab<1.7 ・・・(2)
0.9<As/Ad<1.7 ・・・(3)
【0040】
ここで、爪状磁極部表面積Asについて定義する。図6及び図7に示す如く、爪状磁極部323a,323bの根元乃至ディスク部322a,322bの周方向幅を周方向幅Wrrとし、爪状磁極部323a,323bの軸方向先端の周方向幅を周方向幅Wteとし、かつ、爪状磁極部323a,323bの軸方向高さを軸方向高さHtとする。また、ロータ30とステータ20との径方向における対向面において、ステータコア21の軸長とディスク部322a,322bの軸方向厚みとが径方向において重なっている範囲をディスクガイドHdgとする。尚、ディスク部322a,322b、爪状磁極部323a,323b、ステータコア21などに設けられた磁石挿入や強度補強などを目的とした設計上の切り欠き部やR部,面取り部では、大きな差異は生じていない。この場合、爪状磁極部表面積Asは、次式(4)で表される。尚、周方向幅Wは、本実施形態では曲率を考慮せず、直線距離で測るものとする。
As=(Wte+Wrr)×Ht/2+Hdg×Wrr ・・・(4)
【0041】
上記した隙間空間37は、互いに回転周方向に隣接する第1爪状磁極部323aと第2爪状磁極部323bとの間ごとに設けられている。隙間空間37は、軸方向斜めに延在しており、ロータ30の回転軸31に対して軸方向端部から反対側の軸方向端部にかけて所定角度で傾斜している。各隙間空間37は、その回転周方向の大きさ(すなわち、寸法)が軸方向位置に応じて変化することがほとんど無いように、すなわち、その周方向寸法が一定若しくはその一定値を含む極僅かな範囲内に維持されるように設定されている。各隙間空間37には、永久磁石34が配置される。
【0042】
界磁コア32は、飽和磁束密度の異なる2種類の材料により形成されている。界磁コア32のうち爪状磁極部323a,323bは、第1材料により形成されている。界磁コア32のうち爪状磁極部323a,323b以外のボス部321a,321b及びディスク部322a,322bは、上記の第1材料に比べて飽和磁束密度が低い第2材料により形成されている。
【0043】
第1材料としては、例えばS10Cなどの炭素量0.1%程度のものが挙げられる。また、第2材料としては、例えばS45Cなどの炭素量が比較的多いものが挙げられる。尚、SUS430や電磁鋼板なども、S10Cに比べて飽和磁束密度の低いものである。また、第2材料は、第1材料に比べて透磁率が高い材料である。透磁率が高い材料としては、例えばパーマロイやニッケルコバルトを添加した鉄などが挙げられるが、第2材料としてはパーマロイが最適である。
【0044】
界磁巻線33は、ポールコア32a,32bのボス部321a,321bの外周側に界磁コア32と絶縁された状態で巻装されている。界磁巻線33は、第1ポールコア32aの第1ボス部321aと第1爪状磁極部323aとの径方向に空いた隙間及び第2ポールコア32bの第2ボス部321bと第2爪状磁極部323bとの径方向に空いた隙間に配置されている。界磁巻線33は、直流の界磁電流の通電によりボス部321a,321bに起磁力を発生させるコイル部材である。界磁巻線33により発生した磁束は、ボス部321a,321bからディスク部322a,322bを介して爪状磁極部323a,323bに導かれる。界磁巻線33は、発生磁束により第1爪状磁極部323aをN極に磁化させかつ第2爪状磁極部323bをS極に磁化させる。
【0045】
界磁コア32のボス部321a,321b、ディスク部322a,322b、及び一対の第1及び第2爪状磁極部323a,323bを通る磁束は、d軸磁気回路60を形成する。このd軸磁気回路60は、図8及び図9に破線で示す如く、磁束が、ステータコア21のd軸のティース23から界磁コア32の第1爪状磁極部323aに入り、第1ディスク部322a→第1ボス部321a→第2ボス部321b→第2ディスク部322b→第2爪状磁極部323bを経由して、ステータコア21の1磁極分ずれた位置にあるティース23からステータコア21に戻った後、バックコア25を通り1磁極分ずれた位置にあるd軸のティース23に至る磁気回路である。このd軸磁気回路60は、ロータ30の逆起電力を生む磁気回路である。
【0046】
また、d軸磁気回路60及び後述の第1磁石磁気回路62のステータ20に鎖交する磁束によりステータ巻線22に電流が流れることによって、q軸磁気回路61が形成される。q軸磁気回路61は、図8に実線で示す如く、ステータコア21のd軸から電気角で90°ずれた位置にあるq軸を通る磁束により形成される磁気回路である。d軸磁気回路60のパーミアンスPrt及びq軸磁気回路61のパーミアンスPstは、ロータ30に負荷が掛けられた時に次式(5)の関係が成立するように設定されている。尚、パーミアンスPrt,Pstは、磁気抵抗の逆数のことである。
Pst>Prt ・・・(5)
【0047】
ここで、ロータ30に負荷が掛けられた時とは、定格電流として界磁巻線33に通電される界磁電流Ifが、車両用ブラシの能力として一般的であるIf=4[A]〜20[A]の間にある状態のことをいう。尚、ブラシの進歩があればその時の界磁電流Ifが例えば30[A]でもよいし、ブラシレスのように界磁電流Ifに制限のない構成であれば界磁電流Ifがこの範囲より大きいものでもよく、Pst>Prtの関係が成立すればよい。また、現状のブラシでも、Pst>Prtの関係を成立させるという意味では、ボス部外径Db及びロータ外径Drが上記(1)式の関係を満たすこと、及び、爪状磁極部表面積As、ボス部断面積Ab、及びディスク部断面積Adが上記(2)式又は(3)式の関係を満たすことの効果は大変に大きい。
【0048】
また、d軸磁気回路60のパーミアンスPrt及びq軸磁気回路61のパーミアンスPstは、次式(6)の関係が成立するように設定されている。但し、nは1以上の実数である。
Pst:Prt=2n:1 ・・・(6)
【0049】
ここで、q軸インダクタンスLqとd軸インダクタンスLdとの比(=Lq/Ld)を突極比ρとすると、図10に示す如く、従来技術のランデル型ロータの突極比ρは略“1”であり(ρ≒1)、従来技術のIPM型ロータの突極比ρの値は略“2”〜“4”である(ρ≒2〜4)。本実施形態においては、d軸磁気回路60のパーミアンスPrt及びq軸磁気回路61のパーミアンスPstが上記(6)式の関係を満たすように設定されていることにより、ランデル型ロータにおいても、IPM型ロータの態様に近づけることができ、ロータ30への負荷時に突極比ρの値を“2”以上にすることができる。
【0050】
図2図3、及び図9に示す如く、永久磁石34は、第1爪状磁極部323aと第2爪状磁極部323bとの間の隙間空間37ごとに一つずつ配置されており、隙間空間37の数と同数だけ設けられている。各永久磁石34は、概ね直方体形状に形成されている。各永久磁石34は、軸方向斜めに傾斜して延在するように配置されており、ロータ30の回転軸31に対して軸方向端部から反対側の軸方向端部にかけて所定角度で傾斜している。
【0051】
永久磁石34は、爪状磁極部323a,323bの間の漏れ磁束を減少させる向きの磁極が形成されるように配置されている。各永久磁石34は、磁化容易軸が回転周方向(より具体的には、永久磁石34の回転軸31に対する傾斜分だけ回転周方向に対して傾斜した方向)に向けられて配置されている。各永久磁石34は、回転周方向両側それぞれの磁極部が第1及び第2爪状磁極部323a,323bの周方向側面に対向した状態或いは当接した状態に保持されている。各永久磁石34は、界磁巻線33の起磁力によって第1及び第2爪状磁極部323a,323bに現れる極性と一致するように磁極が形成されている磁石である。すなわち、各永久磁石34は、N極に磁化される第1爪状磁極部323aに対向する回転周方向の面の磁極がN極となり、かつ、S極に磁化される第2爪状磁極部323bに対向する回転周方向の面の磁極がS極となるように配置形成されている。
【0052】
このように永久磁石34が配置形成されることにより、各永久磁石34それぞれにおいて2つの磁石磁気回路62,63が形成される。第1磁石磁気回路62は、図11に一点鎖線で示す如く、磁石磁束のうちステータ20に鎖交する磁束が流れる磁気回路である。第2磁石磁気回路63は、図11に二重線で示す如く、磁石磁束のうちボス部321a,321bやディスク部322a,322bを通りロータ30内で完結する磁束が流れる磁気回路である。これらの磁石磁束から見れば、ボス部321a,321bを通る第2磁石磁気回路63は、ステータ20にとって無効となる磁石磁束が流れる磁気回路である。これに対して、第1磁石磁気回路62は、ステータ20に鎖交して逆起電力やトルクになる磁石磁束が流れる磁気回路である。
【0053】
第1磁石磁気回路62とd軸磁気回路60とは、少なくとも一部で互いに共通した共通回路部を有している。具体的には、第2爪状磁極部323bからステータ20を経由して第1爪状磁極部323aに至るまでの磁気回路は、第1磁石磁気回路62とd軸磁気回路60とで共有されている。第2磁石磁気回路63とd軸磁気回路60とは、少なくとも一部で互いに共通した共通回路部を有している。具体的には、ロータ30のボス部321a,321b及びディスク部322a,322bにおける磁気回路は、第2磁石磁気回路63とd軸磁気回路60とで共有されている。
【0054】
尚、ボス部321a,321bの一対のNS磁極当たりの磁路断面積をボス部断面積Abとし、ボス部321a,321bに5000[A/m]の界磁が加えられた際の磁束密度を磁束密度B50[T]とし、爪状磁極部323a,323bの間に配置された永久磁石34の残留磁束密度を残留磁束密度Br[T]とし、永久磁石34の磁極となる面の磁路断面積を永久磁石断面積Am[mm]とする。これらのボス部断面積Ab、磁束密度B50、残留磁束密度Br、及び永久磁石断面積Amは、次式(7)の関係が成立するように設定されている。
2×Br×Am<B50×Ab ・・・(7)
【0055】
また、ロータ30において、リング部材35は、図3図4、及び図5に示す如く、環状に形成された部材であって、ロータ30の有するすべての爪状磁極部323a,323bに固定される固定部材である。リング部材35は、各爪状磁極部323a,323bにおけるボス部321a,321bに対向する内周側部位(すなわち、径方向においてステータ20側とは反対側の裏面部位)に固定されている。
【0056】
尚、爪状磁極部323a,323bへのリング部材35の固定は、例えば溶接やろう付けによる嵌着により実現されるものであってよい。また、各爪状磁極部323a,323bは、ディスク部322a,322bとの連接部近傍の根元側から軸方向先端側にかけて径方向厚さが徐々に小さくなるように形成されている。そこで、上記したリング部材35の固定は、第1爪状磁極部323aの内径と第2爪状磁極部323bの内径とが一致する軸方向部位(例えば、第1及び第2爪状磁極部323a,323bの軸方向中央部)にてリング部材35が固定されるものであってよい。この場合、リング部材35は、図5に示す如く、第1爪状磁極部323aに固定される固定部と第2爪状磁極部323bに固定される固定部とが同じ外径を有するように、すなわち、爪状磁極部323に固定される固定部の外径が回転周方向全域において一致するように、円環状に形成されている。
【0057】
尚、上記したリング部材35の固定は、第1爪状磁極部323aの内径と第2爪状磁極部323bの内径とが一致する軸方向部位にて固定されるものに代えて、それらの爪状磁極部323a,323bの内径が一致する軸方向部位から何れかの軸方向にずれた部位にて固定されるものであってもよい。この場合、リング部材35は、第1爪状磁極部323aの内径及び第2爪状磁極部323bの内径に合わせて外径が回転周方向において周期的に変化するように環状に形成されるものとなる。
【0058】
リング部材35は、非磁性材料(例えば、オーステナイト系のステンレス鋼や黄銅など)により形成されている。リング部材35は、すべての爪状磁極部323a,323bを内周側から支持している。リング部材35は、ロータ30の回転時に生じる遠心力などによって界磁コア32の爪状磁極部323a,323bが径方向外側に向けて移動する変形を抑える機能を有している。
【0059】
界磁巻線給電装置40は、界磁巻線33に給電するための装置である。界磁巻線給電装置40は、スリップリング41と、ブラシ42と、レギュレータ43と、を有している。スリップリング41は、回転軸31の軸方向一端(図1における右側端)に嵌合固定されている。スリップリング41は、ロータ30の界磁巻線33に直流電流を供給するための機能を有している。ブラシ42は、2個一対設けられており、ハウジング10に取り付け固定されたブラシホルダに保持されている。スリップリング41は、ブラシ42に対応して2個一対設けられている。
【0060】
一対のブラシ42はそれぞれ、その径方向内側の先端が回転軸31側に押圧された状態でスリップリング41の表面に摺動するように配置されている。一対のブラシ42はそれぞれ、スリップリング41を介して界磁巻線33に直流電流を流す給電を行う。レギュレータ43は、界磁巻線33に流す界磁電流Ifを制御することによって回転電機1の出力電圧を調整する装置である。
【0061】
整流装置50は、ステータ20のステータ巻線22に電気的に接続されている。整流装置50は、ステータ巻線22で生じた交流電流を直流電流に整流して出力する装置である。整流装置50は、複数のダイオード(すなわち、整流素子)などにより構成されている。
【0062】
このような構成を有する回転電機1においては、車両のエンジンからベルトなどを介してプーリ36に回転トルクが付与されると、回転軸31の回転によりロータ30が所定方向に回転する。この状態で界磁巻線給電装置40のブラシ42からスリップリング41を介してロータ30の界磁巻線33に励磁電圧が印加されると、ポールコア32a,32bの爪状磁極部323a,323bが励磁されて、ロータ30の回転周方向に沿って交互にNS磁極が形成される。
【0063】
爪状磁極部323a,323bにNS磁極が形成されると、ステータ20のステータ巻線22に回転磁界が付与されることで、ステータ巻線22に交流の起電力が発生する。ステータ巻線22で発生した交流起電力は、整流装置50を通って直流に整流された後、出力端子から取り出されてバッテリに供給される。従って、回転電機1を、ステータ巻線22の起電力発生によりバッテリを充電させる発電機として機能させることができる。
【0064】
(2×Br[T]×Am[mm]<B50[T]×Ab[mm]の関係の設定について)
回転電機1は、12V〜48V(尚、公差を含めた場合は6V〜60V)の電源に接続される、オルタネータやスタータ等と置き換え可能な車両用発電電動機を対象とする。このため、逆起電力をIPM型ロータのように大きくすることはできない。通例、ロータ径が70mm〜120mm程度でありかつロータ軸長が30mm〜80mm程度である製品群においては、IPMロータで構成した場合に200V〜300Vの逆起電力を発生させる。しかし、この構成では、12V〜48Vのバッテリの過充電や、過充電を下げても高電圧による他の電気部品への影響が懸念されるため、十分にこの逆起電力を下げることができない。
【0065】
そこで、この課題を解決すべく、2×Br[T]×Am[mm]<Bs[T]×Ab[mm]の関係を満たすようにした。このように設計することで、永久磁石34で発生する磁束量(=2×Br×Am)に対し、許容磁束量である(Bs×Ab)を大きくするので、その永久磁石34で発生するほぼ全磁束量をボス部321で吸収することができる。Bs[T]は、界磁コア32の飽和磁束密度である。ここで、比透磁率が十分に高くなければ十分に残留磁束密度Br[T]を吸収することができない。尚、界磁コア32の飽和磁束密度Bs[T]を採用したが、ここでは一般によく使われるB50[T]の値で考えることにする。
【0066】
一般に、12V〜48Vの製品で界磁コア32に掛けられる起磁力は2500[AT]以下である。すなわち、2500[AT]が永久磁石34に印加される反磁界強度となるためには、その2倍程度の反磁界耐性が必要とされる。つまり、永久磁石34の厚み及び保持力Hcは5000A程度以上に安全率をもって設計されることが望ましい。残留磁束密度Br及び保持力Hcは、使用される温度に応じて多少変化するので、使用が想定される−40℃〜+160℃の温度範囲に5000[A]での範囲が存在することが必要である。ここで、5000[A]程度で設計される永久磁石34と、ボス部321が5000[AT]での磁束密度であるB50の値で規定された本実施形態の設計事例では、2×Br[T]×Am[mm]<Bs[T]×Ab[mm]の関係を満足させることが可能なのである。また、界磁電流を弱めた際のボス部321の比透磁率は30以上であり十分に高い。
【0067】
(爪状磁極部表面積Asとボス部断面積Abとの関係、及び、ボス部外径Dbとロータ外径Drとの関係について)
磁石磁束を有効に使用できる範囲について検討する。上記特許文献1記載の関係式の規定においては、条件が部分的であるため、例えば、界磁コア32のボス部321などの大きさが変化したときに、当該関係式が成立しなくなることが懸念される。そのため、ロータ全体として検討を行うものとする。
【0068】
ステータとロータとの対向面と異なる箇所(具体的には、ボス部)で磁束を生み出し、その磁束を軸方向に流すことによりステータの軸長を使い切ることができるクローポール型の回転電機では、図4に示す如く、ボス部断面積Ab、ディスク部断面積Ad、爪状磁極部323の根元側の断面積(以下、爪状磁極部断面積と称す。)Atを概ね一定として、磁束を出力している。尚、ボス部321からディスク部322にかけて段付き部が形成されて部分的に断面積が小さくなっている場合には、その断面積が小さくなっている部分をボス部断面積Ab又はディスク部断面積Adとして扱う。この段付き部を設けることによって、許容磁束量を変化させることができる。また、各クロー(すなわち、爪状磁極部)は、ボス部321の外周側に巻装された界磁巻線33(但し、図4には不図示)への通電によりボス部321に発生する界磁磁束を通せるだけ、すなわち、ボス部断面積Abに準じた適量のステータ20との対向面面積を所持している。
【0069】
図4に示す如く、ディスク部322がステータ20に掛かっている場合、すなわち、ディスク部322とステータ20とが軸方向でオーバーラップする部分を有する場合は、そのオーバーラップ分だけボス部断面積Abよりも爪状磁極部表面積Asを減らすことができる。すなわち、Ab≒Ad≒As、又は、As≒Ab−(Tst−Tb)/2×Wが理想値と計算できる。ここで、永久磁石34を搭載したロータにおいては、磁力源が増えているので、別の解が存在する筈である。
【0070】
永久磁石34及び界磁回路を搭載したロータ30においては、磁石磁束は、界磁磁束(すなわち、d軸磁気回路60)に逆らってロータ30内を通るルート(図11における第2磁石磁気回路63)と、ステータ20を通るルート(図11における第1磁石磁気回路62)と、の2方向に分流する。すなわち、図4に示すボス部断面積Ab、ディスク部断面積Ad、及び爪状磁極部断面積Atは、従来技術よりも小さくできる筈である。同時に、起電圧を考慮すれば、2×Br×Am≦B50×Abの関係を満たしつつ考慮する必要がある。また、この時、ボス部外径Dbが小さくなるため、界磁巻線33の配置スペースが大きくなり、発熱量は小さくなる筈である。
【0071】
ここで、ロータ外径Drが決まれば、極数が変わっても爪状磁極部323の幅Wとボス部321の1極当たりの幅との比はほとんど変化しないので、ロータ外径Drとボス部外径Dbとの比は一義的に決まってくる筈である。逆流する磁石磁束及び界磁磁束に基づいてボス部外径Dbを計算することができる。この際、発熱を抑えるため、現状の空冷能力を考慮し、界磁巻線33の抵抗値を、モータであれば0.1Ω〜1.0Ωとし、発電機であれば1.0Ω〜3.0Ωとすることは言うまでもない。尚、Ab_optは、ボス部断面積Abの理想値である。
B50×Ab−2×Bd×Am×(Prt/(Pst+Prt))=Ab_opt
【0072】
また、現状技術の時点で、爪状磁極部表面積Asは、界磁磁束を十分に流し得る値となっている。ここで、従来技術での永久磁石は、爪状磁極部間の漏洩磁束を防ぐ役割を主に担っていた。そのため、流通しているネオジム磁石付きランデル型回転電機の爪状磁極部表面積Asは、ボス部断面積Abに準じた値、すなわち、As=Ab×0.8〜1.2のAbを基準とした範疇に分布している。
【0073】
これに対して、本実施形態においては、Bd×(Pst/(Pst+Prt))を有効に使えるわけであるので、ステータ20との磁束受け渡しを司る爪状磁極部323の爪状磁極部表面積Asは、Ab×Bsに2×Am=Ab×B50÷Brだけの磁石を持つので、[As=Bd×Am+Ab×Bs]が最適値となるはずのロータ30の磁束をステータ20に渡すための寸法が必要であり、Ab×1.2よりも大きい筈である。
【0074】
以下、B50×Ab=2×Br×Amとして検討を進める。これは、界磁回路が磁石磁束を封じることのできる寸法に設計されているということになる。この状態で、爪状磁極部表面積Asとボス部断面積Abとの比(=As/Ab)と、ステータ20の負荷時の鎖交磁束量との関係は、図12に示す如きものとなる。このように、鎖交磁束量は、As/Abが概ね1.0〜1.5の範囲内にあるときにピークとなるので、As/Ab=0.9〜1.7の範囲が好ましい範囲と言える。尚、従来技術(特許文献1)のAs/Abの範囲は、0.4〜0.8程度であり、本実施形態のAs/Abの好ましい範囲と重複することなく乖離している。
【0075】
ここで、As/Ab=1.4として検討を進める。また、界磁磁束量及び抑えられる磁石磁束量とが適切であり、IPM型ロータ並みの磁石利用ができることを前提として検討を進める。この時、如何なるボス部外径Dbが最適であるかを計算する。ボス部外径Dbとロータ外径Drとの比(=Db/Dr)と、ステータ20の負荷時の鎖交磁束量との関係は、図13に示す如きものとなる。このように、鎖交磁束量は、Db/Drが0.51付近にあるときにピークとなるので、Db/Dr=0.46〜0.53の範囲が好ましい範囲と言える。尚、従来技術(特許文献1)のDb/Drの範囲は、0.54〜0.595程度であり、本実施形態のDb/Drの好ましい範囲と重複することなく乖離している。
【0076】
尚、爪状磁極部表面積Asとボス部断面積Abとの比(=As/Ab)と、ボス部外径Dbとロータ外径Drとの比(=Db/Dr)との関係は、図14に示す如きものとなる。このように、本実施形態の範囲と従来技術の範囲とは、重複することなく乖離している。
【0077】
本検討では、B50×Ab=2×Br×Amの値が大きい場合により大きな効果を発揮するため、Br=1.2[T]程度の磁石を想定している。最大の効果を発揮する材料は、Br=0.4[T]程度のFe磁石ではなく、Br=1[T]以上のネオジム磁石であることは明らかである。更に、ボス部断面積Abが小さくなっているため、小さくなった分のスペースを界磁巻線33の抵抗を下げるために使うことができるので、界磁巻線33の発熱量を従来よりも低減することができる。
【0078】
(作用及び効果)
本実施形態の回転電機1では、回転周方向に隣接する爪状磁極部323の間に配置された永久磁石34の磁力により、ステータ20に鎖交する磁束が流れる第1磁石磁気回路62と、ボス部321を通りロータ30内で完結する磁束が流れる第2磁石磁気回路63との2つの磁石磁気回路が形成される。そして、ロータ30に負荷が掛けられた時、すなわち、界磁巻線33に界磁電流Ifが通電された時に、界磁巻線33の起磁力により形成される磁束が界磁コア32のボス部321、一対の爪状磁極部323及びステータコア21を経由して流れるd軸磁気回路60が形成される。このとき、2つの磁石磁気回路62,63のうちの第2磁石磁気回路63を流れる磁石磁束は、d軸磁気回路60の磁束と逆方向に流れているので、抵抗が大きく流れ難い状態となる。
【0079】
本実施形態では、d軸磁気回路60のパーミアンスPrt及びq軸磁気回路61のパーミアンスPstは、Pst>Prtの関係が成立するように設定されている。すなわち、d軸磁気回路60のパーミアンスPrtは、q軸磁気回路61のパーミアンスPstに比べて小さい。このため、2つの磁石磁気回路62,63のうちステータ20に鎖交する磁束が流れる第1磁石磁気回路62の磁石磁束が増大する。これにより、磁石磁束を有効活用して、発電能力を大幅に向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態では、ロータ30の有する各爪状磁極部323におけるボス部321に対向する内周側部位に環状のリング部材35が固定されている。このリング部材35は、すべての爪状磁極部323を内周側から支持している。このため、リング部材35により、ロータ30の回転時に生じる遠心力などによって界磁コア32の爪状磁極部323が径方向外側に向けて移動する変形を抑えることができる。従って、リング部材35の存在により、爪状磁極部323の変形を抑えるうえで、ボス部321やディスク部322による爪状磁極部323を支持する剛性を低くすることが可能である。すなわち、爪状磁極部323及び永久磁石34の遠心力に対する耐性を向上させることができるので、ボス部321やディスク部322による爪状磁極部323の支持剛性が低下しても性能低下が生じるのを回避することができ、ボス部321やディスク部322による支持剛性の増強に伴うロータ30ひいては回転電機1の大型化を回避することができる。
【0081】
また、本実施形態では、ボス部321の一対のNS磁極当たりのボス部断面積Ab、ボス部321に5000[A/m]の界磁が加えられた際の磁束密度B50、永久磁石34の残留磁束密度Br、及び永久磁石34の磁極となる面の磁路断面積Amは、2×Br[T]×Am[mm]<B50[T]×Ab[mm]の関係が成立するように設定されている。これにより、永久磁石34の発生磁力がd軸磁気回路60により吸収されることが可能となる。即ち、逆起電力を下げ、無通電時の高速回転状態における発電電力を抑えることができる。
【0082】
また、本実施形態では、d軸磁気回路60のパーミアンスPrt及びq軸磁気回路61のパーミアンスPstは、Pst:Prt=2n(nは1以上の実数):1の関係が成立するように設定されている。そのため、ランデル型ロータであるロータ30への負荷時の態様をIPM型ロータの態様に近付けることができ、q軸インダクタンスLqとd軸インダクタンスLdとの比(=Lq/Ld)である突極比ρを2以上にできる。これにより、ランデル型ロータであっても、IPM型ロータ並のリラクタンストルクを出すことが可能となる。
【0083】
また、本実施形態では、爪状磁極部表面積As及びボス部断面積Abが、0.9<As/Ab<1.7の関係が成立するように設定されている。また、爪状磁極部表面積As及びディスク部断面積Adは、0.9<As/Ad<1.7の関係が成立するように設定されている。これにより、従来では隣接する爪状磁極部323間の磁束の整流や漏れ防止を目的に使われていた永久磁石34を、本実施形態では、IPM型ロータの永久磁石の如く使用しており、漏れ防止ではなく、純粋な磁束アップ、即ち、トルクアップ源や出力アップ源として扱うことができる。
【0084】
また、本実施形態では、ボス部外径Db及びロータ外径Drは、0.46<Db/Dr<0.53の関係が成立するように設定されている。即ち、ボス部断面積Abが、磁石磁力のボス磁力に対する反作用を最大限に考慮されて決められた範囲であり、その時の磁石磁力による反作用を弾き返せるだけのボス部321の磁力が界磁コア32に働いている時に、ボス部321の総磁力及び磁石の総磁力をステータ20側に伝えることができる。
【0085】
また、本実施形態では、永久磁石34の残留磁束密度Brが1[T]以上とされている。磁石磁力が、ネオジウム鉄ボロンのボンド磁石、サマリウム鉄窒素の射出成型によるプラスチック成型磁石などによる場合には、界磁コア32への反磁界を十分に供給しきれない場合が多い。つまり、体格不変で設計する場合、磁石の断面積を拡大すると界磁巻線33のスペースを確保できなくなる場合が多い。そのため、上記の作用及び効果は、特に、永久磁石34の残留磁束密度Brが1[T]以上である場合に効果的に発揮される。もちろん、機器を大型化すれば問題は容易に解決されるが、搭載困難性が増して競争力が低下してしまう。
【0086】
また、本実施形態では、界磁コア32のd軸磁気回路60が形成される部位は、飽和磁束密度Bsの異なる2種類の材料で形成されており、爪状磁極部323が飽和磁束密度Bsの比較的高い材料で形成され、爪状磁極部323以外のボス部321及びディスク部322が飽和磁束密度Bsの比較的低い材料で形成されている。そのため、ボス部321がすぐに磁束飽和してIPM型ロータの磁束特性の挙動に変化し易いので、発電能力の向上をより確実に達成することができる。
【0087】
また、本実施形態では、爪状磁極部323以外のボス部321及びディスク部322で用いられている飽和磁束密度Bsの低い材料は、爪状磁極部323で用いられている飽和磁束密度Bsの高い材料よりも透磁率が高いものである。このため、ロータ30への無負荷時において、逆起電力の吸収能力を高めることができる。
【0088】
(他の実施形態)
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【0089】
例えば、上記の実施形態では、爪状磁極部表面積As及びボス部断面積Abは、0.9<As/Ab<1.7の関係が成立するように設定されていると共に、爪状磁極部表面積As及びディスク部断面積Adは、0.9<As/Ad<1.7の関係が成立するように設定されている。しかし、何れか一方のみの関係が成立するものであってよい。
【0090】
また、上記の実施形態では、d軸磁気回路60と第1磁石磁気回路62とが一部で共有されていると共に、d軸磁気回路60と第2磁石磁気回路63とが一部で共有されている。しかし、d軸磁気回路60上に永久磁石34を埋め込んだり設置したりすることによって、d軸磁気回路60と第1磁石磁気回路62とが全部で共有されるようにしてもよいし、d軸磁気回路60と第2磁石磁気回路63とが全部で共有されるようにしてもよい。例えば、図15に示す如く、d軸磁気回路60が形成される界磁コア32のボス部321の外周部に、軸方向両端部に磁極を有する円筒状の永久磁石34Aが同軸状に装着されてもよい。この構造によれば、d軸磁気回路60(図8及び図9参照)と第1磁石磁気回路62Aとが全部で共有されるようになる。なお、ボス部321の一対のNS磁極当たりの磁路断面積Abは、ボス部321の永久磁石34Aが装着された部位の磁路の総断面積をAとし、回転電機の極対数をPとしたときに、A/Pで表される。
【0091】
また、d軸磁気回路60が形成される界磁コア32のディスク部322a,322bに永久磁石を埋め込んだり設置したりすることとしてもよい。この構造では、ディスク部322a,322bの断面積は、ディスク部322a,322bの永久磁石を設けた部位(ディスク部鉄心部分)の断面積とする。
【0092】
また、上記の実施形態では、回転電機1を車両用発電電動機に適用した例を説明した。しかし、回転電機1は、車両に搭載される回転電機としての発電機、電動機、又は発電機と電動機を選択的に使用し得る回転電機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1:回転電機、10:ハウジング、20:ステータ、21:ステータコア、22:ステータ巻線、30:ロータ、31:回転軸、32:界磁コア、32a,32b:ポールコア、33:界磁巻線、34:永久磁石、35:リング部材、60:d軸磁気回路、61:q軸磁気回路、62:第1磁石磁気回路、63:第2磁石磁気回路、321,321a,321b:ボス部、322,322a,322b:ディスク部、323,323a,323b:爪状磁極部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14
図15