特許第6805853号(P6805853)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6805853電力制御装置およびそれを用いた画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805853
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】電力制御装置およびそれを用いた画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20201214BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20201214BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
   H02M1/08 321T
   G03G15/20 510
   G03G15/00 303
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-16141(P2017-16141)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-125961(P2018-125961A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】近澤 幸利
(72)【発明者】
【氏名】井ノ元 利典
(72)【発明者】
【氏名】石原 康弘
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−323554(JP,A)
【文献】 特開2012−132946(JP,A)
【文献】 特開平10−268699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
G03G 15/20
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷へ交流電流を供給するとともに,供給する交流電流の各半波期間のうち一部の位相範囲を通電角とし残部を不通電角とすることで電流量を調整する電力制御装置であって,
複数の半波期間にわたる期間を電流決定期間とし,前記電流決定期間における通電角の基準値を電力需要に応じて定める基準値決定部と,
前記電流決定期間を複数に分割してなり半波期間の整数倍の期間である細分期間ごとに,前記基準値に対して通電角を分散させる分散値を決定し,決定した分散値により分散された分散通電角により電流量調整を行う分散処理部とを有し,
前記分散処理部は,1つの前記電流決定期間内における前記分散値について,
正の分散値と負の分散値とが含まれ,かつ,
前記分散通電角の前記電流決定期間の全体としての平均値が,前記基準値に対して±2.5%の範囲内となるように決定するものであり、
前記基準値が位相角にして90°より小さい場合には,分散値が負となる前記細分期間の長さの合計を,分散値が正となる前記細分期間の長さの合計より長くし,
前記基準値が位相角にして90°より大きい場合には,分散値が正となる前記細分期間の長さの合計を,分散値が負となる前記細分期間の長さの合計より長くするように構成されたものであることを特徴とする電力制御装置。
【請求項2】
負荷へ交流電流を供給するとともに,供給する交流電流の各半波期間のうち一部の位相範囲を通電角とし残部を不通電角とすることで電流量を調整する電力制御装置であって,
複数の半波期間にわたる期間を電流決定期間とし,前記電流決定期間における通電角の基準値を電力需要に応じて定める基準値決定部と,
前記電流決定期間を複数に分割してなり半波期間の整数倍の期間である細分期間ごとに,前記基準値に対して通電角を分散させる分散値を決定し,決定した分散値により分散された分散通電角により電流量調整を行う分散処理部とを有し,
前記分散処理部は,1つの前記電流決定期間内における前記分散値について,
正の分散値と負の分散値とが含まれ,かつ,
前記分散通電角の前記電流決定期間の全体としての平均値が,前記基準値に対して±2.5%の範囲内となるように決定するものであり、
前記電流決定期間内の細分期間ごとの分散値をあらかじめ定めたテーブルを前記基準値ごとに有しており,
前記基準値ごとのテーブルは,基準値が高いほど,低次数の高調波の抑制に力点を置くように細分期間ごとの分散値が定められているものであることを特徴とする電力制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電力制御装置であって,
前記分散処理部は,前記細分期間の長さを半波期間の偶数倍とするように構成されたものであることを特徴とする電力制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の電力制御装置であって,
前記分散処理部は,分散値の最大絶対値を,実効電流値換算で,前記基準値により直接に電流量調整する場合に対する偏差が2.5%以内となるようにするものであることを特徴とする電力制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか1つに記載の電力制御装置であって,
前記分散処理部は,連続する前記細分期間の分散値を互いに異なる値とするように構成されたものであることを特徴とする電力制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか1つに記載の電力制御装置であって,
前記分散処理部は,前記基準値が位相角にして0°でも180°でもない場合に限り,分散通電角による電流量調整を行うように構成されたものであることを特徴とする電力制御装置。
【請求項7】
トナーにより媒体に画像を形成する画像形成部と,
前記画像形成部で画像が形成された媒体を加熱してトナーを定着する定着部と,
前記定着部への供給電力を制御する電力制御部とを有し,
前記電力制御部は,請求項1から請求項までのいずれか1つに記載の電力制御装置であることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項に記載の画像形成装置であって,
前記定着部が複数のヒーターを内蔵しているとともに,
前記分散処理部は,前記複数のヒーターに対して別々に分散値を定めるとともに,同時に使用される分散値に,正のものと負のものとを含めるように構成されたものであることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項または請求項に記載の画像形成装置であって,
前記定着部の温度を取得する温度センサーを有し,
前記基準値決定部は,前記定着部の温度に応じて前記基準値を定めるように構成されたものであることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
トナーにより媒体に画像を形成する画像形成部と,
前記画像形成部で画像が形成された媒体を加熱してトナーを定着する定着部と,
負荷へ交流電流を供給するとともに,供給する交流電流の各半波期間のうち一部の位相範囲を通電角とし残部を不通電角とすることで電流量を調整するとともに、前記定着部への供給電力を制御する電力制御部とを有し,
前記電力制御部は,
複数の半波期間にわたる期間を電流決定期間とし,前記電流決定期間における通電角の基準値を電力需要に応じて定める基準値決定部と,
前記電流決定期間を複数に分割してなり半波期間の整数倍の期間である細分期間ごとに,前記基準値に対して通電角を分散させる分散値を決定し,決定した分散値により分散された分散通電角により電流量調整を行う分散処理部とを有し,
前記定着部が複数のヒーターを内蔵しているとともに,
前記分散処理部は,1つの前記電流決定期間内における前記分散値について,
正の分散値と負の分散値とが含まれ,かつ,
前記分散通電角の前記電流決定期間の全体としての平均値が,前記基準値に対して±2.5%の範囲内となるように決定するものであり、
前記複数のヒーターに対して別々に分散値を定めるとともに,同時に使用される分散値に,正のものと負のものとを含めるように構成されたものである
ことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,負荷へ交流電流を供給するとともに,電流量の調整を抵抗制御ではなく位相制御でおこなう電力制御装置に関する。さらに詳細には,高調波の発生を抑制するようにした電力制御装置に関するものである。本発明はさらには,その電力制御装置を用いた画像形成装置をも対象とする。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の電力制御技術としては,特許文献1に記載されている温度制御装置における熱源への電力供給制御を挙げることができる。同文献の技術では,画像形成装置内の熱源の温度を基準として電力供給を制御するに当たり,温度情報に発信器の発振信号を重畳することとしている(同文献の請求項4)。これにより,電流の通電角を基準値に対して分散させて高調波を軽減しようとしている(同文献の[0029])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−268699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記した従来の技術には,次のような問題点があった。高調波の低減が効果として謳われてはいるものの,実際の効果が十分に得られない場合があるのである。特に,熱源の温度のサンプリング周期が長い場合にこの問題が生じる傾向があった。1サンプリング周期の間には通電角の分散の仕方が一定となるため,高調波の発生を十分には抑制できないからである。
【0005】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,電力制御の基準値の決定周期に関わらず確実に高調波抑制効果が得られる電力制御装置およびそれを用いた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様における電力制御装置は,負荷へ交流電流を供給するとともに,供給する交流電流の各半波期間のうち一部の位相範囲を通電角とし残部を不通電角とすることで電流量を調整する装置であって,複数の半波期間にわたる期間を電流決定期間とし,電流決定期間における通電角の基準値を電力需要に応じて定める基準値決定部と,電流決定期間を複数に分割してなり半波期間の整数倍の期間である細分期間ごとに,基準値に対して通電角を分散させる分散値を決定し,決定した分散値により分散された分散通電角により電流量調整を行う分散処理部とを有し,分散処理部は,1つの電流決定期間内における分散値について,正の分散値と負の分散値とが含まれ,かつ,分散通電角の電流決定期間の全体としての平均値が,基準値に対して±2.5%の範囲内となるように決定するものであり、前記基準値が位相角にして90°より小さい場合には,分散値が負となる前記細分期間の長さの合計を,分散値が正となる前記細分期間の長さの合計より長くし,前記基準値が位相角にして90°より大きい場合には,分散値が正となる前記細分期間の長さの合計を,分散値が負となる前記細分期間の長さの合計より長くするように構成されたものである
また本発明の第2の態様における電力制御装置は,負荷へ交流電流を供給するとともに,供給する交流電流の各半波期間のうち一部の位相範囲を通電角とし残部を不通電角とすることで電流量を調整する装置であって,複数の半波期間にわたる期間を電流決定期間とし,電流決定期間における通電角の基準値を電力需要に応じて定める基準値決定部と,電流決定期間を複数に分割してなり半波期間の整数倍の期間である細分期間ごとに,基準値に対して通電角を分散させる分散値を決定し,決定した分散値により分散された分散通電角により電流量調整を行う分散処理部とを有し,分散処理部は,1つの電流決定期間内における分散値について,正の分散値と負の分散値とが含まれ,かつ,分散通電角の電流決定期間の全体としての平均値が,基準値に対して±2.5%の範囲内となるように決定するものであり、前記電流決定期間内の細分期間ごとの分散値をあらかじめ定めたテーブルを前記基準値ごとに有しており,前記基準値ごとのテーブルは,基準値が高いほど,低次数の高調波の抑制に力点を置くように細分期間ごとの分散値が定められているものである。
【0007】
上記態様における電力制御装置では,いわゆる位相制御により電流量を調整する。ここにおいて,複数の半波期間にわたる期間が,電流決定期間として定められている。基準値決定部は,電流決定期間における通電角の基準値を電力需要に応じて定める。この基準値をそのまま利用して位相制御をしたとしても,電力需要に応じた電力供給をすることはできる。しかし高調波が発生するので,これを抑制するために本態様では分散処理部による分散処理を行う。すなわち,1つの電流決定期間内でもそれを細分化した細分期間ごとに通電角が異なるように分散させるのである。ここで,電力供給量が電力需要に外れたものとならないように,1つの電流決定期間内に正の分散値と負の分散値とが含まれるようにする。さらに,分散通電角の電流決定期間の全体としての平均値が,基準値にほぼ等しい範囲内になるようにする。これにより,高調波を抑制しつつ適切な電力供給を行う。
さらに上記第1の態様における電力制御装置では、分散処理部はまた,基準値が位相角にして90°より上か下かで処理内容を変え、90°より小さい場合には,分散値が負となる細分期間の長さの合計を,分散値が正となる細分期間の長さの合計より長くし、90°より大きい場合には逆に,分散値が正となる細分期間の長さの合計を,分散値が負となる細分期間の長さの合計より長くする。90°という通電角での位相制御はそれ自体,特に偶数次数の高調波の発生要因となる。このため,90°に近い通電角となる細分期間をなるべく減らすことで,高調波の発生をより有効に抑制できるのである。
また上記第2の態様における電力制御装置では、分散処理部に,電流決定期間内の細分期間ごとの分散値をあらかじめ定めたテーブルを基準値ごとに用意しておき、その場合の基準値ごとのテーブルは,基準値が高いほど,低次数の高調波の抑制に力点を置くように細分期間ごとの分散値が定められている。高調波の次数による発生の仕方は,基準値により異なる傾向があるからである。一般的に,基準値が高いほど低次数の高調波がでやすいので,それに対応したテーブルであれば,高調波の発生をより有効に抑制できる。
【0008】
ここで分散処理部は,細分期間の長さを半波期間の偶数倍とすることが望ましい。こうすることで,1つの細分期間の中には,同じ分散量で電流の向きが正負逆である半波期間が同数ずつ含まれることになる。このため,1つの細分期間での電力供給量が,分散処理をしない場合と同じになる。このため,電力需要に沿った電力供給を行いつつ,高調波を抑制することができる。
【0009】
分散処理部はまた,分散値の最大絶対値,すなわち分散幅を,実効電流値換算で,基準値により直接に電流量調整する場合に対する偏差が2.5%以内となるようにすることが望ましい。分散処理を伴う位相制御では,分散幅が大きすぎると却って,比較的高い次数の高調波に対する抑制効果が不十分となる傾向がある。分散幅を2.5%以内とすることで,高次数の高調波に対しても十分な抑制効果が得られる。
【0010】
分散処理部はあるいは,連続する細分期間の分散値を互いに異なる値とすることもまた望ましい。同じ分散値の細分期間が連続すると,そのこと自体が高調波の発生要因となってしまう。そこで,連続する細分期間では分散値が異なるようにすることで,より有効に高調波を抑制できる。
【0011】
また,分散処理部は,基準値が位相角にして0°でも180°でもない場合に限り,分散通電角による電流量調整を行うことも望ましい。基準値が0°のときは電力供給をしていないので,分散処理の必要がないからである。また,基準値が180°のときは,電力供給はしているが位相制御をしているとはいえないので,やはり分散処理の必要がないからである。
【0014】
本発明の別の一態様における画像形成装置は,トナーにより媒体に画像を形成する画像形成部と,画像形成部で画像が形成された媒体を加熱してトナーを定着する定着部と,定着部への供給電力を制御する電力制御部とを有し,電力制御部が,前述のいずれか1つの態様の電力制御装置であるものである。定着部への電力供給を,電力需要にあった,かつ,高調波の発生を抑制したものとすることができる。
【0015】
上記態様の画像形成装置ではさらに,定着部が複数のヒーターを内蔵しているとともに,分散処理部は,複数のヒーターに対して別々に分散値を定めるとともに,同時に使用される分散値に,正のものと負のものとを含めるようにされていることが望ましい。画像形成装置では,用紙の幅方向サイズ等との関係で,定着部に複数のヒーターを内蔵している場合がある。これらについて別々に位相制御による電力供給を行う場合,上記のようにすることで,定着部への総供給電流が瞬間的に過大となることを防止できる。
【0016】
上記のいずれかの態様の画像形成装置では,定着部の温度を取得する温度センサーを有し,基準値決定部は,定着部の温度に応じて基準値を定めるものであることが望ましい。これにより,定着器の温度制御を適切に行いつつ,高調波の発生を抑制することができる。
また本発明の他の一態様における画像形成装置は,トナーにより媒体に画像を形成する画像形成部と,画像形成部で画像が形成された媒体を加熱してトナーを定着する定着部と,定着部への供給電力を制御する電力制御部とを有し,電力制御部が,負荷へ交流電流を供給するとともに,供給する交流電流の各半波期間のうち一部の位相範囲を通電角とし残部を不通電角とすることで電流量を調整するとともに,複数の半波期間にわたる期間を電流決定期間とし,電流決定期間における通電角の基準値を電力需要に応じて定める基準値決定部と,電流決定期間を複数に分割してなり半波期間の整数倍の期間である細分期間ごとに,基準値に対して通電角を分散させる分散値を決定し,決定した分散値により分散された分散通電角により電流量調整を行う分散処理部とを有し,分散処理部は,1つの電流決定期間内における分散値について,正の分散値と負の分散値とが含まれ,かつ,分散通電角の電流決定期間の全体としての平均値が,基準値に対して±2.5%の範囲内となるように決定する。さらに,定着部が複数のヒーターを内蔵しているとともに,分散処理部は,複数のヒーターに対して別々に分散値を定めるとともに,同時に使用される分散値に,正のものと負のものとを含めるようにされている。定着部への電力供給を,電力需要にあった,かつ,高調波の発生を抑制したものとすることができる。また画像形成装置では,用紙の幅方向サイズ等との関係で,定着部に複数のヒーターを内蔵している場合がある。これらについて別々に位相制御による電力供給を行う場合,上記のようにすることで,定着部への総供給電流が瞬間的に過大となることを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本構成によれば,電力制御の基準値の決定周期に関わらず確実に高調波抑制効果が得られる電力制御装置およびそれを用いた画像形成装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態に係る画像形成装置の構成を示す断面図である。
図2図1の画像形成装置における定着器の温度調整システムの構成図である。
図3】分散処理を行っていない状態でのヒーター電流の波形を示すグラフである。
図4】分散処理を行っている状態でのヒーター電流の波形を示すグラフである。
図5】分散処理を行っている状態と行っていない状態とでの高調波強度を対比して示すグラフ(その1,分散幅2%)である。
図6図5のグラフにおける分散処理を行っている状態および行っていない状態との元の電流波形における半波期間ごとの電流量を示す図表である。
図7】分散処理を行っている状態と行っていない状態とでの高調波強度を対比して示すグラフ(その2,分散幅5%)である。
図8図7のグラフにおける分散処理を行っている状態および行っていない状態との元の電流波形における半波期間ごとの電流量を示す図表である。
図9】半波期間ごとの電流量の他の例を示す図表である。
図10】半波期間ごとの電流量のさらに他の例を示す図表である。
図11】半波期間ごとの電流量のさらに他の例を示す図表である。
図12】位相制御の基準電流量ごとの高調波の発生傾向を示すグラフである。
図13】2つのヒーターで同時に加熱を行う場合の半波期間ごとの電流量の例を示す図表である。
図14】本形態における温度調整制御の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,図1に示す画像形成装置1に本発明を適用したものである。画像形成装置1には,電力制御装置2が搭載されている。画像形成装置1は電力制御装置2の他に,画像形成部3と,定着器4と,制御部5と,給紙部6とを有している。
【0020】
画像形成部3は,中間転写ベルト7と,作像部8と,2次転写ローラー9とを有している。各作像部8には,感光体10,帯電器11,露光器12,現像器13,1次転写ローラー14が設けられている。これにより,各作像部8でトナー像を形成し,そのトナー像を,中間転写ベルト7を介して,給紙部6から供給された用紙に転写するようになっている。トナー像を担持した用紙は,定着器4でトナーの定着を受けてから機外へ排出されるのである。定着器4にはヒーター15,16が内蔵されており,トナーを定着させるための熱源として機能するようになっている。なお,ヒーター15,16は,用紙の幅方向サイズに応じて使い分けられるものである。
【0021】
電力制御装置2は,画像形成装置1内の各部への電力供給を行う部分である。電力の供給先には定着器4のヒーター15,16も含まれている。制御部5は,画像形成装置1内の各部の動作制御を行う部分である。制御部5の制御対象には,電力制御装置2からヒーター15への電力供給によるヒーター15,16の温度制御も含まれている。以下,電力制御装置2からヒーター15,16への電力供給制御に着目しつつ説明する。
【0022】
図2に,画像形成装置1における定着器4の温度調整システムのブロック構成を示す。図2のシステムには,電力制御装置2,制御部5,およびヒーター15,16の他に,温度センサー17,18が含まれる。温度センサー17,18は,図1には示していないが,定着器4のうち,ヒーター15,16による加熱を受けるそれぞれの位置の温度を検知するセンサーである。
【0023】
図2中の電力制御装置2は,レギュレーター19と,スイッチング部20,21と,ゼロクロス検出回路22とが設けられている。レギュレーター19は,商用電源23から供給される交流電力を直流に整流して二次側負荷24に供給する整流装置である。二次側負荷24とは,感光体10や中間転写ベルト7の回転駆動,帯電器11や現像器13,1次転写ローラー14,2次転写ローラー9のバイアス印加,露光器12の発光動作,給紙部6の給紙動作などのことである。また,制御部5も,レギュレーター19からの直流電力の供給先に含まれる。
【0024】
スイッチング部20,21は,商用電源23からヒーター15,16への交流電力の供給をオンオフするスイッチである。すなわちヒーター15,16には,整流された直流ではなく,交流がそのまま供給される。スイッチング部20からヒーター15へ電流Ih1が供給され,スイッチング部21からヒーター16へ電流Ih2が供給されるようになっている。スイッチング部20,21は例えば,トライアック,IGBT,MOSFET等のスイッチング素子により構成されている。ゼロクロス検出回路22は,商用電源23からの交流電力の電圧値Viがゼロとなるタイミング,すなわちゼロクロス点を検出する回路である。
【0025】
レギュレーター19は,整流回路25,トランス26,ダイオード27,コンデンサー28,二次側出力回路29,整流スイッチング回路30を有している。整流スイッチング回路30は,整流回路25とトランス26の間に配置されており,二次側出力回路29からの制御信号Sdによりオンオフ操作されるようになっている。整流回路25は,ダイオードブリッジ31とダイオード32とを有している。
【0026】
このように構成されたレギュレーター19では,商用電源23から交流電力の入力を受ける整流回路25により,全波整流されそして平滑化された脈流が出力される。そして,整流スイッチング回路30が制御信号Sdにより一定の周期でオンオフ操作されることにより,高周波の交流がトランス26に入力されることとなる。その交流はトランス26で変圧され,そしてダイオード27およびコンデンサー28により直流化される。ここで二次側出力回路29が整流スイッチング回路30をフィードバック制御することで,目的の電圧の直流電力が得られるものである。この二次側出力回路29の出力が,二次側負荷24や制御部5に供給される。
【0027】
次に制御部5について説明する。ここでは,制御部5の機能のうち,ヒーター15,16の温度制御に関する部分にのみ着目し,それ以外の部分については図示および説明を省略する。図2中の制御部5には,温調電力決定部33と,通電角分散部34とが設けられている。温調電力決定部33は,ヒーター15,16に供給される交流電流における,後述する通電角を決定する機能部分である。このため温調電力決定部33には,温度センサー17,18から温度検知信号St1,St2が入力されるようになっている。通電角分散部34は,高調波の発生を抑制するために,温調電力決定部33で決定された通電角について,交流のサイクルごとに分散させる(詳細は後述)分散処理を行う機能部分である。通電角分散部34がスイッチング部20,21を,制御信号Sh1,Sh2でオンオフ操作するようになっている。制御部5はまた,ゼロクロス検出回路22からゼロクロス検出信号Szを受けるようになっている。
【0028】
続いて,本形態の画像形成装置1および電力制御装置2におけるヒーター15,16の温度調整制御を説明する。本形態の温度調整制御は前述のように,ヒーター15,16への電力供給のスイッチング部20,21による制御である。ここで,スイッチング部20,21を介してヒーター15,16へ供給される電力とは,商用電源23からの交流電力そのものである。そこでまず,通電角分散部34での分散処理を停止した状態での,ヒーター15,16への電力供給について説明する。
【0029】
図3に示すのが,分散処理を行っていない状態でのヒーター電流Ih1(もしくはIh2)の波形である。図3のグラフでは,正弦波形の一部の期間(図3中に「C」で示す)でヒーター電流がゼロに固定され,残部の期間(同じく「B」で示す)では商用電源23からの交流波形がそのままヒーター電流の波形となっている。この期間Cが,スイッチング部20(もしくは21)がオフされている期間である。期間Bが,スイッチング部20(もしくは21)がオンされている期間である。期間Bと期間Cとの合計が半波期間Aである。半波期間Aを角度にして180°と見たときの期間Bの占める部分を通電角という。
【0030】
この通電角が大きいほど,ヒーター15(もしくは16)へ供給される電力が大きく,発熱量も多いことになる。一方,通電角が小さいほど,ヒーター15(もしくは16)への供給電力が小さく,発熱量も少ないことになる。そこで,定着器4を目標温度に維持するための電力需要に応じて通電角の大きさを定める位相制御が温調電力決定部33の機能である。
【0031】
このため温調電力決定部33は,温度検知信号St1(もしくはSt2)で示される温度の,定着器4の目標温度に対する不足分が大きいときには通電角を大きくする。すなわち制御信号Sh1(もしくはSh2)のオン期間を長くする。具体的には,制御信号Sh1(もしくはSh2)のオフからオンへの起ち上がりタイミングを早める。不足温度が小さいときには,制御信号Sh1(もしくはSh2)の起ち上がりタイミングを遅らせることで通電角を小さくする。また,定着器4へ通紙されるときには,通電角を大きくすることもできる。通紙される用紙による定着器4からの脱熱をカバーするためである。なお,制御信号Sh1(もしくはSh2)のオンからオフへのダウンタイミングは,ゼロクロス検出信号Szによる。
【0032】
図3をさらに見ると,連続する6つの半波期間Aで1回の「温度読取周期」(電流決定期間)を構成している。この1回の「温度読取周期」の間は6つの半波期間Aのすべてで通電角が一定となっている。その右側の図3中で2回目の「温度読取周期」においても,その中では6つの半波期間Aのすべてで通電角が一定となっている。しかしながら1回目の「温度読取周期」と2回目の「温度読取周期」とを比較してみると,2回目の「温度読取周期」の方が通電角がやや小さくなっている。これは,新たな温度検知信号St1(もしくはSt2)に基づいて新たに通電角が決定されたためである。
【0033】
しかしながらこれだけでは,位相制御が,商用電源23から供給される高調波の発生原因となってしまう。1回の「温度読取周期」の間では同じ電流波形の半波期間Aが反復されているからである。そこで通電角分散部34が分散処理を行うことで,高調波を抑制する。通電角分散部34による分散処理とは要するに,1回の「温度読取周期」の中でも半波期間Aごとに通電角を変える,ということである。むろん,定着器4を目標温度に維持するためには,温調電力決定部33により定められた通電角に従う必要がある。しかしながらそのためには,1回の「温度読取周期」に含まれる半波期間Aの通電角の平均値が,定められた通電角にほぼ一致していれば十分である。
【0034】
分散処理を行うことにより,図3に示した波形は図4のようになる。図4のグラフでは,1回目の「温度読取周期」の各半波期間Aで,通電角が一定ではない。具体的には,1番目および2番目の半波期間Aの通電角に対し,3番目および4番目の半波期間Aでの通電角はやや大きくなっている。一方,5番目および6番目の半波期間Aでの通電角は,最初の通電角より逆にやや小さくなっている。そして,1番目から6番目の半波期間Aの通電角の平均が,1番目および2番目の半波期間Aの通電角に一致するようになっている。さらに,1番目および2番目の半波期間Aの通電角は,図3中の1回目の「温度読取周期」の各半波期間Aの通電角と一致している。そしてこれらのことが,図4中の2回目の「温度読取周期」についてもいえる。
【0035】
図4のグラフでは,同じ電流波形の半波期間Aの反復は2回に過ぎない。このため図4のグラフでは,図3の場合と同様の温度制御が,高調波の発生を抑制しつつ行われるのである。よって,二次側負荷24への高調波による悪影響が少なくて済む。なお図4のグラフにおいて,同じ通電角の半波期間Aが繰り返される回数である2回分の周期を「分散周期」(細分期間)と呼んでいる。
【0036】
続いて,分散処理の効果を説明する。図5のグラフに,分散処理を行っている状態と分散処理を行っていない状態とでの高調波強度を対比して示す。図5のグラフは,分散処理を行っている状態および行っていない状態での電流波形(図3図4に実線で示したような波形)をそれぞれフーリエ変換して得られるスペクトルである。図5のグラフにおける分散処理を行っている状態および行っていない状態での電流波形における各半波期間Aの電流量(通電角が180°の場合に対する実効電流値の百分率)を,図6に示す。
【0037】
図6に示す例では,分散処理を行っていない状態での電流量がすべての半波期間Aにて30%となっている。そして分散処理を行っている状態では,32%と28%とが半波期間Aごとに交互に現れるようになっている。つまり,「温度読取周期」内に,正の分散量と負の分散量とが含まれるようになっている。これにより,電流量の平均値は分散処理を行っている状態でも行っていない状態でも,同じになるようになっている。このため,ヒーター15(もしくは16)の発熱量については,分散処理を行っている状態でも行っていない状態でも違いはない。図6の例ではまた,2つの連続する「分散周期」では必ず分散処理後の電流量が異なっている。図6の例では,「分散周期」が半波期間Aの2倍であり,「温度読取周期」は半波期間Aの4倍(もしくはさらにその整数倍)である。また,分散幅(分散処理非実施時と分散処理実施とでの電流量の差の絶対値の最大値)は2%である。
【0038】
図5のグラフでは,横軸に高調波の次数を示している。図5のグラフで例えば第19次の高調波の強度を比較する際には,点P(分散処理非実施)と点Q(分散処理実施)とを比較すればよい。図5のグラフ全体としてみると,奇数次数の高調波強度に関しては,どの次数でも,分散処理実施の場合の方が分散処理非実施の場合よりも高調波強度が低くなっている。第3次,第5次といった比較的低い次数ではさほど顕著な違いではないが,第11次あるいはそれ以上の高い次数では,分散処理実施により明らかに高調波強度が低下している。特に,第23次以上では,分散処理実施の場合の高調波強度がゼロに近いほど弱いものとなっている。
【0039】
また,図5では,偶数次数の高調波は,分散処理実施の場合でも全く発生していない。これは,前述のように図6において「分散周期」が半波期間Aの偶数倍となっていることによる効果である。すなわち,第奇数番目の半波期間A(正向き)とその直後の半波期間A(第偶数番目,負向き)とを合わせて見ると,すなわち各全波期間ごとに見ると,電流波形の直流成分が分散処理実施により変化しないことによる。各全波期間内では分散処理による通電角の増減が同じであるためである。
【0040】
図7は,分散幅を5%に増やした場合の高調波強度スペクトルである。図7のグラフにおける分散処理を行っている状態および行っていない状態での電流波形における各半波期間Aの電流量を,図8に示す。図7のグラフでも,奇数次数の高調波強度に関して,分散処理実施の場合の方が分散処理非実施の場合よりも高調波強度が高くなっている次数はない。また,偶数次数の高調波の発生もない。
【0041】
ただし図7の場合には,奇数次数の第17次から第23次にかけて,図5の場合と比較して分散処理の効果が小さくなっている。一般的な知見では,周辺の電子機器の動作に影響を及ぼすのは主として,第40次以下の次数の高調波の全般とされている。このため,上記範囲の奇数次数高調波の抑制に関しては,図7の例より図5の例の方が優れている。本発明者がした実験によれば,上記範囲の次数の高調波を抑制するためには,分散幅が2.5%以下であることが望ましい。また,分散幅があまり小さすぎても分散処理の効果が乏しいので,分散幅は1.0%以上であることが望ましい。
【0042】
図9に,分散処理を行っている状態および行っていない状態での電流波形における各半波期間Aの電流量の別の例を示す。図9の例は,「分散周期」を図6図8の場合と同じく半波期間Aの2倍としつつ,「温度読取周期」を半波期間Aの12倍としたものである。図9には,「温度読取周期」の1周期分を示している。なお図9の例については,図5図7のような高調波強度スペクトルのグラフについては図示を省略している。図9の例でも,分散処理を行っていない状態での電流量はすべての半波期間Aにて30%としている。
【0043】
図9の例では,分散処理を行っている状態での電流量が,「温度読取周期」内の6つの「分散周期」でいずれも違っている。分散幅は,最大で2%(「第1〜2半波」および「第3〜4半波」),最小で1%(「第9〜10半波」および「第11〜12半波」)となっている。「温度読取周期」全体の平均の電流量は当然,分散処理非実施の場合と同じく30%である。このように「温度読取周期」内の各「分散周期」のすべてで電流量が異なるようにすることで,図6図8の場合よりもさらに,高調波の抑制効果を高めている。このような制御は,特に,「温度読取周期」が「分散周期」に対して長い場合に有意義である。
【0044】
図10に,分散処理を行っている状態および行っていない状態での電流波形における各半波期間Aの電流量のさらに別の例を示す。図10の例は,「分散周期」を上記各例の場合と同じく半波期間Aの2倍としつつ,「温度読取周期」を図9の場合と同じく半波期間Aの12倍としたものである。図10の例でも,分散処理を行っていない状態での電流量はすべての半波期間Aにて30%(位相角にして90°未満)としている。
【0045】
図10の例でも,分散処理を行っている状態での電流量が,「温度読取周期」内の6つの「分散周期」でいずれも違っている。その中でも電流量が30%に対してプラス側,つまり50%に近づく側に振られているのは,「第1〜2半波」の1回だけである。残り5回の「分散周期」ではいずれも30%に対してマイナス側,つまり50%から遠ざかる側に振られた電流量とされている。図10における分散幅の最大値は,「第1〜2半波」の2%である。図10の例では,「温度読取周期」内において,電流量が50%に近い値とされている「分散周期」は1回(「第1〜2半波」)だけである。残り5回の「分散周期」ではすべて,50%から遠い電流量が用いられている。
【0046】
このため図10の例では,図6図8の場合と比べてさらに,高調波の抑制効果が高い。位相制御は交流波形を通電角によりスイッチングすることによる制御である。このスイッチングによる波形の歪みが高調波の主因である。このため,50%に近い電流量(90°に近い通電角)での位相制御を行うと,高調波が発生しやすいのである。図3に示した通電期間Bと不通電期間Cとがグラフ上で左右対称に近いこととなるからである。図10の例では50%に近い電流量をなるべく使わないようにすることで,高調波の抑制効果を高めている。
【0047】
図11の例は,図10の例と同じ制御を,分散処理を行っていない状態での電流量が50%(位相角にして90°)を超えている状況で行ったものである。図11の例では,分散処理非実施の場合の電流量を70%としている。図11の場合には,図10の場合とは逆に,電流量が70%に対してマイナス側に振られている「分散周期」は「第1〜2半波」の1回だけである。残り5回の「分散周期」ではすべて,70%に対してプラス側に振られた電流量が用いられている。これにより図10の場合と同様の効果が得られる。
【0048】
図10および図11の例では,分散処理を行っていない状態での電流量に応じて,分散パターンが使い分けられることになる。なお,分散処理を行っていない状態での電流量が50%であった場合には,プラス側とマイナス側とに分散量を均等に振った分散パターン(例えば図9の分散パターン)を用いればよい。
【0049】
図12に示すのは,位相制御における,分散処理を行っていない状態での電流量ごとの高調波の発生傾向を示すグラフである。このように,どの次数の高調波が発生しやすいかは,元の電流量により異なる。図12からは,電流量が高いほど,低次数の高調波が発生しやすいことが分かる。これより,元の電流量によって,分散幅の最大値や「温度読取周期」内での各電流量の配置を変更することが望ましい。具体的には,元の電流量が高いほど,3次等の低次数の高調波の抑制に力点を置くようにする。そのためには例えば,元の電流量ごとにあらかじめ制御内容をテーブル化しておけばよい。
【0050】
ここまでは,ヒーター15,16のうちいずれか一方しか考慮していなかったが,両方で同時に加熱を行う場合について説明する。図13に示すのがそのような場合の例である。図13では,上段にヒーター15の電流Ih1の電流量を示し,下段にヒーター16の電流量Ih2の電流量を示している。図13の例では,分散処理を行っていない状態での電流量は上段,下段ともに70%としている。そして上段,下段いずれも,分散幅を2.5%としている。
【0051】
そして上段では電流量を最大の72.5%から最小の67.5%まで順次低下させている。一方下段では逆に,最小の67.5%から最大の72.5%まで順次上昇させている。つまり,「第1〜2半波」から「第11〜12半波」までのいずれの「分散周期」においても,上段と下段とで分散量が符号の違いだけとなっている。これによりどの「分散周期」でも,上段と下段との電流量の平均値が,分散処理非実施の場合の電流量と同じになるようにしている。こうして,電流Ih1,Ih2の合計の電流量が,各「分散周期」で均一になるようにしている。これにより,定着器4への投入電力が一時的に過大となり温調ムラが発生するようなことを防止している。また,電力供給元である商用電源23に一時的に過大な負担をかけることも防止している。
【0052】
図13の例では上段,下段いずれも,分散幅を同じとした。実はこれは,ヒーター15,16の定格電力が同じであることを前提としている。ヒーター15,16の定格電力が同じでない場合には,分散幅もそれに合わせて調整した方がよい。具体的には,分散幅の比率を定格電力の比率の逆数とすればよい。これにより,ヒーター15,16の定格電力が違っている場合でも,各「分散周期」で合計の電流量を均一にできる。
【0053】
図14に,画像形成装置1における制御部5の温度調整制御のフローチャートを示す。図14に示すのは,次のような場合についての例である。
交流周波数:60Hz
温度読取周期:12半波期間(100ms)
分散周期:2半波期間
分散幅:2.5%
分散パターン:図13の下段のパターン
【0054】
図14のフローチャートは基本的に,画像形成装置1の稼働中は常時実行されている。このフローチャートではまず,温度センサー17(もしくは18)の温度検知信号St1(もしくはSt2)を取得する(S1)。定着器4の現在温度を把握するためである。そして,取得された現在温度と定着器4の目標温度との差分に基づいて,ヒーター15(もしくは16)への供給電力を決定する(S2)。基本的には,目標温度に対する現在温度の不足分が大きいほど,大きい電力が決定される。
【0055】
そして,決定された電力に基づいて,位相制御のデューティー,すなわち前述の電流量(%)を決定する(S3)。ここで決定されるのは,分散処理が施される前の,基本となる電流量(図6等でいう「分散処理非実施時」に相当する)である。ここで決定された基本電流量は,「温度読取周期」の1周期分にわたって適用される。すなわち,次回のS2の決定がなされるまで適用される。ここまでの処理が,図2中の制御部5の温調電力決定部33によりなされる。
【0056】
基本の電流量が決まると,分散処理が行われる(S4〜S7)。すなわち,「温度読取周期」内の各「分散周期」における分散処理後の電流量を個別に求める。まず,現在,「温度読取周期」内の何サイクル目の「分散周期」についての電流量を求めようとしているのかをチェックする(S4)。ここでは上記設定により,「分散周期」のサイクル番号は最大で「6」(温度読取周期/分散周期)である。S3から初めてS4に移行した場合にはサイクル番号は「1」である。電流量を求めるたびに対象のサイクル番号が1つずつ後ろに移動していく。
【0057】
次に,対象とするサイクル番号の「分散周期」についての電流量を実際に求める(S5)。具体的には,サイクル番号に応じて分散量を求め,その分散量を,上記のS3で求めた基本電流量に対して加算することで当該サイクル番号の「分散周期」についての電流量を求める。なお,分散量はサイクル番号に応じて正の値になることもあれば負の値となることもある。よって,S5で求められる電流量は,サイクル番号に応じて,基本電流量より大きくなることもあれば小さくなることもある。
【0058】
このようにして求められた電流量により,2半波期間分の位相制御が行われる(S6)。そして,当該「温度読取周期」のすべての「分散周期」についての処理が済んだか否かを判定する(S7)。具体的には,現在の対象のサイクル番号が「6」であるか否かにより判定する。未だ「6」に至っていない場合には(S7:No),S4に戻り,次のサイクル番号について同様の処理を行う。サイクル番号が「6」であった場合には(S7:Yes),当該「温度読取周期」のすべての「分散周期」についての処理が済んだことになる。このためS1へ戻り,次の「温度読取周期」について処理を続行することとなる。以上が図14の温度調整制御の内容である。
【0059】
なお図14のフローチャートでは省略したが,S3で決定した基本電流量が0%もしくは100%であった場合には,分散処理そのものが不要である。また,S5の分散量の算出の方法については,図14中に示した計算式は一例である。分散パターンとして図13の下段のパターン以外のパターンを使う場合には計算式もそれに応じて異なる式となる。また,必ずしも計算式での演算によるばかりでなく,あらかじめサイクル番号ごとの分散量のテーブルを持っていてもよい。また,分散パターンとして図10図11に示したものがあるように,個々の分散量間の間隔は等間隔でなくてもよい。
【0060】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,画像形成装置1の定着器4への電力供給を位相制御で行うに際して,「温度読取周期」内でも「分散周期」により通電角を変更する分散処理を行うこととしている。これにより,定着器4の温度調整を適切に行いつつ,高調波の発生を抑制することとしている。こうして,定着器4を温度調整しつつ昇温させていくような状況でも,高調波の発生により他の部分に悪影響が出てしまうことのない画像形成装置1およびそのための電力制御装置2が実現されている。
【0061】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,前記形態では,電流量の平均値は分散処理を行っている状態でも行っていない状態でも同じであることとした。ここでいう同じは,厳密に同じであることを要求するものではない。分散処理を行っている状態での電流量の平均値が,基準の電流量に対して±2.5%の範囲内(より好ましくは±1%の範囲内)であれば同じと見なしてよい。
【0062】
また,図2では,電力制御装置2と制御部5とを別々のボックスに描いたが,これは任意であり,制御部5の各要素が電力制御装置2に包含される構成であっても構わない。また,図3において,1つの半波期間Aの始期に不通電期間Cを配置し,終期に通電期間Bを配置しているが,不通電期間Cと通電期間Bとの順序は逆でもよい。また,電力制御装置2は,画像形成装置1の定着器4への電力供給を行うものに限らず,他の種類の機器における電力供給を行うものであってもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 画像形成装置
2 電力制御装置
3 画像形成部
4 定着器
5 制御部
15 ヒーター
16 ヒーター
20 スイッチング部
21 スイッチング部
22 ゼロクロス検出回路
33 温調電力決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14